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新潟地方裁判所 平成13年(行ウ)1号 判決 2002年10月03日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告が平成12年12月11日付けで原告Aに対してした別紙1物件目録(1)記載の土地及び原告Bに対してした同目録(2)記載の土地に係る仮換地指定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第2事案の概要

本件は,被告が平成12年12月11日付けでした土地区画整理法(以下「法」という。)98条1項に基づく仮換地指定処分(以下「本件処分」という。)に対し,原告らが,本件処分の前提となる総代会の決議に瑕疵があること並びに仮換地の指定が照応の原則及び憲法29条にも違反していることを理由として,その取消しを求めたものである。

1  前提となる事実(以下の事実のうち,証拠を掲記したもの以外は当事者間に争いのない事実である。)

(1)  当事者

被告は,法14条に基づいて設立された土地区画整理組合であり,C土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行者である。

原告らは,本件事業の施行地区内に土地を所有する者であり,被告の組合員である(法25条1項参照)。本件処分時に,原告Aは別紙1物件目録(1)記載の各土地を,原告Bは,同目録(2)の各土地を所有していた。

被告の組合員数は100人を超えることから,被告には,総会に代わってその権限を行うための総代会(定数50名)が設置されている(《証拠略》)。原告Bは被告の総代であり,原告Aは総代ではないが,長男が総代である。

(2)  本件事業の概要(《証拠略》)

ア 施行地区

本件事業の施行地区は,P川の右岸,D駅の南西約600メートルに位置する面積約50.5ヘクタールの区域である。

イ 目的

本件事業の施行地区は,E線及び国道F号線等の広域交通軸と市街地を結ぶ結節拠点にあり,さらに,都市計画道路による東西市街地の新たな連絡強化により広域的・地域的な交通条件を備えた市街地の発展が期待されている。しかし,近年は徐々にスプロール化(都市の急激な発展で市街地が無計画に郊外に広がっていくこと)が進行しており,都市計画道路によって誘発される市街化と併せ,面的整備による適正な誘導が求められている。

そこで,本件事業は,骨格道路をはじめとする都市施設の先行的整備及びG川の河川改修を行い,居住環境の整備改善と計画的な新市街地の開発誘導を図り,周辺の自然環境と調和した豊かな街づくりを進めることを目的としている。

ウ 本件事業開始時点における施行地区内の土地の状況

本件事業の施行地区西端の農地及び施行地区中央に広がるH以外は,ほとんどが低層戸建ての一般住宅地として利用されており,施行地区内の人口は約1400人,人口密度は1ヘクタールあたり28人である。

主要な公共施設は,幅員6メートル程度の道路が数路線あるのみで,他は4メートル未満の農道となっている。また,施行地区の東側に河川改修が計画されている一級河川G川がある。

供給処理施設については,上水道,ガス,電気,電話を全戸に供給している。

エ 本件事業の施行地区内の都市計画

本件施行地区内の用途地域は,地区東側の一部を準工業地域,地区北東側及び都市計画道路沿線を第1種中高層住居専用地域,地区西側を第1種住居地域とする。

都市計画道路として,施行地区の中央を東西に走る骨格軸となる道路の他,3路線が都市計画道路として定められている。

(3)  本件処分に至る経緯(総代会の同意)

土地区画整理組合が仮換地指定処分を行うためには,あらかじめ,その指定について,総会又は総代会(総代会が設置されている場合)の同意を得なければならないものとされている(法98条3項)。そこで,被告は,この同意を得るために,平成12年11月13日,第8回総代会を開催した。

しかし,同日の総代会では決議に至らなかったため,被告は,同月19日に再度総代会を開催し(第9回総代会),本件処分と同内容の仮換地の指定に係る議案が可決された(以下,この決議を「本件決議」という。)。

(4)  本件処分

被告は,平成12年12月11日,別紙1物件目録(1)(2)記載の原告ら所有の各土地について仮換地の指定をし(本件処分),そのころ,原告らに通知した(《証拠略》)。

2  争点及び当事者の主張

原告らは,本件処分の前提となる本件決議に瑕疵があること,仮換地の指定が照応の原則に反し,ひいては原告らの財産権を侵害するものとして憲法29条に違反すると主張して,その取消しを求め,これに対し,被告は,本件決議に瑕疵はなく,仮換地の指定にも照応の原則違反及び憲法29条違反はないと主張する。

したがって,本件の争点は,

(1)  本件決議に瑕疵があるかどうか(争点1)

(2)  仮換地の指定に照応の原則違反,憲法29条違反があるかどうか(争点2)であり,争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

(1)  争点1(総代会の決議に瑕疵があるかどうか)について

(原告らの主張)

ア 平成12年11月13日(第8回),同月19日(第9回)に総代会が開催されたが,事前に目的が通知されず,第8回総代会において延期又は続行の決議がなされず,第9回総代会では仮換地の指定に係る議案の上程手続が行われないまま,本件決議が行われており,本件決議には瑕疵がある。

イ 被告は,総代会での決議に当たって,各総代に対し仮換地の指定の内容等について説明する義務を負っているが,被告は,仮換地指定予定の土地の関係図面や一筆調査明細書等の総代が決議において判断の材料とする資料を一切配付せず,上記説明義務に違反して決議を行ったものであり,本件決議には瑕疵がある。

ウ 被告が平成12年11月に第8回,第9回の総代会を開催し,本件決議を行った理由は,専ら,本件決議が行われることによって,新潟県から公共施設管理者負担金が受けられることにあった。同負担金は本件事業の施行地区内に存在する①国道I号線の道路敷地及び敷地予定地と,②1級河川であるG川の分水工事のための敷地を対象とするものであるが,被告が同負担金を受け取ることは地権者の利益とはならず,専ら被告の理事ら役員の利益になるものである。しかるに,被告はかかる負担金に関する事実を説明しないどころかこれを故意に隠して本件決議をしたものであって,本件決議には瑕疵がある。

(被告の主張)

ア 第8回総代会の議題は,①確認事項「公共施設管理者負担金の取扱いについての確認」,②第1号議案「仮換地の指定について」の2点であったが,第1号議案の提案に至ることができなかった。そこで,再度総代会を開催し(第9回総代会),上記第1号議案を総代会に上程した上で本件決議を行った。各総代会とも事前にその目的を通知していた。したがって,本件決議に瑕疵はない。

イ 仮換地指定案の縦覧・説明会について,法は何らの規定もおいていないが,被告は,その重要性にかんがみ,第8回総代会開催前である平成12年6月30日から,法88条に準じて仮換地指定案(氏名が明示されてある地区全体の仮換地図面)の発表とその説明会を開催し,また,説明会場において個人ごとに当該個人の仮換地指定案も配付し,説明に努めた。

