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新潟地方裁判所 平成12年(行ウ)11号 判決 2002年1月24日

第1、第2事件原告

合資会社A

代表者無限責任社員

第1事件被告

国税不服審判所長

島内乗統

第2事件被告

相川税務署長

柴山功

被告両名指定代理人

浅香幹子

萩原一夫

佐久間光男

藤井烈

角屋順一

鈴木次男

第1事件被告指定代理人

増永謙一郎

水品雅文

嶋田恵一

第2事件被告指定代理人

大沼利光

太田智法

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、第1、第2事件を通じて原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  第1事件

被告国税不服審判所長が平成12年6月23日付けでした、原告の平成9年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)につき相川税務署長によってなされた決定及び無申告加算税賦課決定に対する原告の審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。

2  第2事件

被告相川税務署長が平成10年11月25日付けで、原告の本件課税期間の消費税等についてした決定及び無申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

第2事案の概要

1  当事者間に争いのない事実、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は、次のとおりである。(〔 〕内は認定に用いた証拠である。)

(1)  被告相川税務署長は、平成10年11月25日付けで、別表1のとおり、原告の本件課税期間の消費税等の決定及び無申告加算税の賦課決定をした(以下、これらを併せて「本件原処分」という)。〔乙2の1、3〕

(2)  原告は、平成11年1月14日に被告相川税務署長に対して異議申立てをしたが、同被告は、同年4月12日付けでこれらをいずれも棄却する旨の決定をした。〔乙2の1、3〕

(3)  原告は、同年5月12日、被告国税不服審判所長に対し、審査請求をした。〔争いがない〕

(4)  関東信越国税不服審判所長は、本件審査請求に係る事件の調査及び審理を行わせるため、国税審判官乙(以下「乙審判官」という)を担当審判官に指定し、同年6月16日付けでその旨原告に通知した。〔弁論の全趣旨〕

(5)  乙審判官は、同年7月2日午後1時から午後3時まで、関東信越国税不服審判所新潟支所において、原告代表者らと面談した。〔争いがない〕

(6)  その後、人事異動に伴い、関東信越国税不服審判所長は、国税審判官丙(以下「丙審判官」という)を担当審判官に指定し、同月27日付けで原告にその旨通知した。〔弁論の全趣旨〕

(7)  被告国税不服審判所長は、平成12年6月23日付けで、原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし(以下「本件裁決」という)、本件裁決は同月29日に原告に送達された。〔乙10、11〕

2  争点

(1)  第1事件

本件裁決についての違法事由の存否

(2)  第2事件

本件原処分についての違法事由の存否

3  原告の主張

(1)  第1事件

本件裁決は、次の事由により違法である。

① 被告国税不服審判所長は、乙審判官が平成11年7月2日に原告代表者に対し再度面談を行う旨約束していたにもかかわらず、後任者である丙審判官による面談・調査をしないまま、本件裁決をした。

② 被告国税不服審判所長は、審査請求をした日から3か月以内に裁決をしなかった。

(2)  第2事件

本件原処分は、次の事由により違法である。

① 原告は、申告期限までに納税申告書を提出した。

② 原告は、次のとおり、課税売上高が3000万円以下の免税事業者であり、原処分の課税標準額は事実と異なる。

原告は、本件課税期間中は公共工事の入札に参加できず、収入がなかった。

原告の平成9年度の法人税の更正の請求書に添付した損益計算書には、総収入高が3104万9591円である旨の記載があるが、これは次年度に公共工事の入札に参加できなくなると困るので、丁が売上を仮装したものであって、虚偽のものである。

この損益計算書のもととなった工事台帳も丁が作成したものであるが、同人は原告の使用人ではなく、経理に関与していない。原告は、工事台帳に売上先として記載のあるB及びCとは取引していない。仮にCに対する売上があるとしても、売上金を燃料費、材料費、修繕費等と相殺している。

相川税務署の戊調査官(以下「戊」という。)が原告の事務所に臨場し、帳簿類を調査したところ、売上高は0であった。

第3当裁判所の判断

1  第1事件・本件裁決の適法性

(1)  審判官による面談、調査について

国税通則法97条1項で定める担当審判官の調査権は、これを行使する必要があるかないかの判断は担当審判官に委ねられており、審査請求人は調査権の行使の申立てをすることはできるものの、同申立てはその端緒となり得るに過ぎないと解するのが相当である。

したがって、丙審判官が原告代表者と面談しなかったことをもって本件裁決が違法になると解することはできず、原告のこの点に関する主張は、それ自体理由がない。

のみならず、本件では、乙審判官が原告代表者に質問を行っていること〔争いがない〕に加えて、丙審判官が国税不服審判官及び国税不服審判所職員に命じて、原告社員及び従業員に質問を行っていると認められるから〔乙7、8〕、審理に必要な調査権が行使されたことは明らかというべきである。

