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新潟地方裁判所 平成14年(わ)112号 判決 2003年2月25日

主文

被告人両名をそれぞれ無期懲役に処する。

被告人両名に対し,未決勾留日数中各230日をそれぞれその刑に算入する。

理由

(犯行に至る経緯等)

被告人Aは,昭和47年3月ころ,新潟市立中学校を卒業した後,職業訓練校を修了し,新潟市内の鉄工所に勤めたが,半年ほどで辞め,その後しばらくは家業の農業を手伝い,同市内の石材店の従業員等として稼働した後,新潟県岩船郡内でトラックの運転手,パチンコ店店員等として稼働していたが,昭和56年ころ,パチンコ店で顔見知りとなった暴力団C組の幹部から誘われて,暴力団組員として活動するようになった。そして,被告人Aは,平成7年10月ころ,当時の妻の交際相手に対する傷害罪等の事件を惹起して有罪判決を受けて服役し,平成12年8月ころ,刑務所を出所して同組に戻ったが,同組構成員等が代替わりしたりして居心地が悪いため,その後,兄貴分と縁があった同会D組幹部Eに身の振り方を相談した結果,同組組長の若衆となり,さらに,平成13年3月ころ,上記Aと養子縁組をしてA姓に改姓し,しばらくは同人方に身を寄せていたが,その間,暴力団関係者から多額の借金をし,その返済の目途が立たないでいた。そのうち,被告人Aは,この暴力団組員らからの借金の督促等から逃れて潜伏する場所を探すうち,かつての遊び仲間であったFに連絡して相談したところ,同人から遊び仲間であったGが独り暮らしをしていることなどを話された上,同人方に身を隠してはどうかと言われたため,平成13年5月ころ,Gに対し,その旨依頼すると,同人も了承したため,そのころから新潟市a所在のG方に身を寄せることにした。このようにして,被告人Aは,G方での居候生活を始めたが,その後も無為徒食の生活を続け,その生活全般にわたりGの世話になり,Fとも親しく交際するようになったが,この間にも小遣い銭にも事欠く状態で,Gをはじめとする複数の知人らから借金を重ねていた。

被告人Bは,昭和41年3月ころ,同県北蒲原郡内の町立中学校を卒業し,一時高校進学の予備校に通学した後,同年夏ころ,両親に無断で家出同然に上京し,暴力団組員となって活動し,その後実家に戻って一時近くの鉄工所に工員として稼働したり,スナックを経営していたが,昭和58年5月ころ,覚せい剤取締法違反の罪で有罪判決を受けて服役し,昭和59年に出所した後,その後も覚せい剤の密売に手を染めるなどして2回にわたり同罪により有罪判決を受けて服役した。そして,被告人Bは,平成5年1月に出所した後は,同県長岡市内に住んで債権取立等により生計を立てていたが,平成8年か9年ころ,債権取立を通じて知り合いになった知人から肩書住居地のアパートを貸してもらい,以後,同室に居住し,債権取立等をして生活をしていたものの,平成12年ころまではそれなりの収入があったが,次第に収入が減り,消費者金融会社や知人らから借金を繰り返して急場を凌ぐという生活を送る一方,服役仲間のFと交際するうち,同人の紹介で,被告人A及びGと知り合い,しばしば一緒に飲酒をするなどの交遊を重ねていた。

そうこうするうち,被告人Bは,平成13年末に新潟県でパチンコ店が強盗に襲われ,その犯人が現金400万円を強取することに成功した事件報道があったことをヒントに,平成14年1月上旬ころ,Fに対し,パチンコ店を襲って大金を稼ごうと持ちかけ,金銭に困っていたFもこの話に乗り,その際,Fが,被告人Aをその犯行に誘ったことがきっかけで,当時金銭に困っていた被告人Aも加わり,被告人A及びFの3人でパチンコ店を狙った強盗をすることになった。その後,被告人両名は,Fと共に同県北蒲原郡b町内や同県村上市内のパチンコ店を数件下見して回るうち,パチンコ店の警戒が厳重であることなどが判明したため,パチンコ店を狙うことを断念した。その後,被告人Bが,同月17日ころ,同県三島郡c町内のH方に強盗に入ることを提案したことがきっかけとなり,ナイフ,ガムテープ,顔面を隠すためのストッキングやマスク,軍手,枝打用の鉈などを予め準備して,数回にわたり,上記H方に赴き,同人方を下見するなどした後,判示第1の犯行を敢行するなどしたが,強盗の犯行自体は失敗に終わり,現金を入手することはできず,相変わらず金銭に困っていた。そこで,G方に居候していた被告人Aは,FからGが大金を持っていると聞き及び,かねてからFらに対し,Gを殺害してその現金等を強取することを持ち掛けていたが,上記H方での犯行が失敗に終わった以降,そのころ,Gを殺害して現金等を強取しようと考え,同月22日と翌23日の2日にわたり,被告人Bの運転する普通乗用自動車に同乗して,殺害したGの死体を埋めるのに適した海岸を探した後,同月23日ころ,被告人Bに対し,同月25日夜,G方に来るよう申し向けた。そして,被告人Aは,同月25日午後10時前ころ,G方に自動車でやってきた被告人Bと,その後,同車内で謀議をし,その成り行き次第ではGを殺害するかもしれないことを認識しながらも,あえて,同人方に強盗に入ろうと共謀を遂げ,同日午後11時ころ,G方に入り,判示第2の1の強盗の犯行を敢行し,さらにGを殺害した後,引き続き判示第2の2の犯行を敢行した上,その翌日,強取したキャッシュカード等を使用してG名義の銀行預金から現金を引き出して窃取するという判示第2の3の犯行を敢行し,さらに,強取したGの銀行預金通帳やキャッシュカード等を使用し,判示第4の1ないし4の各犯行を敢行した。一方,被告人Bは,判示第2の犯行後,FからK方に盗みに入ることを持ち掛けられ,Fと共謀を遂げ,判示第3の犯行を敢行した。

