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新潟地方裁判所三条支部 昭和41年(ワ)139号 判決 1968年4月10日

原告

倉藤寿美子

ほか二名

被告

高野弘

ほか一名

主文

一、被告両名は各自、

原告倉藤寿美子に対し金一、六〇七、三九五円、

原告倉藤哲郎に対し金三、一二二、二四〇円、

原告倉藤セツに対し金二〇〇、〇〇〇円、

及び、昭和四一年八月二七日から右各完済に至るまで年五分の割合による金員を加えて支払うべし。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は三分しその一を原告等の負担としその余を被告等の負担とする。

四、この判決は前記一項につき、原告寿美子において金三〇万円、原告哲郎において金五〇万円、原告セツにおいて金五万円を各担保として供託するときは、仮りに執行することができる。

五、被告等は共同して金一〇〇万円を担保として供託するときは前項の仮執行を免れることができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告等訴訟代理人は、

1  被告等は連帯して

(一) 原告寿美子に対し金三、五〇六、七九九円

(二) 原告哲郎に対し金五、五〇〇、〇〇〇円

(三) 原告セツに対し金一、〇〇〇、〇〇〇円

及び、昭和四一年八月二七日から各完済に至るまで右各金額に対し年五分の割合による金員を加えて支払うべし。

2  訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

との判決、並びに仮執行の宣言を求めた。

二、被告等訴訟代理人は、請求棄却の判決を求めた。

第二、原告等の主張

原告等訴訟代理人は、次のように述べた。

(身分関係)

一、亡倉藤努(以下単に努という)は父片野増三郎、母ヤマ間の二男で、昭和三六年七月八日原告セツの養子となり、同日原告寿美子と婚姻したものであるが、昭和四〇年一〇月一六日交通事故により死亡した。

原告哲郎は努と原告寿美子間に長男として昭和四〇年一〇月二八日に出生したものである。

(交通事故)

二、昭和四〇年一〇月一六日午後五時三〇分頃、努は自宅から原動機付自転車(以下バイクという)に乗つて三条市御蔵橋の前から五十嵐川堤防上を東方に向つて走行し、常盤橋前から右折して常盤橋通を南進しその中央交差点から更に右折しようとした途端、三条駅方面から常盤橋に向つて疾走して来た被告高野弘乗用のバイクが左側から激突した。

三、努は間もなく救急車で田島医院に運ばれたが頭蓋底骨折のため同日午後五時五〇分頃死亡した。

なお、努の左手指四本に擦過傷があつた。

(帰責事由)

四、右の事故は、被告弘の無免許運転により対向車の来ること並びにその対向車が十字路においての右折方向等要するに前方確認の注意義務を怠つたために発生したもので、その結果に対し不法行為上の責任あるものである。

五、被告久五は、その居所において、店員一一、二名を使用し金物雑貨製造販売の問屋業を経営しているもので、被告弘は、その住込店員で、商品の梱包、運搬、整理等の補助や雑役、雑務に従事しているものである。

被告弘が前記事故を発生せしめたのは、当日被告久五の番頭金子政一に命ぜられて手紙を投函しに行つた帰途の出来事であつたから、被告久五は事業上の使用者責任を負わねばならないものである。

因に、

被告久五は、被用者弘の事故発生は(イ)営業時間外であり(ロ)乗用したバイクは店員佐藤悦男のものであり(ハ)投函せしめたという手紙は番頭の私信であつて、いずれの点からみても「事業の執行」に関係がないと責任回避の態度をとつているが、仮りに、被用者の行為が営業時間外であつても乗用者が使用者の保有でなくても、被用者の行為が直接使用者の指揮命令に基づかず、その支配下にある他の被用者の指図や委託による間接の場合であつても、或は極端に使用者の指揮命令に違背してした事でも、その行為の外形外観を客観的に見て「事業の執行につきなされたもの」というべきで、しかも事業執行の外形範囲は極力拡張して観察判断すべきものである。

(損害)

六、努は、生前菓子類の製造販売業をしており、死亡前一年間の営業利益は

1  通常売上利益 金一、五八七、六〇〇円

2  季節売上利益 金一一三、四〇〇円

3  臨時売上利益 金八四、〇〇〇円

4  特別注文加工賃 金一二〇、〇〇〇円

合計 金一、九〇五、〇〇〇円

(以上は総売上の三割五分を利益として算出したものである)

