新潟地方裁判所 平成14年(行ウ)2号 判決 2003年2月07日
原告
株式会社A
同代表者代表取諦役
甲
同訴訟代理人弁護士
宮本裕将
被告
新潟税務署長 木村徹男
被告指定代理人
本田利美
同
磯野宏
同
佐久間光男
同
曲渕公一
同
角屋順一
同
赤塚雅行
同
鈴木茂夫
同
櫻井保晴
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が、有限会社Bの平成10年7月1日から平成11年6月30日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正の請求に対して、平成11年12月28日付でなした更正をすべき理由がない旨の通知処分(新潟法書法第503号)を取り消す。
第2事案の概要
本件は、有限会社B(以下「B」という。)の平成10年7月1日から平成11年6月30日までの事業年度(以下「本件課税期間」という。)に係る消費税及び地方消費税(以下まとめて「消費税等」という。)の確定申告について、Bがした更正請求に対し、被告が更正をしない旨の通知処分(新潟法書法第503号、以下「本件通知処分」という。)をしたため、Bを吸収合併した原告が、被告に対し、消費税額の課税標準額の計算、控除対象仕入額の計算に誤りがある等の違法があるとして、本件通知処分の取消しを求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠〔甲1ないし6〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
原告は、パチンコ業を営む事業者であり、平成12年1月1日ころ、本件通知処分を受けたBを吸収合併した(甲1)。
被告は、本件通知処分をした新潟税務署長である。
(2) Bによる確定申告
Bは、本件課税期間にかかる消費税等の確定申告に際し、Bが顧客から収受した貸玉料の総額を課税資産の譲渡等の対価の額とし、かつ、パチンコ業を第5種事業として簡易課税を適用して納付すべき消費税額を計算し、平成11年8月31日、以下の内容の確定申告をした(甲2、以下「本件確定申告」という。)。
ア 消費税
(ア) 課税標準額
27億2028万8000円
(イ) 課税標準額に対する消費税額
1億0881万1520円
(ウ) 控除対象仕入税額
5467万7889円
(エ) 差引消費税額
5413万3600円
(オ) 中間納付税額
159万5500円
(カ) 納付消費税額
5253万8100円
イ 地方消費税
(ア) 地方消費税の課税標準額となる消費税額
5413万3600円
(イ) 譲渡割額
1353万3400円
(ウ) 中間納付譲渡割額
39万8800円
(エ) 納付譲渡割額
1313万4600円
ウ 納付すべき消費税及び地方消費税の合計額
6567万2700円
(3) Bによる更正請求及び被告による通知処分
ア Bは、平成11年11月2日、被告に対し、過大な消費税等を納付する誤りがあったとして、納付すべき消費税額を確定申告額である5253万8100円から644万4200円へ、納付すべき地方消費税額を確定申告額である1313万4600円から161万1100円へと是正するよう求めるため、以下の内容の更正請求を行った(甲3)。
(ア) 消費税
a 課税標準額
4億1559万2000円
b 課税標準額に対する消費税額
1662万3680円
c 控除対象仕入税額
858万3968円
d 差引消費税額
803万9700円
e 中間納付税額
159万5500円
f 納付消費税額
644万4200円
(イ) 地方消費税
a 地方消費税の課税標準となる消費税額
803万9700円
b 譲渡割額
200万9900円
c 中間納付譲渡割額
39万8800円
d 納付譲渡割額(甲3では「納税譲渡割額」と記載)
161万1100円
イ 被告は、平成11年12月28日、上記更正請求に対し、更正すべき理由がない旨の通知処分(本件通知処分)をした(甲4)。
(4) 原告による不服申立て
ア 原告は、平成12年1月1日ころ、Bを吸収合併し、平成12年2月21日、被告の本件通知処分に対し、異議申立をなしたが、関東信越国税局長は、平成12年5月8日、これを理由がないとして棄却する決定をした(甲5)。
