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新潟地方裁判所 平成14年(ワ)266号 判決 2006年3月27日

原告

A野花子

他2名

原告ら訴訟代理人弁護士

鈴木俊

同訴訟復代理人弁護士

佐藤克哉

被告

新潟県

同代表者病院事業管理者

牧野正博

同訴訟代理人弁護士

伴昭彦

三部正歳

主文

一  被告は、原告A野花子に対し、金六三〇三万六二七四円及びこれに対する平成一三年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告A野一郎、同A野一江に対し、それぞれ金三一四六万八一三七円及びこれに対する平成一三年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、第一項、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(1)  被告は、原告A野花子に対し、金六四一三万七九九五円及びこれに対する平成一三年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  被告は、原告A野一郎、同A野一江に対し、それぞれ金三二〇六万八九九七円及びこれに対する平成一三年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は被告の負担とする。

(4)  第一項、二項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告らの請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二事案の概要

A野太郎(以下「亡太郎」という。)は、被告が設置・運営する新潟県立がんセンター新潟病院(以下「被告病院」という。)で胃癌との診断を受け、胃亜全摘術を受けたが、その後、敗血症に罹患して死亡した。本件は、亡太郎の相続人である原告らが、亡太郎が死亡した原因は、亡太郎に対して治療行為等を行った被告病院医師ら及び看護師らの、①手術後、経腸栄養または高カロリー輸液により適切な栄養補給を実施すべき注意義務を怠った過失、②感染症防止対策を実施すべき注意義務を怠った過失、③敗血症に対する必要な治療等を実施すべき注意義務を怠った過失などにあると主張して、被告に対し、不法行為(民法七一五条)に基づき、逸失利益、慰謝料、葬儀費用及び弁護士費用の損害金並びにこれらの金員に対する民法所定の遅延損害金の支払を求める事案である。

一  争いのない事実等(当事者間に争いのない事実並びに証拠〔括弧内に証拠番号を標記した。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者

ア 原告ら

(ア) 亡太郎は、昭和二三年四月二八日生まれの男性であり、平成一三年九月四日に、被告病院で死亡した(死亡当時五三歳)。

(イ) 原告A野花子(以下「原告花子」という。)は、亡太郎の妻である。

(ウ) 原告A野一郎(以下「原告一郎」という。)及び原告A野一江(以下「原告一江」という。)は、亡太郎の子であり、亡太郎の相続人は、原告らのみである。

イ 被告

被告は、被告病院を設置・運営する地方公共団体であり、亡太郎に対して治療行為を行った医師ら及び看護師らの使用者である。

(2)  事実及び診療経過の概要

ア 胃癌の発見

亡太郎は、平成一三年七月二日、職場検診において胃の異常を指摘され、同月五日、被告病院内科において検査を受けたところ、胃癌であることが判明した。

イ 手術の概要

亡太郎は、同年八月一四日、手術を受ける目的で、被告病院に入院し、同月一七日、被告病院B山松夫医師(以下「B山医師」という。)、C川竹夫医師、D原梅夫医師(以下「D原医師」といい、B山医師、C川竹夫医師及びD原医師を併せて被告病院医師らという。)により、胃亜全摘術(幽門側胃切除術、リンパ節郭清、以下「本件手術」という。)が行われた。亡太郎の癌は早期胃癌であったため、本件手術は根治的手術であった。

ウ クリニカルパス等について

術前から退院までの日数を設定し、種々の処置等につき、予め基準を設定し管理する方法をクリニカルパスというが、被告病院は、胃亜全摘術のクリニカルパスを設定しており、亡太郎の治療については、大要以下のようなクリニカルパスとなっていた。なお、設定されたクリニカルパスを逸脱した場合をバリアンスという。

(ア) 退院予定日 八月二九日(術後一二日目)

(イ) 持続点滴 八月一七日から八月二四日(術後七日目)

点滴終了後留置針抜去

(ウ) 食事開始 八月二一日(術後四日目)

(エ) レビン(ストマックチューブ)抜去 八月二〇日(術後三日目)

(オ) ドレーン抜去 八月二四日(術後七日目)

エ 平成一三年八月三〇日までの診療経過の概要等

(ア) バリアンス

亡太郎については、クリニカルパスに従って、平成一三年八月二〇日に一度レビンが抜去されたが、レビンからの消化液の量が多かったことや亡太郎が吐き気等を訴えたため、同月二一日に再挿入された。また、クリニカルパスでは、同日、食事開始の予定であったが、これも延期され、水分摂取・食事摂取禁止の状態が継続されることとなった。その後、同月二七日にレビンが抜去され、同月二八日飲水可能となり、同月三一日に食事可となるものの、同日、朝食二割摂取したのみで、その後、死亡にいたるまで食事の摂取はなかった。

(イ) 本件手術後の輸液量、投与栄養量

亡太郎が、本件手術後、平成一三年八月三一日までに受けた輸液量及び栄養(一日当たり)は、およそ、以下のとおりである。

① アミノフリード(アミノ酸製剤、血清総蛋白量増加作用等を有する) 二〇〇〇ml(八四〇Kcal)

② 乳酸化リンゲル液(ラクテック)(水分及び電解質を補給する作用を有する) 一〇〇〇ml

(ウ) 点滴漏れについて

亡太郎に対しては、本件手術後、クリニカルパスに従って持続点滴のため末梢静脈カテーテルが挿入されていたが、バリアンス後の平成一三年八月二七日二〇時ころ、点滴漏れがあり、点滴ルートが左手背に変更された。

オ 八月三一日以降の診療経過等

(ア) クレブシエラ菌等の検出

平成一三年八月三一日九時、亡太郎は寒気を訴えた。同人の同日一〇時三〇分の体温は三七・九度、同日一二時の体温は三七・一度であった。また、同人の同日一四時三〇分の体温は三八・六度であり、かつ、悪寒戦慄がみられた上、そのころ行われた胸部X線検査の結果、両下肺には、浸潤影が出現し、肺炎が疑われる状況にあった。さらに、血液及び生化学検査の結果、WBC(白血球数。炎症等で変動する。正常値は、三五〇〇~八五〇〇μl)一三九〇〇μl、CRP(C反応性蛋白。体内の炎症や組織の破壊で上昇する。正常値は〇・三mg/dl以下)が二・三mg/dlであった。以上の所見から、D原医師は、感染症を疑い、動脈血を血液培養検査に提出し、抗生物質チェナムの点滴静注を開始した。同検査の結果、亡太郎の動脈血からは、クレブシエラ菌が検出され、亡太郎がクレブシエラ菌に感染していることが判明し、このことは、翌日(同年九月一日)、同医師に電話で報告された。また、B山医師が同月三日に培養検査に提出したカテーテル先留置針からも、クレブシエラ菌、セラチア菌(後述のとおり、いずれもグラム陰性桿菌である。)が検出された。なお、カテーテル先留置針の培養検査の結果については、同月五日に正式報告されている。

