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新潟地方裁判所 昭和52年(わ)28号 判決 1981年10月06日

本店所在地

新潟市信濃町三番七号

被告法人の名称

有限会社丸善商会

右代表者代表取締役

松原眞次

本籍

新潟市関屋浜松町一〇一番地

住居

同市信濃町三番七号

会社役員

松原眞次

大正五年一月二一日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官泉川健一出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告有限会社丸善商会を罰金一、二〇〇万円に、被告人松原眞次を懲役一〇月に各処する。

被告人松原眞次に対し、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告有限会社丸善商会の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、新潟市信濃町三番七号に本店を置き、金銭の貸付などを営業目的とする資本金四〇万円の有限会社であり、被告人松原眞次は、右会社の代表取締役として同社の業務全般を統括管理していたものであるが、被告人松原は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、手形割引及び証書貸付による受取利息収入を除外し、これによって得た資金を新潟信用金庫関屋支店などの金融機関に架空名義又は他人名義の預金口座を設けて簿外預金を蓄積するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九、二五三万七、四八二円で、これに対する法人税額が三、三七四万四、八〇〇円であったのにかかわらず、同四九年二月二八日、同市営所通二番町六九二番地の五所在の所轄新潟税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、三八八万二、九七三円で、これに対する法人税額が四八三万九、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三、三七四万四、八〇〇円と右申告税額との差額二、八九〇万五、七〇〇円を免れ

第二  同四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八、二一四万八、一八三円で、これに対する法人税額が三、二一三万九、二〇〇円であったのにかかわらず、同五〇年二月二八日、前記新潟税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七七〇万六、一七五円で、これに対する法人税額が二五六万九、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三、二一三万九、二〇〇円と右申告税額との差額二、九五六万九、八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  第一三回ないし第一八回各公判調書中被告人松原の供述部分

一  被告人松原の検察官に対する供述調書

一  被告人松原の大蔵事務官に対する質問てん末書(一二通)

一  被告人松原作成の答申書(五通)及び上申書

一  第一〇回ないし第一二回、第一九回、第二〇回各公判調書中証人外谷水城の供述部分

一  証人外谷水城の当公判廷における供述

一  第三回公判調書中証人本間隆平、第五回、第六回公判調書中証人塩谷政十郎の各供述部分

一  渡辺辰良、本間隆平(二通)、本間通、佐藤弘幸、佐々木幸助、伊藤猛、中山靖道、松原実、松原康夫の検察官に対する各供述調書

一  渡辺辰良、本間隆平(二通)、本間通、佐藤弘幸、佐々木幸助、首藤与次、中野カメ子、中山靖道、渡辺修の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  伊藤秀夫、小林年夫、斎藤貞次郎、梅沢芳雄、伊藤猛、小南繁信、小林雄司、小林十寸穂、長坂貞夫、山下克典、福田敏夫作成の各答申書

一  渡辺清明作成の取引内容照会に対する回答書

一  大蔵事務官作成の「簿外貸付金、受取利息、前受利息等調査書」、「簿外預金残高及び受取利息調査書」、「簿外経費調査書」、「簿外手形、小切手等取立状況等調査書」、「本間隆平調査書」、「貸付先別取立金額調査書」、「各期末公表圧縮貸付金調査書」、「公表貸付金、前受利息、未収利息等調査書」

一  検察事務官作成の電話通信書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

一  大蔵事務官大谷多郎作成の証明書

一  被告会社作成の有限会社丸善商会定款

一  押収してある収入台帳一綴(昭和五二年押第七五号の8)大河内商事表示取引関係綴一綴(同号の9)、納品書二九冊(同号の10)、同六綴(同号の11ないし14、33、34)、同一四枚(同号の15)、(有)丸善商会に対する支払利息集計表一綴(同号の17)、納品書メモ(八二枚入り)一袋(同号の18)、割引料メモ一枚(同号の19)、納品書メモ二二枚(同号の20)、納品書五枚(同号の21)、金銭出納帳五冊(同号の22、23の1ないし3、24)、返済期日別貸金内訳帳一冊(同号の25)、支払利息明細帳一綴(同号の29)、普通預金通帳二冊(同号の31、32)

判示第一の事実につき

一  第四回公判調書中証人山崎幸雄の供述部分

一  早川順一、大野敦子、森山穂作成の各答申書

一  木内和熙作成の取引内容照会に対する回答書

一  大蔵事務官作成の「山形相互銀行新潟支店調査関係書類」、「新潟産業信用組合関屋出張所調査関係書類」

判示第二の事実につき

一  矢野国雄の検察官に対する供述調書

一  井川九二衛、矢野国雄、高橋隆、杉山喜八郎、手塚清実、原重男、当摩光子、斎藤忠吉、笠井恵、知野鉄雄、吉沢耕三作成の各答申書

一  押収してある伝票(コクヨ納品書)一綴(前記同号の16)