イ さらに、原告は、平成12年5月31日、国税不服審判所長に対し、審査請求をなしたが、同所長は、平成13年10月31日、これを理由がないとして棄却する裁決をした(甲6)。
ウ 原告は、上記裁決に不服があるとして、平成14年1月29日、本件訴えを提起した。
2 争点
(1) パチンコ業における消費税の課税標準の基礎となる課税資産の譲渡等の対価の額の算出方法
(2) パチンコ業は、簡易課税の事業区分において、第2種事業と第5種事業のいずれに該当するか。
(3) パチンコ業における課税資産の譲渡等の対価の額をパチンコ店が顧客から対価として収受した貸玉料の総額としてこれを消費税の課税標準額とし、かつ、簡易課税を適用するに際し、パチンコ業を第5種事業に区分して消費税等の税額を算出することの適法性
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(消費税の課税標準)について
ア 原告の主張
パチンコ業においては、パチンコ店が顧客から収受した貸玉料の総額から返金額(景品の交換形態による返金)を差し引いた差額が課税資産の譲渡等の対価の額であり、これが課税標準となるのであるから、本件確定申告の消費税の課税標準額の計算には誤りがある。
(ア) 貸玉料の対価及び景品交換の性質
パチンコ業においては、顧客は景品交換にあたりパチンコ店から特殊景品の交換を受け、これを景品交換所に持ち込むことで換金することができ、また、パチンコ店は顧客から収受した貸玉料を景品交換により高率で顧客に還元しているのであるから、パチンコ店が顧客から収受する貸玉料は顧客からの預り金である。パチンコ店は、遊技の過程を経た顧客からパチンコ玉またはメダル(以下、まとめて「遊技玉」という。)の引取りを求められた場合には、景品交換の形態により、実質的に顧客からの当該預り金を返金することになるのであるから、預り金から返金額を差し引いた差額が課税資産の譲渡等の対価の額となる。
仮に、顧客からの交付額を預り金と評価せず、遊技玉の対価あるいは遊技玉の利用のみによる役務の提供の対価金と解しても、景品交換による実質的返金が予定されているパチンコ業の基本的な形態からすれば、最終的に、遊技玉の返還に対応して譲渡された景品等の額を控除した額が課税資産の譲渡等の対価の額とされるべきである。
(イ) 消費税法基本通達10-1-15の「返品又は値引き若しくは割り戻し」
(ア)のようなパチンコ業の実態からすれば、顧客からの遊技玉の引き取りとそれに対応する特殊景品等の交付は、消費税法基本通達10-1-15の「返品又は値引き若しくは割り戻し」に該当するので、(ア)のような処理をしないのであれば、パチンコ店が収受した貸玉料の総額から顧客に交付された景品等の額を控除した額が課税資産の譲渡等の対価の額となる。
イ 被告の主張
パチンコ店が顧客から対価として収受した貸玉料の総額が課税資産の譲渡等の対価の額であり、これが消費税の課税標準となるのであるから、本件確定申告の消費税の課税標準額の計算に誤りはない。
パチンコ店は、顧客に遊技玉を貸与し、店内に設置されたパチンコ台または回胴式遊技機(以下、まとめて「遊技機」という。)及び当該施設を利用させて対価を得る事業であるから、その一連の行為は、消費税法2条1項8号に規定する「資産の譲渡等」にあたり、かつ、同法6条1項により消費税を課さないこととされるものには該当しないから、同法2条1項9号に規定される「課税資産の譲渡等」に該当し、パチンコ店が顧客から対価として収受した貸玉料の総額が課税資産の譲渡等の対価の額となる。
(ア) 原告の主張(ア)に対する反論
パチンコ店は、顧客から収受した貸玉料を、現金をもって返還しておらず、そのようなことも予定されていないので(特殊景品を換金する景品換金所は、パチンコ店とは独立した事業者である。)、貸玉料を「預り金」と解することはできない。
また、パチンコ店における賞品の提供は、貸玉料を支払った顧客に対するサービスの一環であって、貸玉料の返金として行われるわけではない。
(イ) 原告の主張(イ)に対する反論