(イ) 八月三一日以降の診療経過

前記以外の八月三一日以降の詳細な診療経過については、別紙「診療経過一覧表」記載のとおりである(なお、別紙「診療経過一覧表」中、太字は証拠で認定した事実であり、その他は争いのない事実である。)。

カ 亡太郎の死亡

亡太郎は、平成一三年九月四日一二時一〇分に死亡した。死因は、敗血症を原因とする急性腎不全、呼吸不全であった。

二  争点

(1)  被告病院医師らに、本件手術後、経腸栄養または高カロリー輸液による適切な栄養補給を実施すべき注意義務を怠った過失が認められるか否か。

(2)  被告病院看護師らに、感染症防止対策を実施すべき注意義務を怠った過失が認められるか否か。

(3)  被告病院医師らに、敗血症に対する必要な治療等を実施すべき注意義務を怠った過失が認められるか否か。

(4)  損害額

三  争点に対する当事者の主張

争点に対する当事者の主張は、別紙「争点整理表」記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一  敗血症等について

(1)ア  敗血症の定義等

敗血症とは、体内に発生した何らかの感染によって血中に細菌が流入し、感染した結果、SIRS(systemic inflammatory response syndrome)が生じた状態と考えられる。SIRSとは、感染等の原因により、生体に全身的な炎症性反応が惹起された状態と理解されており、以下の項目のうち、二つ以上の項目に該当すれば、SIRSと診断されることになる。

① 体温>三八度、または<三六度

② 心拍数九〇/分以上

③ 呼吸数二〇/分以上、またはPaCO2(二酸化炭素分圧)<三二mmHg

④ 白血球数>一二、〇〇〇/mm3、または<四、〇〇〇/mm3、または一〇%以上の未熟白血球

SIRSの診断基準は、日常の診療において、より早い時点で、敗血症と判断することによって、重症化を防止するためのより強力な治療を展開する契機となる点で有用な判断基準とされている。

イ  敗血症性ショック等

(ア) 敗血症性ショック早期

敗血症性ショック早期とは、感染症の経過中、高熱を伴う低血圧と尿量低下(なお、成人の通常の尿量は一〇〇〇~一五〇〇ml程度である。)を認めるが、その他の末梢循環不全の症状がない場合をいい、この時期には、いまだ高心拍出量、代謝亢進状態にあり、輸液や昇圧剤等の治療に反応することが多い。なお、低血圧とは収縮期血圧九〇mmHg以下、もしくは、平時の収縮期血圧より四〇mmHg以上低下した場合をいう。

(イ) 不可逆性敗血症性ショック

輸液療法や昇圧剤の使用でも、末梢循環不全が続き、血圧の維持が困難な状態をいう。末梢循環不全は、PaO2(酸素分圧)/FIO2(吸入気酸素濃度)<二八〇mmHg(心肺疾患を除く)、血中乳酸値の上昇、乏尿(<〇・五ml/kg/時)、意識障害を含む。

(2)  クレブシエラ菌及びセラチア菌の定義等

ア クレブシエラ菌は、院内感染の原因となりうるグラム陰性桿菌で、腸内細菌科の一属である。広く自然界に存在し、人の正常腸内細菌叢構成菌である。

イ セラチア菌

セラチア菌は、グラム陰性桿菌で腸内細菌科の一属である。広く自然環境に存在し、病院内においても流しの周囲など湿潤した環境からしばしば分離される。医療従事者を含めた健常人もセラチアを咽頭、腸管、皮膚などに常在細菌叢の一部として保有している場合がある。セラチア属の中で臨床材料から分離される頻度が高く、院内感染の原因となるのは、多くの場合Ser-ratia marcescensである。セラチアは、環境、患者の便・尿その他の体液、医療従事者から分離されることがあるものの、これらに由来するセラチアが一度に患者の血流内に侵入することはなく、血流感染アウトブレークが起こるには、セラチアがいったん医療従事者の手指へ付着し、これが消毒薬を汚染、あるいは輸液ルートなどを直接あるいは消毒薬を介して汚染、更に輸液の作り置きなどにより過増殖するステップが存在するとされている。

(3)  亡太郎の敗血症の発症等について

ア 敗血症発症時期等

前記第二・一・(2)・オ及び別紙「診療経過一覧表」のとおり、亡太郎は、平成一三年八月三一日一四時三〇分に悪寒戦慄を伴う三八・六度の熱を発し、また、同日の血液及び生化学検査の結果では、体内での炎症の有無を示す白血球数が一三九〇〇μl、CRPが二・三mg/dlと異常値を示した上、同日一六時頃採取された亡太郎の動脈血からはクレブシエラ菌が培養されたことが認められ、この事実及び鑑定の結果からすれば、亡太郎は、同日一四時三〇分には、重症感染症に罹患した結果、生体に全身的な炎症性反応が惹起された状態、すなわちSIRSが生じた状態にあり、敗血症を発症したと認められる。

イ 敗血症性ショックに陥った時期等

前記アのとおり、亡太郎は、平成一三年八月三一日一四時三〇分には、敗血症を発症していたと認められるが、別紙「診療経過一覧表」及び《証拠省略》によれば、同日一六時の尿量が、同日八時からの累積で四七八ml(但し、尿検査分を除く。)、翌日(同年九月一日)七時の尿量も同量であり(但し、前日二二時に若干の排尿があったと認められるが、亡太郎自身が捨ててしまっている。)、敗血症を発症後、尿量の増加がほとんどなかったこと、また、同年九月一日七時の血圧が収縮期で六〇mmHgであること、さらに、体温は、同年八月三一日一九時に三五・二度、同日二一時に三七・八度、同日二二時に四一・二度、同日二三時三〇分に三七・四度、翌日(九月一日)七時に三五・九度と、短時間の間に大きな変化をしていること、が認められ、亡太郎には、敗血症性ショックに見られる尿量の低下、低血圧及び高熱を伴う急激な体温変化が認められたものであり、以上からすれば、亡太郎は、同日七時には敗血症性ショックに陥っていたと認めることができる。

二  争点(1)(被告病院医師らに、適切な栄養補給を実施すべき注意義務を怠った過失が認められるか。)について

(1)  鑑定の結果によれば、従前に健康で栄養状態が良好である五三歳の男性が、二週間程度の絶飲食の状態におかれても、末梢血管から通常の補液によって栄養状態の管理を行えば、通常は、重篤な敗血症を促進する栄養不良状態に陥ることはないと認められるが、前記争いのない事実等及び《証拠省略》によれば、被告病院入院時(平成一三年八月一四日)、亡太郎は、身長一六四・五センチメートルに対し、体重七一・五キログラムであり、栄養状態は良好であったこと、亡太郎は、本件手術前日の昼から禁食とされたが、それまでは、常食を経口摂取していたこと、亡太郎は、クリニカルパスを逸脱し、当初予定されていた日から食事を開始することはできなかったものの、本件手術後平成一三年八月三一日まで、アミノフリード二〇〇〇ml及びラクテック一〇〇〇mlの点滴(一日当たり)を受けていたこと、亡太郎は、同時期に大量のカロリー消費を来す発熱や大量の蛋白を漏出する病態にはなく、同月一八日から三一日までの亡太郎の生化学検査の結果も、栄養状態を示す血清蛋白及び総コレステロールは、すべて正常値の範囲内であったことが認められる。以上からすれば、本件手術後から、平成一三年八月三一日までの間、亡太郎が、敗血症を急速に進行させ、栄養補給を必要とする、極めて低い低栄養状態にあったとは認められない。したがって、被告病院医師らが亡太郎に対して、栄養管理を怠った注意義務違反はないと認められる。

