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新潟地方裁判所 平成12年(行ウ)13号 判決 2006年9月28日

原告

A

同訴訟代理人弁護士

大川隆司 大澤理尋 味岡申宰 土屋俊幸

金子修 近藤明彦 高島章 平哲也

馬場秀幸 小川和男 齋藤裕

被告

日立造船株式会社

同代表者代表取締役

古川実

同訴訟代理人弁護士

藤堂裕

寺上泰照

岩下圭一

楠森啓太

佐藤水暁

被告

豊栄郷清掃施設処理組合管理者新潟市長

篠田昭

同訴訟代理人弁護士

村山六郎

高橋巽

主文

1  被告日立造船株式会社は,豊栄郷清掃施設処理組合に対し,4892万5000円及びこれに対する平成9年2月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告豊栄郷清掃施設処理組合管理者が,平成7年2月6日に豊栄郷清掃施設処理組合と日立造船株式会社の間で締結されたごみ処理施設増設工事請負契約の入札に係る談合行為について,日立造船株式会社に対し不法行為に基づく前項記載の金額の損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることを確認する。

3  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用はこれを10分し,その8を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の申立て

1  請求の趣旨

(1)  被告日立造船株式会社は,豊栄郷清掃施設処理組合に対し,2億5441万円及びこれに対する平成7年2月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被告豊栄郷清掃施設処理組合管理者が日立造船株式会社に対し2億5441万円の支払を求める請求を怠る事実が違法であることを確認する。

(3)  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  被告日立造船株式会社

ア 原告の被告日立造船株式会社に対する請求を棄却する。

イ 訴訟費用は原告の負担とする。

(2)  被告豊栄郷清掃施設処理組合管理者

ア 原告の被告豊栄郷清掃施設処理組合管理者に対する請求を棄却する。

イ 訴訟費用は原告の負担とする。

第2  事案の概要

1  事案の要旨

本件は,新潟市(旧新潟県豊栄市)の住民である原告が,地方公共団体の一部事務組合である豊栄郷清掃施設処理組合が被告日立造船株式会社との間で締結したごみ処理施設増設工事請負契約は,被告日立造船株式会社を含む入札参加業者らが談合した結果,被告日立造船株式会社が最低入札金額を提示した上で随意契約により締結されたものであり,豊栄郷清掃施設処理組合は,これにより談合がなければ形成されたであろう適正価格と契約代金額との差額相当額の損害を被ったから,被告日立造船株式会社に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を違法に怠っていると主張して,平成14年法律第4号による改正前の地方自治法(以下「地方自治法」という。)242条の2第1項4号に基づき,豊栄郷清掃施設処理組合に代位して,怠る事実に係る相手方である被告日立造船株式会社に対し,損害賠償を求めるとともに,同項3号に基づき,被告豊栄郷清掃施設処理組合管理者が上記損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることの確認を求めた住民訴訟の事案である。

2  争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実(証拠により認定した事実については,その末尾の括弧内に証拠を掲げる。)

(1)  当事者

ア 原告は,新潟市(旧新潟県豊栄市)の住民である。

イ 被告日立造船株式会社(以下「被告日立造船」という。)は,各種船舶,艦艇の新造等のほか,ごみ焼却施設等の製作,据付等を業とする株式会社である。(甲サ1,2)

ウ 豊栄郷清掃施設処理組合(以下「本件組合」という。)は,新潟市及び新潟県聖籠町をもって組織され,ごみ処理施設の設置及び維持管理に関する事務並びに最終処分場の設置及び維持管理に関する事務(ただし,新潟市にあってはいずれも平成17年3月21日から廃された豊栄市の区域に係る事務とする。)を共同処理するものであり,被告豊栄郷清掃施設処理組合管理者(以下「被告組合管理者」という。)である新潟市長篠田昭は,その執行機関である。(弁論の全趣旨)

(2)  焼却炉の種類・方式等(甲サ13,弁論の全趣旨)

ア 規模

通常,1日当たりの焼却処理能力をトン数で表示する。

イ 種類

24時間操業する「全連」(全連続)と呼ばれるものは大型であり,16時間操業する「准連」(准連続)と呼ばれるものは中型であり,8時間操業する「機バ」(機械化バッチ)と呼ばれるものは小型である。

ウ 方式

(ア) ストーカ方式

ごみをストーカ上で乾燥して燃焼させ,次に,おき燃焼させて灰にする方式。

(イ) 流動床方式

けい砂等の不活性粒子層の下部から,加圧した空気を分散供給して,不活性粒子を流動させ,その中でごみを燃焼させ,灰にする方式。

(ウ) (ア)(イ)各方式の市場占有率等

ストーカ方式と流動床方式の市場占有率は,平成7年ころ当時,およそ8:2(准連のみであれば6〜5:4〜5)であった。

(3)  焼却炉の建設業界

ごみ焼却施設は,焼却処理設備,電気・計装設備,建築物及び建築設備並びに外構施設から構成されるが,ストーカ炉を構成する機械及び装置を製造し,これらを有機的に機能させるための据付工事を行うとともに,設備機器を収容する工場棟その他の土木工事も行って,当該ごみ焼却施設の建設を行う者は,プラントメーカーと呼ばれている。(甲サ17,18,30,弁論の全趣旨)

ストーカ炉の建設工事のプラントメーカーとしては,被告日立造船,JFEエンジニアリング株式会社(日本鋼管株式会社が平成15年4月1日付けで商号変更したもの。以下「日本鋼管」という。),株式会社タクマ(以下「タクマ」という。),三菱重工業株式会社(以下「三菱重工業」という。)及び川崎重工業株式会社(以下「川崎重工業」という。)の5社のほか,株式会社荏原製作所(以下「荏原製作所」という。),株式会社クボタ(以下「クボタ」という。),住友重機械工業株式会社(以下「住友重機械工業」という。),石川島播磨重工業株式会社(以下「石川島播磨重工業」という。),ユニチカ株式会社(以下「ユニチカ」という。)などが存在している。(甲サ1ないし9,18,20,28,29,31,33,45,弁論の全趣旨)

これらのプラントメーカーの中でも,被告日立造船,日本鋼管,タクマ,三菱重工業及び川崎重工業の5社は,ごみ焼却施設の製造施工をした歴史,市町村等へのごみ焼却施設の納入実績,ごみ焼却施設の技術レベルの程度等から,「大手5社」と称されている。(甲サ18,20,28,29,33,45,弁論の全趣旨)

(4)  本件工事の入札及び契約(甲ア3ないし6,31,32,46,47,丙1,弁論の全趣旨)

ア 入札に至る経緯・本件工事の概要等

本件組合は,(旧)新潟県豊栄市及び同県聖籠町から発生するごみを処理するために,昭和56年,焼却場を建設し,以後稼働してきた。

本件組合は,平成5年,将来予想されるごみ処理量の増加と処理に伴う排出ガス対策に備えるために,処理施設を増設するなどの事業を開始することとし,増設する焼却炉の基本計画の策定等をすすめた。

