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新潟地方裁判所 平成14年(行ク)3号 決定 2003年2月10日

申立人(原告)

A株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

大塚武一

横田哲明

相手方(被告)

長岡税務署長 柴田正文

同指定代理人

小野寺雅之

引地俊二

佐久間光男

曲渕公一

角屋順一

赤塚雅行

鈴木茂夫

櫻井保晴

主文

本件申立てを却下する。

理由

第1申立て

相手方は、<1>長岡税務署法人税課税担当官が作成した申立人に対する平成10年11月25日付法人税賦課決定処分に係る起案文書及びその添付書類の一切、及び、<2>同法人税課税担当官が作成した上記法人税賦課決定処分に係る税務調査の結果を記録した報告書その他の書類一切を提出せよ。

第2申立ての概要

1  本案の概要

本件本案事件は、相手方が申立人に対し、申立人の元代表者である乙(以下「乙」という。)が申立人に対して有していた貸金債権(以下「本件貸金債権」という。)につき、平成6年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度中に債務免除益が発生したとして、平成10年11月25日付で法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下まとめて「本件処分」という。)をしたため、申立人が、相手方に対し、本件貸金債権はそもそも存在せず、また、乙が申立人に対して債権放棄の意思表示をしたことはないから、本件処分はその前提を欠き違法である等と主張して、本件処分り取消しを求める事案である。

2  申立ての理由

(1)  証拠としての必要性

債務免除益が発生する前提として、本件貸金債権が存在したこと及び乙が本件貸金債権につき債権放棄の意思表示をしたことが必要であるところ、申立て記載<1>及び<2>の各文書(以下、「本件文書」という。)は、本件処分について相手方が実施した調査に関する文書であるから、本案の審理にあたって証拠として必要な文書である。

(2)  提出義務の存在

本件文書は、申立人と相手方との間の法律関係について作成されたものであるから、民事訴訟法220条3号後段に該当する。

民事訴訟法220条3号後段の解釈として、もっぱら相手方の自己使用の目的で作成または取得された文書(以下「自己使用文書」という。)であることは文書提出義務を否定する理由とはならない。

3  相手方の意見

(1)  証拠としての必要性について

本案の争点は本件貸金債権に係る債務免除益の存否の一点にあるところ、申立人が本件文書により立証しようとする事項は、相手方が行った調査の手続または内容に関するものに過ぎないので、本件文書は、本案の争点に係る要証事実の存在または不存在を基礎づける証拠としては何らの価値もなく、証拠としての必要性がない。

(2)  提出義務の存在について

相手方は、本件文書につき、文書提出義務を負わない。

ア 自己使用文書は、220条3号後段の法律関係文書に該当しない。

申立て記載<1>の文書は、相手方が本件処分をするにあたって課税庁部内における最終的な意思決定をするために作成した文書であり、また、同<2>の文書は、申立人の調査を担当した職員が専ら事務遂行の便宜のために作成した文書であって、いずれも相手方が本件処分を適正に行う目的で作成または取得したものであるから、自己使用文書にあたる。

イ 仮に、本件文書が民事訴訟法220条3号後段に該当するとしても、文書の所持者には民事訴訟法191条が類推適用されるところ、相手方は文書の記載内容につき守秘義務を負い、当該文書の記載内容を開示すると公共の利益を害し、または公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるので、当該文書の提出義務を免れる。すなわち、本件文書には、相手方による調査に協力した者のプライバシーに関する事項や職務上の秘密事項が記載されているため、相手方は国家公務員法100条1項及び法人税法163条により守秘義務を負う。このように守秘義務の対象となる税務調査の結果が開示されれば、税務調査に対する調査対象者の信頼を損ない、その結果、調査対象者の真実の開示が十分に担保されないことになり、将来における税務調査による真実の把握が困難になることが予想される。したがって、相手方が本件文書の記載内容を開示することは、申告納税制度のもとにおける税務行政の適切な確保という公共の利益を害するおそれがある。

第3当裁判所の判断

1  証拠としての必要性について

(1)  一件記録によれば、申立人が提出を求める文書の中に、平成5年10月1日から平成6年9月30日事業年度分の確定申告書添付の勘定科目内訳書並びに乙及び甲の聴取書(乙2ないし乙4)が含まれていることが認められるが、申立人は、これ以外にも、本件処分について、長岡税務署法人税課、税担当官が作成した起案文書及びその添付書類の一切、並びに、税務調査の結果を記録した報告書その他の書類一切の提出を求めるものである。

一件記録によれば、本件の争点は本件貸金債権に係る債務免除益の存否であって、その前提として、本件貸金債権の存否及び乙による本件貸金債権についての債権放棄の意思表示の存否が争点であると認められる。本件文書は、いずれも相手方が本件処分に際し行った調査の手続または内容に関するものであるところ、相手方がどのような調査を行ったのかということと本件貸金債権に係る債務免除益の存否、本件貸金債権の存否及び乙による本件貸金債権についての債権放棄の意思表示の存否という各争点との関係が必ずしも判然とせず、乙2ないし乙4を除く本件文書が本案における証拠として必要であるとは直ちには認め難い。

2  文書提出義務の存在について

(1)  民事訴訟法220条3号後段に規定する法律関係文書は、挙証者と文書の所持者との間の法律関係そのものについて作成された文書に限られず、その法律関係に関連して作成された文書やその法律関係に関連する事項を記載した文書も含むが、専ら所持者の利用に供するために作成された文書は、対外的な利用を想定されておらず、挙証者と所持者との間の法律関係について作成された文書とはいえないから、これを含まないというべきである。

(2)  これを本件についてみると、本件文書には相手方が申立人に対して行った本件処分に関連する事項が記載されていると推察されるものの、本件文書は、いずれも、相手方が本件処分をするに際し、専ら内部における意思決定をするために作成された文書ないし専ら調査を担当した職員の事務遂行の便宜のために作成された文書であると認められ、かつ、調査に協力した者のプライバシーに関する事項が記載された公開を予定していない文書であると認められるから、専ら相手方が本件処分を行うために作成された内部文書であると認められる。

したがって、本件文書は、専ら所持者の利用に供するために作成された文書にあたり、法律関係文書には該当しない。

(3)  申立人は、自己使用文書であることは民事訴訟法220条3号後段の文書提出義務を否定する理由とはならないと主張するが、民事訴訟法220条3号に同条4号イないしハのような除外規定が置かれていないからといって、同条3号が同条4号イないしハの事由による除外を全て否定する趣旨ではないから、その主張は失当である。

(4)  よって、本件文書は民事訴訟法220条3号後段には該当せず、相手方は本件文書につき文書提出義務を負わない。

第4結論

以上によれば、申立人の本件申立ては理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 飯塚圭一 裁判官 佐藤康憲)

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