原告らは,各総代が本件決議に当たって判断を行うための資料を配付しなかったと主張するが,原告らの主張する資料とは,専ら個人ごとの仮換地案の内容に係るものであると思われるところ,個人ごとの仮換地案は,換地規程並びに土地評価基準というほぼ全国的に統一された客観的な基準に基づき作成され,当該個人には説明済みである。当該個人が自己の仮換地案を不服とする場合には,新潟県知事に対し審査請求を行う途が開かれているので,総代会において個人ごとの仮換地案を審議する必要はない。

したがって,原告らの主張は失当であり,本件決議に瑕疵はない。

(2)  争点2(仮換地の指定に照応の原則違反,憲法29条違反があるかどうか)について

(原告らの主張)

ア 被告は,原告らの所有する土地が公簿上は農地とされているものの,現況宅地として課税評価され,現実にも宅地として利用されているという実態を無視して,他の農地等とほとんど異同のない減歩率を適用している。その主張の詳細は,別紙2の「従前地に対しての原告主張」欄記載のとおりである。

このような減歩率の適用の結果,本件処分によって原告らの財産権が侵害されたこととなり,本件処分は憲法29条に違反する。

イ また,別紙2の「仮換地に対する原告主張」欄記載のとおり,本件処分は,仮換地の形状等にも問題があり,前記アのとおり従前地の状況に関する判断を誤っていることと併せて,照応の原則に違反する。

ウ さらに,被告の理事は,仮換地について,原告らと比較して有利な土地を確保しているから,照応の原則違反がある(いわゆる横の照応原則違反)。

(被告の主張)

被告がした本件処分は,被告が定めた基準である換地規程と土地評価基準に基づいて適正になされた処分であり,照応の原則違反,憲法29条違反はない。被告の主張の詳細は,別紙2の各「原告主張に対する被告反論及び主張」欄記載のとおりである。

第3当裁判所の判断

1  争点1(総代会の決議に瑕疵があるかどうか)について

(1)  本件のように土地区画整理事業を土地区画整理組合が施行する場合で,当該組合に総代会が設置されている場合には,あらかじめ,総代会の同意を得てから,仮換地指定処分を行うこととされている(法98条3項)。

その趣旨は,仮換地指定処分の効果の重大性(仮換地指定処分がされると,その効力発生の日から換地処分の公告の日まで,従前地の使用収益権者は従前地の使用収益権を停止され,仮換地において使用収益権を行使することができるという効果が生ずる。法99条1項,3項)にかんがみ,仮換地指定処分の対象となる組合員が選挙により選出した総代によって構成される総代会の同意を得ることを要件とすることによって,組合員の権利保護を図るとともに,土地区画整理事業が適正に施行されることを担保することにあると解される。

このような総代会の同意の重要性にかんがみると,総代会の同意に瑕疵があった場合には,手続違背として,仮換地指定処分の取消事由になるものと解される。

(2)  そこで,以下総代会の同意に瑕疵があるかどうかを検討するが,まず,証拠(《証拠略》)及び弁論の全趣旨によると以下の事実が認められる。

ア 被告は,平成12年11月13日に第8回総代会を開催することとし,同年11月7日,各総代に対し,「第8回総代会の開催について(ご案内)」と題する書面を配付した。この書面には,日時を「平成12年11月13日(月)午後7時00分より」,会場を「白寿荘大広間(J市勤労青少年ホームとなり)」,議題を「①確認事項 公共施設管理者負担金の取り扱いについての確認」及び「②議案第1号 仮換地の指定について」と記載されていた。

また,上記書面とともに「議案の提案理由説明書」と題する書面が配付され,議案の提案理由の説明とともに,仮換地案(地区全体図面)は,総代会の当日提示するほか,同月10日以降,同月13日までの4日間,被告の事務所に掲示しているため確認ができる旨の記載がされていた。

イ 第8回総代会は,平成12年11月13日午後7時から開催され,総代総数50名のうちの47名(書面議決書を提出した16名を含む)が総代会に出席した。

第8回総代会では,公共施設管理者負担金についての説明及びこれに対する質疑応答等が行われ,これに相当程度の時間を費やしてしまったため,仮換地の指定の同意に係る決議の審議が行われないまま,午後10時20分に閉会した。

ウ 第8回総代会において,仮換地指定の同意に係る決議を行うことができなかったことから,被告は,平成12年11月19日に第9回総代会を開催することとし,同月14日,各総代に対し,「第9回総代会の開催について(ご案内)」と題する書面を配付した。この書面には,日時を「平成12年11月19日(日)午後1時30分より」,会場を「未定(追って連絡を差し上げます)」,議題を「①確認事項公共施設管理者負担金の取り扱いについての確認」及び「②議案第1号 仮換地の指定について」と記載されていた。

エ その後,各総代に対して,勤労青少年ホーム軽運動場を会場とする旨の連絡がなされ,第9回総代会が平成12年11月19日午後1時30分から開催され,総代総数50名のうち49名(書面議決書を提出した20名を含む)が総代会に出席した。

第9回総代会では,第8回総代会に引き続き公共施設管理者負担金についての説明及び質疑応答等が行われた。そして,「それでは第1号議案の仮換地の指定についての審議に移ります。執行部の説明を求めます。」との議長の発言によって,仮換地指定に関する審議が開始された。

仮換地指定に関する審議では,まず,K換地委員長から,仮換地全体図面は第6回総代会で決議した換地規程及び土地評価基準に基づいて作成されていること,個人の換地先については個々に説明を済ませているため,総代には,特に,①道路・公園水路等の公共施設の位置・形状が適切かどうか,②事業の大切な財源となる保留地の配置が適切かどうかの2点を検討してほしい旨の説明がされた。そして,上記説明の後に,10分程度図面の閲覧時間が設けられ,しかる後に仮換地指定に関する質疑応答等が行われた。質疑応答においては,原告らから仮換地指定処分の効力についての質問や道路法線についての意見,仮換地指定に関する反対意見が出された。

以上のような審議を経た上で,仮換地指定の同意に係る決議を挙手により行い,42名の賛成者(書面議決書により賛成した18名を含む)により,本件決議がされた。

オ なお,本件決議に先立つ,仮換地案の策定に係る経過及び仮換地案の組合員への説明経過は以下のとおりであった。

(ア) 仮換地案は土地評価基準と換地規程に基づいて策定されたが,土地評価基準及び換地規程は,平成12年4月27日に開催された第6回総代会において総代会の同意を得たものである。

この第6回総代会においては,被告のL理事から土地評価基準及び換地規程の内容について説明がされた後,質疑応答等のが審議が行われた。そして,出席総代41名(書面議決書を提出した13名を含む)の全員一致で総代会での同意が得られた。なお,土地評価基準に基づいて,実務的な評価の要領を解説した土地評価要領も策定されているが,これについては,総代会の同意の対象とはされなかった。