(罪となるべき事実)

第1被告人両名は,Fと共謀の上,平成14年1月21日午前1時30分ころ,強盗の目的で,新潟県三島郡c町d所在のH方敷地内にブロック塀を乗り越えて侵入した,

第2被告人両名は,共謀の上,

1  G(当時48歳)から金品を強取すべく,その犯行の成り行き次第では同人を殺害するかもしれないことを認識しながら,あえて,ガムテープを持った上,同月25日午後11時ころから同月26日午前2時30分過ぎころまでの間,新潟市a所在の同人方寝室において,就寝中の同人に対し,被告人Bが両腕でGの顔面及び頭部を押さえ付け,被告人AがGの両足首を所携のガムテープで緊縛しようとしたものの,同人が激しく抵抗したため,同人に対し,被告人Bが「おとなしくしろ,声を出すな。」などと申し向け,さらにこもごも「金を出せ。」などと申し向け,被告人Bが隙を見て逃げ出そうとしたGの上半身を両手で押さえつけ,被告人AがG方の台所にあった刃体の長さが約23・6センチメートルの柳刃包丁(平成14年押第21号の2)を持ち出し,同包丁の峰部分でGの右脛部分を1回殴打し,次いで,同包丁で同人が座らされた付近の畳を数回突き刺しながら,「俺が包丁持つと,どうなるかわかるだろう。」などと申し向けて脅迫し,上記ガムテープでその両足首を緊縛し,被告人BがガムテープでGの両手首を緊縛し,被告人AがGの口にガムテープを貼るなどの暴行を加え,同人の反抗を抑圧した上,同人所有又は管理にかかる株式会社I銀行発行の預金通帳1通,キャッシュカード1枚及び現金約2万8000円を強取し,さらにキャッシュカードの暗証番号も聞き出した後,こもごも同人に対し,「こんなもんじゃないはずだ。」などと申し向けて,同人からなおも現金等を強取しようとしたものの,同人が「それしかない。」旨返答したところから,このまま解放すれば同人が警察に通報することは必至であると思い,ここに至り,上記犯行が露見することを防ぐためにGを殺害しようと決意し,被告人Aが上記ガムテープをGの鼻口部に貼り付け,被告人BがGの両膝の上に跨り,被告人Aが同室内にあった革製ベルト(同号の3)をGの背後からその頸部に巻き付けて2回にわたり強く絞め付け,次いで,被告人両名において,それぞれGの頸部に巻き付けられた上記ベルトの両端を互いに引っ張ってさらに強く絞め付け,よって,そのころ,同所において,同人を窒息により死亡させて殺害した,

2  Gの死体を土中に埋めて上記犯跡を隠蔽しようと企て,同人の死体を同人方の上記寝室において毛布に包んだ上,被告人Bの運転する車両後部座席に積み込み,同人方から運び出し,同人方から同市e所在の海岸の砂防林まで運搬し,同日午前3時ころから同日午前4時ころまでの間,同所において,深さ約70センチメートルの穴を掘り,その穴に同人の死体を入れて埋没させ,もって,死体を遺棄した,

3  同日午前9時38分ころ,同市f所在の株式会社I銀行g支店において,被告人Aが上記キャッシュカードを使用し,同所に設置された現金自動預払機から同支店長J管理にかかる現金80万円を窃取した,

