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新潟地方裁判所三条支部 平成17年(ワ)65号 判決 2007年7月13日

原告

株式会社中屋

同訴訟代理人弁護士

藤巻元雄

星野文武

被告

欧和国際貿易有限会社

被告

被告両名訴訟代理人弁護士

大山薫

主文

1  被告欧和国際貿易有限会社は,別紙登録商標目録記載の商標を別紙商品目録記載1,2の商品に付し,同標章を付した別紙商品目録記載1,2の商品を譲渡し,引き渡し,譲渡又は引き渡しのために展示し,輸出してはならない。

2  被告欧和国際貿易有限会社は,別紙標章目録記載1の標章を別紙商品目録記載1,2の商品に付し,同標章を付した別紙商品目録記載1,2の商品を譲渡し,引き渡し,譲渡又は引き渡しのために展示し,輸出してはならない。

3  被告欧和国際貿易有限会社は,別紙登録商標目録記載の商標及び別紙標章目録記載1の標章の版下を廃棄せよ。

4  被告らは,原告に対し,連帯して金599万0831円及びこれに対する平成17年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  原告のその余の請求を棄却する。

6  訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの連帯負担とする。

7  この判決は,4項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1(1)  被告欧和国際貿易有限会社は,別紙登録商標目録記載の商標及び別紙標章目録記載1,2の標章を使用してはならない。

(2)  被告欧和国際貿易有限会社は,別紙登録商標目録記載の商標及び別紙標章目録記載1,2の標章を付した鋸及び鋏を製造し,譲渡し,引渡し,譲渡又は引渡しのために展示し,輸出してはならない。

(3)  被告欧和国際貿易有限会社は,別紙登録商標目録記載の商標及び別紙標章目録記載1,2の標章の版下を廃棄せよ。

2  被告らは,原告に対し,金887万5000円及びこれに対する平成17年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

本件は,原告が,後記1ないし4の請求原因を主張して,被告欧和国際貿易有限会社(以下「被告会社」という。)に対し,商標法36条(商標権),不正競争防止法3条に基づき,別紙登録商標目録記載の商標及び別紙標章目録記載1,2の標章の使用等の差止め及び版下の放棄を求めるとともに,商標法,不正競争防止法及び不法行為に基づき,被告らに対し,連帯して,損害金1557万6112円のうち金887万5000円及びこれに対する商標権侵害行為,不正競争行為及び不法行為の日の後である平成17年11月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。なお,原告は,被告会社に対し,商法(平成18年法律第87号による改正前の商法20条,21条,その改正後の商法12条)に基づき,「中屋」の商号(別紙標章目録記載2の標章と同一)の使用の差止めを求めているが,被告会社が自己の営業上の名称(商号)として「中屋」を使用した事実を主張していないので,商法に基づく請求は主張自体失当である。

本件の争点は,①「NAKAYA」「中屋」の標章は,原告の商品を表示するものとして,需要者間に広く認識されているか,②被告会社は,後記「イークスマーク」等を付した鋸,鋸替刃を輸出したか,③被告会社が,剪定鋏を輸出した行為の違法性,④被告会社が後記「三倍速マーク」を商標登録した行為の違法性,⑤損害の5点である。

【請求原因】

1  原告の登録商標及び標章の周知性

別紙標章目録記載1,2の標章「NAKAYA」及び「中屋」は,原告の業務に係る商品「鋸」を表示する標章(不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」)として,遅くとも昭和60年ころまでには,需要者の間に広く認識されていた。なお,原告は,昭和42年に有限会社中屋鋸機械製作所として設立されたが,平成13年6月に株式会社に組織変更した際,社名を株式会社「中屋」と改めており,「中屋」は,原告の商号である。

原告は,別紙登録商標目録記載の登録商標(以下「イークスマーク」という。)について商標権を有している。イークスマークは,平成7年ころから,原告の商品を表示する登録商標として,需要者の間に広く認識されていた。

2  被告会社の不正競争及び商標権侵害行為

被告会社(代表者代表取締役被告Y)は,別紙請求原因行為一覧表記載番号1ないし43のとおり,株式会社ナカヤ又は株式会社カバサワから商品(内装鋸替刃,剪定鋸,剪定鋸替刃及び剪定鋏)を仕入れ,これにイークスマーク,「NAKAYA」「中屋」の各標章を付して,長春欧和有限公司等に輸出した(ただし,「数量」欄がマイナスのものは,返品による持ち帰り又は輸入なので,輸出数から控除する。)。

被告会社は,別紙請求原因行為一覧表記載番号44ないし55のとおり,ナカヤ又はカバサワから仕入れた商品(内装鋸替刃,剪定鋸替刃)を在庫していたが,これにイークスマーク,「NAKAYA」「中屋」の各標章を付して,長春欧和有限公司等に輸出した。

前記各輸出行為は,不正競争防止法2条1項1号及び商標法37条1項に該当し,これにより,原告に後記アないしエの損害が発生した。

ア 鋸及び鋸替刃の輸出による営業上の利益の侵害  784万7556円

内訳は,別紙原告損害計算書1記載のとおり(不正競争防止法5条1項及び商標法38条1項の規定に基づき算定)

イ 剪定鋏の輸出による営業上の利益の侵害  16万8556円

内訳は,別紙原告損害計算書2記載のとおり(不正競争防止法5条2項及び商標法38条1項に基づき算定)

