新潟地方裁判所 昭和54年(行ウ)3号 1982年2月08日
原告
総評全国一般労働組合長岡支部
右代表者執行委員長
中野利作
右訴訟代理人弁護士
大塚勝
同
川上耕
被告
新潟県地方労働委員会
右代表者会長
小出良政
右指定代理人
坂井熙一
(ほか四名)
被告補助参加人
新潟日報販売株式会社
右代表者代表取締役
金巻初夫
右訴訟代理人弁護士
岩渕信一
右当事者間の不当労働行為救済申立棄却命令取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立
(原告の求めた判決)
一 原告を申立人、被告補助参加人を被申立人とする新労委昭和五三年(不)第一二号事件につき、被告が同五四年五月二二日付でした別紙命令書記載の命令を取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
(被告の求めた判決)
主文同旨
第二主張
(請求原因)
一 原告は、昭和五三年六月三〇日、被告に対し被告補助参加人を被申立人として、請求する救済内容を、「(一)被申立人は、申立人組合員に対し早朝協力手当(所員、代行所員、準所員に一律二、〇〇〇円、予備所員に一律一、〇〇〇円)を、昭和五三年四月より支給すること。(二)被申立人は、申立人組合員に対して深夜割増賃金を労働基準法の定めに従い、現に深夜勤務をしている者について、その者の深夜時間の深夜割増賃金を昭和五三年二月に遡り支払うこと。(三)被申立人は、申立人組合員に対し第二項の深夜割増賃金を昭和五三年一月より二年間遡りその全部を支払うこと」とする不当労働行為救済申立をした。被告は同五四年五月二二日付で別紙命令書(以下、本件命令書という)記載のとおり、右申立を棄却する命令(以下、本件命令という)を発し、本件命令書写は同月二三日原告に交付された。
二 本件命令は事実の評価及び法律上の判断を誤った違法なものである。
よって、本件命令の取消を求める。
(請求原因に対する認否)
一 第一項は、本件命令書写が原告に交付された日を除き、その余の事実を認める。右交付の日は昭和五四年五月二六日である。
二 第二項は争う。
(被告の本件不当労働行為の成立についての主張)
被告の認定した事実及び法律上の判断は本件命令書理由「第一 認定した事実」欄(ただし、九頁イ、(ア)の枠内のa行の「午後四時」を「午前四時」に、一〇頁下から六行目の「午前5時出勤」を「午前5時前出勤」にそれぞれ訂正する)及び「第二 判断及び法律上の根拠」欄にそれぞれ記載のとおりであり、そこに何らの違法もない。
(原告の本件不当労働行為の成否についての主張)
一 本件命令書理由第一欄記載の事実(被告主張の訂正後のもの)は全部認める。
二 本件命令は、原告組合員(分会員)のみに対する早朝協力手当の不支給、被告補助参加人の深夜割増賃金の放棄という条件に固執した団交態度のいずれについても不当労働行為の成立を否定した。しかし、以下のとおり被告補助参加人のとった右行為ないし態度が不当労働行為であることは極めて明らかである(以下、略語は本件命令書の例にならう)。
1 早朝協力手当不支給の不当労働行為性
(一) まず結論的に言って、次のとおり、会社の組合所属従業員である分会員に対する早朝協力手当不支給は組合の深夜手当要求という組合活動の故になされた差別として不当労働行為である。
(1) 会社が販労の組合員と非組合員の朝刊配達員に対し、昭和五三年四月以降毎月二、〇〇〇円又は一、〇〇〇円の早朝協力手当を支給しているのに対し、分会員にこれを支給しないことは分会員を不利益に扱うものである。
(2) 会社は分会員に早朝協力手当を支給しない理由を、組合とこれに関する合意が成立しないことにあるとするが、妥結しなかったのは、組合が労働基準法上会社に支払義務のある深夜手当を要求するのに対し、会社がその権利放棄を早朝協力手当支給の前提条件とするためである。
(3) 組合が午前五時前に出勤する朝刊配達員に対する深夜手当の支給を要求するのは当然の権利であって、その権利放棄はできないという態度を維持することも極めて当然であるのに対し、会社がその権利放棄を迫るのは労働基準法に反する違法なものである。
(4) したがって、会社と組合との間で妥結できない原因はもっぱら会社側にあり、そのために生じた組合所属配達員に対する早朝協力手当の不支給という不利益扱いは合理的理由のない差別である。
(5) また、会社と販労との間の早朝協力手当支給に関する協定はいわゆる一般的拘束力を有するものではなく、そうである以上、非組合員と分会員とは同じ立場にあるが、会社が非組合員にのみ早朝協力手当を支給したことは、分会員に対する差別を一層浮び上がらせるものである。
(二) 会社の深夜手当支払義務
(1) 会社の就業規則では、朝刊配達の場合の就労時間は、午前五時から午前七時までと定められていたが、午前五時前の出勤が慣行化していたのである。実際に、午前三時半を過ぎれば配達ができる状態になっており、昭和五三年七月当時、早い人は午前三時二〇分、平均では大体午前四時頃が出勤時刻であった。そして、こうした状態は既に一〇年以上も前から続いており、就業規則の右就労時間に関する規定は、労使慣行によって修正されていたのである。
(2) 会社従業員のうち、社員及び専業所員については、既に昭和五一年七月及び同五二年七月からそれぞれ労働基準法所定の深夜手当が支給されていたが、所員ら朝刊配達員に対しては支給されず、また販労はこれを請求したこともなかったのである。
(3) 朝刊配達員の午前五時前出勤が、中には朝刊配達員個人の生活上の都合によるものもあったとしても、大部分は読者の要望により、また会社の政策(その主目的は同業他社との激しい読者獲得競争に負けないことである)により慣行的に行われていたものである。更に、そもそも会社が五時前出勤を禁止していたのであればともかく、そうでない限りは、当然、深夜手当の支払義務を負うのである。
(三) 早朝協力手当の性格
(1) 早朝協力手当は、本件命令書によれば「慣行化されている朝刊配達員の午前五時前出勤の現状を双方が了承し、将来出勤時刻を午前五時に改めるまでの暫定的措置」として支給されるものであるという。しかし、これでは、早朝協力手当の性格が何であるのか、何の対価であるのか理解できない。
(2) 早朝手当は、朝刊配達員に対して深夜作業をする、しないに拘らず、またなされた深夜作業の時間の長短に拘らず、一律に二、〇〇〇円又は一、〇〇〇円の金員が支払われるものであるから、労働基準法第三七条所定の深夜手当と本質的に異る。深夜手当は、午前五時前の労働をしたとき初めてその時間に応じて発生するものであり、各人ごと、各月ごとに金額も変動する。
(3) 早朝協力手当は、会社の三か年計画への協力見返り(御苦労代)であり、販労の認識もこれを出ないものである。
(4) もっとも、会社は早朝協力手当に深夜手当の変形支給という意味をもたせることを意図していたことは間違いないようである。仮にそうだとしても、それにより消滅する深夜手当は早朝協力手当の金額に限られることは当然である。
