大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 平成4年(ワ)209号 判決 1995年9月14日

新潟県燕市大字燕五一九五番地

原告

株式会社森井

右代表者代表取締役

森井政行

右訴訟代理人弁護士

坂東克彦

右輔佐人弁理士

近藤彰

大阪府守口市佐太中町六丁目一二二番地

被告

清水産業株式会社

右代表者代表取締役

清水伸洋

右訴訟代理人弁護士

宇佐美貴史

右輔佐人弁理士

柳野隆生

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙物件目録(一)、(二)、(三)及び(四)記載の各「電子レンジ用蒸し器」の製造及び販売をし、また、販売のために展示をしてはならない。

二  被告は、その本店、営業所及び工場において占有する別紙物件目録(一)、(二)、(三)及び(四)記載の各「電子レンジ用蒸し器」並びにその半製品(部品として成形されたもの)を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成三年八月二三日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告の製造及び販売にかかる別紙物件目録(一)及び(二)記載の各電子レンジ用蒸し器並びに被告が将来販売する可能性がある同目録(三)及び(四)記載の各電子レンジ用蒸し器(以下、これらを順に、「イ号物品」、「ロ号物品」、「ハ号物品」及び「ニ号物品」といい、これらをまとめて「被告物品」ということがある。)が、原告の有する電子レンジ用蒸し器にかかる意匠権を侵害するとして、意匠法三七条一項、三九条に基づき、右侵害行為の差し止め及び損害賠償を請求した事案である。

一  前提事実

1  原告の有する意匠権

原告は、次の意匠権(以下、「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という。)の意匠権者である(争いがない)。

(一) 意匠にかかる物品 電子レンジ用蒸し器

(二) 出願日 昭和六三年一〇月八日

(三) 登録日 平成二年一一月三〇日

(四) 登録番号 第八〇九七五七号

(五) 登録意匠 別紙意匠公報記載のとおりの電子レンジ用蒸し器の形状

2  被告物品の製造及び販売

被告は、平成二年秋ころから、イ号物品を製造販売していたが、その後同物品の販売を中止し、同四年初めころからロ号物品を製造販売している(甲一七の一、二、原告代表者、被告代表者、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  被告物品が本件登録意匠と類似するか。

2  ハ号物品及びニ号物品が本件登録意匠と類似する場合、イ号物品及びロ号物品は、仮に本件登録意匠と類似しないとしても、意匠法二六条所定の利用関係にあるか。

3  イ号物品及びロ号物品の製造、販売による原告の損害の有無及びその額。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件登録意匠と被告物品の類否)について

