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新潟地方裁判所 昭和59年(行ウ)4号 判決 1986年5月30日

新潟県岩船郡荒川町大字坂町一七二二番地

原告

仲田悦司郎

右訴訟代理人弁護士

古川兵衛

新潟県村上市三之町一一番一号

被告

村上税務署長

長谷清作

右指定代理人

高須要子

江口育夫

池田準治郎

若井正之

辻徹

星野一雄

石井勝已

神田富雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五六年六月八日付でした原告の昭和五四年分所得税の更正のうち課税される総所得金額〇円、課税される分離雑所得金額〇円、納付すべき税額マイナス四万八二〇〇円を超える部分(ただし、いずれも異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五四年分の所得税について、原告のした確定申告、これに対して被告のした更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定、原告が被告に対してした本件更正及び右過少申告加算税の賦課決定に対する異議申立、これに対して被告がした異議決定、原告が国税不服審判所長に対してした審査請求、これに対して国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表(一)記載のとおりである。

2  しかし、被告がした本件更正は、原告の不動産譲渡による所得につき、所得税法二条一項一八号、三三条二項一号の解釈を誤り、同法六四条二項の適用を否認してなしたものであるから違法である。

3  よって、原告は、被告に対し、本件更正のうち請求の趣旨1項記載の範囲を超える部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実は認める。

2  同2項の事実は否認する。

三  被告の主張

1  原告の昭和五四年分所得金額

(一) 総合課税分

(1) 不動産所得 二五万一六〇〇円

原告が同人所有の新潟市岡山二八九-五所在の土地及び同土地上の家屋を賃貸したことによる賃料収入三四万円から固定資産税等の必要経費八万八四〇〇円を控除した金額。

(2) 給与所得 一九五万円

原告が訴外株式会社北進建設(以下「訴外会社」という。)から受けた取締役報酬三〇〇万円から給与所得控除として一〇五万円を控除した金額。

(二) 分離課税分

(1) 短期譲渡所得 マイナス一七七万六〇九〇円

原告が昭和五四年一一月二七日原告所有の新潟市岡山二八五-五所在の土地、建物を訴外仲田禎次郎に売り渡した譲渡収入七八〇万六〇一二円から右土地、建物の取得費九五八万二一〇二円を控除した金額。

(2) 土地譲渡等の所得 二二五六万三〇〇〇円

<1> 土地譲渡収入 二八四二万一五二〇円

原告は別表(二)記載の四筆の土地(地積合計一九三四平方メートル)を所有し、訴外仲田守太郎(以下「守太郎」という。)は新潟県岩船郡荒川町大字坂町字腰廻一七四番地(以下、同所の土地の表示については地番のみを記載する。)外二七筆の土地(地積合計四七五九・六五平方メートル)を所有していた(以下、右各土地を包括して「従前地」という。)。原告及び守太郎(以下「原告ら」という。)は、昭和五四年八月から同年一一月にかけて、従前地につき土留め及び土盛り工事、舗装道路、側溝及び水道の設置、区画の整理等の造成工事を行ない、従前地は道路部分を除くと合計五三四九・九九平方メートルの造成宅地(以下「本件土地」という。)となった。原告らは、本件土地のうち別表(三)記載の土地(以下「本件分譲地」という。)を同表記載の各譲渡年月日に各譲渡価額でもって各譲受人に売り渡した(分譲土地面積合計三〇六八・二四五平方メートル、譲渡価額合計九八三六万八〇〇〇円)。

ところで、本件土地については、原告と守太郎の各所有する従前地との対応関係を確定することが困難であること、本件土地の造成は原告らが共同で行なったことに鑑みると、原告らはそれぞれ従前地の所有面積割合に対応して本件土地を所有しているものと解すべきであるところ、右の割合に基づき本件分譲地のうち原告が所有する部分の譲渡価額を算出すると二八四二万一五二〇円(ただし、円未満切り捨て。以下同じ。)となる。

