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新潟地方裁判所 昭和44年(行ウ)11号 判決 1983年6月28日

新潟市東堀通五番町四四二番地

原告

岡本正治

右訴訟代理人弁護士

坂上富男

新潟市営所通二番町六九二番地五

被告

新潟税務署長

岩崎雅彦

右指定代理人

榎本恒男

石原明

村上憲雄

南昇

外川利徳

島田義夫

久川要造

塩井幸雄

高林進

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和四三年三月一二日付でした原告の昭和三七年分所得税についての決定並びに無申告加算税及び重加算税の賦課決定を取り消す。

2  被告が原告に対し、昭和四三年七月八日付でした原告の昭和三八年分、同三九年分の所得税についての決定及び無申告加算税、重加算税の賦課決定、並びに原告の昭和四〇年分の所得税についての更正及び無申告加算税、重加算税の賦課決定、昭和四一年分の所得税についての更正及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件課税の経緯等

(一) 原告は、株式会社松里の役員として給与所得を得ているものであるが、昭和三七年分、昭和三八年分、昭和三九年分の所得税について確定申告をしなかったところ、これに対して被告のした決定並びに無申告加算税及び重加算税の賦課決定、原告のした異議申立及び審査請求並びにこれに対する異議決定及び審査裁決の経緯は、別表一(一)ないし(三)に記載のとおりである。

(二) 原告が被告に対し、昭和四〇年分の所得税についてした確定申告、これに対して被告のした更正並びに無申告加算税及び重加算税の賦課決定、原告のした異議申立及び審査請求並びにこれに対する異議決定及び審査裁決の経緯は、別表一(四)に記載のとおりである。

(三) 原告が被告に対して、昭和四一年分の所得税についてした確定申告、これに対して被告のした更正及び過少申告加算税の賦課決定、原告のした異議申立及び審査請求並びにこれに対する異議決定及び審査裁決の経緯は、別表一(五)に記載のとおりである。

2  本件課税処分の違法性

(一) 原告は、昭和三七年分ないし昭和四一年分の所得としては、別表二(一)ないし(五)の「原告主張額」に記載のとおり給与所得のみ、ないしは給与所得のほか配当所得、不動産所得を得ていたにすぎず雑所得を得ていなかったにもかかわらず、被告は別表二(一)ないし(五)の「被告決定額」に記載のとおり右各年分につき雑所得があるとして原告の総所得額を過大に認定したもので違法であり、これに基づく本件課税処分はいずれも違法である。

(二) また、昭和三七年分ないし昭和四〇年分の重加算税の賦課決定は、所得税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実を原告が仮装又は隠ぺいした事実がないのになされたもので違法である。

よって、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実はいずれも認める。

2  同2の事実のうち、原告が昭和三七年分ないし昭和四一年分の所得として別表二(一)ないし(五)の「原告主張額」に記載の給与所得、配当所得、不動産所得を得ていたことは認め、その余の事実及び主張は争う。

三  被告の主張

1  推計の必要性

(一) 原告は、昭和三九年中に別紙第一物件目録記載(一)の建物(以下「松里ビル」という。)を建築したうえ、昭和四二年九月から昭和四四年にかけて新潟市西堀通六番町に建造費用三〇〇〇万円ないしは二億円ともいわれる「新潟山弘願寺」の建物と地上七〇尺余という弘法大師像を建設・建立し、その資金を原告が支出した。しかしながら、原告は、昭和三七年分ないし昭和三九年分についてその所得税の確定申告をしておらず、また昭和四〇年分、昭和四一年分については給与所得、不動産所得、配当所得等僅小な額を申告したにとどまるので、これら所得のみが原告の真の所得とすれば右資金を捻出することは不可能である。そこで被告は、原告が他に所得を得ているものと推定されたので右建造費用の資金源を解明するため税務調査に着手した。

(二) その結果、原告は本件係争年分内において新潟県信用組合本店に多額(最高三五〇〇万円)の無記名定期預金の預入れをしていること、また同組合に原告の通称名である岡本光正名義の普通預金口座に一〇万円以上の大口の預金等をなしており(入金二一回合計八三三万円、出金一〇回合計八七三万円)、さらに富士銀行新潟支店においても岡本光正名義及び原告名義の普通預金口座に一〇万円以上の大口の預金等をしている(入金七回合計一一六一万円余、出金一〇回合計一一六九万円余)ことが判明し、原告に何等かの所得があることが明らかとなった。

そこで、被告が原告に対し、右預金の源泉等につき質問したところ、原告は本件係争年以前から所有していた財産の一部が転換されたものであると主張するのみで、何ら具体的な事情を明らかにしないばかりでなく、被告の再三にわたるその主張を理由付ける合理的資料の提出要求にも全く応じなかった。

(三) 以上のように原告が被告の調査に協力せず、所得金額の具体的内容を明らかにすることを拒否し、合理的資料の提出もなかったので、被告は原告の所得金額を直接資料によって算定することができなかったので、次のとおり原告の資産負債の増減を把握する方法によって原告の所得金額を推計した。

2  推計の方式

被告は、次のとおり原告の資産負債の増減を把握する方法(資産負債増減法)によって原告の所得金額を推計し、その結果を総合的に考察したうえ、原告の雑所得の金額を合理的に認定した。すなわち、いわゆる資産負債増減法は各係争年分における期首(一月一日)と期末(一二月三一日)の資産及び負債を比較し、その純資産の増加金額に、生計費、公租公課等の消費金額を加算し、さらに入金経路の明らよな給料、配当、不動産収入、預金利息等の各収入金額を減算して所得金額を算定する方式であり、その計算式は次のとおりである。

(算式)

{(期末資産-期首資産)-(期末負債-期首負債)}+消費金額-(給料、配当、不動産収入及び預金利息の各収入金額)-所得(雑所得)

3  各係争年分の雑所得の金額

原告の本件各係争年分の雑所得の金額及びその算出根拠は、次のとおりである。

(一) 昭和三七年分

昭和三七年分の原告の雑所得金額は、別表三(一)に記載のとおり純資産増加額に生計費を加算し、給料及び預金利息を減算して算出すると一八八二万〇七三七円となり、被告の決定額は別表二(一)に記載のとおりこの範囲内でなされているものであるから、昭和三七年分の決定は適法である。

(1) 純資産増加額

昭和三七年分の純資産増加額の内訳は、別表四(一)に記載のとおりであり、その各項目の計算根拠は次のとおりである。

(ア) 定期預金

原告は、新潟県信用組合本店に対し、別表五(一)に記載のとおり昭和三七年八月六日に無記名定期預金一五〇〇万円を新規に預入れており、その期末金額は一五〇〇万円であるから、その増加額は一五〇〇万円である。

(イ) 普通預金

原告は、昭和三七年中において別地五(二)に記載のとおり普通預金を有しており、その期首金額は三五万五九二九円であり、期末金額一一二万二二〇二円であるから、その増加額は七六万六二七三円である。

(ウ) 貸付金

原告は、昭和三七年中において株式会社松里に対し貸付金を有しており、その期首金額は八三一万〇七八二円であり、期末金額は七八四万七九八二円であるから、その増加額はマイナス四六万二八〇〇円である。

また、原告は、合資会社中北車体工作所に対し、昭和三七年一〇月二〇日三〇〇万円を約束手形と引換えに貸付け、昭和三八年三月二〇日同社所有の不動産を八六〇万円で買受けてその売買代金の一部と相殺して右貸付金の返済を受けていることから、原告の昭和三七年中における合資会社中北車体工作所に対する貸付金の増加額は三〇〇万円である。

したがって、右貸付金合計の増加額は二五三万七二〇〇円である。

(2) 生計費の支出(加算項目)

原告の昭和三七年における生計費の額は七七万七四五七円と推計した。その計算内容は後記4(一)のとおりである。

仮に原告が一人世帯であったとしても、その生計費の額は五〇万四三三六円であり、その計算内容は後記4(二)のとおりである。

(3) 給料の収入(減算項目・その一)

原告が昭和三七年中に株式会社松里から支給された給料は年額二四万円であり、これから源泉徴収所得税六〇八〇円を控除すると、その額は二三万三九二〇円である。

(4) 預金利息の収入(減算項目・その二)

