大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 昭和43年(わ)291号 判決 1970年5月27日

本籍

韓国全羅南道霊岩郡新北面葛谷里

住居

新潟市弁天町二丁目一〇番地

遊技場(パチンコ店)経営

新井萬圭こと

朴萬圭

一九二四年一月一四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官斎藤正吉出席のうえ審理をして次のとおり判決する。

主文

被告人を徴役六月および罰金八〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右徴役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、新潟市弁天町一丁目一八番地に店舗を置き、パチンコ遊技場「新潟会館」を経営しているものであるが、所得税を免れようと企て、

第一、昭和四〇年分の実際の所得金額は六、八七七万九、六六五円で、これに対する正規の所得税額は四、二一七万三、二〇〇円であったにもかかわらず、売上金額の一部を除外して、正規の帳簿に計上することなく簿外預金に留保するなどの不正の行為により所得の一部を秘匿したうえ、昭和四一年三月一五日、新潟税務署において所轄新潟税務署長に対し、昭和四〇年分の所得金額は三八五万五、九八五円で、これに対する所得税額は一〇二万五、四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって正規の所得税額と右確定申告した所得税額との差額四、一一四万七、八〇〇円を免れ、

第二、昭和四一年分の実際の所得金額は八、五五二万一、〇六九円で、これに対する正規の所得税額は五、四六一万九、〇〇〇円であったにもかかわらず、前同様の不正の行為により所得の一部を秘匿したうえ、昭和四二年三月一五日、新潟税務署において所轄新潟税務署長に対し、昭和四一年分の所得金額は一、四二〇万〇、二六六円で、これに対する所得税額は六一三万四、三四〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって正規の所得税額と右確定申告した所得税額との差額四、八四八万四、六六〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、被告人に対する大蔵事務官の各質問てん末書

一、被告人作成の各答申書

一、被告人作成の提出書と題する書面

一、大蔵事務官作成の証明書二通(昭和四〇年分および昭和四一年分の各所得税の確定申告書の写添付)

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書二通

一、国税査察官作成の修正損益計算書二通

一、南凡夫、武藤信子の検察官に対する各供述調書

一、南凡夫、武藤信子、田辺敏雄に対する大蔵事務官の各質問てん末書

一、田辺孝太郎、山沢昭三、細貝光郎、戸川正弘(二通)作成の各供述書

一、勝山俊夫、小宮庄平、沢山勝次、大久保明、本多ユリ、大築保夫、丸山源一、横山辰雄、中川次平、小林康三(二通)、箱杉農機具店、石崎仲三、田辺孝太郎、石山順二、大野省吾、石田房雄、松沢庄一、金城治行、中村三郎、小西キミ、中山貢、高橋欣之助、井上基順、川島勲、南三枝、山口巌、織原力一、当山昭二、沢江敏夫、甲斐静江、堀川兵三郎、小池与吉作成の各答申書

一、広川小三郎、小林久一、小池正七作成の各証明書

一、大蔵事務官作成の証明書(昭和四〇年分所得税青色申告決算書の写添付)

一、大蔵事務官作成の証明書(昭和三九年分の所得税の損失申告書の写添付)

一、大蔵事務官作成の証明書(昭和四一年分所得税青色申告決算書の写添付)

一、押収してある

(1)  昭和四〇年度総勘定元帳一綴(昭和四四年押第四八号の一)、

(2)  昭和四一年度総勘定元帳一綴(同号の二)、

(3)  決算報告書綴一綴(同号の三)、

(4)  新潟会館と題する売上帳(大学ノート)一冊(同号の四)、

(5)  売上関係メモ一綴(同号の五)、

(6)  小手帳三冊(同号の六)、

(7)  統計表五綴(同号の七)、

(8)  昭和四〇年七月~一二月領収証綴一綴(同号の八)、

(9)  昭和四一年一月~五月領収証綴一綴(同号の九)、

(10)  昭和四〇年九月~一二月請求書綴一綴(同号の一〇)、

(11)  昭和四一年八月~一二月請求書綴一綴(同号の一一)、

(12)  雑書類一綴(同号の一二)、

(13)  補助簿一冊(同号の一三)、

(14)  慰安旅行関係領収証一綴(同号の一四)、

(15)  賞与計算資料一綴(同号の一五)、

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示第一および第二の所為はいずれも所得税法二三八条一項、二項に該当するが、いずれも徴役刑と罰金刑とを併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、徴役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重いと認める判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、罰金刑については同法四八条二項によりその罰金の合算額の範囲内で処断すべきところ、情状について考えて見るのに、本件は昭和四〇年分および同四一年分の両年にわたり簿外預金の蓄積などの不正な手段により所得を秘匿して所得税を逋脱したものであるが、その逋脱金額は合計八、九六三万円余りという稀に見る巨額に上るのみならずその脱税率も甚だ高率であることに徴すると犯情はまことに重いものがあるといわなければならない。しかしながら、その反面において被告人は本件の発覚後においては従前の態度を改め、脱税の事実をおおむね卒直に認めると共に、自ら修正申告をして未納の本税を完納すると共に、重加算税等についてもほぼ完納することが予定され、また関係地方税もほぼ完納するなど納税義務を全うすることに努めていること、従前の公の役職を辞任するなど謹慎の意をあらわしていること、これまで前科はなく、またその経歴、生活態度にも別段非難されるべきものがないことなどの事実が認められるのであって、これら被告人に有利な事情もまた十分斟酌されるべきものである。以上の事情その他本件にあらわれた一切の情状を総合して勘案し、被告人を徴役六月および罰金八〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、同法二五条一項によりこの裁判の確定した日から二年間右徴役刑の執行を猶予することとする。

そこで主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺達夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例