第3被告人Bは,上記Fと共謀の上,同年2月2日午前10時30分ころ,金品窃取の目的で,同市h所在のK方1階玄関脇東側の無施錠のガラス戸から屋内に侵入し,同所において,同人所有の現金約18万円を窃取した,

第4被告人Aは,

1  同月4日午前8時58分ころ,新潟県西蒲原郡i町j所在の株式会社I銀行i支店において,上記第2の1の犯行で強取したG名義のキャッシュカードを使用し,同所に設置された現金自動預払機から同支店長L管理にかかる現金5万円を窃取した,

2  同日午後2時39分ころ,上記支店において,上記キャッシュカードを使用し,上記現金自動預払機から上記L管理にかかる現金2万8000円を窃取した,

3  Gになりすまして,消費者金融会社従業員を欺いてキャッシングカードを詐取しようと企て,同日午後6時45分ころ,上記第2の1記載のG方から,大阪府東大阪市k所在のM株式会社lセンターに電話をかけ,同社従業員Nに対し,自己の氏名をGと名乗り,「住所は新潟市a,勤務先は季節料理O」などと虚偽の事実を申し向けて,同人をして,同センター備え付けの端末機にその旨入力させ,これを同機と回線で結ばれている東京都豊島区m所在の同社東京nセンター内の端末機に送信させ,さらに翌同月5日午前9時39分ころ,新潟市o所在の同社無人受付コーナーpにおいて,行使の目的を持って,ほしいままに借入限度額50万円と記載されたカードローン契約書のお名前欄に「G」と冒書し,もって,偽造した他人の署名を使用してG作成名義のカードローン契約書1通(同号の1)を偽造した上,これを真正に成立したもののように装って,G名義の国民健康保険被保険者証及び上記第2の1の犯行で強取したG名義のキャッシュカードと共に,同所に設置されていた無人契約機に読み取らせ,これを同機と回線で結ばれている上記東京nセンター内の端末機画面に表示させて行使し,同センター係員Pらをして,Gによるカードローン契約の申し込みと誤信させ,よって,同日午前10時ころ,上記無人受付コーナーpにおいて,上記Pから,同契約機を介し,同社発行にかかるキャッシングカードであるqカード1枚の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた,

4  同日午前10時1分ころ,上記無人受付コーナーpにおいて,上記qカードを使用し,同所に設置された現金自動預払機から,同社新潟駅前支店長Q管理にかかる現金50万円を窃取したものである。

(証拠の標目)

(事実認定の補足説明)

1  検察官は,被告人両名は,Gからその所持金等を強取した上,同人を殺害する旨事前に共謀を遂げて,本件強盗殺人の犯行(以下,「本件犯行」という。)に及んだものであり,本件は計画的な強盗殺人の犯行である旨主張し,一方,被告人Bの弁護人は,被告人Bが,被告人Aと共謀の上,Gに対し,その両手首をガムテープで緊縛するなどして現金等を強取した上,同人を殺害した事実関係自体は争わないものの,被告人Bは,当初からGを殺害するつもりはなく,同人を殺害する直前に被告人AとGを殺害する旨の共謀を遂げて同人を殺害した旨主張するので,以下,その点について検討する。

2  ところで,この点に関し,被告人両名は,いずれも公判段階において,Gに対する強盗を認めていた捜査段階における供述を翻し,本件犯行当夜,被告人Bが運転してきた自動車の車内で話し合った末,Gから金を借りることにして同人方に赴いた旨供述するが,午後11時ころという深夜に,借金を申し込む相手であるGの都合などを考えず,突然訪問し,また,被告人Bも,そのような被告人Aの借金の申込に同行したというのであって,そのような行動自体常軌を逸している。とりわけ,被告人両名は,Gから借金を拒絶された場合の対応等についてはいずれも語るところがなく,本件犯行の際には,被告人両名は,目を覚ましたGをいきなり押さえ付け,その後も暴れて抵抗する同人を押さえ付け,被告人Aにおいては柳刃包丁の峰部分で同人の右脛を強打しており,借金を申し込む者の態度としては不合理極まりない。また,被告人両名は,当初からGを殺害する意思を有していたことを否定し,同人を殺害したのは,同人から現金と預金通帳を強取し,同人がもはや警察に通報することは必至の状態に至ったため,その場の成り行きで決意したに過ぎない旨供述するが,被告人Aについてはその居候先で,また,被告人Bについては顔見知りの知人であるG方において強盗に及べば,その犯行後,同人が警察に通報し,その結果,被告人両名に捜査の手が及ぶということは当初から十分予測することが可能な当然の事態というべきであり,その犯行に着手後に至って初めてGが警察に通報することを危惧し,その時点で初めてGの殺害を決意したということ自体極めて不自然であり,上記の被告人両名の公判供述は到底信用できない。

