新潟地方裁判所 昭和45年(ワ)599号 判決 1972年3月13日
原告 成田均
右訴訟代理人弁護士 川村正敏
被告 常木智恵子こと 木村智恵子
<ほか一名>
右訴訟代理人弁護士 逢坂修造
被告 伊藤健作
主文
被告らは各自原告に対し、一、八二五、四七九円とこれに対する昭和四四年四月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。
この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
≪省略≫
理由
一 請求原因第一、二項の事実は、原告の受傷の程度および被告木村の加害車運転行為が被告会社の「其ノ事業ノ執行ニ付キ」にあたるかどうかの二点を除いてすべて当事者間に争いがない。
二 被告木村の運転行為が被告会社の事業の執行にあたるかどうかについて検討する。
(一) ≪証拠省略≫を綜合すると、次の事実が認定でき、これを左右すべき証拠はない。前記連絡打合せ会は、会社または社員のいずれかの申入れにより開催されるところ、社員の業務知識の向上を図る研修を内容とし、一、二か月に一回程度、会社において、勤務時間終了后の午后六時半ころから約二時間くらい行なわれ、これには管理職等も出席し、本件事故当日の会合は会社専務の申入れにより開かれるものであった。
被告木村は、本件事故当日勤務先の被告会社新潟出張所における朝会の際、出張所長代理から、当日前記打合せ会が新発田市所在の被告会社本社で開催される旨知らされるとともに、本社までは他の女子社員二名とともに右所長代理の車に同乗するよう誘われた。ところで、午后五時の終業近くになり、被告木村は男子社員から加害車を本社勤務の被告伊藤の許まで運転して運んで貰いたい旨依頼を受けたため、前記所長代理にことわったうえ、前記女性二名と共に加害車に同乗して本社に向け出発した。
(二) 右認定によると、本件連絡打合せ会は、被告会社の業務の一環としてなされるものというべく(前掲各証拠から認定できる、右会の参加について出欠の点検が行なわれず、勤務時間外手当、本社までの旅費のいずれも支給されないことをもってしても、前記結論を左右するには足りない。)、被告木村は右会に出席すべく上司の了承を得たうえ加害車を運転していたものであるから、加害車が被告伊藤尋問の結果から明らかなように、同被告の通勤用マイカーであること、および、被告木村尋問の結果から認定できる、同被告の被告会社における職務内容が見積書の浄書、図面のトレース等の事務補助であり、自動車運転業務は全く含まれていないことを考慮しても、本件運転行為は被告会社の事業の執行にあたるというべきである。
以上からして、被告木村は不法行為者(過失)として民法七〇九条により、被告会社は使用者として民法七一五条により、被告伊藤は運行供用者として自賠法三条により、それぞれ原告が本件事故により蒙った損害を賠償する責任がある。
三 原告の損害について検討する。
(一) 治療費 一、五一二、九一九円
≪証拠省略≫によると、原告は本件事故により外傷性頸部症候群に罹り、原告主張の期間中央病院に入院(九七日)、また、通院(二一七日)して治療を受け、これが費用として計一、五一二、九一九円を要したことが認定でき、これに反する証拠はない。
(二) 診断書作成料 二、一〇〇円
≪証拠省略≫によると、診断書五通の作成料として二、一〇〇円を要したことが認められ、これに反する証拠はない。
(三) 入院雑費 二九、一〇〇円
原告は前述したように九七日間入院したところ、これが雑費として一日三〇〇円を下らぬ支出を必要とすることは当裁判所に顕著であるから、右割合で入院期間の雑費を算出すると、二九、一〇〇円となる。
(四) 休業損害 八六〇、〇〇〇円
≪証拠省略≫によると、原告は昭和二三年ころから建具職人として働き(現在三八才)、本件事故当時日給二、五〇〇円で一か月二五日稼働していたところ、本件事故のため欠勤を余儀なくされ、別紙記載のとおり合計八六〇、〇〇〇円相当の賃金が減額されたことが認められ、これに反する証拠はない。
(五) 逸失利益 八三四、二二五円
≪証拠省略≫によると、原告は前記傷病のため、右上肢の運動および知覚異常、右下肢の脱力項部痛の後遺症があり、これが症状の程度は労災保険の一二級に該当し、現在も建具職人でありながら金槌を叩くことも鉋をかけることも満足にできない状態にあり、かかる症状は今后一〇年間は変りがないことが認められ、これに反する証拠はない。そして、右認定による労働能力の喪失率は一四パーセントが相当であると解するから、前記月額六二、五〇〇円の収入に基づいて今后一〇年間の右割合による喪失した利益を求め、年五分の割合による中間利息をホフマン式計算法によって控除して現在における一時払額を求めると、八三四、二二五円となる。
(六) 交通費 七三、六〇〇円
≪証拠省略≫によると、原告は前記入院・通院のためのタクシー、バスによる交通費として合計七三、六〇〇円を要したことが認められ、これに反する証拠はない。
(七) 慰藉料 七〇〇、〇〇〇円
すでに認定した諸事情と、弁論の全趣旨から明らかなように、本件事故が被告木村の一方的な過失に起因するものであること等を考え合わせると、原告の本件事故による精神的苦痛を慰藉するには七〇〇、〇〇〇円が相当である。
四 以上認定した損害の合計額は四、〇一一、九四四円であるところ、請求原因第四項の原告の受領関係は当事者間に争いがないほか、≪証拠省略≫によると、原告の治療費につき、被告会社が主張する一八二、九五二円を超える合計二〇五、七〇五円を同会社側で支出したことが認められるから、前記損害の合計額から請求原因第四項の金額と被告会社主張の一八二、九五二円を控除した一、六二五、四七九円が原告の蒙った損害となる。
五 原告の弁護士報酬の請求については、原告が川村正敏弁護士に本件を委任し、着手金および報酬を支払うことを約したことは弁論の全趣旨から認められるところ、前記損害額と本件の難易度等の諸事情を考え合わせると、被告らに請求できる金額は二〇〇、〇〇〇円の限度にとどまると解する。
六 以上により、被告らは各自原告に対し前記一、六二五、四七九円と二〇〇、〇〇〇円の合計額である一、八二五、四七九円とこれに対する本件事故発生の翌日である昭和四四年四月一二日から完済まで法定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は、右の限度で理由があるから認容できるが、その余は失当として棄却すべきであり、民訴法九二条本文、九三条一項本文、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 宮崎啓一)
<以下省略>