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新潟地方裁判所 平成22年(わ)372号 判決 2011年9月09日

主文

被告人を懲役10月に処する。

この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,Aが平成22年5月8日,新潟県村上市<以下省略>所在のa会b一家c組組事務所2階において,賭博場を開張し,賭客のBらをして,金銭を賭けて麻雀賭博をさせ,その際,同人らから寺銭として金銭を徴収し,賭博場を開帳して利益を図った際,その情を知りながら,同所を麻雀賭博の場所として提供して前記Aが麻雀賭博場として利用することを容認し,もって,同人の犯行を容易にさせてこれを幇助したものである。

(証拠の標目)<省略>

(主位的訴因<賭博開張図利罪の共同正犯>を認定せず,予備的訴因<賭博開張図利罪の幇助犯>を認定した理由)

第1主位的訴因及び予備的訴因等

1  主位的訴因

本件の主位的訴因(平成22年11月16日付け起訴状記載の公訴事実。賭博開張図利罪の共同正犯)は,「被告人は,Aと共謀の上,平成22年5月8日,新潟県村上市<以下省略>所在のa会b一家c組組事務所2階において,賭博場を開張し,賭客のCらをして,麻雀牌等を使用し,金銭を賭けて,麻雀賭博をさせ,その際,同人らから寺銭として金銭を徴収し,もって賭博場を開張して利益を図ったものである。」というものである。

2  予備的訴因

また,検察官が,平成23年7月7日に追加請求した予備的訴因(賭博開張図利罪の幇助犯。以下,第8回公判期日において「開帳」を「開張」と訂正した,同日付け予備的訴因等追加請求書記載の公訴事実を単に「予備的訴因」という。)は,「被告人は,a会b一家c組組長であるが,Aが,平成22年5月8日,新潟県村上市<以下省略>所在のa会b一家c組組事務所2階において,賭博場を開張し,賭客のCらをして,麻雀牌等を使用し,金銭を賭けて,麻雀賭博をさせ,その際,同人らから寺銭として金銭を徴収し,もって賭博場を開張して利益を図った際,その情を知りながら,前記Aが同所を麻雀賭博場として利用することを容認し,もって同人の前記犯行を容易にさせてこれを幇助したものである。」というものである。

なお,検察官は,同公判期日において,予備的訴因の「容認」は,場所の提供が前提となっており,場所を提供した作為犯としての訴因である旨の釈明をした。

3  当裁判所は,前記罪となるべき事実記載のとおり,被告人には,予備的訴因である賭博開張図利罪の幇助犯が成立すると認めた。以下,同訴因を認定した理由について補足して説明する。

第2主位的訴因について

1  弁護人の主張等

まず,主位的訴因について,弁護人は,被告人がA(以下「A」という。)と共謀したことはなく,無罪である旨を主張し,被告人も同様の供述をしている。

2  検討するに,関係各証拠から,以下の事実が認められる。

(1) 被告人は,a会b一家c組の組長であり,新潟県村上市<以下省略>にある建物をc組組事務所(以下,2階部分を含み「本件組事務所」という。)として使用していた。本件組事務所は,被告人が,10年以上前からc組の組事務所として使用するようになったものである(その所有関係又は賃貸借関係についての詳細は証拠上不明である。)。

Aはc組の組員である。

B(以下「B」という。)は,被告人と約40年来の付き合いがあり,D(以下「D」という,)は,被告人と約30年前に知り合った。

(2) 平成22年5月8日の賭け麻雀

同日(以下「本件当日」という。),Bは,午前9時過ぎにC(以下「C」という。)から電話で麻雀に誘われ,本件組事務所において,C,E,F,G(以下「G」という。),H(以下「H」という。)らと賭け麻雀をした。そこでのルールは,1000点を100円として計算し,1位に2000点,2位に1000点が各加算,3位が1000点,4位が2000点各減算され,持ち点2万5000点として精算時に3万点を基準に精算し,賭客は,チップ1枚当たり500円としてチップを購入する,例えばチップが10枚欲しい賭客は5000円出してチップ10枚を受け取ることとして,半荘1回当たり一人1枚のチップ,即ち500円分をゲーム代として出すというものであった。Bは,そこで,午前11時頃から午後10時頃まで,半荘13回,ゲーム代として4人で2万6000円くらいになる程度の回数,賭け麻雀をした。

Aは,本件当日は本件組事務所に赴いていない。

(3) 本件当日に至る経緯

ア 本件組事務所での賭け麻雀以前に行われていた麻雀

Bは,本件組事務所で麻雀をする前に,昭和の終わり頃,新潟県村上市<以下省略>のマンションで賭け麻雀をしたことがあり,その麻雀には被告人及びDが参加したことがあり,c組の関係者であるIが1000円程度の場所代を集めるなどしていた。