本件組合は,流動床炉とストーカ炉の比較,既設の炉(ストーカ炉)との整合,ごみ収集との整合,公害対策,安全性,維持管理費,建設費,実績等の検討を経て,被告日立造船,タクマ及び三菱重工業の三社に参考見積書を依頼し,見積書等を参考に設計額を決定し,これに基づき予定価格を決定し,同三社を指名業者として選定した上で,以下の内容の工事(以下「本件工事」という。)について指名競争入札を実施することとした(詳細は下記。この指名競争入札を以下「本件指名競争入札」という。)。

(ア) 工事名

「(工)第1号 ごみ処理施設増設工事」

(イ) 工事場所

新潟市(旧豊栄市)浦ノ入<番地略>

(ウ) 参考見積額

3社平均で約32億5627万円(税抜)

① 被告日立造船

30億9673万円(税抜)

② タクマ

33億8677万円(同)

③ 三菱重工業

32億8530万円(同)

(エ) 予定価格

24億8000万円(税抜)

イ 指名競争入札

本件組合は,平成7年1月31日,前記指名競争入札を実施したが,下記のとおり,3回の入札を経ても入札額が予定価格を上回ったことから落札に至らず不調に終わった。同組合は,その運用規定に基づき,最低入札金額を提示した被告日立造船(北陸支社)との随意契約に移行することとなった。

(ア) 第1回入札額

① 被告日立造船

26億8000万円(税抜)

② タクマ

27億5000万円(同)

③ 三菱重工業

27億8000万円(同)

(イ) 第2回入札額

① 被告日立造船

26億2000万円(同)

② タクマ

26億6000万円(同)

③ 三菱重工業

26億5000万円(同)

(ウ) 第3回入札額

① 被告日立造船

25億5000万円(同)

② タクマ

26億0000万円(同)

③ 三菱重工業

26億1000万円(同)

ウ 仮契約締結

本件組合は,平成7年2月3日,被告日立造船(北陸支社)との間で,代金を25億4410万円(税込)として本件工事請負仮契約を締結した。

エ 本契約締結

上記仮契約は,平成7年2月6日,議会の議決を経て本契約となり,工事の詳細は下記のとおりに決まった。

(ア) 工事期間

平成7年2月6日から平成8年12月31日まで

(イ) 処理方式

准連続燃焼式ストーカ炉

(ウ) 処理能力

1日当たり50トン

オ 代金支払

本件組合は,被告日立造船に対し,下記のとおり,8回合計25億4410万円を支払った。

(ア) 平成7年5月19日 1億8760万円

(イ) 平成7年6月27日 1億9130万円

(ウ) 平成7年12月28日 3億3489万円

(エ) 平成8年5月27日 7億4586万円

(オ) 平成8年6月27日   9990万円

(カ) 平成8年8月7日 3億9968万円

(キ) 平成8年11月18日   1820万円

(ク) 平成9年2月12日 5億6667万円

(5)  公正取引委員会からの警告

公正取引委員会は,昭和54年12月,被告日立造船,三菱重工業,タクマ,日本鋼管及び川崎重工業に加え,荏原製作所及びクボタに対し,談合について警告をした。(弁論の全趣旨。なお,警告に係る談合の存否について被告日立造船は否認,被告組合管理者は不知と各認否)

(6)  公正取引委員会における審判手続等

公正取引委員会は,地方公共団体が発注するごみ焼却施設の建設に関わる業者が談合を繰り返していた疑いがあるとして,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反の疑いで,平成10年9月17日,被告日立造船のほか,三菱重工業,タクマなど十数社に対する立入検査を実施した。(甲ア2,乙1の1ないし11,4,弁論の全趣旨)

そして,公正取引委員会は,平成11年8月13日,被告日立造船,三菱重工業,タクマ,日本鋼管及び川崎重工業(以下「本件5社」という。)に対し,平成6年4月から約4年半にわたり全国各地で行われたストーカ炉の入札の大部分で談合を繰り返していたとして独占禁止法違反で排除勧告を行ったが,本件5社が,いずれも応諾を拒否したことから,同年9月8日,審判開始を決定した。(甲ア2,乙1の13ないし18,4,弁論の全趣旨)

審査官は,同審判において,平成6年度から平成10年度(平成10年9月17日入札分まで)までの間に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注した全連及び准連ストーカ炉の建設工事87件のうち,本件5社が受注予定者を決定して当該受注者が受注したと認められる工事は60件あり(本件工事もこれに含まれている。),本件5社は,共同して,地方公共団体発注の全連及び准連ストーカ炉の建設工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,地方公共団体発注の全連及び准連ストーカ炉の建設工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反する旨の主張などを記載した平成11年12月9日付け第1準備書面のとおり陳述した。(甲イ1,弁論の全趣旨)

担当審判官は,同審判事件について,具体的証拠から本件5社が受注予定者を決定したと推認される30工事(この中に本件工事は含まれていない。)を含め,平成6年4月から平成10年9月17日までの間に指名競争入札等の方法により入札が行われた地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事の過半について,本件5社が,受注予定者を決定し,これを受注することにより,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事の取引分野における競争を実質的に制限していたと認められるなどと判断した平成16年3月29日付け審決案を出した。(甲エ1,弁論の全趣旨)

公正取引委員会は,本件審判について,平成16年8月3日審理を再開した。(弁論の全趣旨)

(7)  本件訴訟に至る経緯等

原告は,本件工事に係る指名競争入札に参加した被告日立造船,タクマ及び三菱重工業が,遅くとも平成6年4月以降,全国の地方自治体が競争入札又は指名見積合わせの方式で発注した全連続及び准連続ストーカ炉の新設・更新及び増設工事について,受注機会の均等化を大義名分とする談合を繰り返し,平成10年9月までの間に本件工事を含む60件の工事の入札もしくは見積合わせに関し,参加業者間の競争を排除し,あらかじめ取り決めておいた業者に落札させるという不法行為を継続してきたとして,平成12年7月18日,本件組合監査委員に対し,談合がなければ本件工事の契約金額より少なくとも10%少ない金額で契約できたと見込まれるから,同組合は,上記被告日立造船ほか2社に対して少なくとも2億5441万円の損害賠償請求権を有しているとして,同委員が被告組合管理者に対して同損害賠償請求権を行使するよう勧告することを求めて住民監査請求を行った。(甲ア1,6)

これに対し,同委員は,平成12年9月12日付けで,民法による損害賠償請求については,原告が主張する談合の存在と談合による損害の発生があったと確認することができなかったこと,独占禁止法による損害賠償請求については,同法26条が,損害賠償の請求権は,審決が確定した後でなければ裁判上主張できない旨規定しているところ,現段階では公正取引委員会の審決に至っていないことを理由として,同監査請求を棄却する監査結果を出した。(甲ア1,6)

そこで,原告は,平成12年10月6日,本訴を提起した。

3  争点

(1)  談合行為の有無(争点1)

(2)  損害額(争点2)

(3)  違法な怠る事実の有無(被告組合管理者は被告日立造船に対する本件損害賠償請求権の行使を違法に怠っているか否かについて。争点3)

4  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(談合行為の有無)について

【原告の主張】

被告日立造船,タクマ及び三菱重工業は,本件指名競争入札において,以下のとおり談合を行った。

ア 本件5社間における基本合意及びこれに基づく談合の存在

本件5社は,下記基本合意(以下「本件基本合意」という。)に基づき,遅くとも平成6年4月から平成10年9月17日までの間,本件工事を含む各地の地方公共団体の発注にかかる全連及び准連ストーカ炉の建設工事をリストアップし,これらの工事を対象として,談合を繰り返してきた。