1  本件登録意匠の構成態様

証拠(甲一)及び弁論の全趣旨によれば、本件登録意匠の構成態様は次のとおりと認められる。

(一) 意匠全体の構成

(1) 全体は、やや偏平な皿体と、下縁部を皿体に一体で嵌合した容器体と、右容器体に被冠する蓋体で構成されている。

(2) 最下段の皿体は、容器体の高さの約半分で、蓋体は容器体の高さの約六〇パーセント程度の高さである。

(3) 全体の形状

<1> 全体の平面視は、円形である。

<2> 全体の正面視は、縦横比約一〇対七程度の四角形状である。

(二) 各部の態様

(1) 皿体の態様

<1> 皿体の全体は、皿部と取っ手で構成されている。

<2> 皿部の底面視は、円形である。

<3> 皿部は垂直周壁と水平底板からなり、その正面視は偏平な四角形である。

<4> 皿部の外縁より外周方向に、取っ手が水平に設けられている。

<5> 取っ手は、皿部の外縁部より平面視半円形状に突出しており、取っ手の皿体の外縁部への取り付け部分は、鋭角的に連続している。

<6> 取っ手は、対角線に対向する位置で、二個設けられている。

<7> 皿部上縁外周部分にはフランジが突出し、フランジ上面のリング状の溝に容器体を嵌合している。

<8> 底面に三個の脚突起が設けられている。

(2) 容器体の態様

<1> 容器体の全体は、内外二重の周壁と、内周壁の下部に連続する底板で構成されている。

<2> 容器体の平面視は、円形である。

<3> 容器体の正面視は、約三対一〇の縦横比の四角形状である。

<4> 内外周壁部が連続する頂部は、外周壁から内方に折曲する段差部と、段差部から上方に膨出して内周壁と連続する蓋体の載置部で構成されている。

<5> 外周壁は垂直壁面で、内周壁は中心に向かって少し傾斜している。

<6> 底面には蒸気孔が多数設けられている。

<7> 蒸気孔は、一対の円孔と同一方向に並んだ多数の小さい長楕円からなる。

(3) 蓋体の形態

<1> 蓋体の全体は、ほぼフラットに近い天板と、これにアール部によって連続した垂直周壁で構成されている。

<2> 蓋体の平面視は、円形である。

<3> 蓋体の正面視は、縦横比約一対五の偏平な変形四角形状である。

<4> 蓋体の側面と上面のコーナー部分は小さいアールで連続している。

<5> 蓋体の上面に下方に凹没して形成した一対の対称な摘みが存在する。

<6> 摘みは、対抗部分(中央側)が深く、外周方向が浅く形成されている。

<7> 摘みは、半円形であり、円弧側が中央方に互いに向き合っている。

<8> 蓋体の下縁は容器体に嵌合し、嵌合上部外周に鍔が周設されている。

<9> 鍔は容器体の鍔載置部の膨出頂部まで突出している。

(三) 本件登録意匠の特定についての被告の主張とそれに対する判断

(1) 皿体と容器体の嵌合構成について

被告は、意匠法六条並びに同法施行規則一条及び二条によると、意匠権の対象となる物品が分離可能であるならば、別体または分離可能と願書に説明するか、あるいは図面で表すことが必要とされているが、本件登録意匠の願書及び添付図面(乙一〇)には、かかる説明ないし図示はない(争いがない。)から、本件登録意匠の容器体と皿体は一体に結合され、分離不可能なものとして特定すべきであると主張する。

しかしながら、前記意匠法施行規則二条所定の願書に添付すべき図面の様式五の備考欄十四には、「分離することができる物品であって、その組み合わされたままではその意匠を十分表現することができないもの」について、各構成部分についての図面を加えることとされているから、組み合わされた状態における図面等から分離可能性が認識できる場合にまでも、分離可能性について説明ないし図示を不可欠とする趣旨とは解されないし、右説明ないし図示がないことから直ちに当該意匠が分離不可能なものとして特定されるものと解すべきものでもない。

これを本件登録意匠についてみると、容器体の下縁が皿体の溝に嵌合している両者の連結状態、エッチングによる断面表現及び電子レンジ用調理器具(樹脂製または陶磁器製)の製造技術上、利用上の常識等を総合的に判断すれば、本件登録意匠の図面から、皿体と容器体とが分離可能な意匠であると認識するのが自然かつ合理的である。

したがって、被告の主張は採用できない。

(2) 蓋体の透明性について

被告は、意匠登録出願の際、透明部分があれば、その旨願書に記載しなければならないのに、本件登録意匠の出願に際しては、蓋体が透明であることについて権利主張がされていないこと(このことは、右出願に対し、特許庁が、開蓋状態の平面図が不足している旨指摘したこと(乙一〇)からも裏付けられる。)から、本件登録意匠の蓋体は不透明なものとして特定されるべきであると主張する。

しかしながら、願書に透明の記載をした場合は、右記載に基づき当該物品が透明なものとして意匠登録を受けるのに対し、本件登録意匠のように願書に何ら透明、不透明の記載がない(争いがない。)場合は、透明、不透明の限定を受けないものと解すべきであって、不透明なものとして特定されるものではない。

したがって、被告の右主張は採用できない。

2  被告物品(意匠)の構成態様(争いがない。)