原告は、新潟県信用組合本店に対する岡本光正名義の普通預金(番号二九二一)の預金利息として昭和三七年二月二一日に七七四八円、同年八月二一日に一万八五二五円を得ているから、同年中の利息収入金額は合計で二万六二七三円である。

(二) 昭和三八年分

昭和三八年分の原告の雑所得額は、別表三(二)に記載のとおり純資産増加額に生計費を加算し、給料、預金利息及び配当金を減算して算出すると一七七四万二五二一円となり、被告の決定額は別表二(二)に記載のとおりこの範囲内でなされているものであるから、昭和三八年分の決定は適法である。

(1) 純資産増加額

昭和三八年分の純資産増加額の内訳は、別表四(二)に記載のとおりであり、その各項目の計算根拠は次のとおりであり、その各項目の計算根拠は次のとおりである。

(ア) 定期預金

原告は、新潟県信用組合本店に対し、別表六(一)に記載のとおり昭和三八年中に無記名定期預金を預入れ、払戻しをしているから、その期首金額の合計は一五〇〇万円であり、期末金額の合計は三〇〇〇万円であるから、その増加額は一五〇〇万円である。

(イ) 普通預金

原告は、昭和三八年中において別表六(二)に記載のとおり岡本光正名義で普通預金を有しており、その期首金額の合計は一一二万二二〇二円であり、期末金額の合計は四三万三四一七円であるから、その増加額はマイナス六八万八七八五円である。

(ウ) 貸付金

原告は、昭和三七年中において株式会社松里に対し貸付金を有しており、その期首金額は七八四万七九八二円であり、期末金額は六六四万九七三二円であるから、その増加額はマイナス一一九万八二五〇円である。

また、原告は前記(一)1(ウ)のとおり合資会社中北車体工作所から昭和三八年三月二〇日貸付金三〇〇万円の返済を受けているから、原告の昭和三八年中における合資会社中北車体工作所に対する貸付金の増加額はマイナス三〇〇万円である。

したがって、右貸付金増加額は合計するとマイナス四一九万八二五〇円である。

(エ) 有価証券

原告は、岡本三郎名義で昭和三八年五月二三日越後証券株式会社を通じ三菱日本重工業株式会社を通じ三菱日本重工業株式会社の株式一万株を九九万四〇〇〇円で取得し、期末まで所有していたから、期末におけるその増加額は九九万四〇〇〇円である。

(オ) 土地建物

原告は、山崎彩から、昭和三八年六月二日、代金六六〇万円で別紙第二物件目録記載の土地建物を買い受け、その代金を別表六(三)に記載のとおり支払った。このうち昭和三八年中に支払った六四〇万円相当の土地建物が期末に増加した。

(2) 生計費の支出(加算項目)

原告の昭和三八年中における生計費の額は八三万六三二八円と推計した。その計算内容は後記4(一)に記載のとおりである。

仮に原告が一人世帯であるとしても、その生計費の額は五四万二五二五円であり、その計算内容は後記4(二)に記載のとおりである。

(3) 給料の収入(減算項目・その一)

原告が昭和三八年中に株式会社松里から支給された給料は年額二四万円であり、これから源泉徴収所得税六〇八〇円を控除すると、その額は二三万三九二〇円である。

(4) 預金利息の収入(減算項目・その二)

原告は、別表六(四)に記載のとおりの預金に係る利息を得ており、昭和三八年中のその合計は三三万八三五二円である。

(5) 配当金の収入(減算項目・その三)

原告は昭和三八年中において三菱日本重工業株式会社の株式一万株の配当金として三万円を得ており、これから源泉徴収所得税一五〇〇円を控除すると二万八五〇〇円となる。

(三) 昭和三九年分

昭和三九年分の原告の雑所得金額は、別表三(三)に記載のとおり純資産増加額に生計費を加算し、給料、預金利息、配当金及び不動産収入を減算して算出すると三五八万八〇九六円となり、被告の決定額は別表二(三)に記載のとおりこの範囲内でなされているものであるから、昭和三九年分の決定は適法である。

(1) 純資産増加額

昭和三九年分の純資産増加額の内訳は、別表四(三)に記載のとおりであり、その各項目の計算根拠は次のとおりである。

(ア) 定期預金

原告は新潟県信用組合本店に対し、別表七(一)に記載のとおり昭和三九年中に無記名定期預金を払戻し、預入れをしており、その期首金額の合計は三〇〇〇万円であり、期末金額の合計も三〇〇〇万円であるから、その増加額はないことになる。

(イ) 普通預金

原告は、昭和三九年中において別表七(二)に記載のとおり普通預金を有しており、その期首金額の合計は四三万三四一七円であり、期末金額の合計は二二万一七三六円であるから、その増加額はマイナス二一万一六八一円である。

(ウ) 貸付金

原告は、昭和三九年中に株式会社松里に対し貸付金を有しており、その期首金額は六六四万九七三二円であり、期末金額は三三四万三二一一円であるから、その増加額はマイナス三三〇万六五二一円である。

(エ) 有価証券

昭和三九年中に有価証券の異動はなく、資産の増減はなかった。

(オ) 土地建物

原告は、別表六(三)に記載のとおり山崎彩から買受けた土地建物の代金六六〇万円のうち、残金二〇万円を昭和三九年一月二八日に支払い、これに見合う土地建物を取得した。

また、原告は昭和三九年に松里ビルを建築し、別表七(三)に記載のとおり昭和三九年中にその建築資金八一四万五〇〇〇円を支払っているから、その合計八三四万五〇〇〇円が昭和三九年中の土地建物の増加額である。

(2) 生計費の支出(加算項目)

原告の昭和三九年における生計費の額は九三万二七六〇円と推計した。その計算内容は後記4(一)に記載のとおりである。

仮に原告が一人世帯であるとしても、その生計費の額は六〇万五〇八一円であり、その計算内容は後記4(二)に記載のとおりである。

(3) 給料の収入(減算項目・その一)

原告が昭和三九年中に株式会社松里から支給された給料は年額二四万円であり、これから源泉徴収所得税四八〇〇円を控除すると、その額は二三万五二〇〇円である。

(4) 預金利息の収入(減算項目・その二)

原告は別表七(四)に記載のとおりの預金に係る利息を得ており、昭和三九年中のその合計は一八〇万七五〇二円である。

(5) 配当金の収入(減算項目・その三)

原告は、その所有する三菱日本重工業株式会社の株式配当金(税引手取額)として昭和三九年二月一七日、同年六月二日、同年一二月三一日の三回にわたり各二万八五〇〇円を得ており、昭和三九年中のその合計は八万五五〇〇円である。

(6) 不動産収入(減算項目・その四)

原告は松里ビル賃貸の家賃として年六万円を得ており、昭和三九年中における不動産収入は四万三二六〇円である。

(四) 昭和四〇年分

昭和四〇年分の原告の雑所得金額は、別表三(四)に記載のとおり純資産増加額に生計費を加算し、給料、預金利息、配当金及び不動産収入を減算して算出すると一三六三万九一八八円となり、被告の決定額は別表二(四)に記載のとおりこの範囲内でなされているものであるから、昭和四〇年分の決定は適法である。

(1) 純資産増加額

昭和四〇年分の純資産増加額の内訳は、別表四(四)に記載のとおりであり、その各項目の計算根拠は次のとおりである。

(ア) 定期預金

原告は、新潟県信用組合本店に対し、別表八(一)に記載のとおり昭和四〇年中に無記名定期預金を払戻し、預入れをしており、その期首金額の合計は三〇〇〇万円であり、期末金額の合計は三五〇〇万円であるから、その増加額は五〇〇万円である。

(イ) 普通預金

原告は、昭和四〇年中において別表八(二)に記載のとおり普通預金を有しており、その期首金額の合計額は二二万一七三六円であり、期末金額の合計は二七万一九一〇円であるから、その増加額は五万〇一七四円である。

(ウ) 貸付金

原告は、昭和四〇年中に株式会社松里に対し貸付金を有しており、その期首金額は三三四万三二一一円であり、期末金額は三九一万〇九二六円であるから、その増加額は五六万七七一五円である。

(エ) 有価証券

昭和四〇年中には有価証券の異動はなく資産の増減はなかった。

(オ) 土地建物

原告は倉田平八郎から、昭和四〇年二月一〇日別紙第一物件目録記載(二)の土地を買受け、その代金一四〇万円をを支払い、これに見合う土地を取得した。

また、原告は昭和四〇年中に別表八(三)に記載のとおり松里ビルの建築資金八五五万二八二六円を支払っているから、その合計額九九五万二八二六円が昭和四〇年中の土地建物の増加額である。

