新潟地方裁判所 昭和55年(わ)69号 判決 1980年12月03日
本籍
新潟市西堀通四番町八二七番地
住居
同市旭町通二番町五二三八番地一九
会社役員
長瀬タツ
大正九年五月二〇日生
本店の所在地
新潟市西堀通四番町八一六番地五
有限会社新潟コンタクトレンズ研究所
代表者代表取締役
長瀬タツ
右長瀬タツに対する所得税法違反、法人税法違反、有限会社新潟コンタクトレンズ研究所に対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は、検察官泉川健一出席のうえ審理して、次のとおり判決する。
主文
被告人長瀬タツを懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に、被告人有限会社新潟コンタクトレンズ研究所を罰金五〇〇万円に各処する。
被告人長瀬タツにおいてその罰金を完納することができないときは、金四万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
被告人長瀬タツに対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人長瀬タツは、新潟市西堀通四番町八一六番地五において長瀬眼科病院を営む長瀬憲一の実姉であり、同人にかわって右長瀬眼科病院の人事及び経理の業務を掌理し治療を除く業務全般を統括しているものであるが、右長瀬憲一の業務に関し、同人の所得税を免れようと企て、薬品の架空仕入金額、医療機械賃借料等の架空経費を計上し、あるいは薬品のたな卸金額を除外する等の不正な方法により所得の一部を秘匿したうえ、
(一) 昭和五一年中における長瀬憲一の総所得金額が一億二八三〇万三二三八円でこれに対する所得税額が七〇六九万三二〇〇円であるのにかかわらず、昭和五二年三月一五日、新潟市宮所通二番町六九二番地の五所在の新潟税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が九八二〇万三四三三円で、これに対する所得税額が四八一一万九〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、長瀬憲一の同年分の正規の所得税額と申告税額との差額二二五七万四二〇〇円を免れ、
(二) 昭和五二年中における長瀬憲一の総所得金額が一億二四五一万八一二二円で、これに対する所得税額が七七五五万四七五〇円であるのにかかわらず、昭和五三年三月一五日、前記新潟税務署において、同税務署長に対し、みなし法人課税方式を選択し、みなし法人所得額が一〇三万八七七四円、総所得金額が七五二九万七三六〇円で、これに対する所得税額は合計四一一五万四四四六円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、長瀬憲一の同年分の正規の所得税額と申告税額との差額三六四〇万〇三〇〇円を免れ、
(三) 昭和五三年中における長瀬憲一の総所得金額が一億六八三九万七〇七五円でこれに対する所得税額が一億一〇四五万七二五〇円であるのにかかわらず、昭和五四年三月一五日、前記新潟税務署において、同税務署長に対し、みなし法人課税方式を選択し、みなし法人所得額が一二九一万九四四四円、総所得金額が八八五四万一四〇〇円で、これに対する所得税額は合計五三八二万六七五九円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、長瀬憲一の正規の所得税額と申告税額との差額五六六三万〇四〇〇円を免れ、
第二 被告会社は、新潟市西堀通四番町八一六番地五に本店を置き、コンタクトレンズ及び同付属品などの販売業を営むものであり、被告人長瀬タツは、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人長瀬は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、コンタクトレンズ等の売上の一部を除外し、或いはそのたな卸金額を除外するなどの不正な方法により、所得を秘匿したうえ、
(一) 昭和五一年一〇月一日から昭和五二年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三四三八万二〇三一円で、これに対する法人税額が一二九一万二八〇〇円であるにもかかわらず、昭和五二年一一月三〇日、前記新潟税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一〇四二万六八〇八円で、これに対する法人税額が三三三万〇四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度分の正規の法人税額と右申告税額との差額九五八万二四〇〇円を免れ、
(二) 昭和五二年一〇月一日から昭和五三年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五五八八万九七〇六円で、これに対する法人税額が二一五一万五六〇〇円であるにもかかわらず、昭和五三年一一月三〇日前記新潟税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二九八六万七八三八円で、これに対する法人税額が一一一〇万六八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度分の正規の法人税額と右申告税額との差額一〇四〇万八八〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部につき
一 被告人長瀬タツの当公判廷における供述
一 坂上忠次の検察官に対する供述調書
判示第一の事実につき
一 被告人長瀬タツの検察官に対する供述調書(昭和五五年三月七日付、同月八日付二通及び同月一〇日付)
一 長瀬憲一及び石井綾子(二通)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官矢島義幸作成の告発書及び調査書(三通)
一 新潟税務署長作成の昭和五四年八月一日付証明書(所一-一二一の分)
判示第二の事実につき
一 被告人長瀬タツの検察官に対する供述調書(昭和五五年三月一八日付及び同月一九日付)
一 斎藤智恵の検察官に対する供述調書
一 大蔵事務官片桐賢紀作成の調査書(五通)及び税額計算書(二通)
一 新潟税務署長作成の昭和五四年七月二七日付証明書
一 登記官作成の商業登記簿謄本(被告人有限会社新潟コンタクトレンズ研究所に関する分)
(法令の適用)
被告人長瀬タツの判示第一の(一)ないし(三)の各所為はいずれも所得税法二四四条一項、二三八条一項(但し、情状により同条二項を適用してそれぞれの罰金の多額を各判示の逋脱額とする)に、同被告人の判示第二の(一)及び(二)の各所為はいずれも法人税法一五九条一項に、被告人有限会社新潟コンタクトレンズ研究所の判示第二の(一)及び(二)の各所為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に各該当するところ、被告人長瀬タツにつき、所得税法違反の各所為についていずれも所定の懲役と罰金とを併料することとし、法人税法違反の各所為についていずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の(三)の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一の(一)ないし(三)の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で、また被告人有限会社新潟コンタクトレンズ研究所につき、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により判示第二の(一)及び(二)の各罪所定の罰金の合算額の範囲内でそれぞれ処断することとし、被告人長瀬タツを懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に、被告人有限会社新潟コンタクトレンズ研究所を罰金五〇〇万円に各処し、被告人長瀬タツにおいて右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金四万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、同被告人に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
被告人長瀬タツの敢行した本件事犯は、自己の統括掌理する長瀬眼科病院或いはその関連の有限会社新潟コンタクトレンズ研究所を舞台に、かなりの年月に亘って、所得税、法人税を通じて総額一億三五五九万六一〇〇円にも達する著しく多額の税金を逋脱したものであって、その情極めて悪質であり、病院自体の信用の失墜を招いたことはもとより、社会に与えた衝撃も少なからざるものがあったといわなければならない。
しかしながら、その所得隠へいの手口は比較的単純で、しかも不徹底であるため一度国税当局の調査を受けるや容易にその全貌が露見する程度のものであり、また同被告人自身本件発覚後素直に自己の非を認めて直ちに病院の業務から身を引くなど反省の態度を示し、他方病院及び被告人有限会社新潟コンタクトレンズ研究所においてもこれまでいかにも杜撰であった経理体制を充実して再度本件の如き事態に立ち至らないよう努めるとともに、本件については逋脱した本税に延滞税、重加算税を加えて完納するなどの状況にあり、被告人らが再犯に陥る可能性に乏しいことなどの事情もあり、これらを総合考慮して主文のとおり量刑した次第である。
(裁判官 若原正樹)