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新潟地方裁判所 平成16年(行ウ)3号 判決 2009年12月25日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求める裁判

1  原告

(1)  主位的請求

被告が原告に対し平成15年10月20日付けでした別紙物件目録記載の建物に係る平成15年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査の申出に対する決定のうち,21億3486万2782円を超える部分を取り消す。

(2)  予備的請求

被告が原告に対し平成15年10月20日付けでした別紙物件目録記載の建物に係る平成15年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査の申出に対する決定のうち,23億7682万3686円を超える部分を取り消す。

2  被告

原告の請求をいずれも棄却する。

第2事案の概要

1  本件は,別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の固定資産税の納税義務者である原告が,その所有する本件建物につき,新潟市長(以下「市長」という。)により決定され固定資産台帳に登録された平成15年度の価格29億7667万0578円(以下「本件登録価格」という。)を不服として,被告に対し地方税法(本件当時のもの。以下「法」という。)432条に基づき審査の申出をしたところ,被告からこれを棄却する旨の決定を受けたため,同決定の一部取消しを求める事案である。

2  法令の定め等

(1)  不動産取得税

ア 不動産取得税

不動産取得税においては,不動産とは,土地及び家屋の総称であって(法73条1号),同税は,不動産の取得に対し,当該不動産所在の道府県において,当該不動産の取得者に課する税である(法73条の2第1項)。

イ 納税義務者

不動産取得税の納税義務者は,不動産の取得者であるが(法73条の2第1項),家屋が新築された場合においては,その家屋について最初の使用又は譲渡が行われた日において家屋の取得がなされたものとみなし,その家屋の所有者又は譲受人を取得者とみなして不動産取得税が課される(同条2項)。

ウ 課税標準

不動産取得税の課税標準は,不動産を取得した時における不動産の価格であり(法73条の13第1項),ここにおける価格は適正な時価をいうものである(法73条5号)。

道府県知事は,固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については,当該不動産について増築,改築,損壊,地目の変換その他特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いときを除き,当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとされている(法73条の21第1項)。

固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されているが,当該不動産について増築,改築,損壊,地目の変換その他特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いとき,又は,固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産は,道府県知事が固定資産評価基準によって,課税標準となるべき価格を決定し(同条1項但書,同条2項),その決定をした場合には,直ちに,当該価格その他必要な事項を当該不動産の所在地の市町村長に通知しなければならない(同条3項。以下,この通知を「知事の通知」という。)。

エ 徴収方法

不動産取得税の徴収は普通徴収,すなわち,徴税吏員が納税通知書を当該納税者に交付することによつて地方税を徴収する方法による(法73条の17第1項,1条1項7号)。

オ 不服申立て

道府県又は市町村の徴収金に関する更正若しくは決定又は賦課決定(普通徴収の方法によって徴収する地方税の税額を確定する処分)についての不服申立てについては,法に特別の定めがある場合を除き,行政不服審査法の定めるところによることとされており(法19条1号),行政不服審査法によれば,審査請求は,処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内にしなければならないとされている(同法14条1項)。

また,上記の更正若しくは決定又は賦課決定の取消しの訴えは,当該処分についての異議申立て又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ,提起することができない(法19条の12)。

(2)  固定資産税

ア 固定資産税

固定資産とは,土地,家屋及び償却資産の総称であって(法341条1号),固定資産税は,固定資産に対し,当該固定資産所在の市町村において課する税である(法342条1項)。

イ 納税義務者

固定資産税の納税義務者は,賦課期日である毎年1月1日時点における所有者であり,土地又は家屋については,登記簿等に所有者として登記又は登録されている者をいう(法343条1項,同条2項,359条)。

ウ 課税標準

基準年度に係る賦課期日に所有する土地又は家屋に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は,賦課期日における土地又は家屋の価格,すなわち,適正な時価であって,固定資産課税台帳に登録された金額である(法349条,341条5号)。

総務大臣は,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準)を定め,これを告示しなければならなず(法388条1項),市町村長は,固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならない(法403条1項)。

固定資産の価格等は,固定資産評価員作成の評価調書に基づいて,市町村長が毎年3月31日までに決定し(法410条1項,409条4項),その決定後直ちに固定資産課税台帳に登録し,登録後は直ちにその旨を公示しなければならない(法411条1項,同条2項)。