ウ 信用毀損  500万0000円

被告会社の輸出した鋸は,原告の商品と比較して,①鋸板中央部分のヒズミ取りが不十分で長期間の使用に耐えられない,②上目の高さと大きさに違い(ばらつき)があり,歯の食い込みが悪く,切れ味が悪い,③鋸板に曲がりがあり,まっすぐ切れない,④中国製の低品質な鋸柄と背金を使用しており,鋸柄は割れやすく,背金が抜けてしまう危険がある,背金は曲がりがあって,まっすぐに切れない,などの問題があり,品質が著しく劣悪である。被告会社が,このような粗悪品にイークスマーク,「NAKAYA」「中屋」の各標章を付して輸出したことにより,原告の信用は著しく毀損され,これによる損害は500万円を下らない。

エ 弁護士費用  100万0000円

4  被告会社の商標登録とその無効

被告会社は,別紙被告登録商標目録記載の標章(以下「三倍速マーク」という。)を登録した。原告は,三倍速マークは,原告の業務に係る商品である鋸を表示するものとして需要者間に広く認識されている商標「NAKAYA」と類似する商標であり,商標法4条1項10号により商標登録を受けることができないとして,特許庁に対し,商標登録の無効の審判を求め,特許庁は,平成18年3月30日,これを無効とするとの審決をした。被告会社は,知的財産高等裁判所に対し,同審決の取消しを求める訴訟を提起したが,同裁判所は,同年7月26日,請求を棄却する旨の判決をし,同判決は確定した。被告会社の違法な商標登録等の不法行為により,原告は,前記審判請求の申立て及び前記審決取消請求事件に対する応訴を強いられ,弁護士及び弁理士費用として,156万円の損害が発生した。

第3前提となる事実関係

当事者間に争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実は容易に認定することができる。

1  当事者

原告は,鋸及び鋸機械の製造販売等を目的とする株式会社である。原告は,昭和42年2月10日,有限会社中屋鋸機械製作所として設立され,平成13年6月1日,「株式会社中屋」に組織変更した。(甲1の1,2)被告会社は,「食料品,海産物,非鉄金属の輸入販売」「自動車部品,同製造機器の輸出入販売」「中国語の翻訳,通訳」等を目的とする有限会社である。

被告会社は,平成13年2月21日設立され,平成14年4月1日に「大盛国際貿易有限会社」に,平成15年1月31日,現在の社名(欧和国際貿易有限会社)に商号を変更している。被告会社は,80万8500人民元(注冊資本105万人民元のうち)を出資して,平成16年(2004年)2月13日ころ,長春欧和工具有限公司(中国吉林省)を設立した。(甲2,乙28の1,2)

被告Yは,被告会社の代表取締役である。被告会社には,他に従業員はいない。(被告Y本人,甲2)

2  原告の鋸製造について

原告の前身は,明治40年に初代Jが北海道で開業した鋸製造業(中屋鋸製作所)である。中屋鋸製作所は,山林鋸の分野で北海道内で揺るぎない地位を築き上げ,さらに,昭和6年にTが加入してからは,全国に販路を拡大し,業界内での地歩を固めた。しかし,戦後は,アメリカから導入されたチェーンソーが普及し,山林向けの手挽鋸の需要は振るわなくなった。Tは,昭和36年に両刃鋸の伝統的産地である新潟県三条市に工場を移転し,かねてから進めていた目立機械(鑢による手作業で行われていた目立の機械化)の開発及び改良を重ねた。(甲12,甲27)

原告は,鋸目立用の刃摺機として,昭和34年に中屋式万能刃摺機の特許を出願し,以後その改良を重ねて,昭和43年には中屋式全自動刃摺機を,昭和46年には中屋式万能目立機を,昭和53年には中屋式全自動目立機を,平成2年には全自動供給反転装置付目立機をそれぞれ発売した。(甲12,甲93,甲98,甲107,甲119)

原告は,工場を移転した昭和36年に両刃鋸の製造を開始したが,その後,自社が開発した目立機械等を活用して,鋸を量産するようになった。原告は,昭和50年ころから,クロムメッキを施した超硬鋸の販売を開始し,昭和55年には新工場を増築して替刃式快速鋸の本格的な生産を始めた。原告は,海外のハンドソー(洋鋸)にも目を向け,昭和56年11月にシンガポールで開かれた第1回アジア国際金物展に自社開発の洋鋸を出品した上,江戸目の形状の高級ハンドソーを発売し,昭和59年ころから,アメリカ,カナダ,イギリス,オーストラリア,南アフリカに輸出している。(甲12,甲26,甲28ないし甲30,甲96,甲119)

原告が発売した鋸の商品シリーズには,以下のものがあるが,原告は,高級鋸を中心に,最高級スウェーデン鋼を採用したり,インパルス焼入れ(刃先を瞬間的に加熱することにより硬化させ,耐久力を増大させる処理)やハードクローム処理を施したり,熟練した職人(越後の名工)の手で一枚一枚丹念に仕上げることによりヒズミやゆがみを取り除くなどして,切れ味鋭い,長持ちする品質を目指すとともに,顧客のニーズに応じて,用途別,材料別に選定することができる商品の提供を心がけている。(甲12ないし甲14,甲17,甲23,甲119)

①  「BIGシリーズ」(甲45)