(2) 生計費の支出(加算項目)

原告の昭和四〇年における生計費の額は九五万二四八八円と推計した。その計算内容は後記4(一)に記載のとおりである。

仮に、原告が一人世帯であるとしても、その生計費は六一万七八七八円であり、その計算内容は後記4(二)に記載のとおりである。

(3) 給料の収入(減算項目・その一)

原告が昭和四〇年中に株式会社松里から支給された給料は年額三五万円であり、これから源泉徴収所得税額一万〇八〇〇円を控除すると、その額は三三万九二〇〇円である。

(4) 預金利息の収入(減算項目・その二)

原告は、別表八(四)に記載のとおり預金に係る利息を得ており、昭和四〇年中のその合計は一五六万八八一五円である。

(5) 配当金の収入(減算項目・その三)

原告は、その所有する三菱重工業株式会社の株式配当金(税引手取額)として昭和四〇年六月一日に二万七〇〇〇円、同年一一月二九日に一万八〇〇〇円を得ており、昭和四〇年中のその合計は四万五〇〇〇円である。

(6) 不動産収入(減算項目・その四)

原告は、株式会社松里に対し原告所有の松里ビルを賃貸し、その家賃として昭和四〇年中に一一〇万円を得ており、これから松里ビルの掃除婦料一六万九〇〇〇円を控除した九三万一〇〇〇円の現金収入を得ている。

(五) 昭和四一年分

昭和四一年分の原告の雑所得金額は、別表三(五)に記載のとおり純資産増加額に生計費、公租公課を加算し、給料、預金利息、配当金及び不動産収入を減算して算出すると六五四万四三三八円となり、被告の決定額は別表二(五)に記載のとおりこの範囲内でなされているものであるから、昭和四一年分の決定は適法である。

(1) 純資産増加額

昭和四一年分の純資産増加額の内訳は、別表四(五)に記載のとおりであり、その各項目の計算根拠は次のとおりである。

(ア) 定期預金

原告は、新潟相互銀行本店に対し、別表九(一)に記載のとおり昭和四一年中に定期預金を新規に預入れており、その期首金額はゼロであったが、期末金額は八〇万円である。

なお、前年から繰越された新潟県信用組合本店の無記名定期預金は、昭和四一年において、別表九(二)に記載のとおり書替えられたが、新たな増加はない。

したがって原告の昭和四一年中の定期預金の増加額は八〇万円である。

(イ) 普通預金

原告は、昭和四一年中において別表九(三)に記載のとおり普通預金を有しており、その期首金額の合計は二七万一九一〇円であり、期末金額の合計は一三二万五九一一円であるから、その増加額は一〇五万四〇〇一円である。

(ウ) 当座預金

原告は、昭和四一年一二月五日岡本光正名義で富士銀行新潟支店との間で新規に当座預金取引を開始し、その期末金額は一八万一〇〇〇円であるから、その増加額は一八万一〇〇〇円である。

(エ) 貸付金

原告は、昭和四一年中において株式会社松里に対し貸付金を有しており、その期首金額は三九一万〇九二六円であり、その期末金額は五五六万七三八一円であるから、その増加額は一六五万六四五五円である。

(オ) 有価証券

昭和四一年中には有価証券の異動はなく、資産の増減はなかった。

(カ) 土地建物

原告が昭和四一年中に納付した不動産取得税六二万四四二〇円は、原告の松里ビルの新築に伴って課税されたものであり、同金額が、昭和四一年中の土地建物の増加額である。

(キ) 美術骨とう品

原告は黒川美術刀剣店から、昭和四一年七月二一日段縅鎧を三〇万円、金象嵌宗近を一〇万円、無銘刀を一〇万円で買入れ、また同月二三日鎧を三〇万、太刀を一五万円、花瓶を一〇〇万円で買入れているから、右代金額合計一〇五万円、昭和四一年中の美術骨とう品の増加額である。

(ウ) 受取手形

原告は、昭和四一年中にバッテングセンターの施設を建設し、同年中に同施設を日邦壁材株式会社に代金四五〇万円で譲渡したが、右代金のうち手形で受け取った三〇〇万円は、同年中に支払期日未到来のため未収となっているから、昭和四一年中の受取手形の増加額は三〇〇〇万円である。

(2) 生計費の支出(加算項目・その一)

原告の昭和四一年における生計費の額は一〇七万三三六四円と推計した。その計算内容は後記4(一)に記載のとおりである。

仮に原告が一人世帯であるとしても、その生計費の額は六九万六二九一円であり、その計算内容は後記4(二)に記載のとおりである。

(3) 公租公課の支払(加算項目・その二)

原告が昭和四一年六月二日被告に提出した昭和四〇年分の所得税の確定申告書に基づく申告納税額は一一万七二〇〇円である。

(4) 給料の収入(減算項目・その一)

原告が昭和四一年中に株式会社松里から支給された給料は年額三六万円であり、これから源泉徴収所得税額一万〇三七〇円を控除すると、その額は三四万九六三〇円である。

(5) 預金利息の収入(減算項目・その二)

原告は、別表九(四)に記載のとおり預金に係る利息を得ており、昭和四一年中のその合計は一七七万〇七〇一円である。

(6) 配当金の収入(減算項目・その三)

原告は、その所有する三菱重工業株式会社の株式配当金(税引手取額)として昭和四一年五月三〇日、同年一二月一日の二回にわたり各一万八〇〇〇円を得ており、昭和四一年中のその合計は三万六〇〇〇円である。

(7) 不動産収入(減算項目・その四)

原告は、株式会社松里に対し松里ビルを賃貸し、その家賃として昭和四一年中に一二〇万円を得ており、これから必要経費の額三四万四二二九円(原告の昭和四一年分確定申告における必要経費の額五八万三七九二円から減価償却費相当額二三万九五六三円を差引いた現金支出経費の額)を控除した八五万五七七一円の不動産収入を得ている。

生計費の算定根拠

(一) 四人世帯

原告は、本件係争年分においては四人世帯であり、原告とその家計を同じくする家族は別表一〇に記載のとおりである。そして、原告とその同居家族の本件係争年分における生計費は別表一一に記載のとおりであり、その計算内容は内閣総理府統計局編による家計調査年報によって次のとおり推計した。

(昭和三八年分ないし昭和四一年分)

原告とその家族の年間収入金額が二〇〇万円を超えるから、生計費の推計にあたり家計調査年報の収入階級等による消費支出を基礎とし、これを新潟市に換算することが最も合理的な算定と認め、まず一世帯あたり年平均一ケ月間の消費支出金額が人口五万人以上の都市に対する新潟市の割合を、別表一二に記載のとおりもとめた。

次に、新潟市の収入階級別消費支出の統計資料が作成されていないため、「人口五万人以上の年間収入階級、住居の所有関係別一世帯あたり平均一ケ月の消費支出金額」を新潟市の消費支出に換算すると、別表一三に記載のとおりである。

(昭和三七年分)

ところで、内閣総理府統計局ではない、昭和三七年分については、「人口五万以上の年間収入階級、住居の所有関係別一世帯あたり平均一ケ月の消費支出金額」につき統計資料の作成がなされていないため、昭和三八年分の消費支出金額を基準として、「中分類別消費者物価指数(昭和四〇年=一〇〇)、人口五万以上の都市」によって、別表一四に記載のとおり推計した。

(二) 一人世帯

仮に、原告が一人世帯であるとしても、その生計費は別表一五に記載のとおり四人世帯の生計費に換算係数六四・八七パーセントを乗じた金額である。その換算係数の算出根拠は次のとおりである。

世帯人員一人あたりの消費支出が世帯人員数の増減によって変動することの換算は、総理府統計局編の家計調査年報に基づき、次の算式(回帰直線)により算定できる。

支出(Y)=a×世帯人員数(X)+b

そして、四人世帯を標準世帯とする全国の昭和三八年、三九年、四〇年の平均によれば、回帰直線係数は

a=11.71 b=53.16

であり、一人世帯における世帯人員数(X)は「1」であるから、これを右算式にあてはめれば、換算係数は次のとおり六四・八七となる。

(a×世帯人員数(X)+b=換算係数)

