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新潟地方裁判所 平成12年(行ウ)12号 判決 2000年11月27日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告が平成一二年四月二〇日付けで被告に対してした別表1記載の土地にかかる平成一二年度分の固定資産税の固定資産課税台帳の登録価格に関する審査の申出について、被告が平成一二年五月三〇日付けでした審査申出を棄却する旨の決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が共有持分を有する新潟県加茂市所在の土地について平成一二年度の固定資産課税台帳に登録された価格に関し、原告が被告に審査の申出をしたが、被告がこれを棄却する決定をしたことから、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等(以下の事実は、末尾に証拠を掲記したもの以外は、いずれも当事者間に争いがないか、当事者が明らかに争わない事実である。)

1  原告は、平成一二年一月一日の時点において、新潟県加茂市内に所在する別表1記載の各土地(以下「本件土地」という。)の共有持分を有していた。

2  加茂市長は、本件土地について、平成一二年度の固定資産課税台帳に登録すべき価格(以下「本件登録価格」という。)を別表1の決定額欄記載のとおり決定し、右台帳に登録した(以下「本件決定額」という。)(乙二)。

3  原告は、平成一二年四月二〇日付けで、被告に対し、本件決定額について審査の申出をした。

4  被告は、平成一二年五月三〇日付けで、右3の審査申出を棄却する旨の決定をし(以下「本件審査決定」という。)、右決定書謄本は同日原告に送達された。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

1  本件審査決定手続の適法性ないし違法性

(原告の主張)

(一) 本件審査決定の決定書には被告委員長の記名押印がなされているのみで署名がなされていないが、被告委員長が押印することは不可能であり、当該押印はいつどこで誰がなしたものであるか不明であること、被告委員長の印は被告事務局が保管しており、庁舎外の本人は押印できないことからすれば、本件審査決定の決定書は被告委員以外の者が作成した無効なものというべきであり、違法である。

(二) 本件審査決定は審議を経ずになされたものというべきであり、違法である。

(三) 本件審査決定は、原告が主張し、争点とした事項について何ら判断しておらず、違法である。

(四) 原告が、平成一二年四月一二日、加茂市において、平成一二年度固定資産課税台帳の縦覧を求めたところ、加茂市税務課職員は、原告所有の資産の評価のみを記載した名寄帳の写しの交付又は写しの閲覧しか許さなかった。しかし、納税義務者の関係者には固定資産課税台帳を縦覧する権利があり、縦覧の対象は納税者個人の資産に限られず、台帳記載の全資産である。また、台帳における決定価格は市長の裁量処分であるから、守秘すべき事項でもなく、むしろ公開して、不公平な処分のないことを確認させるべき事項であり、それゆえに地方税法は縦覧させるべきとの規定を設けているのである。したがって、所定の縦覧手続を経ていない以上、本件決定額は、審査決定において取り消されるべきものであった。しかるに、本件審査決定は、右の点について何ら判断していないものであり、違法である。

(被告の主張)

(一) 固定資産評価委員会作成の決定書において作成を証するのは委員長の記名捺印で足り、署名捺印を要する根拠はない。また、被告の担当事務局が決定書作成の事務の補助はしているが、部外の者は一切関与していない。本件決定の決定書は被告によって適法に作成されたものである。

(二) 被告は、平成一二年五月一七日及び同月二六日、審理を行い、委員全員一致で本件審査決定を決議しているものであり、適法である。

(三) 加茂市税務課職員は、原告が固定資産課税台帳の縦覧を求めたので、土地課税台帳のうち原告が共有持分を有する土地以外の部分を紙で覆って原告が共有持分を有する土地部分のみの縦覧を許容しようとしたが、原告はいつものごとく、台帳全体の縦覧ができなければ縦覧しないと言って縦覧せず、土地課税台帳の記載と同一事項を記載した個人別所有物件をまとめて記載した土地・家屋・償却資産名寄帳の写しの交付を求めたので、加茂市はその写しを交付した。なお、地方税法四一五条一項に定める固定資産課税台帳を縦覧に付さなければならない関係者とは、納税義務者となるべき者又はその代理人等納税義務者本人に準ずる者に限られると判断されている(最高裁判所昭和六二年七月一七日第三小法廷判決・判例時報一二六二号九三頁)。