<省略>

<2> 本件分譲地の取得価額 二七九万二九六八円

原告は従前地を四八七万円で取得したものであるから、本件分譲地のうち原告所有部分の取得費は二七九万二九六八円となる。

<省略>

<3> 造成工事費 三〇六万五五五二円

原告らは、本件土地の造成工事費として一八五〇万円を要したから、本件分譲地のうち原告所有部分の造成工事費は三〇六万五五五二円となる。

<省略>

<4> したがって、原告の本件分譲地の譲渡による所得(<1>-<2>-<3>)は二二五六万三〇〇〇円となる。

28,421,520-2,792,968-3,065,552=22,563,000

2  本件更正の適法性

(一) 本件分譲地の譲渡による所得につき分離課税分における土地譲渡等の雑所得と認定したことについて

(1) 原告は、本件分譲地の譲渡による所得につき所得税法六四条二項の適用を受けるものとして確定申告をした。しかし、以下に述べるとおり、本件分譲地は準たな卸資産に該当し、本件分譲地の譲渡による所得には同法六四条二項の適用はない。

<1> 従前地は別紙図面の赤線で囲んだ部分の三二筆の土地からなる一団の土地であるが、各土地の地形は不揃いで、地目も田、畑、雑種地と様々であった。従前地の状況は、東側の一部が国道七号線に接していたが、右部分の土地は同国道面より約三〇センチメートル低く、北東側の宅地に接する部分を除いた他の部分は田或るいは畑と接しており、この部分の土地は右国道面より約七〇ないし一五〇センチメートル低い低湿地であった。原告らは、従前地の西側部分を畑として使用し、東側の国道沿いの部分には原告が取締役を務める訴外会社のプレハブ造り事務所を設けていたが、その余の部分は、田または雑草が茂る湿地で、土木工事の残土、コンクリート、木材及び壁材等の廃材が散乱した状態であり、従前地のままでは宅地として使用することは不可能であった。

<2> 原告らは、昭和五四年八月から同年一一月にかけて従前地を国道七号線の路面と同じ高さまで埋立し、起伏のない平な土地に整地し、舗装道路を設置し、右道路に沿って側溝を設置した。さらに原告らは隣接する田畑及び水路に土砂が流出するのを防ぐため護岸用ブロック(高さ三〇センチメートル、横四〇センチメートル)を用いて従前地の南側部分に七段、高さ二一〇センチメートル、北側部分に六段、高さ一八〇センチメートル及び西側部分に三段、高さ九〇センチメートルの土留工事を行ない、土盛り、整地をして一八区画の宅地部分に区画割し、本件土地を造成した。水道工事については、盛土工事が完了し、道路部分と区画割が一応できた後に、道路の下に水道の本管及び消火栓を、各区画部分に至る水道の枝管を各設置した。本件土地には一八区画の宅地が造成されたが、原告らが昭和五四年中に分譲した本件分譲地はそのうち一〇区画の土地である。

<3> 本件分譲地の一平方メートル当たりの平均譲渡価額は、その合計面積が三〇六八・二四五平方メートル、譲渡価額合計が九八三六万八〇〇〇円であったから、三万二〇六〇円となる。

ところで、守太郎は、昭和五四年一〇月三日、従前地の一部である一七五七番一五の土地(地目、雑種地)一二二平方メートル及び一七三六番一二の土地(地目、雑種地)四四平方メートルを売買代金一二四万二〇〇〇円で荒川町から購入しており、その一平方メートル当たりの単価は約七四八二円であった。

荒川町から取得した右土地は、本件土地の一部を構成しているものであるところ、その取得時期が本件分譲地の譲渡時期に直近していることに鑑みると、一平方メートル当たり七四八二円の土地が宅地造成をしたことにより三万二〇六〇円の土地となったものであり、四・二八倍の値上がりをしている。このことは、本件分譲地にかかる区画形質の変更が顕著で、従前地を宅地に造成することによって土地の形質を変え、意図的、計画的に地価の値上がりが図られたことを示している。

<4> 原告の従前地の取得は昭和五一年であり、本件分譲地の譲渡は昭和五四年になされているが、本件分譲地の価値の増加は、取得後約三年という短期間で譲渡されていることに鑑みると、原告が従前地を取得後本件分譲地を譲渡するまでの間における時の経過による地価の値上がりが寄与した程度はほとんど無いか、または甚だ僅少であったもので、そのほとんどが前記の区画形質の変更をもたらした宅地造成の結果によるものというべきであるから、本件分譲地を譲渡したことによる所得は、従前地を宅地に造成し、整備、改良したうえで譲渡したことによって生じたものといえる。

