新潟地方裁判所 平成15年(行ウ)12号 判決 2004年9月16日
原告 甲
訴訟代理人弁護士 鈴木勝紀
被告糸魚川税務署長
堀込曻
被告 国
代表者法務大臣 野沢太三
被告ら指定代理人 古川忠雄
同 櫻井保晴
同 奥村耕一
同 曲渕公一
同 高橋紀雄
同 関弘規
同 富井桂次
同 関野和宏
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告糸魚川税務署長が、原告に対し、平成6年5月30日付けで通知した(番号6800609)平成3年分所得税の更正及び加算税の賦課決定処分は無効であると確認する。
2 被告国は、原告に対し、2766万7300円及び内2756万0800円に対する平成6年6月28日から、内10万6500円に対する平成7年3月31日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 第2項につき、仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は、原告が、平成6年5月30日、被告糸魚川税務署長から平成3年分所得税の更正及び加算税の賦課決定処分(以下、併せて「本件更正処分等」という。)を受けたことに対し、本件更正処分等は、平成3年分の雑所得(5305万3300円)に平成2年分の雑所得(1865万3300円)を含める違法があるから本件更正処分等は無効であると主張し、被告糸魚川税務署長に対し、本件更正処分等の無効確認を求めるとともに、被告国に対し、不当利得の返還として、本件更正処分等に基づいて納付した2766万7300円の支払を求めるものである。
1 争いのない事実
(1) 被告糸魚川税務署長は、原告に対し、平成6年5月30日、下記内容の平成3年分所得税の更正、加算税の賦課決定通知書(糸個書1-第53号(番号6800609)。以下「本件更正通知書」という。)を送達し、本件更正処分等をした。
記
平成3年分の所得税について、別表のとおり、所得税額等の更正及び加算税の賦課決定をします。この結果、この通知により新たに納付すべき税額は、下表のとおりになります。
本税の額 23,625,800円
重加算税 8,267,000円
(2) 原告は、本件更正処分等に基づき、次のとおり、合計2766万7300円を被告国に納付した。
① 平成6年6月27日 2362万5800円(本税の全部)
② 同日 393万5000円(本税に対する延滞税の一部)
③ 平成7年3月30日 10万6500円(重加算税の一部)
(3) 原告は、本件更正処分等の取消しを求め、異議決定及び審査裁決を経て、平成10年4月20日、新潟地方裁判所に所得税更正処分取消請求訴訟を提起した(以下「前訴」という。)。前訴は、平成11年7月15日、同裁判所において、原告の請求をいずれも棄却するとの判決が言い渡され、その控訴審である東京高等裁判所が、平成11年12月22日、控訴棄却の判決を言い渡し、平成12年6月13日、最高裁判所第三小法廷において上告棄却の決定がなされ、確定した。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件の争点は、本訴における無効事由の主張が前訴の既判力に抵触するか否かである。
(2) 原告の主張
ア 前訴の訴訟物は、本件更正処分等の手続が違法であるか否かであり、本件無効確認訴訟は、本件更正処分等に重大かつ明白な瑕疵があり無効であるとするのであるから、訴訟物が全く異なるものであり、また、その争点も全く異なる。すなわち、前訴では、原告が被疑者として勾留中に、何ら対面調査等の税務調査をすることなく、課税目的で作成されたものでない刑事記録のみに基づいて更正処分等の手続をすることが手続上違法か否かが争点であり、被告糸魚川税務署長は、更正に係わる課税標準等または税額等の計算の基礎となった事実を明らかにすべき主張責任(先行主張責任)があるのに、これを怠り、その主張を怠ったため、更正処分の内容は争点となっていなかった。しかし、本訴においては、その更正処分の内容を問題とし、その内容に重大かつ明白な瑕疵があり、無効であると主張しているものである。
したがって、本訴の無効事由の主張は前訴の既判力には触れていない。
