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新潟地方裁判所 平成6年(行ウ)18号 判決 2000年1月27日

(両事件)原告

林文雄

右訴訟代理人弁護士

足立定夫

大澤理尋

(A事件)被告

高田税務署長 藤巻克夫

(B事件)被告

右代表者法務大臣

臼井日出男

右被告両名指定代理人

栗原壯太

須藤哲右

阿部昭雄

小島一俊

田口勉

永塚光一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  A事件

1  被告高田税務署長が平成三年一二月一二日付けでした次の処分を取り消す。

(一) 原告の昭和五九年分、昭和六〇年分、昭和六一年分、同六二年分、同六三年分、平成元年分及び平成二年分の所得税についての各加算税賦課決定処分

(二) 原告の昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日まで及び平成二年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間の消費税についての各重加算税賦課決定処分

2  訴訟費用は被告高田税務署長の負担とする。

二  B事件

1  被告国は原告に対し、一億〇二七〇万七九〇〇円並びに三一八六万四二〇〇円に対する平成三年一〇月九日から各還付金の還付のための支払決定の日まで及び七〇八四万三七〇〇円に対する平成四年七月二五日から各還付金の還付のための支払決定の日まで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告国の負担とする。

3  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、税務調査を行った国税局及び税務署の係官から奨められて修正申告をし、その後、重加算税を含む加算税の賦課決定を受けた原告が、その所得について、隠ぺい・仮装の事実はないなどと主張するとともに、税務調査の違法性や右修正申告の錯誤無効などを主張して、被告高田税務署長に対し、加算税などの賦課決定の取消しを求め(A事件)、被告国に対しては、納付金の返還を求めた(B事件)事案である。

一  当事者間に争いのない事実及び証拠などによって安易に認定できる事実

1  原告は、新潟県新井市内において、「松茶屋」及び「らーめん亭」の商号で飲食店を営んでいたものである。

2  確定申告等

原告は、昭和五九年分から平成二年分までの各所得税並びに平成元年分及び平成二年分の各消費税について、別表一ないし九の「確定申告」欄記載のとおりの各確定申告書を、法定申告期限内に被告高田税務署長にそれぞれ提出した(その後、昭和五九年分及び平成二年分の所得税については別表一及び七の「従前の修正申告」欄記載のとおりの修正申告をした。)。

3  本件税務調査

関東信越国税局及び高田税務署の係官ら(以下「本件係官ら」という)は、平成三年一〇月一日から同月七日までの間、原告に対する税務調査を行った(以下「本件税務調査」という)。

4  本件修正申告

原告は、本件税務調査において、本件係官らから、飲食業に係る売上げの除外があるなどとして修正申告を奨められ、平成三年一〇月七日、前記2の各所得税及び消費税につき、別表一ないし九の「本件修正申告」欄記載のとおり、各修正申告をした(以下まとめて「本件修正申告」という)。

5  本件課税処分

被告高田税務署長は、本件修正申告後の、平成三年一二月一二日付けで、別表一ないし九の「加算税の賦課決定」欄記載のとおり、所得税につき過少申告加算税及び重加算税の、消費税について重加算税の各賦課決定処分をした(以下まとめて「本件課税処分」といい、そのうち、重加算税賦課決定処分を「本件重加算税賦課決定処分」という)。

6  納付

(一) 原告は、本件修正申告の翌日である平成三年一〇月八日、右修正申告にかかる所得税及び消費税合計七〇八四万三七〇〇円を納付した(被告ら指摘のとおり、原告の主張及びそれを前提とする請求は(一)と(二)の金額が逆である。乙一三ないし二一)。

(二) さらに、原告は、平成四年七月二四日、本件課税処分に基づき、所得税の過少申告加算税、重加算税及び延滞税並びに消費税の重加算税及び延滞税として、合計三一八六万四二〇〇円を納付した(弁論の全趣旨)。

7  一方、原告は、本件課税処分を不服として、平成四年一月一六日、関東信越国税局長に対して異議申立てをしたが、右申立ては同年三月二四日付けでいずれも棄却され、さらに、同年四月一六日、国税不服審判所長に対して審査請求をした(乙三一)が、右請求も平成六年六月二三日付けでいずれも棄却され、この裁決は、同年七月一四日ころ、原告に通知された(乙三〇・弁論の全趣旨)。

二  争点

A事件(本件課税処分取消請求事件)

1  本件税務調査及び本件修正申告に、本件課税処分の取消事由があるか。

(一) 本件税務調査において、公序良俗に反する重大な違法があったか(争点1)。

(二) 本件修正申告には、<1>自主性・任意性の欠如、<2>客観的に明白かつ重大な錯誤、又は<3>詐欺・強迫があり、無効又は取り消されるべきものか(争点2)。

(三) 推計課税の制限の逸脱があるか(争点3)。

2  本件課税処分の適法性

原告による隠ぺい・仮装行為があったか(争点4)。

B事件(過誤納金返還請求事件)

1  本件修正申告に基づく納付金について

A事件の争点2に同じ。

2  本件課税処分に基づく納付金について

本件課税処分は、前記A事件により取り消され、それに基づく納付が無効となるか。

三  当事者の主張

A事件(本件課税処分取消請求事件)

1  本件課税処分の取消事由について

(原告の主張)

(一) 本件税務調査の違法(争点1)

本件係官らは、平成三年一〇月一日、占有者である原告の承諾なく、原告が留守中の「松茶屋」及び「らーめん亭」に立ち入り、来店客がいるにもかかわらず、レジスターを勝手に開けて、現金を数えて伝票と照らし合わせ、伝票と現金の額が合わないと指摘するなど、原告の意思に明らかに反した態様で、質問検査権の限界を超えた違法な調査を行った。また、本件税務調査においては、任意調査であるにもかかわらず、本件係官らは、極めて威圧的、暴力的な態度により、原告及びその関係者をして機械的に調査に協力させ、物理的強制力を行使した違法な調査を行った。