固定資産評価員又は固定資産評価補助員は,毎年少なくとも1回その市町村所在の固定資産の状況を実地調査し(法408条),その結果に基づいて,固定資産評価員が賦課期日における固定資産の評価をしなければならないが(法409条1項),道府県知事が法73条の21第3項の規定によって当該土地又は家屋の所在地の市町村長に通知した価格があるときは,当該土地又は家屋について地目の変換,改築,損壊その他特別の事情があるため当該通知に係る価格により難い場合を除くほか,当該通知に係る価格に基いて,当該土地又は家屋の評価をしなければならない(同条2項)。

道府県知事は,固定資産評価基準に関する指導,固定資産評価員の研修その他の援助を市町村長に対して行う(法401条)。

エ 基準年度である平成15年度(以下「平成15基準年度」という。)の固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。平成14年総務省告示第409号による改正後のもの。以下「平成15年基準」という。)

(ア) 家屋の評価

a 家屋の評価は,木造家屋及び木造家屋以外の家屋(以下「非木造家屋」という。)の区分に従い,各個の家屋について評点数を付設し,当該評点数に評点一点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものとする(同基準第2章第1節一)。

b 各個の家屋の評点数は,当該家屋の再建築費評点数を基礎とし,これに家屋の損耗の状況による減点を行って付設するものとする。この場合において,家屋の状況に応じ必要があるものについては,さらに家屋の需給事情による減点を行うものとする(同二)。

(イ) 在来分の非木造家屋の評価

在来分の非木造家屋に係る再建築費評点数の算出方法は,「基準年度の前年度における再建築費評点数×再建築費評点補正率」の算式によって求めるものとされ,ここにいう「基準年度の前年度における再建築費評点数」とは前基準年度に適用した固定資産評価基準第2章第1節(家屋の評価の通則)及び第3節(非木造家屋の評価方法等)によって求めたものを,「再建築費評点補正率」とは基準年度の賦課期日の属する年の2年前の1月現在の東京都(特別区の区域)における物価水準により算定した工事原価に相当する費用の前基準年度の賦課期日の属する年の2年前の1月現在の当該費用に対する割合を基礎として定めたものをいい(平成15年基準第2章第3節四),固定資産税に係る平成15年度における在来分の非木造家屋の評価に係る再建築費評点補正率は0.96とされていた(同基準第2章第4節一2)。

(ウ) 経年減点補正

損耗の状況による減点補正率のうち,経過年数に応ずる補正率(経年減点補正率)は,通常の維持管理を行うものとした場合において,その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎として定めたものであって,非木造家屋の構造区分により各々補正率が定められており,鉄骨造りの店舗用建物(骨格材の肉厚が4ミリメートルを超えるもの)については経過年数1年で0.98の補正率とされていた(同基準第2章第3節五1(1),別表第13)。なお,経過年数が1年未満であるときは,1年未満の端数を繰り上げて1年として計算する(同基準第2章第3節五1(3))。

オ 台帳登録価格に対する不服申立て

固定資産課税台帳に登録された価格に関する不服を審査決定するために,市町村に,固定資産評価審査委員会が設置され(法423条1項),固定資産税の納税者は,固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合は,固定資産の価格等の登録の公示の日から納税通知書の交付を受けた日後60日までの間に,文書で,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる(法432条1項)。審査の申出がされたときは,固定資産評価審査委員会は,その申出を受けた日から30日以内に審査の決定をしなければならない(法433条1項)。

固定資産税の納税者は,固定資産評価審査委員会の決定に不服があるときは,その取消しの訴えを提起することができる(法434条1項)。

固定資産課税台帳に登録された価格について不服のある固定資産税の納税者は,固定資産評価審査委員会への審査の申出及び同委員会の決定に対する取消訴訟の方法によってのみこれを争うことができる(同条2項)。

3  前提事実(末尾に証拠等を掲げていない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告

原告は,平成14年5月31日に本件建物を新築し所有する者であって,そのころ,本件建物の使用を開始し,また,平成15年1月1日時点において,本件建物について所有者として登記されている者である(甲1,弁論の全趣旨)。

イ 被告

被告は,本件建物の所在地である新潟市の固定資産評価審査委員会である。

(2)  新潟県知事(以下「県知事」という。)がした評価及び不動産取得税の賦課等

ア 県知事は,本件建物について,固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていなかったため,法73条の21第2項の規定に基づき,平成14年10月23日に本件建物の調査を行い,基準年度である平成12年度(以下「平成12基準年度」という。)の固定資産評価基準(以下「平成12年基準」という。)に則って,本件建物を鉄骨造りの店舗用建物として,その再建築費評点数を29億6912万8992点と算定し,これに評点1点当たりの価格1.1円を乗じて,本件建物の平成14年度の価格を32億6604万1891円と決定し,原告に対して,平成15年3月11日,不動産取得税を賦課した(甲44の1,乙14の2,弁論の全趣旨)。