(四) 販労の深夜手当放棄約束
(1) 会社は、販労及び同組合員が深夜手当を放棄したことを主張し、本件命令は、明らかではないが、これを認めた前提で判断がなされているようである。しかし、深夜手当放棄の約束は存在しない。労働基準法上当然請求できる深夜手当を過去・将来分とも一切請求しないということは労働者にとってもとより重大な問題であるばかりでなく、会社にとっても、深夜手当の放棄を早朝協力手当支給の条件として重要視していたのであるから、その支給を約束する文書に放棄の意思表示を記載するなり、放棄約束がなされたのであれば、当然、文書化されるべきものである。右文書は何らないのであるから、放棄約束は存在しないと見るのが正当である。
(2) 仮に、販労が会社との団体交渉において口頭で深夜手当を放棄したとしても、労働組合法第一四条は、少くとも組合員の労働条件に関する労使間の合意は、書面にして双方署名することが効力発生要件とされているのであるから、口頭による放棄約束は無効である。
(3) 右のように、販労の深夜手当放棄の約束はなく、あっても無効である以上、同組合員が有する過去の深夜手当請求権及び将来発生する同請求権のいずれも失われない。
(五) 早朝協力手当が分会員にのみ支給されない理由について、会社は販労組合員は深夜手当を放棄し、その代償として早朝協力手当を受取っているのであるから、深夜手当を放棄しない分会員は支給を受けられないものであるとして、これを正当化している。しかし、第一に、早朝協力手当は深夜手当とは関係のないものであるから、差別の理由にならない。次に、仮に、早朝協力手当が深夜手当の変形という性格をも兼有しているとしても、組合は会社に譲歩して、深夜手当のうち早朝手当と関連のない部分、すなわち早朝協力手当支給対象期間の始期以前の過去の分及び将来分のうち早朝協力手当の金額を超えるもののみを請求しているに過ぎないのであるから、会社の右主張は誤っている。更に、そもそも販労組合員は深夜手当を放棄していない。したがって、会社の右主張は差別を合理化する理由にならない。
2 差違え条件固執の不当労働行為性
(一) 会社は、販労組合員に早朝協力手当を支給したのは、販労が深夜手当放棄という条件をのんで妥結したからで、組合員がこの条件をのまずに妥結していない以上、分会員に支給しないのは当然だと主張する。この問題は、販労が深夜手当放棄という条件をのんだとした場合、「複数組合併存下において一方の組合が会社の提示した条件をのんで賃金の支給を受け、他方が条件をのまないで妥結せず賃金の支給を受けられない」という状態をどう見るかという、いわゆる差違え条件による賃金差別の問題としてとらえることもできる。
(二) 本件についての検討
(1) 本件差違え条件の特徴の一つは、深夜手当の放棄という内容自体が労働基準法第三七条に違反する違法条件であり、また、早朝協力手当支給と何の関連もないものであり、組合は決してのめないし、妥結しても分会員の深夜手当請求権について何の効力をも与えられない無効なものであるということである。
(2) 仮に、深夜手当放棄が早朝協力手当支給に内容的に関連し、その範囲で条件が全部違法・不当でないものとしても、早朝協力手当は昭和五三年四月分以降が支給されるもので、これより前に発生した過去の深夜手当は早朝協力手当と何の関連性ももたない。また、これ以降に発生する将来の分については、組合は会社に歩み寄って早朝協力手当額が深夜手当の変形支給であることを認めてもいい旨言明している。したがって、組合が放棄できないとしている将来の深夜手当は早朝協力手当額を超える部分だけであり、それ故、その部分は変形支給のない部分で、早朝手当と関連をもたないものである。その部分までも放棄することは労働基準法違反であることは前記のとおりである。
(3) 会社が前記条件に固執して組合と妥結せず、分会員に早朝協力手当を支給しないのは、結局、不支給を挺子に組合に深夜手当放棄を迫り、あるいは分会員の動揺を誘って、組合弱体化を図るものである。
(三) 以上の点に会社の組合との団交における後記のような不誠実極まりない態度を総合すれば、会社の前記条件に固執して分会員のみに対し早朝協力手当を支給しない行為が、労働組合法第七条第一号、第三号の不当労働行為に該当することは明らかである。
3 会社の不当労働行為意思
(一) 販労の組合活動に不満をもっていた配達員らが、販労を脱退して組合に加盟・分会を結成して、活発な活動を開始し、その手始めに朝刊配達員に対する深夜手当問題を取り上げたため、会社は大変苦慮することとなった。結局、会社は組合の要求には応じないで、深夜手当の過去の分は不払、将来の分は安く定額の早朝協力手当の中で解決することを決め、販労と妥結した。そして、組合とも同一条件で妥結することを企図した。しかし、組合は深夜手当問題を重視し、ストライキまで実行して支払を請求していたのであって、それを一切放棄して早朝手当だけで解決を図ることは土台無理な話であった。そこで、会社の企図する解決を力づくでも実現するためにとられたのが、分会員のみに対する早朝協力手当の不支給であった。
(二) 販労は、分会が結成されたときから役員クラスの人々が動いて分会員の切り崩しを図ったが、早朝協力手当の件はその材料に使われた。昭和五三年六月二日付販労ニュースの中に「早朝勤務の二、〇〇〇円は全国一般には支給されません」と書き、同月一日同じ趣旨の文章を各職場の販労掲示板に貼り出し、分会員の動揺を誘った。
(三) 会社は、余り露骨な組合弾圧をしなかったとしても、長岡地区の販売所長が分会員に対し分会脱退を勧奨したりしており、また、販労の前記のような動きを歓迎して、これに協力したであろうことは容易に想像しうる。組合は会社にとっては、その企業の枠を超えた「外部」の労働組合であって、販労のように同じ新潟日報一家という「内部」意識がもてない存在であり、同時に深夜手当問題でストを実行するような労働組合であった。したがって、組合が会社にとって嫌悪すべきものであったことは疑いない。
(四) 組合の要求する深夜手当について、会社の姿勢は極めて頑なであって、団体交渉における対応も組合主張に耳を貸さず、組合が早朝勤務に関する四原則自体に合意しても、深夜手当を一切放棄しなければ、早朝協力手当は出せないの一点張りであった。この放棄条件に固執することは、前述のように違法・不当であり、何らの合理性もない。会社は条理を尽した解決の努力を全くしなかった。これは、組合の深夜手当請求という活動を嫌悪し、早朝協力手当不支給により分会員の動揺を誘い、会社の企図するとおり問題の解決を図ろうということの表れである。
(五) 以上のような事実から、会社の組合ないし組合の活動に対する敵視、不当労働行為意思は十二分に推認しうるものである。
4 会社の誠実団交義務違反