11.71×1+53.16=64.87

5  加算税賦課決定の適法性

(一) 無申告加算税賦課決定

原告は、前記のとおり昭和三七年ないし昭和四〇年分の所得税につき多額の所得があったのに、法定の申告期間内にそれぞれ確定申告をしなかったものであるから、右各係争年分の無申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

(二) 重加算税賦課決定

原告は、前記のとおり昭和三七年ないし昭和四〇年分の所得税につき申告すべき多額の所得があったのに、新潟県信用組合本店に対する川原等の仮名の印鑑を使用した無記名定期預金を開設し、所得税の課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実の一聞を隠ぺい仮装して昭和三七年ないし昭和三九年分については申告をせず、昭和四〇年分については期限後申告をしたものであるから、右各係争年分の重加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

(三) 過少申告加算税賦課決定

原告は、前記のとおり昭和四一年分の所得税につき多額の所得があったのに、その所得金額を過少に確定申告したものであるから、昭和四一年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1について

(一) (一)のうち、原告が松里ビル、新潟山弘願寺、弘法大師像の建設、建立に関係したことは認め、その余は争う。

(二) (二)のうち、原告が具体的事情を明らかにせず合理的資料を提出しなかったことは争い、その余の事実は認める。

(三) (三)は争う。

2  同2は争う。

3  同3について

(一) (一)のうち、(3)は認め、その余は争う。

(二) (二)のうち、(1)(オ)、(3)及び(5)は認め、その余は争う。

(三) (三)のうち、(1)(オ)、(3)及び(6)は認め、その余は争う。

(四) (四)のうち、(1)(オ)及び(3)は認め、その余は争う。

(五) (五)のうち、(1)(オ)、(1)(キ)、(1)(ク)及び(4)は認め、その余は争う。

4  同4について

(一) (一)のうち、原告とその家計を同じくする家族の生年月日のみ認め、その余はすべて争う。

(二) (二)は争う。

5  同5はすべて争う。新潟県信用組合における無記名定期預金や他人名義の預金は、右組合の職員が組合にある三文印を利用して勝手に預金名義人としたもので、原告が預金の仮装隠ぺい工作をしたものではない。

五  被告の主張に対する原告の反論

1  そもそも推計課税が適法として是認されるためにはその推計方法が合理的でなければならない。しかるに被告は本件につき推計方式として資産負債増減法を採用しているが、本件係争年分について原告がいかなる手段方法をとって資産の増加がもたらされたかを推計する資料はまったくない。すなわち、被告は最終的には貸金利息収入が資産増加の原因であると主張するが、原告の貸付は合資会社中北車体工作所、株式会社松里、新成建設株式会社への貸金以外には明らかでなく、貸金利息収入をもって資産増加原因として推計をなすのは推計基礎事実が不足であり、推計方式の合理性に欠ける。

2  本件係争年分における原告の純資産の増加は、次のとおり原告が平田良一に対して貸付けた金員の返済によるものである。すなわち、

(一)(1) 原告は平田良一に対し次表のとおり金員を貸付けた。

<省略>

(2) 原告は平田良一から次表のとおり右貸付金の返済を受けた。

<省略>

(二) 被告主張の本件係争年分の資産増減に、右貸付金返済の点を加味すると、各年分の雑所得金額は別表一六に記載のとおりとなるから、被告は原告の雑所得、したがって総所得額を過大に認定したことは明らかである。

(三) 右貸付及びその返済の経緯は次のとおりである。

原告は、戦前専らバクチ等の遊興をしていたが、昭和二二年平岡弘観と知り合い結婚した。平岡弘観は当時酒場、キャバレー、ストリップ等を原告とともに経営し、きわめて多額な蓄財をなす一方で、原告も昭和三二年までなお博徒をして生活をし、一晩の賭博開張で一〇〇万円の寺銭を得るような状態であり、自宅には大金庫三個、茶箱三個に札束を入れて居く有様であった。そこで原告は、昭和二九年ころには相互銀行の設立を準備したり、また西蒲原の小学校や神社、仏閣に莫大な寄付等をなしていたほどである。

平田良一は、戦前から原告と博徒仲間であったが、昭和三二年ころ北海道から新潟市に帰り、原告の自宅前に居を構えて原告と再び親交を深めるとともに翌三三年ころから政治運動を始めた。そしてその後、平田良一は有力政治家の知遇を得て、春秋会を中心として政界の裏方の実力者となり、昭和三五年一一月二〇日の衆議院総選挙のため資金を必要としていたため、原告は前記のとおり昭和三五年七月に八〇〇万円、同年一〇月に二九〇〇円を同人に貸付けたものである。また、平田良一は首相公選運動に賛同し、昭和三六年ころ、この運動に財政的援助を行っていたが、そのためにパンフレット郵送や運動員の経費等莫大な資金が必要であったので、原告は前記のとおり昭和三六年五月に六〇〇万円、同年七月に一〇〇〇万円、同年九月に一〇〇〇万円を同人に貸付けたものである。そして平田良一は昭和三七年ないし同四〇年ころまで権勢をほこり資金的に余裕も生じていたので、前記のとおり原告に対して貸付金の返済をなしたものである。

六  原告の反論に対する被告の認否

1  原告の反論1は争う。

2  同2について

(一)は否認する。(二)は争う。(三)は知らない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし三(いずれも人物の写真である。)、第六号証の一ないし六、第七号証の一ないし四七、第八号の一ないし四、第九号証の一ないし三(いずれも人物の写真である。)、第一〇ないし第一七号証、第一八号証の一ないし四、第一九、第二〇号証、第二一ないし第二四号証(いずれも写)、第二五号証の一、二、第二六、第二七号証、第二八号証(昭和五六年一一月当時の西蒲原郡巻町漆山小学校の廻旋塔の写真である。)、第二九号証(昭和五六年一一月当時の西蒲原郡中之口村打越神社の鳥居の写真である。)第三〇号証(昭和五六年一一月当時の西蒲原郡中之口村大字打越所在佛照寺の無縁佛の墓の写真である。)、第三一号証(昭和三〇年六月当時の西蒲原郡巻町字漆山における人物の集合写真の写である。)、第三二、第三三号証

2  証人平田良一、同今田信彦、同幸田芳彦、同竹石由郎、同松浦栄松、同鶴木秀夫、同柄沢武、同野沢健吉、原告本人

3  乙第一、第二号証の各一ないし四、第三、第四号証の各一ないし五、第四〇ないし第五〇号証、第五八号証、第六〇号証、第六七 いし第七〇号証、第七一号証の一、二、第七六号証の成立は認める。その余の乙号各証の成立は(第七七号証の一、二、第七八、第七九号証については撮影年月日、撮影日とも)知らない。

二  被告

1  乙第一、第二号証の各一ないし四、第三、第四号証の各一ないし五、第五、第六号証の各一、二、第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇ないし第一二号証の各一、二、第一三号証の一ないし三、第一四ないし第二四号証の各一、二、第二五ないし第二九号証、第三〇号証の一ないし六、第三一、第三二号証、第三三、第三四号証の各一、二、第三五ないし第三八号証。第三九号証の一、二、第四〇ないし第四四号証。第四五号証の一ないし四、第四六号証の一、二、第四七ないし第五三号証、第五四号証の一ないし三、第五五号証。第五六号証の一ないし六、第五七ないし第七〇号証。第七一号証の一、二、第七二ないし第七六号証、第七七号証(昭和四五年二月三日撮影の払戻請求書の写真である。)、第七八号証(昭和四五年二月三日撮影の野沢健吉名義の書簡の写真である。)、第七八号証(昭和四五年二月三日撮影の払戻請求書の写真である。)、第七九号証(昭和四五年二月三日撮影の収納伝票の写真である。)、第八〇号証

2  証人斉藤久蔵。同野崎俊夫。同渡辺久雄。同阿島丈夫、同古寺武、同佐藤優、同中山猛夫、同栗原貞雄

3  甲第二号証、第四号証、第八号証の三、四、第二一ないし第二四号証、第三二号証の成立は(第二一ないし第二四号証については原本の存在及びその成立とも)認める。その余の甲号各証の成立は(第二八ないし第三〇号証については撮影年月日、撮影者とも、第三一号証については撮影年月日、撮影者、原本の存在及びその成立とも)知らない。

