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新潟地方裁判所 平成19年(行ウ)1号 判決 2008年11月14日

主文

1  新発田市長が原告に対し平成19年5月11日付けでした別紙1記載の公共用財産使用許可申請を不許可とする処分を取り消す。

2  新発田市長は,原告に対し,別紙1記載の公共用財産使用許可申請について,これを許可せよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨

第2事案の概要

1  本件は,新潟県新発田市のα地区において豚舎(以下「本件豚舎」という。)を所有して養豚業等を営む原告が,本件豚舎に通じる通路の一部を敷設するため,新発田市公共用財産管理条例(平成14年条例第18号・以下「本件条例」という。)及び同施行規則(平成14年規則第13号・以下「本件規則」という。)に基づき,別紙1記載のとおり,上記通路の途上にある被告の管理に係る水路(以下「本件水路」という。)の一部(2か所)を使用することの許可を処分行政庁に申請した(以下「本件申請」という。)ところ,処分行政庁がこれを不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)をしたため,被告に対し,本件不許可処分の取消を求めるとともに,処分行政庁が本件申請を許可すべき旨を命ずることを求める事案である。

2  本件条例の定め等(甲2,3)

(1)  本件条例には,以下の規定がある。

(目的)

第1条

この条例は,法令に定めるもののほか,公共用財産の管理に関し必要な事項を定めることにより,公共の安全を保持し,かつ,公共の福祉の増進を図ることを目的とする。

(定義)

第2条

1 この条例において,「公共用財産」とは,道路,河川,水路,堤とう等で一般公共の用に供されているもの(これらの定着物を含む。)のうち,道路法(昭和27年法律第180号),河川法(昭和39年法律第167号)その他の公共物の管理に関する法律の適用又は準用を受けないものをいう。

2 (略)

(一般禁止行為)

第3条

何人も次に掲げる行為をしてはならない。

(1)  みだりに公共用財産を損壊すること。

(2)  みだりに公共用財産にじんかい,汚物,土石,竹木等を投棄し,又は放置すること。

(3)  前2号に掲げるもののほか,公共用財産の管理に著しく支障を及ぼすおそれのある行為をすること。

(利用の禁止又は制限)

第4条

市長は,次の各号のいずれかに該当するときは,一定の期間及び区域を定めて,公共用財産の一般の利用を禁止し,又は制限することができる。

(1)  公共用財産の破損,決壊その他の事由により,一般の利用に供することが適当でないと認められるとき。

(2)  公共用財産に関する工事のため必要があるとき。

(使用の許可)

第5条

1 公共用財産について,次に掲げる行為をしようとする者は,規則で定めるところにより,市長の許可を受けなければならない。許可を受けた事項を変更しようとするときも,同様とする。

(1) 工作物を設置すること。

(2) 農耕,草木の栽培,放牧その他これらに類する目的で使用すること。

(3)  前2号に掲げるもののほか,公共用財産をその目的以外の目的で使用すること。

2 市長は,前項の許可に公共用財産の管理上必要な条件を付することができる。

(委任)

第24条

この条例の施行に関し必要な事項は,規則で定める。

附則

(施行期日)

1 この条例は平成14年4月1日から施行する。

2 この条例施行の際,現に正当な権原に基づき公共用財産を使用し,又は生産物を採取している者は,従前と同様の条件により,当該使用又は採取について第5条第1項又は第13条第1項の規定による許可を受けたものとみなす。

3 (略)

4 この条例施行後に,国有財産特別措置法(昭和23年法律第73号)第5条第1項の規定に基づき,市が新たに取得した公共用財産について,現に正当な権原に基づき当該公共用財産を使用し,又は生産物を採取している者が当該使用又は採取について,第5条第1項又は第13条第1項の許可を受けたときは,当該公共用財産が市の所有となった日から当該許可を受けた日までの間,同条の許可を受けていたものとみなす。

(5以下略)

(2)  本件規則には,以下の規定がある。

(趣旨)

第1条

この規則は,本件条例の施行に関し,必要な事項を定めるものとする。

(使用の許可の申請等)

第2条

1 本件条例第5条第1項前段の規定による許可を受けようとする者は,別記第1号様式による申請書に関係書類を添えて,市長に提出しなければならない。

2 市長は,前項に規定する申請を適当と認めたときは,別記第2号様式による許可書を申請者に交付する。

なお,別記第1号様式に定められている公共用財産使用許可申請書の様式は,「下記のとおり公共用財産の使用の許可を受けたいので,新発田市公共用財産管理条例施行規則第2条第1項の規定により,関係書類を添えて申請します。」との記載の後に,公共用財産の所在地,公共用財産の種類,使用面積等,使用の目的,使用の期間及びその他参考となる事項を記載し,添付書類として,位置図,公図等の写し,実測平面図(縮尺500分の1程度とし,民有地との境界及び使用区域を明示すること。),使用面積求積図及び求積表,利害関係人の承諾書,工作物を設置する場合は必要な図書(工事計画説明書,設計書,縦横断面図,工作物の構造その他の図書)並びに水路等を使用する場合は高水位及び低水位を明示した図面が掲記されている。

3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。)

(1)  当事者(甲4,9)

原告は,食肉処理加工業,養豚の経営等を目的とする株式会社であり,新潟県新発田市β×番4,同市γ×番1外4筆の土地の上に本件豚舎及びその他の建物等を所有し,原告a(以下「本件農場」という。)として養豚の経営を行っている。

被告は,処分行政庁の所属する行政主体(普通地方公共団体)であり,処分行政庁は被告の代表者でもある(以下被告を「被告市」,処分行政庁を「被告市長」ともいう。)。

(2)  本件農場及びその使用する通路について(甲36,44,48,49,証人b)

ア 本件農場は,もともと砂利採取場跡地であった前記(1)の土地を原告が平成14年11月に買い取り,豚舎14棟,事務所,堆肥舎,原料庫等の建設工事のほか,植栽工事,防火水槽,調整池工事,緑化工事等を行い農場としたものである。

イ 本件農場の北西側には,本件農場から国道290号に至る通路(以下「既存通路」という。)があり,同通路が本件農場から国道へ通じる唯一の通路である。なお,本件豚舎から国道290号までの距離は約284メートルである。

本件豚舎と既存通路の位置関係は,別紙2のとおりである。

(3)  既存通路及び本件通路並びに本件水路の位置関係等(甲1の1及び2,2,35,乙17の2及び3,証人c)

既存通路は,その一部(新潟県新発田市γ×番地1ないし同×番地先の道路)が国有財産であったが,その部分は平成15年4月1日に国から被告に譲与され,被告が管理する法定外公共物となった。

本件水路は,河川法の適用を受けない水路であり(河川法3条1項,4条1項,5条1項参照),本件条例に基づき被告市が管理している。

既存通路の前記部分は本件水路の一部をまたぐようにしてその上に敷設されているが,原告は本件農場を建設する際に通路として使用する目的で本件水路の一部について本件条例5条1項に基づく使用許可を得ている。

原告は,既存通路の一部を迂回する形で通路を敷設する予定であり(以下この通路を「本件通路」という。),既存通路とは別の部分(2か所)で本件水路をまたぐようにその上に敷設されることとなる。

既存通路及び本件通路並びに本件水路の位置関係は,別紙3のとおりである。

(4)  本件申請の内容(甲1の1及び2,甲44,証人b)

本件申請は,別紙1のとおり,本件水路の2か所(①27.16平方メートル,②12.89平方メートル)にU字溝を設置して開渠溝とし,開渠溝の上部に蓋をしてその上に本件水路に敷設するという態様で本件水路を使用することの許可を求めるものであり,本件申請の添付書類(当初の申請後に追完されたもの。)として,位置図,更正図写し,道路計画平面図,道路計画縦断図,道路計画横断面図,排水開渠工の断面図及び側面図等が添付されている。なお,各図面により,民有地との境界及び使用区域が明確となっており,高水位と低水位が明示されている。