本件命令は、会社に労働組合法第七条第二号該当の不当労働行為は存在しないとする。その判断の根拠は、要するに<1>団体交渉が数回(五か月間に八回)開かれ、<2>会社は深夜手当問題を含む配達業務の改善提案をしているということに尽きる。しかし、会社は深夜手当は一切放棄するという条件に固執するだけで、一度として組合要求に正面から答えようとしなかった。会社としては、組合として深夜手当を放棄しないという以上、これに対処する対策を出す必要があったが、これをせず、その他の枝葉の部分で何回提案しようが、団体交渉を行おうが、それは誠実団交義務を尽したことにならない。
(被告補助参加人の本件不当労働行為の成否についての主張)
一 原告の労働組合法第七条第一号違反の主張に対する反論
1 早朝協力手当の性格
(一) 早朝協力手当は、朝刊配達員に対し、個々の深夜作業の必要の有無及びその時間の長短等を一切棚上げし、その意味では深夜作業をしない朝刊配達員をも対象に含め、深夜作業の対価ないし対償を個々に計算しないで支給する手当であり、深夜手当に代るものである。このことは、昭和五三年五月三一日締結した早朝協力手当支給に関する労働協約書(<証拠略>)には明文化されていないが、同協約が会社の深夜作業の廃止及び深夜手当の支給に関する提案に対する販労の対案であること、早朝協力手当は、深夜作業をあと三年存続することを前提にして新設されたものであること並びにその後、販労組合員が深夜作業に従事しつつ深夜手当の請求をしていないことを総合すれば、早朝協力手当が深夜手当の見返りとしての性格を有することは明確である。
(二) そして、この点について組合がいかなることを言おうとも、また、仮に労働基準法上問題があるとしても、早朝協力手当の創設を協定して支給し、支給を受けている当事者の意思において一致している限り、その性格は何ら変りがないのである。更にまた、販労の立場において、深夜手当に代り早朝協力手当を選択したそれなりの理由もあったのである。朝刊配達員の深夜作業を解消して行くに際し、深夜作業のなくなる者、残る者がいる場合、給料に不公平が生ずるし、女子のみの深夜業を廃止すると男子との間に不公平が生ずる。これらの不公平を労働組合が個々に説得して了解をとるよりも、労働組合の団結力の中でこれを解消し、一律に組合員が平等の手当を受ける方が活動としてやり易いと考えても、一理があり、止むを得ないと考えられる。しかも、深夜作業といっても、会社が必要上、業務命令をもって行わしめているというよりも、家族の朝食の準備や送り出しのため、午前六時三〇分までに配達を終りたいという朝刊配達員側の希望、事情に左右されているものが多く、厳密に業務上必要なものなのかどうか、ひいては深夜手当請求権が発生するか否かは個々的には問題が多過ぎるので、販労としては右のような問題を巡る紛議を避けようとしたのも理解できなくはないのである。なお、組合は読者サービスを理由に深夜作業の必要を口にするが、会社は深夜作業解消のため、午前七時、一部同七時一五分配達終了を目途にした各朝刊配達員に対する出勤時刻を設定し、昭和五三年五月一八日の組合との団体交渉の席上、これを提示もし、それ以前も午前五時以前の就労はしないようにと指導もしていたのであるから、読者サービスあるいは他紙との競争上すなわち業務上深夜作業の必要があったものではない。
2 差別の不存在
(一) 前述のような早朝協力手当の性格からして、朝刊配達員の深夜作業に対しては、個々の必要性及び個々の作業時間を計算して算出される労働基準法の定める深夜手当か、そのような細部の検討なしに支給される早朝協力手当かのいずれかが発生することになる。早朝協力手当を受けると、深夜手当の支給が受けられなくなるが、それは両者が右のように選択的な関係にあることの論理的帰結であって、支給の条件というものではない。
(二) そして、会社は、組合が販労と同じ選択をする限り、販労と同一の取扱い(妥結が遅れても、販労に支給した時期に遡って支給することも了承ずみである)をしてもよい旨、是非そうしたい旨再三、再四主張し、組合を説得しているのであるから会社に差別待遇の意思はないし、差別も全然存在しない。
二 原告の労働組合法第七条第二号違反の主張に対する反論
1 団体交渉の推移
(一) 会社は、組合から深夜作業の廃止及び深夜手当支給の要求があった以降、真剣に対処し、昭和五三年二月八日、同年三月一五日、同年四月一日、同月一一日、同年五月一八日、同月三〇日に団体交渉を行い、同月三一日深夜販労との間に早朝協力手当について妥結した後も、同年六月四日、同月二一日と精力的に団体交渉をしているのである。
(二) 右団体交渉のなかで、会社は、組合の要求に応じ、深夜作業を廃止すべく、昭和五三年三月一五日には、三か月の調整期間中に午前五時以前の出勤は廃止し、それでも止むを得ず午前五時以前に出勤しなければならない場合は二か(ママ)月に遡って深夜手当を支払う旨回答し、次いで、補足修正として「(イ)会社は各販売所における朝刊宅配作業上、必要とする適正な出勤時刻を各地域ごとに設定する。(ロ)組合は(イ)によって設定された出勤時刻について検討し会社に対案を提示して欲しい」との積極的な姿勢を示し、同年五月一八日には各朝刊配達員に対する出勤時間を設定して、これを組合に提示しているのである。右時間の設定は、会社としても、他紙等の関係から非常の決意をもってなしたものであり、右提案によれば、一部を除いて深夜作業の問題は完全に解決するに至ったのである。
(三) 右提案に対し、組合は、これを前向きに検討することなく、自ら女子配達員の深夜作業の違法を告発しつゝ、違法なこの深夜作業を温存し、深夜手当の支給を要求するという論理的に一貫しない態度をとったため、団体交渉は暗礁に乗り上げた形となるのである。
(四) そして、会社は、昭和五三年五月三一日、組合と同じく、午前七時あるいは七時一五分配達終了を目途とした出勤時刻の設定に反対した販労と、止むなく、早朝協力手当の支給で妥結した後、翌六月一日、組合委員長をわざわざ訪ねてその間の事情を説明し、更には、組合と販労が同一の上部団体に属しているので、そこで調整をとってくれるよう提案もし、その後も何時でも団体交渉をしてもよい旨の意思表示をしているのである。
2 組合の要求の不当性
(一) 前述の団体交渉の推移をみると、深夜手当の問題(この問題は午前五時以前の出勤と密接にかかわり合う)の解決については会社の方が熱意をもって対処していることが明白である。それにも拘らず、組合が、会社に労働組合法第七条第二号違反の事実があるとするのは、いつに、会社が早朝協力手当は深夜手当に代るものであるので両方の支給はできないし、できれば、販労と同じように早朝協力手当によって深夜作業の問題を解決してくれないかということをもって条件付提案と勘違いしていることにある。
(二) 深夜手当も早朝協力手当も支給せよという組合の要求は、前述の両者の関係よりして、会社としてこれを容れることは論理上不可能なのであり、本件は、会社が誠実に対応しているにも拘らず、組合の方が、会社を苦境に陥れるため、自己の論理上つじつまの合わない主張に固執して一歩も引かないというケースであり、仮に会社において交渉を打切っても正当な理由があるといえるのである。しかも、会社は何時でも団体交渉に応じる態度を崩しておらず、何ら労働組合法第七条第二号に違反するところはない。