(ア) 本件基本合意の内容

地方公共団体が建設を計画していることが判明した工事について,各社が受注希望の表明を行い,①受注希望者が1名の工事についてはその者を当該工事の受注予定者とし,②受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。

本件5社の間で受注予定者を決定した工事については,同5社以外の者が指名競争入札等に参加する場合には,受注予定者は自社が受注できるように同5社以外の者に協力を求める。

受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。

(イ) 本件基本合意の実行

本件5社は,本件基本合意の下,下記の方法により受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるようにしていた。

① 本件5社は,平成6年4月以後,随時,同5社の営業責任者クラスの者が集まる会合で,地方公共団体が建設を計画しているストーカ炉の建設工事について各社が把握している情報を,その一日当たりの処理能力の規模別等に区分してリストを作成した上で,その情報を交換し,その情報を共通化するようにする。同5社は,この情報交換により得られた情報をもとに,受注希望表明の対象となる工事を確定する。

② この情報交換の際の工事の処理能力の規模別等区分は,平成8年ころは,「大型」(全連400トン以上),「中型」(全連400トン未満)及び「准連」に区分され,平成9年ころからは,「大型」(全連400トン以上),「中型」(全連200トン以上400トン未満)及び「小型」(全連200トン未満)に区分され,このうち「小型」についてはさらに「全連60トン超200トン未満」と「全連60トン以下」に小分類されていた。

③ 本件5社は,随時,同5社の営業責任者の会合で,上記②の処理能力の規模別等により3つに区分された工事ごとに,各社が受注を希望する工事を表明する。各社が受注希望を表明した工事について,希望者が重複しなかった場合は,その希望者を受注予定者とし,希望者が重複した場合は,希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。

④ 受注予定者は各社の受注の均等を念頭において決定する。この受注の均衡は,各社が受注する工事のトン数を目安とする。

⑤ 本件5社以外のプラントメーカーが入札に参加した場合,受注予定者等は,自社が受注できるように協力を求め,その協力を得るようにする。

⑥ 受注予定者は,自社の受注価格を定め,他社が入札する価格をも定めて各社に連絡する。受注予定者以外の者は,受注予定者から連絡を受けた価格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。

イ 本件指名競争入札における個別談合について

被告日立造船,タクマ及び三菱重工業が,本件指名競争入札において,個別談合を行ったことは,以下の点から明らかである。

(ア) 時期・参加者

本件指名競争入札は,平成6年4月から平成10年9月17日までの間である平成7年1月31日に入札が実施され,本件5社に含まれる被告日立造船,タクマ及び三菱重工業が参加している。

(イ) 本件指名競争入札の入札状況

本件指名競争入札は,3回の入札とも被告日立造船が最低金額をいれ,なおかつ,いずれも入札予定価格である24億8000万円(税抜)を超えていた。本件5社以外の者が入札に参加したことによって競争が成立した同時期のストーカ炉建設工事の事案では,例えば,可茂衛生施設利用組合(入札日平成7年9月26日・全連・240トン)では落札率約48.78%(被告日立造船落札),有明広域行政事務組合(入札日平成9年6月16日・准連・70トン)では落札率約80.17%(被告日立造船落札),北信保健衛生施設組合(入札日平成7年5月19日・全連・130トン)では落札率約75.97%(タクマ落札)であり,入札予定価格より20%以上下回る価格で受注する能力があることが明らかであるにもかかわらず,本件指名競争入札において,被告日立造船ほか2社が,入札予定価格を上回る金額の札しか入れていないのは,あらかじめ合意されているからにほかならない。

(ウ) 被告日立造船は積極的な反証をしていないこと

被告日立造船は,本件指名競争入札に際し,いかなる積算によって入札額を決定したのかについて容易に主張・立証できるはずであるのに,これを明らかにしていない。また,被告日立造船は,その従業員を証人申請するなど自ら積極的な反証をしていない。

ウ 個別談合の請求原因の特定が十分であること

受注予定業者を決定するための個別の協議について,その具体的な日時・場所・参加した担当者の氏名等まで主張する必要はなく,どの工事について入札参加業者間における受注予定業者の合意があったかを明らかにし,それについて個別に受注予定業者を決定するための話し合いが行われたことを主張・立証すれば足りる。

エ 関係者の供述の信用性について

本件5社間における基本合意及びこれに基づく談合の存在については,三菱重工業の機械事業本部環境装置第1部環境装置1課長(平成8年4月以前は同課主務)のBが,これを認める旨供述しており(甲サ28,46),日本鋼管の大阪支社機械プラント部環境プラント営業室長(平成8年7月以後)のCも,これを聞いた旨供述をしており(甲サ44),このB供述は,体験した者でなければ語り得ないような具体性があり,B・C各供述とも関係各証拠に整合しこれを信用することができる。

【被告日立造船の主張】

ア 本件5社間における基本合意及びこれに基づく談合の不存在

原告が主張する本件基本合意及びこれに基づく談合事実を否認する。

原告は,公正取引委員会審判官作成の審決案(甲エ1)が本件基本合意を認めていることに依拠しているようだが,審決案は案にすぎない上,被審人らの異議申立てを受けて審判手続が再開されたことにより審決案の意義を失っているから,理由がないことは明らかである。

イ 本件指名競争入札における個別談合について被告日立造船,タクマ及び三菱重工業が,本件指名競争入札において,個別談合を行ったという原告主張事実について,原告から提出された証拠を精査しても直接証拠が一切存在しない。

公正な自由競争によっても,予定価格に近い価格で落札されることはいくらでもあり得るし,予定価格を基準に計算される落札率は,予定価格がどの程度の金額に設定されるかによって高くなったり低くなったりする極めて相対的な数字であるから,落札率の高低と談合の有無を短絡的に結びつけることには全く合理性がない。また,自由競争の場合でも結果的に一位不動となることもあり得る。加えて,被告日立造船は本件組合から本件工事の参考見積りを依頼された業者であるから,予定価格と近い金額の札をいれることに不自然さはない。したがって,被告日立造船が本件指名競争入札でいれた札の金額や3回とも最低価格であったことをもって談合の存在を根拠付けようとする原告の主張は失当である。

ウ 個別談合の請求原因の特定がされていないこと

原告は,本件指名競争入札に関する談合行為の具体的内容(時期・主体・方法等)を全く特定しておらず,不法行為に基づく損害賠償請求権の要件事実としての不法行為(談合行為)の主張を欠くものであって,主張自体失当である。