同年間の生活経費は金六六〇、〇〇〇円であつたから差引純益は金一、二四五、〇〇〇円であつた。

七、努は昭和一一年二月一七日生れの健康の男子で死亡当時満二九歳であつて、厚生省が発表した第一〇回生命表によれば向後四〇、五九年の余命があるから、仮りに五九歳に至るまで三〇年間営業稼働可能とすれば、努は前記差引純益金一、二四五、〇〇〇円の三〇倍である金三七、三五〇、〇〇〇円の得べかりし将来の利益を逸失したことになり、被告等に対しこれが賠償債権を有したものである。これを事故当時に一時請求するときは、年五分の中間利息を控除して算出するホフマン式計算法によるを相当とし、その算出率四〇パーセントを右逸失利益額に乗ずれば金一四、九四〇、〇〇〇円となり、被告等の一時払すべき額である。

八、努の相続人は妻である原告寿美子と長男である原告哲郎でその相続分は

寿美子は三分の一で 金四、九八〇、〇〇〇円

哲郎は三分の二で 金九、九六〇、〇〇〇円

であるところ、本訴において、

原告寿美子は 内金二、五〇〇、〇〇〇円

原告哲郎は 内金四、五〇〇、〇〇〇円

を請求するものである。

九、原告寿美子は田島医院へ努の検死料として金一、三〇〇円を支払つた。これは被告等の賠償すべき損害である。

一〇、原告哲郎は父努の死亡した昭和四〇年一〇月一六日当時は胎児で、出産予定日は同月一八日頃であつたところ、原告寿美子は夫の事故死の急変に驚愕し、そのショックで出産が異状に遅れ、同月二五日三条総合病院へ入院し、同月二八日遂に帝王切開手術を受けて分娩し、同年一一月八日退院したものであるが、同病院に支払つた料金二一、六七四円と輸血代、附添人手当等雑費金三八、〇〇〇円と計金五九、六七四円は被告等の不法行為に基づき発生した損害であるから、これが賠償を請求する。

一一、これより先、原告寿美子は、同年一〇月一九日に亡夫努の葬祭を行なつたが、その諸経費は次のとおりでこれはすべて被告等の賠償すべき損害であるからその支払を請求する

1 葬具一式代 金三六、二二〇円

2 写真引伸代 金一、〇〇〇円

3 仏前造花代 金七、〇五〇円

4 料理・酒代 金二八、六七〇円

5 引物菓子代 金二四、六〇〇円

6 まんじう代 金四、四八五円

7 火葬場往復車代 金八、五〇〇円

8 寺僧お布施 金一七、八〇〇円

9 通信費 金五、五〇〇円

10 手伝人夫手当 金一二、〇〇〇円

合計 金一四五、八二五円

一二、努急死により原告等は一家の支柱を失い、将来の失望と悲歎のどん底につきおとされ、その精神的苦痛は絶大長期である。これが慰藉料として、一人当り金一〇〇万円ずつ計金三〇〇万円を要求する。

一三、原告寿美子は原告全員のために本訴を訴訟代理人に委任し、弁護士報酬として金三〇万円を支払つた。

本訴特に前記五項記載のような態度をとつている被告久五に対する訴訟は素人には極めて困難であり、専門家たる弁護士を依頼することは必要止むを得ないところであり、従つて右報酬金三〇万円の支払は被告等の不法行為と相当因果関係があり、通常生ずべき損害と認められるから、この賠償を求めるものである。

一四、以上の全損害額を原告各人別に分類すると次のとおりである。

1 原告寿美子の請求分

(一) 検死料 一、三〇〇円

(二) 病院費 五九、六七四円

(三) 葬祭費 一四五、八二五円

(四) 逸失利益の内金 二、五〇〇、〇〇〇円

(五) 慰藉料 一、〇〇〇、〇〇〇円

(六) 弁護士費 三〇〇、〇〇〇円

計 四、〇〇六、七九九円

2 原告哲郎の請求分

(一) 逸失利益の内金 四、五〇〇、〇〇〇円

(二) 慰藉料 一、〇〇〇、〇〇〇円

計 五、五〇〇、〇〇〇円

3 原告セツの請求分

慰藉料 一、〇〇〇、〇〇〇円

以上総合計 金一〇、五〇六、七九九円

一五、ところで、被告弘の父万之助が昭和四〇年一〇月三一日金二万円、同年一二月二八日金三万円、昭和四一年三月一四日金三〇万円、同年六月八日金一五万円、合計金五〇万円を持参し、被告弘の重過失を陳謝したのでこれを原告寿美子の損害内入金として受領した。