イ 県知事は,同条3項の規定に基づき,市長に対し,上記価格等を通知した(弁論の全趣旨。以下,上記通知に係る価格を「本件通知価格」といい,再建築費評点数を「本件通知評点数」という。)。

ウ 原告は,平成15年3月11日付けで,上記不動産取得税の納税通知書の送達を受け,同月31日に納税した後,同年6月19日に至ってようやく上記不動産取得税の賦課決定に対する審査請求の申立てをしたが,申立期間の徒過により却下された(甲44の1,2,弁論の全趣旨)。

(3)  市長がした評価及び固定資産課税台帳への登録等

ア 平成15基準年度に固定資産の評価替えが行われるに当たって,県知事は,平成14年10月,新潟県内の各市町村長に対し,平成14年1月2日から同年12月31日までの間に新増築された家屋で,法73条の21第3項の規定により県知事が平成12年基準によって評価してその価格を市町村長に通知した家屋の固定資産税の再建築費評点数等について,新潟県税務課が算定した非木造家屋のうち鉄骨造りの店舗用建物の平成15基準年度評価替えに当たっての評価変動割合は0.93である旨を通知した(乙11)。

イ 新潟市固定資産評価員(以下「評価員」という。)は,県知事から通知を受けた本件建物の再建築費評点数29億6912万8992点に,県知事から通知があった評価変動割合の0.93を乗じて得た27億6128万9962点を評価替えをした再建築費評点数とし,次いで,建築後約7か月を経過していたため,経年減点補正率0.98を乗じて,平成15年度の再建築費評点数を27億0606万4162点と算定し,これに評点1点当たりの価格1.1円を乗じて,本件建物の平成15年度の価格を29億7667万0578円と評価し,その旨の評価調書を作成して,これを市長に提出した(甲1,乙14の1,弁論の全趣旨)。

ウ 市長は,評価員からの上記評価調書を受理し,これに基づき,固定資産税・都市計画税の課税標準額につき,本件建物の平成15年度の価格を29億7667万0578円と決定し,これを固定資産課税台帳に登録(以下「本件価格登録」という。)した上,平成15年5月13日,原告に対して納税通知書を交付した。

(4)  不服申立て等

ア 原告は,本件価格登録の登録事項に不服があったことから,同年7月1日,被告に対し,法432条に基づき審査の申出をしたところ,被告は,同年10月20日,上記申出を棄却する決定(以下「本件棄却決定」という。)をし,同月21日,原告に対してこれを通知した。

イ 原告は,平成16年1月16日,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著)。

4  争点

(1)  争点①:本件登録価格の当否の判断において,県知事がした本件建物の評価に拘束されるか否か(県知事の評価の拘束力)

(2)  争点②:県知事がした本件建物の評価において,平成12年基準が定める評価方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情があるか否か(平成12年基準の評価方法の相当性)

(3)  争点③:県知事がした本件建物の評価において,平成12年基準が定める評価方法が適切に適用されたか否か(平成12年基準の当てはめの当否)

(4)  争点④:市長がした本件建物の平成15基準年度の評価の相当性(平成15基準年度の評価の相当性)

5  争点に関する当事者の主張

(1)  争点①(県知事の評価の拘束力)について

ア 原告の主張

市町村長の固定資産税の賦課処分と道府県知事の不動産取得税の賦課処分は別個独立の行政処分であるから,固定資産税の課税標準である本件登録価格の当否の判断において,不動産取得税の賦課処分の際の道府県知事の評価に拘束される理由はなく,そのように解さないと市町村の固定資産評価審査委員会が固定資産の評価をすべきとした法の趣旨を没却するし,ひいては憲法76条2項,84条にも反することになる。

仮に,法409条2項を根拠に原則として知事の通知に係る価格に拘束されるとしても,本件においては,本件通知価格が実際の建築費よりも30パーセント以上も高いので,県知事の評価には重大かつ明白な瑕疵があるというべきであり,これに従う理由はないし,被告が実地調査等をすれば,後記(2)ア及び(3)アの事情が明らかになった場合であるから,法409条2項の「特別の事情」が存在するということもできる。

したがって,本件登録価格の当否の判断において県知事の評価には拘束されない。

イ 被告の主張

評価員ないし市長は,法409条2項により,本件建物の価格について独自に再評価をする権限が無く,県知事から通知を受けた価格に拘束されるものであるから,被告としても,再評価をする権限がない市長が決定した価格について,その価格の適否を審査する権限を有しない。原告は,県知事が決定した平成14年度の本件建物の価格が誤りであることを理由として,その後に市長が固定資産課税台帳に登録した本件建物の平成15年度の価格を争うことはできないというべきである。