理由

一  請求原因1の本件課税の経緯等及び同2のうち、原告が別表二(一)ないし(五)の「原告主張額」に記載のとおり本件係争年中に給与所得、配当所得、不動産所得を得ていたことについては、当事者間に争いがないので本件訴訟における主たる争点は、各係争年分における原告の雑所得の存否である。

そこで、以下において原告の雑所得について検討する。

二  被告の主張1の推計の必要性及び同2の推計方法の合理性について

1  原告が松里ビル、新潟山弘願寺の建物、弘法大師像の建設・建立に関係したこと、原告は本件係争年分において新潟県信用組合本店に多額(最高三五〇〇万円)の無記名定期預金を預入れ、また同組合に原告の通称名である岡本光正名義の普通預金口座に一〇万円以上の大口の預金等をなしており(入金二一回合計八三三万円、出金一〇回合計八七三万円)、さらに富士銀行新潟支店においても岡本光正名義及び原告名義の普通預金口座に一〇万円以上の大口の預金等をしている(入金七回合計一六一万円余、出金一〇回合計一一六九万円余)ことが判明し、原告に何等かの所得があることが明らかとなったこと、そこで被告が原告に対し右預金の源泉等について質問したところ、原告は本件係争年分以前から所有していた財産の一部が転換されたものであると主張したことはいずれも当事者間に争いがない。

また、証人斉藤久蔵の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、昭和三九年ころに建築された松里ビルの建築費用は二〇〇〇万円弱であり、それを原告が支出したこと、昭和四二年九月から昭和四四年ころまでにかけて建られた新潟山弘願寺の建物及び弘法大師像の建造費用は当時一億円以上といわれており、原告本人の供述によれば三五〇〇万円であるというが、その費用はほとんど原告が支出していたこと、原告は別表一(一)ないし(五)に記載のとおり昭和三七年分ないし昭和三九年分については所得税の確定申告をせず、昭和四〇年分、昭和四一年分については給与所得、不動産所得、配当所得等のわずかな額の申告しかしていないこと、そこで被告は右申告所得等のみでは右建造費用の捻出は不可能であり、原告が他に所得を得ているものと思料し、右建造費用の資金源を解明するために税務調査を開始したこと、原告は被告の税務署員と面接し質問を受けた際に、新潟県信用組合本店における無記名定期預金や同組合本店及び富士銀行新潟支店における普通預金の源泉について具体的な事情の説明をなさず、また原告の主張を理由付ける帳簿書類その他の合理的資料の提出にも応じなかったこと、を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実と前記争いのない事実を総合すれば、原告は本件係争年中に多額の所得を得ていたものと思料されるのに、それについての具体的合理的な説明や資料提出をしなかったのであるから、被告が課税負担公平の観点から、原告の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は事業の規模等の間接的な資料を用いて原告の所得金額又は損失の金額を推計して課税することも許されるもと解するのが相当である。

2  ところで、被告が本訴において主張する推計方法は、各係争年分における期首(一月一日)と期末(一二月三一日)の資産及び負債を比較し、その純資産の増加金額に、当該各年中の生計費、公租公課等の消費金額を加算し、さらに入金経路の明らかな給料、配当、不動産収入、預金利息等の各収入金額を減算して雑所得金額を算定する方法であって、いわゆる資産負債増減法といわれているものである。

右方法は間接事実から所得を推計する方法として一般に承認された一つの方法であって、本件においても他の合理的推計方式が存するとは認められないから資産負債増減法による推計は妥当なものとしてその合理性を認めることができる。

なお、原告は、資産増加の原因についての被告の説明が合理的でないから推計課税の合理性は認められない旨を主張するが、推計方法の合理性は、推計の基礎となる事実、すなわち資産負債増減法では各資産、負債の期首及び期末の金額について客観的合理的資料に基づくことを要するが、資産増加の原因については被告が明らかにしなければ資産負債増減法による推計が許されないものでもないと解するのが相当である。

三  被告の主張3の本件各係争年分の雑所得金額について

そこで、被告主張の本件各係争年分の資産負債増減計算の算定根拠について以下検討する。

(昭和三七年分)

1  定期預金

証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証の一、二、証人斉藤久蔵の証言により真正に成立したものと認められる乙第三一号証、第五四号証の二、証人渡辺久雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第五一号証、証人斉藤久蔵、同阿島丈夫、同野沢健吉の各証言を総合すれば、原告は、新潟県信用組合本店に対し、別表五(一)に記載のとおり昭和三七年八月六日に「川原」なる印鑑を使用して無記名定期預金として一五〇〇万円を預け入れたこと、そして昭和三八年五月三一日に右預金を中途解約しているので、昭和三七年期末における原告の定期預金の額は一五〇〇万円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三七年中における原告の定期預金の増加額は一五〇〇万円であると認めることができる。

2  普通預金

証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第三〇号証の一ないし三、証人渡辺久雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第五九号証、証人斉藤久蔵の証言を総合すれば、原告は昭和三五年以前から新潟県信用組合本店に原告の通称名である岡本光正名義で普通預金口座(番号二九三一)を開設していたこと、別表五(二)に記載のとおり右預金の昭和三七年期首における金額は三五万五九二九円であり、その期末における金額は一一二万二二〇二円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば昭和三七年中における原告の普通預金の増加額は七六万六二七三円であると認めることができる。

3  貸付金

証人渡辺久雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第三六、第三七号証、証人斉藤久蔵の証言により真正に成立したものと認められる乙第五五号証、証人斉藤久蔵、同渡辺久雄の各証言を総合すれば、原告は昭和三六年以前から株式会社松里に対して貸付金を有していたこと、右貸付金の昭和三七年期首における金額は八三一万〇七八二円であり、その期末における金額は七八四万七九八二円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

また、成立に争いのない乙第六七ないし第七〇号証、乙第七一号証の二、証人古寺武の証言により真正に成立したものと認められる乙第三八号証、証人中石由郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第三九号証の一、二、第七二号証、第八〇号証、証人中山猛夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第六四号証、第六六号証、証人松浦栄松の証言により真正に成立したものと認められる乙第七三号証、証人栗原貞雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第七四、第七五号証、証人古寺武、同中山猛夫、同栗原貞雄、同松浦栄松、同中石由郎、同鶴木秀夫の各証言を総合すれば、原告は昭和三七年一〇月月二〇日合資会社中北車体工作所に対し、岩尾塗装店の社長の紹介により約束手形(乙第三九号証の一、二)と引換えに、三〇〇万円を期間三ケ月利息日歩三銭の約定で貸渡したこと、原告は昭和三八年三月二〇日合資会社中北車体工作所から同社所有の土地(一二五・六六坪)を代金八六〇万円で買受け、その売買代金の一部と相殺して右貸付金三〇〇万円の返済を受けたことを認めることができ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三七年中における原告の貸付金合計の増加額は二五三万七二〇〇円であると認めることができる。

4  生計費の支出

原告の昭和三七年における生計費の支出は後記四で認定のとおり五九万五三七六円であると認めることができる。

5  給料の収入

原告の昭和三七年中における給料の収入が二三万三九二〇円であることは当事者間に争いがない。

6  預金利息の収入

前掲乙第三〇号証の三によれば、原告は新潟県信用組合本店における岡本光正名義の普通預金(番号二九三一)の預金利息として、昭和三七年二月二一日に七七四八円、同年八月二一日に一万八五二五円を得ていることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三七年中における原告の預金利息収入の合計は二万六二七三円であると認めることができる。

以上述べたところから、原告の昭和三七年分の雑所得金額を算出すると一八六三万八六五六円となる。

(昭和三八年分)

1  定期預金

前掲乙第五号証の一、二、第三一号証、第五四号証の二、証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一、二、証人斉藤久蔵、同阿島丈夫の各証言を総合すれば、原告は、新潟県信用組合本店に対し昭和三八年中において、別表六(一)に記載のとおり「川原」外五個の印鑑を使用して無記名定期預金を払戻し(順号13)、預入れている(順号2ないし6)こと、右預金の昭和三八年期首における金額の合計は一五〇〇万円であり、その期末における金額の合計は三〇〇〇万円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三八年中における原告の定期預金の増加額は一五〇〇万円であると認めることができる。