(2)  これに対して、原告は、感染症対策として、経腸栄養が必要であったなどと主張する。たしかに、《証拠省略》によれば、経腸栄養は、腸粘膜の萎縮やそれに起因する細菌のトランスロケーションを防止するために有用であると認められるが、一方、循環不全、腸管虚血、完全な機械的腸閉塞、イレウスの場合は、絶対的禁忌とされ、完全経腸栄養は、部分的な機械的腸閉塞、重症下痢、膵炎、腸管皮膚瘻からの大量の腸液排出等の場合は、施行しないほうがよいとされている。

本件では、亡太郎の状態が、経腸栄養実施の絶対的禁忌事項に該当するものではなく、経腸栄養の適応がなかったとまではいえないが、前記争いのない事実等認定のとおり、亡太郎については、クリニカルパスに従ったレビン抜去時点で通常の術後経過に比して多量の消化液が流出し、亡太郎自身も吐き気や下腹部の張り等を訴えていたこと、また、《証拠省略》によれば、平成一三年八月二一日のレビンの再挿入後も、レビンからは、一日約五〇〇ml程度の消化液が流出していたこと(なお、同月二一日の腹部X線検査では、明らかな腸閉塞、イレウスの所見はみられなかった。)が認められ、さらに、鑑定の結果によれば、経腸栄養が必要な場合としては、術前に経口摂取障害や栄養不良がみられた場合や術後に長期間経口摂取が不能になると予測される症例が考えられるが、胃癌手術では、経腸栄養のためのチューブを小腸内に留置することは一般的には行われておらず、とくに本件手術のような幽門側胃切除手術で小腸にチューブを留置することはまず行わないとされていることが認められ、これらからすれば、被告病院医師らが、経腸栄養を実施しなかったとしても、それは被告病院医師らの裁量の範囲内の判断といえ、被告病院医師らに経腸栄養を実施しなかったことについて過失があったとは認められない。

三  争点(2)(被告病院看護師らに、感染症防止対策を実施すべき注意義務を怠った過失が認められるか。)について

(1)  血管内留置カテーテル感染について

ア 血管内留置カテーテル感染

(ア) 血管内カテーテル感染の定義等

血管内留置カテーテル感染(以下「カテーテル感染」という。)は、カテーテル菌血症と解釈され、カテーテル菌血症は、血管内留置カテーテルが原因となり、血液中に菌が認められた場合である。

(イ) カテーテル感染の感染経路等

カテーテル感染の経路としては、カテーテル挿入口周囲の皮膚上に存在する常在菌がカテーテル外側表面に沿って侵入する管外型、三方活栓などの連結部から侵入した菌がカテーテル内側表面に沿って侵入する管内型、他の部位から菌血症が起こり血流中の細菌が直接カテーテルに付着する直接型がある。

(ウ) バイオフィルム

前記(イ)のような経路で細菌が侵入し、細菌がカテーテルなどの異物表面に付着すると、菌体外多糖類(グリコカリックス)産生が加速し、これを介して菌体同士の結合が強化される。さらに、フィブリン、グロブリンなどの血清蛋白、貪食細胞など様々なものを巻き込んでバイオフィルムが完成する。いったんバイオフィルムが完成してしまうと、バイオフィルム菌は浮遊菌と比較し、高濃度の抗菌薬でも殺菌されないとされている。

イ カテーテル感染症の診断

感染の臨床的兆候(発熱、悪寒及び(または)低血圧等)及びカテーテル以外にBSI(血流感染)の明かな感染源が存在しないという条件を備え、血管内カテーテルを使用して菌血症(あるいは真菌血症)の兆候を示す患者の末梢静脈から採取した血液培養検査の結果及び半定量的(>15CFU(colonyforming unit)/カテーテルセグメント)あるいは定量的(>103CFU/カテーテルセグメントカテーテル)カテーテル培養検査の結果、両者から同一の菌が検出されたとき、あるいは、このような検査所見が得られない場合は、カテーテル抜去により症状の改善が認められたとき、はカテーテル感染症が疑われる(甲九、一三、一四、二四、なお、甲一三、一四は、甲二四の米国疾病管理予防センターのガイドライン(CDCガイドライン)を根拠とするものであるが、証拠(甲二五)によれば、本件当時、本邦における一般的医療水準であったと認められる)。

ウ 三方活栓について

三方活栓とは、輸液時、一本の輸液ラインから二種類以上の薬剤を投与するときに用いる輸液備品の一つであり、目的に応じ、切り替え混注したり、単独で注入することができる。三方活栓は、非閉鎖的な構造上、汚染を受けやすく、カテーテル感染の起因となりやすいので、使用は、細菌混入の危険性の少ない手術室やICUでの使用など最小限度にする必要があり、使用する場合は、消毒、無菌操作に十分な注意することが必要であるとされている。

(2)  亡太郎の敗血症発症の原因等について

ア カテーテル感染以外の感染源について

《証拠省略》によれば、以下のとおり、尿路感染、胆道感染、バクテリアル・トランスロケーション、手術創部感染、腹腔内感染、肺炎は、いずれも感染源である可能性が低いことが認められる。

(ア) 尿路感染及び胆道感染

平成一三年九月三日のCT検査(腹部)や生化学検査の結果から、急性腎孟腎炎の疑いはあるが、亡太郎が敗血症を発症した、同年八月三一日に採取された尿の検査の結果、尿路感染を疑わせる明かな所見はなく、尿路が感染源であることは否定的であることが認められ、胆道感染も、同年九月三日のCT検査(腹部)や生化学検査の結果、胆道感染を疑わせる所見はなく、尿路感染及び胆道感染は否定的であると認められる。

(イ) バクテリアル・トランスロケーション

バクテリアル・トランスロケーションとは、腸管の細菌等が腸管外へ移行し、SIRSの原因となることをいい、腸管壁の炎症を伴うことが多いと認められるが、同年八月三一日の敗血症発症まで、亡太郎は、腸管壁の炎症を疑わせるような症状(下痢・血便等)を訴えておらず、加えて、同年九月三日の便検査の結果は、腸管内好気性菌のみであって、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの重症腸炎の原因となる異常所見はなく、以上から、バクテリアル・トランスロケーションは否定的と認められる。