パチンコ店における景品等の交付は、パチンコ店が、顧客が獲得した出玉の数に応じて、景品との交換という形で賞品を提供しているにすぎず、顧客は、パチンコ店から貸与を受けた遊技玉を利用して出玉を獲得しているのであるから、顧客が貸与を受けた遊技玉を返品等しているとみることはできない。また、Bは、消費税法基本通達10-1-15の定めに沿った経理処理もしていない。
(2) 争点(2)(簡易課税の事業区分)について
ア 原告の主張
仮に、顧客から収受した貸玉料の総額を課税資産の譲渡等の対価の額とし、これを消費税の課税標準とした場合、簡易課税を適用するにあたっては、パチンコ業は第5種事業ではなく、第2種事業に該当するのであるから、本件確定申告には、消費税の控除対象仕入額の計算に事業区分を誤ったことによる誤りがある。
事業区分は事業の実質的内容に基づき判断されなければならないところ、パチンコ店は、他の事業者から景品とする商品を仕入れ、当該商品の性質及び形状を変更せずに遊技玉との交換を通じて一般顧客に販売していると解することができるので、パチンコ業は実質的に消費税法施行令57条5項2号、6項の小売業に該当し、第2種事業に該当する(消費税法基本通達13-2-4なお書き、同13-2-2)。また、Bの財務諸表には売上原価が計上されており、小売業と同様の会計処理が採用されている。
イ 被告の主張
パチンコ業は第2種事業(小売業)ではなく、第5種事業(不動産業、運輸通信業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く。))に該当するので、本件確定申告の事業区分に誤りはなく、消費税の控除対象仕入額の計算に誤りはない。
パチンコ業は、顧客に対し、貸玉料を対価として遊技玉を貸し出し、遊技機及び遊戯施設を利用させ娯楽というサービスを提供する事業であり、パチンコ店が顧客に対して、顧客が獲得した遊技玉の数に応じて景品を提供することがあるとしても、当該景品は直接対価を得て販売するものではないから、消費税法施行令57条5項2号、6項に定める小売業にはあたらない。また、財務諸表に売上原価を計上することが直ちに第2種事業と判定すべき根拠となるものでもない。
消費税の控除対象仕入額を簡易課税制度によって計算する場合、第3種事業及び第5種事業の事業区分については、おおむね総務庁(現、総務省)の定めた日本標準産業分類(以下「日本標準産業分類」という。)の大分類に掲げる分類を基礎として判定する取り扱いをしている(消費税法基本通達13-2-4)ところ、日本標準産業分類において、パチンコ業はサービス業に分類されている。
(3) 争点(3)(貸玉料の総額を課税標準とし、かつ、パチンコ業を第5種事業に区分することの適法性)について
ア 原告の主張
パチンコ業における課税資産の譲渡等の対価の額をパチンコ店が顧客から対価として収受した貸玉料の総額としてこれを消費税の課税標準額とし、かつ、簡易課税の適用に際し、パチンコ業を第5種事業に区分して消費税等の税額を算出する方法は、不合理で違法である。
仮に、顧客から収受した貸玉料の総額を課税標準額として、本則課税により納付すべき消費税額を計算した場合、概算で1729万8000円となるが、これはBが確定申告の際に算出した6766万7000円(このうちパチンコ事業にかかるのは6478万0000円である。)と比較して多額の開差がある。本則課税と簡易課税でこのような多額の開差が生ずることは、中小事業者の事務負担を考慮して消費税額計算の簡便化を図るという簡易課税制度の制度趣旨や、簡易課税制度が本則課税との公平性や納税事務の習熟度合い等に応じて改正されてきたことを考慮すると不合理といわざるを得ないが、その原因は、課税標準の算定基礎たる売上高の測定方法に誤りがあるか又はパチンコ業を第5種事業としたことに誤りがあるかのいずれかである。
また、パチンコ業においては、高率で景品交換に応じているのが実態であり、パチンコ店が顧客から収受する貸玉料に比して、パチンコ店が得る利益は少ない。にもかかわらず、パチンコ店が顧客から対価として収受した貸玉料の総額を課税資産の譲渡等の対価の額とし、かつ、パチンコ業を第5種事業に区分して、消費税等の額を算出すると、パチンコ店は、実質上の売上げ及び利益に比して、莫大な消費税等の負担を被ることになり、企業としての存続が危うくなることは必至である。
