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新潟地方裁判所 平成14年(行ウ)10号 判決 2004年1月30日

原告 A株式会社

同代表者代表取締役 甲

同訴訟代理人弁護士 大塚武一

同 横田哲明

同補佐人税理士 鈴木茂行

同 飯沼洋子

被告 長岡税務署長

柴田正文

同指定代理人 西村圭一

同 引地俊二

同 奥村耕一

同 曲渕公一

同 高橋紀雄

同 赤塚雅行

同 大庭明夫

同 戸前美恵子

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

被告が、原告に対し、平成10年11月25日付でした平成6年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

第2  事案の概要

被告は、平成10年11月25日、原告に対し、債権放棄を受けたことによる債務免除益が発生していたとして、平成6年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。本件は、原告が、債権放棄を受ける対象となる貸金債務は存在しなかった、債権者から原告に対し債権放棄の意思表示はなされていないなどと主張して、本件更正処分及び本件賦課決定処分の取消しを求める事案である。

1  前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠〔甲1、甲19、乙1〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者

ア 原告

原告は、不動産貸付業等を業とする株式会社であり、甲(以下「甲」という。)が現在の代表取締役である。

乙(以下「乙」という。)は、平成6年12月14日当時、原告の代表取締役であった。

イ 被告

被告は、本件更正処分及び本件賦課決定処分をした長岡税務署長である。

(2)  調停の成立

ア 甲は、平成5年ころ、東京家庭裁判所に対し、乙を相手方とする親族間の紛争調整調停(東京家庭裁判所平成5年(家イ)第5461号事件、以下「本件調停事件」という。)を申し立てた。

イ 本件調停事件について、平成6年12月14日、別紙記載のとおりの調停(以下「本件調停」という。)が成立した(以下、本件調停における調停条項を「本件調停条項」という。)。

(3)  原告による確定申告

原告は、平成7年11月24日付で、平成6年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度の法人税について、所得金額及び納付すべき法人税額を0円とする確定申告(青色確定申告)をした。

(4)  被告による本件更正処分及び本件賦課決定処分

被告は、平成10年11月25日、原告に対し、乙が原告に対する7460万8477円の貸金債権(以下「本件貸金債権」という。)を放棄したことにより、原告に債務免除益(以下「本件債務免除益」という。)が発生したとして、平成6年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度における法人税について、以下のとおりに納付すべき法人税額を2460万0900円とする更正処分(本件更正処分)及び過少申告加算税の額を366万5000円とする過少申告加算税の賦課決定処分(本件賦課決定処分)をし、そのころ、これらの処分は原告に通知された。

① 申告所得額 0円

② 債務免除益の計上もれ 7460万8477円

③ 繰越欠損金の当期控除額の損金算入額 867万2097円

④ 所得金額(①+②-③) 6593万6380円

⑤ 法人税額 2396万6000円

⑥ 課税留保金額に対する税額 63万9000円

⑦ 法人税額計(⑤+⑥) 2460万5000円

⑧ 控除所得税額等 4020円

⑨ 差引所得に対する法人税額(⑦-⑧)

(100円未満の切捨て) 2460万0900円

(5)  原告による異議申立て

原告は、平成11年1月22日、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、異議審理庁に対し、異議を申し立てたが、同審理庁は、同年7月9日、原告の異議を棄却する決定をし、そのころ、同決定は、原告に送達された。

(6)  原告による審査請求

原告は、平成11年8月5日、上記決定を不服として、国税不服審判所に対し、審査請求をしたが、同審判所は、平成14年3月25日、原告の審査請求を棄却する裁決をし、そのころ、同裁決は、原告に送達された。

2  争点

(1)  本件貸金債権の存否

(2)  本件貸金債権についての乙の原告に対する債権放棄の意思表示の有無

(3)  本件更正決定に際して権利金1500万円を損金として考慮することの要否

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(本件貸金債権の存否)について

ア 原告の主張

(ア) 第13期(昭和63年10月1日から平成元年9月30日)の貸付金処理の誤り

乙は、第13期末(平成元年9月30日)に、昭和60年分及び昭和61年分の分譲売上高5880万円(乙分)を昭和60年及び昭和61年分の短期借入金5880万円(乙分)として修正受入する処理と同時に、昭和60年分及び昭和61年分の短期借入金5880万円(乙分)を昭和60年及び昭和61年分の分譲売上高5880万円(乙分)として修正受入する処理をしている。この処理は、実際に現金が移動した貸付があったわけではなく、あくまで会計帳簿上の処理であるので、これにより貸付金が発生するためには、修正されたそもそもの勘定科目(分譲売上高)にこれに対応するものが存在しなければならない。

