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新潟地方裁判所 平成13年(わ)216号 判決 2002年7月30日

主文

被告人を懲役15年に処する。

未決勾留日数中250日をその刑に算入する。

押収してある洋出刃包丁1丁(平成14年押第3号の2)を没収する。

理由

(事案の概要)

本件は,被告人が,女性を強姦してストレスを解消しようと考え,平成11年2月から平成13年5月までの間,広島市内及び新潟市内の被害者宅に押し入り,果物ナイフ等を被害者に突き付けて脅迫した上で,被害者を強姦し,又は被害者の抵抗にあって強姦することができなかったという,住居侵入・強姦4件,住居侵入・強姦致傷2件,住居侵入(建造物侵入)・強姦未遂5件,銃砲刀剣類所持等取締法違反4件の事案である。

(法令の適用)

被告人の判示第1,第6,第9の(1)及び第11の(1)の各所為のうち,各住居侵入の点はいずれも刑法130条前段に,各強姦の点はいずれも同法177条前段に,判示第2,第4,第5,第7の(1)及び第8の(1)の各所為のうち,各住居侵入又は建造物侵入の点はいずれも同法130条前段に,各強姦未遂の点はいずれも同法179条,177条前段に,判示第3及び第10の各所為のうち,各住居侵入の点はいずれも同法130条前段に,各強姦致傷の点はいずれも同法181条(179条,177条前段)に,判示第7ないし第9及び第11の各(2)の所為はいずれも銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当するが,判示第1,第6,第9の(1)及び第11の(1)の各住居侵入と各強姦との間,判示第2,第4,第5,第7の(1)及び第8の(1)の各住居侵入又は建造物侵入と各強姦未遂との間並びに判示第3及び第10の各住居侵入と各強姦致傷との間には,それぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条によりいずれも1罪として重い判示第1,第6,第9の(1)及び第11の(1)についてはいずれも強姦罪,判示第2,第4,第5,第7の(1)及び第8の(1)についてはいずれも強姦未遂罪,判示第3及び第10についてはいずれも強姦致傷罪の各刑でそれぞれ処断し,判示第3及び第10の罪については各所定刑中いずれも有期懲役刑を,判示第7ないし第9及び第11の各(2)の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑が重くかつ犯情の重い判示第10の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役15年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中250日をその刑に算入し,押収してある洋出刃包丁1丁(平成14年押第3号の2)は,判示第7ないし第9及び第11の各(1)の強姦又は同未遂の各犯罪行為の用に供した物で,被告人以外の者に属さないから,刑法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収する。

(量刑の理由)

本件は,平成11年2月から平成13年5月までの約2年3か月という長期間にわたり,被告人が,被害者である合計11名の女性に対し,劣情を催しては,同女らを強いて姦淫しようと決意し,その後を付けて同女らの自宅を突き止め,あるいは,勤務先店舗裏で待ち伏せた上,その自宅や勤務先店舗に侵入し,刃物を示して脅迫するなどして被害者らを強姦し,または,強姦しようとし,あるいは,強姦しようとした際に傷害を負わせた住居・建造物侵入,あるいは,銃砲刀剣類所持等取締法違反を伴う強姦,強姦未遂及び強姦致傷の各事案である。