(イ) 被告は,Mに委託し,土地評価基準,土地評価要領及び換地規程に基づいて仮換地案を策定した。

(ウ) 被告が策定した仮換地案について,平成12年6月30日から同年7月4日までの間,個々の組合員に対する説明会を実施し,この説明会に欠席した組合員に対しては,同月8日から同月10日までの間に再び説明会を行った。さらに,この再説明会にも欠席した組合員に対しては,戸別訪問を実施し,仮換地案の説明を行った。

上記説明会での説明内容は,①Mの職員が,「従前の土地図と仮換地図の重ね図」(《証拠略》と同様のもの。ただし,《証拠略》の縮尺は1000分の1であるが,説明会で示したものは500分の1の図面である。)と「地区全体仮換地図面」(《証拠略》と同様のもの)を提示し,当該組合員の従前地・仮換地及び仮換地の隣接地の状況(段差の状況を含む)を説明し,②また,従前地及び仮換地の位置や地積等を明らかにする仮換地指定調書と仮換地指定図(《証拠略》と同様のもの)をその内容を説明した上で交付し,③さらに,減歩率の算出根拠を換地設計計算書を提示して説明した。

(エ) 原告Aは,前記(ウ)の説明会にいずれも出席しなかったため,被告の役員及びMの職員が仮換地案についての説明を行うために,平成12年7月18日に原告A方を訪問したが,原告Aから文句を言われ,説明資料を原告A宅に置いてくることしかできなかった。その後,被告の理事がMの職員を同行して数回原告Aを訪問したが,原告Aは説明を受け入れなかった。

原告Bも前記(ウ)の説明会にいずれも出席しなかったため,被告の役員等が個別に説明を行おうとしたが,原告Bはこれを拒否し,平成12年11月10日になり,ようやく説明を受けた。

(3)  総代会の決議手続について,法は,以下のような規定をおいている。まず,総代会の招集手続について,理事は,必要と認める場合においては,いつでも総代会を招集することができ(法36条4項,32条2項),総会を招集するには,少なくとも会議を開く日の5日前までに,会議の日時,場所及び目的である事項を組合員に通知しなければならないとしている(法36条4項,32条8項)。また,決議手続については,総代会の会議は,総代の半数以上が出席しなければ開くことができず,その議事は,出席組合員の過半数で決し,可否同数の場合においては,議長の決するところによるものとしている(法36条4項,34条1項)。なお,総代は,書面をもって議決権を行使することができ,書面により議決権を行使する者は法34条1項(法36条4項において準用する場合を含む)の規定の適用については,出席者とみなすとしている(法38条3項,4項)。

これを本件についてみるに,前記(2)ウ,エのとおり,仮換地指定の同意についての審議及び本件決議を行った第9回総代会については,開催日の5日前である平成12年11月14日に日時等を記載し,議題について「仮換地の指定について」と記載した総代会案内通知を各総代に配付し,総代会当日は,総代50名のほぼ全員に当たる49名(書面議決書を提出した20名を含む)の出席により開催され,出席した総代の過半数に当たる42名の賛成により,仮換地指定に対する同意が決議されたことが認められるのであるから,仮換地指定に係る総代会の同意は,法の定める手続に従って適正にされたものであるというべきである。

なお,第9回総代会の案内通知には,会場について「未定(追って連絡を差し上げます)」と記載されていたことは前記のとおりであるが,法36条4項,32条8項が総代会の開催通知に場所を記載すべきとしたのは,総代会の開催場所を明らかにすることにより総代が総代会への出席を可能にするためであると解されるところ,総代会の開催場所が未定の場合には上記のような通知も許されるというべきであり,総代会にほぼ全員の総代が出席していることに照らしても,このような記載がされていることをもって本件決議に瑕疵があるということはできない。

原告らは,議案の上程手続が行われないままに本件決議が行われたものであり,本件決議には瑕疵があると主張する。しかし,前記(2)ウ,エのとおり,第9回総代会の通知には,議題として「議案第1号 仮換地の指定について」と記載されており,総代会において,「それでは第1号議案の仮換地の指定についての審議に移ります。」との議長の発言によって仮換地指定に関する審議が開始され,原告らも,前記(2)エのとおり,実際に質問をし,反対意見を述べているのであるから,議案の上程手続がされないままに本件決議が行われたものということはできず,原告らの主張を採用することはできない。

したがって,本件決議は,法の定める手続に従って適正にされたものというべきである。

(4)  ところで,法は,総代会における仮換地指定の同意の決議のために,仮換地に関する資料を総代や組合員に提示すべきか否か,また,どの程度の提示が必要かについて何ら規定していない。法が,仮換地指定処分の効果の重大性にかんがみ,組合員の権利保護を図るとともに土地区画整理事業が適正に施行されることを担保するために,仮換地指定に先立って総代会の同意を得なければならないとしたことに照らすと,総代会においてその程度の判断をなし得る程度の関係資料が提示されている必要があるというべきである。

そして,総代会は組合員の数が100人を超える場合に,総会に代わって,総会の権限を行使するために設置されるものであって,専門的な知見等を土地区画整理事業に提供することを目的とするわけではない。このような総代会の性質にかんがみると,総代会において個々の仮換地の当否を逐一判断することは現実的ではなく,土地区画整理事業の全体的な公共施設の位置,保留地の配置が適正であるかどうか,また,一定の基準に基づいて適正・公平に土地評価及び仮換地の指定がされているかどうかを確認することによって,組合員の権利保護及び土地区画整理事業の施行の適正を確保することができると考えられる。そうすると,総代に対しては,公共施設や保留地の位置を示す資料及び一定の基準に基づいて適正・公平に土地評価及び仮換地の指定がされたことを示す資料が提示されれば足りるものと解すべきである。

本件では,前記(2)オのとおり,仮換地案は,第6回総代会において審議・決議された土地評価基準及び換地規程に基づいて策定されたものであり,本件決議の行われた第9回総代会でも仮換地案が土地評価基準及び換地規程に基づいて策定されたことが説明されている。そして,前記(2)ア,エのとおり,具体的な仮換地全体図面が第8回の総代会に先立って4日間被告の事務所に掲示され,また,第9回総代会当日にも同図面が掲示され,かつ,本件決議の前に,同図面を閲覧するための時間が設けられている。

したがって,本件決議に先立って,公共施設や保留地の位置を示す仮換地全体図面が提示され,また,土地評価基準及び換地規定に基づいて仮換地案が策定されたことの資料が提示されており,被告は総代会の決議に必要な資料を提示しているというべきである。