②  「儲龍」(平成2年発売)(甲19,甲32ないし甲35,甲46,甲47)

③  「BIG-R」(原告独自の技術により,円弧の部分の目立て作業を機械化した替刃式穴挽型鋸,平成7年発売)(甲20,甲41,甲53,甲54)

④  「プロフェッショナルシリーズ」

⑤  「ワンダーソーシリーズ」(昭和62年発売,甲31,甲42)

⑥  「快速シリーズ」

⑦  「鬼刀」(替刃式超硬両刃鋸)(平成2年発売)(甲17,甲35)

⑧  「名工」(縦,横,斜め兼用刃)(甲18)

⑨  「イークス剪定鋸」「イークス仮枠鋸」(平成5年発売)(甲36,甲37)

⑩  「剪定エキスパート」(甲21,甲56ないし甲58)

⑪  「両刃剪定鋸ダブルウイング」(甲22,甲59,甲60)

3  原告の標章使用状況

(1)  「中屋」の使用について

原告は,組織変更前から,自社の略称として「中屋」を使用している。具体的には,以下に述べるとおりである。(甲107)

原告は,平成元年ころ作成した「QUALITY」と題するパンフレットに,「のこぎりの歴史は中屋の歴史です。」などと記している。(甲12)

原告は,「仮枠切れ太郎」の商品説明に「中屋の本格仮枠鋸。中屋独自のアール付刃」などと述べている。(甲13,甲14)

原告は,イークスは「中屋のオリジナルブランド」である旨繰り返し説明している。(甲4の2,甲49ないし甲51)

原告は,セール用チラシに,「中屋の快速胴付鋸」「中屋・替刃式鋸」等と記載している。(甲65,甲66,甲68ないし甲72,甲74ないし甲79)

とはいえ,「中屋」は,鋸鍛冶の屋号の一つであり,その起源は明らかではないが,遅くとも江戸時代には,これを冠して銘とする鋸鍛冶が多数存在し,原告と取引がある業者のなかにも「中屋哲鋸工場」「中屋東次郎商店」「中屋深水鋸製作所」など「中屋」を含む名称又は商号を使用する者が複数存在する。カバサワの代表取締役Kも「中屋籐兵衛」の名称で鋸製造業を営んでいたと称している。(甲24,甲107,甲114,甲130,乙24)

(2)  「NAKAYA」の使用について

原告は,組織変更前から,原告の商品又は営業を表示する標章として,「NAKAYA」を使っている。具体的には,以下に述べるとおりである。(甲107)

原告は,中屋式万能目立機の発売広告(昭和46年9月10日付け日本刃物工具新聞)に,「NAKAYA」のプレートを付した同機の正面写真を大きく掲載した。(甲98)

原告は,昭和58年ころから,別紙標章目録記載3の標章(以下「三本の鋸マーク」という。)を原告の商品又は営業を表示するものとして使い始めた。すなわち,原告は,昭和57年から,毎年秋にコシヒカリ等をプレゼントする販売店向けセールを恒例としていたが,昭和58年10月15日開始の「第2回コシヒカリプレゼントセール」のチラシから,社名の前に三本の鋸マークを掲載するようになった。三本の鋸マークは,三本の鋸を正三角形状に配置した外郭のなかにギザギザの鋸の目をモチーフにデザインした「N」を配置した図形と横書きの「NAKAYA」によって構成されている。(甲63ないし甲83)

原告は,昭和62年ころ発行した販促用カレンダーで,「NAKAYA」「信頼のブランド」「常に品質と使いやすさをリードする」とうたっている。(甲62)

原告は,三本の鋸マークに「信頼のブランド」の文字を冠して,○で囲んだ標章を「名工」等の商品の柄に付していたことがある。(甲18,甲62)

前記「QUALITY」と題するパンフレットには,「のこぎりの歴史は中屋の歴史です。」と記されているとともに,三本の鋸マークが刃に印刷されたハンドソーの写真が掲載されている。(甲12)

「NAKAYA」の表示を鋸の銘や名称に使用している者は,原告のほかにいない。ナカヤは,E(Tの次女の夫。原告会社に昭和55年ころから約7年間勤めた。)が昭和62年5月ころ設立した会社であるが,会社の英文表示として「NAKAYA」の表記をすることはあっても,自社の製品に「NAKAYA」の標章を付することはしていない。(証人E,甲107)

原告は,「NAKAYA selection」又は「Nakaya SELECTION」と題するチラシや「PRODUCED BY NAKAYA」「より鋭い切味の追求,卓越した作業性に更に磨きをかけたNAKAYAの鋸」と冒頭に記載したチラシを発行している。(甲4の1,甲13,甲14,甲16)

原告は,鋸の刃,背金,柄等に「NAKAYA」又は三本の鋸マークを使用し,梱包資材(取扱説明書が裏面等に印刷されているパッケージ〔個別包装〕や1ダース入りの包装箱等)にも同様に使用している。三本の鋸マークの使用が比較的多いものの,例えば,両刃剪定鋸「ダブルウイング」の刃には商品名を冠する形で「NAKAYA」と印刷されているし,取扱説明書にも同様に「NAKAYAの替刃式両刃鋸ワンダーソー」「NAKAYA胴付鋸」等と印刷されているものもある。(甲17ないし甲23)

