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新潟地方裁判所 平成15年(わ)112号 判決 2003年7月01日

主文

被告人を懲役11年及び罰金180万円に処する。

未決勾留日数中60日をその懲役刑に算入する。

その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してあるあへん8袋(平成15年押第26号の1ないし8)及び大麻樹脂23袋(同号の9ないし13)をいずれも没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,貨物船A号の副船長をしていたものであるが,氏名不詳者らと共謀の上,みだりに,営利の目的で,大麻等を輸入しようと企て,平成15年2月24日ころ,あへん約4187・3グラム(平成15年押第26号の1ないし8はその鑑定残量)及び大麻を含有する樹脂状固形物約4993・7グラム(同号の9ないし13はその鑑定残量)を携帯して,ロシア連邦a港から上記貨物船A号に乗船し,これを同船船首のバラストタンク内に隠匿するなどし,同月27日午後4時16分ころ,新潟県北蒲原郡b町c所在のd港e埠頭に接岸した同船から上陸して本邦内にこれを陸揚げし,もって輸入禁制品であるあへん及び大麻を輸入したものである。

(証拠の標目)

(法令の適用)

被告人の判示所為のうち,あへんを輸入した点は刑法60条,あへん法51条2項,1項3号に,大麻を輸入した点は刑法60条,大麻取締法24条2項,1項に,輸入禁制品であるあへん及び大麻を輸入した点は刑法60条,関税法109条1項,関税定率法21条1項1号にそれぞれ該当するが,これは1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として最も重いあへん法違反の罪の刑で処断し,情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役11年及び罰金180万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,押収してあるあへん8袋(平成15年押第26号の1ないし8)は,判示の罪に係るあへんで犯人である被告人の所持するものであるから,あへん法54条1項本文により,押収してある大麻樹脂23袋(同号の9ないし13)は,判示の罪に係る大麻で犯人である被告人の所持するものであるから,大麻取締法24条の5第1項本文によりいずれもこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,被告人が,氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的で,ロシア連邦から輸入禁制品である多量のあへん及び大麻樹脂を本邦に密輸入したあへん法違反,大麻取締法違反及び関税法違反の事案である。

被告人は,ロシア連邦の薬物密売組織に所属する共犯者からあへん等の違法薬物を日本に密輸することの依頼を受け,その密売組織がその薬物を売りさばき,多額の金銭的利益を上げることを知りながら,自らも多額の金銭的な成功報酬を入手するため敢行したものであり,本件が計画的な犯行である上,その動機は非常に短絡的かつ利欲的なものであって酌量の余地は全くない。

しかも,被告人は,貨物船の高級船員としての立場を利用し,本件のあへん及び大麻樹脂が梱包された包みを,ビニール袋に入れて税関職員等に発見されないように本件貨物船の船首にあるバラストタンク内に隠匿して日本国内に持ち込み,同船がd港e埠頭に接岸した後,同タンク内から同包みを取り出して胴巻きのポケットやかばん等に詰め込み,これを防寒コート内に隠した状態で本邦に上陸し,同港付近の雑草地内の茂みに隠匿して,日本国内にいる薬物密売組織の者に受け渡そうとしたものであり,その犯行態様は極めて巧妙かつ狡猾である。

さらに,被告人が密輸入したあへんは約4187・3グラム,大麻樹脂は約4993・7グラムとこの種の事案としては稀に見る極めて多量であり,本件犯行が発覚せずにこれらの有害な薬物が密売され,その害悪が現実に日本国内に拡散した場合の害悪の大きさは計り知れず,本件犯行の結果は極めて重大で,その犯情は誠に芳しくない。

加えて,被告人は,副船長という責任ある立場にありながら,違法薬物を本邦に持ち込み,それを密売組織に渡すという本件犯行の最も重要な役割を担い,正に被告人がいなければ本件犯行を行うことは不可能であること,被告人は,アゼルバイジャン人から成功報酬3000米ドルの約束で本件を依頼されたというものであり,本件の背景には国際的な薬物密売組織が存在することが窺われ,その組織からの報復を恐れる余り,その実態を語ろうとせず,被告人が本件を真摯に反省しているかどうかはなお疑問の余地があること,本件のようにあへんや大麻のような違法薬物を海外から持ち込むという反社会的な犯行を防止することは国家的な重要課題であって,一般予防の必要性が高いことなどを考慮すると,被告人の刑事責任は極めて重大である。

そこで,本件では薬物の受渡し前に被告人が逮捕されており,幸いあへん及び大麻の害悪が現実に拡散されていないこと,被告人には前科がなく,事実を素直に認めて一応反省の態度を示しており,本件では金銭的報酬を取得していないこと,本件により海技免状の資格が剥奪されるなどの厳しい社会的制裁が予想されること,今後は被告人の帰りを待つ内妻や子どもがいる本国に帰国して更生することを表明していることなど被告人のために斟酌すべき諸事情も認められるが,これらの諸情状を考慮してもなお被告人の刑事責任は重大であり,主文に掲げたとおりの刑に処するのが相当である。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 榊五十雄 裁判官 三村三緒 裁判官 入江克明)

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