新潟地方裁判所 昭和29年(レ)4号 判決
控訴人は、「原判決を取消す。控訴人が、被控訴人に対し別紙目録<省略>記載の土地六十九坪一合五勺につき、堅固の建物以外の建物所有の目的で、賃料を地代家賃統制令第六条により認可を受けた額によるものとし期間を昭和二十五年二月十六日から三十年、とする賃借権を有することを確認する。訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。
当事者双方が、事実上の主張として述べたところは、
一、控訴人において、
(一) 被控訴人は、昭和二十五年二月十六日新潟市沼垂上町三百七十二番地及び三百七十三番地に跨る木造瓦葺平家建浴場兼居宅一棟建坪四十六坪三合三勺(以下、本件建物という。)を財産税の物納として国に譲渡したのであるが、その際、別紙目録記載の土地六十九坪一合五勺(以下、本件土地という)については、被控訴人と国との間において堅固の建物以外の建物所有の目的で、期間を右同日から三十年とし、賃料を地代家賃統制令第六条により認可を受けた額によるものと定めて国のため賃借権を設定する旨の暗黙の合意がなされた。
(二) そして控訴人は、昭和二十五年四月二十一日国から本件建物の払下を受けるにあたり、国が被控訴人に対し有する本件土地の賃借権を国から譲受けたのであるが、被控訴人は、先に国との間において、本件土地につき賃借権設定の合意をなすにあたり、後日国が右賃借権を他に譲渡するについて、あらかじめ暗黙の承諾を与えたのである。
と述べ、
二、被控訴人において、
控訴人の右主張事実中、(一)のうち、被控訴人がその主張の日に本件建物を財産税の物納として国に譲渡したこと本件建物が堅固の建物以外の建物であることは認めるが、その余は否認する。(二)のうち、控訴人がその主張の日に国から本件建物の払下を受けたことは認めるが、その余は否認する。
と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、こゝにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
被控訴人が、本件土地及び建物を所有し、その建物を控訴人に賃貸していたが、昭和二十五年二月十六日財産税の物納としてその建物を国に譲渡し、所有権移転登記を経由したこと、本件土地が、右建物の使用上敷地として必要な範囲の土地であること、及び控訴人が、昭和二十五年四月二十一日国から右建物の払下を受け同年九月二十一日所有権取得登記を経由したことは、当事者間に争のないところである。
ところで、控訴人は、昭和二十五年二月十六日前記物納の際、本件土地につき被控訴人と国との間において、堅固の建物以外の建物所有の目的で、期間を同日から三十年とし、賃料を地代家賃統制令第六条により認可を受けた額によるものと定めて、国のため賃借権を設定する旨の暗黙の合意がなされたと主張するので審究するに、成立に争のない甲第六、第八、第九号証中、この点に関する各記載内容は不明瞭であつて、これにより控訴人の右主張事実を認めるに由なく、その他にこれを肯認するに足る証拠はなにもない。
もつとも、一般に土地及び地上建物が同一所有者に属する場合に、建物のみが他に譲渡され、そのため建物と土地の所有者を異にするに至つた場合は、その建物が取毀建物として譲渡されたような特別の場合を除き、たとえ両者間に明示の合意はなくとも、建物所有のため必要な範囲の敷地について、通常賃貸借等の権利関係が設定されたものと認めるのが相当であつて、財産税等の物納として前記のように地上の建物のみが国に譲渡された場合においても、特別の事情のない限り、その敷地について土地所有者と国との間において通常なんらかの権利関係が設定されたものと認めるべきは当然であるけれども、かゝる物納の場合において認められる権利関係が、通常賃貸借であると解することは相当でない。すなわち、国が、納税者に対し物納を認めているのは、専ら納税者の便宜のためであつて、しかもその物納された財産は、国において自ら使用する等特殊の場合を除き、これをすみやかに処分して金銭に換価することを原則としているのであるから、かゝる物納の性質から考えると、同一所有者に属する土地及び地上の建物のうち建物のみが物納によつて国に譲渡された場合には、たとえその建物は国から更に他に処分されることが予想されておつても、その敷地については明示の合意のない限り、通常の場合は、その建物が処分される迄の間国と土地所有者との間においてせいぜい使用貸借の権利関係が設定されたに過ぎないものと解するのほかはないのであつて、かゝる場合敷地について通常国が賃料債務を負担し、賃貸借の権利関係を設定することの黙示の合意が両者間になされたものと解することは相当でないし、又実情にも副わないのである。(かゝる建物の物納の場合に、その敷地について国とその物納者との間に賃貸借の権利関係が設定される実例の殆んどないことは、成立に争のない乙第一号証により窺われる。)そして、本件の場合において、特に物納の際敷地について賃貸借の権利関係が設定されたものと解すべき別段の事由の存することを認めるに足る資料はなにもない。もつとも、以上のように解するときは、国からかゝる物納建物の払下を受けた第三者の保護に欠けるおそれがなくもないけれども、このような物納建物の払下を受ける場合には、その敷地所有者とあらかじめ折衝することなどによつて、通常建物所有のため必要な範囲の敷地について権利関係を定めるべき機会は十分に存するのであつて、かくすることによつて、その敷地につき新たに賃貸借等適当な権利関係を定めるのほかはないのである。
従つて、結局被控訴人と国との間において、前記物納の際本件土地につき黙示の合意によつて賃借権が設定された旨の控訴人の前記主張は採用できない。
しからば、本件土地について国と被控訴人との間に控訴人主張のような賃借権が設定されたことを前提とする控訴人の本訴請求は、所詮失当であつて排斥を免れない。
よつて、これと同趣旨に出でた原判決を相当と認め、民事訴訟法第三百八十四条により本件控訴を棄却すべきものとし、控訴費用につき同法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山村仁 緒方節郎 寺沢栄)