エ 関係者の供述の信用性について

原告が主張するB供述(甲サ28,46)については,本件5社の会合への出席開始時期が課長職となった平成6年4月以後である旨供述している点について,Bの課長就任時期が平成8年4月でそれまでは主務という役職であった事実に反していること,Bが受注物件・販売価格等を決めていた旨供述している点について,三菱重工業の課長職では1億円未満の黒字工事についてのみ決裁権限があるにすぎないという事実に反すること,本件5社以外の者が一緒に指名された場合には協力を求めた旨供述している点について,本件5社と同等又はそれ以上にストーカ炉の建設工事の入札で指名を受けている荏原製作所及びクボタは,協力事実を否定している事実(乙16の1・2,17の1・2)に反すること,公正取引委員会が立入検査を実施した当日である平成10年9月17日に作成された調書であり,審査官の誤った先入観と予断によって誘導されることは珍しくないところ,Bは閲読しないまま各調書に署名・押印しており,各供述調書作成経緯についても,その後の取調べにおいて,長時間の事情聴取による緊張感や圧迫感等で極度に疲労した状態におかれるなどの中で調書の内容を理解しないまま押印してしまった旨説明するとともに(甲サ182ないし189等),談合行為の存在を明確に否定する供述を続けていること(甲サ161ないし176,179ないし189)から,到底信用できないというべきである。

また,原告が主張するC供述(甲サ44)についても,その内容は,自ら体験したものではなく,本件5社の会合に出席した者からの伝聞過程も明らかとなっていないから,信用できない。

【被告組合管理者の主張】

不知

(2)  争点2(損害額)について

【原告の主張】

被告日立造船,タクマ及び三菱重工業が,本件指名競争入札において談合を行っておらず,入札参加者間の競争が確保されていたとすれば,現実の契約金額と比べて,少なくとも10%以上低い金額で落札する業者がいたはずであるから,本件組合は,被告日立造船の不法行為によって,現実の契約金額の少なくとも10%に相当する2億5441万円の損害を被った。よって,同組合は,被告日立造船に対し,同損害額及びこれに対する契約日の翌日である平成7年2月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める権利がある。

ア 損害額の算定根拠等について

本件組合は,被告日立造船による違法な談合によって,本件入札参加業者間の自由競争によって落札業者が決定されていた場合に形成されていたであろう落札価格(以下「想定落札価格」という。)を前提とした契約金額と,実際の契約金額との差額分について,損害を被ったというべきである。

しかし,想定落札価格なるものは,現実には存在しなかった価格であるから,具体的にこれを認定するのは困難である上,落札価格は,入札当時の経済情勢,当該工事の種類・規模,競争者数,地域性等の多種多様な要因が複雑に絡み合って形成されるものであり,談合が価格形成に及ぼした影響を正確に明らかにすることも困難である。

これらの事情に鑑みると,本件組合が被った損害については,その性質上金額の算定が極めて困難であるというべきであるから,民事訴訟法(以下「民訴法」という。)248条を適用して認定すべきである。

そして,公正取引委員会審査官が,本件5社による談合に係る審判手続において,本件5社の談合対象から除外された「フリー物件」の落札率が,50.24%,75.97%,88.71%,90.87%,74.73%であることから考えると,控えめにみても,本件組合が被った損害は,本件契約金額の10%に相当する2億5441万円と認めるのが相当である。

イ 随意契約である点について

本件ごみ焼却炉建設事業は,ごみ処理量の増加と処理に伴う排出ガス対策を万全とするために計画されたものであり,本件組合としては,本件随意契約当時,本件ごみ焼却炉建設工事事業を撤回することなど全く考えられない状態であり,工事の規模・内容から相当の工事期間を要することが予想されたため,早急な着工を要していた。

被告日立造船ほか2社は,本件組合からストーカ炉の建設について実績を評価され,信頼し得る業者として選定された。

そうすると,本件組合としては,被告日立造船ほか2社以外に当該工事を行う能力,意思を有する者を発見・選定することは著しく困難であったといえ,被告日立造船ほか2社の中で最も低価格を示した業者が被告日立造船であったことから,同組合が被告日立造船と交渉して契約に至るのは当然である。

そして,本件入札予定価格は,被告日立造船ほか2社から提出された参考見積りを前提とし,業界誌等により得られるごみ処理施設の実勢価格に関する情報等を参考にしたものであり,本件指名競争入札において入札予定価格を大きく上回る価格で入札が繰り返された結果随意契約に移行したことをも勘案すれば,本件組合が入札予定価格を大きく下回る価格を提示した場合に被告日立造船の承諾を得ることが難しく契約成立に支障を来したことは明らかといえ,被告日立造船ほか2社による談合と本件工事の随意契約締結との間の相当因果関係に疑問の余地はない。

【被告日立造船の主張】

ア 民訴法248条の適用について

原告は,損害論についての主張・立証を全くしていない。想定落札価格についての具体的な主張・立証を放棄して安易に民訴法248条の適用を求める原告の主張は極めて不当である。

民訴法248条は,主張・立証の自己責任原理を謳った民訴法の大原則である弁論主義を放棄する趣旨で規定されたものではなく,損害の発生及び侵害行為とその損害との因果関係についてはあくまでも厳格な証明の対象であり,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに限って適用されるもので,原告は,損害の発生を立証しなければならないことはもちろん,損害額についても可能な限り立証しなければならないのであって,損害額についておよそ立証しなくてもよいわけではない。

仮に,本件訴訟における原告の損害に関する不十分な主張・立証だけで,判決において裁判所の自由裁量によって損害額の認定がなされるようなことがあれば,被告日立造船に対する不意打ちとなって,適正手続の保障を欠く違法な判決となる。

イ 随意契約である点について

仮に談合行為によって最低入札金額が不当につり上げられていたとしても,本件は,その落札価格が直ちに実際の契約価格になったのではなく,談合行為の有無・影響とは無関係に本件組合と落札業者である被告日立造船との交渉によって任意に決められたものであるから,談合による落札価格と契約価格との間には何ら因果関係を認めることができない。

【被告組合管理者の主張】

本件組合は,適正に算定された参考見積価格・予定価格に基づき指名競争入札を実施し,同入札において落札者がいなかったことから,被告日立造船との間で随意契約を締結したものであり,このような経過に照らすと,同組合には同契約に基づく損害は発生していないというべきである。

(3)  争点3(違法な怠る事実の有無)について

【原告の主張】

被告組合管理者が,被告日立造船に対して損害賠償請求をしないことは,財産の管理を違法に怠るものというべきである。

ア 長に裁量の余地がほとんどないこと

地方自治法240条2項,同法施行令171条以下の規定から,債権について,地方公共団体の長は,これを行使すべき義務を負い,行使するか否かについての裁量の余地はほとんどないというべきである。

したがって,長が,同施行令171条の5に定める場合でないのに,相当期間債権を行使しないときは,それを正当化する特段の事情のない限り違法というべきである。

イ 敗訴の危険性について

独占禁止法25条に基づく損害賠償請求は,民法709条に基づく損害賠償請求と異なり,無過失責任及び確定審決前置が実体要件となっており,独占禁止法25条に基づく損害賠償請求訴訟と民法709条に基づく損害賠償請求訴訟とでは現行実務の採用する旧訴訟物理論のもとで訴訟物が異なると解される。そうすると,仮に民法709条に基づく訴訟で敗訴しても,その既判力により独占禁止法25条に基づく訴訟ができなくなるわけではない。

したがって,民法709条に基づく訴訟について敗訴の危険性があることは債権を行使しないことを正当化する特段の事情に該当しない。むしろ,公正取引委員会の審判確定後に多数の地方公共団体が独占禁止法25条に基づく損害賠償請求訴訟を提起するなどにより被告日立造船の資力に対する不安が生じるおそれもあり,このような観点からも,被告組合管理者は財産管理を違法に怠っているというべきである。