三 原告の労働組合法第七条第三号違反の主張に対する反論
1 主張の不適法性
(一) 原告の労働組合法第七条第三号違反の主張は、被告の審査段階では主張されていなかったものであり、本件訴訟において新たに追加されたものである。しかしながら、労働委員会の審査が、厳格ではないものの、当事者主義に近い構造をとっている(労働委員会規則第四〇条)ところよりして、相手方に抜き打ち的に不利益を与えてはならないから、申立人の相手方の行為が不当労働行為中の如何なる要件を満すかという主張は労働委員会を拘束するというべきである。したがって、主張された同条各号該当事由についての判断である労働委員会の命令の取消訴訟において、主張されなかった他の号該当の事由を追加主張することは許されないところとなる。
(二) 仮に、労働委員会は申立人のそのような主張には拘束されないとしても、やはり、労働委員会の命令に対する取消訴訟において、審査において主張しなかった新たな不当労働行為の要件を追加することは許されないというべきである。けだし、右取消訴訟において、労働委員会は、確かに被告となり当事者となっているが、実質は労使関係の公正な第三者であり、実質上の利害関係者は労使の対立当事者であり、しかも、右訴訟における取消事由はその後の労働委員会を拘束することにより実質上の当事者である労使を拘束するが、取消訴訟においてはそのうちの一方が当事者として欠けているのであるし、労働委員会には、その欠けている当事者のため資料を集める能力や熱意も欠けているであろうから、欠けている当事者は抜き打ち的な損害を被ることとなるからである。
2 支配・介入の不存在
(一) 前述のとおり、会社は組合に対し、条件を突き付けたことはない。ただ、深夜作業に対し、労働基準法上の権利を取るか、会社において創設された早朝協力手当を取るかの選択を迫っているに過ぎず、他に組合の意思を左右しようとの意図もないし、これに介入しようとの意図もない。早朝協力手当の方を選択して欲しいということも、それは希望に過ぎないし、組合ないし分会員が右法律上の権利を行使するというとき、会社としては、深夜作業の有無及びそれが業務上であったのか、私的希望によったのかを争うことは格別、それを阻止する方法はないのである。
(二) そもそも、早朝協力手当なるものは、会社が考えついたものではない。会社は、当初は朝刊配達員の深夜作業を解消し、午前五時以前の出勤を禁止すること、どうしても解消できない場合には深夜手当を支給しようとの考えだったのである。ところが、深夜作業をなくし午前五時始業、同七時あるいは七時一五分終了にすると所属組合員の私生活に影響し、退職を余儀なくされるため等の理由により、全員に対し早朝協力手当を支給するよう販労から迫られ、会社は、販労と深夜まで団体交渉を続けた結果、賃上げ交渉等を妥結する都合上、午前五時出勤を販労との関係で断念し、止むなく、右要求をのんだのである。
(三) 一方、組合としては、当初から深夜手当を要求していたのであるし、会社も積極的姿勢を示したのであるから、深夜手当を要求し、この範囲で解決すればよかったのである。ところが、組合は、会社の積極的な姿勢に対し、深夜作業を温存して欲しい、深夜手当は欲しいとの労働組合としては奇妙な態度をとり、その後、深夜手当の放棄が早朝協力手当の条件と理解してしまったのである。組合は、販労の力を借りて深夜作業を温存させて、深夜手当を得る一方、販労の力でかちとった早朝協力手当をも得ようとしているのであるが、そのような虫の良い要求を拒否することが支配とか介入とかになる筈がない。
第三証拠関係(略)
理由
一 請求原因第一項は、本件命令書写が原告に交付された日を除き、当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、右交付の日は昭和五四年五月二六日であることが認められる。
二 そこで、本件命令が違法なものかどうか検討する。
1 本件命令書理由第一欄記載の事実(被告主張の訂正後のもの)は全部当事者間に争いがない。
2 労働組合法第七条第一号、第三号の不当労働行為の成否
(一) 会社が分会員以外の朝刊配達員に対し早朝協力手当を支給し、分会員にこれを支給しないことは労働組合法第七条第一号にいう不利益取扱・差別に該当するというべきである。
(二) ところで、早朝協力手当は、会社と販労との間に昭和五三年五月三一日成立した早朝勤務についての四原則確認(<人証略>によれば、上記確認は、昭和五三年六月一〇日頃会社と販労間の協定書に盛り込まれたことが認められる)に基づいて創設されたものであり、(証拠略)によれば、販労は早朝協力手当が深夜手当の変形であることを理解し、これとは別個に深夜手当を請求するものではない態度を示したことが認められるところ、組合は右理解を拒絶し、深夜手当とは別個に早朝協力手当を要求した(原告は、組合は会社に対し早朝協力手当支給対象期間の始期以降については、早朝協力手当を深夜手当の内払との趣旨の限度でその変形支給と認めてよい旨言明した旨主張するが、原告代表者本人の供述(一回)によっても会社との団体交渉の席上組合が右言明をしたことは明らかでない)ため、妥結に至らず、支給されないでいるのであり、妥結すれば、分会員に対しても、販労所属の朝刊配達員に対する支給開始時に遡って支給されることになるのであるから、妥結すれば、販労と組合のその点の差別は解消するものである。
したがって、右組合間差別は、販労及び組合のそれぞれの自由な取引結果というべきであり、分会員に対する早朝協力手当の不支給は、会社において、分会員が組合に所属するが故又は組合活動をしたことの故のものであるとか、組合の運営への支配介入を企図したものであるとみることのできる特段の事情のない限り、不当労働行為を構成しない。
(三) そして、早朝協力手当が組合から提起された深夜手当支給問題への対応から生まれたものであること、早朝勤務についての四原則の内容並びに(証拠略)を総合すれば、早朝協力手当は、基本的には、深夜手当の変形、言い換えれば、深夜作業の業務上の必要性、作業時間の長短ひいては有無を問わず(もっとも、所員、代行所員、準所員と予備所員との間においては、類型的に上記諸点が考慮され、支給額に差異が設けられた)に支給される深夜手当(厳密には、深夜手当に代る手当)としての性格を有するものであり、併せて、会社の三か年計画への協力に対する見返り、言い換えれば、深夜作業廃止に伴い減少する所得の補償としての性格を有するものと認められる。
(四) 右のような、深夜手当の変形支給は、支給対象者である朝刊配達員の実際に行った深夜作業に対する深夜手当の額が早朝協力手当の額を超える場合、その超えた差額につき深夜手当請求権・支給義務は早朝協力手当の支給にも拘らず、残存すると解すべきである。