(弁護人の主張に対する判断)

簿外受取利息の算定について

弁護人は、検察官が主張する本件簿外受取利息額について、右は国税局査察官の単なる推測に基づいて作成された資料を根拠として算出されたもので正確性に乏しいものであると主張し、右弁護人の主張を裏付ける証拠として本件各公判調書中、証人長坂貞夫、同福田敏夫の各供述、証人中山靖道の当公判廷における供述を援用する。しかしながら、前掲記証拠の標目に列挙した各証拠によれば、右簿外受取利息は、国税局査察官が、被告会社の発行した納品書(簿外貸付利息計算伝票)、簿外貸付を記載した諸帳簿、銀行その他の金融機関における手形決済関係資料等、信用性の高い客観的資料に基づいて被告会社の簿外貸付額と元金(その殆どは被告会社が割引いた手形の手形金)の回収日を確定したうえ、貸付日と利率が明らかでないものについては、借主又は被告人松原の供述によってこれを確定し、これによって被告会社が受領した貸付利息額を算出したものと認められる。右のうち、貸付日と利率については、被告会社の伝票、帳簿類が殆ど残存しないため客観的資料によってこれを知ることは出来ないが、前記証拠の標目記載の証拠によれば、借主及び被告人松原のこの点に関する供述は実際の取引のそれとおおむね合致するものと認められるのであって、本件のように法人の経営者が故意に伝票等の証拠書類を廃棄して脱税を企てた事案については、関係人の記憶に基づく日数及び利率によって受取利息収入額を認定することは許容されるべきである。前記長坂貞夫、同福田敏夫、同中山靖道の各供述中、同人等が作成した答申書等に記載の数値は自己の記憶に基づくものではない旨、又は真実に反するものである旨の供述部分は、右の者らが作成した答申書若しくは質問てん末書添付書類の形式、内容それ自体と前掲記の証人外谷水城の供述に照らし措信し難い。

また、弁護人は、被告会社の本間隆平に対する貸付額の認定は合理性を欠いているうえその利率の認定も誤っていると主張する。しかしながら、前掲記証拠の標目記載の同人の各供述によれば、被告会社の同人に対する貸付額は、昭和四八年は平均残高七、〇〇〇万円、同年末の残高八、〇〇〇万円で、昭和四九年に入ってからも残高にはさしたる変化はなく、同年末の残高八、〇〇〇万円であったのであり、貸付利率は、昭和四八年は月三分、昭和四九年は月四分であったことが認められるのであって、一方検察官の主張する貸付額は、昭和四八年、四九年共平均残高を七、〇〇〇万円とし、利率は昭和四八年は月三分、昭和四九年は月四分として算出したものであるから、検察官の右主張額は実際額より少な目でこそあれ、過大な額とは到底認められず、合理的な額として是認すべきものである。

次に弁護人は、被告会社の山崎幸雄に対する貸付利率につき、日歩二五銭とした分は誤りであり、被告会社では日歩二〇銭以上の利息を徴したことはない旨、同人が日歩二五銭を支払ったことがある旨供述しているのは、同人が被告会社に対する過去の不渡手形の元金の一部を弁済したものを利息と勘違いしたためであると主張する。しかしながら、前掲記の同人の供述によれば、同人が被告会社に割引を依頼した手形のうち、その振出人が過去に不渡手形を出したことがあるものについては日歩二五銭の割合で利息を支払っていたことが認められるのであって、その際被告会社では別段過去のどの不渡手形の元金に一部内入するかも特定することなく、元金が減少したことを証する書面を交付することもなかったことが窺われ、この点からみても元金の一部内入であったとする弁護人の主張は採用し難く、日歩二五銭と認定して利息を算出した検察官の主張はこれを是認すべきである。

次に弁護人は、塩谷政十郎に対する貸付期間、利率について誤りがある旨主張する。しかしながら、前掲記同人の供述によれば、同人は同人の手許にあった計算書に基づいて被告会社に対する利息支払状況を答申書にまとめ、査察官においてその答申書に従って同人が被告会社に支払った利息額を確定したものであることが認められるから、この点に関する弁護人の主張は採用出来ない。

次に弁護人は、検察官の主張する貸付日(手形割引日)が当該手形振出日よりも先日付のものがある点を根拠に、利息計算が杜撰であると主張する。しかしながら、手形振出日が白地のままの手形が金融業者に持ち込まれる例は決して珍しいことではないしこうした手形については銀行に取立を依頼する段階で適宣振出日を補充することがあるのであるから、現実に金融業者が貸付けをした日が手形面上の振出日よりも先日付になる場合も起こり得るものということが出来、この点から検察官主張の利息計算が杜撰であるとは断じ難い。