イ 確定判決の既判力は、主文に包含するものに限り有するところ(民事訴訟法114条1項)、本件更正処分等にかかる前訴の主文に包含するものは、更正処分中、国税通則法28条2項による法定記載事項のうち更正後の税額等についてのみであり、更正後の課税標準等は除外されている。なぜなら、税務署長は、更正後の課税標準等については、本件更正通知書に処分の理由を付記していないのであるから、課税標準等を更正の対象から除外しているということができる。また、前訴の判決においては、証拠として提出した本件更正通知書を何ら理由を示さず証拠から排斥しているし、原告は更正後の課税標準等及び更正後の税額等の両方の取消を求めて提訴した(訴状記載の請求の趣旨は「平成3年分所得税についてした更正処分および重加算税賦課決定処分をいずれも取消す」であった。)のに、判決中の請求の趣旨は、「平成3年分所得税についてした更正処分中納付すべき税額24万9000円を超える部分及び重加算税賦課決定処分をいずれも取り消す」と変更されているのであるから、判決主文の判断は、わざわざ「更正処分中」とことわりを入れた更正後の税額等に限られており、更正後の課税標準等の判断を包含していないのである。したがって、前訴判決は、課税処分の基礎となった事実(更正後の雑所得の額)については、主文の判断に包含しなかったものであり、当該事実について実質的法律上の既判力は生じていない。
ウ 本件更正通知書は、その更正後の額の雑所得に不実の記載がなされている虚偽公文書であるが、その事実は、前訴の既判力が生じた後に明らかになったのであるから、本件無効確認訴訟が、本件更正処分等の前提問題である虚偽公文書たる本件更正通知書の有効、無効についての判断を求めるものである限り、前訴の既判力は及ばない。
エ 終局判決は、口頭弁論の終結までに提出された主張と証拠に基づいてなされるのであるから、既判力はこのときを基準とすると解されるが、被告に先行主張責任があるにもかかわらず、被告から口頭弁論終結時までに主張と証拠が提出されなかった結果、原告が敗訴した場合には、その主張責任がある事実の内容に明らかな無効原因が存在することが後に判明すれば、その事実をその後に生じた事由として主張することは、実質的に既判力に抵触するものではない。本件無効確認訴訟において、原告は、被告糸魚川税務署長が前訴で国税通則法116条1項に反して主張を放棄し審理されなかった「課税処分の基礎とされるべき事実」の内容に「無効原因」、すなわち、平成3年分の更正後の額の雑所得5305万3300円の中に、平成2年分の雑所得となるべき金額1865万3300円をも含めて、これを平成3年分の雑所得の課税標準として行った違法な処分であることが判明したので、本件更正通知書に基づく処分は無効であると主張しているのであり、この主張は、前訴の既判力に抵触するものではない。
(3) 被告の主張
課税処分取消訴訟の訴訟物は、課税処分の違法一般、すなわち違法事由の存否であり、更正処分についていえば、当該更正処分において、所得金額や税額を過大に認定した違法があるか否かである。これに対し、課税処分の無効確認訴訟の訴訟物は、当該行政処分の無効事由一般、すなわち重大かつ明白な瑕疵一般の存否である。両者の訴訟物は厳密にいえば異なるが、租税債権(債務)の存否が争われているという点で共通しており、無効事由は取消事由の量的一部にすぎず、取消訴訟及び無効確認訴訟の訴訟物は、いわば大は小を兼ねる関係にあると解されている。
そうすると、課税処分にかかる処分取消請求についての裁判が確定した場合には、後に至って、当該裁判の当事者が、別訴を提起して前訴と同一の課税処分について税額等を過大に認定した違法があるとの理由で当該課税処分の無効を主張することは既判力に抵触し許されないというべきである。すなわち、当該別訴は、前訴の請求棄却判決の既判力によって無効事由がないと認定され請求が棄却されることになるのである。
本件更正処分等については、原告が提起した前訴において、原告の請求を棄却する判決が確定したのであるから、本件無効確認訴訟は前訴の既判力に抵触することとなり、被告糸魚川税務署長に対する本件更正処分等の無効確認請求には理由がない。
第3 争点に対する判断
1 争点(既判力)について