(ウ) 手術部位感染等

手術部位感染は、切開部位感染と体腔内・臓器部位感染に分けられるが、切開部位感染を示すような所見はなく、したがって、切開部位は、感染源ではないと認められる。また、腹腔内感染についても、同年九月三日のCT検査(腹部)の結果、「腹腔内腫瘍;肝尾状葉の周囲に少量のfluidが貯留しています」との報告がなされ、肝臓左葉の背面に液体の貯留が認められるが、画像の性状(大きさ、内容の均一性)からして、重症の敗血症の原因となる腫瘍とは考えにくく、また、同月四日の腹部エコー検査の結果から、被告病院の医師は、脾臓背面の膿瘍を疑っているが、同月三日のCT検査(腹部)では、同部位に膿瘍は認められず、残胃内に貯留液を認めるのみであるから、被告病院の医師が同月四日の腹部エコー検査の結果疑った脾臓背面膿瘍は、残胃内の貯留液であったと考えられ、重症な敗血症の原因となる腹腔内膿瘍はないものと認められる。なお、亡太郎に対して、同年八月二九日(本件手術後一二日目)に、胃内視鏡検査が施行され、この検査の際に、亡太郎が腹痛を訴えていることから、同検査によって、吻合部や消化管を損傷し、腹膜に炎症を生じさせた結果、腹腔内感染を引き起こしたのではないかとも考えられるが、同検査後、亡太郎が、消化管の損傷を疑わせる強い腹痛等の症状を訴えていなかったこと等からすると、これも否定的と認められる。

(エ) 肺炎

同年八月三一日の胸部X線検査では、「両下肺に浸潤影出現―pneumonia(肺炎)」との報告がなされているが、それは、左肺の葉間にわずかの貯留と思われる所見にとどまり、明かな肺炎の所見は認められず、同年九月二日の同検査においても、敗血症の原因となるような肺炎の所見は認められないことから、肺炎が感染源であるとは否定的であると認められる。

イ カテーテル感染について

(ア) 前記第三・一・(3)・アのとおり、亡太郎は、平成一三年八月三一日一四時三〇分には敗血症を発症していたと認められるところ、その発症原因については、前記第三・三・(2)・アのとおり、カテーテル以外に明かな感染源はないと認められる。そうすると、前記争いのない事実等認定のとおり、同日、採取された亡太郎の動脈血培養の結果、クレブシエラ菌が検出され、また、同年九月三日抜去したカテーテル先留置針培養の結果、クレブシエラ菌が検出され、カテーテル培養と血液培養から同一の菌が検出同定されたことは、前記第三・三・(1)・イのカテーテル感染の診断基準に照らせば、亡太郎は、カテーテルから感染し、敗血症を発症したのではないかということを強く疑わせる。

(イ) また、前記争いのない事実等認定のとおり、同日抜去したカテーテル先留置針培養からは、クレブシエラ菌のみならずセラチア菌(前記第三・一・(2)のとおり、院内感染の原因となることが多いSerratia marcescensである。)も検出され、その上、別紙「診療経過一覧表」のとおり、カテーテル先留置針培養からクレブシエラ菌及びセラチア菌が検出されたのは、抗生物質であるチェナムの投与を開始し、数日経過した後のことであり、しかも、その培養結果は、いずれの菌についても+3と高値を示している。

《証拠省略》及び前記第三・三・(1)・ア・(ウ)で認定したところによれば、起炎菌に感受性を示す抗菌薬が投与された場合には、当然のごとく培養結果が陽性になることは期待できず、たとえ耐性菌であっても培養時間が通常より延長する場合があり、培養陽性時期が遅れるとされていること、末梢静脈カテーテルへの細菌の定着は、カテーテルが七二時間以上留置されたままになったときに劇的に増加するものとされ、九六時間までは比較的安全とされていること、カテーテルに細菌が定着し、バイオフィルムが完成してしまうと、高濃度の抗菌薬でも殺菌されないとされていることが認められ、これらからすれば、抗生物質に暴露された後のカテーテル先留置針培養から、クレブシエラ菌のみならずセラチア菌が検出され、しかも、その培養結果が+3と高値を示した事実は、汚染されたカテーテルによって血流感染が引き起こされ、その汚染されたカテーテルが長期間留置されたことによって、細菌がカテーテルに定着し、バイオフィルムが形成されたのではないかと強く疑わせる事実である。

(ウ) さらに、亡太郎に対しては、三方活栓が使用されていたが、前記第三・三・(1)・ウのとおり、三方活栓は、その構造上汚染を受けやすく、その使用は必要最小限にすべきであるとされていること、亡太郎に対して、三方活栓が使用され、しかも、三方活栓が連結されていたカテーテル先留置針から、クレブシエラ菌のみならずセラチア菌が検出されたこと、加えて、セラチア菌は、前記第三・一・(2)のとおり、医療従事者の手指に付着した菌が輸液ルート等を介して侵入するとされていることからすれば、亡太郎に対して、三方活栓が使用されていたことは、カテーテル、特に、三方活栓からの感染を疑わせる事実である。なお、被告病院では、亡太郎死亡以前から、三方活栓の使用禁止が検討されていたが、亡太郎死亡後、院内感染対策(セラチア感染)として、外科病棟等の患者に対し、完全閉鎖式輸液セットが導入された。

ウ 敗血症の原因となる感染源としては、様々な原因があるが、血管内留置カテーテルを感染源として敗血症を発症する場合も一定の割合で存在することが認められているところ、本件で考えられるカテーテル以外の感染源については、前記第三・三・(2)・ア認定のとおり否定的であると認められ、これに加えて、前記第三・三・(2)・イ・(ア)ないし(ウ)認定の事実をあわせ考慮すれば、本件で亡太郎が、敗血症を発症した原因は、亡太郎に使用されたカテーテルが汚染されていたことに起因すると推認することが合理的であると考えられる。

エ もっとも、カテーテル感染の場合、感染源となったカテーテルの抜去が有効な治療法であり、これによって症状が軽減する場合が多く、また、感染源が明かでない場合において、カテーテル抜去によって、症状の改善が認められたときは、カテーテル感染が疑われる。

そして、本件で、被告は、毎日、カテーテル交換をしていた旨主張し、証人E田及びD原もこれに沿う供述をするが、亡太郎の敗血症発症の原因がカテーテル感染であった場合、被告主張のカテーテル交換の事実が認められるのであれば、亡太郎の症状は軽減しているはずであり、にもかかわらず、本件において、亡太郎の症状が軽減していないということは、感染源はカテーテル以外であるとも考えられるので、被告主張のカテーテル交換の事実が認められるかについて検討する。なお、前記争いのない事実等認定のとおり、平成一三年八月二七日に点滴漏れがあり、点滴ルートを左手背に変更したことは争いがなく、同事実については、看護記録に記載されている。また、同年九月三日にカテーテル先留置針のためにカテーテルを抜去し、交換した事実についても争いはない。したがって、同年八月二七日から同年九月三日までの間にカテーテル交換の事実が認められるかが問題となる。