また,Dは,平成18年ないし平成19年頃まで行われていた(開始時期は証拠上不明である。)同市<以下省略>の,c組の組事務所ではない,住居用の一軒家で,c組の組員であるJがゲーム代を管理していた麻雀に参加したことがあり,その麻雀にはBが参加したことがあり,被告人もその一軒家に出入りしたことがある。

イ Bが麻雀をするために本件組事務所への立ち入りやその使用ないし利用(以下,総称して「本件組事務所の利用等」ともいう。)を被告人に求めたこと及び被告人の了承等

Bは,Dに「麻雀やりたい,麻雀やりたい。」と言い,けれども,場所がないからできない旨を話していた。そして,Bは,平成20年頃から,どこか麻雀をする場所がないかと被告人に頼み,同年10月か11月頃からは,被告人に本件組事務所で麻雀をさせて欲しいと何回か頼んでいた。被告人はこれを断っていたものの,平成21年3月か4月ころ,Bに本件組事務所を使用してよいことを伝え,本件組事務所の利用等を了承した(なお,この頃までに,Bと被告人との間で,本件組事務所の鍵についての話があったというような証拠はない。本件組事務所の鍵の点については更に後述する。)。

ウ 本件組事務所での賭け麻雀

(ア) Bは,平成21年5月中旬以降,自分の麻雀仲間であったGやDらに連絡を取り合い,本件組事務所において,同事務所にあった麻雀台を使用して,賭け麻雀をするようになった。

麻雀牌は,Bら賭け麻雀をする者(以下「賭客」ともいう。)が用意したものではなく,Bが本件組事務所に行ったときには,麻雀卓や麻雀牌は既に用意されていた。

本件組事務所での麻雀のルールは,BとDが中心となって,新潟で一般の人が行っている麻雀店のルールに従って賭け麻雀をすることとして,第2の2(2)記載のルールを決めたものである。

(イ) K又はDが世話役をする中での麻雀

平成21年5月頃は,K(以下「K」という。)が,Bらが行う賭け麻雀の「世話役」として,賭客への飲み物や食べ物を提供したり,部屋の掃除をしたり,チップを用意し,麻雀を始める際にゲーム代として賭客が出すチップを集めるなどしていた。チップは,BがKに頼んでKに買っておいてもらっていた。

Kが世話役をしている際に,被告人も,賭け麻雀に加わったことがあり,自らもゲーム代として500円分のチップをその場で出すなどした。

Kは,平成21年6月22日から同年7月1日までd病院に,同月1日から同月12日までe病院に各入院し,同月中に亡くなった。Kの生前から,世話役がKからDに替わり,Dがゲーム代を集めたが,そのゲーム代はKの入院費用合計15万5260円に充てられた。また,Kの死後も,未払の入院費用があり,ゲーム代から同費用に充てられた。Dが入院費用に充てたゲーム代は10万円余りであった。

(ウ) Aが世話役をする中での麻雀(同人によるゲーム代の管理,本件組事務所の立ち入り方法等)

その後,平成21年8月頃から,Aが,本件組事務所で行われる賭け麻雀の前記世話役を行うようになり,それ以降,賭客から集めたゲーム代はAが管理していた。

Bは,本件組事務所に行くことを伝えると,Aが先に行って本件組事務所の鍵を開けてくれることがあり,また,鍵を玄関の近くに置いてもらって,Bら鍵の置き場を知っている賭客が鍵を開けて本件組事務所に入るということをしており,被告人以外にAも本件組事務所の鍵を有していた。

Bらがする賭け麻雀において,チップと交換して支払われるお金はKが用意した本件組事務所の手提げ金庫(以下,「金庫」という。)に入れられ,客の手元にチップが余れば,それをAが現金で麻雀をした者に支払うという形で精算した。Aがいないときは,Bら麻雀をやっている者らの間で自主的に精算手続をとっていた。世話役がAのときは金庫を管理していたのはAであった。Bら賭客は,金庫の中のお金を自由に出し入れすることができ,Aが「俺,二,三時間いなくなるけど。」と言って,Bらがこれを承諾すると,Bらで,ゲーム代を集めてお金を金庫に入れたり,両替をその場にいる者らで確認して行ったりした。そして,Aがいないときは,麻雀をしている者同士の間で,1万円分,つまり20枚のチップを借りて,帳面に自分の名前と金額を書き,他の3名が確認するというようなことをしていた。そして,誰がお金を借りたかが分かるように記載したメモを金庫の中に入れ,賭客がAに「Aちゃん,借りてたよ。」と言うなどして,お金を借りたことを伝えたりしていた。