3  かえって,関係証拠によれば,被告人Aは,G方に居候を始めた平成13年5,6月ころから,FからGが大金を持っているとの話を聞き付け,Fに対し,Gを殺害し,その大金を強奪することなどを話し,被告人BやFをその犯行に誘っていること,その後,被告人Aは,同年12月から翌平成14年1月中旬ころにかけて,共犯者の被告人BやFに対し,Gを殺害してその現金等を奪う言動をしており,とりわけ,計画した強盗の犯行が次々と失敗し,判示第1の犯行を敢行したが,その犯行にも失敗し大金を入手する当てがなくなると,Gを殺害することを被告人BやFに執拗に持ち掛けており,そのころになると,被告人AのGに対する強盗殺人の計画は相当程度具体性を帯びてきていること,そして,被告人両名は,同月22日と23日の両日にわたり,被告人Bの運転する自動車に乗車し,新潟市から新潟県西蒲原郡r町にかけての海岸線沿いにかけて,Gを殺害した後,その死体を埋めるのに適した場所を探すなどした後,被告人Aは,同月23日,被告人Bに対し,同月24日にG方に来るよう申し向けたが,同被告人がその日は交際している女性と会う予定があり都合が悪いというので,その翌々日の同月25日夜に同所に来るよう申し向けると,同被告人もこれを了承したこと,その後,被告人Aは,本件犯行の前日である同月24日夜,G方を訪れたFに対しても,Gを殺害して現金等を強奪する犯行に加わるように持ち掛けたが,Fがこれを拒絶すると,今度は同人に対しその翌日である同月25日にはG方には来ないようになどと告げていること,さらに,被告人Aは,本件犯行当日,G方にやってきた被告人Bと共に付近のバス停留所へ赴き,同所に駐車させた被告人Bの車両内で同被告人に対し,「今日は絶対にGを殺す。追い込みがかかっていてどうにもならない。Gを殺して埋めてもGには身内もなく,親戚もないので,少なくとも半年位は周りの者が騒がない。Gを殺して死体を埋めるので,死体の後始末を手伝ってくれ。」などと言ってGを殺害する旨執拗に述べ,Gを殺害することを渋る被告人Bを強盗の犯行に加わることを承諾させて,その後,G方に戻る途中の道路端に設置された民家の作業小屋内から丸形スコップを発見して持ち出し,その後の犯行に同スコップを使用していること,とりわけ,被告人Aは,被告人BをGに対する犯行に加担させるにあたり,Gを殺害した後の同人の不在を取り繕う方策などについて,被告人Bに対し,相当程度具体的に話していることが認められ,これらの事実に照らすと,被告人Aは,Gから所持金等を強取するに際し,同人を殺害することをも念頭に置いていたものと認められる。そして,このことは,被告人Aは,G方に居候してはいるものの,同人に気付かれることなくその所持するという大金を入手することは困難であり,あくまでも同人の口から現金や預金通帳のありか,あるいは,キャッシュカードの暗証番号などを聞き出す必要があるのであって,そうなると被告人らの犯行であることが同人の知るところとなり,同人が警察に通報して犯行が発覚することは容易に予想し得る事態の展開というべきであって,これを回避するためには,同人を殺害し,その死体を埋めるなどの罪証隠滅を行う以外に方法が考えられず,このことは,上記のように被告人Aが本件犯行当日,民家の作業小屋から丸形スコップを持ち出していることなどによっても裏付けられるというべきである。

一方,被告人Bも,被告人Aと共にGの死体を埋めて遺棄する場所の下見に参加し,その際,砂防林内へ死体を遺棄することを被告人Aに持ち掛けらると積極的に賛同していること,その上で本件犯行当日にG方に来るようにとの被告人Aの誘いに応じてG方に来て,被告人Aから上記のようにGに対する強盗の犯行計画を告げられた上,最終的に強盗について共謀を遂げた結果,上記のとおり,終始被告人Aと行動を共にした挙げ句,被告人Bとも顔見知りのGを対象として本件犯行に及んでいることに照らすと,被告人Bにおいても,その当初から,その犯行の成り行き次第ではGを殺害することもやむなしとの意思で同人方に赴いたものと認めるのが相当である。