(ア) 証人E田は、被告病院看護師らから、平成一三年八月三一日、同年九月一日、同年九月二日にカテーテルを交換したとの報告を受けた旨証言し、被告も同証人の証言内容に沿う同証人作成の「点滴刺し換えについて」と題する書面(乙二四)を提出する。しかし、同証人の供述は、以下の点からただちに採用できない。すなわち、同証人は、亡太郎死亡時、被告病院において、病棟の看護師長という立場にあり、自ら亡太郎のカテーテル交換に直接関与したことはなく、看護師らからカテーテル交換をしたという報告を受けたにすぎない上、同証人は、同年八月三一日のカテーテル交換について、カテーテルを交換した看護師を特定することができないにもかかわらず、交換したと証言するなど、核心部分に関する同証人の証言内容は曖昧である。また、「点滴刺し換えについて」(乙二四)と題する書面も、当初から証拠として提出されていたものではなく、同証人への尋問によって、その存在がはじめて明らかとなり、尋問後、提出されたものであり、しかも、同書面の作成年月日等も全く明かでなく、同書面に記載されている看護師らが、事実、カテーテル交換をしたという内容の供述をしているかどうかについても明かでない。さらに、同証人は、平成一三年八月三一日、同年九月一日、同年九月二日にカテーテルを交換した旨供述する一方、陳述書においては、本件に関し、「逐次記録はしていませんが、三日に一度くらいは点滴ルートの変更をしています」と供述しており、証言内容との間に食い違いが見られる。以上の諸事情に照らせば、同人のカテーテル交換に関する証言内容及び同人作成にかかる「点滴刺し換えについて」と題する書面(乙二四)は、採用できず、これらを根拠に、カテーテル交換の事実を認めることはできない。

(イ) また、証人D原は、平成一三年九月一日九時過ぎころ、前日採取した亡太郎の動脈血の培養検査の結果、クレブシエラ菌が検出されたとの電話報告を受け、その後、看護師にカテーテルについて確認したところ、看護師から、カテーテルは交換したばかりであるとの報告を受けたことから、発熱後、カテーテルは交換されたものと考え、カテーテル交換の指示はしなかったと証言する。しかしながら、同証人の証言内容は、同内容にとどまり、同証人に対し、そのような報告をした看護師が誰であるのか、また、実際にカテーテルを交換した看護師が誰であるのか等の重要な点について明かにできない上、同証人は、発熱後、看護師がカテーテル交換をしたと考えた理由について、発熱前のカテーテルをそのまま使用しているのであれば、そのときに換えているはずだから、それをしていないということは、発熱後、血液培養の検査結果の報告をするまでであると考えたなどと証言しており、発熱後カテーテルを交換したと考えた根拠も曖昧かつ自己の憶測に基づくものである。以上からすると、同証人の証言から、同年八月二七日以降に亡太郎のカテーテル交換がなされたとの事実を認めることはできない。

(ウ) さらに、被告は、体動のため、同じ点滴針は、最長三日位しかもたないのであるから、カテーテルを交換しないなどということはありえないなどと主張する。

《証拠省略》によれば、末梢静脈カテーテルは、七二から九六時間の間隔をあけて交換をすること、静脈へのアクセス部位が限られており、静脈炎や感染の兆候が認められない場合は、患者と挿入部位を十分監視することを条件として、長期にわたり末梢静脈カテーテルを留置しても差し支えないものとされていること、が認められ、これからすると、三日以上の長期間にわたりカテーテルを留置することもあり得る事態であり、そうすると、看護師の判断でカテーテルを交換し、その旨を看護記録等にも記載する習慣もなかった被告病院において、長期間カテーテルが留置され続けたということも十分考え得るところである。

そうすると、別紙「診療経過一覧表」のとおり、亡太郎がトイレへ歩行したことや体交頻回によってレビンの接続部位が外れたなど、亡太郎の体動の事実は認められるが、同事実からただちに、被告の主張を採用することはできないし、亡太郎は、同年九月一日以降は、日記をも付けられなくなるなど、ほとんど動けない状態になっていたと認められ、ここからしても、被告の主張は採用できない。

(エ) 以上のとおり、点滴漏れのあった同年八月二七日以降、亡太郎のカテーテルが交換されたという事実を認めることはできない。したがって、カテーテル交換を前提とする被告の主張は、その前提が崩れ、採用の限りではなく、敗血症を発症した原因が、亡太郎に使用されていたカテーテルが汚染されていたことに起因するとの上記推認を覆すものではない。

なお、この点に関し、鑑定人は、数回のカテーテル交換の事実を認めた上、感染源となる細菌が定着することはないなどと意見を述べるが、前記のとおり、本件で、カテーテル交換の事実は認められず、カテーテル交換の事実を前提とする鑑定結果は採用できない。

オ 静脈炎等について

《証拠省略》によれば、カテーテル感染の場合、通常、点滴部位である末梢静脈に何らかの炎症性変化が見られること、末梢静脈カテーテルに関して、感染と静脈炎とは切り離せない関係にあることが認められ、本件では、亡太郎にこのような炎症性変化は、見られなかったが、《証拠省略》によれば、静脈炎が先行して感染を併発する場合のほか、感染が先行して静脈炎を引き起こす場合があることも認められ、また、前記第三・三・(1)・イのとおり、カテーテル感染の診断基準が存在することにかんがみれば、静脈炎の存否がカテーテル感染の有無を決定づけるものとはいえない。したがって、末梢静脈に炎症性変化が見られなかったからといって、そのことが、ただちに、前記推認を覆すものではない。

カ 環境調査及び院内感染対策について

被告は、亡太郎死亡直後に行った環境調査の結果、感染症をもたらすような菌は検出されなかったこと、また、被告病院では院内感染対策が十分に行われていたこと、等を理由に、カテーテルが感染源ではないなどと主張する。しかしながら、環境調査は、亡太郎の近場にあったものや院内感染の伝播経路としてリスク及び可能性が最も高いとされている医療従事者の手指を検体としたわけではなく、各病棟の廊下床、ナースセンターの床及び洗い場、洗面所の床及び洗い場、トイレの床及び洗い場、観察室の床及び洗い場、亡太郎以外に対し使用されていた三方活栓、外科病棟で使用中であったアルコール綿を検体としたものであり、また調査日についても、亡太郎の存命中あるいは死亡当日に調査したわけではなく、亡太郎の死亡した翌日(平成一三年九月五日)及び翌々日(平成一三年九月六日)であり、上記事実関係のもとで実施された環境調査の結果、感染症をもたらすような菌は検出されなかったことをもって、亡太郎の敗血症発症の原因がカテーテルではないということはできない。

院内感染対策についてみると、たしかに、被告病院においては、院内感染対策が行われており、汚染の危険性が高い三方活栓についても、その汚染の危険性を認識し、側管使用時は、メインの点滴を流して貯留液を捨てることにしていた等、それなりの対策を行っていたことが認められるものの、被告病院において、三方活栓の使用上の注意を含めた院内感染対策が行われていたことをもって、ただちに、亡太郎に対しても、感染対策が徹底されていたかについては疑問であり、環境調査の結果や院内感染対策の事実をもって、前記推認を覆すことはできない。