更に、弁護人は、検察官主張の利息計算には同日取引の重複記載があると主張する。しかしながら前掲記証拠の標目記載の証拠によれば、額面、満期日、振出人の同一である手形の割引が二回計上されている例があるものの、これらについては、査察官において関係人の供述を求め、記載内容の同一な複数の手形がそれぞれ割引されたものである旨の答申がなされたものについてこれを計上したものと認められるのであって、右事実に鑑みると、手形上の記載が同一であることから直ちに重複記載と断ずることは困難であり(ちなみに弁護人の主張する中山靖道分中、昭和四九年四月四日と同年六月三日の割引分(額面二九七、四〇〇円)は、同人名義の普通預金通帳の記載と被告会社の返済期日別貸金内訳帳の記載をそれぞれ根拠とするもので、いずれも同人から別個の取引であるとの答申がなされたものである)、この点に関する弁護人の主張は採用出来ない。

二 貸倒れの損金認容について

弁護人は、本件犯則所得額から控除されるべき貸倒れが検察官主張の貸倒れ認容額以外に多数存在すると主張する。本件において貸倒れ損金と認められたものは、別表記載のとおりであるが、これは、国税局の査察にあたって被告会社から申出のあった貸倒れのうち、大蔵省の通達に定める貸倒れ事由が当該事業年度に生じたものを貸倒れと認めて損金に算入したものであり、そのことは前掲記証拠の標目記載の証拠によって明らかである。弁護人の主張する貸倒れは、本件各事業年度以外の年度に貸倒れ事由が発生したもの、査察にあたって被告会社から貸倒れである旨の申出のなかったもの及び前記大蔵省の通達にいう事由に該らないものの何れかであって、これらについては、本件各事業年度における損金に算入することは妥当でないから、この点に関する弁護人の主張は理由がない(ちなみに弁護人の主張する中野工業に対する貸倒れ分は、昭和五〇年度に貸倒れ事由が発生したものであり、本件各事業年度の損金に該らないことが明らかである)。

三 支払利息の計上について

弁護人は、本件簿外貸付の資金は、被告会社が被告人松原及びその家族から借入れたものであって、被告会社では被告人松原及びその家族に日歩五銭の割合による利息を支払っていたのであるから、支払利息としてこれらを犯則所得額から控除すべきであると主張する。しかしながら本件で取調べた証拠によっても被告会社が被告人松原らから借入れたとされる時期、回数が明らかでないうえ、被告人松原自身、右簿外貸付資金はそれ以前に簿外貸付による脱税を行うことによって生じた利得金である旨供述しており、これによれば、弁護人の主張は採用出来ない。

四 簿外預金利子の帰属について

弁護人は本件の仮名預金の利子は、被告会社に帰属するものではなく、被告人松原及びその家族に帰属するものであると主張する。しかしながら、前掲記証拠の標目記載の証拠によれば、右仮名預金は、被告会社の簿外貸付の回収のために開設された被告会社の口座であることが明らかであり、その預金利子は被告会社に帰属すべきものであるから、弁護人の右主張は採用出来ない。

五 田宮製作所関係の仲介手数料等について

弁護人は、被告会社において田宮製作所に貸付をするにあたり仲介者である五十嵐甲之助に仲介手数料を支払っていたほか、田宮製作所に対して割引いた手形が不渡りとなった際に、仲介者五十嵐甲之助に受取利息の割戻しを行っていると主張する。第八回公判調書中証人五十嵐甲之助の供述部分によれば、同人は、田宮製作所の経営者田宮弥助の依頼により田宮が被告会社から手形の割引を受けるにあたりその仲介をした事実を認め得ないではないが、同人の供述によってもその仲介の時期が判然としないうえ、その仲介をした分は田宮個人振出しの手形のみで第三者振出しの手形はなかったというのであり、その仲介をした回数、金額を特定するだけの証拠がない。したがって、五十嵐が仲介手数料の支払いを受けたか否か及び利息の割戻しがなされたか否かを判断するまでもなく、この点に関する弁護人の主張は採用出来ない。

(法令の適用)

罰条

第一事実 昭和四九年四月一日施行の改正法以前の法人税法一五九条一項、二項、一六四条一項

第二事実 昭和五〇年四月一日施行の改正法以前の法人税法一五九条一項、二項、一六四条一項

但し、被告人松原については所定刑中懲役刑選択

併合罪の処理

被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項

被告人松原につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い第二の罪の刑に法定の加重)

執行猶予

被告人松原につき 刑法二五条一項

訴訟費用の負担

刑事訴訟法一八一条一項本文

(裁判官 富塚圭介)

別紙一の一 修正損益計算書

自 昭和48年1月1日

至 昭和48年12月31日

<省略>

別紙一の二 修正損益計算書

自 昭和49年1月1日

至 昭和49年12月31日

<省略>

別紙二の一

逋脱所得の内容

自 昭和48年1月1日

至 昭和48年12月31日

<省略>

別紙二の二

逋脱所得の内容

自 昭和49年1月1日

至 昭和49年12月31日

<省略>

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