3  賭博開張図利罪の共同正犯が成立するためには,少なくとも共犯者のうちのいずれかの者が図利目的で賭博開張行為に及ぶこと,即ち,同罪の実行行為の存在が必要である。

(1) Aによる実行行為の存在

この点,Aについては,賭博開張図利行為に及んだことが認められる。

即ち,賭博開張図利罪の成立においては,①行為者が賭博場の設営にあたって主宰者的地位に立つこと,つまり,主催者として賭博場を設け,その支配,管理の下に賭博の機会を与えること,及び,②博徒を結合して利益を図ることが必要である。

Aは,本件当日前の平成21年8月頃から,Bらが賭け麻雀をしている際,世話役となり,賭客が出すゲーム代を集めていた。そして,Aは,Kに替わって世話役をするようになったのは,Bに依頼されたからであり,これを引き受けたのは自分の小遣いになるからである,1か月で20万円から30万円の売り上げがあり,そこから5万円前後の経費を除いた残りが自分の利益であった旨を述べており,この供述を虚偽といえる理由ないし証拠はない。したがって,Aは,Bらが本件組事務所で行っていた賭け麻雀によるゲーム代から自らの小遣いを得ていたことが認められ,本件当日におけるBらが行った賭け麻雀についても,利益を図る目的があったと認められる。

また,Aは,Bから本件組事務所を使ってよいかと尋ねられてこれを了承した旨を供述している。

この点については,Aは組長の被告人を庇う可能性があり,また,Bは被告人から本件組事務所の利用等を許されていたのであって,その許可をAに求める必要性は乏しい。しかしながら,本件組事務所の鍵を有し,また世話役であったAに対して,Bが,重ねて,本件組事務所の利用等を求めたこともまたあり得るところであって,前記Aの供述を虚偽であるとして排斥することはできない。同様に,Aは,本件当日には,Hから麻雀をやっていいかと尋ねられて,「どうぞ。」とこれを了承した旨,また,Aは,本件組事務所を使う許可を被告人に求めたりしてはいない,悪ければ後で怒られるので,そのときに謝ればよいと思ったと述べるが,これらについても,虚偽とまでいえる理由ないし証拠はない。

このように,Aは,本件当日に至る以前において,Bから本件組事務所を使うことについての了承を求められて承諾し,本件当日においても,Hから本件事務所を使うことについての了承を求められて承諾し,本件組事務所を賭客に利用させている。

一方,A自身は本件当日,本件組事務所に赴いていない。また,c組の組長である被告人が明確に反対すれば,その組員であるAは,本件組事務所の使用を賭客に許可し得ない立場にあるといえ,その意味では,少なくとも,Aは,被告人が許してくれるであろうと認識しているからこそ,賭客に本件組事務所の利用等を許していたものであるといえる。

しかしながら,前記のとおり,賭客は,Aに本件組事務所の利用等の許可を求めており,Aがこれを了承したことで,本件組事務所の利用等が可能となっている。そして,Bは,Aに言えば,Aが本件組事務所の鍵を所定の場所に置いてくれておくなどして本件組事務所の利用等をすることができた旨を供述しており,Aにおいても,本件組事務所の鍵を有しており,その鍵を利用することで,賭客は,本件組事務所に立ち入り,使用することができていた。その上で,Aは,前記のとおり,賭客に本件組事務所の利用等を求められ,これを許可する旨を返答しているのである。さらに,賭客は,賭け麻雀のゲーム代についても,Aがいないときでも,Aが管理していた金庫にゲーム代を入れたり,金庫から金員を借用するに当たって,Aに対して,借りたことが分かるメモを入れるなどしていたものであり,Aがいなくても,Aが,ゲーム代の管理をしていたといえる。

このようなことからすれば,Aにおいては,本件当日において,利益を図る目的を有して,本件組事務所の使用を許可することを賭客に伝え,主宰者として賭博場を設け,その支配,管理の下に賭博の機会を与えていたといえ,賭博開張図利行為に及んだとみることができる。

(2) 被告人による賭博開張図利行為の有無

ア(ア) では,被告人個人が賭博開張図利の実行行為に及んだとみることができるかについてみると,主宰者として場を設け,あるいは自己の支配,管理の下に賭博の機会を与えたといえるか否かについては,諸般の事情を考慮して判断する必要があり,寺銭を徴収した事実は,主宰者認定の有力な資料となるといえ,また,開張場における寺銭は開張者が利得することは裁判上顕著な事実であるとされる(大審院昭和6年11月9日判決・刑集10巻11号557頁)。

そこで,被告人個人への利益の帰属についてみると,被告人自身は,客が払っていたゲーム代がどうなっていたかは知らない,当初は客自身が管理して,自分たちが飲み食いするために使っていると思っていたが,平成21年10月以降は,世話役をしていたAがその管理をしていたと思う旨を述べ(乙2),被告人自身が利益を得てはいない旨を述べている。