ウ 基準時について

違法に怠る事実が認められるか否かの判断の基準時は,口頭弁論終結時である。

【被告日立造船の主張】

ア 不行使の正当性について

不法行為に基づく損害賠償請求権は,原則として,不法行為の時に期限の定めのない債権として成立するが,それを,いつ,どのように請求等するかは原則として債権者の自由であり,成立したならば直ちに行使しなければ違法であるなどと評価されるべきものではない。

特に,独占禁止法違反という極めて専門性の高い事件について,それを日本国内で唯一所管している公正取引委員会の判断を尊重し,その判断を待ったからといって,その対応が違法であるなどと評価できないことは明らかである。

さらに,本件5社間における基本合意に基づく談合があったか否かについては,裁判所毎に異なる事実認定がなされており,その判断が難しいといえるから,一行政機関にすぎない本件組合が,専門機関である公正取引委員会の審判の成り行きを見守り,その判断を待つという対応を採ることは,何ら違法に怠る事実と評価されるべきものではない。

イ 消滅時効について

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は,損害及び加害者を知ったときから3年間であり,本件のように不法行為の存否自体不明である場合には,消滅時効は未だ進行していないといえ,消滅時効の危険を考慮する必要はない。

ウ 基準時について

違法に怠る事実が認められるか否かの判断の基準時は,遅くとも住民監査請求に対する判断がなされた時である。

【被告組合管理者の主張】

ア 平成12年当時に訴訟を提起しなかったことについて

本件では,原告の努力によって公正取引委員会から資料を入手することが出来たが,平成12年当時,同資料を入手できるか否かについては裁判例も固まっておらず,被告組合管理者が訴訟提起するかどうかについて慎重な判断を必要としたのであって,訴訟を提起しなかったことには正当性があり,違法に怠ったものではない。

イ 口頭弁論終結時(平成18年4月27日)まで訴訟を提起しなかったことについて

被告組合管理者は,公正取引委員会から入手した資料を検討したが,本件において個別談合があったか否かについて明確な資料が存在せず,被告日立造船ほか2社の談合による価格つり上げ行為があったか否かについて断言できない上,実質的に損害は発生していないとの判断(争点2の被告組合管理者の主張参照)を覆すに足りる証拠も認められないと判断した。

そうすると,消滅時効の問題はあるが,民法による損害賠償請求訴訟を提起して敗訴すれば,その既判力により以後同損害賠償請求権を行使することができなくなるから,被告組合管理者が慎重に事態の推移を見極めようとしているのは,公共的な財産の管理に責めを負う者として当然のことといえる。

したがって,訴訟を提起しなかったことに正当性があり,違法に怠ったものではない。

第3  当裁判所の判断

1  争点1(談合行為の有無)について

(1)  認定事実

前記「争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実」,証拠(甲サ20,28,33,35,37,39ないし49,53,84,87,102ないし105,108,110,118,119,129,130,139,140,143)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

ア 本件5社が会合を開催していたこと

本件5社は,ごみ焼却施設に関する営業部署の部長,課長等が出席する会合(以下「本件会合」という。)を,遅くとも平成6年4月以降,平成10年9月ころまで,各社持ち回りで月1回程度開催していた。

この会合には,三菱重工業からBが,被告日立造船から環境・プラント事業本部環境東京営業部長(平成10年3月以前の肩書不詳)のDが,日本鋼管から環境第1営業部第1営業室長(平成9年12月以前は環境プラント営業部第1営業室チーム主査)のEが,タクマから環境プラント統括本部東京環境プラント部第2課長のFが,川崎重工業から平成8年4月ころ以前は機械・エネルギープラント事業本部営業総括部環境装置第1営業部長が,同月ころ以後は機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部営業開発第2部長(平成9年6月以前は機械・エネルギープラント事業本部営業総括部環境装置第1営業部主査(課長待遇),同月以後平成10年1月以前は機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部環境装置第1営業部長)のGが,それぞれ出席していた。

平成6年4月以後の時期における本件会合への出席者は,川崎重工業の上記変更のみであり,これらの者は,本件5社の本社のごみ焼却施設の営業担当部署の部長若しくは課長又はこれらとほぼ同等待遇の者であり,地方公共団体発注に係るストーカ炉の建設工事の選定や入札価格の決定に実質的に関与し得る立場にあった。

イ 本件会合の内容

(ア) 本件会合では,地方公共団体からストーカ炉の建設工事の発注が予定される物件について,各社が保有する情報をそれぞれ提供して共通の認識を有するようにし,各出席者が,各発注予定物件についてそれぞれ受注を希望するか否かを表明し,受注希望者が1社の場合には,当該会社を受注予定者(「チャンピオン」と言った。)となり,受注希望者が2社以上の場合には,希望者同士が話し合って受注予定者を決定していた。

(イ) 本件会合で受注予定者を決めるに当たっては,各社が受注するごみ処理施設の処理能力の合計が平等になるように受注予定者を決めていた。

(ウ) 各発注予定物件は,ごみ処理施設の処理能力によって,1日の処理能力が400トン以上のものを「大」,200トン以上400トン未満のものを「中」,200トン未満のものを「小」とするなどして規模別に3つに区分し,それぞれに分けて受注予定者を決めていた。

(エ) 指名競争入札において本件5社以外のプラントメーカーが発注者から指名された場合には,受注予定者が相指名業者に対して個別に受注予定者が受注できるように協力を求め,本件5社以外である相指名業者が相当回数協力してくれて相指名業者にも受注させる必要が生じた場合には,受注予定者が本件会合で了承を受けて,相指名業者に受注させていた。

(オ) 受注予定者は,指名を受けた発注物件について積算し,本件5社を含む各相指名業者に入札の際に書き入れる相手方の金額を電話等で連絡して協力を求めていた。

(2)  関係者供述の信用性

上記(1)の各認定事実については,関係者の供述,とりわけBが平成10年9月17日に公正取引委員会で行われた同委員会審査官からの事情聴取における供述(甲サ28,46。両調書の内容を併せて以下「本件B供述」という。)によるところが大きいので,同供述の信用性について以下検討する。

ア 本件B供述の内容それ自体について

本件B供述は,本件会合における受注予定者の決定方法,受注希望者が複数出た場合における調整方法,本件5社以外のプラントメーカーとの調整方法等について,それなりに詳細かつ具体的な内容と認められる。

イ 本件B供述に整合的な証拠

(ア) 日本鋼管のEの供述(甲サ33)

Eは,平成4年7月に環境プラント営業部に再配属となってから約1年経過した平成5年ころから,日本鋼管,タクマ,被告日立造船,三菱重工業及び川崎重工業の5社の会合に出席しており,三菱重工業からこの会合に課長が参加しており,川崎重工業の出席者に変更があったくらいでその他に参加者に変更はなかった旨供述しており,その内容は,本件B供述に整合している(ただし,Eは,会合の目的について供述していない。)。

(イ) 日本鋼管のCの供述(甲サ44)