(5)  本件不許可処分の理由について(乙6)

本件不許可処分の通知に記載された理由は,概要,次のとおりである。

ア 本件許可申請は既存通路の代替施設として通路開設を目的とするものであるが,既存通路の紛争は新潟地方裁判所新発田支部にて平成18年4月2日和解(以下「別件和解」という。)により解決し,支障なく利用されているので,本件申請の目的たる新たな通路の開設はその必要性が認められない。

イ 被告と原告の間で締結された公害防止協定に基づき,原告は,被告に報告書を提出したり,被告の指示により平成18年11月搬入分から1豚房あたり20頭の飼育とする臭気対策を行ってきたが,この間被告が臭気改善状況の検証を行ってきたところ,臭気監視嘱託員の臭気確認,被告や地元住民が行った臭気指数測定の結果によると平成18年11月以降の臭気改善は不十分であったと判断されるため,原告は臭気指数12を超えないよう今後更に改善策を講じなければならないところである。

ウ 上記ア及びイの理由により本件許可申請は住民の福祉の増進(地方自治法1条の2第1項),公共の福祉の増進(本件条例1条)に反すると評価されるから不許可とする。なお,アについては,本件条例3条についても違反と評価される。

4 争点

本件不許可処分及び許可処分をしないことの違法性の有無

5 争点に関する当事者の主張

【原告の主張】

(1)  行政庁がその処分をすべきことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであること

本件条例が,第3条で一般的禁止行為を規定し,第4条で利用の禁止又は制限について規定していることからすれば,被告市の公共用財産の使用許可申請に対しては,第4条に該当する場合を除き許可すべきものであり,本件申請に対する許可処分は覊束行為である。その性質も警察権に基づく使用許可又は公共用施設の使用許可と類似の公物管理権に基づく使用許可であり,多数人の共同使用関係を調整し,公物の管理に支障を生ずることを防止することを目的とするものであるから,他の自由使用を妨げることなく,かつ,公物本来の機能を害するものでない限り,管理者はその使用を許可しなければならない拘束を受けるというべきである。

本件申請に係る水路の使用は,本件水路の上に工作物を設置するというものであり,同工作物の設計は被告市の指導に基づくものであるし,その設置によって本件水路の通水機能が失われることはなく(むしろ良くなる。),本件水路を損壊するおそれがないから,上記の水路使用が第4条の禁止事由に該当しないことは明らかである。

したがって,本件申請については,不許可理由が存在せず,許可すべきことが義務付けられているものであるから,義務付けの訴えに係る処分につき,行政庁がその処分をすべきことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められる場合に該当するのであり,違法である。

(2)  本件不許可処分が裁量の逸脱又は濫用に当たること

ア 本件申請の必要性

本件豚舎は,豚の収容能力が高く,原告の直営肥育農場4か所のうち,最大規模のものである。本件豚舎による養豚事業は,原告の社運をかけた事業計画であり,原告の経営において極めて重要な位置を占める。

原告が養豚施設に到達するためには,国道290号線から既存通路に入り,本件水路を通過しなければならないところ,既存通路は,平成15年9月4日,本件豚舎建設に反対する地域住民のdやe(δ地区での豚舎建設反対の会の代表。)によって通行を妨害された通路であり,しかも,平成18年12月5日以降はその一部がeの所有となっている。

また,既存通路上の係争地は,別件和解で合意された使用貸借契約に基づき,原告が使用することになったものの,同使用貸借は,解除事由の判断に主観の入る余地があることから解除が容易であり,別件和解の条項上解除されてから通行できなくなるまでわずか4か月しかなく,その期間内に法的措置による救済を受けることも困難である。

原告は,上記係争地を迂回した本件通路を開設すべく,同通路開設に必要な土地の所有者で原告と信頼関係のあるfとの間で同土地の使用貸借契約を締結したのであり,本件通路が開設されれば,本件農場から国道290号までの通路を安定的に確保できる。

本件申請に係る工作物の設置は,原告がその事業を安定的に遂行する上で必要なものであり,許可を受ける利益と必要性がある。

イ 本件水路への影響

本件水路は,一つは枯れ川で全く利用されておらず,もう一つは素堀の水路でこれもほとんど利用されていない。本件水路の幅は約30センチメートルであり,工作物設置の目的を達するために自動車が通れるように丈夫な蓋を設置することは,住宅や事業所への通路として広く一般に行われていることであって,公共用水路の通常の用法に属するものというべきであり,当初の申請に係るヒューム管の設置も直径75センチメートル長さ10メートルと22メートルのものを設置するに過ぎず,変更後のU字溝の設置も幅30センチメートルで同様の長さのものを設置するに過ぎず,これにより水路を損壊することにならないのみならず,通水機能を増加させることになる。

ウ 臭気の問題について

被告は,原告の経営する本件豚舎より発生する臭気を理由として,周辺住民が許可に反対していることを本件不許可処分の理由としている。

しかし,公共用財産の使用許可は,当該公共財産の管理に支障がないか及び当該公共用財産の機能を損なわないかという観点から行われるべきものであって,当該臭気の問題は本件水路の使用許可とは全く関係のないものである。

当該臭気の問題は,公害防止関係法令及び原告と被告が締結した公害防止協定の遵守によって解決されるべきものである。なお,原告は,当該臭気の問題に真摯に対応してきており,その結果,臭気指数測定の結果では基準値を超えておらず,効果を上げている。また,原告は,周辺住民に公害防止協定の締結や住民から監視員を出してもらって臭気の防止・改善にあたってもらうという監視員制度を呼びかけてきた。

本件不許可処分は,被告市長が条例上は許可しなければならないものであるにもかかわらず,政治的理由で留保しているものである。被告市長は許可しないことが違法であることを市長として十分に認識している発言を行っている。許可の要件とは関係のない事項の考慮によって本件不許可処分は行われたものであり,本件不許可処分は不正な動機による行為というべきである。

エ 信義則違反

原告は,被告の同意を得て現在の本件豚舎の敷地に養豚施設を設置したのであり,本件申請に係る工作物の設計も被告の指導に沿って行ったものである。さらに,臭気対策も,被告市の指導に従い行動してきたものであり,原告は,被告市担当者の言を信じて本件申請の許可が下りるものとばかり考えてきた。

本件不許可処分を行うことは,原告の抱いてきた信頼を被告市が損なうものであり,信義則に反するものといえ,本件不許可処分の違法性を示すものである。

オ したがって,仮に,本件申請に係る使用許可に行政処分庁の裁量が認められるとしても,本件不許可処分は裁量の逸脱又は濫用に当たるというべきである。

(3)  手続条例違反

新発田市行政手続条例5条及び行政手続法5条によれば,申請により求められた許可をするかどうかを,その法令の定めに従って判断するための審査基準を具体的に定め,審査基準を公にしておかなければならない。しかし,被告市は,本件条例5条に基づく許可申請において,具体的な審査基準を定めていないというのであり,本件においては,その審査基準は公益適合性・合目的性の要請を充足し得るや否やであると主張しているが,同基準は具体的な審査基準足り得るものではなく,その審査基準を定め,公にもされていないのであるから,この点からも本件不許可処分は違法である。

【被告の主張】

(1)  行政庁がその処分をすべきことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかとはいえないこと

本件水路は,法定外公共用物であるところ,地方自治法244条以下に定めのある公の施設については,人工的に設置された施設に限るべきではないと解されるので,法定外公共用物も公の施設に該当するものである。したがって,本件条例も地方自治法244条の2第1項に基づき制定されたものである。

本件条例及び法定外公共用物の趣旨からして,本件申請のように水路を通路とする工作物設置・目的外使用許可は,授益的行為(特許)であり,例外的行為にあたるのであるから,合理的にして必要最小限度にとどめられるべきである。

