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新潟地方裁判所 昭和56年(行ウ)4号 判決 1983年11月29日

新潟県新潟市姥ケ山八二六番地

原告

浅井邦男

右訴訟代理人弁護士

中村洋二郎

中村周而

新潟県新潟市営所通二番町六九二番地

被告

新潟税務署長

田中祐輔

東京都千代田区霞ガ関三丁目一番一号中央合同庁舎第四号館

被告

国税不服審判所長

被告両名指定代理人

林信一

池田直樹

池田準治郎

青木清

若井正之

島田義夫

久川要造

被告新潟税務署長指定代理人

岩本忠

村岡篤史

被告国税不服審判所長指定代理人

山田和男

八木庸一

主文

一  原告の被告新潟税務署長に対する本件訴えを却下する。

二  原告の被告国税不服審判所長に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告新潟税務署長が昭和五四年一月二五日付で原告の昭和五二年分の分離長期譲渡所得の所得税についてした更正及び過小申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  被告国税不服審判所長が昭和五六年六月一八日付でした右決定に対する検査請求を却下する旨の裁決を取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告新潟税務署長

(本案前の答弁)

1 主文第一項、第三項と同旨。

(本案に対する答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告国税不服審判所長

主文第二項、第三項と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告新潟税務署長(以下「被告税務署長」という。)に対し、原告の昭和五二年分の所得税につき、原告所有の別紙物件目録記載の各土地を、昭和五一年九月二四日、訴外有限会社渡辺工務店に売渡した売買代金についての分離長期譲渡所得金額を算出するにつき、所得税法六四条一項、二項を適用して金一二三万〇五三四円として計算し、これに対する税額を金二二万八八〇〇円と算定して確定申告したところ、被告税務署長は、昭和五四年一月二五日付で右所得金額を金二四三四万三八〇〇円所得金額を金六三五万六〇〇〇円とする更正及び過少申告加算税(税額三〇万六三〇〇円)の賦課決定をした(以下「本件更正」、「本件賦課決定」という。)

そこで、原告は、被告税務署長に対し、昭和五四年三月二六日右各決定について異議の申立てをしたところ、同被告は昭和五四年六月二七日付で右異議申立てを棄却する旨の決定をし(以下「本件異議決定」という。)、右異議決定書の謄本は昭和五四年七月三日原告に送達された。そこで原告は、被告国税不服審判所長(以下「被告審判所長」という。)に対し、昭和五四年八月三日審査請求したところ(以下「本件審査請求」という。)、同被告は昭和五六年六月一八日付で右審査請求が法定の審査請求期間経過後にされたものであり、審査請求人が法定期間内に審査請求をすることができなかったことについて、国税通則法七七条三項に規定する「やむを得ない理由がある」と認めるべき資料はなく、本件審査請求は不適法であるとの理由でこれを却下する旨の裁決をした(以下「本件裁決」という。)。

2  しかし、被告税務署長のした本件更正は、右土地の売却が保証債務の履行のためになされた求償権の行使もできない場合なので所得税法六四条二項の適用がある場合なのにこれに当らないとして原告の分離長期譲渡所得を過大に認定した違法があり、被告税署長のした本件賦課決定も、本件更正を前提としてなされたもので、違法であるから、その取消しを求める。

3  また被告審判所長のした本件裁決には、次のような違法があるので、その取消しを求める。

(一) 本件異議決定書の謄本が原告に送達されたのは昭和五四年七月三日であるのに、被告審判所長はこれを昭和五四年七月二日であると誤認した。

(二) 仮に右決定書の謄本の送達が七月二日であるとしても、原告には、次のとおり、右審査請求期間徒過につき、国税通則法七七条三項の「やむを得ない理由」が存在するのに、被告審判所長は、これを誤認して右やむを得ない理由が存在しないものと判断した。