(一) イ号物品

(1) 全体の構成は、やや偏平な皿体二個と、下縁部をそれぞれの皿体に嵌合した二個の容器体と、皿体と容器体の嵌合状態で二段に積層し、上部容器体に被冠する蓋体から成る。

(2) 全体の構成部品の高さ比率について、皿体は、容器体の高さの約半分で、蓋体は容器体の高さの約六〇パーセント程度である。

(3) 全体の形状

<1> 全体の平面視は、円形である。

<2> 積層状態の全体の正面視は、縦横比約一〇対八対五程度の縦長形状である。

(4) 皿体の全体構成

<1> 皿体は、皿部と取っ手で構成されている。

<2> 皿部の底面視は、円形である。

<3> 皿部は周壁と底板とからなり、その正面視は二段の膨出アール状で、上部アール部分は下部アール部分より約三倍の高さを有し、下部アール部分は容器体の上縁に嵌合する大きさとなっている。

<4> 取っ手は皿体の外縁部より外周方向に水平に設けられている。

<5> 取っ手は皿体の外縁部より平面視半円形状になだらかに突出している。

<6> 取っ手は対角線上に対抗する位置で、二個設けられている。

<7> 皿部上縁外周部分には短いフランジが突出し、フランジ上面のリング状の溝に容器体を嵌合している。

<8> 底面に三個の脚突起が設けられている。

(5) 容器体の態様

<1> 容器体は、内外二重の周壁と、内周壁の下部に連続する底板で構成されている。

<2> 容器体の平面視は円形である。

<3> 容器体の正面視は、縦横比約三対一〇の僅かな台形形状である。

<4> 周壁部の頂部は、外周壁と内周壁とが連続することで断面倒コ字状の蓋体の載置部が形成されている。

<5> 外周壁は垂直より約五度程度傾斜した傾斜壁面で、内周壁は中心に向かって僅かに傾斜している。

<6> 底面には蒸気孔が多数設けられている。

<7> 蒸気孔は、ハの字状に並んだ多数の小さい長楕円からなる。

(6) 蓋体の形態

<1> 蓋体の全体形状は、半球を潰したドーム状の膨出形状である。

また、蓋体全体が透明体で、容器体内部のハの字状の蒸気孔が視認できる。

<2> 蓋体の平面視は円形である。

<3> 蓋体の正面視は、少し偏平な半楕円形状である。

<4> 蓋体の摘み側方部分に小さい蒸気孔が設けられている。

<5> 蓋体の上面に、下方に凹没して形成した一対の対称な摘みが存在する。

<6> 摘みは対抗部分(中央側)が深く、外周部分が浅く形成されている。

<7> 摘みの平面視は半円形で、円弧側が外周方向に向き、直線部分が互いに向き合っている。

<8> 蓋体の下面は容器体に嵌合し、嵌合上部外周に鍔が周設されている。

<9> 鍔の幅は容器体の頂部と合致する。

(二) ロ号物品

ロ号物品は、右イ号物品の構成態様(4)<6>(取っ手の位置及び数)につき、「取っ手は等四方向に、四個設けられている。」点が相違するのみで、他はイ号物品と同一である。

(三) ハ号物品

ハ号物品は、前記イ号物品のように二段構成とせず、一個の皿体と、一個の容器体と、一個の蓋体とで構成したもので、各部品はイ号物品と同様である。

(四) ニ号物品

ニ号物品は、前記ロ号物品のように二段構成とせず、一個の皿体と、一個の容器体と、一個の蓋体とで構成したもので、各部品はロ号物品と同様である。

3  被告物品の意匠登録

証拠(乙一六の1ないし4、一七)によれば、被告物品のうち、ロ号物品について、平成五年七月一四日に意匠登録がされ(出願日平成三年九月三〇日、登録番号八七九五九七号)、イ号物品について、平成五年一二月二四日に右ロ号意匠の類似意匠として意匠登録がされた(出願日平成三年九月三〇日)こと、ニ号物品について、平成五年五月一八日に意匠登録がされたこと(出願日平成三年五月一六日、登録番号八七五八六六号)がそれぞれ認められる。