被告人は,当時交際していた女性との仲がうまくいかなかったこと及び当時の勤務先の上司との折り合いが悪かったことなどから精神的ストレスを募らせた挙げ句,見知らぬ女性を自分の思い通りにしたいとの思いを抱いた末に判示第1の犯行を敢行し,これが成功するや,その強姦の犯行に快感と満足感を覚えて,その後も,この快感と満足感が忘れられず次々と本件各犯行に及んだものであり,その動機は,専ら自己の性欲を満たすことにあり,余りにも自己中心的かつ身勝手であり,被害者らの心情を全く顧みることのないものであり,酌量の余地は全くない。被告人は,本件各犯行を敢行するに際して,いずれの場合も,自分の顔を隠し,自己が犯人であることが露見しないように覆面用タイツや女性を脅かして自分の言うことを聞かせるための果物ナイフや洋出刃包丁等の凶器を準備して携帯した上,普通乗用自動車に乗って町を徘徊して,好みのタイプの女性を見つけると,同女を強姦すべくその後を付け,その居宅を突き止めた上,その居宅に押し入り,あるいは,独りで閉店作業中の女性を発見すると,その女性を強姦すべく当該店舗の建物内に押し入り,所携の刃物を示して女性を脅迫し,その反抗を抑圧した上で,同女らを強姦し,または,強姦しようとしたものであり,その犯行には,用意周到さと計画性及び極めて強固な強姦意思が認められる上,しかも被害者の内2名に対しては,その刃物で切り傷を負わせ,あるいは,その手首に噛みつくなどして傷害も負わせており,その犯行態様は極めて危険かつ悪質である。

そして,各被害者は,本来最も安全であるべき自宅や勤務先店舗内で被告人の侵入を受け,被告人と2人きりとなった室内でいきなり刃物を突き付けられるなどした挙げ句,判示のとおりの被害に遭ったものであり,いずれの被害者にも落ち度が全く認められず,とりわけ,判示第6の犯行による被害者は,当時妊娠5か月の身重であったにもかかわらず,胎児の生命を守るため,本件強姦被害に甘んじることを余儀なくされ,判示第1,第9及び第11の各被害者は,いずれも被告人からその陰茎を口淫するなどの屈辱的な行為を強いられた挙げ句,強姦の被害を受け,判示第3及び第10の各被害者は,強姦こそ未遂に終わっているものの,11針も縫う右手掌部切創の傷害,あるいは,右手関節部人咬創等の傷害を負わされ,その余の各被害者は,強姦こそ未遂に終わってはいるものの,いずれも被告人から自宅居室内あるいは,勤務先店舗内に押し入られた挙げ句,鋭利な刃物を示されて脅迫され,強姦されかかったものであり,これらの被害者が被った恐怖感,屈辱感,精神的衝撃は余りにも大きく,本件で発生した結果は極めて重大であるというほかない。加えて,各被害者らは,本件各被害後,多額の費用を拠出して防犯設備の整った住居への引越を余儀なくされたり,あるいは,見知らぬ者に後を付けられてはいないかと余計な気を遣い,また,些細な物音に敏感に反応するようになり,その後の生活関係にも支障を来すなどその犯行後の影響も極めて深刻であって,現在なお被害者らの処罰感情が厳しいことは誠に当然である。

さらに,被告人は,約2年3か月という長期間にわたり判示の合計11件にも及ぶ各犯行を敢行したほか,多数の同種余罪があることが窺われ,この種事犯に対する常習性は明らかであり,その女性一般に対する偏った性向からすれば,再犯の虞も払拭できないこと,また,本件罪質及びその犯行態様に照らすと,一般予防の必要性も極めて高いと認められることなどを考慮すると,被告人の刑事責任は極めて重大である。

他方,被告人は,検挙された後,自ら捜査機関に対し,余罪を含めて本件各犯行を申告した上,本件の事実関係を素直に認めて反省の態度を示していること,被告人は,本件後に両親の資金援助を受けて,被害者らとの示談に努力し,本件における11名の被害者のうち,10名の被害者との間でそれぞれ示談が成立し,合計1155万円が支払われ慰謝措置が講じられていること,被告人にはこれまでに前科前歴がなく,今回初めて身柄を拘束され,公判請求された結果,事案の重大性を認識し,今後の更生を誓い,被告人の両親が,将来被告人が社会復帰した際の指導監督を誓約するなど被告人のための更生環境が整っていること,本件により,その勤務先会社を懲戒解雇された上,新聞で報道されるなどの厳しい社会的制裁を受けていることなど被告人のために斟酌すべき諸事情も認められるので,これらの諸情状を総合考慮の上,被告人を主文掲記の刑に処することにした。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 榊五十雄 裁判官 金子大作 裁判官 入江克明)

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