原告らは,被告は何ら資料を提示しないと主張するが,上記のとおり,総代会の決議に必要な資料は提示されていると認められるし,さらに,本件では,前記(2)オ(ウ)のとおり,総代を含む個々の組合員に対して,仮換地案に対する個別の説明を行っており,また,原告らに対しても前記(2)オ(エ)のとおり,相応の説明義務を尽くしているのであるから,被告が,仮換地指定についての資料を提示していないなどということができないのは明らかであって,原告らの主張を採用することはできない。

(5)  原告らは,本件決議を行った理由は,専ら,公共施設管理者負担金が受けられることにあったと主張し,被告が同負担金を受け取ることは地権者の利益とはならず,専ら被告の理事ら役員の利益になるところ,被告は係る事実を説明しないどころか故意に隠して本件決議をしたのであって本件決議には瑕疵がある旨主張する。しかし,証拠(《証拠略》)によると,被告の資金計画上,公共施設管理者負担金は,収入に計上され,被告の組合員全員の利益となるものであって,特定の役員の利益になるものではないことが明らかであり,原告らの上記主張はその前提を欠く上,前記(2)イ,エのとおり,総代会においても公共施設管理者負担金の説明及び質疑応答等がされているのであるから,原告らの主張は,採用することができない。

(6)  以上のとおり,本件決議には瑕疵はない。

2  争点2(仮換地の指定に照応の原則違反,憲法29条違反があるかどうか)について

(1)  法98条2項は,仮換地を指定する場合に,法に定める換地計画の決定の基準を考慮しなければならないとし,法89条1項は,換地計画において換地を定める場合においては,換地及び従前地の位置,地積,土質,水利,利用状況,環境等が照応するように定めなければならないと規定している。

被告は,土地評価基準,土地評価要領及び換地規程に従って,仮換地の指定を行っているところ,証拠(《証拠略》)及び弁論の全趣旨によると,被告の土地評価基準,土地評価要領及び換地規程はいずれも社団法人日本土地区画整理協会発行の「土地区画整理事業定型化」と題する書籍におおむね準拠していること,この「土地区画整理事業定型化」は,土地区画整理事業の適正な運営の在り方を提示し,必要な書式等の標準案を示すものであり,主に昭和43年に建設省都市局区画整理課において委員会を設けて研究された「土地区画整理事業定型化案」を基礎としていること,「土地区画整理事業定型化」は,平成6年2月に改訂版が出されており,改訂に当たっては,実務経験者による検討委員会が改訂作業を行ったことが認められる。

被告の土地評価基準,土地評価要領及び換地規程がこのような「土地区画整理事業定型化」に準拠していること,また,土地評価基準,土地評価要領及び換地規程に特段不合理な点は見あたらないことに照らすと,これらに従ってなされた仮換地の指定は基本的には合理的なものであり,法98条2項,89条1項の定める照応の原則にも沿うものであるというべきである。

なお,被告の土地評価基準及び土地評価要領のうち,画地の状況について,①埋立てがされている場合には埋立修正係数1.07を乗ずるとされている点,及び②供給施設が敷設されている場合には宅地修正係数1.03を乗ずるとされている点は「土地区画整理事業定型化」と異なる点である(《証拠略》)。しかし,《証拠略》によると,埋立修正係数及び宅地修正係数は,いずれも本件事業の施行地区における平均的な埋立費用・供給施設敷設費用から割り出された係数であることが認められ,いずれも画地の評価額の算出として合理的なものであるというべきである。また,《証拠略》によると,前記協会から平成8年3月に公表された「土地区画整理事業における土地評価基準見直しに関する基礎調査」では,宅地利用について画地間で乖離がある場合については造成に要する費用等を比較検討して土地利用現況による修正係数を乗ずるとの考え方が示されており,埋立てや供給施設の敷設を行って土地の価値が高められている場合には,当該土地の評価に当たって相応の考慮をすることが適正な評価につながるのであるから,被告が土地評価基準及び土地評価要領の埋立修正係数及び宅地修正係数を適用するとしたことは合理的なものというべきである。

(2)  そこで,以下,原告らの土地が評価基準及び土地評価要領に従って適正に評価され,また,換地規程に従って適正に仮換地の指定が行われているかどうかを検討する(以下の〔〕内の数字は,別紙2の「判断」欄との対応関係を示す。)。

ア 従前地の評価について

(ア) 従前地の現況についての被告の調査について

証拠(《証拠略》)及び弁論の全趣旨によると,土地評価基準及び土地評価要領に従って従前地を評価するに際し,被告及び被告から委託を受けて仮換地の設計を行ったコンサルタント会社であるMは,従前地の現況を把握するために以下の調査を行ったことが認められる。

a 平成9年の事業計画策定のときに,現地踏査を行い,上下水道施設・ガス施設の布設状況について調査を行った。この調査の結果,ガスや水道の本管等の敷設状況を記載した現況図が作成された。

b 被告が設立認可を受けたころの平成10年7月から8月の時点で,現地踏査をし,従前地が埋立修正係数・宅地修正係数の適用を受ける土地であるかどうかについての調査を行った。この時には,従前地の図面を持参し,①宅地修正係数・埋立修正係数を適用する土地,②埋立修正係数のみを適用する土地,③傾斜地となっている土地,④道路として利用されている個人の土地,⑤上記いずれにも該当しない土地について図面上で色を分けてチェックし,埋立修正係数・宅地修正係数の適用を受ける土地を明らかにした。

c 被告の総代会において,土地評価基準及び換地規程についての決議が得られた後の平成12年5月の時点で,再び現地踏査を行い,前記bと同様の調査を行い,前記b同様,従前地の図面に土地の現況を色分けしてチェックした。

d 埋立修正係数の適用は,当該土地に,①現に建物が存立している土地,②過去において建物が存在していたことが明らかな土地,③現に建物が存立していなくとも,宅地開発された経過がある土地,④周辺の土地と対比して,明らかに埋立整備がなされていることが確認でき,かつ駐車場用地や資材置場等として利用されていることから,自動車等の乗り入れが認められる土地のいずれかに該当する場合に適用するものとされた。

e 上記の調査は,従前地の評価及び仮換地の指定の作業と並行して行われ,従前地の評価及び仮換地の指定は,上記の調査の結果に基づいて行われた。

なお,埋立修正係数が本件事業の施行地区における平均的な埋立費用から割り出された係数であり,上記dの①ないし④はいずれも費用を投下して埋立整備をした場合(すなわち,当該土地の価値の増加のために費用を投下したと認められる場合)を類型化したものであることにかんがみると,被告が,上記dに該当する場合にのみ埋立修正係数を適用するものとしたことには合理性が認められる。

(イ) 原告Aの別紙1物件目録(1)記載の番号16の土地(以下「(1)16」と表示し,ほかの土地も同様に表示する。),(1)17ないし19,26ないし28について(《証拠略》の整理前各筆評価図の図面番号24,36参照。以下,図面番号を掲げるときには,《証拠略》の整理前各筆評価図の図面番号を指す。)〔①〕

