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新潟地方裁判所 昭和24年(ワ)218号 判決

原告 渡辺隆作

被告 竹内彌平次 外一八名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告等は連帶して原告に対し金二十万円及びこれに対する昭和二十四年十月二十四日以降完済まで年五分の割合による金員を支拂うべし。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並びに担保を條件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として、(一)原告及び被告等はいづれも新潟縣北蒲原郡木崎村議会の議員であり、原告は昭和二十二年五月同議会議長となつた。原告は昭和二十三年六月十七日新潟市内料理店行形亭に於て飲食したことにより飲食営業緊急措置令違反の罪に問われその後新潟簡易裁判所に於て罰金一万円に処せられたのであるが、木崎村議会に於ては原告が右政令違反の嫌疑で捜査官憲の取調を受けたことを理由として原告を除名しようとし、まづ同年六月二十五日の会議に於て同議会会議規則第三十二條の「地方自治法及本則規定に違背した議員に対しては会議の議決に依り五日以内出席停止することが出來る。」とあつた條文を「地方自治法並に左記事項に違背したる議員に対しては会議の議決に依り同法第百三十五條の適用をなすことを得るものとする。第一、本則に違背したるもの第二、本議会の体面を汚損する行爲ありたるもの第三、占領目的を害する言動ありたるもの。」と改正し、次で同月二十九日の村議会の会議に於て被告等の賛成により原告の前記政令違反の行爲が右改正規定の第二号及び第三号に該当するものとして原告を除名する旨の議決を爲した。そこで原告は右議決が違法であるとして木崎村議会を被告とし新潟地方裁判所にその取消を求める訴を提起したところ、同裁判所に於て同年十二月一日(1) 普通地方公共団体の議会の会議規則中に定められた懲罰規定は議員の議場内部に於ける行爲を規律するものと解すべきであつて議場外に於ける議員の行爲に適用すべきではない。(2) 右改正規定をその施行前の原告の行爲に適用したのは憲法第三十九條に定められた刑罰法規不遡及の原則の精神に反するという趣旨の理由で右除名の議決を違法であると認め之を取消す旨の判決を爲し、木崎村議会はこれに対し控訴をなしたが同様の理由で棄却され、更に上告したが却下され、その判決は昭和二十四年五月二十八日確定した。(二)かくして原告は違法な右除名の議決により十一ケ月間議員の資格を奪はれ議長の地位を追われたのであるが、もともと右除名の議決は原告を快しとしない被告等の内数名の者の策動に基くものであつて、他の被告等もその策動に乘ぜられて原告の除名に賛成したのである、しかして結局原告は被告等の故意又は過失により名譽を毀損され且つ議員としての公法上の権利を害されそのため精神上甚大な損害を蒙つたのであるが原被告等はいづれも村内で相当の資産を有し指導的地位にある者であるから、原告の蒙つた右精神上の苦痛を慰藉するため被告等は金二十万円を原告に支拂うのが相当である。しかして本件のように村議会の議員が議会に於て除名の議決をするのは国家賠償法第一條第一項にいう「公権力の行使に当る公務員がその職務を行う」場合とはいえないから、同法の適用はなく從つて公共団体である木崎村に於て損害賠償の責任を負うべきものではないのであるが仮に同法の適用があるとしても、被告等は故意又は重大な過失により右のような原告の権利を侵害し精神上の損害を與えたのであるから、直接原告に対しても不法行爲上の責任を免れ得ないのである。よつて原告は被告等に対し共同不法行爲による損害の賠償として右金員とこれに対する本件訴状送達の後である昭和二十四年十月二十四日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の連帶支拂を求めると述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は、主文と同趣旨の判決を求め、答弁として、原告主張の(一)の事実は認める。(二)の内原被告等がいづれも村内で相当の資産を有し指導的地位にあることは認めるが、そのほかの事実は否認する。仮に本件除名の議決を爲すにつき被告等に故意又は過失があつてこれにより原告の権利を侵害し損害を生ぜしめたとしても村議会に於て除名の議決をするのは国家賠償法第一條第一項にいう「公権力の行使に当る公務員がその職務を行う」場合に当るのであるから、同法により公共団体である木崎村に於て損害賠償の責に任ずべきものであつて、被告等が直接原告に対し不法行爲上の責を負うべきものではないと述べた。<立証省略>

三、理  由

原告主張の(一)の事実は当事者間に爭いがない。

よつて木崎村議会の議員たる被告等に於て本件除名の議決を爲したことが、国家賠償法第一條第一項にいわゆる「公共団体の公権力の行使に当る公務員がその職務を行う」場合に当るかどうかについてまづ判断するに、普通地方公共団体の機関である議会は地方自治法第百三十四條、第百三十五條により同法及び会議規則に違反した議員に対し議決によつて除名の懲罰を科する権限を與えられているのであるが、除名の議決はこれにより直接議員の資格を喪失させる効果を生ずることを目的とする公法上の行爲であつて議員がその議決権を行使することによつて爲されるものであるから、議員がその議決を爲すことはこの関係に於て正に「公権力の行使に当る公務員がその職務を行う」場合に当るものというべきである。從つて被告等が違法な本件除名の議決を爲すにつき故意又は過失があつて原告の権利を侵害し損害を生ぜしめたとすれば、国家賠償法第一條第一項により公共団体である木崎村に於てその損害を賠償する責に任ずべきものである。しかして原告は仮に右木崎村に於て国家賠償法により損害賠償の責任ありとするも被告等に故意又は重大な過失があつたのであるから被告等に於ても直接原告に対して不法行爲上の責任を免れない旨主張するけれども、国家賠償法第一條は、国又は公共団体の公権力を行使する公務員がいやしくもその職務の執行と認め得べき行爲を爲すについて故意又は過失により違法に他人に損害を加えた場合は国又は公共団体に於て損害賠償の責に任じ、公務員個人はただ故意又は重大な過失があつたとき国又は公共団体から求償せられるに過ぎないのであつて、直接その他人に対し損害賠償の責を負わない趣旨を規定したものと解すべきであつて、その趣旨は同法附則に於て從來公証人、戸籍吏、登記官吏、執行吏等の賠償責任を定めていた各法條を削除したことからも窺い得るのである。從つて結局本件に於ては違法な除名の決議をなした被告等に故意又は重大な過失があつて原告に精神上の損害を與えたとしても被告等個人は直接原告に対し損害賠償の責を負わないものというべきである。

よつてそのほかの点について判断をまつまでもなく原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 山村仁 松永信和 小林信次)

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