この供述は,被告人が自己の刑事責任を軽減させるべく虚偽の事実を述べている可能性があることから,その信用性が問題となるが,本件に至る経緯として,被告人が,Bに本件組事務所で麻雀をすることを了承するに当たって,寺銭に当たるゲーム代の使途をBあるいは賭客らと話し合ったという事実は,証拠上認められない。また,Bは,ゲーム代500円は基本的には麻雀をする者の飲食代金として使うためのお金として使うこととして決めた旨を述べ,また,電気代や冬場であれば燃料費に使用するためでもあった旨を述べている。ゲーム代からAが小遣いを得ていたことは前記のとおりであるが,他方で,Bが述べるような経費に使われたことも否定できないところであり,同人の供述を虚偽として排斥する理由は認められない。

そして,本件当日以前に,Kが世話役になったことがあるが,その頃のことについても,Bは,被告人がKにやらせると言ったということは聞いたことがないと述べ,被告人がKに世話役を依頼したという事実は認められず,また,その利益を被告人が得ることを被告人とKとの間で話し合ったという事実も認められない。

Dが世話役をしている頃についても,Dは,ゲーム代はDが入院費用に回して被告人には渡っていない旨を述べており,Dが被告人を庇う可能性を考慮しても,これを否定する理由ないし証拠はない。

さらに,Aが世話役となった以降の賭け麻雀についても,Aに世話役となるように依頼したのはBであり,Aが世話役になったいきさつを被告人が知っていたという証拠はなく,被告人が,Aが得る利益をどのように使うかについて,Aとの間で話し合ったという証拠はない。Bは,Kが亡くなってからAが世話役になるまでの間においては,Bらが勝手に金庫からお金を出してチップと交換して賭け麻雀をしていた旨を述べているが,本件当日を含め,被告人が,本件組事務所で行われた賭け麻雀から一部でも利益を得ていたと認められるような証拠はない。

以上からすれば,賭博開張図利罪の図利目的の認定に現実に利益を得たことまでは必要でないものの,被告人自身においては,Bらが行う賭け麻雀において利得を得ていたとも,得ようとしていたとも認められず,ゲーム代の使途は知らない等の前記被告人の供述を虚偽として排斥することはできない(なお,前記のとおり,Bは,本件組事務所で賭け麻雀をする前においても,前記住所<省略>のマンション等で被告人と賭け麻雀をしたことが認められる。しかしながら,そこでのゲーム代の使途についても,証拠上不明であり,まして,これが被告人に帰属していたという証拠はない。)。

(イ) 検察官の主張する寺銭利益が「本来的には」被告人に帰属するものとの主張について

検察官は,被告人が,①寺銭収入があることを認識しながら麻雀賭博場を主催したこと,②組員であるKの葬儀代等の費用をすべて被告人が出している一方,入院治療費については,寺銭による利益を充てて支払うことを認めたこと,③c組の組員であるK及びAが,世話役を行い,寺銭収益を利得していたことから,麻雀賭博による寺銭利益は,本来的に被告人に帰属しており,図利目的が認められると主張する。

確かに,被告人は,公判廷において,本件組事務所での賭け麻雀で入院費用くらいの利益が出ることについてこれを認める供述をしている。しかしながら,被告人が本件組事務所での賭け麻雀のゲーム代からいくら入院費用に充てられたかを具体的に知っていたという証拠はない。そして,暴力団組長とその組員という関係から,直ちに組員が得る利益は本来的に組長の利益であるといえるものではない。本件において,ゲーム代がc組という「組」としての利益になっているとは検察官も主張していない上,その証拠もない。組長とその組員を各個人としてみた場合,なぜ,組員の利益が「本来的に」組長の利益となるのか,本件でいえば,Aが小遣いとして得ていたゲーム代が,なぜ本来的には被告人の利益となるのかについては,やはり個別の事案に即して判断することになるが,本件においてはそれを裏付ける事実は証拠上不明というほかない。なお,検察官が主張する,被告人が麻雀賭博場を「主催した」といえるかについては十分な検討が必要である。

イ また,先に被告人がBに包括して本件組事務所の利用等を許したことがあったとはいっても,前記のとおり,Aが世話役になった後は,Bら賭客は,本件組事務所の利用等の許可をAに求め,Aにおいて,賭客に対して,それを許すことを告げ,Aの鍵を使用させるなどして本件組事務所へ立ち入らせて,賭け麻雀をさせていたのである。