しかし、原告の勘定総元帳には、昭和60年及び昭和61年中、乙に対する分譲売上高は存在しない。したがって、上記処理は誤った会計処理である。

よって、この処理により、乙が原告に対して貸金債権を取得することはありえないので、少なくとも5880万円の限度では、本件貸金債権は存在しない。

(イ) 甲と乙の関係

甲と乙の間では、昭和33年にBを共同事業として始めた時から、一貫して、乙が会計経理を担当していた。甲と乙は、平成5年に仲違いをするまで、共同事業を続けていたが、その間、営業上の利益の取り分は、互いに半分ずつとすることになっていた。

具体的には、以下のような事情があった。

a 第10期(昭和60年10月1日から昭和61年9月30日)の火災保険金第10期の借入金残額1億6021万0830円のうち7000万円は、昭和60年6月1日に発生した新潟県三島郡所在の建物の火災事故について支払われた火災保険金を、乙が投入したものである。この建物は5人の共有であり、便宜上乙を火災保険の契約者及び保険金受取人として火災保険をかけたものであったが、この火災保険の保険料は共有者の負担となっていたので、共有者間では、保険金は共有のものと考えられていた。

したがって、その資金を会社に投入したとすれば、それは、共有者全員の原告に対する貸金に相当するものであり、全てを乙の原告に対する貸金とするのは誤りである。

b 甲による拠出金の処理

甲は、姉である乙を信頼し、自身の原告に対する拠出金の処理等を一切任せていた。乙は、その信頼をよいことに、その資金を自分が原告に貸し付けたように処理していた。

例えば、乙と甲が共同で行った茨城県牛久地区での住宅開発事業で、乙は、分譲代金の50パーセントは甲の分として計算しながら、昭和50年から昭和58年までに清算すべきであった1706万8851円について、乙の資金として会社に投入した。

c Cに対する貸付

乙が、昭和55年に、Cに対して貸し付けたとする629万9500円については、何ら証拠資料が残っていない。

(ウ) 本件調停条項第5項について

家庭裁判所の解決は、当事者間の合意が頼りであることがほとんどであるので、家庭裁判所において当事者間で合意された一つ一つの事実は公定された事実ではなく、家庭裁判所で合意された事実はそもそも事実認定作業が行われていない。

また、本件調停条項第5項は、原告の経営権を甲が承継する際に、乙が原告の経営を妨害しないようにするために、その債権自体の存在はともかく置いた上で、金額など極めてラフに条項化したものに過ぎない。

したがって、本件調停条項第5項は本件貸金債権が存在したことの証拠とはならない。

(エ) 本件更正処分及び本件賦課決定処分は、甲と仲違いをした乙が、上記のような調停の経緯を無視して、あえて本件調停の調停調書を税務署に持ち込み、税務署をして多額の課税をさせようとしたことに端を発したものである。

原告及び甲は、これにより被害を被っているに過ぎない。

(オ) 以上より、本件貸金債権は存在しない。

イ 被告の主張

(ア) 商業帳簿等の記載

本件においては、原告が各事業年度の確定申告書を原告の確定した決算に基づいて作成し、これを被告に提出していると認められるところ、確定申告書に添付された勘定科目内訳明細書には、乙からの借入金が記載され、また、原告備付けの総勘定元帳に昭和60年9月期から乙からの借入金としてその金額の増減が継続して記帳されており、当該元帳の各事業年度末における乙からの借入金残高と、上記原告の確定申告書に添付された勘定科目内訳明細書に記載された乙からの借入金残高も一致している。

したがって、各事業年度末における乙に対する原告の借入金残高は、法人税法の適用上、原告の乙に対する債務であることは明らかである。

(イ) 本件調停の存在

本件調停は、本件貸金債権の債権者であり、調停成立当時、原告の代表取締役であった乙及び取締役であった甲を当事者とし、甲の夫である丙(以下「丙」という。)及び乙の夫である丁(以下「丁」という。)を利害関係人として成立したものであり、本件調停条項第5項によれば、「相手方は、申立外A株式会社に対して、昭和53年12月10日から平成6年9月30日までの間に両者間で締結された金銭消費貸借契約に基づいて有する合計金8000万円の貸付金債権を放棄する。」とされている。