4(1)  この点に関して,被告人Aは,捜査段階で,Gに対して暴行などを加えた強盗の犯行の成り行き次第では,同人を死なせることもあり得るから,それに備えて,本件犯行前の1月23日にGが死んだ場合にその死体を埋める場所を被告人Bと探して下見した,本件犯行当日,被告人BだけがG方に車でやってきたので,同車に乗って出掛け,近くのバス停留所付近で車を停め,その車内において,被告人BとG方で強盗に及ぶことの相談をし,その帰途,民家の作業小屋で死体を埋めるのに使用する「ケンスコ」というスコップを窃取したことなどを供述している。上記の被告人Aの供述は,本件犯行でFの果たした役割等を強調し,虚偽の供述をするなどその信用性を慎重に判断すべきものではあるが,被告人Aは,捜査段階の当初,被告人Aが単独でGを殺害したなどと供述し,被告人Bが本件犯行に関与したこと自体を隠匿していたこと,その後,被告人Bと共に本件犯行に及んだ旨供述するに至ったものであり,本件捜査の初期段階では被告人Bをかばう供述をしていたことが認められ,そのような被告人Aが被告人Bに対してことさら不利益になる供述をするとは到底解し難いことなどに照らすと,G方に強盗目的で入り,現金や預金通帳を強取したという供述は不自然なところがなく,本件犯行に至る経緯等の客観的な事実にも符合していて信用できるというべきである。

(2)  また,被告人Aは,捜査公判を通じて,Gを最終的に絞殺する直前まで殺意はなかった,Gを殺害したのは,同人が警察に通報することが必至の状況に至り,本件が被告人らの犯行であることが発覚することを恐れる余り,その場の成り行きで殺害することになったなどと供述しているが,その供述は上記3の説示したことからは不自然であり,到底信用できない。

(3)  一方,被告人Bは,捜査段階において,本件犯行前の1月22日と23日の両日にわたり,海岸沿いの砂防林内を被告人Aと共に見て回り,その際,被告人AからGを殺した後,埋めるのに適した場所であるなどと言われた際に賛同したこと,本件犯行当日,自車内で被告人Aと話合いをした際,被告人Aから,「手荒なこと」になるかも知れないなどと言われ,それへの協力を依頼され,これを承諾し,結局のところ強盗の共謀を遂げた上,Gの寝ている寝室に入る前の段階で,被告人AからGの身体を押さえるように言われ,これを承諾したことなどを供述しており,これらの供述は,Gに対し,暴行脅迫に及んだ時点では全くGに対して殺意はなかったとする点については不自然で信用できないものの,強盗のため被告人Aに協力しGに対し暴行脅迫を加えていることなどは十分に信用できるものと考えられる。

5  これに対し,被告人Bの弁護人は,被告人Bの検察官(乙42,43)及び司法警察員(乙33)に対する各供述調書には任意性がない旨主張しているが,被告人Bの公判供述によれば,その供述調書作成の経過,取調状況に特段の問題点はないこと,上記各供述調書は,適宜問答形式も取り入れつつ作成されており,取調官が被告人Aなどの供述との食い違いを基にして事実関係を追及,あるいは,確認した際にも,被告人Bの言い分が記載されていること,また,本件の捜査段階から弁護人が選任され,取調官に対する供述内容等をその弁護人に告げてその助言を受けていることなどに照らすと,上記の各供述調書における被告人Bの供述には,その任意性及び信用性とも優に認めることができる。

また,同弁護人は,Gの死体を埋める際に使用したスコップの同一性に疑問があることなどを主張するが,被告人Aの上記スコップを窃取した状況等についての供述は,その窃取場所,スコップの形状等についても具体的であり,しかも,実際にそのスコップを持ち出したと供述する場所において同様の形状のスコップがなくなっていることが裏付けられており,その信用性が高いと認められ,これに反する被告人Bの供述は到底信用することはできない。

6  以上検討したところによると,検察官は,上記のように被告人両名にはG方に赴く前に,同人から金品を強取の上,同人を殺害することについての確定的殺意があり,その旨事前の共謀があった旨主張するが,被告人両名の供述等を検討しても,その証明は十分ではないと言わざるを得ない。

結局,本件では,被告人両名は,本件犯行当日,G方に強盗に入る時点で,既に強盗の犯行の成り行き次第ではGを殺害するかもしれないことを認識しながら,あえて本件犯行に及んだ,すなわち強盗殺人の殺人の点については未必の殺意で強盗の犯行に及んだこと,そして,被告人両名は,本件犯行現場において,Gに対し,長時間にわたり様々な暴行脅迫を加え,現金や預金通帳などを出すように申し向けたものの,それでも同人が既に強取した以上の現金等のありか等を明らかにしないため,一旦居間に移り,今後のGへの対応等を協議した後,犯行現場に戻り,Gの顔面にさらにガムテープを貼り付けるなどした上で,ベルトで同人の頸部を絞めて殺害していることなどに照らすと,この協議の時点でGに対する確定的殺意を持つに至ったものと認定するのが相当である。

(法令の適用)