標記の各土地について,原告Aは,ガス・水道・排水の各施設を備え,現状においても宅地なみの評価で売却可能な土地であるにもかかわらず,被告は,実態を無視する換地設計を行い農地なみの減歩率を定めたものであると主張する。

証拠(《証拠略》)によると,標記の各土地はいずれも土地評価基準及び土地評価要領に従って評価されていること,いずれも宅地修正係数の適用を受けていないことが認められる。

そこで,宅地修正係数の基礎となる供給施設の有無につき検討するに,証拠(《証拠略》)によると,標記の各土地には,ガスの供給管及び水道の給水管が引き込まれているのであれば保存されているはずの工事届出書等の資料がJ市ガス水道局に保存されておらず,また,標記の各土地の前面道路にはガス水道の本管自体の敷設がないことが認められる。また,標記の各土地の現況を撮影した《証拠略》からもこれらの供給施設が敷設されていることをうかがわせる事情は認められない。

したがって,宅地修正係数の適用の基礎となる供給施設の存在は認められず,被告のした標記各土地の従前地の評価は適正なものというべきである。

また,標記の各土地はいずれも埋立修正係数の適用も受けていないが,証拠(《証拠略》)によると,標記の各土地は,いずれも前記(ア)d程度の埋立てがされていることは認められず,埋立修正係数を適用しなかったことも妥当ということができる。

(ウ) 原告Aの(1)20ないし25,29ないし50について(図面番号36参照)〔②〕

標記の各土地について,原告Aは,宅地として整備されている土地であり,ガス・水道・排水の各施設も設置されているにもかかわらず,被告は,このような実態を無視して換地設計を行い農地なみの減歩率を定めたものであると主張する。

証拠(《証拠略》)によると,標記の各土地はいずれも土地評価基準及び土地評価要領に従って評価されていること,私道として利用されている土地を除いていずれも宅地としての埋立てが確認できることから,埋立修正係数の適用を受けているが,宅地修正係数の適用は受けていないことが認められる。

そこで,宅地修正係数の基礎となる供給施設の有無につき検討するに,証拠(《証拠略》)及び弁論の全趣旨によると,前記(ア)bの現地踏査の結果,標記の各土地には宅地としての埋立ては確認できたものの,供給施設の存在は確認できなかったが,かつて旧国鉄の建物が存在したため供給施設の存在を確認する必要があるとされたこと,被告においてJ市ガス水道局の資料を閲覧して調査したところ,供給施設が存在することを確認することができなかったこと,さらに,被告からJ市ガス水道局長に確認しても供給施設が存在することを確認することができなかったことが認められる。また,標記の各土地の現況を撮影した《証拠略》からもこれらの供給施設が敷設されていることをうかがわせる事情は認められない。

このように,相当な調査を尽くしても供給施設が敷設されていることが確認できなかったのであるから,被告が,標記の各土地の評価に際して標記の各土地には供給施設が敷設されていないとしたことは相当であるというべきである。

(エ) 原告Aの(1)51,52について(図面番号41参照)〔③〕

標記の各土地について,原告Aは,高さ約3メートルの土砂を埋め立て,いつでも宅地として売却可能な状態を維持してきた実情を無視していると主張する。

証拠(《証拠略》)によると,標記の各土地はいずれも土地評価基準及び土地評価要領に従って評価されていること,いずれも埋立修正係数及び宅地修正係数の適用を受けていないことが認められる。

そこで,埋立修正係数の基礎となる宅地として利用可能な程度の埋立ての有無及び宅地修正係数の基礎となる供給施設の有無につき検討するに,証拠(《証拠略》)によると,前記(ア)の現地踏査の結果,標記の各土地については宅地として利用可能な程度の埋立ては行われておらず,また,供給設備の存在も確認できなかったこと,標記の各土地については,ガスの供給管及び水道の給水管が引き込まれているのであれば保存されているはずの工事届出書等の資料がJ市ガス水道局に保存されておらず,そもそも標記の各土地の前面道路にはガス水道の本管自体の敷設がないことが認められる。また,標記の各土地の現況を撮影した《証拠略》によると,標記の各土地に前記(ア)dの程度の埋立てがされていることも認められない。

これに対し,原告Aは,標記の各土地にはいつでもガス・水道の供給施設を設置することができると主張するが,前記(1)のとおり,宅地修正係数は,本件事業の平均的な供給施設敷設費用から割り出された係数なのであるから,供給施設をいつでも設置できるからといって,現実に設置されていない土地に宅地修正係数を適用すべきでないのは明らかである。

したがって,被告のした標記各土地の従前地の評価は適正なものというべきである。

(オ) 原告Bの(2)3ないし12,21ないし23,33,40,44ないし47について

標記の各土地について,原告Bは,埋立整備が完了しており,いずれも宅地への転用が可能な土地であるにもかかわらず埋立地としての埋立修正係数の適用(7パーセント加算)が行われた形跡はうかがえないと主張する。

a (2)4ないし12,21ないし23について(図面番号14参照)〔④〕

証拠(《証拠略》)によると,標記の各土地については,(2)15ないし20,24ないし31と一体利用されていることから,換地規程6条(3)に従って合併評価を行ったこと,前記(ア)の現地踏査の結果,合併評価を行った上記土地のうち,南西部分に位置する,おおむね(2)6,7,15ないし20,24,26,28,29の各土地の全部又は一部に相当する部分は,宅地として利用可能な埋立てがされているとして埋立修正係数の適用がされていること,その余の部分については,そのような埋立てがされていないとして,同係数の適用はされていないことが認められる。また,標記の各土地の現況を撮影した《証拠略》によると,埋立てがされていないとされた各土地について,前記(ア)dの程度の埋立てがされているとは認められない。

したがって,標記の各土地については,土地の現況を土地評価基準等に照らして評価したものであって,被告のした標記各土地の従前地の評価は適正なものというべきである。また,宅地として利用可能な埋立てがされている土地については,埋立修正係数の適用がされているのであるから,埋立修正係数の適用がされていないとする原告らの主張を採用することはできない。

b (2)40,44ないし47について(図面番号20参照)〔⑤〕

証拠(《証拠略》)によると,標記の各土地については,土地評価基準等に従った評価がされていること,前記(ア)の現地踏査の結果,宅地として利用可能な埋立てがされていないとして,同係数の適用はされていないことが認められる。また,標記の各土地の現況を撮影した《証拠略》によると,埋立てがされていないとされた各土地について,前記(ア)dの程度の埋立てがされていることも認められない(なお,《証拠略》によると,(2)45付近に建造物が存在することが認められるが,周辺の農地と比較しても宅地として利用可能な埋立てがされているとは認め難い。)。