(1) 原告は、昭和五四年七月二〇日ころ本件審査請求書の作成及び提出を委任した訴外飯田正勝税理士の指示で新潟中央郵便局を訪ね、本件異議決定書の謄本の送達日を問い合せたところ、担当者から「七月三日」との回答を得たので、これを信用し八月三日までに審査請求すればよいと誤信したものである。

(2) そもそも行政上の審査請求期間の設定の趣旨は「国民の権利救済の保護」と「行政の早期安定」という二つの要請の調和によって成り立つものであって、その例外規定である「やむを得ない理由」の判断においても機械的・形式的に行うべきでなく、右二つの要請を考慮し諸般の具体的事情を通じて社会通念上真にやむを得ないか否かを総合的に判断しなければならないものである。しかるに本件では前記のように郵便局の担当者の言動を信じて所定の期間内に不服申立てをしなかったとしても社会通念上不可避の事態であって、これよりもたらされる不利益を一方的に原告に課することは許されるべきでなく、しかも本件審査請求はわずか一日の遅れにすぎないものであることをも総合して考慮すれば、本件は国税通則法七七条三項の「やむを得ない理由」にあたるというべきである。

(三) 被告審判所長の本件裁決は、本件審査請求の日から約一年一〇か月経過後になされているが、右被告は「やむを得ない理由」について全く調査をせず、しかも原告に対して弁明の機会を与えなかった違法がある。

二  請求原因に対する被告らの認否と主張

1  請求原因の認否

(一) 請求原因1項について

本件異議決定書の謄本が原告に送達された日が昭和五四年七月三日であることは否認するが、その余の事実は認める。右謄本が原告に送達された日は昭和五四年七月二日である。

(二) 同2項について

本件更正及び本件賦課決定が違法であるとの原告の主張は争う。

(三) 同3項について

本件裁決が違法であるとの原告の主張は争う。

2  被告税務署長の本案前の主張

本件訴えは、以下に述べるとおり、適法な審査請求についての裁決を経ないで提起されたものであるから、行政事件訴訟法八条一項ただし書、国税通則法一一五条一項により不適法であり、却下されるべきである。

(一) 原告は、昭和五四年三月二六日、被告税務署長に対し本件処分についての異議申立てをしたが、被告税務署長は同年六月二七日右異議申立てを棄却する旨の決定をし、右決定書の謄本を同年七月二日原告に送達した。

(二) 原告は、右決定書の謄本が送達された日の翌日から起算して一か月を経過した後である同年八月三日、右決定に対し被告審判所長に対し審査請求書を提出したので、同所長は、右審査請求は審査請求期間徒過後に行われた不適法なものであるとして昭和五六年六月一八日付でこれを却下する旨の裁決をした。

(三) 本件訴えは、適法な審査請求を経ていないものであるから行政事件訴訟法八条一項ただし書、国税通則法一一五条一項により不適法な訴えであることは明白である。

3  被告審判所長の主張

(一) 本件審査請求は、つぎのとおり法定の不服申立期間経過後になされた不適法なものであるから、これを却下した本件裁決は適法なものである。

国税通則法七七条二項は、審査請求は、異議決定書の送達があった日の翌日から起算して一月以内にしなければならないと規定しているが、これは租税法律関係を早期に安定させようとする見地から、この期間を徒過すると、もはや審査請求を許さない趣旨である。

ところで、原告は、本件異議決定書の謄本の送達が昭和五四年七月二日にあったので、同年八月二日までに審査請求をしなければならないのに、同月三日に審査請求をしたものである。

(二) 原告が主張する事実は、いずれも国税通則法七七条三項所定の「やむを得ない理由があるとき」に該当しない。

(1) 国税通則法七七条三項所定の「やむを得ない理由」とは、同条項がその事由として「天災その他」を例示していること、不服申立期間を設けた趣旨が租税法律関係の早期確定を図る点にあることを考慮すると、単に不服申立人の主観的事情では足りず、法定の不服申立期間内に不服申立てをしなかったことが、社会通念上、不可避である。又はいたし方ないと認められる場合、たとえば、地震、暴風、落雷等の天災現象に基因する場合、火災、交通との絶等人為による異常な災害に基因する場合等本人の責に帰することができない理由に基因する場合をいうのであって、法の不知、多忙、通知書を受領した代理人の過失・怠慢等はこれに該当しない。