Cは,平成8年7月から,日本鋼管大阪支社の機械プラント部環境プラント営業室長であった者であるが,近畿一円の官公庁が発注するごみ処理プラントの見積価格や入札価格については,全て会社の方針として本社環境プラント第2営業部第1営業室から指示された価格で対応している,同室長として本件5社がいかなる方法で受注予定者(「チャンピオン」)を決めているのか疑問に感じていたところ,平成8年秋から冬にかけて,本社環境プラント営業部の第2営業部長,第1営業室長及び第1営業室係長から,飲み屋で,①本件5社のみで指名競争入札が行われる場合には,本件5社のルールによってあらかじめ物件ごとにチャンピオンが決められる,②本件5社に荏原とクボタの2社が加わって指名競争入札が行われるときは,日本鋼管がチャンピオンになっている物件についても同2社と話し合いを行うが,必ずしも全て受注できるか否かは分からないので,その物件を発注する自治体に対して荏原とクボタの2社が指名通知を受けないように大阪支社で働きかけて欲しい,③これら7社に住友重機とユニチカが加わった9社で指名競争入札が行われる場合には,日本鋼管がチャンピオンになっている物件についても住友重機及びユニチカと話し合いを行い,その結果,日本鋼管がチャンピオンになる場合もあり得る,④本件5社はその担当者が集まる「貼り付け会議」を年1回開催し,同5社が情報を保有するストーカ炉物件について,同5社が平等に分け与える形で物件ごとにあらかじめチャンピオンを決めている,同会議において,各社は,チャンピオンになりたい物件を述べて,その物件の希望が1社の場合にはそのメーカーがチャンピオンになり,複数のメーカーが希望した場合には希望メーカー間においてその場でチャンピオンを決める,ストーカ炉物件ごとに1日のごみ処理能力に応じて3つに区分してチャンピオンを決める,同会議でチャンピオンが決められた物件については,そのチャンピオンになったメーカーはその物件を受注する権利を持つ(実際の入札が数年後であっても同様)とともに,本件5社以外の他メーカーが入札に参加しないように発注先の自治体に働きかける義務を負う,⑤本件5社で平等に物件を分けても,本件5社以外のメーカーが入札に参加した場合には同会議でチャンピオンとなったメーカーが必ずしも受注できるとは限らないが,その分について調整はしないなどと供述するとともに,このとき聞いた内容について,約1週間後,部下を指導するためにメモ(甲サ35。ただし,ストーカ炉関係部分)を作成した旨供述している。

Cの供述は,同メモの記載と相まって,詳細かつ具体的なものであり,伝聞とはいえ情報源は本社の者であることも併せ,それ自体,それなりに信用性をうかがうことができるものであるが,その内容の中核部分,すなわち,本件5社の担当者が会合で受注調整をしていたこと,受注調整にあたってはストーカ炉を規模に応じて3つに区分していたことなどの点で本件B供述と整合している。

(ウ) 三菱重工業のHの供述(甲サ42,43)

Hは,平成8年3月1日付けで,三菱重工業中国支社機械1課に異動し,同年4月1日付けで,同課の課長となった者であるが,同年3月ないし4月ころ,前任者から引継ぎを受けた際,ごみ焼却施設については本件5社が均等に受注するために受注予定者(「チャンピオン」)を決めて受注予定者が受注できるようにしていること,実際の入札の受注予定者は各社の本社レベルで話し合いが行われていることを聞いた,その際,前任者が黒板に引継事項を書いて説明したので,これをメモした上でノート(甲サ40)に清書した旨供述している。

Hの供述は,同ノートの記載と相まって,それなりに詳細かつ具体的なものであり,自ら前任者から引き継ぎを受けた内容であることを併せ,それ自体,信用性をうかがうことができるものであるが,その内容の中核部分,すなわち,本件5社の本社担当者が会合で受注調整をしていたことなどの点で本件B供述と整合している。

(エ) 三菱重工業のIの供述(甲サ47,108)

Iは,平成元年4月1日から,三菱重工業中国支社の機械1課において,廃棄物処理施設の営業に携わるようになった者であるが,同日ころ,前任者から,「業界(機種別)の概況について」(甲サ37)と題する書面を受け取り,本件5社が,自治体等から発注するごみ焼却施設の受注調整を行っていることを引き継いだ,本社から,営業活動にあたっては指名を受ける業者を本件5社に絞り込むように指示を受けていた,約10年間にわたる営業の経験,例えば,当初の見積算定額に対し本社が大幅に高い入札金額を連絡してきて結局他社において落札した事案があったことなどから,本社レベルで受注調整は行われており,課長クラスの者が対応していると思う旨供述している。

Iの供述は,同書面の記載と相まって,それなりに詳細かつ具体的なものであり,自ら前任者から引き継ぎを受けた内容であるばかりか,約10年間の営業経験を踏まえた内容であることを併せ,それ自体,信用性をうかがうことができるものであるが,その内容の中核部分,すなわち,本件5社が受注調整をしていたことなどの点で本件B供述と整合している。

(オ) タクマのJの供述(甲サ45)

Jは,平成10年6月ころから,タクマの環境プラント本部長を務め,ごみ焼却炉関係と水処理関係の西日本における営業・業務・技術の責任者の立場にある者であるが,同社環境プラント本部営業部長から,何としても受注したい物件は,他社がタクマの入札価格より高い価格で入札することに応じてもらうように話し合いを行って他社の協力を得て受注し,他社がどうしても受注したい物件についてはタクマが協力する旨聞いたなどと供述している。

Jの供述は,伝聞ではあるが,受注調整が他社との間で行われていることなどの点で本件B供述と整合している。

(カ) 受注調整を行った会合の存在に関係するメモ

下記各記載については,具体的な受注調整の会合が開かれた事実を裏付けるとともに,本件B供述とも整合する証拠といえる。

① 平成8年12月9日の会合

Bが所持していたノート(甲サ67)及び日本鋼管環境第二営業部第二営業室統括スタッフが所持していた平成8年版ダイアリー(甲サ76)には,いずれも「12/9」との記載や処理能力で区別するかの如き記載があり,平成8年12月9日に受注調整の会合を行った際に担当者がメモをとったものとうかがえる。

② 平成10年1月30日の会合

日本鋼管環境第一営業部第二営業室統括スタッフが所持していた文書(甲サ58)には,「全連400t以上」,「全連200t以上400t未満」,「全連200t未満」の3つに分けてそれぞれ「青森 600」などと記載されており,その余白部分には「1/20 対象物件見直し400t以下」,「1/30 張付け」との記載がある。

また,被告日立造船の「環境事業本部東京営業部」から「環大,鉄管本」宛に平成10年1月27日午後4時56分ファックス送信したとうかがえる文書(甲サ55)の送信文部分には,「中型の対象物件送付します」,「1/30ハリツケする予定です」と記載され,2枚の「環境装置需要一覧表」(大型・中型・小型に分類して事業主体と規模がそれぞれ記載された表)が添付されている。