さらに、本件係官らは、前記のとおり、営業中の店舗への臨場調査により、原告の営業活動を著しく停滞させ、原告の社会的信用及び名誉を大きく侵害したうえ、<1>店舗事務所の机の引き出し、原告の自宅のタンス、押入れのみならず、原告の妻林春子(以下「春子」という)の財布まで開けることを命じ、天井裏や原告夫婦の寝室まで捜索するなどして、原告及びその家族のプライバシー及び住居の平穏を著しく侵害したこと、<2>平成三年一〇月四日には、本件税務調査により、肉体的にも精神的にも疲労した原告に対し、日中から夜間まで、長時間にわたって、本件修正申告を迫り、「重加算税をかけないよう局長に斟酌してやる。」、「今決意すれば青色申告も剥奪しない。」、「今なら半分にまけてやる。」、「銀行にある金を全部もらえばいいんだ。」、「拒否すればもっと査定にかけるぞ。」といった、詐欺的かつ脅迫的な言葉を繰り返し用いて、本来自主的であるべき修正申告を執拗に強要していることに照らすと、本件税務調査には、公序良俗に反する重大な違法があるから、本件課税処分もまた、違法なものとして、取り消されるべきである。

(二) 本件修正申告の無効(争点2)

(1) 自主性・任意性の欠如

原告は、平成三年一〇月四日の税務調査において、前記(一)のとおり、長時間にわたって、詐欺的かつ脅迫的な言葉を繰り返し用いられ、本件修正申告をするよう執拗に迫られたことから、すっかり頭が混乱し、正常な判断能力を失ったまま、あらかじめ本件係官らにおいて作成されていた修正申告書に署名押印して修正申告したものであるから、本件修正申告には、自主性及び任意性が全く欠如しており、法的意味での申告があったということはできない。

(2) 錯誤無効

納税申告についても、客観的に明白かつ重大な錯誤があり、法定の方法以外にその是正を許さないならば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合には、錯誤無効の主張が許されるべきである。

<1> 客観的に明白かつ重大な錯誤

原告は、本件修正申告前の申告(以下「当初申告」という)における飲食業の売上金額が正確であったにもかかわらず、前記(一)の本件係官らの違法な税務調査により、客観的に明白かつ重大な錯誤に陥り、本件修正申告をしたものである。

すなわち、飲食業に関する原告の当初申告は、関与税理士である藤巻義信(以下「藤巻税理士」という)が注文伝票を集計して作成した売上帳(以下「本件売上帳」という)に基づいてされたものであるところ、注文伝票は、原告の従業員らが日々の売上げを正確に記載したものであり(注文伝票のなかには、汚損により破棄等されたものもあるが、その場合は再度別の伝票に書き直しているから、売上金額の集計には影響はない)、本件売上帳への記載に際しその一部を除外したことはないから、本件売上帳は、原告の飲食売上が正確に記載されたものである。よって、本件売上帳に基づいた原告の当初申告は、正確であったことが明らかである。

<2> 納税義務者の利益を著しく害する特段の事情

本件修正申告書の記載は、本件係官らの修正申告の強要を原因とする誤ったものであり、かつ、この修正申告書に記載された過誤の税額は、著しく多額であることから、錯誤無効を認めることにより、納税者たる原告の利益を救済する必要性が高く、本件においては、法定の方法以外にその是正を許さないならば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある。

(3) 詐欺・強迫

<1> 本件修正申告は、本件係官らの前記(一)の詐欺・強迫によってされたものである。

<2> 原告は、平成七年三月二〇日の本件口頭弁論期日において、本件修正申告を取り消す旨の意思表示した。

(三) 推計課税の制限の逸脱(争点3)

本件において、原告は信頼できる注文伝票と売上帳を備え付けており、これらを本件税務調査の際に提出していたから、推計課税の必要性はなく、推計課税に基づく更正処分を行うことは違法であった。にもかかわらず、本件係官らは、右推計課税の制限を潜脱するため、推計の結果を原告に押し付け、本件修正申告をさせた違法がある。

(被告高田税務署長の反論)

(一) 本件税務調査の違法性について(争点1)

本件係官らは、原告の事業である飲食業の営業時間に十分配慮しながら、その店舗に臨場し、原告が不在であったので、青色事業専従者である妻春子及び従業員である長女永井文子(以下「文子」という)に対して、質問検査権を行使したものであるし、レジスターを勝手に開けるなどの行為はしていないから、右税務調査には、手続上何の違法も存しない。また、同係官らは、原告が帰宅した直後、原告本人に対しても調査協力の要請を行い、その了解を得ている。本件係官らは、その後の調査経緯においても、原告らからの協力を得て本件税務調査を進めており、同人らに物理的強制力を行使したことはない。

さらに、本件係官らが、レジスターの中の現金有高の確認や注文伝票の調査を行ったことは事実であるが、右調査は、春子及び文子の承諾を得て行ったものであり、また、右調査に当たっても、原告の営業活動を阻害しないよう時間帯などにも十分配慮し、また、原告の自宅のタンス、押入れ、天井裏などの確認も、原告らの承諾を得たうえで行っていたもので、その態様も相当である。また、本件係官らは、原告の主張するような詐欺的かつ脅迫的な言葉を述べていないから、本件税務調査に何ら違法な点はなく、原告の主張は、失当である。

(二) 本件修正申告の無効について(争点2)