よつて、前項原告寿美子の損害額については金五〇万円を控除した額を、原告哲郎、セツについては前項の各損害金を被告等に請求し、なお、各原告の損害金につき本件訴状送達の翌日から完済に至るまで法定利率年五分の割合による遅延損害金を請求するものである。

第三、被告等の答弁及び主張

(答弁)

一、原告等の主張する前示第二の一の身分関係は認める。

二、同二、三の交通事故の内、原告主張の日時場所で努のバイクと被告弘乗用のバイクが衝突し、努が救急車で田島医院に運ばれたが頭蓋底骨折のため死亡した事実(但し死亡時刻は争う)は認めるがその余は争う。

三、帰責事由即ち四、五は争う。(但し、五の内、被告久五がその居所において店員一一、二名を使用し金物雑貨製造販売の問屋業を経営している事実、被告弘が当時住込店員であつた事実は認める。)特に五の原告主張事実は後記のとおり事実と全く異なるものである。被告弘が事故を起したのは、被告弘が勤務時間終了後の午後五時四〇分頃、自分が読むスポーツ新聞を三条駅に買いに出た帰途の出来事で、番頭金子政一に命ぜられて手紙を投函に行つた帰途の出来事ではない。

その他原告主張の法律論は全部これを争う。

四、原告主張の損害事項は全部争う。但し、被告弘の父万之助が原告等に金五〇万円を支払つた事実は認める。

(被告等の主張)

五、被告弘の本件事故は、被告久五の「事業の執行」につきなされたものではない。前述のように本件事故は被告弘が営業時間外である当日午後五時四〇分頃、自分が読むスポーツ新聞を三条駅売店に買いに行つた帰途の出来事である。原告は番頭金子政一に命ぜられて手紙を投函しに行つた帰途の出来事であるというが、それは全く異なる。当日午後四時頃、番頭の金子政一から手紙の投函を命ぜられたので、被告弘は午後四時半頃自転車で投函し、一旦店に帰つているもので金子政一から頼まれた用事はすでに終つているのである。

被告久五商店では午後五時三〇分に勤務時間は終了するので、被告弘は午後五時四〇分頃、スポーツ新聞を見たくなり、三条駅売店に買いに行こうと思つたのであるが、あいにく小雨が降つてきたのでバイクで行くことを思いついたが、被告弘は無免許であるので、被告弘がバイクに乗ることは被告久五を始め店の者のすべてがこれを禁じていたところから被告弘は四、五日前よりたまたま被告久五商店に臨時雇として来ている佐藤悦男が玄関先で帰り仕度をしているのに出会つたので同人なら貸してくれると思い、同人から同人所有の第一種バイク(栄村A―二七一号)を借りこれに乗つてスポーツ新聞を買いに行つた帰途本件を起したのである。従つて、本件事故は被告弘が営業時間外に自分が見るスポーツ新聞を買うという全くの私用で、被告久五の支配と利益とは全く関係のないときに起したもので、その乗用したバイクも被告久五のものではないのであるから、いずれの点よりみても被告久五の事業との結びつきは全くなく被告久五の事業とは無関係である。

原告は、事業執行の外形範囲は極力拡張して観察判断すべきものである旨主張するが、民法七一五条は使用者に無制限に責任を負わしめる趣旨ではない。よつて、原告の被告久五に対する請求は失当である。

(過失相殺の主張)

六、被害者努は本件事故当時、飲酒し酩酊運転をしていた。努は当日午後四時頃、床屋と金子医院に行くといつて家を出たが、そのいずれにも寄らず、三条市内の飲食店で酒を飲んでいた。その帰途被告弘のバイクと衝突したものであつて、本件事故は努が飲酒酩酊していたため、前方注視を怠つたことにも一原因が存する。

よつて、被告弘に対する請求については努の飲酒運転についての過失が損害賠償の額を定めるにつき斟酌さるべきである。

第四、原告等の再答弁

原告等訴訟代理人は、次のように述べた。

一、被告等は本件事故当時被害者努が飲酒していた旨主張するが、その事実はない。努は元来酒に親しまない男である。よつて、被告の過失相殺の主張は失当である。

二、被告等は、本件事故は、被告弘が勤務時間外にスポーツ新聞を買いに出た際に生じた旨主張するが、それは虚構の主張である。

三、前主張のとおり、本件事故は被告弘が番頭金子政一に命ぜられ郵便投函の帰途発生したものであるが、仮りにそれが金子の私信であつたとしても第三者に対する外観は「事業の執行」と区別すること殆ど不可能であり、寧ろすべて業務用とみることが相当である。