(2) 原告は、飯田税理士から右謄本の送達日の確認を求められ、中央郵便局に問い合わせたところ、同郵便局の担当者が右送達を誤って回答したから「やむを得ない理由」があった旨主張する。

しかし、原告が郵便局に問い合わせたとする経緯それ自体「やむを得ない理由」に該当しえない事情である。すなわち、原告は、右決定書の謄本を郵便局で自ら受領したものであって、何日に送達を受けたかは原告自身で体験した事実であり、元郵便局に問い合わせる必要のない事がらである。それを後に問い合わせる必要が生じたとすれば、それは原告が右送達日を失念したからであり、仮に郵便局の担当者が送達日を昭和五四年七月三日であると誤って回答したとしても、それは原告が送達日を失念したことに起因する事情であって、全体的にみれば、所詮原告ないし原告側の主観的な事情であり、右「やむを得ない理由」には該当しない。

(三) 被告審判所長が、本決裁決を本件審査請求の日から約一年一〇か月後になしたのは、当時、本件審査請求の理由と同じ所得税法六四条二項の適用を求める審査請求事案が係属していたので、その調査・審理の結果、審査請求人の主張が認められることになれば、本件審査請求についても原処分庁に対し職権による減額更正を促すことを考慮していたので、右類似事案の結論が出るまで本件裁決を留保していたからであって、本件裁決が遅れたことには相当な理由があったものというべきである。

また仮に右の理由が合理的なものでないとしても、本件裁決が遅れてなされたことをもって、不服申立期間を経過した不適法な本件審査請求が適法となるものではなく、さらに却下裁決をなすべき期間は法定されていないのであるから本件裁決は違法となるものではない。

(四) 「やむを得ない理由」の存否につき、原告に弁明の機会を保障する法律上の規定は存しないのであるから、被告審判所長が原告に対し弁明の機会を与えなかったとして、本件裁決が違法となるものではない。

三  被告税務署長の本案前の主張に対する原告の認否及び反論

1  本案前の主張に対する認否

原告が審査請求書を提出した日が昭和五四年八月三日であることは認めるが、原告が異議決定書の謄本の送達を受けた日が同年七月二日であることは否認する。本件訴えが不適法であるとの主張は争う。

2  原告の反論

(一) 原告は、請求原因1項及び3項に記載のとおり、被告審判所長に対し、適法な審査請求をしたにもかかわらず裁決庁である被告審判所長が誤って本件審査請求を却下したものであるから、適法な審査請求の前置手続の経由があったものとなる。

(二) 被告税務署長の本案前の主張は、次のとおり、禁反言の法理に違反し、また信義則にも反するものであって、失当である。

原告は、本件審査請求書を昭和五四年八月三日に郵送した後、被告審判所長の職員が発送した審査請求書受領証を受取った。右審査請求書受領証には本件審査請求書の提出が期間を過ぎた不適法なものである旨の記載は全くなく、逆にわざわざ「下記の収受年月日を基礎としますので、念のため」と申し添えてあり、その後被告審判所長から本件審査請求が不適法であるという連絡は全くなかったのであって、このようなことからすれば本件審査請求は適法に受理されたものと考えるのが常識的である。ところがそれから約一年一〇か月を経過して国税通則法七七条三項の「やむを得ない理由」の存否について原告に弁明の機会を与えることもなく、一日遅れた不適法な審査請求であるとして本件審査請求を却下する裁決をしたものであり、これでは郵便局に保管されていた書留郵便物配達証を確認できなくなるほどの期間を経過しており、また本件裁決がこのように遅れたことにより本来なら他の手段(取消訴訟)を行使することにより可能であった救済がことごとく閉されることになるとすれば、被告審判所長の怠慢による不利益を原告に強いることになり、正義公平の理念に背反し、許されるべきでない。