2  本件決定額の適法性ないし違法性

(原告の主張)

本件決定額の決定に際しては、更地価格を前提として評価がなされている。しかし、他の法には定義が定められているが、地方税法、固定資産税評価基準に課税対象を土地の更地価格とする規定はない。そして、そもそも、固定資産税における課税対象(課税標準)は、土地の収益性を評価するものであって、所有権の対価ではない。したがって、採用すべき不動産鑑定価格とは、借地権又は地上権の価格、すなわち、更地価格の二分の一が相当である。よって、これを上回る本件決定額は、本件登録価格として過大であって違法である。

(被告の主張)

固定資産にかかる土地の評価は、地方税法三八八条一項により自治大臣の告示する固定資産評価基準を参考にして地方税法に則って評価すべきものとされている。

本件土地は右により適正に評価されたものであり、これに基づく本件決定額は適法である。なお、固定資産評価基準の土地の評価の通則として定めているところから、評価は更地を前提としており、土地に科された権利の制限や土地上の土地以外の物件の存否は評価の上で考慮されていない。また、右評価基準は、当分の間、地価公示価格及び鑑定評価価格の七割を目処として評定するものとするとしているところである

第三争点に対する判断

一  争点1(本件審査決定手続の適法性ないし違法性)について証拠(乙一、四の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、本件審査決定手続は適法に行われたことが認められる。

原告は、本件審査決定が、原告が審査申出の理由の一つとした地方税法所定の縦覧手続を経ていないことについて、何ら判断していないのは違法である旨主張する。しかしながら、地方税法四三二条一項によれば、納税者が固定資産評価審査委員会に審査の申出ができる事項は、納税者の納付すべき当該年度の固定資産課税台帳に登録された価格についての事項に限られるのであるから、被告が原告の縦覧手続を経ていない旨の申出理由について判断しなかったことに何ら違法な点は存しない。

また、原告が本件審査決定手続が違法である旨主張するその他の事由も、いずれも根拠がないものである。したがって、本件審査決定手続が違法であるとの原告の主張はいずれも理由がない。

二  争点2(本件決定額の適法性ないし違法性)について

1  本件土地の固定資産評価方法

証拠(乙四の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、加茂市長は、本件土地について、固定資産評価基準(乙三)に則り、市街地宅地法によって、次の方法で評価を行ったことが認められ、これに反する証拠はない。

(一) 地目の認定から路線価の敷設に至るまで

(1) 別表1番号1ないし8の土地(以下「本件土地(一)」という。)について

ア 現況地目を雑種地と認定し、雑種地の売買実例価額がないことから、宅地比準評価とした。

イ 用途区分を周辺の宅地の利用状況から中小工場地区と区分した。

ウ 本件土地(一)は、正面と側方に路線のある一画地であることから、正面路線及び側方路線にそれぞれ沿接する地域を状況類似地域として区分した。

工 本件土地(一)の正面路線価については、正面路線の状況類似地区内に位置する加茂市α加茂地域消防署前付近の宅地(地積一〇二八平方メートル、間口二三・五メートル、奥行四六・〇メートル)を標準宅地に選定し、当該標準宅地の適正な時価を鑑定評価価格(一平方メートル当たり七万三〇〇〇円)の七割の一平方メートル当たり五万一一〇〇円と評定し、当該状況類似地区の主要な街路(路線番号四〇〇六〇一)の路線価を付設した。

また、本件土地(一)の側方路線価については、側方路線の状況類似地区内に位置する加茂市αパチンコニューアサヒ付近の宅地(地積五二七平方メートル、間口二五・五メートル、奥行二〇・六メートル)を標準宅地に選定し、当該標準宅地の適正な時価を鑑定評価価格(一平方メートル当たり五万三八〇〇円)の七割の一平方メートル当たり三万七六〇〇円と評定し、当該状況類似地区の主要な街路(路線番号四〇〇三〇二)の路線価を付設した。