<5> 所得税法は、資産の譲渡によって生じた所得を課税の対象とする場合、租税負担公平の見地から一律の取り扱いをすることなく、臨時的、偶発的に発生する所得は、経常的、計画的に発生する所得に比して担税力が劣るところから、これを譲渡所得として区別し課税の対象としている。すなわち、譲渡所得に対する課税は、資産の長期にわたる保有期間中に、所有者自身の意思によらない外的条件の変化、例えば物価の騰貴、環境や社会的状勢の変化等に基因して逐年生じた資産の値上がりによる増加益を所得として、その資産が個々の所有者の支配を離れて他に移転する機会に、これを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和四七年一二月二六日第三小法廷判決・民集二六巻一〇号二〇八三ページ等)。

これに対し、同じく資産の譲渡による所得であっても、経常的、計画的に発生するものは、譲渡所得には該当しないものとされている。所得税法三三条二項一号が、同法二条一項一六号及び所得税法施行令(以下「施行令」という。)三条に定める商品、製品等のたな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得を譲渡所得から除外しているのは、右の趣旨を示すものである。

ところで、所得税法三三条二項一号では、たな卸資産のみならず、たな卸資産に準ずる資産として施行令八一条一号の雑所得を生ずべき業務にかかるたな卸資産に準ずる資産の譲渡による所得も譲渡所得から除外されている。例えば、農地、雑種地の所有者が当該土地を宅地に造成して他に譲渡するような場合は、宅地として造成することによって生じたその土地の増加益を譲渡行為によって実現せんとするものであって、何ら造成等をしない土地譲渡による所得の発生が所有者の意思によらない地価の値上がりによる土地の増加益を譲渡行為によって実現する偶発的なものといい得るのに対して、意図的、計画的であり、この場合の譲渡行為は、たとえ業として行われたものではなくとも、営利を目的として行われたものということができ、不動産業者がその所有土地を宅地に造成して他に転売する場合と異なるところはない。ただ、不動産業者であれば、その所有土地はたな卸資産であるが、不動産業者以外の者がその所有土地を宅地に造成する等土地の増加益発生の原因となる改良を加えた土地はたな卸資産に準ずる資産となり、これを他に譲渡する行為は施行令八一条一号の「雑所得を生ずべき業務」に該ると解される(東京高裁昭和四八年五月三一日判決、行裁例集二四巻四・五号四六五ページ)。

これを本件についてみれば、原告らの本件分譲地の所有期間は僅か三年にすぎず、本件分譲地の譲渡による所得は、租税特別措置法二八条の四の分離課税による土地譲渡等の雑所得に該当し、所得税法三三条一項の譲渡所得には該当しないのである。

(二) 以上のとおり、原告の昭和五四年分の分離課税による土地譲渡等の雑所得の金額は二二五六万三〇〇〇円となるところ、本件更正による金額(ただし、異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの)二一九一万二〇六六円を上回るものであるから、本件更正は適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1項について

全部認める。

2  同2項について

(一)の(1)の冒頭事実のうち原告が本件分譲地の譲渡による所得につき所得税法六四条二項の適用があるとして確定申告したことは認め、その余の事実は否認し、<1>ないし<4>の事実は認め、<5>の主張は争う。

(二)の主張は争う。

五  原告の主張

1  本件分譲地の譲渡による所得について

被告は、本件分譲地を、造成前は固定資産であったが、造成により準たな卸資産に転化させる区画形質上の変更が加えられたとして所得税基本通達三三―四(以下「通達」という。)に基づき準たな卸資産と認定し、本件分譲地の譲渡による所得を分離課税の対象たる土地譲渡等の雑所得とした。しかしながら、通達は、営利を目的として不動産に若干の形質変更を加えて譲渡した場合、当該不動産の譲渡による所得に対し譲渡所得として課税するか、或いは形質変更による土地の交換価値の増大に着目し、それによる所得を雑所得として課税するかを判断する目的で作られた基準であるところ、原告らが従前地に加えた区画整理のための造成工事は、次に述べるとおり、通達にいう土地を準たな卸資産に転化させる区画形質の変更に該当するものではなく、また、仮に右造成工事が外形的に通達に該当するとしても、税務署職員に対する内部的取り扱い規程にすぎない通達の機械的、形式的解釈に基づいて課税の実質的公正を図ろうとする所得税法六四条二項を解釈するのは本末顛倒であって、同法の立法趣旨を誤解したものというべきである。