(五) しかして、朝刊配達員が午前五時前に出勤し、配達作業に従事した場合に、つねに当然にそれが深夜手当支給の対象となる深夜作業に該当し、会社において深夜手当支給義務を負い、当該配達員が女子であるときは刑罰を課せられることとなると解するのは相当でない。会社が右支給義務を負い、してはならないのは、会社が深夜の間に「労働させ」、「使用した」場合、すなわち、深夜作業をなすよういわゆる業務命令を出した場合であり、朝刊配達員が、自己の都合により又は全く任意自発的に、業務命令に基づかずに深夜作業を行ったとしても、深夜手当請求権は発生しないと解すべきである。もっとも、右業務命令は、明示のものに限られず、作業の実態等から認められる黙示のものもこれに含まれることはもちろんである。
会社の就業規則上、朝刊配達員の就労時間が午前五時から午前七時までと定められており、会社が明示的に深夜作業を命じたことを認めるに足りる証拠はない。また、午前五時前出勤が会社の黙認のもと慣行化していたとしても、本件証拠上、拘束力があったものとは認められず、それが慣行化したということから、直ちに右就業規則上の就労時間が変更されたといいうるものでもない。更に、深夜作業が朝刊配達員の個人的都合により、その必要と利益のために行われ、会社にとっての業務上の必要な利益もない限り、会社がこれを黙認したとしても、それにより業務命令の存在が肯認できるものでもない。
会社は、組合に対し、昭和五三年五月一八日「宅配早朝作業に対する提案」のなかで、配達部数・読者の要求を考慮するものとした出勤時刻設定基準を提示し、次いで同月三〇日右基準に基づいて設定した早朝配達員の「早朝出勤時刻表」を提示したが、右時刻表によれば、長岡地区販売所関係で、出勤時刻が午前五時前となるのは朝刊配達員七五名中七名のみであること(<証拠略>によれば、最も早い出勤時刻で午前四時三〇分であることが認められる)、これに対し組合及び販労とも反対したこと並びに会社と販労との間において確認された早朝勤務についての四原則の内容を総合すれば、午前五時前出勤の多くの部分は朝刊配達員の個人的都合によること、しかし、部数、配達区域調整がない状態では、読者の需要を満すには深夜作業を必要とする場合もあり、また、右個人的事情にかなり一般性があって、右調整がない限り、深夜作業の禁止は朝刊配達員の確保に支障を来たす恐れがあったこと、すなわちその限度で業務上の必要及び利益があったことが認められる。
(六) 原告は、組合の早朝協力手当要求に対し、会社が早朝協力手当が深夜手当の変形であることの理解を求めることを、いわゆる差違え条件の問題として捉え、会社がこれに固執するのは不当である旨主張する。いわゆる差違え条件とは、労働組合の要求に対し、使用者がそれを受け入れる前提として提示する条件であって、労働組合の要求とは直接的なかかわりをもたないものを指称するようである。
本件において、組合の深夜手当支給の要求に対し、会社が深夜作業の早期解消及び深夜手当支給のための基準(出勤時刻)の設定をその回答として提案して組合と交渉中に、これに併行して進めてきた販労との間の交渉において、販労から、深夜作業の漸次的解消及び早朝協力手当の支給を反対提案されて妥結したところから、これを組合に提案したもので、会社が早朝協力手当を含む早朝勤務についての四原則を、深夜手当支給問題の解消案すなわち組合の深夜手当支給要求に対する回答として提案したことは明らかである。そして、個々的にみて支給されるべき深夜手当の額が早朝協力手当の額を上廻る場合があり、その場合、早朝協力手当が深夜手当の変形であることを理解するとは、右上廻る額について深夜手当を放棄することを意味するが、そのような場合が全部というものでもなく、更には深夜作業に業務命令による部分が肯定されるとはいっても、なおかつ、それは結果的にみてのことであって、深夜作業を義務づけられていたことは証拠上認められず、朝刊配達員は何時でも何らの制裁なしに深夜作業を中止あるいは早朝協力手当の額に相当する深夜手当に対応する時間だけ深夜作業に従事しても一向に差支えないもの(会社としては業務命令をその限度内に止める意思の表明と解されないわけではない)であってみれば、早朝協力手当の受容に深夜手当の放棄を伴うことがあるとしても、その度合は稀薄なものといわざるを得ない。
それはとも角、前示一連の経過からして、早朝協力手当は、会社による個々的な出勤時刻の設定(これが本来の姿である)が早朝配達員の生活実態にそぐわず、その間に不公平を惹起する恐れがあるところから、個々的な深夜作業時間に拘らず、全体的に一律処理を図ったものに外ならないと認められるのであるから、個々的にみれば、利益、不利益な面がみられるのは、当然のことであり、深夜手当の放棄という不利益な面は早朝協力手当そのものの属性ともいうべきものであって、その支給の条件というものではないというべきである。
それに、場合により前述のように深夜手当の一部放棄という違法な面を伴うにしても、そもそも深夜作業は、朝刊配達員の半数近くを占める女子にあってはその健康及び福祉上の見地から労働基準法においてこれを禁止しているのであるし、男子にあっても決して好ましいものではあり得ないのであるから、労働組合としては本来その禁止の徹底を会社に要求すべきものといえる。にも拘らず、会社の提案した深夜作業解消の早期実現(深夜作業が解消すれば、深夜手当は不要となり、その支給問題も解消する)に反対し、会社に違法状態をなお数年間の長期にわたって存続させることを要求せざるを得ない(この立場は販労、組合とも同一である)という現実的対応のなかで創設された早朝協力手当は、前述の深夜作業の業務性の問題とも照し合せるとき、一概に不合理なものと極めつけられるものではない。
(七) 原告は、早朝協力手当支給対象期間の始期が昭和五三年四月(一日)であるところからして、それより前の深夜手当の放棄が早朝協力手当支給の条件となっている旨主張する。しかし、前示経緯及び(人証略)(不得要領な供述部分が見受けられるが、その言わんとするところは認定どおりの趣旨に解される)によれば、早朝協力手当は組合の過去二年分をも含めた深夜手当の支給要求に対する提案、すなわち右要求を早朝勤務についての四原則により全面的に解決しようとしたものと認められる。前述のとおり、早朝協力手当は、深夜作業解消実現までの期間との絡み及び深夜作業の業務性との関係において利益面、不利益面が混合ないし交錯しているものであり、その一面のみを切り離して取り扱うことは相当でなく、右深夜手当の放棄が右四原則提案受容の条件という関係に立つものとは認められない。