そして,本件申請の許否の審査は,公共の福祉の増進の観点から公益適合性・合目的性の要請を充足し得るかの価値判断となる。

当該判断は,行政庁の政策的判断・価値判断であり,本件申請の許否も覊束行為ではなく裁量行為と解され,広範な裁量が認められるものである。

(2)  本件処分が裁量の逸脱又は濫用に当たないこと

ア 新規通路開設の必要性がないこと

原告は,既存通路を開設して利用しており,既存通路の一部として使用するため水路39.13平方メートルにつきすでに平成16年5月19日付けで使用許可がされているものである。

そして,既存通路については,係争地についても別件和解が成立して問題なく通行でき,和解の内容も常識の範囲と思料される。eも,原告及び被告が協力してくれている間は使用貸借の解約をしないと発言している。

なお,別件和解によれば,使用貸借契約解除後も,4か月間既存通路を通行できることとされており,新たな通路を開設するに必要と思料される期間既存通路を通行できるのである。

本件申請は,既存通路の迂回通路を新設しようとするものであるが,既存通路の利用に支障があるような現実的・具体的事情を客観的に把握し得ないのだから,この状況で新たな進入路を開設する必要性がないばかりか,企業としての信義に反し地域住民との良好な関係構築を阻害するもので公共の福祉の観点から問題がある。

また,不必要な許可は,みだりに公共用財産を損壊する結果をもたらし,本件条例3条2号にも反する。

なお,原告の本件通路新設に係る農地法5条の許可申請に際しては,当時既存通路が土地の境界等で係争中で利用できなかったため,その代替施設とするものであることを理由としたのであり,その後,別件和解が成立しその事情は変更されたのであるから,本件通路の開設の必要性はなくなったというべきである。

イ 臭気の問題について

本件豚舎の敷地は,悪臭防止法に定める第2種地域に指定されており,その臭気の許容限度(臭気指数)は,敷地境界線において,規制基準が12とされている。

原告と被告市は公害防止協定を締結しており,被告市は,同規制基準を達成すべく,同協定に基づき指導等を重ねてきたが,本件豚舎からは,本件不許可処分の前後を通じて,悪臭防止法が規制する基準12を超える数値が測定されており,コンプライアンス遵守が強制される昨今,法規制を遵守しない経済活動は社会的に許容されない。なお,原告にとって,既存通路以外の通路を確保できれば,住民との協議を拒否して既存通路場の土地の使用貸借を解除されても構わないことになり,悪臭を発し続けても営業に不自由がなく,好都合であるといえ,本件申請の目的はそこにあると見ざるを得ない。したがって,本件申請自体が不当な動機に基づくものである。

なお,原告が問題とする被告市長の発言は,特段の事情がないことを前提にしたものに過ぎない。

ウ 原告の信義則違反との主張について

被告市が,原告に対し,住民の要望に基づき暗渠から開渠へ変更するよう指導したことは認めるが,この変更指導は本件申請に対して最終判断がなされるまでの間の担当部署の手続の一環としてされたものに過ぎず,諸事情を総合判断した結果に基づく本件不許可処分とは直接結びつくものではない。

本件においては,本件豚舎からの悪臭について住民からの苦情が多くあり,本件申請を不許可とするよう陳情もあり,被告市議会においても全会一致で同陳情を採択したという経緯もあり,これも当然考慮事項となるものである。

エ したがって,被告市長は,住民福祉・公共の福祉の観点から総合的に公益について判断し,本件処分をしたものであり,この判断理由は正当であり,当然是認されるものである。

(3)  手続条例違反について

本件条例においては,条例等に具体的審査基準の明示はなく,他に具体的審査基準を定めたものはない。

しかし,本件条例の適用においては,法定外公共用物が多様であり,個別規定をおくことは困難であることから,公園や会館等の人工的に設置された個々の公の施設の管理とは大きく異なるところである。

本件のような政策的判断・裁量行為については具体的審査基準を明示することはできず,個々の事案につき,公共の福祉の増進の観点から,前記(1)のとおり,公益適合性・合目的性の要請を充足し得るのかが判断基準となるというべきである。

したがって,原告の審査基準が不明確であるとの主張は失当である。

第3当裁判所の判断

1  証拠(認定事実中に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  本件申請に係る本件水路の状況等(甲1の1,1の2,35,44,証人b)

本件申請に係る本件水路の幅は1.5メートル,深さ50センチメートル程度であり,本件申請に係る開渠溝(U字溝)の幅は30センチメートル,高さは98.5センチメートルである。

なお,本件申請に係る本件水路の現況は,別紙1記載の水路①は素堀の状態であり,同水路②は水流が確認できない状態である。

(2)  本件農場の周辺の状況(甲25,44,証人b)

本件農場の周辺土地の形状はすり鉢状となっており,その周囲に人家等の建物はないが,その周辺にはα地区の集落があり,本件農場の南西側にε集落,北西側にζ集落がある。また,本件農場から約1.5キロメートル程度離れたところにδ地区があり,観光地となっている。

(3)  原告の本件豚舎での事業と既存通路の通行(甲36,44,証人b)

ア 本件豚舎の規模は,14棟・1棟25豚房・1豚房35頭であり,収用頭数は1万0500頭である。

イ 本件豚舎での養豚は,生後約70日の子豚を搬入し,約95日間豚舎で飼育し,出荷するものであり,平成18年は,3万2787頭を出荷した。本件豚舎は原告が山形・新潟において直営している肥育農場4か所のうち最大規模であり,本件豚舎からの出荷が売上げに占める割合は約3割程度である。

ウ 本件農場に通行する車両とその通行は,従業員の通勤用車両10台の朝夕の通行,エサ車両1台の1日2~3回の通行,,豚舎敷床車両1台の1日2~3回の通行,出荷車両1~2台の週4~5台の通行,堆肥運搬車両2台の1日3~5回の通行,本部関係(獣医・本部管理部門)の車両の1日1~3回の通行,業者(ゴミ収集・灯油・郵便・宅配便等)の車両の1日1~5回の通行及び資材等(消毒薬・薬品・石灰等)の車両の通行がある。

(4)  本件農場の建設計画(甲9,36,44,証人b)

原告は,家畜排せつ物の管理の適正化及び利用促進に関する法律施行規則の管理基準に関する規定が平成16年11月に施行されることとなり,同基準に適合しない豚の契約農家の施設を利用できなくなる見込みが生じたことから,平成14年ころ,被告市のα地区において本件農場を建設する計画を立て,同年11月ころ,g株式会社より砂利採取場跡地であった本件農場の敷地を取得し,平成15年8月1日付けで新潟県知事より林地開発許可を得た。

原告の本件農場の建設計画については,その計画の段階から,本件農場の周辺のα地区の住民が反対運動を行い,本件豚舎から約1.5キロメートル離れたδ地区でも同地区でホテルを経営するeが会長である「豚舎建設反対-δ温泉の会」が建設反対運動を行っていた。

(5)  被告市の代替地あっせんと本件農場建設容認の基本合意(甲10,11,44,証人b)

ア 被告市は,平成15年8月頃,原告に対し,本件農場の建設の中止を要請するとともに,被告市内の市営η放牧場に代替農場を建設するとの内容の豚舎建設スケジュールを策定して原告に交付し,同地を代替地とする提案を行い,あっせん交渉を行った。

原告は,被告の上記提案に同意し,本件農場の建設を一時中止した。

しかし,同牧場用地の周辺のη地区の住民から豚舎建設の反対運動があり,被告は,上記提案を撤回し,原告はこれを了承して本件農場の建設計画を復活させることとした。

イ 被告市は,原告との間で,同年9月5日,本件豚舎の建設を認めるとの基本合意を行い,同年10月10日,原告代表者及び被告市長が次の内容の確認書に調印した。

(ア) 被告市は,原告に対し,新発田市営η放牧場用地を新発田市αの事業予定地の代替地として斡旋することができなくなったことについて,遺憾の意を表し,原告は被告市の申出を了承する。

