大判例

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新潟地方裁判所 昭和23年(ワ)159号 判決

原告 石川正男

被告 石川源一郎 外一一名

一、主  文

原告の請求は之を棄却する。

訴訟費用の負担は原告とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、原告が別紙目録<省略>表示の山林に立入り、立木を伐採する権利を有することを確認する、訴訟費用は被告等の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、別紙目録表示の土地は被告等及び訴外清野熊太の共有に属し該土地には雑木が生立し、毎年各共有者が協定の上之を薪炭燃料用として伐採して各共有者の持分により配分して来たのであるが原告は昭和二十年十一月二十八日訴外清野熊太より同人及び被告等の共有に係る別紙目録表示の山林土地に対する共有持分(別紙目録下欄記載の通り)を譲り受け、昭和二十一年二月十九日其の持分の所有権移転登記を経由した。

よつて原告は右共有持分に基いて被告等に対し右共有地に立入り薪炭燃料用の雑木を伐採採取をなしその配分に加入しうべきことを求めたけれど被告等は、原告の持分権の取得は認めながら右配分に加入することを拒絶したので、原告は共有権に基き、持分に応じて、本件土地に立入り、立木を伐採する権利を有することの確認を求むるため本訴に及んだのである。尚被告等のうち、

(イ)  石川宗一は昭和十年四月二日訴外石川惣吉の持分を、

(ロ)  石川新治は昭和十五年一月二十六日訴外亡石川鶴太郎の持分を、

(ハ)  石川清児は昭和十七年十月十日訴外亡石川清太郎及び同石川清次郎の各持分を、

(ニ)  石川昇、イ子、秀、美智は訴外亡石川勇(同人先々代八重松名義のものを含む)の持分を、

(ホ)  石川清松は昭和九年十一月二十六日訴外亡石川栄次郎(同人先々代松太郎名義のもの)の持分を、

(ヘ)  石川イシは明治三十七年九月二十一日訴外亡石川安栄(同人先々代長次郎名義のもの)の持分を、

夫々相続により取得し共有者となつたものである。

と陳述し、被告等の答弁事実に対し本件土地は被告主張のような共有の性質を有する入会権が存するのではなくこのことは原告等部落外に居住する共有権利者を除外して共有の性質を有する入会権が成立する筈はなく且つ被告石川イシが他部落に居住する共有権利者に拘らず、採取された雑木の分配を受け、訴外小野間虎彦、同加藤辰治両名は同部落に居住し、役務に服しているに拘らず右分配を受けていないのに徴しても明かである。又被告等主張の所謂柴山、売り山の呼称及び慣行は必ずしも判然としたものではなく右柴山のうち、字市の沢の立木が大正七年三月二十七日に売却されており、同じく字宮ノ沢四、〇八八番、四、〇九〇番、四、〇九一番山林の一部は昭和二十五年五月二十六日被告石川源一郎に売却伐採され、代金は共有権利者に分配されている又仮りに被告主張のような売り山の慣習があるとしても何人に対しても競争入札せしめるが如きは違法である。入会権の内容をなすなら部落民の生活上必要なる材料を得るためのものでなければならぬ、更に在村共有権者が独占的に使用收益している被告主張の所謂「分け地」は自由に譲渡されていて、譲受けた部落民が他の部落民より以上の利益をうけている事実があるが之は「分け地」が入会権の内容であるという趣旨に反するものであつて本件山林には被告等主張のような入会権は存在しないのであると述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として本件土地が被告等及び訴外清野熊太の共有であつて原告が右訴外人より原告主張の日にその共有持分を譲受けてその登記を経由したこと、被告等の相続関係が原告主張の如くであること又右土地は山林原野であつて原告はこれに立入り薪炭燃料用の立木の伐採採取方を申入れたが被告等がこれを拒否したことは認めるが、その余の原告主張の事実は否認する。元来本件山林は原告主張のような単なる共有地ではなくてこれには共有の性質を有する入会の慣習が行われている土地である。即ち取上部落以外に居住する者が本件土地に対する共有持分権を取得しても、その慣行に制約されて、山林に立入り、立木を伐採することは出来ないのであつて、その慣行の内容は、