(3)  イークスマークについて

原告は,別紙登録商標目録記載の登録商標(イークスマーク)について商標権を有している。イークスマークは,ギザギザの鋸の目と中屋の「n」を図案化したものであり,イークスとは「easy works」の略で,楽に仕事ができるという意味である。原告は,平成4年ころから,イークスマークの使用を始め,自社のオリジナルブランドであることを広告し,原告の商品を表示する登録商標として需要者間に広く知られている。(甲3の1ないし5,甲4の2,甲49ないし甲51)

4  原告と被告会社の商談の経過

被告Yは,平成14年春ころ,中国人留学生H(以下「H」という。)から,中国で鋸が売れそうだという話を聞いた。(乙34)

被告Y及びHは,ナカヤの紹介により,平成15年5月4日から5日にかけて,原告の工場を見学し,原告の代表者M及び営業担当Sが対応した。被告Yは,原告の代表者らに対し,Hと協力して中国長春市に日本製の工具を販売する会社を設立する計画があることを明かした上で,原告の製造する鋸を中国で販売したいと申し入れた。原告側は,被告Yに対し,4種類の鋸の見本品を提供し,販売可能な鋸の種類を伝えた。その際,中国での商標登録も話題に上ったが,商標登録について具体的な合意がなされたわけではなかった。また,被告Yは,原告製の中古機械を購入して,現地で鋸を生産し,原告の商標を付して販売したいとの意向を示した。これに対し,原告側は難色を示しつつも,機械をさがしてみると回答した。(甲118)

原告の営業担当Sは,同月9日,被告Y及びHに対し,電子メールにより,イークス剪定鋸等の商品情報を提供するとともに,イークスマークと横書きの「eaks」「EASY WORKS」「イークス」の文字からなる標章及び三本の鋸マークの画像データを送信した。この電子メールには,イークスマークは登録商標であるが,三本の鋸マークは商標登録がなされていないことが明記されている。(乙9の1ないし3,乙10)

原告は,同月14日ころ,ナカヤに対し,被告会社に中古機械は提供できないこと,品質管理上,被告会社の希望する価格で商品を納入することは困難であることを伝えた。(甲10,甲118)

ナカヤは,同年7月ころ,原告が商談を断ったことを被告会社に伝えた。その後,被告会社は,同年9月24日,ナカヤから,原告製造の「中屋エキスパート剪定鋸替刃」2枚を購入したことがあったものの,原告と被告会社の商談は立ち消えになった。(証人E,甲50の4)

5  被告会社の輸出と長春欧和有限公司の販売活動等

(1)  被告会社とナカヤとの取引(平成15年)

被告会社は,平成15年(以下同じ)1月24日,ナカヤから「剪定鋸替刃210ミリ」200枚と同本体サンプル1枚を購入し,その後,Hの関係者を通じて,直接中国に持ち込んだ。(乙38の1,2)

被告会社は,6月12日,ナカヤから「スピードスター替刃NK-265」240枚とその柄2枚を購入し,その後,Hの関係者を通じて,直接中国に持ち込んだ。(乙12,乙13,乙39の1,2)

被告会社は,9月15日,ナカヤに対し,剪定鋸210ミリの仕入価格をナカヤが提示していた200円から「サイズ,材質,焼き入れの有無,刃のピッチ数の変更など」により170円以下にならないかと打診するとともに,止め金具や柄の形状を「中屋」の形状に統一したいとの意向を伝えた(被告会社は,ナカヤに対し,それ以前から止め金具は中国で現地生産する意向を示していた。)。(乙15,乙16の1ないし3)

被告会社は,9月24日,ナカヤから「中屋エキスパート剪定鋸替刃210」2枚と「折込鋸210」2本を購入し,その後,Hの関係者を通じて,直接中国に持ち込んだ。(乙16の1,乙40の1,2)

(2)  被告会社とナカヤ及びカバサワとの取引(平成16年)

被告会社は,平成16年(以下同じ)1月20日,ナカヤからカバサワ製の内装鋸替刃(250ミリが300枚,265ミリが900枚,300ミリが600枚)及び剪定鋸替刃(210ミリ2000枚)を購入し,横浜港から大連港に輸出した。(乙41の1,2,乙49)

被告会社は,2月2日から,カバサワと直取引を始め,3月3日,ナカヤに対し,取引中止を通告した。(乙22,乙23の1ないし3,乙49)

被告会社は,4月9日ころ,ナカヤから同年2月19日に仕入れたカバサワ製の内装鋸替刃(品番「ZB250」710枚,「ZB265」2110枚及び「ZB300」3410枚)及びカバサワから2月19日に仕入れたプランニングソー(剪定鋸替刃「210mm」800枚,「210mmW/H.I」1200枚)及び4月5日に仕入れた剪定鋸替刃(「240mm」1000枚,「270mm」3000枚)を横浜港から大連港に輸出した。(乙42の1,2,乙49)

被告会社は,5月28日ころ,カバサワから4月19日に仕入れた剪定鋸替刃(「240mm」3000枚,「270mm」1000枚),5月24日に仕入れた剪定鋸替刃(「300mm」500枚),大久保剪定鋏(「180mm」240本)及び剪定鋏(「180mm」240本,「200mm」240本)等を横浜港から大連港に輸出した。(乙43の1,2,乙49)

被告会社は,9月10日ころ,カバサワから9月3日に仕入れた剪定鋏(PVC柄)(「180mm」840本,「200mm」840本)等を横浜港から大連港に輸出した。(乙45の1,2,乙49)