四  原告の反論に対する被告税務署長の認否及び再反論

1  原告の反論(一)について

原告の被告審判所長に対する本件審査請求は不適法なものであり、これを却下した裁決が違法でないことは被告審判所長の主張通りであるからこれを援用する。

2  原告の反論(二)について

被告審判所長の職員が審査請求書受領証を発送し、右受領証には原告主張のような記載のあることは認めるが、その余は争う。

被告審判所長が審査請求書受領の通知をしたのは、被告審判所長の事務処理上の便宜並びに請求人の国税不服審判所に対する連絡等の便宜のため等の理由からであり、本件審査請求が適法な審査請求として受理したことを通知したものではない。このことはその記載文言からしても明らかである。審査請求の適否は、国税不服審判所における審理を経て判断されるもので、「審査請求書受領書」の送付は、およそ判断の結果を示すものではなく、その送付があったからといって、不適法な審査請求が適法な審査請求として取り扱わなければならないいわれはない。

また、却下の裁決が遅れた理由は、被告審判所長が主張した通りであるからこれを援用する。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五、第六号証

2  証人飯田正勝、原告本人

3  乙第一号証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証

2  甲第一号証のうち官公署作成部分の成立は認め、「7/3」とのメモ書き部分の成立は知らない。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求原因1項(本件更正、本件賦課決定及び本件裁決の経緯)の事実については、本件異議決定書の謄本が原告に送達された日を除いていずれも当事者間に争いがない。

二  まず被告審判所長の本件裁決について判断する。

1  本件異議決定書の謄本が原告に送達された日について(請求原因3項の(一)の主張)

(一)  成立に争いのない甲第五号証、乙第一号証、官公署作成部分につき成立に争いのない甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、乙第一号証の郵便物配達証明書には本件異議決定書の謄本が原告に対し昭和五四年七月二日に配達された旨の記載がなされていること、右の郵便物配達証明書は、郵便局が配達証明郵便物を配達又は交付したときに受領印を押捺させて作成する書留郵便物配達証に基づき、昭和五四年九月五日被告税務署長の申出により再発行として作成されたものであって、右の書留郵便物配達証は郵便局において配達月日ごとに整理・保管されているので郵便物配達証明書が再発行される場合でも配達日を特定し証明できることが認められるから、本件異議決定書の謄本が原告に送達された日は昭和五四年七月二日であると認定するのが相当である。

もっとも甲第一号証には「54・7・10」とのゴム印の押捺があるほか、「7/3」との記載があるが、これは証人飯田正勝の証言によれば証人の飯田正勝税理士が原告から送達日を確認した際に鉛筆でメモ書きしたものであり、また原告本人尋問の結果中には原告主張に副う供述部分が存するが、それとても原告が昭和五四年七月二〇日ころ新潟中央郵便局事故係の担当者から本件異議決定書謄本の原告への送達日は昭和五四年七月三日と聞いたというにとどまるものであり、他にこれを裏づける証拠もないので、これをもって直ちに右認定を左右するものとはいえず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右認定事実によれば、本件異議決定書の謄本が原告に送達された日は原告主張の昭和五四年七月三日ではなく、同年七月二日であるから、被告審判所長が誤認したとの原告の主張(請求原因3項の(一))は理由がない。

原告が、被告審判所長に対し、本件審査請求をした日が昭和五四年八月三日であることは、当事者間に争いがないので本件審査請求は、本件異議決定書の謄本が原告に送達された日の翌日から起算して一か月以内になされたものではなく、国税通則法七七条第二項の審査請求期間徒過後になされたものであることは明らかである。

2  原告主張の国税通則法七七条三項の「やむを得ない理由」の存否について(請求原因3項の(二)の主張)