そして,同項にいう「特別の事情」は,価格決定後に同項列挙事由のような明らかに価格の変動を生ずる事情が発生し,通知価格により難い場合をいうのであって,本件にはこれに該当する事情が存在しない。

(2)  争点②(平成12年基準の評価方法の相当性)について

ア 原告の主張

固定資産評価基準(以下「評価基準」という。)に定める家屋の評価方法は,一般的な合理性があり,これに従って決定した価格は,評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り,その適正な時価であると推認するのが相当であるが,本件においては,鉄骨関係の資材が平成12年以後大幅に値下がりしていた上,本件建物の評価作業の時点で,上記値下がりを反映させていた平成15年基準が明らかになっていたのだから,主体構造部と仮設工事について平成15年基準そのものと平成12年基準との差の存在は,再建築費を適切に算定できない特別の事情に当たる。したがって,主体構造部と仮設工事の標準評点数につき,平成12年基準を使用するのが不合理であるから,平成15年基準が採用されるべきである。

イ 被告の主張

本件建物は,原告主張の資材だけで建築しているものではなく,多くの建築資材,器具,設備及び労務などによって建築されるものである。しかも,平成12年基準と平成15年基準とを比較すると,標準評点数が増加したものもあるが,減少したものもあり,変わらないものもある。

(3)  争点③(平成12年基準の当てはめの当否)について

ア 原告の主張

県知事のした本件建物,再建築費評点数の算定は,次の各点において相当でない。

(ア) 延床面積

延床面積のうち,2階の外壁から外側の駐車場部分で下屋が架かっている部分である4164.82平方メートルは,延床面積に算入すべきではなく,除外すべきである。この部分は,外周壁骨組工事,間仕切骨組工事,外部仕上,内部仕上,天井仕上等の工事がなされていないから,延床面積には算入されない。なお,この部分は,全体として観察すれば下屋の2か所が空に向かって解放されており,三方が壁その他の区画で囲まれているとはいえないから,被告の主張を前提としてもこれを建物あるいは床面積と認定することは誤りである(火災報知設備,拡声器配線設備,蛍光灯用器具は,当該下屋部分にも施工されているので,これらの評価の部分は除く。)。そして,上記2階延床面積の減少部分について,①外周壁骨組工事及び外部仕上工事は,店舗部分と比較して2割程度の費用しかかかっておらず,②床仕上工事及び仮設工事は,店舗部分と比較して6割程度の費用しかかかっていないから,それぞれ当該割合分の修正が必要である。

(イ) 主体構造部

工事形態は単純だから,既製品使用の0.7の減点補正に加えて,補正係数0.8の減点補正が必要である。

(ウ) タイプシャッターについて

本件建物の鋼重量タイプシャッターは,煙感連動式部分を除けば表面の塗装がなく程度の悪いものであり,1.30の評価よりは程度が悪く,その分補正係数は0.20程度差し引くべきであり,煙感連動式のものについては1.10,それ以外のものについては0.8の補正が相当である。

(エ) 蛍光灯用器具について

本件建物で蛍光灯用器具の設置面積は,最大でも被告が延床面積とした面積である36126.02平方メートルにとどまるため,設備の設置面積に誤りがある。

本件建物の蛍光灯の設置個数は,1平方メートル当たりの設置個数が,店舗部分は0.33個,風除室部分は0.17個,事務室部分は0.16個,バックヤード部分は0.11個,屋上駐車場部分は0.06個にとどまっている。したがって,本件建物の蛍光灯用器具は,密度が低いため,配置につき補正係数0.50の減点補正が必要である。

(オ) ガス設備

本件建物でガス設備をなしている場所は,1階犬猫のトリミングセンター室及び休憩室の145平方メートル,1階従業員休憩室の145平方メートル,1階P1のバックヤード部分の245平方メートル,2階P2部分の391平方メートル,及び2階従業員休憩室の43平方メートルであり,その合計面積は969平方メートルであり,設備の設置面積に誤りがある。評価基準で延床面積が採用されているとしても,実際の設置面積が延床面積の27分の1以下である3.6パーセント程度に過ぎないから,計算単位に延床面積を使用することに合理性はない。

(カ) 空調マルチシステム

本件建物で空調マルチシステムが設置されている場所と面積は,1階ホームセンター部分の12463.22平方メートル,1階資材館部分の3449.21平方メートル,1階P1部分の4383.1平方メートル,2階P3部分の4091.79平方メートル,2階P2部分の426.41平方メートル,及び2階ホームセンター部分の166.41平方メートルの合計24980.14平方メートルであり,設備の設置面積に誤りがある。