(3)  長春欧和工具有限公司の販売活動

Hは,平成16年2月4日,中国の国家工商行政管理総局商標局に対し,イークスマークと横書きの「NAKAYA」「中屋」を組み合わせた標章及び「O」と「W」をモチーフにした図形(以下「OWマーク」という。)と横書きの「欧和」の文字を組み合わせた標章の注冊(登録)をそれぞれ申請し,同局は,いずれの標章についても,核定使用商品を「第8類」「手鋸(手工具)」等,注冊(登録)有効期限を2005年12月21日から2015年12月20日までとして商標登録した。(乙27の1ないし4)

長春欧和工具有限公司は,2004年(平成16年)3月11日から13日まで中国上海市で開催された見本市(工具展示会)に鋸を出展し,カバサワの代表者Kも応援に行った。(証人E,乙19)

長春欧和工具有限公司がそのころ発行したチラシ(甲6の1,2)には,イークスマークに横書きの「NAKAYA」「中屋」の文字を組み合わせた標章が印刷されており,イークスマーク,横書きの「NAKAYA」「中屋」「三倍速」「MADEINJAPAN」の各文字と商品ごとの品番(「ZB250」「ZB265」「ZB300」「YL210」「YL240」「YL270」)が刃に印刷され,柄にイークスマーク,「NAKAYA」「中屋」の文字を印刷した標章が付されている鋸の商品写真が掲載されている。(証人E,甲6の1,2)

長春欧和工具有限公司は,2004年(平成16年)9月27日から29日まで中国北京で開催された2004年秋季全国五金商品交易会(工具,金物の見本市)に出展し,ガイドブックの企業紹介で「中国の総発売元である長春欧和工具有限公司はカバサワ製鋸に商標登録申請済みのNAKAYA/中屋を付し,一日も早く中国の業界で認知されるように『誠実と信頼』をスローガンに一生懸命ねばり強く普及活動を推進した。その結果,カバサワの鋸は性能の良さもあってNAKAYA/中屋シリーズの日本製カバサワ鋸が中国工具業界において鋸の一流ブランド品として認識され,一定の地位を確立した。」「長春欧和工具有限公司のカバサワ製鋸はNAKAYA/中屋ブランドとして中国園林工具市場に新しい道を切り開きます。」旨記述した。(乙31の1,2)

また,そのころ「日本欧和有限会社」名義で発行された商品カタログ(甲6の3)には,「NAKAYAはすでに世界に名声を博する有名ブランドとなっています。日本欧和有限会社のY社長は遠大な展望を持っており,2004年初め,中国長春において,欧和工具有限公司を設立し,NAKAYAという世界的ブランドを中国市場に上陸させました。」旨記述されている。同商品カタログには,イークスマーク,横書きの「NAKAYA」「中屋」の文字(「NAKAYA」の右肩に「R」を丸印で囲んだ小さなマークが付されている)を組み合わせた標章が用いられていることに加えて,原告のホームページから写真を無断転載されているとともに,イークスマーク,横書きの「NAKAYA」「中屋」「三倍速」「MADE IN JAPAN」の各文字と商品ごとの品番が刃に印刷され,柄にイークスマーク,「NAKAYA」「中屋」の文字を印刷した標章が付されている鋸(「替刃式木工のこぎり」「専業鋸」「剪定のこぎり」)や刻印「NAKAYA」の剪定鋏等の商品写真が掲載されている。(甲6の3,甲106)

6  三倍速マークの商標登録等

被告会社は,平成16年5月8日に出願して,別紙被告登録商標目録記載の標章(三倍速マーク)を商標登録した。三倍速マークは,OWマークと横書きの「NAKAYA」「中屋」「三倍速」の文字からなる。(甲9,甲107)

原告は,平成17年9月5日,三倍速マークは,原告の業務に係る商品である鋸を表示するものとして需要者間に広く認識されている商標「NAKAYA」と類似する商標であり,商標法4条1項10号により商標登録を受けることができないとして,特許庁に対し,商標登録の無効の審判を求め,特許庁は,平成18年3月30日,これを無効とするとの審決をした。(甲9,乙26の2)

被告会社は,知的財産高等裁判所に対し,同審決の取消しを求める訴訟を提起したが,同裁判所は,同年7月26日,請求を棄却する旨の判決をし,同判決は確定した。(甲107)

7  本件訴訟に至る経緯等

原告は,平成16年4月14日,前記上海の見本市で長春欧和工具有限公司の展示をみた取引先から,イークスマークや「NAKAYA」「中屋」の各標章を付した鋸が販売されていることを知らされて,調査を始めた。その後,原告は,前記北京の見本市に出展し,前記商品カタログ(甲6の3)を入手するなどして,長春欧和工具有限公司がイークスマーク,「NAKAYA」「中屋」の標章を付した鋸を販売していることを知った。なお,この際,被告Y,H等が原告の出展ブースに来て,原告側と口論になったこともあった。(甲6の3,甲118,甲119)

原告は,新潟地方裁判所長岡支部に証拠保全を申し立て,同年12月6日,カバサワの本社,工場で証拠保全手続を行った。(甲116)

原告と被告会社は,同年12月8日ころから和解交渉を重ねたが,平成17年6月30日ころ最終的に決裂し,原告は,同年10月31日,本件訴訟を提起した。(乙33の1ないし29)