キ セラチア菌の検出等について

被告は、カテーテルからの感染であれば、血液培養とカテーテル培養の結果、同一の菌が検出されるはずであるから、動脈血からは検出されていない菌がカテーテル先留置針から検出されたということは、カテーテルから血流への感染ではない証拠であるし、そうでないとしても、血液培養検査においては、血液中に菌が存在していても培養結果では検出されないこともあるので、数回の培養検査を行うことが奨励されているところでもあるから、動脈血の培養の結果、クレブシエラ菌のみが検出され、カテーテル先留置針の培養の結果、セラチア菌及びクレブシエラ菌が検出されたことをもって、カテーテルを感染源と考えることはできないと主張するが、そうすると、なぜ、カテーテル先留置針から、セラチア菌が検出され、その値が+3と高値を示したのか明かでない。また、《証拠省略》によれば、たしかに、血液培養検査は三回以上行うことが望ましいとされているが、そうであるとすると、被告病院が数回の血液培養検査を実施していれば、自ずと結果は明かになったはずであり、にもかかわらず、自ら検査を怠ったのであるから、この点の不利益は、被告病院が負うべきである。

また、被告は、カテーテル先留置針から培養されたセラチア菌が+3という高値を示したことについて、平成一三年九月二日の準夜勤の時間帯にカテーテル交換をしたことを前提としつつ、カテーテル先留置針を培養検査に提出したのは、抗生物質の投与間隔からして(抗生物質を投与していたのは、一〇時と一六時であり、カテーテル先留置針を培養検査に提出したのは平成一三年九月三日八時二〇分ころである)、血流の抗生物質濃度の低い時期、すなわち血流の菌量が多い時期であったことから、+3という高値を示したのであると主張するが、前記第三・三・(2)・イ・(イ)のとおり末梢静脈カテーテルへの細菌定着の発生率は、カテーテルが七二時間以上留置されたままになったときに劇的に増加するとされていること、血流の抗生物質濃度の低い時期とはいっても、その効果は一定程度はあると考えられることからすれば、このような短期間(約一六時間)の間に細菌がカテーテルに定着し、培養の結果、+3という高値を示すとは考えられず、被告の主張は採用できない。

(3)  小括

以上より、亡太郎の敗血症の発症の原因は、汚染されたカテーテルを長期間留置したことによるカテーテル感染と考えることが合理的である。そして、カテーテル汚染の経緯については、証拠上明かではないものの、カテーテル感染が原因であることに変わりはなく、当時の医療水準からして、被告病院看護師らが無菌的な処置、すなわち皮膚消毒の徹底、カテーテル操作時の手指の消毒の徹底、点滴ルート変更時の清潔保持等の徹底、三方活栓の清潔保持等の徹底を図っていれば、汚染自体を防ぐこと、あるいは、敗血症罹患を防止することは可能であったといえる。したがって、被告病院看護師らには、前記感染症防止対策を実施すべき注意義務を怠ったと認められるので過失があったと認められる。

四  争点(3)(被告病院医師らに、敗血症に対する必要な治療等を実施すべき注意義務を怠った過失が認められるか)について

(1)  SIRS及びその治療法等について

ア SIRSと多臓器不全について

SIRSと診断された患者は、SIRS持続日数が長くなるにつれて、多臓器不全を起こしやすく、MODS(multiple organ dysfunction syndrome,複数の重要臓器あるいは系の機能障害が同時に発生している状態の症候群と定義される。)に進展し、予後不良となるおそれがあるので、以下のような治療法等を適切な時期に行う必要がある。

イ 治療法等について

(ア) 感染源の除去

《証拠省略》によれば、敗血症の最も有効な治療法は、感染源の検索と感染源の除去であると認められる。

(イ) 酸素吸入療法

鑑定の結果及び《証拠省略》によれば、SIRSやショックなどを契機として、呼吸不全が生じる場合があり、ARDSと呼ばれている。また、長期間の低酸素血症は、重篤な多臓器不全を進行させる原因となりうるので、SIRSと判断された場合は、適切な呼吸管理をすることが必要である。具体的には、SIRSでは、呼吸数が二〇回/min以上、PaCO2が三二mmHg以下と定義されているが、この状態は、酸素消費量の増加、あるいは、肺での酸素摂取の低下により過換気が生じていることを示しているので、この時期に、PaO2が八〇mmHg以下となれば、酸素吸入を開始する。また、ショック状態となった場合は、血圧低下あるいは循環状態の悪化により組織低酸素が生じることが予測されるので、低酸素血症を回避すること、また低酸素血症の予防から、酸素吸入を開始する。

(ウ) 人工呼吸管理

酸素吸入によってもPaO2が六〇mmHg以下の低酸素血症、あるいは、PaCO2が五〇mmHg以上の換気不全や努力性呼吸がみとめられれば人工呼吸管理を開始する。

(エ) その他

a 抗生物質

敗血症に対しては、起炎菌を同定し、感受性の高い薬剤を選択し、投与することが理想的であるが、敗血症が疑われる場合は、起炎菌を推定し、ただちに治療を開始すべきとされている。そして、その際には、予想される感染部位から可能性の高い菌種を想定し、それらを十分にカバーする広域スペクトラムを有する抗生物質を投与することが必要である。

b 血液浄化法

血液浄化法とは、物理・化学・生物学的原理を用い、血液中の血漿成分の量的・質的異常を是正すること、または各種の病因物質を血中から除去することにより治療効果を上げようとする治療手段である。血液浄化法の対象となる病因物質は、サイトカイン(多数の異なる細胞から生産され、多数の異なる細胞に働きかけるタンパク物質として定義される)をはじめとする各種のメディエーター及びサイトカインを誘導する重要な一因となっているエンドトキシンである。メディエーターの血中濃度は、MODS症例の重症度に関与しているといわれている。エンドトキシン吸着法(PMX―DHP)とは、ポリミキシンB固定化カラムに血液を直接灌流させ、エンドトキシン(細菌毒素の一種。グラム陰性菌が壊れて、その細胞壁の構成成分であるリポ多糖が遊離し、毒性を発揮する)を吸着除去する血液浄化法をいい、エンドトキシン血症、グラム陰性桿菌敗血症に対し施行する血液浄化法である。持続的血液濾過(CHF)、持続的血液濾過透析(CHDF)とは、血液浄化器(ヘモフィルター)を用い、対流の原理により、血液浄化を持続的に行う方法をいい、血中の各種の病因物質を持続的に除去することが可能であって、急性腎不全、多臓器不全などの重症患者に対する腎補助療法として普及している。エンドトキシン吸着法の適応(健康保険上の適応)は、①エンドトキシン血症であるものまたはグラム陰性菌感染症が疑われるもの、②SIRSの診断基準を満たすもの、③昇圧剤を必要とする敗血症性ショックであるもの、の三項目の全てに該当する場合である。CHDF及びCHFの適応となる症例は、①SIRSが四日以上持続する症例、②メディエーターの血中濃度の高値が遷延する症例、③組織酸素代謝が障害される胃粘膜内pH(gastricpHi)が七・三〇未満が持続するか、あるいは、七・三〇以下へと下降する症例、④細胞障害が認められる症例、⑤重症急性膵炎症例とされている。