調停は、当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有するものであるところ、上記のように、当時の原告の代表取締役であった乙及び取締役であった甲は、本件貸金債権の存在を認めた上で本件調停を受け入れているのであるから、本件貸金債権が存在したことは明らかである。

(2)  争点(2)(債権放棄の意思表示の有無)について

ア 原告の主張

被告は、平成6年12月14日の調停成立と同時に、債権放棄の意思表示がなされたと主張するが、そのような事実はない。

本件調停事件には、当事者として自然人は出席しているが、法人である原告は当事者となっておらず、かつ、いかなる立場でも、法人は出席していない。仮に、調停の場において、債権放棄の意思表示が発せられたとしても、その意思表示は、調停に出席していない原告には到達していない。さらに、本件調停の調停調書には、債権放棄をいつまでに行うか期限等が一切定められていない(調停で債権放棄がなされる場合、当然のことながら、調停の成立以降の調停期日外において行われることを予定したものである。)。

乙、丁及び戊が、平成10年6月25日付で、原告に対し、債権を放棄する内容の内容証明郵便を送っているが、これは、本件調停で合意したとされる金額と異なり、また、乙他2名の債権も記載された内容となっているので、本件調停条項に基づいた放棄の意思表示をしたものではなく、仮に、本件貸金債権の本件調停条項に基づく放棄の意思表示にあたるとしても、これにより、平成6年12月14日に、本件貸金債権について、債権放棄の意思表示がなされたことにはならない。

以上より、本件貸金債権を放棄する意思表示は、そもそも存在しないし、原告に到達もしていない。

イ 被告の主張

債権放棄(債務免除)については、債権者が債務者に対して債務を免除する意思表示をしたときにその債権が消滅する(民法519条)ところ、本件においては、有効に成立した調停条項第5項に、「相手方は、申立外A株式会社に対して、昭和53年12月10日から平成6年9月30日までの間に両者間で締結された金銭消費貸借契約に基づいて有する合計金8000万円の貸付金債権を放棄する。」と記載されているのであり、平成6年12月14日の調停成立と同時に、乙が、本件調停条項第5項の合意に基づき、原告の代表者である乙に対して、現実に債務免除の意思表示を行い、これが到達したものと認められる。平成10年6月25日付内容証明郵便は、債務免除後の事情であり、平成6年12月14日に債務免除の意思表示がされたこととは関係ない。

したがって、乙の原告に対する債権放棄の効果が生じていることは明らかである。

(3)  争点(3)(権利金を損金として考慮することの要否)について

ア 原告の主張

原告は、第7期(昭和57年10月1日から昭和58年9月30日まで)に、新潟県長岡市に建築した店舗の1階を株式会社D(代表者は乙である。)に賃貸した。

乙は、昭和63年9月30日、この建物を原告から買い受け、乙がこの建物を原告に貸す賃貸借契約が締結され、その際、原告は、権利金1500万円を乙に支払った(平成4年10月1日以降、この賃貸借契約は解消された。)。

ところが、この権利金は、平成5年10月1日に、土地勘定に振り替えられて消滅している。

上記権利金の処理は、正しくは次のようになされるべきである。上記賃貸借契約は、第15期(平成2年10月1日から平成3年9月30日まで)において解消されたのであるから、繰延資産である権利金は、第15期で損金処理されなければならなかった。ところが、それがなされなかったために、青色申告欠損金の額が過小となってしまったのである。したがって、各事業年度の翌期に繰り越すべき正しい青色申告欠損金は、次のとおりとなるはずである。

第15期 2019万7489円(誤った繰越欠損金が519万7489円であったから、1500万円の欠損金が増加する。)

第16期 2307万5039円

第17期 2423万3815円

第18期 2383万5344円

よって、更正処分における税額計算では、繰越欠損金の当期控除額損金算入は、正しくは、2383万5344円であるから、当初申告による所得16万3247円を控除した2367万2097円が損金算入されなければならない。課税の更正がなされる場合には、単に税金を増額する方向にだけではなく、控除すべきものがあれば、同一の機会に精査されるべきであるから、上記の処理に従った更正がなされるべきであるところ、本件更正処分は、そのような処理をしていないので違法である。

イ 被告の主張

(ア) 原告が主張する事実は、客観的な証拠に基づくものではなく、その事実の存否が不明であるから、その点において既に失当であると言わざるをえない。

(イ) 仮に、その点をおくとしても、原告の主張は失当である。

内国法人が欠損金額の生じた年度について青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合において、各事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、当該欠損金を控除しなかった場合における当該各事業年度の所得の金額を限度として損金の額に算入する旨規定されている(法人税法57条1項、7項)。