第4争点に対する判断

1  原告の標章の周知性(争点1)について

前記認定事実(前記第3の2,3)によれば,別紙標章目録記載1の標章「NAKAYA」は,原告の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号),すなわち,原告の業務に係る商品「鋸」を表示するものとして需要者間に広く認識されていることが認められる。これに対し,別紙標章目録記載2の標章「中屋」は,前記認定のとおり,江戸時代から多数の鋸鍛冶が使用していた屋号であり,この標章単独では,原告の業務に係る商品又は営業を表示するものとして需要者間に広く認識されているものとはいえない。

2  イークスマーク等を付した鋸及び鋸替刃の輸出の有無(争点2)について

(1)  平成15年6月12日仕入分(番号1)

証拠(乙13,乙14,乙25,乙39の2,乙50の2)によれば,別紙請求原因行為一覧表番号(以下「番号」と略記する。)1は,ナカヤの商品「スピードスター替刃NK-265」に関する取引であると認められる。この商品(内装鋸替刃)にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章が付されていたことを認めるに足りる証拠はない。

(2)  平成16年1月20日仕入分(番号2ないし5)

証拠(甲136の1,甲137の1,乙19,乙20)によれば,番号2ないし5について,被告会社は,平成16年1月17日,ナカヤとの間で,「今回に限りマーク等の印刷無し」「ノコ刃へマーク等の印刷無し」などと打ち合わせていること,カバサワは,同月19日付けのナカヤ宛て納品書に「無印」と注記し,得意先元帳にも同様の記載をしていること,これらの納入先は,長春欧和工具有限公司ではなく,長春市机械化工五砿進出口公司(長春机工)であることが認められる。これらの事実に照らし,番号2ないし5の商品(内装鋸替刃,剪定鋸替刃)にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章が付されていたことを認めることはできない。

(3)  平成16年2月2日仕入分(番号6ないし13)

当事者間に争いのない事実によれば,番号6ないし13は,数量が各1本の取引であることが認められ,商品サンプル(見本品)の取引に類するものとみるのが相当である。番号6ないし13の商品(剪定鋸,剪定鋸替刃)にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章が付されていたことを認めるに足りる証拠はない。

(4)  平成16年2月19日仕入れの内装鋸替刃(番号14ないし16)

当事者間に争いのない事実及び証拠(甲6の1,2,甲136の2,甲137の2)によれば,番号14ないし16の内装鋸替刃にはそれぞれ「ZB250」「ZB265」「ZB300」の品番が印刷されていたこと,カバサワはナカヤ宛て納品書に「版下及びフィルム代」として1万2000円を計上していること,平成16年(2004年)3月ころ発行された長春欧和工具有限公司発行のチラシ(甲6の1,2)には,イークスマーク,横書きの「NAKAYA」「中屋」「三倍速」「MADE IN JAPAN」の各文字と商品ごとの品番(「ZB250」「ZB265」「ZB300」)が刃に印刷された内装鋸の写真が掲載されていることが認められる(チラシ掲載の商品は,前記内装鋸替刃に現地で柄を取り付けた商品とみるのが相当である。)。

これらの事実に加えて,証拠(甲137の1,2)によれば,前記商品には,クリア仕上(防錆のための表面処理)がなされていること(平成16年1月20日〔カバサワはナカヤに19日納入〕仕入分と同年2月19日〔同17日納入〕仕入分は,同一の納入単価であるが,前者にクリア仕上がなされていることが認められることからすると,後者にも同様の処理がなされたとみるのが相当である。)が認められ,カバサワがクリア仕上の前に品番を印刷したのであれば,品番以外の部分(イークスマーク及び「NAKAYA」等)も同時に印刷したとみるのが自然であることなどを総合考慮すると,被告会社が番号14ないし16の商品にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して輸出したことは優に推認することができる。

この認定に反する被告Y本人の供述及び証拠(乙49)は信用できない。たとえば,被告Yは,陳述書(乙34)で,「私たち(被告会社及び長春欧和工具有限公司を指すと思われる。)は,原告の鋸販売に全力を傾注した。」旨述べているけれども,前記のとおり,被告会社が,原告の製品を輸出したのは,平成15年9月24日にナカヤから仕入れた剪定鋸替刃2枚及び折込鋸2丁のみであるのだから,この供述は明らかに虚偽である。このように,被告Yの供述には明らかな虚言が含まれており,信用できない。また,証拠(甲116)によれば,Kは,前記証拠保全の際,平成16年2月17日の版下及びフィルム代は,OWマークに関するものである旨述べたことが認められるが,証拠(乙49)によれば,カバサワがOWマークを付した鋸を納入したのは平成17年3月24日からであることに照らし,Kの前記供述の信用性は乏しく,イークスマークを使用していないことを証明するとのKの供述も同様に信用できない。

(5)  平成16年2月19日及び同年4月5日仕入れの剪定鋸替刃(番号17ないし20)