(イ) (ア)の経過については,被告市が,新発田市α地区及び豚舎建設反対δ温泉の会に説明するものとする。

(ウ) 今後,原告が,新発田市αの事業予定地において,新潟県から平成15年8月1日付けで許可された事業に着手するに際しては,被告市は,事業説明会の開催,開発協定並びに公害防止協定の締結及び公害防止計画書の策定に係る原告と地元住民との調整及び協議の仲介について積極的に努めていくこととする。

(6)  付近住民と原告との間の既存通路についての仮処分(甲12ないし14,36,44,証人b)

ア e及び本件農場予定地の周辺に居住するdは,既存通路上の一部にdが所有する新発田市γ×番地子の土地(地積16平方メートル。以下「別件土地」という。)の一部がかかっていると主張し,平成15年9月4日,既存通路上の一部に鉄柵,金属鋲及び看板を設置して原告の既存通路の通行を妨げ,このため本件豚舎の建設工事の資材を運搬するための車両が既存通路を通行できない状態に至った。

イ 原告は,d及びeを相手として,新潟地方裁判所新発田支部に同鉄柵等の撤去と通行妨害禁止の仮処分を申し立て(新潟地方裁判所新発田支部平成15年(ヨ)第18号,同第20号),他方で,dは,原告を相手として,同支部に別件土地の所有権に基づく同土地の一部への立入禁止の仮処分を申し立てた(同支部平成16年(ヨ)第2号)ところ,平成16年3月31日,原告の申立ての相当部分が認められて仮処分命令が発令され(以下「別件仮処分」という。),dの立入禁止の仮処分申立ては却下された。dは,同却下決定に対して即時抗告を行ったが,同年7月26日,同即時抗告は棄却された(東京高等裁判所平成16年(ラ)第766号)。

ウ eは,別件仮処分を受けて,本件鉄柵等を一部撤去し,本件農場の建設工事の資材運搬車両等が既存通路を通行できるようになった。

エ 原告は,本件豚舎の建設を進め,平成16年11月から本件豚舎における豚の搬入を開始し,平成17年1月ころに本件農場全体が完成し,工事業者から引渡を受けた。

(7)  被告と原告との間の公害防止協定の策定(乙1,2)

ア 公害の防止のため必要な事項を定めることにより,市民の健康を保護するとともに,生活環境を保全することを目的として(第1条)制定された被告市の公害防止条例(昭和48年条例第70号)によれば,市長は,公害(第2条により定義され,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる悪臭によって,人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることを含む。)が発生し又は発生するおそれがあると認めるときは,その公害を発生させ,又は発生させるおそれがあるものに対し,公害の防止のため必要な措置を講ずるよう指導し,又は勧告しなければならないものとされ(第4条),事業者は,その事業活動に伴って発生する公害を防止するため,その責任において必要な措置を講ずること,法令等の規定の違反の有無に関わらず公害防止のため最大限の努力をすること及び市長が行う公害の防止に関する施策に積極的に協力すべきことが責務とされ(第9条),大気の汚染等を生ずるおそれがある工場又は事業場として規則で定めるもの(同条例施行規則により豚10頭以上飼育する畜舎が含まれる。)を設置しようとする者は,その設置の工事の開始の日の90日前までに,市長と設置計画,公害防止のための施設の整備等の措置,事業者の報告,市職員の立入調査,公害が生じた場合における措置等につき,協議しなければならず(第11条),同協議が整った場合において,市長が必要と認めたときは,事業者は,協議の結果に基づいて市長と公害防止協定を結ぶこととされている(第12条)。

また,同施行規則第2条によれば,同条例4条の規定に基づく指導・勧告を受けた者が公害防止措置を完了したときは,①工事又は事業場の所在地及び名称②措置の内容③措置完了年月日④その他市長が特に必要と認めた事項を記載した公害防止措置完了報告書を速やかに市長に提出するものとされている。

イ 原告は,平成16年11月18日,被告との間で,公害防止協定を締結した(以下「本件公害防止協定」という。)。

本件公害防止協定では,原告及び被告が相互に協力して被告市における公害の発生を防止し,市民の健康を保護するとともに生活環境を保全することをその目的とし(第1条),被告市が協定の履行に必要な限度において,原告に対して報告を求め,又は被告市の職員に農場に立ち入り,施設その他の物件を検査させることができることとされ(第7条1項),原告の事業活動に伴い,住民等から公害苦情の申立てがあったときは,原告が,誠意をもってその解決にあたるものとされ(第8条),原告が同協定に違反した場合には,被告市は,農場の施設の使用方法,構造の改善,使用の一時停止その他必要な措置を講ずべきことを指示することができ,原告はこの指示に従わなければならないものとされている(第10条)。

(8)  本件における悪臭防止法に係る規制について(乙4,5)

ア 悪臭防止法によれば,都道府県知事は,住民の生活環境を保全するため悪臭を防止する必要があると認める住居が集合している地域その他の地域を,工場その他の事業場における事業活動に伴って発生する悪臭原因物の排出を規制する地域(以下「規制地域」という。)として指定しなければならないものとされ(第3条),規制地域について,その自然的,社会的条件を考慮して,必要に応じ当該地域を区分し,特定悪臭物質(不快なにおいの原因となり,生活環境を損なうおそれのある物質であって制令で定めるもの《第2条第1項》)の種類ごとに同物質の濃度について,又はそれに代えて悪臭原因物(特定悪臭物質を含む気体又は水その他の悪臭の原因となる気体又は水のこと《第3条》)の排出についての臭気指数(気体又は水に係る悪臭の程度に関する値であって,環境省令で定めるところにより人間の嗅覚でその臭気を関知することができなくなるまで気体又は水の希釈をした場合におけるその希釈の倍数を基礎として算定されるもの《第2条第2項》。悪臭原因物質の排出に係る規制基準のうち,気体で事業場から排出されるものについて,当該事業場の敷地の境界線の地表における規制基準として定める場合には,環境省令で定める範囲内において,大気の臭気指数の許容限度として定めるものとされている《第4条2項1号》。)等により,当該事業場の敷地の境界線の地表等ごとに規制基準を定めなければならないものとされている(第4条)。

イ 新潟県においては,平成16年4月1日から悪臭防止法に係る規制は一律に臭気指数によることとなった。

そして,新潟県知事は,悪臭防止法3条により住民の生活環境を保全するため悪臭を防止する必要があると認めて指定した規制地域を同法4条により,第1種ないし第3種の区域に区分し,指定区域内の全ての事業所を対象として,事業場の敷地境界線,排ガスの排出口及び排水の排出口の3か所における規制基準を定めた。そのため,嗅覚を用いた測定法である臭気指数によって臭気の度合いを判定し,設定された許容限度である臭気指数を超え,その不快なにおいにより住民の生活環境が損なわれていると認めるときは,規制地域を有している市町村長が改善勧告(同法8条1項)又は改善命令(同条2項)を行うことになる。なお,改善命令違反には懲役又は罰金の制裁がある(同法25条)。

新潟県知事の定めた敷地境界線の規制基準によれば,大気の臭気指数の許容限度は第1種区域が10,第2種区域が12,第3種区域が13である。

ウ 新潟県知事は,平成17年4月26日,本件豚舎敷地を含む被告市の地域の一部を第2種区域と定め,同年5月1日から同指示が施行されることとなった。

(9)  本件豚舎の臭気の問題について(乙3の1ないし15,10,11,16)

ア 平成17年1月19日から,本件豚舎についての臭気の苦情が被告に寄せられ始めた。

イ 被告市は,本件農場建設完成後,同月25日の建築課による完了検査の際に原告への立入調査を実施し,その際,本件豚舎内からの強い臭気を確認したことから,口頭による改善指導を行い,同月31日には,原告に対して改善計画書の提出を求めた。