したがって,標記の各土地については,土地の現況を土地評価基準等に照らして評価したものであって,被告のした標記各土地の従前地の評価は適正なものというべきである。

c (2)3,33について(図面番号10,19参照)〔⑥〕

証拠(《証拠略》)によると,標記の各土地については,土地評価基準等に従った評価がされていること,いずれも宅地として利用可能な埋立てがされているとして埋立修正係数が適用されていることが認められる。

したがって,埋立修正係数の適用がされていないとする原告らの主張は前提を欠き,失当である。

(カ) 原告Bの(2)30について(図面番号14参照)〔⑦〕

原告Bは,仮換地の指定は原則として実測面積によるべきものであるところ,標記の土地についてはN所有の隣地との境界が未確認のままであり,公簿面積を基準に本件処分を行っているから,従前の土地と仮換地が照応していないと主張する。

「地積の決定の方法に関する事項」は,定款に記載すべき事項であるとされているところ(法15条12号,土地区画整理法施行令1条1項2号),証拠(《証拠略》)によると,被告の定款において従前地の地積の決定について,原則として,組合設立認可公告のあった日(基準日)現在の土地登記簿に記載された地積によるものとし,ただし,例外として,①宅地の所有者に異議があるときは実測図(境界について隣地所有者の承認したもの。)を添えて地積の訂正を申請し,理事の査定を受けることができること,②理事が登記簿に記載されている地積が明らかに事実に相違すると認める宅地及び特に地積について実測する必要があると認める宅地について,実測して地積を更正することができることが定められている。

ところで,標記の土地の面積については,証拠(《証拠略》)及び弁論の全趣旨によると,原告Bが土地登記簿に記載された地積に異議があるとして実測図を添えて地積の更正を申請したこと,その実測図には隣地所有者であるNの承認がなかったことから,平成12年9月27日,原告B及びNが立ち会って境界の確認を行ったが,境界についての両者の意見が食い違ったため,境界を確認するに至らなかったこと,被告では,境界を確認できない場合,両土地の実測地積の合計を登記地積の合計で除した案分率を算出し,両土地の登記地積に案分率を乗ずる方法で地積を算出することとしていたが,原告BとNの境界については,案分地積によった場合には原告Bの地積はNの主張する境界線に従った実測地積に比較して5平方メートル減少するところ,Nは,自己の主張する境界線に従った実測地積以上の土地は要らないと主張したため,結局,Nの主張する境界線に従った実測地積をもって従前地の地積としたことが認められる。

従前地の境界線に争いがある場合,上記のような案分率を用いた地積の算出方法も不合理ではなく,さらに,上記のような案分率を用いた地積の算出方法により算出した地積が自己の主張する境界線に従った実測地積よりも広くなる土地所有者が,あえて上記のような案分率を用いて算出した地積ではなく,自己の主張する境界線に従った実測地積を採用するよう主張した場合,その実測地積によることも不合理とはいえない。

したがって,このようにして算出された面積に基づく標記の土地についての評価は適正なものというべきである。

なお,原告Bは,仮換地の指定は原則として実測面積によるべきものであるところ,標記の土地については,公簿面積を基準に本件処分を行っているから,従前の土地と仮換地が照応していないと主張するが,前提を誤ったものであり,採用することはできない。

(キ) その他の原告らの従前地に係る主張((2)15ないし20,24ないし26,28,32,34ないし39について)〔⑧〕

原告らは,原告ら所有の土地が登記簿上は農地等とされているものの,固定資産税の評価においては現況宅地として評価されている土地についても他の農地等とほとんど異同のない減歩率を定めるのは不当であると主張する。

しかし,証拠(《証拠略》)によると,土地評価基準は路線価式評価方法を使用しており,換地規程,土地評価要領にも,従前地が宅地であるか農地であるかによって評価方法や減歩率に差異を設けるような規定は存在せず,まして,登記簿上の地目によって評価方法や減歩率に差異を設けるような規定は存在しないこと,宅地として利用可能な埋立てやガス・水道等の供給施設が存在することによって土地の価値が増加している場合には,埋立修正係数や宅地修正係数による調整が図られていること,これらの係数が適用されるか否かは,実地踏査の上現況に従って決定されていること,原告らの所有する土地は,いずれも,実地踏査で現況を確認した上,現況に照らして換地規程,土地評価基準及び土地評価要領に従った評価がなされていることが認められる。

このように,従前地の評価は,登記簿上の地目や固定資産税の評価如何にかかわらず,土地の現況を調査した上で土地評価基準等に従って行われているのであるから,原告らの主張はその主張の前提を欠き,失当である。

イ 仮換地の形状等について

(ア) 原告Aの仮換地の形状が長方形ではないとの主張(仮換地の街区番号9-1,9-2,23,28,29)について〔⑨〕

原告Aは,標記の仮換地について,いずれも形状が長方形ではないから,換地規程に違反し,土地利用の点でも著しい不利益を被ることになるから照応の原則に違反すると主張する。

換地規定10条1項は,「整理後の画地の形状は,長方形を標準として定める。」と規定する(《証拠略》)ところ,土地区画整理事業においては,宅地の利用の増進を図るため,宅地としての利用価値がもっとも高い長方形(正方形を含む。)の画地が整備されることが望ましいことはいうまでもない。

もっとも,都市計画道路が存在することや,土地区画整理事業の施行区域と周辺の土地の境界が必ずしも整形であるとは限らないことにかんがみると,すべての土地を長方形に整備することを要求することは現実的ではない。そこで,このような場合には,従前地と仮換地を比較し,画地の状況等が照応していれば照応の原則違反はないというべきである。

以下,原告らの主張する仮換地について検討する。

a 街区番号9-1,9-2について

証拠(《証拠略》)によると,標記街区において原告Aに指定された仮換地は本件事業の施行区域の端にあること,仮換地の指定は,従前地と同じ場所に仮換地が指定されるいわゆる現地換地がされていること,仮換地は,その一部に三角地が生ずるなど整形地とはいえないが,従前地もその一部に三角地が生ずるなど不整形な土地であったことが認められる。

このように,標記街区は,本件事業の施行区域の端に位置し,長方形の仮換地を確保することが困難であったのであるから,長方形の土地を仮換地として指定しなかったことも換地規定に反するものではなく,また,原告Aの従前地が不整形な土地であったことに照らしても,照応の原則違反があるということはできない。

b 街区番号23,28,29について

証拠(《証拠略》)及び弁論の全趣旨によると,標記街区については,都市計画道路が存在するために,仮換地指定後もすべての画地を長方形に整備することは不可能であること(23街区及び28街区は都市計画道路O線に面し,同道路は,同街区付近で湾曲しているため,同街区は,この影響を受けている。また,従前存在した道路が同街区付近に存在していることも影響を及ぼしている。なお,29街区は直接上記都市計画道路に面しているわけではないが,28街区を間に挟んで上記都市計画道路に接するため,間接的に同道路の影響を受けている。),仮換地の指定はいわゆる現地換地で行われており,原位置に換地する以上,必ずしも長方形の土地の仮換地を受けられないこと,原告Aの従前地は不整形な土地であったこと,原告Aに長方形の仮換地を指定するならば,従前地として整形に近い土地を所有していた地権者に不整形な土地を仮換地指定しなければならないことが認められる。