証拠(甲6の1,2,乙42の2)によれば,番号17ないし20の剪定鋸替刃(PRUNING SAW BLADE)は,平成16年4月9日ころ,イークスマーク及び「NAKAYA」の標章が付されていた平成16年2月19日仕入れの内装鋸替刃(番号14ないし16)と一緒に船積みされて横浜港から大連港に輸出されていること,前記チラシ(甲6の1,2)には,刃にイークスマーク,横書きの「NAKAYA」「中屋」「三倍速」「MADE IN JAPAN」の文字及び商品ごとの品番(「YL210」「YL240」「YL270」)が印刷された剪定鋸の写真が掲載されていること(品番「YL210」〔「高頻熱処理工藝」の有無により,2種類ある。〕「YL240」「YL270」の剪定鋸は,前記剪定鋸替刃に現地で柄を取り付けた商品とみるのが相当である。)が認められる。

これらの事実を総合すると,被告会社が番号17ないし20の剪定鋸替刃にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して輸出したことは優に推認することができる。この認定に反する被告Y本人の供述及び証拠(乙49)は信用できない。

(6)  平成16年4月19日仕入分(番号21,22)について

番号21,22の剪定鋸替刃は,番号19,20と同じ商品であることからすると,被告会社が番号21,22の剪定鋸替刃にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して輸出したことは優に推認することができる。この認定に反する被告Y本人の供述及び証拠(乙49)は信用できない。

(7)  平成16年5月24日仕入分(番号23)

前記のとおり,被告会社は,カバサワが製造した剪定鋸替刃にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して輸出する行為を繰り返していたことに加えて,証拠(甲6の3)によれば,「日本欧和有限会社」名義で平成16年(2004年)9月ころ発行された商品カタログ(甲6の3)には,刃にイークスマーク,横書きの「NAKAYA」「中屋」「三倍速」「MADE IN JAPAN」の文字と品番(「YL300」)が印刷された剪定鋸が掲載されていること(番号23の剪定鋸替刃に現地で柄を取り付けた商品とみるのが相当である。)が認められ,これらを総合考慮すると,被告会社が番号23の剪定鋸替刃にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して輸出したことは優に推認することができる。この認定に反する被告Y本人の供述及び証拠(乙49)は信用できない。

(8)  在庫分(番号44ないし55)

別紙請求原因行為一覧表のナカヤ取引分在庫表及びカバサワ取引分在庫表記載の鋸替刃は,「在庫年月日」欄記載の時点の帳簿上の在庫であり,番号45ないし55は,番号2,14ないし23の一部と重複するものと考えられる。また,番号44の剪定鋸替刃については,イークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付していたことを認めるに足りる証拠はない。

(9)  まとめ

以上によれば,被告会社は,別紙違法行為一覧表1記載のとおり,合計1万6730枚の鋸替刃にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して輸出したことが認められる。

3  剪定鋏輸出行為の違法性(争点3)について

(1)  平成16年5月24日仕入分(番号24ないし26)について

被告会社が番号24の大久保剪定鋏に「中屋」の刻印を付して輸出したことは当事者間に争いがない。しかし,前記1のとおり,「中屋」は原告の商品の周知表示ではないから,この輸出行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争には当たらない。

被告会社が,番号25,26の剪定鋏にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して輸出したことを認めるに足りる証拠はない。

(2)  平成16年9月3日及び同月15日仕入分(番号27ないし29,33ないし37,39)

カバサワが番号27ないし29,33ないし37,39の剪定鋏に「NAKAYA/JAPAN」の刻印をしたこと,被告会社が前記剪定鋏を輸出したことは当事者間に争いがない。そして,前記1のとおり,「NAKAYA」は原告の業務に係る商品「鋸」を表示するものとして需要者間に広く認識されているところ,剪定鋏は鋸と同じく手動利器であり,剪定鋸のように同一の用途に使用する鋸も存在し,需要者が重なり合うのであるから,被告会社が刻印「NAKAYA/JAPAN」付きの剪定鋏を輸出した行為は,原告の商品と混同を生じるおそれのある行為ということができる。したがって,被告会社の前記輸出行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する。

(3)  まとめ

以上によれば,被告会社は,別紙違法行為一覧表2記載のとおり,合計1383丁(返品持帰り又は返品輸入分を控除した。)の剪定鋏を「NAKAYA」の刻印付きで輸出し,これが不正競争にあたることが認められる。

4  被告会社が三倍速マークを商標登録した行為の違法性

前記認定事実によれば,被告会社及び被告Yは,「NAKAYA」の標章が原告の周知表示であることを知っていたことは明らかである。それにもかかわらず,被告会社は,平成16年5月8日,原告の周知表示「NAKAYA」を含む三倍速マークの商標登録を出願し,商標登録を受けているのであるから,これが原告の権利を侵害し,不法行為が成立することは明らかである。

5  損害

(1)  鋸替刃の輸出による営業上の利益の侵害  387万4041円

被告会社が鋸替刃を輸出したことにより原告が侵害された営業上の利益を不正競争防止法5条1項及び商標法38条1項の規定に基づき算定すると,その額は,別紙損害計算書1のとおり,387万4041円である。なお,番号17「プランニングソー」と番号18「プランニングソーH.I.」は,インパルス焼入れ(刃先を瞬間的に加熱することにより硬化させ,耐久力を増大させる処理)の有無に違いがあると思われるが,証拠(甲14,甲21,甲126,甲130)によれば,原告の商品「イークス剪定鋸ES210」と「エキスパートEX210」は,いずれもインパルス焼入れがなされており,前者はクリア仕上を行い,後者は行っていない点に違いがみられるとともに,エキスパートは「最高級エラストマーグリップ」やサヤケース(PC樹脂製)付きを特長としてうたっており,柄の品質等を重視した商品シリーズであることが認められる。これらの事実を考慮して,番号17,18のプランニングソー(剪定鋸)に対応する原告の商品は「イークス剪定鋸ES210」とするのが相当と判断した。