A、別紙目録表示の土地のうち、(2) 、(8) 乃至(12)、(20)、(23)、(24)以上合計八町九反二十四歩は雑木林で、被告部落ではこれを俗に「柴山」と呼び、そこでは、

(イ)  共有権持分の有無に拘らず、取上部落現住者の世帶主が毎年協議をして雪融後二十日以内に共同して入山し、燃料「柴」用に雑木を伐採し、これを戸数割に平等に分配する。

但し、その伐採数量は一ケ年の消費量を超えてはならず又各戸の家族数は割当分配に参酌しない。

(ロ)  共有権者と雖も取上部落に居住しない者や他の部落へ転出した者は入山したり伐採したりすることは出来ないし、伐採柴の分配を受くる権利もない。その代り公課や経費の負担を免除される。

(ハ)  非権利者でも取上部落に居住する限り、(イ)の利益を受ける代りに本件土地に要する一切の公租公課諸経費を分担せねばならぬ。

(ニ)  雑木の伐採目的は柴としての燃料用に限られ、用材や製炭用にすることは許されない。又(イ)の伐採数量を超えてその余分を他へ売却したり譲渡したりすることは禁じられる。

B、右「柴山」以外の山林原野、雑種地合計十二町八反五畝六歩を俗に「売り山」と呼び、そこでは、

(イ)  競争入札の方法により誰にでも用材、薪炭等の使用に適当部分を売却し、その代金中より山番看視手当その他の経費を控除した残額を居住部落如何に拘らず共有権利者のみに分配する。

(ロ)  伐採は買受人自らがするので、取上部落居住者や共有権利者が伐ることはしない。

(ハ)  公租公課、諸経費はAと同様、取上部落居住者が分担する。

C、本件山林中「柴山」でも「売り山」でも、山麓若くは中腹以下で開墾して植林に適する部分は部落居住者(最初は部落居住者が土地の共有権利者であつた)の協議で面積を公正に分割し各部落居住者(世帶主)の個人占有としてその使用権を定め、これを「分け地」と呼称しているが、そこでは、

(イ)  「柴山」「売り山」としての慣習慣行から排除される。

(ロ)  分割は場所の位置、距離その他利用価値を考慮して勘案分配するもので、数量的には必ずしも平等でない。

(ハ)  主として桑、桐を植え利用する。

(ニ)  他部落居住の共有権利者は「分け地」を受ける権利なく、権利者が他部落へ転出の場合はその部分は共同利用即ち「柴山」又は「売り山」の慣習に復帰する。

(ホ)  占有者が基本の共有持分権を喪つても部落に止つている限り尚使用継続出来る。

というのである。而してこれは古くから行われており、所謂共有の性質を有する入会権であるから、第三者が本件土地の共有権の持分を取得しても、登記なくしてこれに対抗出来るものであり、原告は前示の如く共有権を譲受けたとはいえ取上部落居住者でなく他部落即ち熊渡部落居住者であるから前示慣行に拘束されて本件山林に立入り燃料の採取分配をうけることができない。よつて原告の請求は失当である。尚、被告イシは部落外居住の共有権者であるが、祖先の特別の功労の故を以て特別に伐採した雑木を贈与しているのであり又訴外小野間虎彦、同加藤辰治両名は部落内居住者であるが一時的に居住しているにすぎないので前記入会権による利益を受けていないのであつてこのことがあるからといつて前示慣行の存在を否定することはできないのであると述べた。<立証省略>

三、理  由

別紙目録表示の土地が訴外清野熊太及び被告等の共有に属し原告が原告主張の日に右訴外人からその共有持分を譲受けてその旨登記を経由し共有者となつたことは当事者間に争がない。而して原告は右共有権に基いて本件土地に立入り燃料を採取する権利を有すると主張し被告はこれを否定して右土地の共有は単なる共有ではなく共有の性質を有する入会であつて他の部落居住者たる原告はその主張のような燃料採取をなすことができないと抗争するので審究するに証人清野文次、同浅見林次、同石川惣吉の各証言、被告石川源一郎、同石川清松、同石川源松(第二回)の各本人訊問の結果、及び成立に争いのない甲第三、第五号各証を綜合すると、