そして,賭博開張図利罪の成立においては,単に賭博場を提供するだけでは,単純賭博の幇助罪が成立することは別として,賭博開張図利罪は成立しない。したがって,被告人が,Aが世話役となったことを知った後も,本件組事務所を賭け麻雀をする場所として提供していたからといって,これをもって,直ちに,賭博開張図利行為に及んだものと認定することはできない。

ウ こうしたことからすると,被告人個人において,主宰者として賭博場を開張したとはいえない。

4(1)  そこで,被告人において,Aが主宰者として行った賭博開帳図利行為において,共謀による賭博開張図利罪の共同正犯が成立するか否かを検討する。

この点,検察官は,自己と共同正犯としての責任を負うべき共犯者(本件ではA)の利益を図る目的を有したのであれば,被告人に図利目的があったものといえる(最高裁昭和42年9月21日決定・裁判集〔刑事〕164号555頁)ことから,仮に寺銭利益は本来的に被告人に帰属するといえなかったとしても,被告人には,Aとの間で共同正犯が成立すると主張する。

検討するに,共謀共同正犯が成立するためには,①単に他人が犯罪を行うことを意識していただけでは足りず,二人以上の者が相互に他人の行為を利用,補充し合って,各自の犯行を遂行する意思(共同意思)が存在すること,また,各行為者においては自らの犯罪を遂行しようという正犯者としての意思が必要である。加えて,②黙示的にではあれ,二人以上の者が,一定の犯罪を行うために相互に他人の行為を利用,補充し合い,各自の犯行を遂行しようという意思連絡,共謀が必要である。

そして,共同正犯であったのか,幇助犯であったのか,即ち,実行者を通じて自己の犯罪を実行する意思であったのか,単に正犯の犯罪の実行を容易にする意思であったのかの区別については,被告人が行った行為の内容,他の行為者との共謀の有無ないしその経過・態様,他の行為者との主従等の関係,犯行の動機,犯行に対する積極性の有無,犯罪の結果に対する利害関係の有無ないしその程度,犯罪の準備及び犯跡隠蔽,利得分配等において果たした役割等の事情を総合して判断すべきである。

(2)ア(ア) なるほど,被告人と実行行為者Aとの関係は,組長と組員という関係にあり,上下関係が存在し,被告人が上位に立つものである。また,被告人が,Aが世話役をしていることを知った後においても,同人らに対して本件組事務所を利用させたことは,被告人の果たした役割として重要である。

(イ) さらに,被告人は,公判廷で,Aが利益を得ていたか否かは知らない旨を述べるが,捜査段階で,本件当日よりも前の平成21年10月以降は,世話役をやっていたAがお金を管理していたと思う,世話役に全く利益がなかったというつもりはなく,新潟から村上に来るまでのガソリン代くらいの利益はあったと思う旨を述べ,公判廷でも,K,Dから替わって,Aが世話役になったことを知っていた,Kが入院していた際,Dがゲーム代を集めて入院費用に充てていたことを聞き知った,入院費用くらい利益が出ることは分かっていた,寺銭たるゲーム代で利益が出ることは分かっていた旨を述べている。そして,被告人自身,少なくともKが世話役をしている際に,本件組事務所で,1回当たり500円分のチップ1枚を出して賭け麻雀をしており,半荘1回当たり2000円として,1日に何回と半荘が繰り返されれば,ある程度まとまった金額になることは分かっていたと認められる。

したがって,被告人は,金額の詳細は知らないまでも,Aが,世話役を行いながら,Bらの賭け麻雀で利益を得ていたことを知っていたと認められる。

(ウ) また,犯罪の準備については,Bの捜査段階の供述から,被告人がBに平成21年5月中旬頃に麻雀ができる準備ができた旨を告げたことが認められる(これに反する,Bの公判供述は被告人を庇っているものと解され信用し得ない。)。また,その具体性からも信用できるL(以下「L」という。)の捜査段階の供述から,平成21年11月初め頃に,F(Lの公判供述等関係各証拠からFと認められる。)から頼まれて本件組事務所の修理をした際,被告人もLの携帯電話に麻雀卓の修理を依頼し,Lが修理は終わった旨を伝えたことが認められる(これに反するLの公判供述は被告人を庇っての供述と解され信用できない。)。