(2)  剪定鋏の輸出による営業上の利益の侵害  11万6790円

被告会社が剪定鋏を輸出したことににより原告が侵害された営業上の利益を不正競争防止法5条2項の規定に基づき算定すると,その額は,別紙損害計算書2のとおり,11万6790円である。

(3)  信用毀損  50万0000円

カバサワが製造した鋸替刃については,これに対応する原告の商品の製造原価を下回る価格で納品されていること,コスト削減のために工程の一部を省いた商品(番号17)も存在するなど,値段相応の品質の差があることがうかがわれる。もっとも,証拠(甲114)によれば,原告は,カバサワに対し,鋸製造機械を納入したことがあること,前記証拠保全の際,カバサワの代表者が「他で作らせているのかも」と発言したことが認められること,原告が長春欧和有限公司から鋸を入手したのは前記北京の見本市(平成16年9月)であり,被告会社の輸出から相当期間が経過していることなどからすると,原告が指摘している品番「ZB265」の鋸の欠陥は,現地で生産された製品である疑いを払拭できない。これらの事情及び鋸替刃の輸出による営業上の損害については,前記(1)のとおり,原告が販売することができた物の利益によって算定していることを考慮して,鋸替刃の品質が粗悪なことによる信用毀損の損害を営業上の利益の侵害と別途に認定することはできないと判断した。

これに対し,証拠(甲6の1ないし3,甲120)によれば,被告会社が輸出した鋸替刃は,現地で柄が取り付けられているが,その柄の品質は粗悪であること,原告は柄の品質管理にも企業として相当の力を注いでいることが認められる。それにもかかわらず,被告会社は,現地で柄を取り付けることを前提に,イークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して鋸替刃を輸出したのであるから,柄の品質管理に関する原告の信用を毀損したことは明らかである。その損害の額の算定は,その性質上極めて困難であるが,証拠(甲121,甲126ないし甲129)によれば,替刃のみを販売する場合と比較して,本体を販売する場合には,「イークス剪定鋸」では,1丁あたり27.8円(「ES210」),36.7円(「ES240),2円(「ES270」),「イークス仮枠鋸EK300」では一丁あたり53.8円の利益が上乗せされることが認められ,平均すると1丁あたり30円程度の利益が上乗せされることが認められるから,これに被告会社がイークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して輸出した鋸替刃の数量1万6730枚を乗じると,50万1900円となる。不正競争防止法5条1項及び商標法38条1項の規定の趣旨を参酌し,民事訴訟法248条により,口頭弁論の全趣旨及び前記事情を総合考慮すると,前記信用毀損による損害の額は50万円と認定するのが相当である。

(4)  弁護士費用  50万0000円

損害の認容額,事案の難易その他諸般の事情を総合考慮すると,原告の不正競争及び商標権侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用は,50万円と認めるのが相当である。

(5)  審判請求,審決取消訴訟の弁護士及び弁理士費用  100万0000円

審判請求手続及び審決取消訴訟の専門性その他諸般の事情を総合考慮すると,原告の違法な商標登録による不法行為と相当因果関係を有する弁護士及び弁理士費用は,100万円と認めるのが相当である。

第5結論

被告会社は,前記のとおり,イークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付した鋸替刃及び刻印「NAKAYA」付きの剪定鋏を輸出したのであるから,イークスマーク及び標章「NAKAYA」を,鋸(鋸替刃を含む。)及び剪定鋏に付し,または,イークスマーク及び標章「NAKAYA」を付した鋸(鋸替刃を含む。)及び剪定鋏を譲渡し,引き渡し,譲渡又は引き渡しのために展示し,輸出するおそれが認められ,原告の差止請求は,主文1,2項記載の限度で理由がある。また,被告会社は,前記鋸替刃を輸出するにあたり,イークスマーク及び標章「NAKAYA」の版下を作成したと認められ,これが滅失したことについては主張・立証がないから,版下の廃棄を求める原告の請求は,主文3項の限度で理由がある。被告会社は,前記のとおり,不正競争,商標権侵害及び不法行為により,原告に599万0831円の損害を生じさせ,被告会社の代表者代表取締役(他に従業員はいない。)である被告Yは,被告会社の不正競争,商標権侵害及び不法行為の実行行為者として,被告会社と連帯して損害賠償責任を負うから,原告の損害賠償請求は,主文4項の限度で理由がある。原告のその余の請求は,理由がないから,棄却することとする。

(裁判官 吉田勝栄)

別紙商品目録

1 鋸(鋸替刃を含む。)

2 剪定鋏

別紙標章目録

1 NAKAYA

2 中屋

3 (三本の鋸マーク)

別紙登録商標目録

登録番号  第3088956号

出願年月日  平成4年5月16日

登録年月日  平成7年10月31日

(平成17年5月17日更新登録)

指定商品  第8類 手動利器( 刀剣」を「除く。)

登録商標

別紙被告登録商標目録

登録番号  第4861844号

出願年月日  平成16年5月18日

登録年月日  平成17年5月13日

指定商品  第8類 手動利器

登録商標

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