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新潟地方裁判所 平成15年(ワ)57号 判決 2003年5月29日

原告

同訴訟代理人弁護士

鈴木俊

被告

京都市

同代表者市長

桝本賴兼

同訴訟代理人弁護士

池上哲朗

主文

1  被告は、原告に対し、金117万6688円及びこれに対する平成12年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを2分し、それぞれを各自の負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第4 争点に対する判断

1  争点ア(管理の瑕疵)について

前提事実と証拠(〔証拠略〕)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。すなわち、本件歩道は、一般に開放された生活施設(公の営造物)であって、南禅寺の参詣や観光に訪れる不特定の老若男女が多数使用する歩道であること、本件事故は、本件歩道上に高さ約6、7センチメートルの本件鉄筋が露出していて、原告がこれにつまずいて発生したものであるところ、本件鉄筋は、元々、本件歩道上に設置されていた高さ45センチメートル、直径20センチメートルのボラード(単柱車止め)を本件歩道に取り付けるための金具(アンカーボルト)であったこと、本件事故の発生する約1か月前である平成12年10月末ころ、ボラードに車両が接触してボラードが折れ、取り付け金具である本件鉄筋が本件歩道上に高さ約6、7センチメートル残存したこと、被告の職員は、同月末ころ、とりあえず、折れたボラードを取り除き、修復時までの措置として、カラーコーン(底の一辺が約37.5センチメートル、高さ約71.5センチメートルのプラスチック製のもので、地面に固定されていないもの)を設置して歩行者に注意を喚起したが、本件事故時に至るまで本件鉄筋を除去するなどの措置をせず、本件事故後に本件鉄筋を除去する工事を実施したこと、以上のとおり認められる。

上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、本件鉄筋が露出したままの状態で放置すると、歩行者が歩道に接地しようとした際等にこれにつまずき姿勢を崩すなどして転倒等の事故を起こし得ることは容易に予見できるから、本件歩道を管理する被告としては速やかにこれを補修することが安全確保上要請され、その補修工事に多額の費用を要するとか、工事自体が困難なものであるとか等の特段の支障は認め難く、比較的簡単に補修工事が可能であるにもかかわらず、被告において本件鉄筋が残存しているのを確認しながら、本件歩道に固定していないため容易に移動する状態のカラーコーンを設置したのみで約1か月の間補修工事を全くしなかった被告の本件歩道の管理に瑕疵があることは明らかと言うべきである。

2  争点イ(原告の損害)について

前提事実と弁論の全趣旨を総合すれば、原告の損害(弁護士費用を除く。)は合計152万3841円と認められる。詳細は、以下のとおりである。

ア  治療費 17万2441円(争いのない事実)

イ  入院雑費 5万8500円 計算式 1500円×39日=5万8500円

ウ  休業損害 39万2900円

本件事故当時原告は満66歳(昭和9年11月10日生)であったから、平成12年賃金センサス女子学歴計65歳以上の年収である286万8300円(1日当たり7858円)を基準として休業による損害を算定するのが相当てある。

これに入通院日数の合計である50日を乗じた金額である39万2900円が休業補償と認められる。

計算式 286万8300円÷365日×50日=39万2900円

エ  入通院慰謝料 70万円

上記認定による原告の入通院期間、治癒経過を考慮すると、本件事故によって原告が傷害により受けた精神的苦痛を慰謝するために相当な額は、70万円と認める。

オ  後遺症慰謝料 20万円

上記認定の後遺症の程度を考慮すると、本件事故の後遺症により原告が受けた精神的苦痛を慰謝するために相当な額は、20万円と認める。

カ  以上の合計 152万3841円

3  争点ウ(過失相殺)について

(1)  既に説示したとおり、原告がつまずいた本件鉄筋の高さは約6、7センチメートルであること、本件事故が発生した時刻は、11月26日の午後4時40分ころであり、原告の視界を確保するためにはまだ充分な明るさであったと認められることから、原告が鉄筋に気が付くことは比較的容易であったということができる。

他方、〔証拠略〕によれば、本件事故当時、原告は66歳という高齢の女性であり、原告が本件事故現場を通行するのは本件事故時が初めてであったこと、また、本件事故当時、本件事故現場は観光客等で混雑し、本件歩道の前方が見難い状況にあったことが認められる。

(2)  以上認定説示したところによれば、本件事故の発生について、原告にも前方不注視(足下の安全確認)の過失があったものと認められる。

そして、既に認定したところに弁論の全趣旨を総合して判断すれば、被告の本件歩道の管理瑕疵の程度、すなわち、速やかに本件鉄筋除去するなどの補修工事をすることが安全確保上要請されその補修に特段の支障は認め難く比較的簡単に工事可能にもかかわらず、被告において本件鉄筋が残存しているのを確認しながら、約1か月の間これを補修しなかった管理瑕疵の程度と、上記の原告の前方不注視の過失とを比較勘案すると、原告の過失割合は30パーセントであると認定するのが相当である。

(3)  そうすると、原告の損害は、上記2の152万3841円から30パーセントを減額した106万6688円となる。

4  弁護士費用について

弁論の全趣旨によれば、原告が本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、上記106万6688円の約10パーセントに相当する11万円と認めるのが相当である。

よって、原告の損害は、合計117万6688円である。

第5 結論

以上の次第で、原告の請求は主文第1頂掲記の範囲内で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 片野悟好)

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