(1) 自主性・任意性の欠如について

原告は、本件修正申告書の意味内容を十分に理解したうえで、署名押印し、これを提出したものであるから、原告の主張は失当である。

(2) 錯誤無効について

本件においては、当初申告にかかる飲食業売上金額計上の基礎となった注文伝票に欠番があったことや、一〇月一日の本件税務調査の際の注文伝票の合計金額と現金有高に差額があったことなどから売上除外が強く推測され、本件係官らが原告及び春子に説明を求めたところ、売上除外の事実を認める旨の申立てがあったために、本件修正申告を奨めたものであり、その過程で、原告において同係官らの推定した飲食業に係る売上金額が高いと原告は主張し、同係官らに計算のやり直しを何度か求めたうえで算出された売上金額について、藤巻税理士が専門家として内容を検討し、原告もその内容を認識した上で、本件修正申告をしたものであるから、原告は客観的に明白かつ重大な錯誤に陥っていない。

(3) 詐欺・強迫について

本件係官らが原告に対し、原告主張の欺罔あるいは害悪の告知をしたことはない。

(三) 推計課税の制限の逸脱について(争点3)

本件において、被告高田税務署長が推計課税による更正処分をした事実はなく、原告は自らの意思で本件修正申告書を提出したものである。そして、修正申告の効力が争われている事案において、推計課税をしたと仮定して同額の更正処分をすることが可能であったことが有効要件になるとの主張は、原告独自の見解であって、法的根拠を欠くものであるから、失当というほかない。

2  本件課税処分の適法性について

(被告高田税務署長の主張)

(一) 加算すべき所得金額

本件課税処分の基礎となった、原告の当初申告の所得金額に加算すべき所得金額は、別表一〇の「A」欄記載のとおりであり、その算出方法は、別表一〇の「B」欄記載のとおりである。

(二) 本件課税処分

被告高田税務署長は、この加算すべき所得金額のうち別表一〇の「C」欄記載の金額について、過少申告加算税賦課決定処分をし、別表一〇の「D」欄記載金額について、国税通則法(以下「通則法」という)六八条にいう「隠ぺい」、「仮装」があったとして、本件重加算税賦課決定処分をした。

(三) 本件重加算税賦課決定処分の要件たる隠ぺい・仮装の存在(争点4)

(1) 飲食業に係る売上除外

原告らは、注文伝票を抜き取り又は破棄することにより、飲食業に係る売上げを除外していたものであり、このことは、<1>本件係官らが、本件税務調査において、原告及び春子に対し、注文伝票に欠番があったり、春子の作成したメモ(乙二・以下「春子メモ」という)と本件売上帳記載の売上金額に差がある原因について質問したところ、春子が、売上げを除外するために注文伝票を抜き取っていたことを認め、売上除外の理由について「娘の夫に内緒で、娘にお金をつくってあげたかった。」と述べて、飲食関係の除外を認めたこと、<2>原告自身も自己の非を認め、飲食店の営業に関しては客数の多い休日を中心に売上げを集計するための伝票を抜き取る方法で多額の所得をごまかしていた旨の申し述べ書(乙三)を作成、提出していること、<3>その他、預金の支出状況、注文伝票の保存状況などから明らかである。

なお、売上げから除外された金額については、原告から早期に結論を出すよう迫られたこと、真実の売上金額を記載した帳簿がなく、ラーメンの製麺数を記録した書類もなかったことから、原告の承諾を得たうえで、税務調査において計測したラーメンの製麺数から推計することとし、これに若干の補正をして、自家消費の金額を除いた申告売上金額に九・九七パーセントの売上除外率を乗じて算定した(別表一〇の「1―1」ないし「1―7」の各D欄記載のとおり)。

(2) 飲食業に係る米の架空仕入

原告は、藤巻税理士と共謀のうえ、平成二年一〇月三〇日付けで米の仕入代金一〇〇万円を架空に計上した(別表一〇の「2」のD欄記載のとおり)。

(3) マイクロバスの賃貸収入除外

原告は、昭和六三年ないし平成二年において、飲食客の送迎用として所有していたマイクロバスを第三者に有料で貸付け、賃料を得ていたにもかかわらず、これを永井勉名義の預金口座に入金して管理し、別表一〇の「3―1」ないし「3―3」の各D欄記載のとおりの各金額を、当初申告から除外していた。

(4) 木材取引業に係る売上除外及び架空仕入

<1> 平成二年分

原告は、知人の岡田真治(以下「岡田」という)に木材取引に関する領収書の偽造を依頼していたほか、愛知県銘木協同組合に対する実際の売上金額二一八一万六九七五円と当初申告において同組合との取引によるものとした六七六万三六五〇円との差額一五〇五万三三二五円を、八十二銀行新井支店の岡田名義の普通預金口座に振り込むことにより、別表一〇の「4―1」のD欄記載のとおり、三一八万九〇五六円を当初申告から除外していたものである。

<2> 平成元年分

原告は、木材取引について、平成元年分の所得金額のうち一六〇万円は、所得があることを十分承知していながら、これを事業所得の金額から除外して申告した。

(5) 家畜取引業に係る売上除外

原告は、農家と直接に行う現金取引を帳簿に記載せず、別表一〇の「5―1」のD欄記載のとおりの所得を事業所得の金額から除外して申告していた。

(原告の反論)

本件においては、次のとおり所得の隠ぺい・仮装の事実はない(争点4)。

(一) 飲食業にかかる売上除外について

本件において、当初申告にかかる飲食売上の金額は正確であり、原告及びその家族・従業員が、売上帳への記載に際し、注文伝票の一部を抜き取り、売上げを隠ぺい・仮装した事実はない。

原告は連番の付された伝票を使用しており、その欠落部分はわずかで、書き損じ、汚れ、メモ代わりの使用などによって失われたものと思料されるし、原告の多忙な日常の営業状態から考えて、原告及びその家族・従業員が日常業務の過程で伝票を抜くことは不可能である。

