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新潟地方裁判所 平成10年(わ)161号 1998年11月05日

本店所在地

新潟県新発田市大栄町四丁目一番一号

株式会社創栄

(右代表者代表取締役 遠藤榮一)

本籍

新潟県新発田市大手町一丁目甲五〇一番地の一

住居

同県村上市二之町九番一九号

会社役員

遠藤榮一

昭和八年七月七日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官小林健司、弁護人小海要吉各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社創栄を罰金一二〇〇万円に、被告人遠藤榮一を懲役一〇月に処する。

被告人遠藤榮一に対し、この裁判の確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社創栄(平成六年一月二七日組織変更以前は有限会社創栄。以下「被告会社」という。)は、新潟県新発田市大栄町四丁目一番一号に本店を置き、寿し店の経営等を目的とする資本金五五〇〇万円(組織変更による設立当時金一〇〇〇万円。以後同年二月一五日金二五〇〇万円に、平成一〇年四月二日金五五〇〇万円に各増資。)の株式会社であり、被告人遠藤榮一(以下「被告人遠藤」という。)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人遠藤は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により、所得を秘匿した上、

第一  平成五年一一月一日から平成六年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七七五五万一三四七円であったのにもかかわらず、同年一二月二八日、新潟県新発田市諏訪町一丁目一二番二四号所在の所轄新発田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四二四八万二五一五円で、これに対する法人税額が一五〇六万五三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二八二一万六二〇〇円と右申告税額との差額一三一五万〇九〇〇円を免れ、

第二  平成六年一一月一日から平成七年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六二〇〇万三八六一円であったのにもかかわらず、同年一二月二八日、前記新発田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二六〇八万一九三九円で、これに対する法人税額が八八四万一九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二二三一万二七〇〇円と右申告税額との差額一三四七万〇八〇〇円を免れ、

第三  平成七年一一月一日から平成八年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五九一一万五〇〇四円であったのにもかかわらず、同年一二月二七日、前記新発田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一九一四万三九九〇円で、これに対する法人税額が六四〇万八三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二一三九万七八〇〇円と右申告税額との差額一四九八万九五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)括弧内の番号は、検察官請求証拠番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人遠藤榮一の当公判廷における供述

一  被告人遠藤榮一の検察官に対する供述調書(乙24)

一  被告人遠藤榮一の大蔵事務官に対する各質問てん末書(一八通・乙2ないし16、18、21、22)

一  髙橋映子の検察官に対する供述調書

一  髙橋映子(六通・甲35ないし37、39ないし41)、成田誠、田中紀男、遠藤昌、長田映子、長谷部春治、渡部ハルヱ、斉藤みつよ、長澤久賀、池田成、渡辺セイ子、遠藤ヨシ、阿部清二郎、森川勉の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察官作成の捜査報告書六通

一  検察事務官作成の捜査報告書五通

一  大蔵事務官作成の査察官報告書(三通)、売上高調査書、給料手当調査書、福利厚生費調査費、消耗品費調査書、事業税認定損調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、支払利息・割引料調査書、都道府県民税利子割額調査書、役員賞与調査書、役員賞与損金不算入額調査書、現金・預貯金調査書、代表者勘定調査書

一  新発田税務署長作成の回答書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

判示第一の事実について

一  被告人遠藤榮一の大蔵事務官に対する質問てん末書(乙20)

一  髙橋映子の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲38)

一  国税査察官作成の修正損益計算書(甲6)

判示第二、同第三の事実について

一  被告人遠藤榮一の大蔵事務官に対する質問てん末書(乙17)

一  大滝孝の大蔵事務官に対する質問てん末書

判示第二の事実について

一  被告人遠藤榮一の大蔵事務官に対する質問てん末書(乙19)

一  国税査察官作成の修正損益計算書(甲7)

判示第三の事実について

一  国税査察官作成の修正損益計算書(甲8)

(法令の適用)

被告人らの判示各所為は、各事業年度毎に法人税法一五九条一項(被告会社についてはさらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告会社については情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、被告人遠藤については所定刑中懲役刑を選択することとし、以上は各被告人について刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金一二〇〇万円に、被告人遠藤については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一〇月に処し、情状により、同法二五条一項を適用して被告人遠藤に対しこの裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件犯行は、寿し店の経営等を業とする被告会社の代表取締役である被告人遠藤が、平成五年一一月一日から三年度分の同社の所得金額を過少申告することにより、法人税合計四一六一万一二〇〇円をほ脱したという事案であるが、国家の課税権を侵害し、税負担の公平を害するとともに善良な国民の納税意欲を阻害するものとして、それ自体厳しい非難を免れない。被告人遠藤は、本件犯行の動機として、自己の利益を図るためではなく、被告会社の業種が生鮮食品を扱うものであるから、食中毒による業務停止等の不測の事態が起きた場合でも、自己資金で対処できるようにするためであったなどと供述しているが、そうした事情は事業経営者であれば大なり小なり共通に抱える問題であって、格別酌むべき事由には当たらない。また、ほ脱額が高額に上ったという結果はもとより、ほ脱率も低いものではなく、犯行態様も、従業員に命じて一定限度まで売上げのレジを打たせないなどの手法によって寿し店の売上金を除外させ、さらに、各種経理操作や金融機関の仮名・借名口座を利用するなど、計画的で悪質というほかはなく、また右各行為は長期間にわたっており、常習性も認められ、以上によれば本件の刑責は重大と言わなければならない。

しかしながら、被告人遠藤は本件犯行を率直に認めて深い反省の情を示し、捜査に協力していること、既に修正申告を済ませ、ほ脱した法人税本税について全て納付済みであること、被告人遠藤には、交通関係の前科はあるものの同種前科はないこと、被告会社は銀行から経理担当者を迎えるなど再発防止に向けた努力を始めていることなど被告人らに有利な事情も認められ、その他、被告人遠藤の年齢、健康状態等の諸般の事情を総合考慮し、主文掲記の刑を量定し、さらに被告人遠藤に対しては、今回に限りその刑の執行を猶予することとした次第である。

よって、主文のとおり判決する(求刑・被告会社に対し罰金一二〇〇万円、被告人遠藤に対し懲役一〇月)。

(裁判長裁判官 姉川博之 裁判官 福士利博 裁判官 島村路代)

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