(八) 更に、原告は、販労が早朝協力手当が深夜手当の変形であることを理解したとしても、早朝協力手当支給開始前の本来支給されるべき深夜手当及び支給関始後の深夜手当の額が早朝協力手当の額を上廻る場合の差額について販労組合員がその請求権を喪ういわれはないのであるから、右理解を示すことを拒絶している組合所属の分会員とその点何等立場が異らないのに、早朝協力手当を一方に支給し、他方に支給しないのは理由のない組合間差別である旨主張する。販労が右理解を示しても、販労組合員が早朝協力手当の額を超えた額の深夜手当請求権を喪うことはないと解すべきは、原告主張のとおりである。しかしながら、早朝協力手当の支給を含む早朝勤務についての四原則は、前述のように違法状態を存続させざるを得ない現実の下での解決策であり、そのなかに法的には効果の承認されない事項が含まれることとなったのも、右のような対応としてであり、実際上の効果は認められるのであって、(人証略)によれば、右四原則確認後販労ないし販労所属の朝刊配達員が深夜手当を会社に請求したことはないこと(この事実状態の継続によりいずれ法的状態も解決することとなる)が認められ、実際的効果の重みを認識しているからこそ、組合は早朝協力手当について会社の求める理解を拒絶しているものと見られるのであって、理解を示すのと示さないとの間には差異があるといわざるを得ない。
それから、早朝協力手当は、販労にも組合にも属さない非組合員である朝刊配達員にも支給されているものであるが、弁論の全趣旨によれば、右受給者は早朝協力手当の外に深夜手当の支給を会社に請求したことも請求する意思もないことが認められ、支給に際し実際に会社が深夜手当の変形であることの理解を得たかどうかはとも角、理解したと同様の立場にあるものといい得る。
なお、早朝協力手当の支給開始前、非組合員において深夜手当を請求したことがなく、組合においては請求していたことは、深夜手当の支給義務が請求によって発生するものではなく、業務命令に基づく深夜作業により発生するものである(不支給は刑罰の対象となる)ところよりして、右判断に消長をきたすものではない。
(九) 原告は、早朝協力手当不支給は会社が組合の深夜手当請求という活動を嫌悪し、分会員の動揺を誘って会社の企図するとおり問題の解決を図ろうとすることの表れである旨主張する。そして、分会結成の経緯からして、販労が分会ないし組合を快く思っていなかったことは容易に推認でき、(証拠略)によれば、販労は、早朝協力手当を販労が会社から獲得した成果として、これを組合に及ぼしたくない気持を有し、妥結の際会社にこれを洩らし、妥結後直ちに、販労発行の「組合ニュース」及び会社の各販売所の掲示板により、所属組合員に早朝協力手当が支給されることを知らせるとともに、分会員には支給されない旨宣伝したことが認められる。しかし、右証拠によれば、笠原は、販労と妥結後直ちに中野と連絡の上、所要で被告委員会を訪れていた中野と会い、販労との妥結内容を知らせる等していることが認められるのであって、会社が早朝協力手当の支給について販労と組合とをこと更差別し、その不支給を武器にして分会員の動揺を誘ったというようなことはこれを認めるに足りる証拠はない。
また、弁論の全趣旨によれば、販労がいわゆる企業内組合であるのに対し、組合がそうでないことが認められるが、それ故に会社が販労と組合とを差別し、あるいは組合を嫌悪していると認めるに足りる証拠はない。
(一〇) そのようにして、原告の、会社が分会員に対し早朝協力手当を支給しないことをもって、組合の深夜手当要求という組合活動の故になされた差別である旨の主張は、それが労働組合法第七条の第一号に該当することとなるものであれ、第三号に該当することとなるものであれ理由がない。
3 労働組合法第七条第二号の不当労働行為の成否
(一) 前示のとおり、昭和五三年一月三一日組合の深夜手当支給要求が出されて、会社との間に開始された団体交渉は、早朝協力手当問題の登場後、会社において早朝協力手当が深夜手当の変形であることの理解を求めたのに対し、組合において深夜手当とは別個に早朝協力手当の支給を要求してこれを拒絶したまま進展せず、打切られた状態にある。
(二) これにつき、原告は、会社は早朝協力手当の支給について深夜手当の放棄という違法・不当な前提条件を提示してこれに固執し、早朝協力手当を支給しようとしないとともに、深夜手当支給問題についてまともに解決しようとする努力をしていない旨主張する。しかしながら、早朝協力手当支給を含む早朝勤務についての四原則が深夜手当要求に対する会社回答の一つであることは前述のとおりであるし、右四原則提案以前についても、会社から深夜手当支給基準の設定について具体的提案がなされ、組合においてもその検討を約していたものである。
そして、交渉の行きづまりは、早朝協力手当と深夜手当との関係について前述したところと異った理解の仕方をし、その両方を要求して譲らない組合の態度も一因をなすものと認められなくはないものであって、本件証拠上、いまだ会社は妥結への真摯な努力を欠くと認めるに足りない。
(三) したがって、原告の、会社に誠実団交義務違反があるとの主張も理由がない。
三 以上のとおりであって、本件命令は適法である。よって、原告の請求は理由がないから、これを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四条後段を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 羽田弘 裁判官 鈴木ルミ子)
地労委命令
〔新潟地労委 昭54・5・22 昭53(不)一二号 棄却〕
【命令書】
申立人 総評全国一般労働組合長岡支部
被申立人 新潟日報販売株式会社
主文
本件申立ては、いずれもこれを棄却する。
理由
第1 認定した事実
1 当事者等
(1) 申立人総評・全国一般労働組合長岡支部(以下「組合」という。)は、個人加盟による長岡地域の中小企業に働く労働者を中心に組織された労働組合で、組合員は約七〇〇人である。
(2) 組合日報販売分会(以下「分会」という。)は、組合に加盟した新潟日報販売株式会社の従業員で構成され、申立当時の分会員は八人である。
(3) 被申立人新潟日報販売株式会社(以下「会社」という。)は、昭和四〇年一一月一日設立され、株式会社新潟日報社(以下「新潟日報社」という。)が発行している日刊新聞「新潟日報」の販売、普及、折込み広告チラシの取扱いを主たる事業とし、肩書地(略)にある本社のほか新潟県内に二一販売所、二支所を有しており、申立当時の従業員は八三九人である。
会社の資本金は一千万円で、その全額を新潟日報社が出資しており、会社の常務取締役、取締役総務部長、営業部長、営業第二部長、営業部長代理、経理部長は新潟日報社からの出向社員である。
(4) 会社には、分会のほか、昭和四八年に結成された新潟日報販売労働組合(以下「販労」という。)があり、申立当時の組合員は二三四人である。
2 従業員構成、業務内容、賃金体系
(1) 従業員は、社員、専業所員、代行所員、準所員、予備所員、サンデーバート、少年所員で構成されており、その業務内容、賃金体系は次表(次ページ参照・編注)のとおりである。
(2) 深夜割増手当は、社員には昭和五一年七月一六日から、専業所員には昭和五二年七月一六日からそれぞれ支給されている。
3 朝刊配達業務
長岡市にある会社の販売所は、長岡東部販売所、長岡南部販売所、長岡北部販売所の三販売所(以下「長岡地区販売所」という。)で従業員は、所長及び所長代理を含め、それぞれ六五人、四一人、六四人である。