しかし、青色申告者である法人が、ある事業年度において申告した欠損金額に誤りがあり、当該事業年度の欠損金額を是正するためには、当該事業年度についての更正の請求をし(国税通則法23条)、または、当該事業年度に更正処分があった場合には当該更正処分に対する不服申立をしなければならないから(同法75条)、当該事業年度についての更正の請求や更正処分に対する不服申立を経ることなく、その誤りを前提として、後の事業年度において更正の請求をしたり、更正処分の取消を求めることはできないと解される。

これを本件についてみると、被告は、平成3年9月期に原告に対する更正処分を行っていないし、また、原告は、平成3年9月期の法人税の確定申告について、更正の請求も行っていないのであるから、仮に平成3年9月期に翌期以降に繰り越す欠損金があるとしても、本件事業年度において、当該欠損金を損金の額に算入することはできないというべきである。

第3  当裁判所の判断

1  認定事実

(1)  勘定科目内訳明細書

前記前提事実及び証拠(甲22、乙2)によれば、以下の事実が認められる。原告が、平成6年11月24日付で、平成5年10月1日から平成6年9月30日までの事業年度について確定申告をした際に確定申告書に添付した同事業年度にかかる勘定科目内訳明細書の「借入金及び支払利子の内訳書」欄に、下記の記載がある。

借入先 乙

法人・代表者との関係 本人

所在地(住所) 中野区中野

期末現在高 74,608,477

(2)  本件調停条項

前記前提事実及び証拠(乙1)によれば、以下の事実が認められる。

平成6年12月14日、本件調停事件について、甲(申立人)、大塚武一(甲の代理人弁護士)、丙(利害関係人)、乙(相手方)、丁(利害関係人)及び中田好泰(乙及び丁の代理人弁護士)が出頭した上で、本件調停条項のとおりの調停が成立した。

本件調停条項第5項は、「相手方は、申立外A株式会社に対して、昭和53年12月10日から平成6年9月30日までの間に両者間で締結された金銭消費貸借契約手続に基づいて有する合計金8000万円の貸付金債権を放棄する。」というものである。

2  争点(1)(本件貸金債権の存否)について

(1)  前記前提事実及び上記認定事実によれば、①平成5年10月1日から平成6年9月30日までの事業年度の確定申告書に添付された同事業年度にかかる勘定科目内訳明細書の「借入金及び支払利子の内訳書」欄に、原告は乙から7460万8477円の借入金がある旨記載されていること、②本件調停において、甲と乙との間で、乙が原告(A株式会社)に対して有する合計8000万円の貸付金債権を放棄する旨の合意が成立したことが認められるところ、上記勘定科目内訳明細書は原告自身が確定した決算に基づいて作成し確定申告書に添付して提出されたものであること、本件調停は甲及び乙がそれぞれ代理人弁護士に付き添われて出頭し、合意した上で成立したものであること、上記①及び②の貸金の額が近似するものであることに照らすと、本件貸金債権は存在したものと認められる。

(2)ア  ところで、原告は、本件貸金債権のうち5880万円は、第13期末(平成元年9月30日)に、分譲売上高5880万円(昭和60年及び同61年分、乙分)を短期借入金に修正受入したために発生したものであるところ、原告の昭和60年及び昭和61年の総勘定元帳には、これに対応する分譲売上高5880万円の記載が存在せず、そもそも乙の分譲売上高5880万円は存在しなかったから、本件貸金債権も少なくとも5880万円の限度では存在しないと主張する。

しかし、平成元年9月30日に上記のような修正受入がなされた事情が判然とせず、しかも、原告の主張を認めるに足りる的確な証拠もないので、直ちに本件貸金債権のうちこれに対応する5880万円部分が存在しないと認めることはできない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

イ  また、原告は、そのほか様々な事情を主張して、本件貸金債権は存在しなかったと主張するが、いずれもそれを認めるに足りる的確な証拠がなく失当である。

2  争点(2)(債権放棄の意思表示の有無)について

株式会社においては、その代表者である代表取締役が会社の営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為を行う権限を有するため(商法261条3項、78条)、これに対する意思表示は、その代表取締役に対して行えば足りる。

これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件調停において甲と乙との間で、乙が原告(A株式会社)に対して有する合計8000万円の貸付金債権を放棄する旨の合意が成立したことが認められるが、前記前提事実のとおり、本件調停が成立した平成6年12月14日当時、原告の代表取締役は乙であったこと、また、原告、乙及び甲らの権利関係を清算するという本件調停の趣旨からすれば、本件貸金債権はこの8000万円の貸付金債権に含まれると認められることから、この合意の成立により、個人としての乙から原告代表者としての乙に対して、本件貸金債権について債権放棄の意思表示が行われるとともにこれが到達したものと認められる。

3  争点(3)(権利金を損金として考慮することの要否)について

(1)  原告は、昭和63年9月30日ころ、乙から新潟県長岡市の店舗を賃借した際に、乙に対し権利金として支払った1500万円が、平成5年10月1日に土地勘定に振り替えられて消滅していることについて、上記賃貸借契約は、第15期(平成2年10月1日から平成3年9月30日まで)において解消されたから、繰延資産である権利金は、第15期で損金処理されなければならなかったが、それがなされなかったため、それ以後の各事業年度の翌期に繰り越すべき青色申告欠損金が過少になるという誤りが生じているのに、本件更正処分はこれを看過しているので違法であると主張する。

しかし、原告に1500万円の権利金が計上されるに至った経緯、上記賃貸借契約の始期・終期、さらにはその存否自体について、これらを裏付ける証拠は何らなく、また、権利金計上後の償却状況も判然としないから、この1500万円が、第15期で損金処理されるべき損金であったと認めることはできない。

(2)  したがって、本件更正処分にあたって、この1500万円を、第15期で損金処理されるべき損金として考慮する必要はない。

4  よって、本件更正処分及び本件賦課決定は、原告が乙から本件貸金債権について債権放棄を受けたことを前提に、租税法規に則って実施されたものであるから、いずれも違法はない。

5  結論

以上の次第で、本訴請求は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 太田武聖 裁判官 佐藤康憲)

(別紙)

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当事者目録

住所

申立人 甲(出頭)

同代理人弁護士 大塚武一(出頭)

住所 申立人に同じ

利害関係人 甲(出頭)

住所

相手方 乙(出頭)

住所 相手方に同じ

利害関係人 丁(出頭)

両名代理人弁護士 中田義泰(出頭)

同 内野経一郎、浦岡由美子、仁平志奈子、(各不出頭)

同 春日秀一郎、栗原正一(各不出頭)

調停条項

1(1) 申立人及び利害関係人丙(以下、「申立人ら」とする。)と相手方及び利害関係人丁(以下、「相手方ら」とする。)は、本日、申立人らの所有するEビル株式会社の株式2万株と、相手方らの所有するA株式会社の株式2万800株とを交換する。

(2) 申立人ら及び相手方らは、前項株式の交換が等価によって行われ課税対象外となることを相互に確認する。

2(1) 申立人及び相手方は、本日、申立人の所有する別紙物件(一)記載建物(以下、「Eビル5階」という。)の区分所有権と、相手方の所有する別紙物件目録(二)記載建物(以下、「Fハイツ1階」という)。の区分所有権を交換する。

(2) 申立人及び相手方は、それぞれ前項の交換を原因とする各区分所有権移転登記手続をする。

ただし、登記手続費用は各区分所有権取得者が負担するものとする。

(3) 申立人及び相手方は、前期第2(1)項の区分所有権の交換については各々の評価額を金5000万円とする等価交換によるものとし、申立人及び相手方間において金銭その他の授受はこれをしない。

(4) 申立人は相手方に対し、Eビル5階部分の店舗賃貸借契約に基づき保管している保証金の返還金として金2000万円の支払義務があることを認め、平成7年2月15日限り、相手方代理人の指定する金融機関の普通預金口座に振込んで支払う。

相手方は申立人に対し、Fハイツ1階の店舗賃貸借契約に基づき保管している保証金の返還金として金250万円及び申立外株式会社Aが保管している敷金の返還金として金450万円の合計金700万円の支払義務あることを認め、平成7年2月15日限り、申立代理人の指定する金融機関の普通預金口座に振込んで支払う。

3 相手方らは、申立外A株式会社の役員を辞任する。

4 申立人は、平成5年9月29日に申立外A株式会社が同G信用金庫本店より借り受けた金7000万円の金銭債務について連帯保証をし、同信用金庫に対して、別紙物件目録(二)記載の物件につき抵当権等の担保権を設定するものとする。