原告は,同年2月3日,悪臭の原因が豚の排せつ物の利用のためのきのこの菌床の搬入後の嫌気発酵と責任者の対応にあり,対策として,発酵がうまくいかない豚舎の豚の搬出,当直による24時間体制での確認,定点定時の臭気の観測,責任分担の明確化及び住民との公害防止協定を締結し,住民による監視を盛り込むことなどを記載した改善計画書を被告市に提出した。

ウ 被告市は,同月7日,16日及び18日にも立入調査を実施し,その間の地元住民との意見交換や臭気測定等を行った結果等に基づき,本件公害防止協定第10条に基づく改善指示として,①悪臭防止法の規制基準である臭気指数12を上回る臭気を農場敷地外に排出しないこと,②悪臭発生の原因である堆肥・菌床の搬出を行い,①の基準に適合するまで新たな豚の搬入をしないこと,③悪臭発生の再発防止のための必要な措置を講じることを指示し,原告に対し,改善計画書を同年3月7日までに提出することと同計画について原告から関係住民へ周知することを求めた。

原告は,同年3月7日,被告市長に対し,前記指示につき,①同月13日までに規制基準を上回らないよう,悪臭発生の原因となっている堆肥・菌床の搬出作業を行い,作業を同月11日までに終了すること,②規制基準に適合するまで新たな豚の搬入はしないこと,③悪臭発生の再発防止のため,施設の改善(給水施設の水漏れの改善),豚の頭数の減少,人的体制の改善(従業員を夜間に宿泊させ,24時間の監視体制とする),その他(消臭剤・水分管理・通気性・清掃・堆肥搬出作業の改善と年4回《春・夏・秋・冬》の臭気指数検査を実施)の必要な措置を講ずることを内容とする改善計画書を提出した。

エ 被告市は,同月15日に臭気指数測定を実施し,堆肥舎脇直上において臭気指数が15であったため,同月17日,原告に対し前記ウの改善計画書の内容が履行されないことについて文書での回答を求めたところ,同月18日,原告から同月28日まで猶予を願うとの申出があったため,これを受理するとともに,同月28日までに前記ウの改善指示を講ずるよう再度指示した。

オ 被告市は,同月29日に臭気指数測定を実施したところ,堆肥舎敷地境界において臭気指数が17であったため,同月31日及び同年4月4日,原告代表者から事情を聴取し,その際原告代表者から4月いっぱいには農場を空にしたいとの申出もあったことから,同月5日,原告に対し,本件農場において飼育している全ての豚並びに本件豚舎及び堆肥舎の全ての堆肥を同月22日までに搬出して施設の使用を一時停止すること及び搬出作業にあたっては作業日時等について十分に配慮し,悪臭の発生を極力防止すること及び施設の再使用にあたっては事業計画を提出し被告市と協議することを指示した。

原告は,本件農場の施設の使用を一時停止した。

原告は,同月26日,被告に対し,今後の本件農場についての事業計画を提出し,飼育頭数が従来1豚房30~35頭であったものを25頭から計画し増減を図ること,初めに3棟のみを立ち上げて増減を図ること,菌床を変更すること,従業員の教育の徹底を図ること,豚の水飲みにつき全て改善された品物と取り替えること,臭気指数測定検査を自主的に必要に応じて行うこと(測定場所は豚舎地内で臭気最大値の此処とする。)及び同年5月2日に施設の再開を行うことなどの計画を示した。

同年4月29日,地元役員による本件農場の見学が実施され,その際,被告市は,原告から事業説明を受け,地元役員との意見交換を行うとともに,原告から再使用にあたっての確約書(搬入後は極力悪臭を出さないよう全力を尽くすことを確約する旨記載されたもの)を受理した。

被告市長は,同年5月2日,原告に対し,本件農場の施設の再使用について①4月26日に提出した計画を履行すること及び②地元との対話に努め,問題発生するおそれのある場合は,誠意をもって速やかに対処することの遵守を求め,今後は被告市及び新潟県による経過観察を実施する旨を記載した通知書を送付した。

原告は,同年5月2日,本件農場の施設の使用を再開した。

カ 被告市は,原告の同年4月26日付け事業計画に記載された事項の実施状況,飼育状況,臭気等について確認を行うため,新潟県に技術的支援を求め,被告市と新潟県の関係機関で畜産環境対策指導チーム(以下「指導チーム」という。)を構成し,同年5月9日から毎週1回,指導チームによる原告の飼育状況,臭気発生状況の確認・調査が行われることとなった。

指導チームによる臭気確認については,本件豚舎の敷地の境界付近の次の5地点を定点として臭気の強さ,臭気の質などの臭気発生状況の調査が行われることとなった(本件豚舎との位置関係は別紙4のとおり。)。

① 入口正面

② 1号斜めθ北側

③ 堆肥舎脇敷地境界

④ ι直上

⑤ κ

キ 被告市は,同年7月29日にι直上地点で採取されたサンプルの臭気指数が規制基準を上回る臭気指数15を示したため,同年8月9日,原告に対し,公害防止協定10条に基づき,本件豚舎の7号棟の菌床の観察が必要であること,11号棟及び12号棟の菌床の入替えを早急にすること及び45日ごとの菌床の入替えを30日ごとにすることを指示した。

原告は,前記改善指示を受けて,同月19日,被告市長に対し報告書を提出し,11ないし13号棟の菌床を同月5日,6日及び12日に入れ替えたこと,同月18日に採取したサンプルの判定では他の4か所の定点のいずれも臭気指数12を下回る結果であったこと,今後も公害防止協定書に基づき悪臭発生防止に努めて事業活動を行うことを報告した。

ク 被告市は,苦情申立の寄せられる被告市のα地区や周辺地域につき,臭気監視嘱託員による臭気確認を実施することとし,調査地点の定点を9点(λ集落の特定の住民宅周辺,本件農場の前《既存通路の入口付近》,ζ集落の国道290号沿い,ζ集落の特定の住民宅周辺,δ温泉入口等)指定し,同年11月17日から毎日午前6時30分から9時30分の間(季節や臭気発生状況に応じ変更あり)定点を巡回し,また,苦情を受理した場合には苦情申立付近に赴き,臭気確認を実施することとした。

臭気監視嘱託員による臭気確認においては,臭気等を嘱託員の嗅覚で確認する方法に加え,携帯型におい測定器(Σ値による測定)を携行して測定する方法が採用され,時間,天候,風速,風向き,臭質,臭気強度(6段階臭気強度表示法による臭気強度により,0から5までの段階で評価する。)及びΣ値を計測することとなった。

ケ 被告市は,平成18年1月30日に1号斜めθ付近において採取されたサンプルの臭気指数が規制基準を上回る13を示したことから,同年2月22日,原告に対し,公害防止協定7条1項に基づく報告書の提出を求め,同月28日までに臭気発生の原因とその改善計画について報告するよう通知した。

原告は,前記通知を受けて,同月28日,被告市長に対し報告書を提出し,臭気発生の要因が菌床の入替時等にカーテンを開けたことにあるとして,同要因についてはカーテンの操作の工夫と菌床の入替時に消石灰等を散布してその後に入替作業を行うとの対策を報告し,臭気が強く発生する時期が1月から3月にあることが判明したため11月の導入頭数を減少させること,住民の理解のために公害防止協定の締結や監視員制度の導入を図る計画があること,当面の対策として,今後臭気が強く発生し問題が発生する状態が継続すれば飼育頭数を減少させることを報告した。

被告市は,同年3月24日,原告に対し,公害防止協定10条に基づく改善指示として,同年2月28日付け報告書を必ず履行するとともに,飼育状態の変化に特に注意を払い,本件農場からの悪臭発生が懸念される場合は,状態の悪い菌床の搬出や飼育頭数の減少等を早めに対応するよう指示し,悪臭防止のための作業又は飼育頭数の変更にあたっては事前に被告市と協議することを指示した。

(10)  本件申請の経過(甲1の1,1の2,1の3,38,39,44,45,乙17の2)