(二) マイクロバスの賃貸収入について

本件マイクロバスは、顧客や知人に依頼されて貸し出しをしているものであるが、金額も比較的少ないため帳簿類などの記載をしなかった。この収入は、取引銀行である北越銀行に事業専従者である永井勉名ですべて預金していたが、この点は、税理処理上の判断の誤りであり、隠ぺい・仮装をしていたものではない。

(三) 木材取引について

(1) 平成二年分

原告は、岡田と共同で仕入れた欅を、名古屋の取引市場で共同で売却した際、岡田に名古屋の市場での取引資格がなかったため、原告の名前だけを出し、利益を折半していたところ、当初申告において計上していた岡田からの四〇万円の仕入れはなく、この部分は仮装であるが、その余の部分に隠ぺい・仮装はない。

(2) 平成元年分

原告は、平成元年五月に、糸魚川市大字猿倉四四二番地所在の浄土真宗大谷派乗雲寺の欅を六五〇万円で仕入れて、同年一一月八日、名古屋市場において八一〇万円で売却したものを、入金が平成二年二月一六日になったため、藤巻税理士の指導を受けて、平成二年の売上げとして計上したものであり、所得を隠ぺい・仮装してはいない。

(四) 家畜取引について

家畜取引については、以前は相当回数行っていたが、飲食店経営後は、徐々に少なくなり、昭和六三年ころには原告が昔の知人に依頼されて、趣味的に行っていたものであり、経費を引けば赤字になるようなもので、事業ではなかった。

よって、家畜取引の仲介料(運賃・手間賃)を申告しなかったことは、所得の隠ぺい・仮装に該当しない。

B事件(過誤納金返還請求事件)

(原告の主張)

1  本件修正申告の無効

争点2で主張したとおり、本件修正申告は無効であるから、これに基づく納付金は過誤納金であり、返還されるべきである。

2  本件課税処分の無効

本件課税処分は、争点1ないし4で主張したとおり、取り消されるべきものである以上、これに基づく納付金は過誤納金であり、返還されるべきである。

(被告国の反論)

1  本件修正申告の無効について

被告高田税務署長の主張と同様、本件修正申告は有効であるから、原告の主張は理由がない。

2  本件課税処分の無効について

被告高田税務署長の主張のとおり、原告の主張は理由がない。

第三当裁判所の判断

A事件(本件課税処分取消請求事件)

一  本件税務調査及び本件修正申告に、本件課税処分の取消事由があるか(争点1ないし3)

1  本件税務調査から本件修正申告に至る経緯について

証拠(甲七ないし一九、三八ないし四〇、四二、五一、五二、乙一ないし一四、二二、二三、二七ないし二九、三三、三四、四六(枝番のあるものは、枝番共。以下同様)、証人杉島淳、同清水昇済、同林春子、同島田乃里子、同永井文子、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 平成三年一〇月一日の税務調査

(1) 関東信越国税局の杉島淳、清水昇済係官、高田税務署の原一郎及び横田浩栄係官は、平成三年一〇月一日午後二時ころ、二班に分かれて、原告の経営する松茶屋及びらーめん亭に臨場したが、事前通知をしておらず、原告が不在であったことから、松茶屋に臨場した杉島係官は、隣接した原告宅に赴き、原告の妻であり事業専従者であった春子に対し、らーめん亭に臨場した清水係官は、店内に居合わせた原告の長女であり従業員であった文子に対し、それぞれ、身分証明書及び質問検査章を提示したうえ、原告の所得税及び消費税の調査に協力してもらいたい旨告げて調査を開始した。そして、春子に外出中の原告に電話で連絡を取ってもらうとともに、同女らに対し、松茶屋及びらーめん亭における売上金の管理・集計方法について確認したところ、同女らから、<1>売上金は、銭箱として使っていたレジスターに入れて保管するのみで、記録紙への印字はしていないこと、<1>レジスターには、松茶屋、らーめん亭とも開店前に、釣銭用として常に現金六万二五〇〇円を保管していること、<3>売上金の集計は、注文伝票を取っておいて、これを税理士に集計してもらい、売上金として計上していることなどの説明を受けた。

そこで、本件係官らは、各店舗内ないし原告宅において、春子及び文子の承諾を得て、従業員らとともに、店舗に備えてあるレジスター内の現金有高を確認したうえ、当日の注文伝票を集計したところ、釣銭用現金額を差し引いた現金有高と注文伝票の集計額との間に、次のとおり差額が生じていることが確認された。

<1> 松茶屋

レジスター内の現金有高 一二万三五二〇円(釣銭六万二五〇〇円を差し引いた額)

注文伝票の集計額 一一万〇〇二二円

差額 一万三四九八円

<2> らーめん亭

レジスター内現金有高 九万八〇〇〇円(釣銭六万二五〇〇円を差し引いた額)

注文伝票の集計額 八万九六三〇円

差額 八三七〇円

杉島係官は、春子に対して、右の差額が発生した理由について説明を求めたが、当日、レジスター内から別途経費などを支出したことはないとのことであり、その理由について具体的な説明はなかった。

なお、同日の注文伝票(甲三八ないし四一)の通し番号に欠番や重複が多数あることは後記認定のとおりである。

(2) そこで、本件係官らは、原告自宅で合流し、到着した藤巻税理士及び原告に対し、身分証明書及び質問検査章を提示し、原告の所得税及び消費税の調査に来た旨告げたうえ、松茶屋及びらーめん亭において当日の現金管理の状況を確認した際に、レジスター内の現金有高と注文伝票の集計額に差額が生じたことを説明し、その理由を尋ねたが、具体的な回答は得られなかった。そこで、杉島係官らは、原告に対し、注文伝票及び帳簿類の確認を求め、原告の案内で倉庫及び事務所へ行き、その承諾を得て、注文伝票及び帳簿類を確認し、さらに原告宅居間及びタンス部屋についても確認した。また、清水係官らは、春子の案内で、原告宅の台所へ行き、サイドボード内から平成三年分の飲食業に係る春子メモ(乙二)及び永井勉名義の北越銀行普通預金通帳(乙二七)を、書類ケースの中から「車御礼金25,000―」と記載された封筒(乙二八)などを発見した。この際、春子は、右メモは、伝票の集計が遅れるのでメモ程度に売上げを記録したものであり、他に日々の現金出納について記帳している帳簿はなく、正しい売上帳は税理士が作成している旨説明した。一方、発見された通帳及び封筒について、原告は、所有するマイクロバスを第三者に貸し付けた対価として現金で二万五〇〇〇円を受け取ったものであるが、この貸付けに係る収入については、文子の夫である永井勉名義の預金口座に預け入れており、申告はしていない旨の説明をした。