(キ) 火災報知設備

本件建物での火災報知設備は,1階店舗部分の26637.20平方メートル,2階店舗部分の5324平方メートル,及び2階下屋付き駐車場部分の8623.25平方メートルのみであり,2階の下屋のない駐車場部分の4403平方メートルには,火災報知設備は設置されていない。したがって,火災報知設備の設置面積は,40584.45平方メートルであり,設備の設置面積に誤りがある。

(ク) 消火栓設備

消火栓設備は,設置されているものの,設置面積は,1階店舗部分と2階店舗部分の36126.2平方メートルに過ぎない。

(ケ) 仮設工事

本件建物は,建物敷地は広く,2階建て建物で仮設工事の作業は容易である。建設場所は新潟市の郊外で市道α線及び国道49号線に連結しており交通の便が良好な上,交通も混雑することはなく資材の搬入が容易な地である。また,スロープの長さは西側建物の4分の1の長さに過ぎず,スロープ・隣地・建物との間には十分な空間があり,スロープの工事に困難を伴うことはない。したがって,仮設工事の工事の難易による補正は,0.86の減点補正では足りず,工事が最も簡単なものとして補正係数0.7の減点補正が必要である。

本件建物は,凹凸が少なく,単純な直方体の組み合わせであり,階高も2階建てと低い。したがって,建物の程度の補正についても,最も簡易なものとして補正係数0.8の減点補正が必要である。

(コ) その他工事

本件建物では,その他の工事の対象となる木工事(床間,敷居,鴨居,長押等の造作工事)は全くなく,金属工事も棚,鉄製手摺,窓格子はなく,樋,鉄製階段も建物面積に比し少ない。したがって,その他の工事については,工事が少なく,最大限の減点補正がされるべきであり,補正係数0.5の減点補正がされるべきであり,1.50の増点補正には根拠がない。

(サ) その他

原告は,姫路,京都,金沢などの都市に本件建物と類似の建物を所有しているが,これらの建物については,上記のとおり原告が主張するような減点補正や,「店舗」の評価基準ではなく「工場,倉庫,市場用」の評価基準が用いられており,これと比較して,本件建物の評価は異常である。

イ 被告の主張

(ア) 延床面積

駐車場としての構造物は,外気を分断する周壁が施されていないものがほとんどであるから,床面積の判定にあたっては,厳格な外気分断性を求めることは意味が無く,二方ないし三方が壁その他の区画で囲まれておれば,その壁その他の区画の一部が開放されていても,その部分を建物又は床面積と認めて差し支えない。県知事は,本件建物の当該部分について,屋根があり,北側(店舗部分側)及び西側にそれぞれ壁などの区画があり,また,東側も壁(腰壁と垂れ壁)によって囲まれていたから面積に算入したものである。したがって,本件建物の評価について,延床面積の算定に誤りはなく,相当である。

(イ) 主体構造部

本件建物は,正方形や長方形に比して労務費が多くなるL字形の建物であり,周辺には複数の小規模な凹凸の箇所がある。また,外壁には15センチメートルのALCパネル(軽量気泡コンクリートパネル)を使用しており,建物に重量感や壁の厚みがないということはない。したがって,本件建物の主体構造部が複雑なもの,単純なもののいずれにも該当しないと判断し,補正率を1.0としたのは正当である。

(ウ) タイプシャッターについて

建具の施工の程度による補正係数の判定は,特に当該建具の施工の程度が一般的でないものについてのみ行うこととし,使用資材に見合った施工がなされている場合においては特に必要はないものである。そして,本件家屋に施工されているシャッターも防火シャッターとして一般的なものであり,標準的な施工である。

(エ) 蛍光灯用器具について

本件建物の蛍光灯評価に用いられる床面積は,延床面積に,2階駐車場のうち,蛍光灯が設置されている下屋の架かっている箇所その他を加算したものであり,これが蛍光灯が設置されている床面積の全部である。

原告の主張は補正項目(配置・蛍光灯型式・取付・点灯・天井高)を全く考慮していないのであり,採用できない。なお,電気設備の標準評点数の計算単位は,建物の延床面積ではなく,蛍光灯が設置されている床面積である。