これらの証拠は,その内容から,平成10年1月30日の受注調整の準備のためのものとうかがえる。

③ 平成10年3月26日の会合

日本鋼管環境第1営業部長が所持していた平成10年版手帳(甲サ73)には,同年3月26日欄に「file_3.jpg<中小型物件はりつけ>」との記載がある。

また,三菱重工業環境装置第1部次長が所持していた平成10年版手帳(甲サ79)には,同年3月26日欄に「最終決定」との記載がある。

また,三菱重工業中国支社のロッカーにあった書面(甲サ96)には,担当者欄及び課長欄にそれぞれ同月27日付けの認印が押捺され,「3/26日file_4.jpg会合で中国五県の話は出なかった,引き続き営業強化宜しく」との記載がある。

これらの証拠は,その内容から,平成10年3月26日の受注調整に関係するものとうかがえる。

(キ) 受注調整をうかがわせる内容が記載された書面

下記各記載については,具体的な受注調整をうかがわせるものであり,本件B供述とも整合する証拠といえる。

① 甲サ第89号証について

同号証(所持者について甲サ140)は,川崎重工業機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部西部営業部参事が所持していたものであるが,うち1枚目には,平成7年9月28日付けで,「年度別受注予想」と題して,横軸は,平成8年,平成9年,平成10年,平成11年,平成12年以降の5つに分類され,縦軸は,「K」,「M」,「H」,「N」,「T」の5つに分類され,各項目に「両津市 50」などの記載がある。

アルファベットの各文字は,本件5社の各商号を対照すれば,川崎重工業(K),三菱重工業(M),被告日立造船(H),日本鋼管(N),タクマ(T)をそれぞれ指すものとうかがえる。

そして,この書面の内容自体,平成7年9月28日の時点で平成12年以降の分まで本件5社の受注を予想するものであり,実際の指名競争入札の結果と対照してみると,例えば,平成9年度に川崎重工業が受注すると予想されている佐世保市の200トンの物件については,平成9年7月29日の指名競争入札において川崎重工業が落札しているなど,予想が的中しているものが複数存する(甲サ29)。

② その他

全国のごみ焼却施設の発注予定等物件のリストについては,被告日立造船関係者が所持していたもの(甲サ54ないし56,所持者は甲サ140参照。留置時所持者の記載のない書証について以下同じ。),川崎重工業関係者が所持していたもの(甲サ64,65),三菱重工業関係者が所持していたもの(甲サ66,67),日本鋼管関係者が所持していたもの(甲サ58ないし63)がそれぞれ存在し,その中には内容の多くが符合するものも認められる(例えば甲サ54と61)。

(ク) 入札状況を数値化して把握していたと認められる証拠

下記各記載については,ストーカ炉の建設工事の入札状況を数値化して把握していたことを裏付けるものである。

① 甲サ第106号証

同号証は,三菱重工業環境装置一課主務が所持していたノートであるが,横軸は「K」,「T」,「N」,「H」,「M」の5つに分類され,縦軸は工事名とうかがえる名称及び日付が記入され,それぞれ分数の数値(「13099/68322」など)と分母の加算等が記載されている。

これらの記載は,本件5社の受注割合を分数で計算したものとうかがえる。

② 甲サ第107号証

同号証は,川崎重工業機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部西部営業部参事が所持していたものであるが(所持者について甲サ140),ここには,上部に「状況7」,「H07.11.30現在(H8/2調整済)」という記載があり,縦軸は,「K」,「M」,「H」,「N」,「T」,「E」,「Q」に区分され,横軸は,前回平成7年8月27日,現状平成7年11月30日の2つに区分されるとともにそれぞれ「A」,「B」,「Q」に区分されて各数値が記載(「B/A≒Q」とうかがえる。)されており,中心より下部項目には,例えば,平成7年3月31日までの計算「B/A」欄と「K」の交差する項目に「00.00阿見 84/84KMHNE」と記載されている。

詳細は必ずしも一義的に明らかとは評し難いものの,各社の受注割合を数値化したものとうかがえる。

ウ 被告日立造船が指摘する点について

被告日立造船は,本件B供述について,下記の点を指摘してその信用性を争うので,それぞれ検討する。

(ア) Bの課長就任時期について

本件B供述の中には,「課長職」となったのは平成6年4月との部分があるが,課長就任は平成8年4月であったと認められる。

しかしながら,Bは,本件会合に出席を開始した時期を平成6年4月である旨明確に供述しており,会合の目的については否認に転じているものの,平成15年4月15日の別件訴訟証人尋問においても,本件5社の会合が平成6年4月からほぼ毎月1回各社持ち回りで開催されており,平成6年4月以降ずっと出席していた旨証言していること(乙30),前記「課長職」との供述をした甲サ第28号証でも,「課長」就任は平成8年4月であることを冒頭で説明しており,同一供述調書内で「課長職」との表現と区別されていると認められること,Bは平成6年4月に環境装置1課の主務となっているところ,主務の仕事は,業務について主に課長から指示を受けて動くとともに,自分で何かの担当を持っている立場であること(乙15,30),日本鋼管のEが,平成5年ころから本件会合に出席するようになり,三菱重工業からBが参加していてその後メンバーの変更はなかった旨供述していること(甲サ33,弁論の全趣旨)などに照らすと,Bがいう「課長職」というのは,課長とほぼ同等の主務となった時期から本件会合に出席するようになったことを指すというべきところ,調書の記載がやや曖昧になったにすぎないと認められるから,課長就任時期の点をもって本件B供述の信用性は減殺されないというべきである。

(イ) Bの供述経過について

Bは,平成10年9月17日の取調べにおいて,受注調整のための本件会合の存在を認める供述をしていたところ(甲サ28,46),その後,本件会合の目的はもとより受注調整の事実についても否認に転じている。

しかしながら,本件B供述については,公正取引委員会が立入検査に入った当日に聴取されたものであって,取調官において未だ証拠書類を十分に検討していない段階であったにもかかわらず,前記のとおり関係者の各供述及びメモの各記載内容等と整合して十分な裏付けが存すると認められる一方,否認に転じた後の供述は,例えば,自分のノートに書かれた自分の字であることを認めながら,その意味内容の多くを「わかりません。」と供述しており(甲サ181),その内容自体不自然不合理である上,供述を変遷させた理由についても合理的説明が出来ておらず,取調後に,その上司である部長及び次長並びに弁護士に取調内容を報告していたことを自認していること(甲サ166,173)から,上司等の意向を踏まえるなどして否認に転じたとしても不自然ではないといえ,変遷後のB供述はこれを信用することができず,本件B供述の信用性を減殺させないというべきである。

エ 小括

以上によれば,本件B供述は,内容それ自体が詳細かつ具体的である上,これと整合する関係者の各供述及びメモの各記載内容等によって裏付けられているのであるから,十分にこれを信用することができるものと認められる。

(3)  本件指名競争入札に係る談合の存否

以上によれば,本件5社は,平成6年4月(遅くとも)から平成10年9月までの間,本件会合を開催していたものであるところ,本件指名競争入札は,その期間中である平成7年1月に実施されたものであり,本件5社の構成員である被告日立造船ほか2社が入札参加者であったことが認められる。