2  普通預金

前掲第三〇号証の三、第五九号証、証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第三〇号証の四、五、第三三号証の一、証人斉藤久蔵の証言を総合すれば、原告は別表六(二)に記載のとおり新潟県信用組合本店に普通預金を有し(順号1)、その昭和三八年期首における金額は一一二万二二〇二円であり、その期末における金額は四〇万九二三三円であること、また富士銀行新潟支店に昭和三八年四月三〇日新規に普通預金を預入れ(順号2)、その昭和三八年期末における金額は二万四一八四円であること、右両預金の昭和三八年期首における金額の合計は一一二万二二〇二円であり、その期末における金額の合計は四三万三四一七円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、昭和三八年中における原告の普通預金の増加額はマイナス六八万八七八五円であると認めることができる。

3  貸付金

前掲乙第三六、第三七号証、証人斉藤久蔵、同渡辺久雄の各証言を総合すれば原告は株式会社松里に対し貸付金を有していたこと、右貸付金の昭和三八年期首における金額は七八四万七九八二円であり、その期末における金額は六六四万九七三二円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。また前記認定のとおり、原告は合資会社中北車体工作所に対し昭和三七年一〇月二〇日三〇〇万円を貸付け、昭和三八年三月一〇日右金員の返済を受けているのであるから、右貸付金の昭和三八年期首における金額は三〇〇万円であり、その期末における金額はゼロとなることが認められる。

右事実によれば、昭和三八年中における原告の貸付金合計の増加額はマイナス四一九万八二五〇円であると認めることができる。

4  有価証券

証人斉藤久蔵の証言により真正に成立したものと認められる乙第四七号証、証人野崎俊夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第五三号証、証人中山猛夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第六五号証、証人斉藤久蔵、同野崎俊夫、同中山猛夫の各証言を総合すれば、原告は昭和三八年五月二三日仮名である岡本三郎名義を用いて越後証券株式会社を通じて三菱日本重工業株式会社の株式一万株を代金九九万四〇〇〇円で買入れ、右株式を昭和三八年期末まで所有していたことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三八年中における原告の有価証券の増加額は九九万四〇〇〇円であると認めることができる。

5  土地建物

原告の昭和三八年中における土地建物の増加額が六四〇万円であることは当事者間に争いがない。

6  生計費の支出

原告の昭和三八年における生計費は後記四で認定のとおり六四万〇四五九円であると認めることができる。

7  給料の収入

原告の昭和三八年中における給料の収入が二三万三九二〇円であることは当事者間に争いがない。

8  預金利息の収入

前掲乙第三〇号証の三ないし五、第七号証の一ないし三、第三三号証の一を総合すれば、原告は昭和三八年中において別表六(四)に記載のとおり預金利息を得ていることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三八年中における原告の預金利息収入の合計は三三万八三五二円であると認めることができる。

9  配当金の収入

原告の昭和三八年中における配当金の収入が二万八五〇〇円であることは当事者間に争いがない。

以上述べたところから原告の昭和三八年分の雑所得金額を算出すると一七五四万六六五二円になる。

(昭和三九年分)

1  定期預金

前掲乙第六号証の一、二、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一、二、第三一号証、証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一一、第一二号証の各一、二、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一、二、証人斉藤久蔵の証言により真正に成立したものと認められる乙第五四号証の三、証人斉藤久蔵、同阿島丈夫の各証言を総合すれば、原告は新潟県信用組合本店に対し、昭和三九年中において、別表七(一)に記載のとおり「秋山」外三個の印鑑を使用して無記名定期預金を払戻し(順号1、3、5、7)、これを書換え預入れている(順号2、4、6、8)こと、右預金の昭和三九年期首における金額の合計は三〇〇〇万円であり、その期末における金額の合計は三〇〇〇万円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに促りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三九年中における原告の定期預金の増加額はないものと認めることができる。

2  普通預金

前掲乙第三〇号証の五、第三三号証の一、証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第三四号証の一、証人斉藤久蔵の証言を総合すれば、原告は別表七(二)に記載のとおり新潟県信用組合本店に普通預金を有し(順号1)、その昭和三九年期首における金額は四〇万九二三三円であり、その期末における金額は一九万二三九四円であること、また原告は富士銀行新潟支店に普通預金を有し(順号2)、その昭和三九年期首における金額は二万四一八四円であり、その期末における金額は五七九円であること、さらに同支店に昭和三九年二月一七日新規に普通預金口座を開設し(順号3)、昭和三九年期末における金額は二万八七六三円であること、右各預金の昭和三九年期首における金額の合計は四三万三四一七円であり、その期末における金額の合計は二二万一七三六円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三九年中における原告の普通預金の増加額はマイナス二一万一六八一円であると認めることができる。

3  貸付金

前掲乙第三六号証、第三七号証、証人斉藤久蔵、同渡辺久雄の各証言を総合すれば、原告は株式会社松里に対し貸付金を有し、右貸付金の昭和三九年期首における金額は六六四万九七三二円であり、その期末における金額は三三四万三二一一円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によれば、昭和三九年中における原告の貸付金の増加額はマイナス三三〇万六五二一円であると認めることができる。

4  有価証券

前掲乙第四七号証、第五三号証、第六五号証、証人斉藤久蔵の証言により真正に成立したものと認められる乙第四八号証、第五〇号証、証人野崎俊夫の証言を総合すれば、原告は三菱重工業株式会社(変更前の社名三菱日本重工業株式会社)の株式一万株を昭和三九年期首及び期末に引き続き所有していることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三九年中における原告の有価証券の増減はないと認めることができる。

5  土地建物

原告の昭和三九年中における土地建物の増加額が八三四万五〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

6  生計費の支出

原告の昭和三九年における生計費は後記四で認定のとおり七一万四三〇七円であると認めることができる。

7  給料の収入

原告の昭和三九年中における給料の収入が二三万五二〇〇円であることは当事者間に争いがない。

8  預金利息の収入

前掲乙第六号証の一、二、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一、二、第三〇号証の五、第三三号証の一、第三四号証の一によれば、原告は昭和三九年中において別表七(四)に記載のとおり預金利息を得ていることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三九年中における原告の預金利息収入の合計は一八〇万七五〇二円であると認めることができる。

9  配当金の収入

前掲乙第三四号証の一、第四七、第四八号証によれば、原告は三菱重工業株式会社の株式配当金として、昭和三九年二月一七日、同年六月二日、同年一二月三一日の三回にわたりそれぞれ二万八五〇〇円を得ていることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三九年中における原告の配当金収入の合計は八万五五〇〇円であると認めることができる。

10  不動産収入

原告の昭和三九年における不動産収入が四万三二六〇円であることは当事者間に争いがない。

以上述べたところから原告の昭和三九年分の雑所得金額を算出すると三三六万九六四三円になる。

(昭和四〇年分)

1  定期預金

前掲乙第一一、第一二号証の各一、二、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一、二、第三一号証、第五四号証の三、証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一五ないし第一九号証の各一、二、証人斉藤久蔵、同阿島丈夫の各証言を総合すれば、原告は新潟県信用組合本店に対し、昭和四〇年中において、別表八(一)に記載のとおり「秋山」外七個の印鑑を使用して無記名定期預金を払戻し(順号1、3、5、7)、これを書換え預入れている(順号2、4、6、8、9)こと、右預金の昭和四〇年期首における金額の合計は三〇〇〇万円であり、その期末における金額の合計は三五〇〇万円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四〇年中における原告の定期預金の増加額は五〇〇〇万円であると認めることができる。

2  普通預金

前掲乙第三〇号証の五、第三三号証の一、第三四号証の一、証人斉藤久蔵の証言を総合すれば、原告は別表八(二)に記載のとおり新潟県信用組合本店(順号1)及び富士銀行新潟支店(順号2、3)に普通預金を有し、右各預金の昭和四〇年期首における金額の合計は二二万一七三六円であり、その期末における金額の合計は二七万一九一〇円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四〇年中における原告の普通預金の増加額は五万〇一七四円であると認めることができる。

3  貸付金

前掲乙第三六号、乙第三七号証、証人斉藤久蔵、同渡辺久雄の各証言を総合すれば、原告は株式会社松里に対し貸付金を有し、右貸付金の昭和四〇年期首における金額は三三四万三二一一円であり、その期末における金額は三九一万〇九二六円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四〇年中における原告の貸付金の増加額は五六万七七一五円であると認めることができる。