4  本件登録意匠の要部認定

(一) 本件登録意匠とイないしニ号物品の各意匠は、前記認定のとおりの構成を有するものであり、いずれも電子レンジにより加熱を行って食品の蒸し調理を行うものである。そして、各家庭における使用態様につき考察すると、まず、該蒸し器を使用する場合には、調理台等に載置して皿体に水を張り、次いで内容物を容器体に収納して被蓋するのであるから、その際の看者の視点は、当該蒸し器を見下ろす視点、すなわち平面視方向から観察することととなり、当該蒸し器の構成態様のうち、皿体の取っ手形状と蓋体の摘み部の形状は、いずれも使用者の手指が直接触れる部分であることから、看者の注意が特に集中するものと認められる。

次に、使用者は当該物品の取っ手を持って電子レンジに収納し、収納後は、蒸し器が電子レンジのターンテーブルに適当に配置されているかを確認するから、皿体に注目することとなり、加熱時においては、内容物の蒸し上がり状態を確認するために、蓋体に注目することになる。そして、加熱終了とともに電子レンジの前面扉を開いて皿体の取っ手を持って取り出し、そのまま食膳に配膳するものであることからすると、当該蒸し器の正面視に看者の注意が集中するものと認められる。

(二) このように、当該蒸し器の通常の使用態様、蒸し器のカタログ、パンフレット及び外箱等には、正面ないし斜め上部からの当該物品の写真が掲載されていること(甲四、五ないし八、一一、一三ないし一六)及び公知意匠に鑑みれば、本件登録意匠にかかる意匠公報(甲一)の正面図ないし平面図にみられるような、正面ないし上面から見た外観が本件登録意匠の要部であるというべきである。

5  本件登録意匠と被告物品の相違に関する認定

(一) 本件登録意匠とイ号物品及びロ号物品の相違

本件登録意匠の要部は、前記のとおり、正面ないし上面から見た外観であるから、これについて本件登録意匠とイ号物品及びロ号物品を対比すると、(1)全体の構成において、本件登録意匠は、蓋体、容器体及び皿体からなる構成であるのに対し、イ号物品及びロ号物品は、下から順に皿体、容器体、皿体、容器体(皿体と容器体の嵌合状態で二段に積層)、そして蓋体を被冠して、これら五部材を積層した構成であり、本件登録意匠は全体として横長で据わりのよい安定した印象を与えるのに対し、イ号物品及びロ号物品は、五部材を積層した構成であるから、全体として縦長で、本件登録意匠とは異なる印象を与えること、(2)本件登録意匠の蓋体は正面視で肩部分がほぼ直角であり、全体が短矩形状であって、直線的な硬い印象を与えるのに対し、イ号物品及びロ号物品は正面視で肩部分がなく、全体がドーム状の半円であるから、全体に丸い優しい印象を与えること、(3)本件登録意匠の蓋体は透明に限定されないが、イ号物品及びロ号物品の蓋体は透明であって、容器内部、特に蒸気孔が看取できること、(4)本件登録意匠の蓋体表面に設けた一対の凹状摘み部の表面形状は、平面視は半円であって該半円の直線部分を違いに対設しているから、蓋部を摘みあげる際に滑りやすいのに対し、イ号物品及びロ号物品は直線部分を摘むから滑りにくく、また、摘み部分はイ号物品及びロ号物品では半円であるから、その外延線を延長して結んだときには円形を表し、右各物品の丸い印象を強調するといった相違があること、(5)本件登録意匠の皿体側面は、正面視で垂直環状壁面で構成され、ほぼ直角のアール部にて底板に連続しているのに対し、イ号物品及びロ号物品の皿体側面は、二段のアール状膨出部が環状壁として形成されて、緩やかに底板に連続していること、(6)本件登録意匠の容器本体に設けられた取っ手部は、平面視で容器本体からやや鋭く膨出しているのに対し、イ号物品及びロ号物品の取っ手は皿体に設けられ、平面視で皿体外縁線からなだらかな線によって連続し、緩やかに膨出しており、容器体から流れるように連続していること及び、(7)本件登録意匠の取っ手部は、相対する一対であるのに対し、ロ号物品は皿体表面の四等分線上に二対設けられているという相違が認められる。