そこで、本件係官らは、原告において、飲食業に係る売上げや、その他の所得が当初申告から除外されている可能性が高いと考え、その検討のため、原告の承諾を得て、平成元年分以降の税務申告の基礎となった関係書類、預金通帳類(乙三三)、春子メモなどを預かり、官用車及び原告の自動車で税務署まで運搬した。

(二) 平成三年一〇月二日及び同三日の税務調査

両日は、原告らが旅行中であったことから、杉島及び清水係官は、飲食業に係る注文伝票・本件売上帳などの検討を行ったところ、右伝票には相当数の欠番があること、右伝票を集計して作成されたとされる本件売上帳の金額よりも、春子メモに記載された売上金額が、一部上回っていることが確認された(乙二、四)。また、銀行に対する調査により、原告らから提出を受けた預金通帳以外にも預金口座があることが判明した。さらに、原告の木材取引に関して、取引先である岡田を調査したところ、同人から、原告の依頼により、平成二年三月七日付けで六〇万円の領収書を偽造したこと、また、同年一一月一五日に岡田名義の預金口座に振り込まれた売上金のうち四〇万円が原告の取引によるものであることが確認された(乙一)。

(三) 平成三年一〇月四日の税務調査

杉島及び清水係官は、平成三年一〇月四日午前一〇時三〇分ころ、原告宅に再度臨場し、原告の承諾を得て、自宅に隣接する製麺所においてラーメンの麺玉製造工程を見学し、同日は、小麦粉を六袋(一袋二五キログラム入り)と使いかけ一袋を含めて七袋を使用し、三四箱(一箱四〇個入り)と十数個の麺玉が製造されたことを確認したが、原告は、製麺数を記録した書類は作成していない旨説明した。

その後、杉島係官らは、原告宅において、調査を行い、藤巻税理士の立会いで、原告及び春子に対し、飲食業、木材取引及び家畜取引についての問題点を指摘したうえ、質問したところ、原告は、木材取引については、架空仕入を計上するため領収書の偽造を岡田に依頼したこと及び愛知県銘木協同組合への売上げに計上漏れがあることを認め、家畜取引については、五十嵐商会に対する売上げのみを申告しており、五十嵐商会以外の農家との現金取引は計上していなかったこと、関係書類を保存していないため、明確な金額は分からないが、赤字になることはなかったことなどの説明があった。さらに、未提出の預金通帳について尋ねたところ、寝室にあるということであったため、春子の案内で寝室へ行って、預金通帳(乙三四)を確認し、さらに、ベッドのマットの下から、簿外の家畜取引の伝票を発見した。

飲食業に係る売上げ・給与関係については、原告は、春子が担当していて分からないと答えたため、本件係官らは、春子に対して、注文伝票の番号が欠落している点や、本件売上帳と春子メモの金額が異なっている点について、その原因を問いただしたところ、春子は、注文伝票を抜き取って売上げを除外していたことを認めたが、現金管理がきちんとしていないので、除外した金額がいくらか分からないし、何に使ったかもはっきりしない旨答えた。

その後、原告は、杉島係官らの求めに応じて、同人の作成した文案を参考にしながら、藤巻税理士とも相談のうえ、家畜及び銘木の売買に関する取引において、現金取引の分を中心に領収書を偽造したり、他人の口座へ売上げを振り込ませるなどの方法で多額の所得をごまかし、飲食店の営業についても、客数の多い休日を中心に売上げを集計するための伝票を抜き取る方法で多額の所得をごまかしていた旨の申し述べ書(乙三)を作成し、提出した。

さらに、本件係官らは、原告から、不正は認めるので、早急に結論を出して欲しいとの懇請を受け、飲食業の売上げについては、真実の売上げや製造したラーメンの玉数を記録した書類がないことから、午前中の調査で計測した製麺数から推定することで、原告の承諾を得た。

(四) 平成三年一〇月五日の調査内容

杉島及び清水係官は、平成三年一〇月五日午後二時ころ、藤巻税理士の事務所に赴き、同税理士立会いのもと、原告に対し、前日の調査によれば、小麦粉一袋から製造できる麺玉数は一九四玉であり、これに、小麦粉使用数、総客数比率(一・一五)、平均客単価(七〇〇円)を乗ずると、年間売上金額は、平成二年分で一億七六〇〇万三一〇〇円(うち除外金額二一四二万五九九七円・売上除外率一三・八パーセント)となる旨説明したところ、原告から、売上除外について修正申告する意思はあるが、その金額については一日に換算すると五万円以上になり、到底考えられない額であるし、これから新店舗を設ける計画を立てており、費用がかかるので何とかならないかと強い申入れがあった。

そこで、本件係官らは、小麦粉からの製麺過程で若干の損失が生じうることを考慮して、売上除外率を一一・五八パーセントとして再計算し、家事費及び家事関連費の否認額、木材取引に係る架空仕入れ、家畜取引に係る売上除外及びマイクロバスの賃貸収入などを含めて、税額計算を行った後、修正申告を奨めた。