ところで,全証拠を精査しても,本件指名競争入札に関する個別談合の存在を直接的に認めることができる証拠は見当たらないのであるが,そもそも談合は違法行為であって,秘密裡に行われ,残される資料も限られたものになりやすいものであるところ,公正取引委員会における審判手続等において収集された受注調整を行った会合の存在に関係するメモや受注調整をうかがわせる内容の記載された書面は,いずれも主に平成8年度以降に実施された入札に関するものであって,平成7年度以前に実施された入札に係る同様のメモや書面は収集されていないのであるから,平成7年1月に実施された本件指名競争入札についてこれらのメモや書面が見当たらないことをもって,本件会合における受注調整の対象から本件工事が除外されていたと認めることはできないというべきである。

そして,本件指名競争入札の時期が本件会合の行われた時期に含まれること,その参加者は本件5社の構成員である被告日立造船ほか2社であること,本件工事は,1日当たりの処理能力が50トンとはいえ,契約金額は25億円余(税込)と少なくないこと,本件指名競争入札において,3回とも3社入札額がいずれも予定価格を上回り,3回とも被告日立造船が最低金額の札を入れていること,被告日立造船は,本件指名競争入札の各入札額について,原告から積算根拠を明らかにするように求められていたにもかかわらず(原告平成17年11月21日付け準備書面),口頭弁論終結に至るまで全く明らかにしていないことを総合考慮すれば,本件指名競争入札に先立つ本件会合において,本件指名競争入札の受注予定者を被告日立造船とする旨決定され,以後,本件指名競争入札で指名された被告日立造船ほか2社の担当者間において被告日立造船が最低金額となるように入札価格を調整した上で,同3社が同入札に臨み,その結果として,被告日立造船が3回とも予定価格を上回る金額で最低金額を入札し,随意契約に移行したとの談合行為を推認するのが相当である。

この点について,被告日立造船は,原告の主張は,本件指名競争入札に関する談合行為の具体的内容(時期・主体・方法等)を特定しておらず,不法行為に基づく損害賠償請求権の要件事実の主張として不十分である旨主張するが,本件組合の被告日立造船に対する不法行為(談合行為)に基づく損害賠償請求権の発生原因事実としては,前記推認事実をもって足りるというべきであり,原告の主張に欠けるところはない。

2  争点2(損害額)について

(1)  損害について

被告日立造船は,本件指名競争入札において,本来他の指名業者との健全な競争関係を前提として決定すべき入札価格を,本件談合行為により,競争関係を全く意識することなく,自社の利益を最大限にしながら他者との関係で最低金額となるように設定し,3回の入札においていずれも予定価格を上回る最低金額を入札し,その結果,随意契約手続に移行させ,本件組合との間で本件契約を締結したものである。

したがって,本件契約においては,被告日立造船ほか2社間の談合に基づく入札金額調整結果がそのまま契約金額となったわけではない。しかしながら,本件組合は,被告日立造船ほか2社から参考見積額を聴取するなどして十分に検討した上で本件指名競争入札の予定価格を決定したのであり,その予定価格について不相当であると認めるべき事情は見出し難いこと,被告日立造船は,本件指名競争入札において,本来他の指名業者との健全な競争関係を前提として決定されるべき入札価格について,談合行為により,競争関係を全く意識することなく自社の利益を最大限にすべく調整したこと,その結果,本件指名競争入札は不調となり,随意契約手続に移行したこと,本件組合は,本件指名競争入札が不調に終わった経緯及び改めて他社と競合させるだけの時間的余裕に乏しかったことなどから,随意契約手続における被告日立造船との交渉において,被告日立造船が入札した金額を基準とせざるを得なかったことがうかがえること,現に,本件契約金額は,被告日立造船の3回目の入札金額(税込26億2650万円)を8240万円下回るだけの金額(税込25億4410万円。この金額は予定価格の約99.60%)となったこと等に鑑みれば,本件組合は,被告日立造船の本件談合行為により,公正な競争を前提とする工事価格と本件契約金額との差額相当分の損害を被ったというべきである。

(2)  民訴法248条の適用

そうすると,本件組合に生じた損害額を認定するためには,本件指名競争入札において本件談合行為がなければ公正な競争により形成されたであろう想定落札価格を把握する必要がある。

しかし,想定落札価格は実在しないものであり,入札に係る具体的な工事の種類・規模・場所・内容,入札当時の経済情勢及び各社の財務状況,当該工事以外の工事の数・請負金額,当該工事に係る入札への参加者数,地域性等の多種多様な要因が複雑に絡み合って形成されるものであるから,これを立証することは,性質上極めて困難であるというべきである。

したがって,本件においては,民訴法248条を適用して,本件組合が被った損害の額を認定するのが相当である。

(3)  損害額について

そこで,本件における相当な損害額を検討するに,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間(本件5社が談合を行っていた期間)に地方公共団体がした指名競争入札等の方法によるストーカ炉建設工事の受発注状況(別紙「ストーカ炉の建設工事一覧」参照。弁論の全趣旨),本件指名競争入札に係る談合の経緯及び態様,本件工事の種類・規模・場所・内容,本件工事の予定価格,本件工事に係る契約金額,随意契約であること,その他本件にあらわれた一切の事情を総合考慮すると,本件組合が被った損害額は,本件指名競争入札における被告日立造船の消費税込みの最低入札金額(26億2650万円)の5%に相当する1億3132万5000円から,契約にあたり最低入札金額より値引きした金額8240万円(消費税込)を控除した4892万5000円と認めるのが相当である。

そして,不法行為の日は,本件指名競争入札(不調)を経て本件組合と被告日立造船との間で本件契約を締結した後,契約代金全額の支払を終えた日(平成9年2月12日)と解すべきであるから,被告日立造船は,同組合に対し,不法行為に基づく損害賠償として,4892万5000円及びこれに対する平成9年2月12日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があると認められる。

3  争点3(違法な怠る事実の有無)について

(1)  地方自治体の裁量について

地方公共団体が債権を有する場合,地方自治法施行令171条の5に定めるような事由がないのに相当期間これを行使しないときは,不行使を正当とする特段の事情がない限り違法というべきである。

(2)  本件における違法性

前記のとおり,被告日立造船は,本件組合に対し,不法行為に基づく損害賠償として,4892万5000円及びこれに対する平成9年2月12日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり,同組合は同義務に対応する損害賠償請求権(以下「本件請求権」という。)を有すると認められるところ,被告組合管理者が,本訴における共同被告となって本件請求権の存在の認定に係る各証拠を入手して相当な期間を経過しているにもかかわらず,本件口頭弁論終結時までこれを行使していないことは,弁論の全趣旨から明らかである。

そして,違法か否かの判断は口頭弁論終結時と解すべきところ,同基準時において本件請求権を行使しないことを正当化する特段の事情は認められないのであり,したがって,被告組合管理者が本件請求権を行使していないことは違法と認められる。

(3)  小括

そうすると,被告組合管理者が本件請求権を行使していないことは違法と認められる結果,本訴における原告の損害賠償代位請求及び怠る事実の違法確認請求は,4892万5000円及びこれに対する平成9年2月12日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の限度で理由があるものと認められる。

4  結論

よって,原告の各被告に対する本件請求を,理由のある限度でそれぞれ認容し,その余はいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する(なお,仮執行宣言は不相当と認める。)。

(裁判長裁判官・山﨑まさよ,裁判官・外山勝浩,裁判官・西村真人)

別紙ストーカ炉の建設工事一覧(平成6年度から平成10年度)<省略>

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