以上のような相違点及び、前記(一3)のとおりロ号物品が意匠登録され、イ号物品がロ号物品の類似意匠として登録されたことを併せ考えると、イ号物品及びロ号物品は、いずれも本件登録意匠とは視覚を通じての美感を異にするものと認められ、類似するということはできない。

(二) 本件登録意匠とハ号物品及びニ号物品の相違

本件登録意匠の要部は、前記のとおり、正面ないし上面から見た外観であるから、これについて本件登録意匠とハ号物品及びニ号物品を対比すると、ハ号物品は、前記(2(三))のとおり、イ号物品のような二段構成とせず、一個の皿体と、一個の容器体と、一個の蓋体とで構成したもので、各部品はイ号物品と同様であると認められるから、右二段構成に関する点を除き、前記本件登録意匠とイ号物品との対比に関する認定がそのまま妥当するものである。また、ニ号物品は、前記(2(四))のとおり、ロ号物品のような二段構成とせず、一個の皿体と、一個の容器体と、一個の蓋体で構成されたもので、各部品はロ号物品と同様であると認められるから、右二段構成に関する点を除き、前記本件登録意匠とロ号物品との対比に関する認定がそのまま妥当するものである。加えて、前記(一3)のとおりニ号物品が意匠登録されていることを併せ考えると、ハ号物品及びニ号物品は、いずれも本件登録意匠とは視覚を通じての美感を異にするものと認められ、類似するということはできない。

6  原告の主張とそれに対する判断

(一) 被告物品の意匠登録について

(1) 原告は、前記被告物品の意匠登録に関し、明確に本件登録意匠と被告の各意匠出願を対比考察して両者非類似の判断がされたとの裏付けはないこと、イ号物品及びロ号物品の意匠登録は、意匠法三条一項一号に反するものであり、無効理由が存在すること等から、被告物品の意匠登録が認められても、本件登録意匠と被告物品の類似に関する判断には影響がないと主張する。

(2) しかしながら、意匠法一七条によれば、同法三条、九条及び一〇条一項に違反する場合には、意匠登録出願は拒絶される旨規定されており、この規定からすれば、本件被告物品の意匠登録出願に際し、特許庁審査官は右条項該当の有無について審査したものと推認するのが相当と解されるところ、被告物品の意匠登録が認められている以上、特許庁審査官は、右条項該当事由がないこと、すなわち本件登録意匠と被告物品は非類似であると判断したものと解するのが相当であり、かかる判断は、意匠権侵害訴訟における意匠の類否の判断に当たっての有力な一資料になるというべきであること、また、イ号物品及びロ号物品の意匠登録が意匠法三条一項一号に違反するものであるとしても、両物品が本件登録意匠と互いに非類似であるという特許庁の判断には何らの影響も及ぼさないものと考えるのが相当であるから、原告の前記主張は採用できない。