4  有価証券

前掲乙第五〇号証、第五三号証、第六五号証、証人野崎俊夫の証言を総合すれば、原告は昭和三八年五月二三日取得した三菱重工業株式会社の株式一万株を昭和四〇年期末においても引き続き所有していることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四〇年中における原告の有価証券の増減はないと認めることができる。

5  土地建物

原告の昭和四〇年中における土地建物の増加額が九九五万二八二六円であることは当事者間に争いがない。

6  生計費の支出

原告の昭和四〇年における生計費は後記四で認定のとおり七二万九四一五円であると認めることができる。

7  給料の収入

原告の昭和四〇年中における給料の収入が三三万九二〇〇円であることは当事者間に争いがない。

8  預金利息の収入

前掲乙第三〇号証の五、第一一、第一二号証の各一、二、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一、二、第三四号証の一、二を総合すれば、原告は昭和四〇年中において別表八(四)に記載のとおり預金利息を得ていることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四〇年中における原告の預金利息収入の合計は一五六万八八一五円であると認めることができる。

9  配当金の収入

前掲乙第三四号証の一、第五〇号証によれば、原告は、三菱重工業株式会社の株式配当金として昭和四〇年六月一日二万七〇〇〇円、同年一一月二九日一万八〇〇〇円を得ていることを認められることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四〇年中における原告の配当金収入の合計は四万五〇〇〇円であると認めることができる。

10  不動産収入

証人幸田芳彦の証言により真正に成立したものと認められる乙第四五号証の一ないし四、証人斉藤久蔵の証言によれば、原告は松里ビルを株式会社松里に賃貸しており、その昭和四〇年二月から一二月までの家賃として昭和四〇年中に一一〇万円の支払を受けていること、他方原告は松里ビルの掃除給料として一六万九〇〇〇円を支出していることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によれば、昭和四〇年中における原告の不動産収入は九三万一〇〇〇円であると認めることができる。

以上述べたところから原告の昭和四〇年分の雑所得金額を算出すると一三四一万六一一五円となる。

(昭和四一年分)

1  定期預金

前掲乙第一五ないし第一九号証の各一、二、第三一号証、第五四号証の三、証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇ないし第二四号証の各一、二、第三一号証、証人斉藤久蔵の証言により真正に成立したものと認められる乙第五四号証の一、証人斉藤久蔵、同阿島丈夫の各証言を総合すれば、原告は新潟県信用組合本店に対し、昭和四一年中において、別表九(二)に記載のとおり「岡村」外五個の印鑑を使用して無記名定期預金を払戻し(順号1、3、5、7、9)、これを書換え預入れている(順号2、4、6、8、10)こと、新潟相互銀行本店に昭和四一年一二月一三日別表九(一)に記載のとおり岡本光正名義で八〇万円の定期預金を新規に預入れていること、右各預金の昭和四一年期首における金額の合計は三五〇〇万円であり、その期末における金額の合計は三五八〇万円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四一年中における原告の定期預金の増加額は八〇万円であると認めることができる。

2  普通預金

前掲乙第三〇号証の五、第三三号証の一、第三四号証の一、証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第三〇号証の六、第三三号証の二、第三四号証の二、証人斉藤久蔵の証言を総合すれば、原告は別表九(三)に記載のとおり新潟県信用組合本店(順号1)及び富士銀行新潟支店(順号2、3)に普通預金を有し、右各預金の昭和四一年期首における金額の合計は二七万一九一〇円であり、その期末における金額の合計は一三二万五九一一円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四一年中における原告の普通預金の増加額は一〇五万四〇〇一円であると認めることができる。

3  当座預金

証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第三五号証、証人斉藤久蔵、同阿島丈夫の各証言を総合すれば、原告は岡本光正名義で昭和四一年一二月五日富士銀行新潟支店との間で新規に当座預金取引(番号三一〇〇五)を開始したこと、その期末における金額は一八万一〇〇〇円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四一年中における原告の当座預金の増加額は一八万一〇〇〇円であると認めることができる。

4  貸付金

前掲乙第三六、第三七号証、証人斉藤久蔵、同渡辺久雄の各証言を総合すれば、原告は株式会社松里に対し貸付金を有し、右貸付金の昭和四一年期首における金額は三九一万〇九二六円であり、その期末における金額は五五六万七三八一円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四一年中における原告の貸付金の増加額は一六五万六四五五円であると認めることができる。

5  有価証券

前掲乙第三四号証の一、二、第五三号証、第六五号証、証人野崎俊夫の証言を総合すれば、原告は昭和三八年五月二三日取得した三菱重工業株式会社の株式一万株を昭和四一年期末においても引続き所有していることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四一年中における原告の有価証券の増減はないと認めることができる。

6  土地建物

原告の昭和四一年中における土地建物の増加額が六二万四四二〇円であることは当事者間に争いがない。

7  美術骨とう品

原告の昭和四一年中における美術骨とう品の増加額が一〇五万円であることは当事者間に争いがない。

8  受取手形

原告の昭和四一年中における受取手形の増加額が三〇〇万円であることは当事者間に争いがない。

9  生計費の支出

原告の昭和四一年における生計費は後記四で認定のとおり八二万一九八二円であると認めることができる。

10  公租公課の支払

前掲乙第四五号証の一によれば、原告の昭和四〇年分の所得税の申告納税額は一一万七二〇〇円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四一年中における原告の支出した公租公課の額は一一万七二〇〇円であると認めることができる。

11  給料の収入

原告の昭和四一年中における給料の収入が三四万九六三〇円であることは当事者間に争いがない。

12  預金利息の収入

前掲乙第三〇号証の五、六、第一五ないし第一九号証の各一、二、第三四号証の一、二を総合すれば、原告は昭和四一年中において別表九(四)に記載のとおり預金利息を得ていることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四一年中における原告の預金利息収入の合計は一七七万〇七〇一円であると認めることができる。

13  配当金の収入

前掲乙第三四号証の一、二によれば、原告は三菱重工業株式会社の株式配当金として昭和四一年五月三〇日一万八〇〇〇円、同年一二月一日一万八〇〇〇円を得ていることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四一年中における原告の配当金収入の合計は三万六〇〇〇円であると認めることができる。

14  不動産収入

前掲乙第四五号証の三、証人幸田芳彦の証言により真正に成立したものと認められる乙第四六号証の一、二、証人斉藤久蔵の証言を総合すれば、原告は松里ビルを株式会社松里に賃貸しており、昭和四一年に家賃として一二〇万円の支払を受けていること、他方原告は右家賃の必要経費として五八万三七九二円を計上しているが、昭和四〇年においては減価償却費二三万九五六三円を必要経費に計上しているので、昭和四一年においても右同額の減価償却費が必要経費に含まれていると推測されるから、昭和四一年の家賃の必要経費としての現金支出額は三四万四二二九円であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和四一年中における原告の不動産収入は八五万五七七一円である。

以上述べたところから原告の昭和四一年分の雑所得金額を算出すると六二九万二九五六円となる。

四  生計費の算定

訴外平岡千恵子、同美千代の各生年月日については当事者間に争いがなく、証人斉藤久蔵、同幸田芳彦の各証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、訴外平岡ナカは原告の内妻であり、原告と同居していることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。しかし、訴外平岡千恵子、同美千代の両名が訴外平岡ナカの養女であること及び右両名が原告と同居していることについては、これを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告と家計を同じくする家族は訴外平岡ナカのみであるから、原告は二人世帯というべきである。また前記認定のとおり昭和三七年ないし四一年における原告の所得が二〇〇万円を超えていることが明らかである。

そこで原告の生計費を算出するにあたり、成立に争いのない乙第一、第二号証の各一ないし四、第三、第四号証の各一ないし五の昭和三八年ないし昭和四一年の総理府統計局編の家計調査年報に基づき被告が採用した方法は、原告の生活状態に適したもので合理的であり、また昭和三七年分の生計費については右第四号証の五に基づき消費者物価指数により推計したのは合理的であると認めることができる。右によれば四人世帯としての新潟市における年間収入二〇〇万円を超える世帯の生計費は別表一一に記載のとおりであることが認められるが、前記認定のとおり原告は二人世帯であるから右金額を二人世帯に換算するためには被告主張の回帰直線によるのが相当であって、これによれば原告の本件係争年分の各生計費は四人世帯の消費支出に換算係数七六・五八パーセントを乗じた金額であって、昭和三七年分が五九万五三七六円、昭和三八年分が六四万〇四五九円、昭和三九年分が七一万四三〇七円、昭和四〇年分が七二万九四一五円、昭和四一年分が八二万一九八二円となる。