(オ) ガス設備

ガス設備の評点数の計算単位は設置床面積ではなく,延床面積である。

(カ) 空調マルチシステム

原告の主張する空調システムの設置部分の具体的な位置及びその範囲が明らかではない。原告の主張する空調システムの設置面積は,来客を目的とする店舗の建物としては,面積が狭く不自然である。原告主張の面積に係る調査が行われた平成20年10月ころまでの間に本件建物に増改築がされており,新潟県が調査をした平成14年10月ころの設置面積とは異なる可能性がある。なお,設置面積を減少させると冷暖房能力と規模に応じた補正が必要となり,原告主張の設置面積によると同設置面積に応じて補正係数を補正しなければならなくなる結果,項目再建築費評点数は増点となってしまう。

(キ) 火災報知設備

火災報知設備の設置面積は,1階店舗部分,2階店舗部分及び2階下屋付き駐車場部分の合計43815.53平方メートルであり,2階駐車場のうち下屋のない部分は含まれていない。

(ク) 消火栓設備

消火栓設備の評価基準の計算単位は,消火栓設備の設置面積ではなく延床面積である。

(ケ) 仮設工事

本件建物は,西側が立体駐車場の出入口となっており,家屋と一体となっているスロープが市道間際までせり出している。また,建築場所の交通量が多く,道路が混雑して資材の搬入は容易ではなかった。これらの事情を考慮すれば,標準点数の補正の必要はない。

本件建物は,正方形・長方形に比して労務費が多くなるL字形の建物であり,周辺には複数の小規模な凹凸の箇所がある。また,本件建物は,2階建てとはいえ,階高は通常家屋の3階に相当する高さを有している。家屋の評価に当たっては1階建てを下限の0.8とし,比例計算により補正係数を0.86としたものと考えられる。

(コ) その他工事

本件建物においては,①2階の駐車場への出入口として設けられたスロープの通路,②壁面に看板を設置するために建築された床面積に算入されない3階の工事,③屋上を駐車場とするために施工した屋上全体のパラペット及び腰壁などの工事がその他工事と認めて評価されているが,その他工事の施工量が大きいので1.50の増点補正がされているのである。

(サ) その他

原告が主張する各建物の構造及び使用材料などの詳細が不明であるのみならず,そもそも固定資産評価基準及びその解説書における判定基準は極めて抽象的な記述となっており,その具体的な補正値の決定などは課税庁の合理的裁量に委ねられているというべきである。

本件家屋の評価に際し,新潟県が行った補正は一定の根拠をもとにしており,補正値も評価基準で定められた課税庁の裁量の範疇であり,違法ではない。

また,本件建物は,社会通念上「店舗」以外には考えられず,県知事が「事務所・店舗・百貨店用建物」の基準表を用いたことに何ら問題はない。

(4)  争点④(平成15基準年度の評価の相当性)について

ア 被告の主張

市長は,本件建物について,県知事からの本件通知価格を前提にして,平成15年基準を適用して時価を算定した。すなわち,県知事から通知を受けた再建築費評点数に評価変動割合0.93と経年減点補正率0.98を乗じて平成15年度の再建築費評点数を算定し,これに評点1点当たりの価格1.1円を乗じて,本件建物の平成15年度の価格を算定したものであって,その価格は適正なものである。

上記の評価変動割合については,県知事が,非木造家屋の「事務所・店舗・百貨店用」の鉄骨造の建物について,平成14年に新築され,平成12年基準によって評価された建物のいくつかを取り出し,その各建物について再建築費評点数を計算したところ,平成15年基準による評点数は平成12年基準による評点数の0.93であったため,評価変動割合を0.93と通知したものであり,市長は,これを基にして平成15基準年度の評価替えを行ったものであって,正当である。

また,経年減点補正については,物価水準の下落とは関係のない事柄である。

イ 原告の主張

(ア) 主位的請求について

平成12年標準評点数は平成10年1月の東京都の物価水準を基に積算されたものであるところ,平成10年から平成15年までは建築資材,人件費が大幅に下落している。建設省及び国土交通省が発行している建築統計年報の平成11年度版(平成10年度計)及び平成16年度版(平成15年度計)によれば,新潟県の鉄骨造りの商業用建物の1平方メートル当たり建築費(人件費込み)につき,平成15年度は平成10年度の77.02パーセントに下落していた(下落率が22.98パーセント)のであり,この点において,評価基準が定める評価方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情があったというべきである。したがって,本件においては,評価変動割合と経年減点補正率により,0.7702程度の補正がされるべきであった。

そこで,争点③についての原告の主張(前記(3)ア)を前提にし,さらに,2階延床面積の減少により外周壁骨組工事,外部仕上工事について各2割,床仕上工事,仮設工事について各6割の再建築費評点数が相当であるとし,以上により算定した本件建物の再建築費評点数合計25億1984万4649点(別表Ⅰのとおり)に上記変動率0.7702を乗ずると,19億4078万4348点となり,これに1点当たり1.1円を乗ずると,平成15年度の本件建物の適正な時価は,21億3486万2782円となる。