(エ) これらは共同正犯の成立を肯定する方向に働く事実である。

イ しかしながら,被告人と実行行為者たるAとの間で,犯罪の実行計画等について十分な協議が遂げられたという事実を認めることはできない。

すなわち,前記のとおり,Aが世話役となり,賭博開張図利行為に及び主宰者として利益を得ることについて,被告人とAとが話し合ったという事実は認められない。確かに,被告人は,自らも少なくともKが世話役をしている際には,ゲーム代として,500円分のチップ1枚を出して,賭け麻雀に参加しており,そこで行われていたルールについて知っており,被告人は,Aが世話役を継承していると知った際には,同一のルールで行われているであろうとの認識を有していたものとみることができる。しかし,そのAが世話役となって行われた賭け麻雀のルールも,元々は,Bらにおいて本件組事務所の利用等ができることとなった際,B及びDが中心となって決めたものであって,そのルール設定に被告人は関与していない。そして,それによるゲーム代の使途について,前記のとおり,Aは自己の小遣いとしていたものであるが,それ以外に,Bが述べるような諸経費に使用されていたことも否定されるものではない。

また,前記のとおり,被告人において,Aが世話役を行いながら,Bらの賭け麻雀により利益を得ていたことを知っていたとは認められるものの,その認識は,世話役であるAが,Bらの賭け麻雀においてある程度の回数半荘が行われれば,ある程度まとまった金額を得るであろうという程度にとどまるものであって,その金額や使途について詳細を知っていたという証拠はない。甲第20号証(捜査報告書謄本)からは,平成22年4月1日から本件当日までの期間に何度か被告人とAが本件組事務所に立ち寄っていることが認められるが,被告人が何のために立ち寄ったのかは証拠上明確ではない。

ウ さらに,賭博開張図利罪の成立においては,賭博者から寺銭又は手数料等の名目で賭博場開設の対価として不法な財産的利得をしようとする意思があれば足り,現実に利益を得たことは必要ではないが,被告人は,前記のとおり,Bらが行う賭け麻雀によって,利益を得たことはなく,また,将来においても得ようとしていたとの意思を有していたとは認められず,被告人個人において,賭博開張図利の図利目的は認められない。

したがって,本件当日におけるAの賭博開張図利によって,被告人が利益を得ようとしていたといった動機や,利益を分配するなどして利益を得たという事実はない。

エ そして,本件組事務所を賭け麻雀をする場所として提供することについては,被告人は,頼まれたのはBだけではない旨を述べているが,少なくともBからその使用を頼まれ,当初これを断っていたものの,再三にわたって頼まれたことからこれを了承するに至ったものである。その後,本件当日,Aが賭博開張図利行為に及ぶに至っているが,賭客を招致あるいは誘因することは賭博開張図利罪の成立要件ではないものの,被告人が,積極的に本件組事務所を賭け麻雀として利用等するようにBら賭客に働きかけたものではなく,被告人は,それを利用等させることには消極的だったといえる。

オ 犯罪の準備及び犯跡の隠蔽といった点をみても,本件では,被告人による犯跡の隠蔽といった事実は認められない。

前記のように,被告人が,Bに対して麻雀をする準備ができた旨を告げたこと及びLに麻雀卓の修理を依頼したことが認められる。

しかしながら,被告人が,Bらが麻雀ができるようにと,麻雀卓と麻雀牌を貸してあげ,あるいはまた,貸した麻雀卓が壊れたから,誰かに修理を依頼し,あるいは修理の報告を受けたからといって,これら貸付や修理依頼等が,直ちに賭博開帳図利の準備行為と評価し得るものではない。本件においては,被告人には,前記のようにBらが賭け麻雀をすることで利益を得ようとの意思があったとは認められないのであって,Bらに対する好意から行ったものという評価の域を出ない。

カ さらに,前記のとおり,被告人の直接的な関与がなくとも,賭客らはAが所定の場所に置いてくれていた鍵を使用するなどして,本件組事務所の利用等をすることができたものである。他方で,被告人においては,世話役であるAが関与していると想像し得たとはいえても,どのようにして賭客が本件組事務所の鍵を手に入れ,立ち入っていたのかについて,被告人が知っていたと認められる証拠はない。

キ 加えて,実行行為者たるAも,被告人との共謀を否認し,被告人と意思を相通じて,Bらに賭け麻雀をさせていたとは述べていない。

もっとも,この点は,Aは,c組の組員であり,被告人を庇う供述をしていることが考えられる。しかしながら,前記のとおり,Bに頼まれて本件組事務所を使って賭け麻雀をすることを許す旨を伝えたことや,Bらの賭け麻雀をするに当たり,被告人に本件組事務所を使う許可を求めたりはしていない,悪ければ後で怒られるので,そのときに謝ればよいと思ったというAの供述を否定する証拠もまたない。したがって,Aにおいて,被告人に了承を明確に求めることなく,賭客に本件組事務所の利用等を許可したと認められ,また,少なくとも,Aの供述を根拠として,Aが被告人と意思を相通じて,本件組事務所の利用等を賭客に許したと認めることはできない。