(一) 通達の「固定資産である林地その他の土地をたな卸資産又は準たな卸資産に転化させる区画形質の変更」につき、税務当局は、建物の建設が可能な状態になる程度まで土地に加工を加えた場合、つまり非宅地に造成工事等が加えられた結果、実質的に宅地化された場合と解している。

本件分譲地は、公簿上雑種地とされていたが、昭和四五年八月以降訴外会社の本社事務所敷地、建設資材置場、駐車場等として使用されてきたものであって、その現況は宅地であり、また、分譲にあたって加えた造成工事も最小限の土留め工事や道路の設置に止まるごく小規模なものであった。したがって、右造成工事は、現況宅地の土地に分譲を容易にするため加えられた小規模な変更にすぎず、通達について前記の確釈をとったとしても、そこに言われる区画形質の変更には該当しないものである。

(二) 所得税法上の所得の類別、すなわち、事業所得、雑所得、譲渡所得の別は、譲渡する資産の種類、すなわち、たな卸資産、準たな卸資産、固定資産の別に対応して定められている概念であるが、客観的には同一の資産の売却であっても、譲渡の目的(営利の目的)と譲渡の態様(継続性)いかんによって、事業所得となり或いは譲渡所得となる。準たな卸資産については、所得税法上たな卸資産(事業所得を生ずべき事業に係る資産)に準ずる資産とされているだけで、法律及び政令において具体的な定義規定はないが、右の抽象的定義及び所得税法三三条二項の法意に基づくと、営利目的を持った譲渡にかかる資産であることが必要である。

(三) 譲渡所得と非譲渡所得の区別は、所得税法三三条二項一号、二条一項一六号、施行令三条に明示されているとおり、主観的要素としての営利目的と客観的要素としての継続性の有無によって区別される。原告らは、後記2の(一)のとおり訴外会社の債務につき連帯保証等をしていたところ、訴外会社が事実上倒産したため、右保証債務を履行すべく従前地を売却しようと考えたが、従前地は訴外会社の敷地等として利用されてきた一団の土地であり、当時の現況のまま一括して売却することが困難な事情にあったことから、これに区画整理のため小規模な造成工事を加え、小区画に分割した上、これを譲渡したものであって、本件分譲地の譲渡は保証債務の履行をするために行なった非営利的、非継続的な資産の譲渡であった。そして、後記2の(二)のとおり右譲渡による土地代金は全額保証債務の履行に向けられ、原告は全く利得していないものである。このような場合は、土地にいかなる区画形質上の変更が加えられたとしても、営利目的でないことが明白であるから、通達を適用する余地はなく、本件分譲地を準たな卸資産とすることはできない。

(四) これに対し、被告は、右区別の基準を「経常性」と「計画性」という専ら譲渡形態の客観的要素に求めるべきであると主張し、その実質的根拠を経常的、計画的に発生する所得の担税力の差に求めるが、右に主張する担税力なるものは全くの擬制の産物にすぎないばかりか、右の経常性及び計画性なるメルクマールが所得税法上どこにも見い出せず、同法三三条二項一号、二条一項一六条、施行令三条に明示された主観的要素たる営利の目的を不当に捨象しているという点で、被告の右主張は法解釈論として成り立ち得ないものである。

2  所得税法六四条二項の適用について

(一) 原告は、別表(四)記載のとおり、債権者欄記載の各債権者に対し、訴外会社が右各債権者に対して負う保証の範囲欄及び保証額欄記載の債務につき、保証年月日欄記載の日に保証の種類欄記載の内容の各保証をした。