課税処分の取消訴訟の訴訟物は、当該処分の違法一般であると解されているから、判決の既判力は、訴訟において攻撃防御の対象とされた違法事由にとどまらず、その訴訟物であるところの違法一般について生じるのであって、取消訴訟において判決で請求が棄却され確定した場合には、その当事者は、その判決の既判力により、当該課税処分に関する違法事由を後訴において主張することができないものというべきである。そして、課税処分の無効確認訴訟の訴訟物は、重大かつ明白な違法等出訴期間経過後においてもなお救済に値するとの評価を受ける違法一般であると解されるところ、この重大かつ明白な違法等出訴期間経過後においてもなお救済に値するとの評価を受ける違法一般は、取消訴訟の訴訟物である違法一般に包含されると解されるから、取消訴訟において判決で請求が棄却された場合には、重大かつ明白等の出訴期間経過後においてもなお救済に値するとの評価の対象となりうる違法事由の主張も既判力により許されないのである。本件更正処分等については、前訴の取消訴訟において、原告の請求を棄却する判決が確定したのであるから、原告が、本訴において、被告糸魚川税務署長に対する本件更正処分等の無効事由を主張することは、前訴の既判力に抵触し許されないから、無効確認請求は理由がないことが明らかである。また、原告が本件更正処分等に基づいて被告国に納付した金員は、法律の定めにしたがって納付した税金であるから、原告の不当利得返還請求には理由がない。
2 これに対し、原告は、①前訴と本件無効確認訴訟とは訴訟物も争点も異なる、②課税処分の基礎となった事実(更正後の雑所得の額)については、前訴判決の主文の判断に包含されていない、③本件無効確認訴訟は、前訴の既判力が生じた後に明らかになった本件更正通知書が虚偽公文書であるという事実をもとに、本件更正処分等の前提問題である虚偽公文書たる本件更正通知書の有効無効についての判断を求めるものである、④被告に先行主張責任があるにもかかわらず、被告からそれまでに存在した事由に基づく主張と証拠を提出されなかった結果、前訴で原告が敗訴した場合には、その事実の内容に明らかな無効原因を有することが後から判明すれば、その事実をその後に生じた事由として主張することができるなどの理由で、本訴において無効事由を主張することは前訴の既判力に抵触しないと主張する。
しかし、上記原告の主張はいずれも根拠のない主張であり、前記判断を妨げるものではない。すなわち、①については、既判力に抵触するか否かは争点ではなく、訴訟物を基準に判断すべきところ、前記のとおり、無効確認訴訟の訴訟物は取消訴訟の訴訟物に包含されるのであるから、前訴の既判力は本件無効確認訴訟に及ぶことになる。②については、前訴の判決は、本件更正処分等に不服の原告がその取消しを求め、主文において「原告の請求をいずれも棄却する。」としたものであるから、前訴の訴訟物である本件更正処分等の違法一般について判断したものであり、その既判力により、本件更正処分等の基礎となった課税標準、雑所得の額についての違法も、本訴において主張が制限されることが明らかである。なお、原告は、前訴の判決が請求の趣旨の記載において、本件更正処分等のうち税額24万9000円を超える部分の取消しを求めるものと表示したことから、前訴の主文の判断が更正後の税額等に限られ、更正後の課税標準等の判断を包含しないと主張するが、前訴の判決は、上記税額24万9000円を超える部分の取消しを求める限度で訴えの利益があることから上記表示をしたにすぎないものであり、このことが前訴の訴訟物や既判力の範囲に影響するものでないことが明らかであり、原告の上記主張は理由がない。
③については、既判力は、当該違法事実を基準時である前訴の口頭弁論終結時までには認識せずその後に認識したとしても、同様に及ぶものであり、原告が主張するように前訴の既判力が生じた後に判明したからといって後訴においてその主張が可能となるものではない。また、④については、原告は、前訴において、被告糸魚川税務署長が主張責任を怠って、課税処分の基礎となる事案が主張されなかったかの主張をするが、前訴において、上記の事実は争点とされなかったにすぎず、これが主張され前提事実として判決がなされたことが明らかであり、いずれも根拠のない主張というべきである。
よって、原告の主張は理由がない。
3 したがって、本件請求は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 犬飼眞二 裁判官 外山勝浩 裁判官 入江恭子)
別表 平成3年分
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