五  被告の主張に対する原告の反論2について

原告は本件係争年分における純資産の増加は平田良一に対して貸付けた金員の返済を受けたことにより生じた旨を主張するのでこの点につき検討する。

原告の右主張に沿う証拠として甲第三号証、証人平田良一の証言、原告本人尋問の結果がある。しかし証人阿島丈夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第五七号証、証人斉藤久蔵の証言によれば、被告の職員が昭和四二年六月一二日はじめて原告方に質問調査のために臨場じた際、原告はボストンバックに入った五〇〇万円ないし八〇〇万円もの大金を示したこと、しかし右金員は、原告が同日新潟県信用組合から借りうけ、同日返済したものであることが認められるから、これは原告が常時大金を自宅に保管しているかのように仮装工作したものというべきであり、また新円切替の際の説明が不合理であること等からして、右主張に沿う原告本人の供述はたやすく措信することができない。また原告本人尋問の結果によれば、原告は金を貸す際には借用書などはとっていなかったが、平田良一への貸金についてはその金額の返済を受け終ったときに貸借の証明として甲第三号証(貸借証明證)を平田から差入させた旨供述するが、金を貸すときに借用書すらとらないのに貸金全額の返済を受けたときにその貸借の証明書を書かせること自体きわめて不合理であって、甲第三号証はたやすく措信できない。他方、証人平田良一の証言では、原告への返済の資金源がかならずしも明らかでなく、ことに昭和四一年の返済分の資金源については、あるいは大光相互銀行からの一億円の借入金によるとしたり、あるいは中小企業金融公庫からの五〇〇万円の借入金によるとしたり、さらには桂山荘の売却に際しての手付金一〇〇〇万円であると供述しているが、証人佐藤優の証言によれば、大光相互銀行からの借入れは五〇〇〇万円にすぎず、かつ、借入日は昭和四二年三月二五日であること、桂山荘売却にともなう手付金の取得は昭和四三年であること、また中小企業金融公庫からの借入れは昭和四一年一二月二二日で右借入金が同年中に原告への返済に充てられていないことが認められることからすれば、原告の主張に沿う証人平田良一の証言もにわかに措信できない。

他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の右主張には理由がなく失当である。

六  前記三において認定した原告の雑所得金額に当事者間に争いのない別表二(一)ないし(五)の「原告主張額」に記載の給与所得金額、配当所得金額、不動産所得金額を加算して原告の本件各係争年分の総所得金額を算出すると、昭和三七年分が一八八二万二六五六円、昭和三八年分が一七七六万〇六五二円、昭和三九年分が三六五万〇九〇三円、昭和四〇年分が一四三九万五五五二円、昭和四一年分が七一六万七一六四円となるところ、本件係争年分の各決定及び更正は、原告の右所得金額の範囲内でなされたもので適法であり、また本件係争年分の各賦課決定もその前提である本件各決定及び更正が所得を過大に認定したものではないので、この点の違法もない。さらに前記認定のとおり原告は川原等の仮名の印鑑を使用した無記名定期預金を開設していたが、この点につき、原告は右無記名定期預金は新潟県信用組合の職員が勝手にしたものである旨を主張するが、証人野沢健吉の証言によれば原告の無記名定期預金の開設は結局原告の意思に基づくものと認めることができ、右認定に反する原告本人の供述はたやすく措置し難い。そうすると、原告は昭和三七年分ないし昭和四〇年分の所得税の課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺい又は仮装したものというべきであり、重加算税の賦課決定にも違法がない。

七  以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 清水信雄 裁判官 石田浩二 裁判長裁判官柿沼久は転補につき署名押印することができない。裁判官 清水信雄)

第一物件目録

(一) 新潟市東堀通五番町四四一番地二、四四三番地二

家屋番号 四四一番二

鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付五階建店補兼居宅

床面積 一階 一八六・二八平方メートル

二階 二〇九・七一平方メートル

三階 一八〇・〇一平方メートル

四階 一五二・六九平方メートル

五階 六六・九四平方メートル

地下一階 一〇七・一〇平方メートル

(二) 新潟市東堀通五番町四四一番三

宅地 四六・二八平方メートル

第二物件目録

(一) 新潟市本町通二番町三一四番

宅地 六〇坪六合

(二) 同所三一五番

宅地 六〇坪六合

(三) 同所三一四番、三一五番

家屋番号 本町通二番町三二番

木造瓦葺平屋建 物置

四坪五合

(四) 同所三一四番

家屋番号 本町通二番町三二番二

土蔵造瓦葺二階建 倉庫

建坪 六坪六合六勺

外弐階 六坪六合六勺

付属建物

木造瓦葺平屋建 物置

二坪三合二勺

別表一

課税処分の経緯

(一) 昭和三七年分

<省略>

(二) 昭和三八年分

<省略>

(三) 昭和三九年分

<省略>

(四) 昭和四〇年分

<省略>

(五) 昭和四一年分

<省略>

別表二

本訴主張の総所得金額

(一) 昭和三七年分

<省略>

(二) 昭和三八年分

<省略>

(三) 昭和三九年分

<省略>

(四) 昭和四〇年分

<省略>

(五) 昭和四一年分

<省略>

別表三

被告主張額の雑所得の金額の計算

(一) 昭和三七年分

<省略>

(二) 昭和三八年分

<省略>

(三) 昭和三九年分

<省略>

(四) 昭和四〇年分

<省略>

(五) 昭和四一年分

<省略>

別表四

各年分資産負債増減表

(一) 昭和三七年分

<省略>

(二) 昭和三八年分

<省略>

(三) 昭和三九年分

<省略>

(四) 昭和四〇年分

<省略>

(五) 昭和四一年分

<省略>

別表五(一)

昭和三七年の定期預金

<省略>

別表五(二)

昭和三七年の普通預金

<省略>

別表六(一)

昭和三八年の定期預金

<省略>

なお、右表中3の定期預金九〇〇万円は昭和三八年七月四日、同表中の4と5の六〇〇万円と三〇〇万円に分けて書替えられたものであるから、九〇〇万円の期末定期預金としては存在しないことになる。

別表六(二)

昭和三八年の普通預金

<省略>

別表六(三)

昭和三八年、三九年の土地建物取得代金の支払

<省略>

別表六(四)

昭和三八年の預金利息

<省略>

別表七(一)

昭和三九年の定期預金

<省略>

別表七(二)

昭和三九年の普通預金

<省略>

別表七(三)

昭和三九年の松里ビル建築費用の支払

<省略>

別表七(四)

昭和三九年の預金利息

<省略>

別表八(一)

昭和四〇年の定期預金

<省略>

別表八(二)

昭和四〇年の普通預金

<省略>

別表八(三) 昭和四〇年の松里ビル建築費用の支払

<省略>

別表八(四)

昭和四〇年の預金利息

<省略>

別表九(一)

昭和四一年の新潟相互銀行本店に対する定期預金

<省略>

別表九(二)

昭和四一年の新潟県信用組合本店に対する定期預金

<省略>

別表九(三)

昭和四一年の普通預金

<省略>

別表九(四)

昭和四一年の預金利息

<省略>

別表一〇

原告と生計を同じくする家族

<省略>

別表一一

四人世帯の消費支出

<省略>

別表一二

新潟市の消費支出の換算率

<省略>

<省略>

(注) 右表中「四人世帯を一〇〇とした消費支出」とは、総理府統計局で家計調査に用いる標準世帯人員を四人世帯としているため、同年報「付録2世帯人員数に対する収入および支出の回帰直線係数a・b」により算定した係数によって各統計資料の消費支出を、四人世帯を一〇〇とした消費支出に換算したものである。(回帰直線係数の算式、Y=世帯人員、a=一一・七一、b=五三・一六)

別表一三

昭和三八年ないし四一年の四人世帯の消費支出

<省略>

<省略>

別表一四

昭和三七年の四人世帯の消費支出

<省略>

別表一五

一人世帯の消費支出

<省略>

別表一六

原告主張の雑所得の金額の計算

(一) 昭和三七年分

<省略>

(二) 昭和三八年分

<省略>

(三) 昭和三九年分

<省略>

(四) 昭和四〇年分

<省略>

(五) 昭和四一年分

<省略>

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