そうすると,長方形の土地を仮換地として指定しなかったことが換地規定に反するものではなく,また,照応の原則違反があるということもできないことは明らかである。

c その他,原告Aは,仮換地が都市計画道路O線によって分断されるなどと主張し,一体であった従前地が仮換地では分断され,複数の仮換地が指定されていることをもって,本件処分が照応の原則に違反すると主張する。

しかし,都市計画道路は本件事業とは別に行われる都市計画により定められ,本件事業も都市計画による制約を受けるのであるから,隣接して一体として所有されていた従前地が,従前地内に都市計画道路が存在することにより,複数の仮換地に分断されることは,仮換地指定処分の取消理由とはならないものというべきである。

そして,証拠(《証拠略》)によると,原告Aが隣接して一体として所有してきた従前地((1)1外13筆の土地)は,原位置に仮換地されているが,もともと従前地を分断するように予定されていた都市計画道路があったために複数の仮換地が指定されたことが認められ,上記のとおり,本件処分の取消事由とはならないものというべきである。

したがって,原告Aの上記主張は採用することができない。

(イ) 原告Aの仮換地の形状がほぼ長方形ではあるが,仮換地の奥行きが間口に比して極端に狭いとの主張(仮換地の街区番号8,20,38,39)について〔⑩〕

原告Aは,標記の仮換地について,いずれも形状は,ほぼ長方形であるが,仮換地の奥行きが間口に比して極端に狭く従前地と比べてその価値は極端に低いから,照応の原則に違反すると主張する。

a 画地を宅地として整備する場合には,画地ごとに道路に接することが必要となる。このことは,建築基準法上,都市計画区域において建築物を建築する場合(なお,土地区画整理事業とは,都市計画区域内の土地について行われる事業である。法2条1項参照),原則として建築物の敷地は同法42条に規定されている幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接しなければならないとされていること(同法43条)からも明らかである。

そうすると,一般的に宅地として利用されている地域において,相当の面積のある宅地を通常の利用に適する面積に分割して分譲を行うことを想定した場合,画地の奥行きが長大であれば,道路から遠い部分に対する道路を整備する必要が生ずるため,その価値は道路整備を要する分だけ減少することとなる。これに対し,間口が広く奥行きが適当な長さの土地であれば,接道との関係では,適宜の面積にして分譲することは容易である。

したがって,土地の間口が広い場合であっても,間口に応じて奥行きが広い方が当該土地の価値も高くなるというわけではなく,その奥行きが適正な範囲にある場合に,当該土地の面積当たりの価値が最も高くなるというべきである。

b そこで,適正な奥行きについて検討するに,《証拠略》によると,「土地区画整理事業定型化」の土地区画整理事業土地評価基準案には,画地の評価は,画地の奥行きに応じて奥行逓減割合による修正を行うこと,そこで利用される奥行逓減割合は,住居地においては,奥行き15メートルが100パーセント(逓減なし)であり,奥行きが14メートル以下の場合及び16メートル以上の場合には,その奥行きに応じて99.7パーセントから80.0パーセントの奥行逓減割合による修正が行われることが認められ,前記(1)に記載した「土地区画整理事業定型化」の性質に照らすと,上記に提示されている奥行きに関する考え方は合理的なものというべきである。また,被告の土地評価基準(《証拠略》)は,奥行逓減割合を,奥行きが15メートルから25メートルのものについては100パーセントとしていることが認められ,土地評価基準は,被告の総代会で可決されているものであること(《証拠略》)にかんがみると,本件事業の施行区域内において,画地の奥行きを15メートルないし25メートルとすることが土地の利用に当たってもっとも適切と認められる。

証拠(《証拠略》)によると,原告Aの標記の仮換地の奥行きは,それぞれ仮換地の街区番号8について18メートル,同20について22メートル,同38について19メートル,同39について15メートルであって,いずれも上記の適切な奥行きの範囲内にあるものである。そして,原告Aの主張するように奥行きが短いということもない。

c したがって,標記の仮換地は,その価値が極端に低く従前地と照応しないなどということはできないから,原告Aの主張は採用することができない。

(ウ) 原告Bの(2)4,7,8,11,12,27を従前地,街区番号2仮地番6を仮換地とする仮換地指定について(従前地につき図面番号14番参照)〔⑪〕

原告Aは,標記の仮換地について,①いずれもその地積が「小」であるとは認められない土地であるにもかかわらず,換地規程6条を無視して,1筆ごとの換地計算を行わず,何ら合理的な理由もなく標記の従前地を合筆,合併している,②形状が細長く,奥行きも一般宅地として最適とはいえない土地であることは明らかであり,土地利用の点でも著しく不利益であると主張する。

a 上記①の主張について

被告の換地規程6条1項は,「換地は,従前の宅地1筆について1個を定める。」としているが,同条3項は,「既登記の所有権以外の権利等が存しない数筆の宅地が隣接し,それらの利用状況が一筆の宅地と同様であると認められる宅地については,それらの宅地を合せて1個の換地を定めることができる。」としている(《証拠略》)。

証拠(《証拠略》)及び弁論の全趣旨によると,標記の従前地は,豚舎の敷地及び農地として,(2)5,6,9,10,15ないし26,28ないし31の各土地と一体的に利用されていること,被告は,換地規程6条3項を適用して標記の従前地について1個の仮換地を指定したことが認められる。

標記の従前地のみを取り出してみると,必ずしも互いに隣接するものではないが,換地規程6条3項を適用して,上記のとおり一体として利用されていた多数の土地につき数個の仮換地を定めたものであるから,このことを理由に違法とまでいうことはできない。

b 上記②の主張について

前記(イ)に説示したとおり,本件事業の施行区域内において,画地の奥行きを15メートルないし25メートルとすることが土地の利用に当たってもっとも適切と認められ,証拠(《証拠略》)及び弁論の全趣旨によると,標記の仮換地の奥行きは,ほぼ同程度でその平均が15.4メートルであることが認められ,奥行きが短いということはできない。

したがって,原告Aの主張は採用することができない。

ウ 飛び換地について

法89条1項は,換地に関する基準として,まず最初に位置の照応を規定しており,従前地の場所に仮換地を指定することがもっとも望ましい仮換地指定であるといえる。被告の換地規程8条1項が,「整理後の換地の位置は,整理前の画地の相隣関係及び土地利用を考慮して原位置の近傍に定めるものとする。」と規定している(《証拠略》)のは,この理を明らかにしたものである。