原告は、これについても、飲食業の売上除外率の軽減を懇請し、売上げを除外したのは、休日などの客が多い日が中心であり正確な金額は分からないが、平均すると全体の売上げの一割位であると申し出たことから、本件係官らは、これらを考慮して、自家消費の金額を除いた申告売上額に一割の売上除外率を乗じて七年間分の売上除外額を算出し、税額計算をやり直した数値を原告に提示したところ、原告は、それ位だと思うがもう少し税金が何とかならないかと再三繰り返し、売上除外率を一割弱で計算してくれと懇請したため、本件係官らは、売上除外率を九・九七パーセントとして算出し直し、これに基づき七年間分の税額計算をやり直した数値を原告に提示したところ、原告から、その金額で修正申告書を提出したい旨申出があり、原告は、藤巻税理士にその内容を確認してもらったうえで、本件係官らが金額を書き込んだ修正申告書に署名押印をしたが、本件係官らは、計算違いなどがあるかもしれないとして、いったんこれを預かった。

(五) 本件修正申告

原告及び藤巻税理士は、平成三年一〇月七日午後二時ころ、高田税務署に赴き、本件係官らに対し、同税理士は前記(四)の修正申告書の細部を検討したところ、配当控除について計算誤りがあったと指摘した。そして、原告は、本件係官らがこの誤りを訂正した本件修正申告書に署名押印して提出した(乙六ないし一四)。

2  本件税務調査において公序良俗に反する重大な違法があったか(争点1)

本件税務調査の経緯は、前記1認定のとおりであり、本件係官らは、平成三年一〇月一日、原告の事業所である松茶屋及びらーめん亭に臨場した際、原告が不在であったことから、松茶屋においては、原告の妻であり事業専従者であった春子に対して、らーめん亭においては、原告の長女であり従業員であった文子に対して、それぞれ質問検査権(所得税法二三四条一項三号)を行使したもの、すなわち、両名に対して、各店舗の売上金の管理方法について質問したうえ、その承諾を得て、各店舗内においてレジスター内の現金有高を確認したものであるから、原告の不在中に質問検査権の限界を超えた違法な調査が行われたとの原告の主張を採用することはできない。

また、前記1説示のとおり、本件係官らの本件税務調査は、原告及び春子らの任意の協力を得て進められており、本件係官らが、原告及び春子の反対を無視して帳簿を捜索したり、原告及び春子らに対して、極めて威圧的、暴力的な態度をとって、同人らを機械的に協力させたという事実を認めるに足りる証拠はなく、この点に関する原告の主張を採用することはできない。

前記1認定のとおり、本件税務調査手続は、営業中の飲食客のいる店舗内においても実施されており、原告の営業活動への支障を最小限にするために、店舗内で行わなくてもよい調査は外で行うなどの配慮をするのが望ましいところ、この点、証拠(乙二二、二三、証人杉島淳、同清水昇済)によれば、杉島係官らは、このような観点から、店舗内の調査はレジスター内の現金有高を確認するのみにして早めに切り上げ、伝票の集計作業については原告宅で行ったこと、清水係官らは、店舗内で伝票の集計作業を行ったものの、その態様は営業を完全に妨げるようなものではなく、時間的にも長時間にわたるものではないから、本件税務調査が、原告の営業活動を著しく停滞させ、原告の社会的信用及び名誉を大きく侵害したものとはいえない。また、本件係官らは、前記1(一)、(二)認定のとおり、原告宅の寝室などの確認を行っているが、これは、原告及び春子らの承諾に基づくものであるから、これが直ちに原告及びその家族のプライバシー及び住居の平穏を著しく侵害したものとはいえない。

さらに、平成三年一〇月四日の調査もまた、前記認定のとおり、原告の懇請により、売上除外率を引き下げるなどして進められたものであり、本件係官が、詐欺的かつ脅迫的な言葉を繰り返したという事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件税務調査には、原告が主張する公序良俗に反する重大な違法があったとはいえない。

3  本件修正申告には、<1>自主性・任意性の欠如、<2>客観的に明白かつ重大な錯誤、又は<3>詐欺・強迫があり、無効又は取り消されるべきものか(争点2)

(一) 自主性・任意性の欠如について

本件修正申告に至る経緯については、前記1で認定したとおりであり、原告が、平成三年一〇月四日の税務調査において、本件係官らに対し、繰り返し、飲食業に係る売上除外率の軽減を懇請し、同係官らをして、三回もの減額計算をさせたうえ、本件修正申告をするに至ったものであること、本件税務調査においては、本件修正申告に至るまで、藤巻税理士が立ち会っており、同税理士において本件係官の作成した修正申告書の配当控除に関する計算違いまで指摘して、訂正のうえ、原告が本件修正申告書に署名押印していることに照らすと、原告は、本件修正申告書の内容を十分に理解して、任意に署名押印して、修正申告したものと認められ、本件係官らによる詐欺的・脅迫的な言動を認めるに足りる証拠はないことは前記2説示のとおりであるから、本件修正申告に自主性・任意性が欠如していたという原告の主張を採用することはできない。

(二) 錯誤無効について

所得税法は、いわゆる申告納税制度を採用し、確定申告書記載事項の過誤の是正につき特別の規定を設けているところ、その趣旨は、所得税の課税標準などの決定については、最もその事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限定することが、租税債務を可及的速やかに確定せしむべき国家財政上の要請に応ずるものであり、そのようにしても納税義務者に対して過当な不利益を強いる虞がないと認めたからにほかならない。従って、確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その特定の方法によらないで錯誤無効を主張をすることができるのは、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限定されると解するのが相当であり(最高裁昭和三九年一〇月二二日第一小法廷判決・民集一八巻八号一七六二頁参照)、右理は、同じく納税申告行為である修正申告についても、あてはまると解するべきである。