なお、固定資産評価基準第一章第一二節二において、価格調査基準日(平成一一年一月一日)以後も地価が下落している地域においては、平成一一年度県地価調査の結果を活用することにより、価格調査基準日から平成一一年七月一日までの半年間の地価の変動率を把握し、評価額の修正を行うこととされたが、加茂市においては、県地価調査基準地点のうち価格が下落したのは、商業地域(加茂市β二―八の地点)だけであることから、本件土地(一)にかかる状況類似地区内の標準宅地は時点修正を行わなかった。

(2) 別表1番号9の土地(以下「本件土地(二)」という。)について

ア 現況地目を雑種地と認定し、雑種地の売買実例価額がないことから、宅地比準評価とした。

イ 本件土地(一)の側方路線に沿接する地域を状況類似地域として区分した。

ウ 本件土地(二)の正面路線(路線番号四〇〇三一九)は本件土地(一)の側方路線と同じ状況類似地区内にあるその他の街路であり、主要な街路(路線番号四〇〇三〇二)の一平方メートル当たりの標準鑑定価格の平成一二年分と平成九年分の変動を基に、一平方メートル当たり一万九一〇〇円の路線価を付設した。右街路と主要な街路との価格差は、主要な街路の街路条件が幅員一六メートルで両側に歩道のある幹線市道、行政的条件として都市計画法の用途は準工業地域に指定されているのに比し、右街路は幅員六メートル、歩道はなく、幹線市道でもない等街路条件が劣ること、主要幹線までの距離があること、都市計画法の用途も無指定の部分があること等、交通・接近条件や行政的条件が劣ることにより付けた。

(二) 各筆の評価

固定資産評価基準別表第3画地計算法に基づき、土地の利用状況等から、別表2及び3のとおり、本件土地をア画地及びイ画地に区分した上、別表2のとおり、それぞれの画地の一平方メートル当たりの評点数を算定し、これに別表3のとおり地積を乗じて本件決定額を算出した。

2  右評価に対する判断

本件土地の固定資産評価は、右で認定した方法により行われたものであり、これは固定資産評価基準に則り行われたものであることは前記のとおりであるが、市町村長は地方税法四〇三条一項により固定資産評価基準に従って評価することが義務づけられていること、本件土地固定資産評価の具体的方法についても、前記認定の事実関係からすれば格別不合理な点は認められないことからすると、本件土地の固定資産評価は適法に行われたものであり、本件決定額は適法であるというべきである。

3  原告の主張に対する判断

原告は、土地の固定資産評価においては、更地価格を前提とすべきではなく、借地権または地上権の価格を採用すべきであり、その価格は更地価格の二分の一が相当である旨主張する。確かに、借地権や地上権等の土地の利用権を制限する権利が設定されている土地は、これらの権利が設定されていない土地に比較して利用価値が劣り、通常の売買においても低い価格で取り引きされるのが通例である。しかしながら、固定資産税は固定資産そのものの有する価値に着目し、その固定資産を所有することに担税力を見いだして、その価格に応じて一定税率をもつて課税するいわゆる物税であって、その価値が所有者に実質的にどれだけ帰属するかを問わないものであるから、借地権や地上権等が設定されている土地であっても、固定資産評価に当たっては、これらの権利の目的となっていないもの、すなわち更地として評価するのが相当であると解すべきであり、自治大臣が地方税法三八八条一項に基づいて定める固定資産評価基準が、その第1章第1節三において「地上権、借地権等が設定されている土地については、これらの権利が設定されていない土地として評価するものとする。」と規定している(乙三)のも同様の趣旨に基づくものである。したがって、固定資産評価基準に則り、更地価格を前提として評価した本件決定額は適法であり、原告の右主張は理由がない。

第四結論

以上のとおり、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 飯塚圭一 裁判官 古谷慎吾)

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