ア 原告は,本件通路の敷地とするため,被告市γ×番1及び同×番の土地の一部(×番1の土地のうち231.65平方メートル部分,×番の土地のうち141.58平方メートル。各土地の地目はいずれも田であり,同2筆の土地は既存通路及び別件土地に隣接する土地である。以下「本件使用借地」という。)につき,所有者であるfとの間で,平成18年1月17日,期間を原告が本件水路の使用許可を得て,かつ,農地法5条に定める許可を受けるまで(但し,許可を受けたときは通路の用を廃止するまで)として,fを貸主,原告を借主とした使用貸借契約を締結した。

イ 原告は,平成18年1月27日,被告市長に対し,本件申請を行うとともに,新潟県知事に対し,本件使用借地につき,農地法5条に基づき,転用目的を通路敷地として使用貸借権の設定の許可申請を行った。

ウ 被告市長は,同年2月6日付けで,原告に対し,本件申請につき添付書類である利害関係人の承諾書,工作物を設置する場合の必要な図書及び水路等を使用する場合の高水位及び低水位を明示した図面が未添付であるとして,受理を保留するとの通知をした。

エ 原告は,受理前補正として,工作物を設置する場合の必要な図書及び水路等を使用する場合の高水位及び低水位を明示した図面を追完し,本件申請は同月15日に受け付けられた。

オ 原告は,同年3月17日,新潟県知事から農地法第5条に基づく一時転用の許可を得,同月24日に許可書の交付を受けて被告市長に提出した。

(11)  既存通路についての和解(甲15)

ア 既存通路に係る別件仮処分については,新潟地方裁判所新発田支部における同仮処分の本案訴訟及び関連訴訟が提起され,原告とd,dから別件土地を譲り受けたh及びeとの間で既存通路上の別件土地の所有権及び通行権等が争われていた(dの原告に対する別件土地の所有権確認及び妨害予防請求権としての立入禁止が求められた新潟地方裁判所新発田支部平成15年(ワ)第108号,原告のdに対する別件土地の一部についての所有権確認及び妨害予防請求権としての通行妨害禁止が求められた同支部平成16年(ワ)第66号,hの原告に対する別件土地の条件付所有権移転仮登記に基づく平成15年9月3日売買を原因とする所有権移転本登記手続の承諾が求められた同第74号及び原告のe及びdに対する不法行為に基づく損害賠償が求められた同第104号)。

イ 前記アの本案訴訟等については,平成18年4月27日,新潟地方裁判所新発田支部において,概要次のとおり,別件和解が成立した。

(ア) 別件土地の所有権がhにあることを確認する。

(イ) hは,別件和解成立日に,原告に対し,別件土地の一部を,本件豚舎への通路とする目的で,期間の定めなく,無償で貸し渡した(以下「別件使用貸借」という。)。

(ウ) 原告が本件豚舎から発生する臭気につき規制基準である臭気指数12を一定期間内(平成19年3月までに連続する3か月の間,それ以降は連続する6か月の間)に2回超えたときは,h及び原告は,被告市及びα地区住民代表とともにその対策を協議し,原告は,速やかにその協議結果に基づく改善措置を講ずるものとする。

なお,臭気の測定値については,原告,被告市,h,α地区住民代表のいずれかが依頼した,財団法人i等の資格ある機関が測定した値とする。

(エ) (ウ)の事態が生じた場合において,原告が協議に応じないとき,協議に基づく改善措置を講じないとき,又はその改善措置を講じてもなお臭気指数12を上記一定期間内に2回超えたときは,hは別件使用貸借を解除することができる。

(オ) 原告は,(エ)による解除の意思表示到達の日から4か月を経過した日以降は,別件土地を通行してはならない。

(12)  別件和解に基づく協議状況,別件和解後の臭気の状況等(甲16,29,44,乙3の1,3の16ないし18,7,13の1,14,丁6ないし14,証人b)

ア j(当時のα区長)とhは,代理人を通じ,平成18年9月1日付けで,原告に対し,要請書を送付し,α地区の住民が本件農場の境界付近で同年8月3日及び同月9日に臭気測定を実施したところ,臭気指数15,14がそれぞれ測定されたとして,別件和解に基づき,対策協議の場を設けることを求めた。同要請書には,同年9月20日までに協議の場を設定,開催するよう申し入れること,協議の場が設定されないときは,別件使用貸借の解除をするつもりであることが記載されていた。

イ 原告は,同年8月24日にι頂上において採取されたサンプルの臭気指数が規制基準を上回る17を示したことから,同年9月12日,被告市長に対し報告書を提出し,臭気発生の要因が夏場の猛暑対策の散水等からの菌床の異常発酵にあるとして,同経験を生かして状況観察を徹底すること,琉球大学のk教授の指導を受けて菌床にEM菌を混ぜる方法で臭気を減少させる対策を行うこと,冬季の臭気発生に対する対策のため11月導入分から導入頭数を20頭まで減少させること,原告が本件豚舎の減頭に対応するため山形県酒田市に肥育豚舎を建設中で10月末に完成予定であること,住民の理解のために公害防止協定の締結や監視員制度の導入を図る計画があることを報告した。

被告市は,前記報告書を受けて,同年9月20日,原告に対し,公害防止協定10条に基づく改善指示として,状態が悪化した菌床につき今月末までに部分的な入替等の対策を実施すること,11月からの減頭までの間も,最大限減頭のための措置を講ずること,報告書記載の改善計画を早期に実施し,内容について実施後速やかに被告市に報告することを指示した。

ウ 同年9月29日,原告,被告市及び周辺住民との間で別件和解に基づく悪臭対策の協議会が開催された。同協議会においては,周辺住民から悪臭対策の改善目標(対策と期限,目標数値)を示すように要請があった。

エ 原告は,前記イの指示を受けて,被告に対し,同年10月13日,状態が悪化した1号舎の菌床を部分的に同年9月21日に入れ替えたこと,11月の減頭実施までの措置として,同年9月7日及び26日に導入した9号舎と10号舎について,1豚房あたり25頭に減頭したこと,EM菌による臭気の減少対策について同年10月12日に培養を完了し,菌床に混ぜて11月10日以降の導入豚舎に使用する予定であること等を報告した。

オ 被告市の臭気指数の測定によると,同年10月19日のι直上が17,同月26日の1号斜めθ付近が11,同年11月2日のι直上が17,同日のλ地区・奥が14であった。

カ hは,代理人を通じ,同年11月15日,原告に対し,通知書を送付し,オの測定結果を受けて別件使用貸借を解除し得る状態になったとして,ウの協議会の際の要請につき,書面到達から10日間以内に書面で悪臭対策を示すように求め,同対策を検討した上で別件使用貸借の解除をなすか否かを決定すると通知した。

キ hは,同月25日,別件土地をeに売ったことから,eが別件土地を所有し,別件和解による本件使用貸借の貸主の地位もeがhから承継した。

ク 被告市の臭気指数の測定によると,同年11月16日の1号斜めθ付近及び入口正面が10未満,同月30日の1号斜めθ付近が11,同年12月14日の入口正面が10未満,平成19年1月22日の1号斜めθ北側が12,ζ集落内が10未満,同月29日のι直上が14,λ集落内が12であった。

ケ eは,代理人を通じ,平成19年2月7日,原告に対し,協議会開催の要請書を送付し,本件豚舎からの臭気につき,平成18年12月20日のα地区が実施した臭気測定において臭気指数14,平成19年1月22日の被告市の実施した臭気測定において臭気指数12,同月29日の被告市の実施した臭気測定において臭気指数14の結果が出たことから,別件和解に基づき,同年2月28日までに悪臭改善のための協議会を開催するように求め,同月21日までに悪臭を改善するための具体的な対策案を書面で示すよう原告に求めた。