(イ) 予備的請求について

「P42006年秋号」30頁によれば,全国の鉄骨造りの店舗の建築費の1平方メートル当たり単価につき,下落率が15.3パーセントであり,本件においては,評価変動割合と経年減点補正率により,少なくとも0.85程度の補正がされるべきであった。

争点③についての原告の主張を前提に,主体構造部及び仮設工事について平成15年基準の標準評点数を,その余の評価項目については平成12年基準の標準評点数を算定すると,別表Ⅱのとおりになる(前者は7億0273万7575点,後者は17億1530万7331点)が,そのうち平成12年基準の標準評点数を算定した項目については前記の0.85の補正率を乗じ,さらに,両者について1点当たり1.1円を乗じた上で両者の価格を合計して算定すると,平成15年度の本件建物の適正な時価は,23億7682万3686円となる。

第3当裁判所の判断

1  争点①(県知事の評価の拘束力)について

(1)  法409条2項は,「固定資産評価員は,前項の規定によって土地又は家屋の評価をする場合において,道府県知事が第73条の21第3項の規定によって当該土地又は家屋の所在地の市町村長に通知した価格があるときは,当該土地又は家屋について地目の変換,改築,損壊その他特別の事情があるため当該通知に係る価格により難い場合を除くほか,当該通知に係る価格に基づいて,当該土地又は家屋の評価をしなければならない。」と規定しているので,知事の通知があった固定資産については,「当該土地又は家屋について地目の変換,改築,損壊その他特別の事情があるため当該通知に係る価格により難い場合」に該当しない限り,知事の通知に係る価格によって当該固定資産に係る固定資産税の課税標準となるべき価格が決定されることとなる。

ところで,知事の通知に係る価格は,本来,不動産取得税の課税標準を定めるためのものであるところ,不動産取得税の賦課決定は,行政処分であるから,不動産取得税の納税者が法定の期間内に法定の手続によって賦課決定を争い,その取消しを受けない限り,上記賦課決定は確定し,これを争うことができなくなる。

そして,法が,固定資産課税台帳登録価格の決定の手続において,評価員が固定資産の評価をするに当たって,上記のとおり,知事の通知があった場合には原則として当該通知に係る価格によらせた趣旨は,固定資産税の課税対象となる土地及び家屋は,発電所及び変電所を除けば不動産取得税の課税対象となる土地及び家屋と同一であり,(法73条1~3号,341条2,3号参照),その評価の基準並びに評価の実施方法及び手続も同一である(法73条の21第2項,403条参照)ところから,両税における固定資産(不動産)の評価の統一と徴税事務の簡素化を図るためであると考えられるのであり,この趣旨からすれば,法は,評価員が固定資産の評価をするに当たって,当該固定資産について知事の通知があった場合には,法409条2項の「当該土地又は家屋について地目の変換,改築,損壊その他特別の事情があるため当該通知に係る価格により難い場合」に該当しない限り,みずから客観的に適正な時価を認定することなく,専ら知事の通知に係る価格によりこれを決定すべきものとしていると解するのが相当である。したがって,仮に知事の通知に係る価格が当該固定資産の客観的に適正な時価と一致していなくても,それが法409条2項にいう「当該土地又は家屋について地目の変換,改築,損壊その他特別の事情があるため当該通知に係る価格により難い場合」の程度に達しない以上は,評価員が知事の通知に係る価格によってした固定資産の評価及びこれに基づいて市町村長が行った固定資産課税台帳への価格の登録は違法となるものではなく,このような場合には,固定資産税の納税者は,固定資産課税台帳への価格の登録に対する審査請求ないし審査請求棄却決定の取消訴訟において,知事の通知に係る価格が客観的に適正な時価でないと主張して,固定資産課税台帳登録価格を争うことはできないものと解される。

(2)  そうすると,固定資産税の納税者が,その課税標準の基礎となった知事の通知に係る価格を争うことができるのは,法409条2項にいう「当該土地又は家屋について地目の変換,改築,損壊その他特別の事情があるため当該通知に係る価格により難い場合」に限られることとなるが,上記のような法の趣旨からすると,法409条2項にいう「特別の事情があるため当該通知に係る価格により難い場合」とは,当該固定資産につき,地目の変換,改築,損壊のように,不動産取得後に生じた特別の事情があるために,道府県知事の通知に係る価格により難い場合と解すべきであるから,固定資産税の納税者は,道府県知事の通知に係る価格に基づいて評価され,固定資産課税台帳に登録された価格に対する審査請求棄却決定の取消訴訟においては,当該固定資産の時価と道府県知事の通知に係る価格とに隔差があることを主張するだけでは足りず,それが不動産取得後に生じた特別の事情によるものであることをも主張する必要があるものというべきである。