これを本件についてみるに、本件修正申告がなされた経緯は、前記1で認定したとおりであり、原告は、本件税務調査において、注文伝票を抜き取る方法などにより飲食業に係る売上げを除外していたことを自認していたもので、後記二3のように当初申告にかかる売上額が正確であったともいえないこと、原告は、本件税務調査において、右売上除外率の算定について、本件係官らから、製麺数から推定すること及びその算出根拠について説明を受け、これに対して具体的事実をもって反論し、また自己の窮状を訴えて、同係官らをして、三回もの減額計算をさせたうえ、本件修正申告をすることとしたものであること、前記(一)認定のとおり、藤巻税理士において、本件係官の作成した修正申告書の計算違いまで指摘したうえ、本件修正申告書に署名押印していることに照らすと、本件修正申告において、原告が、売上除外の事実及びその算定額について、客観的に明白かつ重大な錯誤に陥っていたと認めることはできない。

(三) 詐欺・強迫について

本件修正申告に至る経緯において、本件係官らが、原告に対して、詐欺的・脅迫的な言動をしたという事実を認めるに足りる証拠はないことは、前記2説示のとおりである。

4  推計課税の制限の逸脱があるか(争点3)

原告は、本件税務調査当時、青色申告の承認を受けていた(弁論の全趣旨)から、その所得について推計課税をする余地はそもそもない(所得税法一五六条)うえ、本件修正申告がなされた経緯は、前記1認定のとおりであり、本件係官らが、本件修正申告を奨めることとしたのは、原告自身に修正申告の意思があったことや、原告が早期解決を望み、飲食業に係る売上除外額については製麺数から推定計算することを承諾していたことによるものであって、推計課税の制限を潜脱するためのものではないから、原告の主張を採用することはできない。

5  よって、本件税務調査及び本件修正申告について、本件課税処分の取消事由があるとの原告の主張は、いずれも採用できない。

二  本件課税処分の根拠について

1  被告高田税務署長は、原告の当初申告の所得金額に加算すべき所得として、別表一〇の「B」欄の根拠から、「A」欄記載の金額が算出されるとして(項目「1―1」ないし「5―1」の詳細は後記2参照)、別表一〇の「C」欄記載の項目・金額について、過少申告加算税賦課決定処分をし、別表一〇の「D」欄記載の項目・金額について、通則法六八条にいう「隠ぺい、又は仮装」があったとして、本件重加算税賦課決定処分をしたことが認められる(弁論の全趣旨)。

2  原告による隠ぺい・仮装行為があったか(争点4)

(一) 通則法六八条にいう「隠ぺい」「仮装」の意義

通則法六八条は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代え、重加算税を課すると規定している。通則法六八条にいう「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい」とは、二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入れもしくは架空経費の計上、証拠書類の廃棄等、課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠すことをいうとされ、また、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装」とは、架空契約書の作成、他人名義の利用など、存在しない課税要件事実が存在するように見せかけることをいい、納税者個人や、その実質的な主宰者と認められる者や経営に参画していた者が事実の隠ぺい又は仮装行為を行った場合はもとより、家族や従業員がこれらの行為を行った場合であっても、その隠ぺい又は仮装に基づき過少申告などの結果が発生していれば重加算税を課すことができると解するのが相当である。

(二) 飲食業に係る売上除外について

本件修正申告の経緯は、前記一1で認定したとおりであるところ、右事実及び証拠(甲二、三、八ないし一八、二八、二九、三八ないし四一、乙二、三、四二、五一、五二、五五、五六、証人林春子、同島田乃里子、同永井文子、原告本人)によれば、原告の経営する松茶屋及びらーめん亭では、飲食売上金は、レジスターに入れて保管するのみで、記録紙への印字や現金出納帳などによる管理はされていなかったこと、売上金額の集計については、注文伝票を保管しておいて、これを藤巻税理士が集計した結果を売上帳に記載していたが、注文伝票は、売上金をレジスターから回収する際に現金との突き合わせがされていなかったばかりか、本件税務調査が行われた平成三年一〇月一日の注文伝票(甲三八ないし四一)についても、通し番号に欠番や重複が多数あり、注文伝票の集計額は、レジスターの現金有高(釣銭用現金を控除したもの)から一万円前後の金額が少なかったこと(その具体的金額は前記認定のとおり)が認められる。そして、同日の本件税務調査において、春子が毎日のおよその売上金額を記載した春子メモが発見されているが、その金額は、本件売上帳の金額と必ずしも一致しておらず、特に休日などの売上げの多い日には、数万円単位で本件売上帳よりも多い金額が記載されていたり、右金額の横に差額金額が並記されていたりしていること(なお、原告は、右の差額について、春子が、つり銭を補充した金額を記載したものであると主張するが、つり銭としては不自然な金額のものが多く、つり銭不足は、ほとんどなかった旨の証人島田乃里子、同永井文子の証言に照らして、採用し難い。)同月四日、本件係官らから、伝票の欠番や春子メモと売上帳との齟齬を指摘された春子は、売上伝票を抜き取る方法で売上げを除外していたことを認め、原告自身も藤巻税理士と相談のうえ、「申し述べ書」(乙三)と題する書面に「飲食店の営業に関しては客数の多い休日を中心に売上を集計するための伝票をぬきとる方法で多額の所得をごまかしておりました。」などと記載して、本件係官らに提出していること、そして、その三日後の同月七日には、飲食業に係る売上げについて、九・九七パーセント売上除外があったことを前提として計算された修正申告書に署名押印して、これを本件係官らに提出し、その翌日には、右修正申告にかかる所得税及び消費税を全額納付していることが認められる。以上の事実に照らせば、松茶屋及びらーめん亭においては、被告高田税務署長主張の期間、注文伝票の一部が抜き取られることにより、同被告主張の飲食業による売上げが除外されていたものと認めるべきである。そして、右行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の隠ぺい・仮装にあたるから、右金額は重加算税の対象となると認められる。