1  被告人Aについて

被告人Aの判示第1の所為は刑法60条,130条前段に,判示第2の1の所為は同法60条,240条後段に,判示第2の2の所為は同法60条,190条に,判示第2の3の所為は同法60条,235条に,判示第4の1,2及び4の各所為はいずれも同法235条に,判示第4の3の所為のうち,有印私文書偽造の点は同法159条1項に,偽造有印私文書行使の点は同法161条1項(159条1項)に,詐欺の点は同法246条1項にそれぞれ該当するが,判示第4の3の有印私文書偽造とその行使と詐欺との間には順次手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として最も重い詐欺罪の刑(ただし,短期は偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる。)で処断し,各所定刑中判示第1の罪については懲役刑を,判示第2の1の罪については無期懲役刑をそれぞれ選択し,被告人には前記の前科があるので同法56条1項,57条により判示第1,第2の2及び3並びに判示第4の1ないし5の各罪の刑についてそれぞれ再犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第2の1の罪について無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑を科さないで被告人Aを無期懲役に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中230日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して,被告人Aに負担させないこととする。

2  被告人Bについて

被告人Bの判示第1の所為は刑法60条,130条前段に,判示第2の1の所為は同法60条,240条後段に,判示第2の2の所為は同法60条,190条に,判示第2の3の所為は同法60条,235条に,判示第3の所為のうち,住居侵入の点は同法60条,130条前段に,窃盗の点は同法60条,235条にそれぞれ該当するが,判示第3の住居侵入と窃盗の間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗罪の刑で処断し,各所定刑中判示第1の罪については懲役刑を,判示第2の1の罪については無期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第2の1の罪について無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑を科さないで被告人Bを無期懲役に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中230日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して,被告人Bに負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,借金の返済資金や遊興費等に困った被告人両名が,(1)共犯者と共に強盗の犯行に及ぶ目的で他人の住居に侵入した住居侵入(判示第1の犯行)の,(2)上記のような強盗の犯行に失敗し,かねて大金を持っていると聞き及んだ被告人Aの居候先の知人(以下,「本件被害者」という。)から,共謀の上,現金等を強取しようと企て,その際,同人を殺害するかもしれないことを認識しながら,あえて,同人に暴行脅迫を加えて現金等を強取した挙げ句,同人の首を絞めて殺害し,その死体を海岸近くの砂防林に埋めたという強盗殺人及び死体遺棄(判示第2の1及び2の各犯行)の,(3)上記犯行で強取したキャッシュカードを使用して銀行の現金自動預払機から現金を窃取したという窃盗(判示第2の3の犯行)の,(4)被告人Bが上記共犯者と共に他人の居宅に侵入して現金を窃取した住居侵入を伴う窃盗(判示第3の犯行)の,(5)被告人Aが,①上記強取に係るキャッシュカードを使用して現金自動預払機から現金を窃取した窃盗(判示第4の1の犯行)の,②本件被害者になりすまし,消費貸借契約書を偽造して消費者金融会社に融資を申し込み,同社発行のキャッシングカードを詐取し,引き続き同カードを使用し,融資金名下に同社から現金を窃取したという有印私文書偽造・同行使,詐欺,窃盗(判示第4の2ないし4の各犯行)の事案である。

被告人両名は,本件各犯行以前,いずれも定職にも就かず,無為徒食の生活を送るうち,借金の返済資金等に困っていたところ,被告人Bが新潟県内のパチンコ店を狙った強盗事件で,その犯人が400万円を強奪することに成功したことなどが報道されたことがきっかけで,被告人Aと共犯者に対しパチンコ店から現金を強奪することを提案し,新潟県内各地のパチンコ店の下見を繰り返してその機会を窺った末にパチンコ店は警戒が厳重なことを知るや,資産のありそうな民家を狙い,判示第1の犯行を敢行したものであり,その犯行には事前の計画性が認められる上,その動機は,誠に短絡的かつ利欲的であり,酌量の余地は全くない。被告人らは,強盗に入ることについての謀議を遂げると,その犯行に使用する覆面用のマスク,軍手,マイナスドライバー,ガムテープなどの犯行用具を事前に準備し,上記犯行に当たってもこれらの道具を用いて,強盗目的で被害者方敷地内へ侵入しており,その犯行態様は危険極まりなく悪質である。さらに,被告人らは,金品を求めて同人方屋内への侵入を果たすべく,上記ドライバーやガムテープなどを用いてガラス窓をこじ開けようとしたが,犯行が発覚することを恐れる余り犯行を中止しているものの,この犯行後にも,資産のありそうな民家を複数狙い強盗を計画し下見を繰り返すなどしており,その犯情は誠に芳しくない。