(3)  これについて本件をみると,原告は,前記第2の5(2)ア及び同(3)アのとおり,県知事が不動産取得税賦課の際にした本件建物の評価の誤りを主張するのみで,本件建物の平成15年度固定資産賦課基準時の価格と本件建物の取得時の価格とに隔差があり,かつ,それが不動産取得後に生じた特別の事情によるものであることを主張していないのであるから,法409条2項の「その他特別の事情があるため当該通知に係る価格により難い場合」に該当し,本件価格登録ないし本件棄却決定が違法である旨の主張としては失当というべきである。

なお,原告は,本件通知価格が実際の建築費よりも30パーセント以上も高いので,県知事の評価には重大かつ明白な瑕疵があるというべきであるから,これに従う必要がないとの主張もするが,原告指摘の事情だけでは,県知事の評価に重大かつ明白な瑕疵があるとはいえないから,原告の上記主張は採用できない。

2  争点②(平成12年基準の評価方法の相当性)及び③(平成12年基準の当てはめの当否)について

上記1のとおり,争点②及び③について原告が主張する事情は,いずれも,本件建物に対する不動産取得税の賦課に当たって県知事がした本件建物の評価の誤りをいうものであるから,本件訴訟において,これらの事情を本件価格登録ないし本件棄却決定の違法事由として争うことはできない。

3  争点④(平成15基準年度の評価の相当性)について

(1)  前記前提事実のとおり,本件建物は,平成14年5月に新築されたものであって,平成15年度の固定資産税の賦課に際し,評価員は,本来であれば,本件建物について,平成15年基準の新築家屋の評価基準に則って評価するところであるが,前記前提事実のとおり,本件では,県知事から法73条の21第3項に基づく通知があったため,法409条2項の規定により,本件通知価格を基礎として本件建物の評価を行わなければならないこととなる。

(2)  固定資産評価基準は,固定資産税の課税標準の基礎となるべき価格の適正を手続的に担保するために,その算定手続,方法を規定するものであるから,これに従って決定された価格は,特別の事情の存しない限り,法349条1項所定の適正な時価であると推認するのが相当である(最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決・集民210号283頁参照)。

平成15年基準によれば,在来分の非木造家屋については,基準年度の前年度における再建築費評点数に再建築費評点補正率を乗じて得た点数を再建築費評点数とされ,基準年度の前年度における再建築費評点数は,前基準年度に適用した固定資産評価基準,すなわち,平成12年基準によって求めたものであるとされているところ,本件通知評点数は,まさに本件建物について平成12年基準によって求めた再建築費評点数である。そして,平成15年基準によれば,平成15年度における在来分の非木造家屋の評価に係る再建築費評点補正率は0.96であるところ,前記前提事実のとおり,評価員ないし市長は,本件通知評点数に平成15年基準の再建築費評点補正率よりも低い0.93を「評価変動割合」として乗じ,さらに,建築後約7か月を経過していたため経年減点補正率0.98を乗じて平成15年度の再建築費評点数を算定し,これに評点1点当たりの価格1.1円を乗じて本件登録価格を算出しているのであって,これらの事情を総合考慮すると,本件登録価格は,平成15年基準に従って算定される価格を上回ることはないのであって,ひいては適正な時価を上回ることはないと認められる。

(3)  この点,原告は,本件登録価格の決定に当たっては,評価変動割合と経年減点補正率により0.7702又は0.85の補正をすべきであったと主張するが,経年減点補正率は,家屋につき通常の維持管理を行うものとした場合において,その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎として定めたものであるから,物価水準の下落とは関係がなく,評価変動割合についても,証拠(甲46,54)及び弁論の全趣旨によれば,原告の主張するような事情も認められるものの,これらは一般的,抽象的な事情であって,本件建物についての評価員ないし市長の評価を下回る評価を相当とする具体的な事情とはいえず,これらの事情によっては,上記(2)の認定を覆すに足りず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

(4)  したがって,市長が評価員作成の評価調書に基づいて本件登録価格を決定したことが違法であるとは認められず,被告がした本件棄却決定も違法であるとは認められない。

第4結論

以上のとおり,原告の請求には理由がないからこれをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

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