c 循環管理

循環管理は、収縮期血圧九〇mmHg、時間尿量〇・五~一・〇ml/kg/時間で、アシドーシスがない状態(アシドーシスとは、動脈血のpH(正常人は七・三六から七・四四)が低下する方向に変動する病的過程をいい、臨床的には、呼吸に与る筋・神経の障害、気道閉塞、過呼吸、努力呼吸、チアノーゼ等がみられる。)を目標にし、スワン・ガンツカテーテルにより心拍出量の確保、血管作動薬(ドパミン、ドブタミン等)の投与が考えられる。

d 輸液、輸血

輸液療法は、維持輸液、細胞外液の補充、体液・電解質異常の補正、栄養補給などがあるが、目的に従い、適切な輸液剤を適切な量で適切なルートから投与することが必要とされている。輸血は、基本的に成分輸血を行い、血液成分の不足により起きている病態を臨床的及び凝固系検査で把握し、それに見合った血液成分を適切な量、輸血することが必要である。

(2)  感染源の除去について

前記認定のとおり、亡太郎は、汚染されたカテーテルが長期間留置されたことにより、感染症に罹患し、平成一三年八月三一日一四時三〇分には、敗血症を発症し、同年九月一日七時には敗血症性ショックに陥っていた。そして、亡太郎に悪寒戦慄を伴う発熱があったこと、生化学検査及び血液検査の結果等からすれば、亡太郎が感染症に罹患したと疑うことは容易であったし、事実、D原医師も、同年八月三一日一六時ころ、亡太郎を診察した際、感染症を疑い、動脈血を採取し、血液培養検査に提出した上、抗生物質(チェナム)の投与を指示した。

前記認定のとおり、敗血症の最も有効な治療法は、感染源の検索と感染源の除去であるとされ、また、カテーテル関連感染症も一定の割合で発生することが認められていることからすれば、D原医師は、亡太郎が敗血症に罹患したのではないかと疑った時点において、感染源の検討をし、感染源としてカテーテルも考えられることを考慮に入れて、ただちにカテーテルを抜去した上、培養検査に提出するなどの処置を行うことも十分に考えられるところであるし、平成一三年九月一日九時過ぎころには、亡太郎が感染症に罹患したと判明したのであるから、遅くとも、この時点において、カテーテルを抜去して培養検査に提出し、抜去後の状況を観察すべきであったにもかかわらず、D原医師は、これを怠った。

(3)  敗血症に対する治療等について

ア 前記のとおり、D原医師は、平成一三年八月三一日に亡太郎が感染症に罹患したのではないかと疑い、動脈血を培養検査に提出するとともに、抗生物質(チェナム)の継続的投与を開始した上、脱水状態を懸念し、輸液(ラクテック)を増量したが、この点についてのD原医師の対応は相当であるといえる。

イ(ア) 別紙「診療経過一覧表」のとおり、亡太郎の動脈血の血液培養検査の結果、亡太郎は、感染症に罹患していると判明したことから、D原医師は、同年九月一日一〇時四五分ころ、抗生物質の効果を上げるため、ヴェノグロブリンの継続投与を開始し、輸液を数度追加した。その後、D原医師は、同月二日九時三〇分に亡太郎を診察し、引き続き抗生物質と輸液で対応するとの治療方針を決定し、輸液の追加等を行った。同月二日一九時五〇分に至り、D原医師は、看護師から、亡太郎の血圧が低いとのドクターコールを受けたことから、強心剤ドパミン及び輸液追加による肺水腫を考慮し循環血漿量を上げるアルブミンを投与した。同日二一時五〇分、D原医師は、看護師から連絡を受けるも、経過観察を指示し、二三時一〇分に看護師より再び連絡を受けるも、同日二三時ころの当直医の処置(利尿剤ラシックスと強心剤ドブトレックスの投与)を妥当と考え、同月三日の朝まで経過観察を指示した。

同月三日の朝、D原医師及び休暇明けのB山医師は、亡太郎を診察し、相談の上、同日中に、血液浄化法を開始することを決定した。その後、同日一二時三〇分から、成分輸血(FFP)を行い、同日一六時三〇分からエンドトキシン吸着法を開始し、同日一九時から血液濾過を開始したが、亡太郎は、同月四日一二時一〇分死亡した。

(イ) 以上のように、同月三日までのD原医師の亡太郎の敗血症に対する治療方針は、基本的には、輸液、抗生物質で対応し、経過観察するというものであった。しかしながら、前記のとおり、亡太郎は、平成一三年八月三一日一四時三〇分に、敗血症を発症し、その後、平成一三年九月一日七時には、敗血症性ショックの状態に陥っていたと認められ、また、D原医師は、同年八月三一日一六時には、感染症を疑い、同年九月一日九時過ぎには、亡太郎がクレブシエラ菌に感染していることを確実に認識したことからすれば、遅くとも、この時から、亡太郎の病状がさらに重篤化し、その結果、多臓器不全を来すことがないように、呼吸状態、循環状態を厳重に管理した上、適切な治療を展開する必要があったといえる。

a 呼吸管理について

別紙「診療経過一覧表」認定のとおり、本件では、看護師の判断で、同年九月二日三時一五分から、酸素投与(三L)が行われ、同二五分には酸素投与量が増量(五L)されたが、同日六時三〇分には、投与を中止された。その後、同日九時三〇分に、酸素投与(五L)が再開されたが、同日一一時三〇分に、中止された。これらの酸素投与及び中止の判断は、主に、亡太郎が、「寒気がします」「らくになりました」などの主訴によって行われたものであり、同日二二時四五分に、当直医の指示によって動脈血の血液ガス分析検査が行われるまで、亡太郎が低酸素状態にあるかどうかの判断が行われることはなかった。

以上のとおり、本件では、同日二二時四五分まで、亡太郎の呼吸状態の把握が行われておらず、前記第三・四・(1)・イ・(イ)に照らして、亡太郎が具体的にいつから酸素吸入を行うべき低酸素状態にあったかは不明であるが、同日三時一五分の酸素投与(三L)に対して、亡太郎が「酸素しているとらくだ」と述べていることからすると、すでにこの時点で、低酸素血症が始まっていた可能性があり、呼吸不全の準備状態の兆候があったと認められる。そうすると、この時点で、漫然と酸素吸入を行うのではなく、パルスオキシメーターの装着等によって、亡太郎の呼吸状態を把握の上、適切な酸素吸入を行うことが相当であった。

