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新宿簡易裁判所 昭和33年(ろ)535号 判決 1958年12月03日

被告人 開正雄

主文

被告人を罰金一万五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金三百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

事実

被告人は小技某から別表記載の外国製腕時計五個の売却処分方を依頼され、これが税関の許可なく密かに輸入された不正行為によりその関税を逋脱したものである情を知りながら、昭和三十二年九月十日頃東京都台東区上野町二の二四松本信太郎方において湯沢敏子を介し右松本に対し前記外国製腕時計五個を代金合計八万九千円位で売却しもつてその処分あつせんをなしたものである。

証拠(略)

適用法令

関税法第百十二条第一項、刑法第十八条、罰金等臨時措置法第二条

検察官の追徴金の求刑意見につきその当否を検討するに、一般に没収不能の場合に没収に代り追徴を科し得るのは犯人がその没収すべき物の所有者であつた場合に限ると解さなければならない。何となれば、没収の目的は主としてその物より生ずる社会的危険を防止し且つ犯人をして、犯罪による不法な利益を保持せしめないことにありとされるがもし犯人がその物を他人に処分したゝめ、没収不能となつた場合にこれを放置するときは元来没収せらるべき不法な利益はその物の換価代金に形を変えてそのまゝ犯人の手中に残ることになる。追徴の目的はこの形を変えた不法利益を犯人の手中から剥奪し、これにより犯人がその物を他に処分して不当に没収を免れることを防止するにあると解さなければならぬ、そしてこの場合その物の処分とその対価の取得という関係にあるのだから犯人がその物の所有者であることを前提とすることは言うまでもない。

然るに犯人が、その物の所有にあらずして単なる所持者であつてその物が他に処分されたため没収不能となつた場合にその所持者たる犯人に対し、追徴を科することは、犯人がその処分により何の対価も取得していないのだから前述した追徴目的に何等資するものではない。且また犯人が所持者たるに止まる場合に犯人に対する没収は単にその所持の剥奪に過ぎず物は第三者の所有物であるから犯人は財産的苦痛を感じないのに拘らず没収不能の故を以て追徴を科せられることになればその物が処分されたという偶然の事情により、にわかに犯人に、財産的苦痛を与えることになる。即ちこの場合には所有者の場合と異り没収と追徴とが所謂等価関係に立たないで犯人に対し没収可能なとき以上の不利益を与えることになりかゝる不合理は到底法の許容するところとは解せられない。即ち犯人と物との関係に頓着せず「没収不能ならば即ち追徴」とする形式的な考え方は追徴の本質を解せざる謬見と謂はざるを得ない。故に犯人に対し追徴を科し得るのは法文に特にその旨の規定がなくとも犯人がその物の所有者であつた場合に限ると解すべきである。

以上は追徴の本質に関する解釈論であるが現に実定法の中に同一趣旨の規定が存する。例えば漁業法第百四十条は「但し犯人が所有していたこれらの物件の全部又は一部に没収することができないときは、その価額を追徴することができる」と規定し所有者に対し没収不能の場合にその所有者に追徴を科すべき旨明定しているしその他の法令にも同一趣旨の窺われるものがある。

飜つて本件関税法は如何というに第百十八条はその第一項に於て一般に犯罪貨物等はこれを没収すべき旨定めた後没収不能の場合の追徴についてはその第二項に於て第一項第一号の場合即ち第三者の犯罪が行われることをあらかじめ知らないでその犯罪が行われたときから引き続き犯罪貨物等を所有していると認められるとき換言すれば、犯人が未だかつて犯罪貨物の所有者とならなかつたときは追徴を科さない旨を明らかにしている。この規定は明かに犯人と物との関係を重視している。この理を推し進めるときは犯人の中に没収すべき物のかつての所有者と、かつての所持者とあるときはその所有者には追徴を科し得るが、所持者には追徴を科し得ないと断ぜざるを得ない。本件被告人は犯罪貨物の所有者にあらずして単なる所持者にすぎないから前述した理由により之に追徴を科するのは不当である。

仍て検察官の追徴の求刑意見に拘らず被告人に対しては追徴の言渡をしない。

(裁判官 井上功)

理由

(別表略)

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