長岡地区販売所における朝刊配達業務の実態は、およそ次のとおりである。
(1) 社員、専業所員が午前三時ころに出勤し、本社から届いた新聞を配達区域ごとに分ける。
(2) 朝刊配達に従事する所員等(以下「朝刊配達員」という。)は販売所に出勤し、前日に組み込まれてある広告チラシを新聞に折り込んだうえ、担当区域を配達する。この折込み作業には一〇分から二〇分を要し、新聞一部につき月額一五円の折込手当が支給される。
なお、配達が終了すれば販売所にもどることなく、そのまま帰宅することが許されている。
(3) 朝刊配達員の半数近くは女性で、しかも家庭の主婦が多い。一人当たりの配達部数は、少ない人で一三〇から一四〇部、多い人は二六〇から二八〇部となっており、平均では一八〇から二〇〇部である。
(4) 会社の就業規則では朝刊配達の場合の就労時間は午前五時から午前七時までとなっている。
しかし<1>配達が午前六時三〇分以降になると購読者から苦情が出ることがあること。<2>朝刊配達員により配達部数が多いことや、配達区域が広いこと。<3>朝食のしたく等の朝刊配達員個人の都合等のため朝刊配達員の多くは午前五時前に出勤し、会社もこれを黙認し、午前五時前出勤は慣行化している。
4 分会の結成と深夜手当の要求
(1) 昭和五三年一月二一日、長岡地区販売所の従業員で販労の組合活動に不満をもった者約四〇人は、販労を脱退し、組合に加盟するとともに分会を結成した。
(2) 同月二六日の組合の団体交渉申入れに対して、同月三一日に行われた事務折衝において組合は、朝刊配達員に対する労働基準法(以下「労基法」という。)第三七条に基づく深夜割増賃金(以下「深夜手当」という。)の支給を要求し、早急に朝刊配達員の出勤時刻を調査するように要求したところ、会社は、出勤時刻の調査を了承した。
(3) 二月三日、組合執行委員長中野利策(以下「中野」という。)は、会社の深夜手当の不支給及び女子の深夜労働は労基法に違反するとして、会社及び新潟日報社を長岡労働基準監督署に告発した。
同監督署は事情聴取を行い、会社に対し改善策を講じて早急かつ自主的に解決するよう指示した。
(4) 同月八日、事務折衝が行われ、会社は、解決のためのたたき台を検討し提案する旨発言した。
<省略>
(5) 同月一八日、団体交渉が行われ、席上組合は朝刊配達員個々の出務すべき時刻の具体案を示すよう要求したが、会社はたたき台を出すまでに至っていない旨回答した。また組合は、女子の深夜作業の労基法違反の事実は黙認するから深夜手当を支給するよう要求した。
(6) 三月一五日、団体交渉が行われ、会社は深夜手当について、下記四項目を内容とする「宅配早朝作業に対する提案」と題する文書を提示した。
ア 労基法に基づく労働基準について、会社の定める就業規則中、朝刊宅配作業に従事する所員等の出勤時刻について、現実にそぐわない点もあり、また従業員の健康保持面からも考慮し、これが出勤時間帯を調整し、その適正化を図りたい。
(ア) 担当区域による所員等の労働時間の差異を調整し、公平かつ適正な体制づくりに努める。
(イ) 原則として、出勤時刻を午前五時とする。
(ウ) 作業上やむを得ない場合は、午前五時以前の就労もあり得るが、極力午前五時に近づけるべく措置する。
イ これが実施のため三か月間の調整措置期間を設け、各区域ごとの出勤時刻を設定する。
ウ 調整措置期間を終了した段階で、なお午前五時以前の就労をやむなくする区域については、早急に善処のための措置を講ずる。
エ 調整措置期間終了後、各区域ごとに設定された出勤時刻を基準に、昭和五三年二月にさかのぼり深夜手当または同相当の手当額を支給する。
これに対し組合は、上記エは納得できないとし、深夜手当を二年間さかのぼって支給することを主張した。
(7) 同月一七日、組合は深夜手当の支給について当地労委にあっせん申請した。同月二四日当地労委はあっせん作業を行ったが煮詰まらず、あっせんを継続して自主交渉の進展を見守ることにした。
(8) 同月二五日、組合は深夜手当支給に関する会社の態度を不満としてストライキを行った。しかし、ストライキ中に組合、会社間で四月一日に団体交渉を行い深夜手当について誠意をもって話し合うことが確認され、ストライキは途中で中止された。
(9) 四月一日、団体交渉が行われ、深夜手当について会社は「宅配早朝作業に対する提案の補足修正について」と題する文書を提示した。
その内容は下記のとおりである。
記
深夜作業者に対し、深夜手当または同相当額の支払を予測し、その支払を妥当とするため次の事項を実施する。
ア 会社は、各販売所における朝刊宅配作業上、必要とする適正な出勤時刻を各区域ごとに設定する。
イ 組合はアによって設定された出勤時刻について検討し、会社に対案を提示してほしい。
ウ 会社、組合は上記出勤時刻について、四月末日をメドとしてこれを調整し確認する。
エ 会社は合意した日から 日以内に、これが該当者に対し、昭和五三年二月にさかのぼり深夜手当または同相当額を支払う。
組合は、会社回答に前進があったことを評価し、これを了解し、会社の出勤時刻の設定をまつこととした。
(10) 同月一一日、団体交渉が行われたが、主として賃上げについての会社回答の説明がなされた。
(11) 五月一八日、団体交渉が行われ、会社は深夜手当について下記三項目を内容とする「宅配早朝作業に対する提案」と題する文書を提示した。
<省略>
記
ア 労基法に基づく労働基準について、会社の定める就業規則中、朝刊宅配作業に従事する所員等の出勤時刻について、現実にそぐわない点もあり、また従業員の健康保持面からもこれを考慮し、これが出勤時間帯を調整し、その適正化を図りたい。
(ア) 担当区域による所員等の労働時間の差異を調整し、公平かつ適正な体制づくりに努める。
(イ) 原則として、出勤時刻を午前五時とする。
(ウ) 作業上やむを得ない場合は、午前五時以前の就労もあり得るが、極力午前五時に近づけるべく措置する。
イ 会社はこれが実施のため、各区域ごとの出勤時刻を設定する。
(ア) 出勤時刻設定の基準は次(上表参照・編注)のとおりとする。
ただし、地域慣習上、及び農村部区域においては、この出勤時刻にとらわれずに読者の不満を惹起しない範囲で別途検討し、出勤時刻を定めるものとする。
(イ) 宅配担当者個人の都合による事由で、定められた出勤時刻より前に出勤することは認めないものとする。
(ウ) 適正所要時間については、必要により再点検する場合がある。
(エ) 会社、組合は上記出勤時刻について誠意をもって話し合い、可及的速やかにこれを調整確認するものとする。
(オ) 午前五時以前の就労をやむなくする区域についてはあくまでも暫定措置であり、今後早急に善処のための措置を講ずるものとする。
ウ 会社は組合と合意した日から
日以内に各区域ごとに設定された出勤時刻を基準として昭和五三年二月にさかのぼり、深夜手当または同相当額を支払うものとする。
