新潟地方裁判所 昭和48年(ワ)110号 判決
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【説明】
本件事故の概要は、「昭和四七年二月一三日新潟県岩船郡荒川町大字金星所在の、被告の荒川営業所内の荒川砕石工場の工事現場において訴外亡太田ヨシミ(当時三一才)が排水管を埋設するために掘削されたU字型の溝内で、排水管埋設作業に従事中、溝の南側壁の土砂が埋まり、頭蓋底骨折の傷害を負い、これが原因で同日午前一一時四〇分死亡した。」というものである。
【判旨】
4 そこで次に請求原因2(三)(1)の主張について検討する。
<証拠>によれば次の事実が認められる。
被告は当時その営業目的を、生コンクリート、砂利、砂等いわゆる建築骨材の販売にひろげ、肩書住居地に本店ともいうべき事務所をおいていたほか、荒川、胎内、安田の三箇所に営業所を有し、約二〇〇名の従業員を抱え、荒川営業所のみでもダンプカーの運転手や人夫を主とする約一〇〇名の従業員がいた。荒川営業所の責任者(所長)は、訴外箙正平であつたが、その上位に訴外稲垣逸郎が前記三営業所をあわせて実質的に統轄し、いわゆる大番頭として、吉川組という企業体の最高責任者である被告個人の意思決定に際し相談にあずかり、被告を補佐していた。被告はもつぱら肩書住居地にある事務所に常駐して、各営業所長からの報告を聴き、また求められた決済事項について許容を決するなどして、営業すべてを総括していた。本件工事の施工についても、事前に箙正平と稲垣から略図を用いて口頭で工事計画の概容の説明があり、被告は荒川営業所が右工事を施工することを了承した。
このように認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
ところで原告の前記主張は、掘削されたU字溝が前記3のような原因によつて崩壊しやすい状態にあり、従つて溝内で作業する人に危険を及ぼすおそれがあることを被告が予知しうることを前提とするところ、右認定にかかる企業体としての吉川組の組織、規模およびその中における被告個人の地位、ならびに本件工事が荒川営業所の斉藤が設計し、同人において工事の進行に関与していたこと等を勘案すると、被告個人が右のような危険性を予知できる状況にあつたとは認められないので、原告の前記主張は、その前提を欠き失当である。
5 次に請求原因2(三)(2)の主張について検討する。
前記2認定の事実によると、本件工事は、被告の荒川営業所長に原石採取業務主任として一〇年来(このことは証人斉藤辰蔵の証言によつて認める)勤務していた斉藤が設計し、時には同人自ら工事現場に臨んで、また通常は同営業所に勤務する小野、佐藤らを介して、増子やその他の作業員に工程の指示や作業上の注意を与えていたものということができ、従つて斉藤は、前記3のようにU字溝の側壁が崩壊しやすい危険な状態にあつたことを容易に知り得たものというべきである。そうだとすると斉藤は、U字溝内で作業に従事している人夫に対し、事前に右のような危険な状態を十分に指摘して認識させ、事故防止のための具体的措置について打合せ、必要に応じてこれを指示するなどの措置を講ずべき義務があつたものというべきである。
もつとも<証拠>によれば、小島土建は小島市太郎が約一五〜二〇名程度の人夫を雇つて、長年主として土木工事の請負を業としてきた専門業者であり、増子も大型特殊自動車の運転免許を取得し、型枠大工の技術をも有し、昭和四六年に小島土建に勤務する以前から、もつぱら土木工事の作業現場で作業に従事してきていることが認められ、また同人は本件工事にあたつては前記2のように、小島土建から派遣された人夫のリーダー格として、人夫の配置、作業分担等を決めるなど、人夫に対し細かい指示をしていたので、現場の作業の指揮および責任者は増子であつて、同人が前記3のような事情をもつともよく知り得たのであるから、同人からこの点に関する危険性の指摘がない限り、実際の作業にあたつていない斉藤、小野、佐藤らは、前記3のような事情を知るすべもなく、また仮りに知りえたとしても、そのことを事前に人夫らに認識させ、あるいは事故防止策等の打合せ、指示等をなすべき義務まではないとの見解も考えられる。
しかしながら、増子は土木工事に関する技術と経験はあつても、本件工事現場のような砕石工場で掘削作業に従事した験経が豊富であるとはいいがたく、従つて現場付近の土層が前記3のような特殊な構成をなしていることに比較的気づきにくかつたのに対し、斉藤らは長年荒川営業所に勤務して、この点は熟知していたのみならず、本件工事の設計者は斉藤であり、その施行にあたつても自らあるいは小野、佐藤を介して、増子に行うべき作業内容を指示するなど、工事に実質的に関与しているといいうるので、増子が右危険性を知りうべき状況にあつたとしても、そのことが斉藤に前記のような事故防止のための適切な措置をとるべき義務があつたことを認めることの妨げにはならない。
そして増子らが配水管の取替作業をなすに際し、斉藤が自らあるいは小野、佐藤らを介して、事前に右のような事故防止のための打合せ、指示等格別の措置をとつたことを認めるに足る証拠はない。
してみると斉藤には、被告の業務ともいうべき本件工事の施行に際し、右の点において過失があつたものというべく、被告は斉藤の使用者として、これによつて生じた損害の賠償責任がある。
(大浜恵弘)