しかし,法2条に規定されるとおり,土地区画整理事業は公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るために行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業であり,事業に当たってはこのような公共用地が確保されること,法96条1項に規定されるとおり,土地区画整理事業の施行の費用に充てる等の目的のために保留地を設定することが認められていることなどから,全ての土地について従前地と同一の場所に仮換地指定することは不可能であり,従前地の原位置から離れた場所に仮換地指定することも,原位置に仮換地指定をすることができない合理的な理由があり,従前地と仮換地の位置,地積,環境等に照らして,照応していると認められる場合には,許されるというべきである。被告の換地規程8条2項が,「この事業の施行により新たに設置される公共施設の影響その他特別の事情がある場合で,原位置の近傍に定めることが困難であるものについては,整理前の画地の位置に照応する他の位置に定めることができるものとする。」と規定している(《証拠略》)のは,この理を明らかにしているものであって,被告の換地規程8条1項,2項は法に従ったものであると認めることができる。

そこで,以下,被告が原告らに対してした仮換地指定が許されるかどうかについて検討する。

(ア) 原告Aの(1)51,52を従前地,街区番号9-2仮地番3を仮換地とする仮換地指定について〔⑫〕

標記の仮換地指定について,原告Aは,原位置への換地が優に可能な土地であるにもかかわらず何ら合理的な理由もなく100メートル以上も離れた場所に換地指定がされているから,照応の原則に反すると主張する。

証拠(《証拠略》)及び弁論の全趣旨によると,標記の従前地は,本件事業の施行区域の端にあり,畑として利用されているが,幅員1メートル程度の国有地(いわゆる赤道)に接するのみで,公道には接していないこと,上記の赤道は本件事業の施行後には廃止される計画であり,原位置に換地すると道路に接しない土地となることが認められる。また,この仮換地は,従前地から西方に100メートル程度離れた場所に,原告Aに対する他の仮換地と隣接して指定されていること,従前地及び仮換地は共に土地評価基準等に従った評価がされていることが認められる。

土地区画整理事業は宅地の利用の増進を図るために行われる事業であるところ(法2条1項参照),道路に接しない宅地は,その使用収益に制約を受けることにかんがみれば,土地区画整理事業の施行後に道路に接しない宅地ができることは法の趣旨に反するため,特段の事情がない限り相当でないと考えるべきである。

そうすると,標記の仮換地指定については,このような道路に接しない仮換地の指定を避けるためにいわゆる飛び換地が行われたものであって,合理的な理由があるものと認められる。

そして,従前地及び仮換地は共に土地評価基準等に従って適正に評価されており,その他環境等の条件が異なるといった事情も見あたらないのであるから,標記の仮換地が照応の原則に反するものであるということはできない。

(イ) 原告Bの(2)40,41,43を従前地,街区番号45仮地番6を仮換地とする仮換地指定及び原告Bの(2)42を従前地,街区番号45仮地番5A及び街区番号48仮地番2Bを仮換地とする仮換地指定について〔⑬〕

標記の仮換地指定について,原告Bは,何らの合理的な理由もなく現地換地の原則を無視して飛び換地を強行したばかりかその減歩率を44.5パーセントないし46.1パーセントもの高率としているから照応の原則に違反すると主張する。

証拠(《証拠略》)及び弁論の全趣旨によると,標記の従前地は,いずれも農地として利用されており,従前地の周辺もまた農地であること,標記の従前地及びその周辺には,保留地が設定され,当該保留地は本件事業の施行区域の近郊に計画されているP川右岸改修事業により家屋移転が必要となる宅地の代替地として予定されているものであること,(2)40を従前地とする仮換地は従前地の北東方向に隣接する土地に仮換地指定されていること,その余については,従前地から西方に100メートル程度離れた場所に仮換地指定されていること,仮換地は,従前地が農地として利用されていた土地と隣接して指定されていること,従前地及び仮換地は,共に土地評価基準等に従った評価がされていることが認められる。

土地区画整理事業においては,その施行の費用に充てる等の目的のために保留地を設定することが認められているところ(法96条1項),このような保留地の意義にかんがみると,合理性が認められる限り,保留地を設定するために飛び換地をすることも許容されるというべきである。そして,保留地の設定は土地区画整理組合の合理的な裁量に委ねられているというべきであるから,保留地の設定によって飛び換地を余儀なくされることに合理的な理由がなく,従前地と仮換地の位置,地積,環境等に照らして,照応していると認められないなど,土地区画整理組合に裁量の逸脱・濫用が認められる場合にそのような飛び換地が違法になるものと解される。

これを本件についてみると,従前地周辺は,農地であって,大規模な保留地を設定したとしても家屋の移転などの問題が生じにくく,従前地周辺に保留地を設定することが不合理である事情は存在しない。そして,従前地周辺の保留地は,P川右岸改修事業による家屋移転の代替地となることが予定され,宅地化が進むことが想定されるから,原告Bのように農地として利用されている土地をそのような保留地の中に仮換地指定した場合には,その環境において照応しないおそれがあり,他方,実際の仮換地は,従前地が農地として利用されていた土地に隣接して指定され,従前地及び仮換地はいずれも土地評価基準等に従って適正に評価されているのであるから,従前地と仮換地は照応しているものというべきである。

したがって,被告には,標記の仮換地についての裁量の逸脱・濫用は認められず,標記の仮換地が違法であるということはできない。

エ いわゆる横の照応原則違反の主張について

原告らは,被告の理事長であるQ,副理事長であるN及びKが,自己に有利な仮換地を確保していると主張するが,証拠(《証拠略》)上そのような事実は認められず,原告らは具体的に上記理事長らの仮換地が有利であるとする理由を説明しないので,原告らの上記主張は採用することができない。

(3)  以上のとおり,原告らの従前地及び仮換地は,土地評価基準及び土地評価要領に従って適正に評価されており,また,換地規程に従って仮換地指定が行われているものであって,原告らに対する本件処分が照応の原則に違反するとは認められない。

したがって,本件処分は原告らの財産権を侵害するものでもなく,憲法29条に反するものでもない。

たしかに,本件処分においては結果的に原告らに対する減歩率が高くなっていることが認められる。しかし,これは,原告らの従前地は,必ずしも整形地ではなく,奥行きが長大であって奥行逓減がされるなど,土地の評価が低く抑えられる一方,原告らに指定された仮換地は,おおむね地型も良く,二方路線等に接するなどの点で利用価値の増進が著しいことによるものと認められ,減歩率の高さだけをみて本件処分が照応の原則に違反しているなどということはできない。

(4)  したがって,本件処分に照応の原則違反,憲法29条違反は認められない。

第4結論

以上のとおり,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 犬飼眞二 裁判官 大野和明 裁判官 加藤聡)

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