四、被告久五は、被告弘にバイク乗用を禁じていたと主張し、これを以てその選任監督に注意をしたから責任がないというもののようであるが、単に乗用を禁じただけでは民法七一五条のいう「相当の注意」をしたということはできない。

第五、証拠関係 〔略〕

理由

第一、争のない事実

次の事実は当事者間に争がない。

一、亡倉藤努は、昭和三六年七月八日原告セツの養子となり、同日原告寿美子と婚姻したものであること、原告哲郎は右努と原告寿美子間に長男として昭和四〇年一〇月二八日に出生したこと。

二、昭和四〇年一〇月一六日午後五時四〇分頃、原告主張の地点において、努の運転するバイクと被告弘の運転するバイクとが衝突し、これにより、努が頭蓋底骨折のため、同日死亡したこと。

三、被告久五は、右当時店員一一、二名を使用し金物雑貨製造販売の問屋業を経営していたこと、被告弘は当時被告久五の住込店員であつたこと。

四、被告弘の父万之助が、原告主張のように金五〇万円を原告寿美子に支払つたこと。

第二、争点に対する判断

一、被告弘の帰責事由

〔証拠略〕を総合すると、被告弘は前記事故当時バイクの運転免許を有しないものであつたにかかわらずバイクを運転し、前方注視等安全運転の注意義務を怠つたため、努運転のバイクと衝突し、これにより努を死に至らしめたものであることを認めることができる。従つて、被告弘はこれにより生じた損害を原告等に賠償しなければならない。

二、被告久五の帰責事由

1  被告等は、その主張として、本件事故は、被告弘が当日午後五時三〇分の終業後スポーツ新聞を買うべくバイクに乗り三条駅売店へ行きその帰途において発生したものである。従つて、これは被告弘個人の私用に属し、被告久五の事業の執行に関するものではない。又、そのバイクは訴外佐藤悦男(被告久五の臨時店員)の保有するもので被告久五の保有するものではない。よつて、被告久五には本件事故について法律上の責任はない旨主張し、

原告等は、右被告等の主張に対し、スポーツ新聞を買うためというのは虚構で、真実は被告久五方の番頭金子政一に命ぜられ郵便投函の帰途において本件事故が発生したものである旨主張するのである。

よつて、審案するに、被告久五方の終業時刻が午後五時三〇分であることと、右被告弘の運行したバイクが訴外佐藤悦男の保有するものであることについては、原告等は明らかに争つていないし、関係証拠により認められるところであるが、本件の主要な争点は本件事故の際における被告弘の用務が何であつたかという点に帰するのである。

よつて、右の争点について、証拠を検討するに、〔証拠略〕によれば本件事故の翌日たる昭和四〇年一〇月一七日三条警察署において被告弘は前記のように「スポーツ新聞を買う目的で三条駅へ行つたが売切れてなく店へ帰る途中において本件事故が発生した」旨供述し、更に〔証拠略〕によれば、昭和四一年三月一八日新潟地方検察庁三条支部において同様の供述をなし、又被告弘の当審における本人尋問においても同様の供述をなし、その新聞名はサンケイスポーツであると述べている。ところが、〔証拠略〕によれば、昭和四〇年一〇月一六日三条駅売店においてサンケイスポーツは一〇部受入れ五部残つた事実及び、その他スポーツ日本七部、中日スポーツ五部、スポーツタイムス二部、デイリー二七部が売れ残つた事実を認めることができる。更に、〔証拠略〕を総合すると、本件事故直後努の収容先田島医院において、被告久五方の番頭で従業員中の幹部たる金子政一が原告寿美子や近藤明等に対し「私が弘に手紙を出してくれるよう言いつけたので事故が起きた、申訳ない」旨述べた事実を認めることができる。

被告等は、右金子政一が右医院において述べたのは、当時そのように思つていたのであるが、事実は、被告弘はその頼まれた郵便は当日午後四時三〇分頃投函済みであつた旨主張する。しかし、以上の認定事実を総合すると、被告等の主張するスポーツ新聞云々の点はこれを措信し難く、却つて、原告等の主張するように、金子政一に命ぜられ郵便を投函しての帰途において本件事故が発生したものと推定するのを相当とする。