(3)  上記事実を総合して判断すれば,被告人において,賭博開張図利行為を自らの犯罪としてこれを遂行しようとの意思,即ち正犯意思を有していたとは認め難く,したがってまた,これを前提とした,Aと共同して賭博開帳図利行為を行おうとの意思も同行為に及ぶことの共謀も認められないというべきである。

以上のとおりであるから,被告人において,Aとの共謀による賭博開帳図利罪の共同正犯は成立しない。

前記検討からすれば,結局において,被告人は,長年付き合いのあった知人であるBに賭け麻雀をするために本件組事務所の利用等をすることを許し,平成21年10月頃から,Aが世話役となっていることを知った後も,同所を賭け麻雀をする場として提供することを継続し,その利用等をA及びBら賭客に許していたにすぎず,Aが世話役となったことを知った後の本件当日においては,本件組事務所を賭博場として提供し,その利用等を容認する形で,正犯たるAの賭博開張図利行為を容易にした,すなわち幇助したにとどまるとみるのが相当である。

5  よって,主位的訴因は認定し得ない。

第3予備的訴因について

1  前記検討のとおり,被告人においては,予備的訴因である,賭博開張図利罪の幇助犯の成立が認められる。

もっとも,弁護人は,予備的訴因の追加については,結審後に行われており時期を逸したもので権利の濫用に当たること,共謀共同正犯と幇助犯とでは,犯罪行為類型が全く異なるもので,被告人側に新たな主張,立証を強い,被告人に著しい不利益を負わせるものであること,判決予定日であった平成23年6月30日の公判期日前に行われた裁判所からの訴因変更の促しによるものであることからして,予備的訴因を追加して主張することは許されない旨を主張している。

確かに,第6回公判期日において,いったん審理が終結し,第7回公判期日においては判決宣告を予定した期日であったところ,期日間で,検察官及び弁護人が立ち会う中で,裁判所が,検察官に対して訴因変更の検討を促した事実がある。そして,第7回公判期日においては,訴因変更はされず,同期日においては,起訴状記載の事実についての釈明がされた上,検察官が訴因変更を予定しているということで期日は続行され,第8回公判期日までに予備的訴因の追加請求がされ,同公判期日で,同請求が許可され,結審したことが認められる。

しかしながら,前記第6回公判期日と第7回公判期日との間での事柄も,要件充足の検討を含め,あくまで裁判所が検察官にその検討を促したにすぎない。主位的訴因と公訴事実の同一性がある(本件において,主位的訴因と予備的訴因とは公訴事実の同一性があると認められるが,この点は,弁護人は,公訴事実の同一性がなく,不適法であり,公訴棄却の判決を求めるとして主張しているので,更に後述する。)と判断し得る事実で,また訴因変更手続を経ずして判決することが可能とも考えられる事実につき,裁判所が,検察官に,そうした事実や要件の検討を促し,判決前に,検察官がそのような事実を主張するというのであれば,訴因として掲げて争点化し,弁護人側の主張等の機会を与えるのが相当として,弁護人も立ち会っている中,その検討を促すこと自体が直ちに,公平に反したり,弁護側に不利益となるものとは解されない。そうした中で,検察官は,自身の検討に基づき,賭博開張図利罪の幇助犯として予備的訴因の追加を行ったものであるが,審理期間は,主位的訴因が起訴されてから予備的訴因が追加されるまで8か月足らずであること,予備的訴因が作為犯であることからしても,主位的訴因と予備的訴因において,外形的事実に大きな変更があるというものではなく(いずれも本件当日についての事実を訴因として掲げているものであることについては後記のとおり。),検察官側からの新たな証拠請求もなかったこと,したがって,弁護人側の防御としても,新たな証拠に対する,主張,反論をしなければならないというものではなかったこと,その上で,弁護人側から,賭博場の提供という観点からの反論,被告人質問をする機会は十分に与えられているといえること,被告人は,平成23年4月20日保釈されていることから,身柄拘束の長期化という問題は生じていないことからすると,本件における予備的訴因の追加は,被告人の防御に特段の不利益や不当な訴訟の遅延をもたらすものとはいえない。

そして,本件においては,弁護人は,第6回公判期日において,賭博開張図利の幇助罪,あるいは更に単純賭博の幇助罪を認定するのであれば,(その可否を留保しつつ)訴因変更が必要である旨を述べており,これら犯罪の認定が考えられる場合に,検察官がこれらを主張するのであれば予め争点化しておくことは,望ましい面があったといえるところである。また,弁護人は,同公判期日において,賭博開張図利の幇助罪の成否が考えられたとしても,被告人にはAの賭博開張行為をやめさせる義務はないとして,賭博開張図利の幇助罪は成立しない旨を主張し,作為犯の構成は考えていないふしがあり,そうした中で,被告人に対して訴因変更の手続を経ずして,同構成による同罪の成立を認定することは相当ではなく,争点化することが望ましかったといえる。