国税通則法七七条三項は、異議決定に対する審査請求期間を不測の事態が発生したために遵守できなかった場合に備えて右期間を徒過したことにつき特に救済をはかるために設けられた規定であるから、その「やむを得ない理由」とは天災に例示されるような一般人に通常期待される程度の注意をもってしてもなお避けることができないと認められるような客観的な理由を指すものと確すべきである。ところで本件においては、原告が主張するように、原告が郵便局の担当者から本件異議決定書謄本の送達月日を七月三日であるとの誤った回答を受けたとしても、前掲甲第一号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件異議決定書の謄本は受取人の原告が不在であったため新潟中央郵便局に留置保管されていたところ、原告自身が不在通知書を持参して右郵便局に出向きその窓口において交付を受けたことが認められるので、本件異議決定書の謄本の受送達は原告自身が直接経験した事実であることを併せ考えると、原告には本件審査請求期間の徒過について一般人に通常期待される程度の注意をもってしてもなお避けることのできないと認められる客観的な理由があったとはいえず、右の「やむを得ない理由」があるとは認められない。

3  原告の請求原因3項の(三)の主張について

(一)  被告審判所長が、本件裁決を本件審査請求の日から約一年一〇か月後になしたことは当事者間に争いのない事実であるが、不服申立期間を経過した不適法な審査請求につき却下裁決をなすべき期間を定めた法律上の規定は存在しないのであるから、右事実のみから本件裁決が違法となるものではない。

(二)  原告は、「やむを得ない理由」の存否につき、原告に弁明の機会を与えなかったから本件裁決は違法であると主張するが、右理由の存否につき、審査請求人に弁明の機会を保障する法律上の規定は存在しないのであるから、被告審判所長が原告に右弁明の機会を与えなかったからといって本件裁決が違法になるものではない。

4  以上の検討結果によれば、本件裁決にはこれを取り消すべき違法を認めることはできない。

三  つぎに被告税務署長の本案前の抗弁について判断する。

1  まず、原告の本件審査請求は、国税通則法七七条二項の審査請求期間徒過後になされたものであること、右期間内に不服申立てをしなかったことについて原告が主張する事実はいずれも同法七七条三項所定の「やむを得ない理由があるとき」に該当しないこと、原告の本件審査請求につき、審査請求期間経過後になされたものであり、右期間内に審査をすることができなかったことについて、右「やむを得ない理由」がないとして却下した本件裁決にはこれを取り消すべき違法を認めることができないことは前記認定のとおりである。

右事実によれば、原告の被告税務署長に対する本件訴えは、適法な審査請求についての裁決を経ないで提起されたものであって、行政事件訴訟法八条一項ただし書、国税通則法一一五条一項により不適法な訴えとして、却下されるべきである。

2  原告の禁反言の法理、信義則違反の主張について

(一)  被告審判所長の職員が原告主張のとおりの記載内容の審査請求書受領証を原告に対し送ったことは当事者間に争いがない。しかし成立に争いのない甲第四号証の一、二にあたる右審査請求書受領証はその記載内容からして被告審判所長が原告の郵送提出した審査請求書を受領した事実を明らかにしたものにすぎず、本件審査請求が適法なものであることを証明したものではない。また審査請求期間を徒過した審査請求がなされた場合、被告審判所長は審査請求人に対し国税通則法七七条三項の「やむを得ない理由」について主張立証するように促すことなく審査請求を却下しても、行政訴訟において「やむを得ない理由」の存否について争う機会が与えられているから、これをもって直ちに違法ということもできない。さらに被告審判所長がした本件裁決は本件審査請求の日から約一年一〇か月を経過しているが、右期間中でも審査請求をした日から三か月を経過したときには、原処分である被告税務署長のなした本件更正、本件賦課決定の取消訴訟を提起することが許されているから(行政事件訴訟法八条二項一号)、本件裁決が審査請求から約一年一〇か月を経過していても原告の権利救済を著しく困難ならしめるともいえない。

(二)  右の検討結果によれば、被告税務署長の本案前の主張は、禁反言の法理にも、また信義則にも反するものということはできない。

四  以上によれば、原告の被告税務署長に対する訴えは不適法であるから却下し、被告税務署長に対する請求には理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中紀行)

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