(2)  裁決の遅延について

原告がその主張の根拠とする甲3号証(パンフレット)2枚目の「国税不服審判所長(が)3か月以内に裁決」との記載は、国税通則法115条1項1号の、審査請求がされた日の翌日から起算して3か月を経過しても裁決がないときは裁決を経ることなく出訴することができるとの規定を指すものと解されるが、同規定は裁決をすべき期間を3か月に制限するものではなく、審査庁がことさら裁決をせずに放置し、不服審査の趣旨を没却する程度の著しい遅延状態を生じさせる等の事情がある場合のみ裁決が違法となると解されるところ、本件では審査請求の約1年後に裁決がなされており、これは調査、審理に通常必要な期間の範囲内であると認められるし、審査庁がことさら裁決をせずに放置したとみるべき事情は認められないから、原告のこの点に関する主張は理由がない。

2  第2事件・本件原処分の適法性

(1)  申告の有無について

原告は、本件課税期間の消費税等について、申告期限までに納税申告書を提出した旨主張するが、原告がその証拠として挙げる甲20号証は、平成9年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という)にかかる法人税の更正の請求書であって、この他に原告が消費税等について期限までに申告をしたと認めるに足りる証拠はない。

(2)  課税標準額等について

ア 事業者のうち、課税期間の基準期間(前々事業年度)における課税売上高が3000万円以下の者は消費税が免除されるところ(消費税法9条1項)、証拠(乙7、9)によれば、本件課税期間の基準期間である平成7年1月1日から同年12月31日までの事業年度における原告の課税資産の譲渡等の対価は3237万7080円であると認められ、原告は同年度は消費税の免税事業者であったから、この金額が同年度の課税売上高となり、原告は本件課税期間の消費税等の納脱義務を負っていたものである。

イ 証拠(丙1の1ないし丙3)及び弁論の全趣旨によれば、原告が平成10年3月25日に被告相川税務署長に提出した、本件事業年度の法人税の更正の請求書(この請求書が原告代表者の意思に基づいて提出されたことは、原告も争わないと認められる。)に添付された損益計算書には、総収入高3104万9591円との記載があること、同年6月16日に相川税務署の国税調査官Dが原告の事務所に臨場し、原告代表者から同所に保存されていた工事台帳の提示を受けたこと、同工事台帳に記載された工事代金のうち、平成9年1月1日から同年3月31日までの期間の合計は1207万4479円、同年4月1日から同年12月31日までの期間の合計は1797万5112円であり、これら両期間の合計3104万9591円は、前記損益計算書記載の総収入高と一致することが認められる。

ウ 原告は、損益計算書中の総収入高の記載は税務署の調査官と丁が話し合って決めたもので、原告代表者は承知していないこと、工事台帳も丁が作成したもので内容は虚偽であること、原告の工事台帳、請求書、領収書等の重要帳簿は原告代表者が別途保管していることを主張するのみで、これらの帳簿等を提出しない。また、原告は、B及びCと取引をしていたいことの証拠として甲4、10、18号証を挙げるが、これらをもって両社に対して売上がないと直ちに認めることはできない。

また、原告は、戊が原告事務所に臨場して帳簿類を調査したところ、売上高は0であったと主張するが、これを裏付ける帳簿類の提出はなく、甲25ないし27号証(E及び原告代表者の陳述書)だけから、これを認めることはできない。

さらに、原告は、Cに対する売上金は同社に対する燃料費、材料費、修繕費債務等と相殺した旨主張するようであるが、これをもって総収入高が減少すると解することはできないし、これを認めるに足りる証拠もない。

エ その他、課税標準額に関する原告の主張を認めるに足りる証拠はなく、原告の本件課税期間の総収入高は、前記損益計算書及び工事台帳に記載のとおり、平成9年1月1日から同年3月31日までの期間が1207万4479円、同年4月1日から同年12月31日までの期間が1797万5112円の合計3104万9591円であると認められる。

この総収入高をもとに算出した、消費税の課税標準額(別表2②)、納付すべき消費税額(同⑧)、地方消費税の課税標準額(同⑨)、納付すべき地方消費税額(同⑩)、無申告加算税の額(同⑫)は、原処分の消費税の課税標準額(別表1①)、納付すべき消費税額(同⑤)、地方消費税の課税標準額(同⑥)、納付すべき地方消費税額(同⑦)、無申告加算税の額をいずれも上回るから、原処分は適法である。

第4結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 犬飼眞二 裁判官 大野和明 裁判官 和田三貴子)

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