これに対し組合は、深夜手当を二年間さかのぼって支給せよとの従来からの主張を繰り返した。
(12) 同月三〇日、団体交渉が行われ、会社は朝刊配達員が出勤すべき時刻を定めた「早朝出勤時刻表」を提示した。これによれば、長岡東部販売所では二六人全部が午前五時出勤であり、長岡南部販売所では二一人中二人が、長岡北部販売所では二八人中五人が午前五時前出勤で、他はすべて午前五時出勤となっている。
これに対し組合は、大多数が午前五時前に出勤しているという現状を無視しているとして反対し、実際に行われている作業に対する深夜手当の支給を主張した。
(13) 六月一五日、組合は前記あっせん申請を取下げた。
5 早朝協力手当
(1) 販労は、深夜手当を要求はしていなかったが、会社は団体交渉で深夜手当についての組台との交渉経過等を説明しており、五月一八日組合に提示した「宅配早朝作業に対する提案」及び同月三〇日組合に提示した「早朝出勤時刻表」を販労にも提示した。
(2) 五月三一日、会社と販労との間で団体交渉が行われ、会社は「宅配早朝作業に対する提案」及び「早朝出勤時刻表」について販労の意見を求めたところ、販労は<1>提案までの努力は理解できるが、提案は現状を軽視したものといわざるをえない、<2>販労の調査によればこの出勤時刻設定では困る者が一五〇人を超え、退職せざるをえない者が一〇〇人近くいる、<3>男女間の不公平、労働条件の低下等の問題が出てくる、など主張し、会社提案に反対した。会社は早朝勤務問題の早期解決を図るため、販労の口頭による提案にもとづき交渉の結果、同日、早朝勤務について、販労と下記四原則を確認し、早朝勤務に伴う深夜作業と深夜手当については問題にしなかった。
記
ア 今年度は午前五時出勤に近づけるため、各販売所ごとに一定の出勤時刻を設定する。
ただし、配達終了時刻は午前六時三〇分をメドとする。
イ 明年二月末までに実態調査を行ったうえで、昭和五四年四月一日から、三か年で午前五時前の作業をなくするよう計画をつくる。
ウ この三か年計画策定にあたっては、部数、区域の調整、人員配置、所得保障を含めるものとする。
エ 早朝出勤者の協力に対して、朝刊作業に従事する所員、代行所員、準所員に一律二、〇〇〇円、予備所員に一律一、〇〇〇円の手当を昭和五三年四月から支給し、将来は本給に繰り入れる。
(3) 翌六月一日、会社総務部長笠原新一(以下「笠原」という。)は中野に販労と確認した上記四原則についてその経緯を説明し、特にエにより所員等に支給される手当(以下「早朝協力手当」という。)は深夜手当に相当するものの変形であることを説明したうえ、四原則全部について了解を求めた。
(4) 五月二九日一人、三〇日一人、三一日一人、六月一日一六人、二日一人、六日一人と合計二一人の分会員が組合を脱退した。
(5) 六月六日、団体交渉が行われ、組合は早朝協力手当については深夜手当ではないから深夜手当とは別に分会員にも支給するよう要求したが、会社は早朝協力手当は状況の変化もあり、深夜手当を変化させたもので、組合がこのことを理解、合意すれば当然支給する。会社が早朝協力手当を設定した理由を理解すべきであると主張した。
(6) 同月一〇日、笠原と中野との話合いが行われ、早朝協力手当については、中野は深夜手当とは別に要求すると主張し、笠原は、組合が早朝協力手当の変形であることを理解しなければ支給できないと答えた。
(7) 同月一五日、従業員全員に賃上げ妥結にともなう賃金差額が支給された。その際販労組合員及びその他の従業員の支給該当者には早朝協力手当が四月にさかのぼって支給されたが、分会員の支給該当者には支給されなかった。
(8) 同月二一日、団体交渉が行われたが、早朝協力手当については、双方とも上記六月六日の団体交渉での主張を繰り返すのみで進展はなかった。
(9) 同月二七日、組合は、長岡南部販売所において早朝から午後二時までストライキを行った。
(10) 同月二九日、組合は本件申立てを行った。
(11) 七月六日、団体交渉が行われたが進展はなく、同月一四日及び一九日に行われた団体交渉では、夏季一時金が議題で早朝協力手当は議題とならなかった。
第2 判断及び法律上の根拠
1 組合は、会社が大多数の朝刊配達員に対し、出勤時刻に関係なく支給している早朝協力手当を分会員のみに支給しないのは、分会員であることを理由とする不利益扱いであり、労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為であると主張するので以下判断する。
さきに認定したとおり、早朝協力手当は会社と販労との間の合意にもとづいて支給されることとなったものであるが、慣行化されている朝刊配達員の午前五時前の出勤の現状を双方が了承し、それに伴う深夜作業と深夜手当については問題とせず、将来出勤時刻を午前五時に改めるまでの暫定的措置として、これを支給することとしたものである。そして、会社は組合に対し早朝協力手当を販労組合員らの朝刊配達員に支給するのと同趣旨で分会員である朝刊配達員にも支給することを提案したが、組合はこれを納得せず、早朝協力手当と併せて深夜手当の支給を要求したため、交渉が妥結するに至らなかった。
そのため分会員である朝刊配達員に対する早朝協力手当の支給が行われていないものである。
これらの事実によれば、会社が分会員であることを理由に差別する意思で、早朝協力手当を支給しないということはできないから、労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為であるとする組合の主張は採用できない。
2 組合は、会社が朝刊配達員の大多数が午前五時前に出勤している事実を黙認しながら、深夜手当を支給せず、団体交渉においても誠意ある態度を示さないため、深夜手当の支給について、いまだ解決をみないことは労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為であると主張し、深夜手当の支給を求めているので以下判断する。
労働組合法第七条第二号違反を理由として、団体交渉において要求する事項をそのまま実現する内容の救済を求めることは、特段の事情がない限り許されないものと解されるが、さらに、さきに認定したとおり、組合が深夜手当の要求をした昭和五三年一月三一日以降、二月一八日、三月一五日、四月一日、同月一一日、五月一八日、同月三〇日、六月六日及び同月二一日と団体交渉が行われ、しかも会社は深夜手当の支給問題を含む朝刊配達業務の改善を図るための提案をしているのであり、また、団体交渉が不誠意であると認められる疎明もない。
よって労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為であるとする組合の主張は採用できない。
3 以上により労働組合法二七条及び労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。
昭和五四年五月二二日
新潟県地方労働委員会
会長 小出良政