(二) 原告らの本件分譲地の譲渡代金は昭和五四年から昭和五五年にかけて原告らに支払われたが、右譲渡代金は全額債権者の一人である銀行の守太郎名義の口座に一旦入金され、右銀行を介してその全額が原告らの保証債務の支払いに充てられた。

(三) 訴外会社は、昭和五四年頃、事実上倒産し、原告の訴外会社に対する求債権の行使はその全部につき全く不可能である。

(四) 本件分譲地は前記1で述べたとおり固定資産であるから、以上によれば原告の本件分譲地の譲渡による所得については所得税法六四条二項が適用され、計算上右所得はなかったものとみなされるものである。

六  原告の主張に対する被告の認否

1  原告の主張1について

冒頭事実のうち、被告が本件分譲地を、造成前は固定資産であったが、造成により準たな卸資産に転化させる区画形質上の変更が加えられたとして本件通達に基づき準たな卸資産と認定し、本件分譲地の譲渡による所得を分離課税の対象たる土地譲渡等の雑所得としたことは認めるが、その余の主張は争う。

(一)及び(二)の主張は争う。租税法規の解釈適用における狭義性、厳格性の要請は、非課税要件規定の解釈適用において一層強調され、租税法の規定はみだりに拡張適用すべきものではない。

2  同2について

(一)の事実のうち、別表(四)の番号1の保証を除き認める。右1の保証の事実は知らない。

(二)の事実は知らない。

(三)の事実は知らない。

(四)の主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に各記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1項の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告の主張1項の事実は、いずれも当事者間に争いがない。(ただし、(二)の(2)の<3>の造成工事費について、被告の計算上従前地の地積(六六九三・六五平方メートル)に明白な誤記(六六九三・五五平方メートルと記載)があり、右数値によって計算している関係上結果的に違算となるが、従前地の正確な地積によって造成工事費を算出すると三〇五万五五〇六円(<省略>)となり、右価格を基に本件分譲地の譲渡による所得を算出すると二二五六万三〇四六円(28,421,520-2,792,968-3,065,506=22,563,046)となり、いずれにしても本件更正における金額二一九一万二〇六六円を上回るものである。)

三  以上のとおり、本件においては原告の所得算出の基礎となる数値について当事者間に争いがなく、唯一の争点は本件分譲地の譲渡による所得が、固定資産の譲渡による譲渡所得に該当するか、準たな卸資産の譲渡による雑所得に該当するかにあるので、以下検討する。

1  所得税法上、譲渡所得とは資産の譲渡による所得をいうものと定められている(同法三三条一項)が、その実質は、所有資産の価値の増加益(キャピタル・ゲイン)、すなわち投資用、非販売用の資産の所有期間中における所有者の意思によらない物価水準の上昇、近隣の土地開発、付近における道路の設置等の外部的要因の変化に基因して逐年生じた資産の値上がりによる増加益であり、譲渡所得に対する課税は、資産の増加益がその譲渡によって実現するのを機会に、その増加益に課税しようとするものであって、それ以外の所有者自身の行為ないし活動によって資産に付加した価値の増加に基因する所得は、譲渡所得以外の所得であると分類できる。

他方、所得税法は、資産の譲渡による所得であっても、同法二条一項一六号及び施行令三条に定めるたな卸資産の譲渡、その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得のみならず、更に、たな卸資産に準ずる資産として施行令八一条一号に定める準たな卸資産の譲渡による所得も譲渡所得に含まれない旨を定めている(同法三三条二項一号)。