イ 被告の主張
パチンコ業における課税資産の譲渡等の対価の額をパチンコ店が顧客から対価として収受した貸玉料の総額としてこれを消費税の課税標準額とし、かつ、簡易課税の適用に際し、パチンコ業を第5種事業に区分して、消費税等の税額を算出することは適法である。
簡易課税制度は、中小企業の納税事務の負担軽減を図るために、売上げに係る消費税等の額の一定割合を仕入に係る消費税等の額とみなすことにより簡易に納税額を算出できるようにした制度であるところ、事業者が簡易課税の方法を選択するか否かは事業者に任されている。そして、事業者は自己の平生の取引内容、その将来性を十分吟味してその選択をすることができるのであるから、事業者が簡易課税を選択した以上、仮にある課税期間について、簡易課税を適用して算出された税額が本則課税により算出された税額を上回ったとしても、簡易課税を適用して算出された税額が適法に算出されている限り、何ら不合理、違法となるものではない。
第3争点に対する判断
1 争点(1)(消費税の課税標準)について
(1) 原告の主張(ア)について
ア 消費税の課税標準
課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、「課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)」であり(消費税法28条1項)、「課税資産の譲渡等」とは、資産の譲渡等のうち、同法6条1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものであり(同法2条1項9号)、「資産の譲渡等」とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供である(同法2条1項8号)。
イ パチンコ業の事業の概要
パチンコ業の事業の概要は、パチンコ店が顧客から金銭(貸玉料)を受け取り、それと引き換えに顧客に対し遊技玉を貸与し、遊技玉の貸与を受けた顧客がパチンコ店内に設置された遊技機で遊技をし、その結果、顧客は自らが獲得した遊技玉とパチンコ店が提供する景品とを交換する(顧客が遊技の過程で遊技玉を全て喪失することもあり、そのような場合には、顧客は景品を得ることができない。)というものである(パチンコ業の概要の基本的な部分については当事者間に争いがない。)。
ウ パチンコ店が収受する貸玉料及びパチンコ店による景品交換の性質
(ア) 以上のパチンコ業の概要を前提に、通常の経験則をもって判断すれば、パチンコ店は、顧客に貸し出す貸玉料の対価として顧客から貸玉料を受け取るものであり、顧客にパチンコ店の店舗そのものやパチンコ店内に設置された遊技機を利用させる事業であり、景品交換はそのサービスの一環であると評価できる。
(イ) これに対し、原告は、パチンコ店が収受する貸玉料は顧客からの預り金であり、パチンコ店による景品交換は実質的に返金にあたると主張するが、このような評価は、以下の理由から妥当でない。
顧客は、遊技玉を借り受けるにあたり、パチンコ店に対し貸玉料を現金の形で交付するものであるが、顧客はこの貸玉料について、景品交換により獲得した遊技玉に応じた対価を得ることができる可能性はある(もっとも、顧客は、遊技の過程で遊技玉を全て失えば、パチンコ店に交付した貸玉料につき、何らの対価も得られない立場にもある。)ものの、パチンコ店から現金の形で返還を受けることはできない。また、顧客は、景品交換に際して、パチンコ店から特殊景品の交付を受け、それを景品換金所で換金することもできるが、景品換金所はパチンコ店とは別個の独立の事業者であるから、顧客がパチンコ店から現金の返還を受けているとはいえない。
このように、顧客は、パチンコ店に現金の形で交付した貸玉料につき、パチンコ店から現金の形で返還を受けることはできず、また、そもそも、何らの対価も得られなくなる可能性すらあるというのであるから、パチンコ店が収受する貸玉料を預り金と評価することはできないし、パチンコ店による景品交換をパチンコ店による実質的返金と評価することもできない。パチンコ店が収受した貸玉料につき、高い率で顧客に還元しているとしても、個々の顧客についてみれば、確実に貸玉料の対価を得られるわけではないのであるから、このことは上記の評価に影響しない。