(二) 本件登録意匠の要部認定について

原告は、公知意匠(乙五、乙六の36、60)との対比から、本件登録意匠の新規部分は、<1>取っ手の取り付け位置並びに取っ手形状、更に容器体との連結形態、<2>内外周壁と蒸気孔を備えた底板とからなる全体構成及び周壁部の頂部形状、<3>摘みの断面形状及び平面形状であるとし、さらに本件登録意匠にあって看者が注目するのは、第一次的には物品の機能的形態(使い勝手の良さ等)であり、次に物品全体のバランスであるとした上で、本件登録意匠の要部を、「やや偏平な皿状にして上縁に取っ手が張り出した皿体と、皿体の約二倍の高さにして底面に蒸気孔を多数設けた容器体とを嵌合手段で一体化し、容器体の約六〇パーセント程度の上部に膨出し、かつ上部に摘みを設けた蓋体を被冠してなる電子レンジ用蒸し器の態様」であると主張する。そして、この要部に基づいて類否をみると、本件登録意匠とイ号物品及びロ号物品の具体的構成態様の差異は、本件登録意匠の創作性を凌駕するものではなく、微差に過ぎないと主張している。

しかしながら、蒸し器の通常の使用形態を前提とする限り、看者が注目するのは、当該蒸し器を正面ないし上面から見た外観であること前記(一4)のとおりであり、意匠は、あくまでも視覚を通じた美感をもって、その審美性を評価するものであるから、原告主張の機能的形態については、それが外観に現れていない限り、意匠の類否判断に当たっての重要点とすることはできないこと、原告が本件登録意匠の新規部分と主張する前記<1>ないし<3>の皿体と容器体との連結態様、内外周壁及び摘み部の断面形状は、断面図をもって初めて理解されるものであり、前述のような意匠評価の特性に鑑みれば、これらを意匠の要部とみることは相当でないこと等からすると、右原告の要部認定に関する主張も採用できない。

(三) 原告は、イ号物品及びロ号物品の実施品である「むし太郎」は、本件登録意匠の実施品である「上海亭」に簡易なデザイン変更を施して製造した商品であり、模倣であると主張するが、「むし太郎」は、被告が社外のデザイナーにデザイン開発を依頼し、右デザイナーから示された数点の案の中から採用されたものと認められること(被告代表者)、右各実施品はいずれも電子レンジでの使用を予定しているものであり、電子レンジのターンテーブルのサイズに合わせる必要から、蓋体、容器体及び皿体がほぼ同一の大きさになったとしても、さして不自然ではないこと等からすれば、原告及び被告の実施品の容器体の壁面に多数のリブ(突出部)が存在すること(甲四一)を考慮しても、本件登録意匠と被告物品とが類似しないとの判断を左右するものではない。よって、原告の主張は採用できない。

二  争点2に対する判断

本件登録意匠と被告物品とは類似しないことは前判示のとおりであるから、原告の主張は前提を欠くものといわざるを得ず、採用できない。

第四  結論

以上のとおりであるから、争点3について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 太田幸夫 裁判官 野島香苗 裁判官 内田義厚)

物件目録(一)

別紙イ号図面(1)、(2)に表示した形状の電子レンジ用蒸し器

イ号図面(1)

<省略>

イ号図面(2)

<省略>

物件目録(二)

別紙ロ号図面(1)、(2)に表示した形状の電子レンジ用蒸し器

ロ号図面(1)

<省略>

ロ号図面(2)

<省略>

物件目録(三)

別紙ハ号図面(1)、(2)に表示した形状の電子レンジ用蒸し器

ハ号図面(1)

<省略>

ハ号図面(2)

<省略>

物件目録(四)

別紙ニ号図面(1)、(2)に表示した形状の電子レンジ用蒸し器

ニ号図面(1)

<省略>

ニ号図面(2)

<省略>

日本国特許庁

平成3年(1991)3月25日発行

意匠公報 (S)

C5-4111

809757 意願 昭63-39531 出願 昭63(1988)10月8日

登録 平2(1990)11月30日

創作者 森井政行 新潟県燕市大字燕5195番地

意匠権者 有限会社森井 新潟県燕市大字燕5195番地

代理人 弁理士近一影

審査官 関口かおる

意匠に係る物品 電子レンジ用蒸し器

説明 背面図は正面図と、左側面図は右側面図と対称にあらわれる。

本件登録意匠

<省略>

意匠公報

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例