コ 原告は,同月20日付けで,被告に対し,報告書を提出し,イの指示についての改善の実施状況及び推移を報告し,平成18年11月1日以降の改善の実施として,山形県酒田市に肥育豚舎を新築し,同月以降の導入頭数を20頭に減少させ,平成19年1月には全ての豚舎の収用頭数を20頭にしたこと同年1月29日の臭気指数が基準値を超えたが,その後,以前より改善されていること,同日の臭気測定結果の原因究明を行い,改善すべき点があれば改善を行いたいが,1回のみ臭気指数がわずかに基準値を超えたということなので事態の推移を注意深く見守りたいとの希望を示し,地域住民の要望に関しては,合理的な要求であると思われる場合には誠心誠意,改善措置を講じてきており,住民の理解を得られるように住民との協議も積極的に行いたいとする報告を行った。

サ 同年2月21日,原告,被告市及び周辺住民との間で別件和解に基づく悪臭対策の協議会が開催された。同協議会においては,α地区住民及びδ地区住民から現在の原告の対策でも臭気指数12を超えていることを踏まえて,菌床期間の短縮と減頭を組み合わせた段階的な具体的対策を求め,原告も住民の要望に対して対策を提示するとした。また,周辺住民から住民が行う今後6か月の月1回の臭気測定の費用の負担が原告に求められ,原告は検討すると回答した。

シ 原告は,主な取引先である全国農業協同組合連合会の畜産総合対策部畜産環境対策室の助言を求め,同月28日付けで同室から「aの臭気状況と対策について」として,平成16年度と平成18年度の導入頭数,平均室温,アンモニア,硫化水素の値を比較して本件農場の悪臭は減少しているとの報告を受けるとともに,今後の臭気対策として豚舎内の対策(糞尿の低水分化をはかるため,敷料が嫌気状態となることを敷料の混合や追加で防ぐこと,畜舎内の乾燥・換気を行うこと,畜舎通路の清掃管理を行うこと,敷料が乾燥しすぎる夏場などは水分を補い粉塵の発生を防ぐことを内容とする。)及び豚舎外の対策(豚の導入・出荷,敷料の搬出,を段取りよく行い,豚舎周囲の清掃を行うこと,適宜植樹を実施して農場全体の環境美化を心がけることを内容とする。)の助言を得た。

ス 原告は,代理人を通じ,eの代理人に対し,平成19年3月2日付けで書面を送付し,前記シの報告提案に基づいて対策を履行して悪臭発生の減少に努めること及びe申出の除糞作業について可能な限り土・日曜日には実施しないことを通知した。

セ α地区区長であるl及びeは,代理人を通じ,同月8日,申入書を送付し,ス記載の通知につき,同年2月21日の協議会の場で約束した対策が提示されていないため同年3月20日までに対策を書面にて示すよう求め,除糞作業を土・日曜日に行わないとしているのに,住民の代理人及びdが同年2月24日の土曜日にιを視察したところ猛烈な悪臭がし,dによると臭気指数16程度であると述べており,同年3月4日の日曜日にもλ地区に猛烈な悪臭がして苦情が被告市に寄せられているはずであることを指摘し,土・日曜日に豚舎内の臭気を外気に放出しない,除糞作業をしないとの約束を守るよう要請するとともに,原告が排出する悪臭のために臭気測定費用を住民が負担するのは不合理であるとして,今後6か月分(毎月1回分)の測定費用(1回約16万円)を負担してもらいたいと要請した。

原告は,l及びe並びに両名の代理人に対し,同月30日付けで同月8日の申入書の回答書を送付し,同年3月2日付けの書面で通知した対策を実施したところ,対策が有効に機能していること,同年2月21日以降の土・日曜日には除糞作業を行っておらず,今後も緊急の場合を除き土・日曜日の除糞作業は実施しないこと,住民が任意に実施する臭気測定についての費用負担の義務はないことを回答した。

ソ その後も,指導チーム,被告市の環境衛生課等による経過観察が実施された。

被告市の臭気指数の測定によると,平成18年11月16日の1号斜めθ付近及び入口正面が10未満,同月30日の1号斜めθ付近が11,同年12月14日の入口正面が10未満,平成19年1月22日の1号斜めθ北側が12,ζ集落内が10未満,同月29日のι直上が14,λ集落内が12,同年2月7日の1号斜めθ北側が11,ζ集落内が10未満,同月20日のι直上が16,λ集落内10未満,同年3月9日の1号斜めθ北側が10未満,ζ集落内が10未満,同月10日のι直上が11,λ集落内が10未満,同月23日の1号斜めθ北側が10未満,ζ集落内が10未満,同年4月12日のι直上が12,λ集落内が10未満,同月26日の1号斜めθ北側が10未満,ζ集落内が10未満,同月29日のκが10未満,λ集落内が10未満,同月30日のκが10未満,λ集落内が10未満同年5月11日のι直上が10未満,λ集落内が10未満であった。

タ α地区区会の検査により,別件和解以降,規制基準を超える臭気指数が検出されたとして被告市に報告されたのは,平成18年8月3日のκで15,同月9日の堆肥舎直上で14,同年12月20日のκで14,平成19年3月27日のκで16,同日のι直上で14,同年4月6日のι直上で16,同日のκで15であった。

被告市には継続的に周辺住民からの苦情が寄せられている。被告市に寄せられる苦情は,特にλ集落の住民からの苦情が多く,ι直上の住民からの苦情はあったことがあるという程度である。なお,κの付近には居住者はいない。

(13)  本件申請の変更の要請と保留(甲1の1,1の2,5の1及び2,6の1及び2,7の1ないし3,8,44,証人b,証人c)

ア 被告市の担当者は,平成18年9月ころ,原告に対し,本件水路の使用方法について,周辺住民から暗渠にするとゴミの除去等の維持管理が大変であることから開渠にしてもらいたいとの要望があることを告げた。

原告は,同年10月4日,工事を開渠に変更する(ヒューム管をU字溝に変更し,U字溝の上に蓋をして通路とする。)とした図面を被告に提出した。

イ 原告代理人は,同年10月23日及び同年11月1日,被告市長に対して催告書を送付し,本件申請につき許可する処分を行うよう催告し,許可の日を明示して通知するよう請求したが,被告市長は本件申請に対する処分を行わなかった。

ウ また,原告の本件申請については,α地区の区長及び豚舎建設に反対する会の代表から,生活環境や観光地への影響が出ること及び三者協議で臭気問題についての改善を図るためその促進をしてもらいたいことを理由として,本件申請を許可しないことを求める陳情書が提出されていた。

エ 同陳情書については,同年12月19日に開催された被告市議会の建設常任委員会において,議題とされることとなった。

同委員会において,被告市の維持管理課長は,本件申請につき,被告維持管理課で審査したところ,申請に係る水路の維持管理上及び構造上支障がないことから本件条例4条にいう公共用財産の利用を禁止・制限できる場合にはあたらず,本件申請を許可すべきものであるとの見解を示した。

同委員会において,被告市長は,これまでの経過からして基準以上の臭気が発生している状況では許可は出せず保留とするとの説明をし,「法的なことからいうならば,事務方がいうとおり,また,弁護士とも相談した段階での報告では許可せざるを得ないと言うことであるが,住民の視点に立って,悪臭が生活環境を脅かしていると判断されるということであれば,今のところそれを許可する考え方は持っていない。」,「おそらく裁判をやったら私は負けると思う。それでも踏み切って市民の生活環境を重視していく政治判断である。」との発言をした。

被告市議会の建設常任委員会は,同陳情書を願意妥当とし採択した。

同陳情書は,同月22日に開催された被告市議会の本会議においても全会一致で採択された。

同委員会の陳情書採択,市長の同委員会における前記発言,被告市議会での陳情書採択は,そのころ日刊新聞に取り上げられるなどした。

(14)  本件訴訟の経過

ア 原告は,平成19年1月11日,本件申請について相当期間を経過しても被告市長が何らの処分もしないことが違法であるとして,不作為の違法確認及び本件申請に対する許可の義務付けを求めて本件訴えを提起した。