(2) 原告の主張(イ)について
ア パチンコ店による景品交換の概要
顧客は、自らが獲得した遊技玉をパチンコ店が提供する景品と交換することができるが、その際、パチンコ店が交付を受ける遊技玉は、顧客が貸玉料を支払ってパチンコ店から交付を受けた遊技玉そのものではない。また、パチンコ店は、顧客が遊技の過程で獲得した遊技玉の数に比例した価値を有する景品を顧客に交付するものであり、顧客が貸玉料を支払ってパチンコ店から交付を受けた遊撲玉の数と顧客がパチンコ店から交付を受ける景品の価値との間に直接的な対応関係はない。
イ 以上のようなパチンコ店による景品交換の概要を、通常の経験則をもって判断すれば、パチンコ店が顧客が獲得した遊技玉と景品を交換することにより、返品、値引き及び割り戻しを行っているとは評価できず、これが消費税法基本通達10-1-15の「返品又は値引き若しくは割り戻し」に該当するものでないことは明らかである。
(3) パチンコ業における消費税の課税標準
ア (1)イのとおり、パチンコ業は、顧客に貸し出す遊技玉の対価として顧客から貸玉料を受け取り、顧客にパチンコ店の店舗そのものやパチンコ店内に設置された遊技機を利用させ、その一環として景品交換を行うことを内容とする事業であるから、これは「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」にあたり、その一連の事業内容は「資産の譲渡等」(消費税法2条1項8号)に該当する。さらに、この一連の事業内容は、同法6条1項により消費税を課さないこととされるものには該当しないのであるから、「課税資産の譲渡等」(同法2条1項9号)に該当する。
そして、パチンコ店は、その事業を遂行するにあたって、顧客から対価として貸玉料を収受するのであるから、パチンコ店が顧客から収受する貸玉料の総額が課税資産の譲渡等の対価の額となる。
イ 以上より、パチンコ業における課税資産の譲渡等の対価の額はパチンコ店が顧客から対価として収受する貸玉料の総額であるので、これが消費税の課税標準となる。
本件確定申告では、パチンコ店が顧客から収受する貸玉料の総額を消費税の課税標準額としているのであるから、消費税の課税標準額の計算に誤りはない。
2 争点(2)(簡易課税の事業区分)について
(1) 簡易課税制度における事業区分
消費税の簡易課税制度は、事業者の売上げに係る消費税額に一定の割合(みなし仕入率)を乗じた金額を仕入に係る消費税率とみなすことにより簡易に消費税の納付税額を計算する制度である。このみなし仕入率は、事業区分により異なり、第1種事業では100分の90、第2種事業では100分の80、第3種事業では100分の70、第4種事業では100分の60、第5種事業では100分の50とされている(消費税法37条1項、同法施行令57条1項)。
そして、事業区分については、第1種事業は卸売業、第2種事業は小売業、第3種事業は、農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業、電気業並びにガス業、熱供給業及び水道業、第5種事業は不動産業、運輸通信業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く。)、第4種事業は以上に掲げる事業以外の事業をいうとされている(同法施行令57条5項)。このうち、卸売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する者をいい、小売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で卸売業以外のものをいう(同施行令57条6項)。また、第5種事業に該当するサービス業の意義または範囲については、消費税法及び同法施行令上定めはないが、消費税法基本通達13-2-4は、第3種事業及び第5種事業の事業区分については、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定するものの、サービス業に該当することとなる事業であっても、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業は、第1種事業または第2種事業に該当するとしている。