2  被告の主張2項(一)(1)のうち<1>ないし<3>の各事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証及び第五号証の一、荒川町商工会会長作成部分を除き成立に争いがなく、右作成部分について弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証の二、証人吉田英雄の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告らは訴外会社の債務につき連帯保証等していたところ、訴外会社が事実上倒産の危機に直面し、保証債務の履行をしなければならなくなったため、従前地を売却し、この売却代金をもって右保証債務の履行に充てようとしたこと、ところで、従前地は全体の地積が六六九三・六五平方メートルの一団の土地であり、一括して売却しようとした場合買手が見つからず、又は買手が見つかった場合にも大手スーパー等が買い受けることになると地元商工業者に大きな影響を与えるおそれがあり、以上の点をふまえて大口債権者及び地元商工会との話し合いにより、従前地を宅地に造成し、これを小区画に区割りして分譲することになったこと、右の方法をとるにあたっては、宅地分譲方式にした方がより早期に、より高い価格で売却できるとの目論見があったこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、譲渡益の性質を決定するのは、譲渡の動機や理由ではなく、譲渡の態様であるところ、右の争いのない事実及び認定事実によれば、原告らは当初従前地を処分清算し、処分代金でもって保証債務を履行しようとしたものであるが、従前地のままで売却された場合であれば固定資産である土地を譲渡したにすぎず、その譲渡による所得は正に譲渡所得に該当するものといえる。しかしながら、原告らは、現況が雑種地若しくは低湿の農地であり、そのままでは宅地として利用することができなかった従前地に対し、従前地の売却可能性の見出しや大口債権及び地元商工会との話し合いの結果によるものとはいえ、昭和五四年八月から一一月にかけて土留及び土盛り工事、舗装道路、側溝及び水道の設置、区画の整理等の造成工事を行い、分譲を目的とした宅地に転化したものであるから、原告らの右造成工事は従前地の区画形質を変更する行為に該当するものと認めるのが相当である。

このように、雑種地や農地の所有者が、当該土地に区画形質の変更を加え、宅地に造成して他に譲渡する場合は、宅地として造成することによって生じた当該土地の増加益を譲渡行為によって実現しようとするものであって、この譲渡による所得の発生は意図的、計画的であり、所有者の意思によらない外部的要因に基因する偶発的な増加益の実現とみることはできないものである。そしてこの場合の譲渡行為は、たとえ業として行われたものでなくても、なおこれを意図的、計画的な増加益の実現という意味において営利を目的として行われたものということができるというべきであり、右は不動産業者がその所有土地に区画形質の変更を加え、宅地に造成してこれを他に転売する場合と異るところはないものである。ただ、不動産業者以外の者の場合においては、その所有土地がたな卸資産に該当するものではないものの、前記のように譲渡を目的として所有土地を非宅地から宅地に造成する等して意図的、計画的な土地の増加益の発生原因となる整備、改良を加えた場合の土地は、単なる固定資産ではあり得ず、たな卸資産に準ずる資産であると解するのが相当である。

なお、証人吉田英雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、税務実務においても、所得税基本通達三三-四により、固定資産である林地その他の土地に区画形質の変更を加え又は水道その他の施設を設けて宅地等として譲渡した場合には、当該譲渡による所得はたな卸資産又は雑所得の基因となるたな卸資産に準ずる資産の譲渡による所得として、その全部が事業所得又は雑所得に該当するとして扱われてきていることが認められる。

3  原告が本件分譲地を譲渡したことによって得た所得は、主として従前地を宅地に造成し、整備、改良した上でこれを分譲したことによって生じたものであること(被告の主張2項(一)(1)<4>の事実)は、当事者間に争いがない。

4  当事者間に争いのない前記各事実によれば、原告らの本件分譲地の譲渡は業として行われたものではないと認められ、右事実と以上において認定したところによれば、本件分譲地の譲渡による所得の全部は所得税法三五条にいう雑所得に該当するものと認められ、租税特別措置法二八条の四により分離課税の対象となるものである。そして、本件分譲地の譲渡は準たな卸資産の譲渡であることは前記判示のとおりであるから、所得税法六四条二項の適用を受ける資産の譲渡に該当しないものである。

右の見解と異にする原告の本件分譲地の譲渡による所得に関する主張はいずれも前記判示の理由に照らし採用できない。

四  以上によれば、被告が、本件分譲地の譲渡による所得につき、その全部が分離課税による土地譲渡等の雑所得に該当し、所得税法六四条二項の適用がないものとして、原告に対してした本件更正は適法である。

五  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中紀行 裁判官 青野洋士 裁判官清水信雄は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 山中紀行)

別表(一)

<省略>

別表(二)

<省略>

別表(三)

<省略>

別表(四)

<省略>

別紙図面

<省略>

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