相手方は、上記金銭債務について引き続き連帯保証するものとする。

ただし、申立人及び相手方は、右金銭債務についての求償に関する負担割合を、申立人がその全部とし、相手方は零とする。

5 相手方は、申立外A株式会社に対して、昭和53年12月10日から平成6年9月30日までの間に両者間で締結された金銭消費貸借契約に基づいて有する合計金8000万円の貸付金債権を放棄する。

6 利害関係人丙は、相手方に対し、本日、別紙物件目録(三)・1ないし3記載の土地の各共有持分を、代金額金1461万8300円で売渡し、相手方はこれを買い受ける。

7 申立人らは、相手方に対し連帯して、下記(1)・(2)記載の合計金1461万8300円の返還債務を負担していることを確認する。

(1) Eビル看板料未払金747万8000円

(2) 昭和59年9月30日締結された別紙物件目録(四)記載の居宅及び店舗売買契約に関する求償金支払債務残金714万300円

8 申立人らと相手方は、前記第6項記載の代金債務と第7項記載の各金銭債務と対当額で相殺する。

9 相手方は、申立人に対し、今後、両者の父である申立外Hを相手方の費用において扶養し、申立人に一切の費用を請求しない。

よって、相手方は、父Hを申立人の住所地である長岡市から相手方の住所地である東京都に引き取り、申立人は相手方に対し、その余の扶養の方法その他父の生活に関し、干渉をしないことを確認する。

10 申立人らと相手方らとの間、申立人と申立外A株式会社及び同Eビル株式会社との間、相手方と申立外A株式会社及び同Eビル株式会社との間には、本件紛争に関し、本条項に定めるほか、相互に何らの債権債務のないことを相互に確認する。

11 調停費用は各自の負担とする。

以上

物件目録(一)

1 建物の表示

所在 東京都中野区

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付5階建

床面積 1階 102.26平方メートル

2階 102.26平方メートル

3階 102.26平方メートル

4階 102.26平方メ7トル

5階 102.26平方メートル

地下下1階 102・26平方メートル

専有部分

家屋番号 中野

種類 店舗

構造 鉄筋コンクリート造1階建

床面積 5階部分 77.50平方メートル

物件目録(二)

1 建物の表示

所在 新潟県長岡市

建物の番号 Fハイツ

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根6階建

床面積 1階 682.00平方メートル

2階 517.71平方メートル

3階 360.75平方メートル

4階 360.75平方メートル

5階 360.75平方メートル

6階 21.04平方メートル

敷地権の目的たる土地の表示

土地の符号1

所在及び地番 長岡市

地目 宅地

地積 810.00平方メートル

土地の符号2

所在及び地番 長岡市

地目 宅地

地積 20.02平方メートル

土地の符号3

所在及び地番 長岡市

地目 宅地

地積 330.00平方メートル

2 専有部分

家屋番号 蓮潟

建物の番号

種類 店舗

構造 鉄筋コンクリート造1階建

床面積 1階部分610.82平方メートル

敷地権の表示

土地の符号1・2・3について

敷地権の種類 所有権

敷地権の割合 188488分の61082

物件目録(三)

一 所在 青森県上北郡

地番

地目 原野

地積 10413平方メートル

のうち持分33分の5

二 所在 青森県上北郡

地番

地目 原野

地積 22297平方メートル

のうち持分33分の5

三 所在 青森県上北郡

地番

地目 原野

地積 69008平方メートル

のうち持分695分の150

物件目録(四)

1 建物の表示

所在 新潟県長岡市

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根6階建

床面積 1階 682.00平方メートル

2階 517・71平方メートル

3階 360・75平方メートル

4階 360・75平方メートル

5階 360.75平方メートル

6階 21.04平方メートル

敷地権の目的たる土地の表示

土地の符号1

所在及び地番 長岡市

地目 宅地

地積 810.00平方メートル

土地の符号2

所在及び地番 長岡市

地目 宅地

地積 20.02平方メートル

土地の符号3

所在及び地番 長岡市

地目 宅地

地積 330.00平方メートル

2 専有部分

家屋番号 C

建物の番号

種類 居宅

構造 鉄筋コンクリート造1階建

床面積 2階部分106.63平方メートル

敷地権の表示

土地の符号1・2・3

敷地権の種類 所有権

敷地権の割合 188488分の10663

3 専有部分

家屋番号 F

建物の番号

種類 店舗

構造 鉄筋コンクリート造1階建

床面積 2階部分119.03平方メートル

敷地権の表示

土地の符号 1・2・3

敷地権の種類 所有権

敷地権の割合 18848分の11903

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