(2) パチンコ業の事業の性質
ア パチンコ業は、日本標準産業分類の大分類においてサービス業に区分されている(乙1)が、このことから直ちに、パチンコ業が簡易課税の区分にあたってもサービス業に分類されることになるわけではない。
しかし、これまで検討してきたパチンコ業の実態からすれば、パチンコ業は、簡易課税の区分上もサービス業に該当すると評価できる。すなわち、パチンコ業は、顧客から貸玉料という対価を受けるのと引き換えに、顧客に遊技玉を貸し出し、また、パチンコ店や店内の遊技機を利用させ娯楽というサービスを提供する事業であるから、サービス業と評価できる。
イ これに対し、原告は、パチンコ店は景品とする商品を仕入れて、当該商品を遊技玉との交換により顧客に販売しているのであるから、パチンコ業は実質的に小売業であり、第2種事業に該当すると主張するが、このような評価は妥当でない。
顧客は、遊技の過程で獲得した遊技玉の数に比例した価値を有する景品をパチンコ店から交付されるのであり、顧客がパチンコ店に交付した貸玉料に応じた価値を有する景品の交付を受けられる保証はない。さらに、そもそも顧客はパチンコ店に交付した貸玉料の額にかかわらず、遊技の過程で遊技玉を全て失い全く景品の交付を受けられない可能性もある。パチンコ店の事業の実態はこのようなものであるから、通常の経験則からして、パチンコ店が景品を販売していると評価することはできず、パチンコ業を簡易課税の区分にあたって第2種事業に区分することもできない。
(3) パチンコ業の事業区分
以上より、パチンコ業は、簡易課税の適用上もサービス業であり第5種事業に区分される。本件確定申告では、第5種事業として控除対象仕入額が計算されているのであるから、控除対象仕入額の計算に誤りはない。
3 争点(3)(貸玉料の総額を課税標準とし、かつ、パチンコ業を第5種事業に区分することの適法性)について
(1) パチンコ事業者は、本則課税及び簡易課税のいずれかの算出方法を採用して納付すべき消費税等の税額を算出することになるが、本則課税及び簡易課税ともに、消費税法上認められた適法な算出方法であるので、当該事業者がいずれの算出方法を採用しても、違法がないことは明らかである(なお、争点(1)及び(2)での検討から明らかなとおり、パチンコ事業者は、顧客から収受した貸玉料の総額を課税標準額とし、簡易課税の適用にあたっては第5種事業として、納付すべき消費税等の税額を算出することになる。)。
そして、パチンコ事業者は、確定申告に先立ち、本則課税及び簡易課税のいずれによっても納付すべき消費税等の税額を計算し得るものであり、自己の事業の現状分析に加え、将来も予測しつつ、両算出方法の長所、短所を勘案した上でそのいずれかを選択するものである。このように、当該パチンコ事業者は、自己の責任と判断においていずれかの方式を選択するものであるから、両算出方法により納付すべき消費税等の税額に多額の差異が生ずる場合であっても、その納付すべき消費税等の税額が当該パチンコ事業者自らによって申告されたものである以上、当該パチンコ事業者に不利な簡易課税を適用しても、その税額が簡易課税制度に従って適法に算出されている限り、当該算出方法に何ら違法はない。このように解したとしても、簡易課税には本則課税に比して計算が簡便であるという利点があり、簡易課税を利用するか否かは当該パチンコ事業者の判断に委されているのであるから、簡易課税制度の制度趣旨や同制度が改正されてきた趣旨に反することはない。
(2) したがって、パチンコ業における課税資産の譲渡等の対価の額をパチンコ店が顧客から対価として収受した貸玉料の総額としてこれを課税標準額とし、かつ、簡易課税を適用するに際し、パチンコ業を第5種事業に区分して、消費税等の税額を算出することは適法であり、本件確定申告に違法はない。
4 以上の次第で、原告の主張はいずれも理由がなく、本件確定申告は適法なものであるから、本件通知処分に違法はない。
5 結論
よって、本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 飯塚圭一 裁判官 佐藤康憲)