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新潟地方裁判所 平成14年(む)158号 決定 2002年10月07日

主文

本件請求を却下する。

理由

一  請求の趣旨及びその理由の要旨

被告人は、保釈許可決定による釈放後、東京入国管理局入国警備官により収容令書の執行を受け、現在制限住居に居住していないところ、これは刑事訴訟法九六条一項五号の場合に該当するので、保釈の取り消しを請求する。

二  裁判所の判断

一件記録によれば、①当庁が、被告人に対し、平成一四年一〇月四日、新潟市太平《番地省略》A野二〇六に居住することを条件に保釈を許可したこと、②被告人は、同決定に基づき、同日釈放されたこと、③釈放直後、被告人は、不法残留容疑事実により、東京入国管理局入国警備官から収容令書の執行を受け、身柄を拘束されたこと、④被告人は、東京都北区西が丘《番地省略》所在の東京入国管理局第二庁舎(東京入国管理局収容場)に収容されたこと、⑤弁護人は、同日、当庁に対し、被告人が収容令書の執行を受け東京入国管理局に身柄を拘束され、前記収容場に収容された旨通知したことの各事実が認められる。

ところで、制限住居違反につき、条件違反が保釈の取消事由となるには、それが被告人の責に帰すべきものでなければならないと解されるところ、官憲による身柄拘束を受けた場合には、それにより制限住居を離れることになったとしても、それは官憲による身柄拘束の結果によるもので被告人の責に帰すべきものではないから、それをもって直ちに刑事訴訟法九六条一項五号の場合に該当するものとは言えない。もっとも、保釈の条件として住居を制限した趣旨は、常に被告人の所在を裁判所に明らかにしてその出頭を確保するためのものであるから、制限住居として指定された場所に居住できない事情が生じた場合には、遅滞なくその旨を裁判所に連絡するために、可能な範囲において適宜な方法で手続をしなければならない義務も付随的に負っていると解すべきである。本件では、被告人は収容令書の執行により身柄の拘束を受けて制限住居を離れたものであり、また、弁護人から収容令書の執行を受け身柄の拘束をされたこと及び被告人の収容先についての通知がされているのであって、被告人の責に帰すべき事由により制限住居を離れることになったものではなく、かつ、前記付随的義務も履行していることが認められるので、刑事訴訟法九六条一項五号の場合に該当しない。

また、一件記録を精査しても、その他保釈を取り消すべき事由は認められない。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 入江克明)

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