そして,被告人両名は,強盗に失敗し,思い通りに大金を入手することができないところから,被告人Aが大金を貯め込んでいることを聞き及んでいた本件被害者を対象として現金を強奪することを言い出したことがきっかけとなり,その強盗の成り行き次第では同人を殺害することを認識しながら,本件の中心である判示第2の強盗殺人及び死体遺棄の各犯行に及んだものであり,その犯行が計画的なものである上,その動機は,人命が尊いことなどを一顧だにしない専ら金銭を入手することだけを目的とした甚だ利欲的なものであって,酌量の余地は全くない。被告人両名は,予め,本件被害者を殺害した後,その死体を埋めて遺棄する場所を2日間にわたり探し回るなどした上,その犯行当日,打ち合わせどおり本件被害者方に車でやって来た被告人Bと同車内で犯行方法等について最終的な謀議を遂げ,その後,本件被害者方に戻る途中にある近隣の民家の作業小屋からスコップを持ち出し,本件被害者方に戻ると,その身体を緊縛するためのガムテープを持って就寝中の同人の寝室に入り込み,被告人Bが目を覚まして抵抗する本件被害者の身体を押さえ付け,被告人Aが台所から柳刃包丁を持ち出した上,その峰部分で同人の右脛部分を強打したり,この包丁を畳に数回突き刺すなどして脅迫し,それに止まらず同人の両手両足をガムテープで緊縛した上で,約3時間30分という長時間にわたり繰り返し金品を要求し,同人から現金約2万8000円,銀行預金通帳1通及びキャッシュカード1枚を強取し,その挙げ句,最終的に本件被害者を殺害することを決意し,同人の顔面の鼻口部等にガムテープを幾重にも貼り付けたりした上,その頸部を革製のベルトで強く絞め付け,被告人両名でそのベルトを強く引っ張って,同人を窒息死させて殺害したものであり,その一連の犯行には異常なまでに金銭に執着した利欲性が滲み出ており,その強盗殺人の犯意は非常に強固であって,犯行方法も極めて大胆かつ残忍であり,犯行態様は悪質極まりない。

そして,被告人両名は,強盗殺人の犯行後,直ちにその犯跡を隠蔽すべく,本件被害者の死体を毛布に包み,予め下見した海岸の砂防林内まで被告人Bの自動車で運び,上記スコップで深さ約70センチメートルほどの穴を掘り,その中に本件被害者の死体を入れ,その上から砂をかけて遺棄したものであって,その犯行は,自分達の保身や犯跡の隠蔽のみを考え,殺害された本件被害者のことなど一顧だにしない誠に身勝手なものというほかなく,酌量の余地は全く認められず,極めて残忍で悪質な犯行である。しかも,その死体を遺棄した直後にさらに本件被害者の死体を運搬するのに使用した毛布を付近の漁港の海中に投棄した上,殺害現場となった同人方屋内を片付けるなどの罪証隠蔽工作を行っており,上記犯行後の犯情も極めて悪質である。

さらに,被告人両名は,上記犯行後,その犯行で強取したキャッシュカードを使用し,本件被害者の銀行口座から現金80万円を引き出し窃取する判示第2の3の窃盗の犯行を敢行しており,これ自体,自分達の犯した罪の重大さを全く自覚していない誠に利欲的な犯行であり,しかも,被告人両名はその窃取した現金を直ちに40万円づつ山分けし,遊興費や自己の借金の返済に充てるなどして費消しており,その犯情も誠に芳しくない。

もとより本件被害者には,このような被害に遭うべき落ち度は何もなく,それどころか,暴力団関係の債権者から追い込みをかけられた被告人Aを好意から自宅に居候させてやり,その日常生活の面倒を見た上,所持金を貸すなどしていて,同被告人から感謝されこそすれ,強盗の対象にされるいわれは全くなく,また,被告人Bも,常日頃から本件被害者とは一緒に飲酒するなどして交際していたものであり,このような関係にある被告人両名から深夜,寝ているところを突然襲われ,長時間にわたり,暴行脅迫を受けた末に現金等を強取され,それどころか無惨にも生命まで奪われたものであって,その肉体的精神的苦痛は余りにも大きく,その無念さは察するに余りあり,上記犯行により発生した結果は極めて重大である。このような本件被害者の遺族が被告人両名に対し厳しい処罰感情を抱くのは誠に当然のことといわなければならない。