(三) 飲食業に係る米の架空仕入

原告が、平成二年一〇月三〇日付けで飲食業に係る米の仕入代金一〇〇万円を、架空計上していた事実は、原告において争わないことが明らかであるので、自白したものとみなす。そして、右行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の隠ぺい・仮装にあたるから、右金額は重加算税の対象となると認められる。

(四) マイクロバス賃貸に係る収入除外について

前記1(一)(2)の事実及び証拠(乙二二、二三、二七、二八、三二の2、原告本人)によれば、原告は、昭和六三年から平成二年にかけて、飲食客の送迎用として所有していたマイクロバスを第三者に有料で貸し付け、相当程度の賃料を得ていたにもかかわらず、北越銀行の永井勉名義の普通預金口座に入金して管理し、別表一〇の「3―1」ないし「3―3」のD欄記載の各金額の賃料収入を当初申告から除外していた事実を認めることができる。そして、右行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の隠ぺい・仮装にあたるから、いずれも重加算税の対象となると認められる。

(五) 木材取引業にかかる売上除外及び架空仕入について

(1) 平成二年分

前記一1(二)、(三)の事実及び証拠(乙一、四一、四七、四八、五〇、原告本人)によれば、原告は、岡田に依頼して、平成二年三月七日付けの木材取引に係る六〇万円の領収書を偽造したり、愛知県銘木協同組合に対する実際の売上金額二一八一万六九七五円と、当初申告において同組合との取引によるものとした六七六万三六五〇円との差額一五〇五万三三二五円を、八十二銀行新井支店の岡田名義の普通預金口座に振り込むことにより、別表一〇の「4―1」のD欄記載の三一八万九〇五六円を事業所得から除外して申告していた事実を認めることができる。

そして、右行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の隠ぺい・仮装にあたるから、いずれも重加算税の対象となると認められる。

(2) 平成元年分

前記一1(二)、(三)の事実及び証拠(乙一、四一、四七、四八、五〇、原告本人)によれば、原告は、愛知県銘木協同組合その他に対する木材売上金に関して、計七二〇万二四四四円分の申告をしていなかったこと、そのうち別表一〇の「4―2」のD欄記載の一六〇万円分について、所得があることを知りながら、木材取引の事実を隠し、これを事業所得の金額から除外して申告した事実を認めることができる。そして、右行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の隠ぺい・仮装にあたるから、いずれも重加算税の対象となると認められる。

(六) 家畜取引業にかかる売上除外について

前記一1(三)の事実及び証拠(乙二二、二三、三二の2)によれば、原告は、昭和六二年分の家畜取引の仲介収入のうち、一六三万〇六九四円を隠して、これを事業所得の金額から除外して申告した事実を認めることができる。そして、右行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の隠ぺい・仮装にあたるから、いずれも重加算税の対象となると認められる。

(七) 以上より、本件重加算税賦課決定処分の対象となった各項目は、いずれもその要件を充足していると認められる。

三  よって、原告の本件課税処分取消請求は理由がない。

B事件(過誤納金返還請求事件)

一  本件修正申告に基づく納付金について

本件修正申告には、自主性・任意性の欠如、錯誤ないし詐欺・強迫が認められないことは、A事件説示のとおりであるから、本件修正申告に基づく納付金に関する原告の返還請求は、理由がない。

二  本件課税処分に基づく納付金について

A事件説示のとおり、本件課税処分について、取消事由を認めることはできないから、本件課税処分に基づく納付金に関する原告の返還請求もまた、理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田清 裁判官 大野和明 裁判官 泉路代)

平成六年(行ウ)第一八号加算税賦課決定処分取消請求事件(以下「A事件」という)

平成七年(行ウ)第五号過誤納金返還請求事件(以下「B事件」という)

更正決定

(両事件)原告 林文雄

右訴訟代理人弁護士 足立定夫

同 大澤理尋

(A事件)被告 高田税務署長

藤巻克夫

(B事件)被告 国

右代表者法務大臣 臼井日出男

右被告両名指定代理人 栗原壯大

同 須藤哲右

同 阿部昭雄

同 小島一俊

同 田口勉

同 永塚光一

本件について平成一二年一月二七日当裁判所が言渡した判決に明白な誤謬を発見したので、職権により、主文のとおり決定する。

主文

右判決書三五頁一行目中「四〇、」を削除し、

六二頁一、二行目中「(甲二、三、八ないし一八、二八、二九、三八ないし四一、乙二、三、四二、五一、五二、五五、五六、」とあるのを「甲二、三、八ないし一八、二八、二九、三八ないし四二、五一ないし五五、乙二、三、」と訂正し、

別表一〇の4―1木材取引業に係る売上除外及び架空仕入(平成2年)のA欄中「\5,249,987」とあるのを「\3,189,056」と訂正して更正する。

平成一二年二月一日

新潟地方裁判所第二民事部

裁判長裁判官 松田清

裁判官 大野和明

裁判官 泉路代

別表一

昭和五九年分 課税処分の経緯(申告所得税)

<省略>

別表二

昭和六〇年分 課税処分の経緯(申告所得税)

<省略>

別表三

昭和六一年分 課税処分の経緯(申告所得税)

<省略>

別表四

昭和六二年分 課税処分の経緯(申告所得税)

<省略>

別表五

昭和六三年分 課税処分の経緯(申告所得税)

<省略>

別表六

平成元年分 課税処分の経緯(申告所得税)

<省略>

別表七

平成二年分 課税処分の経緯(申告所得税)

<省略>

別表八

平成元年分 課税処分の経緯(消費税)

<省略>

別表九

平成二年分 課税処分の経緯(消費税)

<省略>

別表一〇

<省略>

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