以上からすれば,弁護人のるる主張する点や掲げる判例を踏まえても,検察官による予備的訴因の追加が権利の濫用である等の前記弁護人の主張は,採用し得ない。

2  また,弁護人は,予備的訴因の「容認し」だけでは幇助犯の訴因として不特定であり,また,予備的訴因は,平成22年5月8日の正犯行為に対する①平成21年4月頃に行われた「Bに対する組事務所使用を了承した」作為,②平成21年5月中旬頃「組事務所で麻雀ができる旨を伝えた」作為として構成しているものであって,主位的訴因と予備的訴因とは公訴事実の同一性がなく,予備的訴因は違法であって,公訴棄却すべきであると主張する。

しかしながら,予備的訴因は,平成23年5月8日という特定日について起訴しているものである。そして,検察官は,前記のとおり,予備的訴因の「容認」とあるのは,場所の提供をした作為犯であることを釈明している。したがって,それを前提とすれば,賭博場の提供も,あくまでAが世話役をしていると知った後の本件当日のそれをもって訴因としていることは明らかであって,Bに本件組事務所の使用を許した時点や麻雀ができることを伝えた時点の幇助行為を訴因として構成しているものとは解されない。予備的訴因において,日時,場所,方法いずれにおいても訴因としての特定は満たされているというべきであり,不特定であるとの弁護人の前記主張は理由がない。また,予備的訴因を,そのように本件当日の賭博場の提供ということを前提として考察すれば,日時,場所及び被告人の同日の犯行の役割は共通で,Aとの共謀が成立しなければ,賭博開張図利罪の共同正犯は成立しない関係にあり,主位的訴因と予備的訴因とは基本的事実は同一の関係にあるといえ,両者の公訴事実の同一性が認められる。

よって,前記公訴棄却すべきであるとの弁護人の主張も採用の限りではなく,その他,関係各証拠に照らし,本件において訴訟手続の違法は認められない。

第4結論

以上から,被告人においては,予備的訴因である,Aを正犯者とする賭博開張図利罪の幇助犯が成立するものと認められる。

よって,関係各証拠から,判示のとおり認定した。

(法令の適用)

・ 適用罰条 刑法62条1項,186条2項

・ 法律上の減軽 刑法63条,68条3号

・ 刑の執行猶予 刑法25条1項

(量刑の理由)

前記のとおり,被告人においては,賭博開張図利罪の幇助犯が認められるものであるが,本件の場合と同一のルールで,寺銭たるゲーム代を出して麻雀をしたことのある被告人にとって,本件ごとき行為が繰り返されれば,自己が組長をする判示c組の組員であるAが得る利益が相当額に及ぶことは容易に察することができたものであり,Aが主宰者となっていた賭け麻雀の場所を提供し,これを容認した被告人の行為は,やはり短絡的なものといわざるを得ない。また,被告人は,平成18年10月6日詐欺罪で懲役1年8月,4年間執行猶予の判決を受け,本件はその執行猶予期間中の犯行であり,被告人の規範意識の低さが認められる。そして,被告人は,本件後,逃げていたものであり,犯行後の態様もすこぶる悪い。本件において被告人を実刑に処することが十分に考えられるところである。

しかるに,本件起訴に係る事実は,平成22年5月8日という1日限りのものであるところ,本件において行われていた賭け麻雀は,新潟で行われている大衆麻雀店と同様にして設けられたもの(4頁<主位的訴因・第2の2(2)>並びに風俗営業等の規制及び業務の適性化等に関する法律19条,同法施行規則35条1号参照。)で,正犯者たるAの得る利益も,半荘1回4人分で2000円と,回数を重ねれば相応な金額になるとはいえ,本件当日分としては少額ではないものの,相当に高額とまでは言い難いこと,そして,被告人に利得はなく,被告人は得ようともしていなかったこと,本件に至る経緯として,被告人が,当初は断ったものの,Bから再三にわたって,本件組事務所を賭け麻雀をするための場所として貸して欲しいと依頼されていたという事実があったこと,被告人は,保釈までに既に一定期間の身柄の拘束を受けていること,被告人は,本件後,猶予期間の経過まで逃げていたものであって,そのこと自体は相当に責められるべきものではあるが,本件から同期間の経過まで残すところ約5か月となっていた上,被告人自ら警察に出頭していることなど被告人に有利な,あるいは斟酌すべき事情が認められるので,これらの事情を最大限考慮し,その他,正犯者たるAが懲役10月に処せられていることを考慮すると,被告人においては,前掲主文の刑とした上で,今一度,刑の執行を猶予するのが相当であると量刑した。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑:懲役1年6月)

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