そして,被告人Aは,上記強盗殺人等により入手した多額の現金を遊興費や借金の返済資金等に費消した挙げ句,その後も金銭に困り,強取した本件被害者名義のキャッシュカードを使用してその銀行口座から現金合計7万8000円を引き出すという判示第4の1及び2の窃盗の犯行に及んだ上,本件被害者の健康保険被保険者証やキャッシュカードを使用して消費者金融会社からキャッシングカードを詐取し,それを使用し,同社の無人契約受付コーナーの現金自動預払機から現金50万円を窃取するという有印私文書偽造・同行使,詐欺及び窃盗の各犯行を次々と敢行し,その犯行で入手した現金等の一部を殺害後の本件被害者方で生活するための光熱費等として,同人の銀行口座に入金したほか,その残余を遊興費等として費消しており,上記各犯行後の犯情も誠に悪質である。

さらに,被告人Bは,判示第1,第2の1ないし3の各犯行後も金銭に困り,判示第3の住居侵入及び窃盗の各犯行に及んで,現金約18万円を窃取し,その窃取した現金を共犯者と分配して遊興費等として費消しており,上記各犯行後の犯情も悪質である。

以上の各犯情を前提とし,さらに被告人両名の刑事責任を検討する。

まず,被告人Aは,昭和55年ころより暴力団組員として活動し,上記のように当時の妻の交際相手の家族らに対する傷害,銃砲刀剣類所持等取締法違反の各罪により服役し,平成12年8月に出所したが,その後も暴力団に身を置き,無為徒食の生活をした挙げ句,暴力団関係者からの借金などを重ねて追い込みをかけられた挙げ句,本件被害者方に居候して身を隠さざるを得ない状態に陥るなどしており,本件各犯行当時の生活態度は誠に芳しくなく,また前刑終了後わずか1年5か月程で,被告人Bらから誘われると,何の抵抗感もなく強盗の犯行計画に参加し,判示のとおりの金銭欲に駆られた一連の犯行に及んだ上,当時自己が身を寄せて生活全般の面倒を見てもらっていた本件被害者には身寄りが少なく,独り暮らしのため,その犯行が発覚しないと考えて本件強盗殺人の犯行を敢行したばかりか,その犯行では,被告人Aが本件被害者を強盗の対象とすることを言い出した張本人であり,その犯行の遂行についても終始主導的な役割を果たし,積極的に犯行に及んでおり,この犯行は,同被告人なくしては考えられないこと,本件後の公判段階に至っても,その犯行を警察に通報した事件関係者に対し,服役後の報復をほのめかすような言動をするなど本件公判での態度等からはどこまで本件を真摯に反省しているか疑問無しとせざるを得ず,再犯の危険性が極めて高いこと,また,本件各犯行後いずれの被害者やその遺族らに対し何らの慰謝措置や被害弁償をしていないことなどを考慮すると被告人Aの刑事責任は極めて重大である。

そこで,被告人Aは,本件被害者の遺族に対し,謝罪の意を表明し,それなりの反省の態度を示していることなど被告人Aのために斟酌すべき諸事情も認められるが,これらの情状を十分に斟酌しても,上記の判示第2の強盗殺人及び死体遺棄の犯情が極めて悪質であることに照らすと,被告人Aを無期懲役に処することが相当である。

一方,被告人Bは,長年にわたり暴力団組員として活動し,これまでに覚せい剤取締法違反の罪により3回懲役刑を受けて服役し,その無計画な生活態度等のために飲食店の経営に失敗するなどした挙げ句,本件各犯行に至るまでも債権の回収等に従事するなど生活態度自体芳しいものではないこと,さらに本件各犯行前にも金銭に困るや,強盗事件の報道をきっかけに共犯者を誘って判示第1の犯行に及んだ上,その後も判示の各犯行に及んでおり,再犯の危険性が高いこと,被告人Bは,被告人Aから誘われて本件強盗殺人の犯行に関与したとはいえ,実際の強盗,本件被害者の殺害,そして死体遺棄の各犯行に主体的かつ積極的に参加して,被告人Aは,被告人Bの存在なくては上記各犯行を遂行することが不可能であり,上記の各犯行では極めて重要な役割を果たし,その犯行後本件被害者名義の銀行口座から引き出した現金の半分を当然のように入手していること,本件各犯行後,いずれの被害者やその遺族らに対し何らの慰謝措置も被害弁償もしていないことなどを考慮すると,被告人Bの刑事責任の重さは,被告人Aと比較して低いとはいえない。

そこで,被告人Bは,本件強盗殺人の犯行では被告人Aから誘われ,その犯行に関与するに至ったものであり,この犯行では主導的な役割を果たしたとまではいえないことなど被告人Bのために斟酌すべき諸事情も認められるが,これらの情状を十分に斟酌しても,上記の強盗殺人及び死体遺棄の犯情が極めて悪質であることを勘案すると,その刑を酌量減軽すべきほどの情状を認めることができず,被告人Bに対しても無期懲役に処することが相当である。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 榊五十雄 裁判官 金子大作 裁判官 入江克明)

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