加えて、本件では、同日二二時四五分にようやく行われた血液ガス分析検査の結果、酸素飽和度は八一~八三パーセント(PaO2に換算すると、五〇mmHg程度)、酸素投与下でも八八パーセント(PaO2に換算すると、六〇mmHg以下)という低値であったのであるから、前記第三・四・(1)・イ・(ウ)に照らせば、遅くとも、この時点で、気管切開あるいは気管内挿管によって人工呼吸管理を行うべきであった。にもかかわらず、D原医師は、これを行わず、その後、亡太郎が、同月三日六時には、息もたえだえに「なんぎ、こんな人いるんですか……」と訴えても、亡太郎に、呼吸数の低下や努力様の呼吸、酸素飽和度の明かな低値がみられても(同日六時には、酸素マスクをはずすと酸素飽和度は、七四パーセントにまで低下していた)、何ら適切な処置を施すことなく、これを放置し続け、亡太郎が死亡する約三時間前である同月四日九時に至りようやく気管切開を行った。

前記第三・四・(1)・イ・(イ)のとおり、長期間の低酸素血症は、重篤な多臓器不全を進行させる原因となりうるとされていることからすれば、D原医師の、このような呼吸管理の不適切さが、亡太郎の症状を急速に重篤化させた誘因となったと推認できる。

この点、鑑定人は、鑑定において、平成一三年九月二日二二時四五分の時点で、気管切開あるいは気管内挿管を行うべきであったとしながら、補充鑑定においては、同日の胸部X線写真に大きな異常所見がなかったこと、同日九時三〇分に、亡太郎が妻とともに主治医から病状の説明を受けたこと、同日一五時に亡太郎がトイレ歩行したことを根拠に、同日午前中に血液ガス分析検査によって低酸素血症の有無を確認することは望ましかったとはいえるが、同検査を絶対に行うべきであったとは言い難いとして、二二時四五分の時点で、気管切開あるいは気管内挿管を行うべきであったとする、鑑定意見を変更している。《証拠省略》上、トイレ歩行等の事実を認めたからといって、前記のとおり、亡太郎が、二二時四五分の時点で、低酸素血症であったことは明かであり、また重篤な多臓器不全を回避するため、低酸素血症は予防・回避すべきとされていること、等からすれば、トイレ歩行等の事実は、鑑定意見を変更させる合理的理由とは認められず、補充鑑定における鑑定人の意見は、採用できない。

b 以上より、D原医師には、亡太郎に対して、適切な呼吸管理を怠った過失があると言わざるを得ない。

そして、D原医師をはじめとする被告病院医師らが呼吸管理を適切に行い、これに加え、同月一日七時には亡太郎が敗血症性ショックに陥っていたことを考慮して、チェナムの投与量を増量し(チェナムの用量は、一日当たり〇・五グラムから一グラム(三〇分以上かけて点滴静脈内投与、投与間隔は一二時間。)であり、重症・難治性の場合は、一日当たり二グラムまで増量可能であると認められる)、並行的に、スワン・ガンツカテーテルなどによって、収縮期血圧九〇mmHg、時間尿量〇・五~一・〇ml/kg/時間で、アシドーシスがない状態を目標に、循環管理を行い、また、定期的な血液検査を行い(別紙「診療経過一覧表」のとおり、一般血液検査は、同年九月一日、二日には、全く行われていない)、血液成分の不足により起きている病態を臨床的及び凝固系検査で把握し、それに見合った血液成分輸血を実施し、さらに、敗血症性ショックに陥った同日七時の時点で、亡太郎には、エンドトキシン吸着法の保険上の適応はあったのであるから、この時点でエンドトキシン吸着法、また、持続的血液濾過を行っていれば、多臓器障害の急速な重篤化を抑え、長期間の管理が可能であったと認められ、そうすると、同月三日八時二〇分には、培養検査のためにカテーテル先が抜去されたことは明らかであるから、このカテーテル先抜去による、感染源の除去がなされることによって、亡太郎の死亡という結果を回避できた、高度の蓋然性は認められる。

ウ 以上のように、亡太郎の敗血症に対するD原医師の対応は、遅きに失したものであり、特に、呼吸管理の点における過失は大きいものと言わざるを得ない。

なお、本件では、医療チーム体制が採用され、本件手術後も術者である被告病院医師ら三人が主治医として亡太郎を担当していたが、その実体は、それぞれの医師が、回診の際や手の空いた際等に治療経過等を観察、診断及び治療を行うというもので、治療の主導的立場を担う本来的意味での主治医、あるいは、最終的責任者が明確にされていなかったと認められる。そして、本件の医療チーム体制がこのようなものであったことが、D原医師のみならず、被告病院医師ら全員の、亡太郎の敗血症治療に対する責任の認識の不足、認識の希薄化を来たし、これが、亡太郎に対する対応が遅きに失した原因の一端になったものと認められる。そして、このことは、亡太郎の術後の具体的な経過観察等やカルテの記載を主として行っていたB山医師の休暇中に(平成一三年八月三一日から同年九月二日まで)、D原医師が、カルテ上に、何ら記録を残していないことに端的に顕れている。

五  争点(4)(損害額)について

(1)  逸失利益について

《証拠省略》によれば、亡太郎は、死亡当時、五三歳の男性で、その年間所得は一四三四万〇八四一円であり、妻及び子二人を扶養していたものと認められ、生活費控除率は四〇パーセントとすることが相当である。そうすると、原告の基礎収入額を、一四三四万〇八四一円、就労可能年数を一四年とし、年五分の割合による中間利息をライプニッツ方式で控除すると、亡太郎の逸失利益は、次のとおり八五一七万二五四九円となる。

計算式

一四三四万〇八四一円×(一-〇・四)×九・八九八六=八五一七万二五四九円(小数点以下切捨)

(2)  慰謝料について 二八〇〇万円

亡太郎が一家の支柱であったこと及び注意義務違反の態様その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、亡太郎が受けた精神的苦痛に対する慰謝料の額は、二八〇〇万円とするのが相当である。

(3)  葬儀費用 一五〇万円

亡太郎の葬儀費用としては、一五〇万円が、被告病院医師ら及び看護師らの過失と相当因果関係のある損害であると認められる。

(4)  合計

以上の亡太郎の損害額を合計すると、一億一四六七万二五四九円となるところ、原告花子は二分の一(五七三三万六二七四円)、原告一郎、同一江は、各四分の一(二八六六万八一三七円)ずつを相続した。

(5)  弁護士費用 一一三〇万円

原告らが、本件訴えの提起、遂行を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任したことは、本件記録上明らかであるところ、本件事案の内容、認容額等の事情を考慮すると、弁護士費用は、原告花子につき五七〇万円、原告一郎及び原告一江につき、それぞれ二八〇万円が相当因果関係のある損害の一部として認められる。

(6)  そして、これらの損害は、被告病院医師ら及び被告病院看護師らが職務を行うにつきなされた不法行為により生じたものであるから、被告は、民法七一五条に基づき原告花子に対し六三〇三万六二七四円、原告一郎及び原告一江はそれぞれ三一四六万八一三七円の損害賠償及びこれらに対する遅延損害金を支払う義務がある。

第四結論

以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、原告花子に対し六三〇三万六二七四円、原告一郎及び原告一江はそれぞれ三一四六万八一三七円並びにこれに対する不法行為の日である平成一三年九月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条但書を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大工強 裁判官 太田武聖 宮澤志穂)

<以下省略>

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