イ 被告市長は,同年5月11日,原告に対し,本件申請を不許可とする処分をした(本件不許可処分)。

ウ 原告は,同月18日,「訴変更の申立」と題する書面を提出し,不作為の違法確認の訴えを本件処分の取消の訴えに変更するとして,訴えの変更を行い,本件第3回弁論準備手続期日において同書面が陳述され,被告は同訴えの変更に同意した。

2  本件不許可処分に違法性が認められるか

(1)  本件水路は,被告市が公共用に供している財産であるから,地方自治法238条4項にいう行政財産と解される。したがって,本件水路をその設置目的以外の使用である通路として使用するためには,地方自治法238条の4第7項に基づく許可が必要であるところ,本件条例5条は,同法の規定を受けて,新潟県新発田市における公共用財産の目的外使用許可の申請の手続等を定めたものと解される。

ところで,行政財産は,原則としてこれに私権を設定することなどが禁止され(地方自治法238条の4第1項),その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができると定められている(同第7項)のであって,このような法の規定の仕方からすると,行政財産の目的外使用を許可するか否かは,原則として,行政財産の管理者の裁量に委ねられているというべきである。そして,このことは,本件条例5条の市長の許可についてもいえることであって,同条例の文言とも矛盾するものではない。すなわち,被告市の公共用財産の目的外使用について,公共用財産としての用途又は目的を妨げるものであればその使用を許可することができないことは明らかであるが,そのような事情がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく,公共用財産としての用途・目的,目的外使用の目的・態様等を考慮し,地域の実情に即した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるということができる。

もっとも,市長の裁量権の行使にあたり,裁量権の逸脱又は濫用があった場合には,許可しない処分は違法として取り消されるべきものであることはいうまでもない。

(2)  本件不許可処分について違法性が認められるかにつき検討する。

ア まず,前記認定事実からすると,本件水路は幅も狭く,本件の通路の敷設のために開渠溝を設置し,その上を通行の用に供したからといって,本件水路の効用が妨げられるとは考えがたい。また,原告は,被告市の担当者を介した周辺住民からの本件水路の管理に関する要望を受けて当初の暗渠溝とする計画を開渠とする計画に変更しており,周辺住民の要望にも応えている。したがって,本件水路につき,通路としてその使用を許可しても公共用財産の用途又は目的を妨げないということができ,この判断を覆すに足りる事情は認められない。

イ 原告は,本件水路の上に通路を開設する必要性がある旨主張するが,これに対し,被告は,既存通路の通行が可能であり,本件水路の上に通路を開設する必要性はない旨反論する。

そこで検討するに,前記認定のとおり,本件農場からの出荷は原告の売上げの約3割を占めており,本件農場の経営は原告の経営を左右するものということができ,したがって,原告にとって本件農場から公道への通路を確保する必要性が大きいことはいうまでもない。既存通路は,本件農場と国道290号を結ぶ唯一の通路であるが,その途中に本件農場の建設に反対してきた中心人物のeの所有地である別件土地の一部が存在しており,原告は,かつてeらから既存通路の通行を妨害されたこともあることにかんがみれば,別件土地を通過せずに迂回して国道280号に行くための本件通路を開設することは,通路の安定的確保という意味で原告にとって重要であり,そのために本件水路に通路を敷設する必要性も大きいということができる。

もっとも,原告とeらとの間で別件和解が成立しており,現にeも既存通路の一部として別件土地を通行することを認めているのであるが,eから原告に対し解除を検討する旨の通知がされていること(本件不許可処分の時点において,被告市長がそのことを了知し得る状態であったことは,本件記録上明らかである。)からすると,原告とeとの間で紛争が再燃する可能性が十分にあるのであって,原告にとって本件水路を通路として使用する必要性があるとの判断は左右されないというべきである。

そして,公共用財産としての用途又は目的を妨げるという事情の認められない本件では,本件水路の使用の必要性があることは,大きな考慮要素になるということができる。

ウ 被告は,原告が悪臭防止対策のための十分な対策を講じず,規制基準である臭気指数12を超える悪臭を発し続けていることから,原告の悪臭の発生を防ぐために本件不許可処分が許容される旨主張する。

しかし,本件においては,被告市と原告との間には本件公害防止協定が締結され,同公害防止協定には刑罰等の制裁措置を伴った改善命令及び同命令を背後にした指示等も十分に可能であること,実際にも本件公害防止協定に則り原告の本件豚舎の臭気の改善についての対策が実施されていることからすれば,被告市と原告との間の臭気の問題については,本件公害防止協定により改善を図ることが可能であるといえる。そして,前記認定の経緯からすれば,原告は臭気指数12の基準を超えないように一定の努力をしており,臭気の問題が生じた場合には直ちに本件公害防止協定に基づく報告を行うなど真摯に対応しているものということができ,本件不許可処分の当時には臭気指数が12を超えない状態が継続していることからすれば,本件豚舎についての原告の臭気対策の結果,改善の効果が生じてきているものといえる。

他方で,本件においては,本件不許可処分の当時,臭気指数12の基準が常に達成されているとまではいえず,周辺住民から被告市に対する継続的な苦情申立てもあり,周辺住民からの陳情が被告市議会において採択されていることや,別件和解に基づく周辺住民の要望には原告が必ずしも応えているわけではなかったという事情もある。しかし,本件豚舎の臭気は原告の本件豚舎の経営において避けられない豚舎内の豚の糞尿や敷料に起因するものであり,本件豚舎の臭気を完全に遮断することは不可能であること,本件不許可処分の時点までの臭気指数は改善傾向にあったこと,臭気指数が12を超えた場合には本件公害防止協定による改善も期待できること,周辺住民の苦情は臭気指数の変化との関連が明確であるともいえず,むしろ,原告が施設の使用を一時停止して再開した平成17年5月2日以降,本件不許可処分の時点までは,周辺集落においては概ね臭気指数10未満の測定値が得られており,本件不許可処分までに周辺集落において臭気指数10を超える臭気指数が測定されたのは平成18年11月2日のλ地区・奥での14と平成19年1月29日のλ集落での12の2回のみであったに過ぎないことに照らすと,臭気指数を常に達成しているわけではなく,周辺住民からの苦情や陳情等があるからといって,そのことを理由に本件申請を許可しないとするのは原告にあまりに酷である。

以上の事情に加え,本件豚舎の臭気の問題が本件水路の用途・目的とは直接の関連性がないことも考慮すると,本件豚舎の悪臭の事実は,本件申請に対する許否の判断の際に重視すべき事情とはいえない。

エ また,被告は,本件申請が別件和解を骨抜きにする目的でされたものであり,かかる不当な動機による申請に対しては本件不許可処分が許容される旨主張する。しかし,前記認定の経緯に照らすと,原告は,別件和解の前後を通じて,周辺住民に対しても,相応の対応をしているものいうことができ,被告市に対しては,周辺住民との公害防止協定や周辺住民の監視員制度を呼びかけて対応を図るとする対策を示しており,そうすると本件申請の内容が既存通路の別件和解に係る部分を迂回するものであることを考慮しても,本件申請が別件和解を骨抜きにするなど不正な動機に基づくものであるとは認められず,この判断を覆すに足りる証拠はない。したがって,被告の同主張は採用できない。

オ これらの事情を考慮すると,本件申請を不許可とした被告市長の判断は,重視すべきでない事項を重視し,他方,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,その結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができ,本件不許可処分は,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるものというべきである。

3  小括

以上によれば,その余を判断するまでもなく,本件不許可処分は裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるものというべきであるから本件不許可処分を取り消すべきであるし,また,本件申請に対し許可処分をしないことは被告市長の裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるから,行政事件訴訟法37条の3第1項2号及び同第5項により,被告に対し,本件申請に基づく許可をするよう命ずるのが相当である。

第4結論

よって,原告の請求は,いずれも理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森一岳 裁判官 中俣千珠 裁判官 高橋良徳)

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