(一)、本件土地に対しては当初字取上部落居住者(十三戸)のみで之を共有していたが持分の譲渡或は持分権者の離村等により現在は、部落外居住者で持分を有している者が存すること、

(二)、何処がそうであるかは明確ではないが、本件土地について、柴山(或は薪山若しくは燃料山)、売り山、及び分け地の呼称の別があり、夫々次のような慣習が行われて来たこと、

(イ)  柴山については、毎年雪融後、部落居住者が協議して、共同して入山し、自家燃料用として、生立する雑木を年間必要量だけ伐採の上、所謂おつとめ(鎮守や観音の祭りに費用を出したり使役に出たりすることで、村や部落の道普請などのことではない。)をしない非共有権者を除いて、共有権の有無に拘らず、各戸数割に之を平等に分配し、分配を受けた者は、公租公課を負担するが、共有権者であつても部落外に居住する者は分配を受けたり入山し伐採することが出来ない代りに公租公課の負担を免除される。

(ロ)  売り山については、立木(主として河岸工事等に使用する粗朶)が生長した際、部落居住の共有権者が部落総会で協議し、入札方法により部落人に限り売却し、その代金は必要諸経費(税金は除く)を差引いた上、部落外居住のものを含め全権利者にその持分に応じて分配し、伐採は買受人のみがなしうるもので、他の者は勝手に伐採することは出来ないが、公租公課は部落居住の共有権者が負担する。

(ハ)  分け地というのは土地の共有権者(当時は全部同部落居住者であつた)が相談して開墾に適した部分を権利者に分配し、(現在のものは三、四十年前分配された)各人に独占的に使用收益させている土地を云うのであつて、そこでは桑の栽培等が許されている。

(三)、右のような慣習(但し分け地の点については明確でない)は取上部落ばかりでなく隣接部落にも存在すること、

以上のような事実を認めることが出来該土地には叙上内容の入会権が存在するものといわねばならない。右認定に反する被告石川源松本人訊問の結果(第一回)は措信せず、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。原告は被告石川イシは他部落居住者に拘らず燃料の分配をうけ訴外小野間虎彦及び同加藤辰治は取上部落居住者に拘らずその分配をうけていないから被告主張のような入会権はないと主張するけれども証人小野間虎彦同加藤辰治同石川惣吉の各証言被告石川イシ同石川清松各本人訊問の結果を綜合すれば訴外小野間虎彦、同加藤辰治両名は取上部落に居住する者で共有権の持分なきものであるが、小野間は教員で間借り生活をなし、加藤は、五泉で被災して来住したものでいずれも部落に永住する意思なく、又所謂おつとめをしていないので前記認定のような慣習に服していないこと及び被告石川イシは共有権者で部落外に居住するものであるがその先祖の功績に対する報いとして特に伐採した雑木を贈与していること、しかし、売り山の売却代金の分配は受けていないことが認められるから右原告主張のようなことがあつたとしても本件土地について前示認定の入会権の存在を否定するわけにはいかない。又原告主張の如き所謂柴山に属する字市ノ沢の立木が大正七年三月二十七日に売却され、同じく字宮ノ沢四、〇八八番その他が昭和二十五年中被告石川源一郎に対し売渡され、この代金は共有権者に分配され又所謂「分け地」の部分が最近において自由に譲渡されて、その結果譲受けた部落民が他の「分け地」を有する部落民より以上の利益をうけ或は所謂売り山の如く何人にも競争入札で立木を売却することが行われていたとするもこのことは何等前認定の入会権と牴触するものでなく又このことがあつたからとて入会権は消滅するものでもないから原告主張の右のような事実があつても前認定をなすことを妨げるものではない。然らば本件土地に立入り、立木を伐採するは、右入会権の内容をなし、取上部落居住者のみなしうるところであつて、共有権者であつても部落外に居住するものは右の権利なきものと云わねばならぬ、原告が取上部落居住者でなく熊渡部落居住者であることは原告の争わないところであるから原告も亦本件山林に立入り、立木を伐採する権利を有しないものといわねばならない。よつて原告の本訴請求を失当と認めて之を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉井省己)

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