大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 平成15年(モ)476号 決定 2004年2月20日

新潟市●●●

原告(申立人)

●●●

新潟県●●●

●●●

原告ら訴訟代理人弁護士

小田将之

東京都品川区東品川二丁目3番14号

(送達場所)大阪市浪速区難波中二丁目10番7号

なんばパークス

パークスタワー15階

CFJ株式会社

リーガル・サービス・センター

被告(相手方)

CFJ株式会社

代表者代表取締役

●●●

原告ら及び被告間の平成15年(ワ)第600号不当利得返還等請求事件について,原告らから文書提出命令の申立てがあったので,当裁判所は次のとおり決定する。

主文

1  被告は,本決定送達の日より14日以内に,原告ら及び被告間の各金銭消費貸借契約について,以下の各文書を提出せよ。

(1)  各契約当初からの金銭消費貸借契約書(控えを含む。)

(2)  各契約当初からの契約年月日,貸付金額,受領金額等,貸金業の規制等に関する法律19条及び同法施行規則16条所定の事項を記載した帳簿

2  原告らのその余の申立てを却下する。

事実及び理由

第1申立ての趣旨,理由及び被告の意見

1  申立ての趣旨

(1)  主文1項(1),(2)記載の文書の提出命令(以下,主文1項(1)記載の文書を「本件契約書」,同項(2)記載の文書を「本件帳簿」という。)

(2)  原告らと被告間の各金銭消費貸借契約(以下「本件契約」という。)の契約当初の時期を確認できる書面(「申込みカード」など。)の提出命令

2  申立ての理由

申立ての趣旨記載の各文書(以下「本件各文書」という。)は,いずれも,原告らの利益のために作成された文書であり,また,原告らと被告間の金銭消費貸借契約のために作成された文書であるから,被告は,民事訴訟法220条3号により本件各文書を提出する義務がある。

3  被告の意見

(1)  本件各文書は,いずれも,もっぱら被告の事務手続,すなわち,被告の貸金業法上の義務の遂行及び原告らに対する貸付残高の確認のために作成したものにすぎないから,民事訴訟法220条3号前段(利益文書)及び同号後段(法律関係文書)のいずれにも該当しない。

(2)  仮に,本件各文書が民事訴訟法220条3号所定の文書に該当するとしても,本件契約において,金銭借入れに関する情報が記載された書面は各取引時に原告らに交付済みであり,原告らがその怠慢と不注意によってこれらの書面を紛失したにもかかわらず,文書提出命令の申立てによって取引履歴の開示を受けようとすることは,訴訟上の制度を悪用した権利の濫用に当たり,許されない。また,被告は,原告らの求めに応じ,一部ではあるが取引履歴の開示に応じているので,文書提出命令をなす必要性もない。

(3)  さらに,被告が本件各文書の提出義務を負うとしても,貸金業法施行規則17条が貸金業法19条所定の帳簿(以下,単に「帳簿」という。)の保存期間を最終返済期日等から3年間と規定しており,貸金業者には最終返済期日等から3年間経過した後の帳簿を保存しておく義務がないことに照らせば,文書提出義務が認められる帳簿は最終返済期日等から3年間の範囲のものに限定されるべきである。

第2当裁判所の判断

1  本件各文書のうち,本件契約書及び本件帳簿は,その記載内容に照らし,いずれも原告らと被告間の金銭消費貸借契約という法律関係について作成された文書(民事訴訟法220条3号後段)に該当することは明らかであり,また,これらの文書が,もっぱら被告による利用を目的として作成されたものということもできない。したがって,被告は,本件契約書及び本件帳簿を当裁判所に提出すべき義務がある。

なお,被告は,本件文書提出命令の申立てが権利の濫用に当たる旨主張するが,消費者金融業者から金員を借り入れた者は,その借入れ及び弁済が多数回及び長期間に及ぶ場合が多く,その取引に関係する書類等を全て保管しておくことは必ずしも期待しがたい反面,被告は,貸金業法の適用を受ける貸金業者として,貸金業務の適正な運営のために帳簿の作成等を義務づけられていることに照らせば,原告らの本件文書提出命令の申立てが権利の濫用にあたるとはいえない。また,被告が本件契約における全取引期間の一部しか取引履歴の開示に応じない以上,文書提出命令をなす必要性があることも明らかである。

さらに,被告は,貸金業法施行規則17条を根拠に,文書提出義務が認められる帳簿は最終返済期日等から3年間の範囲のものに限定されるべきである旨主張するが,文書の保存義務と裁判所に対する提出義務は別個の義務であり,文書の保存期間の経過により当然に当該文書の提出義務が消滅するものではないし,また,そもそも,本件帳簿は商法上の会計帳簿に含まれ,帳簿閉鎖時から10年間保存義務があると解するのが相当であるから(商法32条1項,33条1項2号,36条),いずれにせよ,被告の主張には理由がない。

2  なお,原告らは,「原告らと被告間の契約当初の時期を確認できる書面」(「申込みカード」など)も文書提出命令の対象に含めるが,かかる記載では提出義務のある書面とそうでない書面との識別が困難であり,文書の特定として不十分であるから,民事訴訟法221条1項1号の要件を欠くものというべきである。

3  以上によれば,原告らの本件申立ては,本件契約書及び本件帳簿の提出命令を求める限度で理由があるから,主文のとおり決定する。

(裁判官 外山勝浩)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例