2  以上判示するところ、及び、本件事故は終業時刻を過ぎるとはいうものの僅かに一〇分程度のものであり、被告弘は被告久五方の住込店員で雑務に従事していたものであること、等を総合すれば、客観的には被告弘が被告久五の事業執行に際し本件事故を起したものと解しなければならない。

よつて、被告久五は民法第七一五条により使用者として、本件事故により生じた損害を原告等に賠償する責任がある。而して被告弘の本件責任との関係は不真正連帯債務である。

三、損害

次に原告等主張の損害の点について判断する。

1  努の逸失利益

努が死亡当時二九歳の健康な男子で菓子製造業を営んでいたことは〔証拠略〕により認められる。又、厚生省発表の第一〇回生命表によれば向後四〇、五九年の余命があること、そして、原告等主張のように五九歳まで三〇年間営業稼働ができるとの点は当裁判所に顕著な事実である。

ところで、原告等は、努の死亡前一年間の営業利益を金一、九〇五、〇〇〇円である旨主張するところ、甲第二二号証と原告寿美子本人の供述とによれば、昭和四〇年一月から同年一〇月まで一〇ケ月間の所得を金八四三、九八四円として三条税務署へ申告し決定したことが認められる。

即ち、一ケ月当り平均八四、三九八円となり、これを一二ケ月分として金一、〇一二、七八〇円となり、これを以て、努死亡前一年間の利益とみるを相当とし、これを超える原告等の主張を認めるに足る証拠はない。

ところで、原告等は同年間の生活経費を金六六〇、〇〇〇円といい、原告寿美子本人もこれに符合する供述をしているので、これを相当と認める。

よつて、右利益金一、〇一二、七八〇円から右生活費金六六〇、〇〇〇円を差引くと金三五二、七八〇円となるところ、これに前示稼働可能年数三〇を乗じ金一〇、五八三、四〇〇円となり、これが努の得べかりし将来の利益であると認めるを相当とする。そこで、原告等の主張するように年五分の中間利息を控除して算出するホフマン式計算法によれば金四、二三三、三六〇円となり、これが努において一時請求し得べき金額となる。

ところで、右に対し、原告寿美子の相続分は三分の一であるから金一、四一一、一二〇円、原告哲郎の相続分は三分の二であるから金二、八二二、二四〇円となるのである。

2  原告寿美子の損害

(一) 〔証拠略〕によれば、田島医院へ努の検死料として金一、三〇〇円を支払つた事実を認める。

(二) 原告寿美子主張の葬祭費の内

葬具一式代 金三六、二二〇円

写真引伸代 金一、〇〇〇円

料理酒代 金二八、六七〇円

引物菓子代 金二四、六〇〇円

まんじう代 金四、四八六円

以上合計 金九四、九七五円

については、〔証拠略〕により認めることができるから、これを採用するが、その余の分は立証がないので採用することができない。

(三) 原告寿美子は本件事故当時妊娠し臨月で事故の翌一八日頃が出産予定日であつたところ、夫努の事故死というシヨツクにより出産が異状に遅れたため、入院し帝王切開手術を受けるに至つたから、これに要した費用金五九、六七四円の賠償を求めるというが、本件事故との因果関係を認めるに足る証拠が乏しいので、これを採用することができない。

(四) 原告寿美子の慰藉料の請求については、前記各認定事実とその他本件弁論に現れたすべての事実関係を総合し金三〇万円を以て相当と認める。

(五) 原告寿美子は本件訴訟について弁護士費用として金三〇万円を要したとしてこれを請求するところ、本件の認定事実と訴訟の経過等にかんがみ、これを相当と認める。

3  原告哲郎、セツの慰藉料

原告哲郎及びセツの慰藉料の請求については、本件認定事実と弁論に現れたすべての事実関係を総合し、哲郎については金三〇万円、セツについては金二〇万円を以て相当と認める。

第三、過失相殺の抗弁について

被告等は、本件被害者努は本件事故当時飲酒酩酊しており同人にもバイク運行につき過失があつて、本件事故を生じたものであるから、損害賠償額を定めるにつき斟酌すべき旨主張する。しかし、右抗弁事実を認めるに足る証拠がないから、これを採用することはできない。

第四、結論

以上判示するところにより

一、原告寿美子については

努逸失利益相続分 金一、四一一、一二〇円

検死料 金一、三〇〇円

葬祭費 金九四、九七五円

慰藉料 金三〇〇、〇〇〇円

弁護士費用 金三〇〇、〇〇〇円

計 金二、一〇七、三九五円

となるところ、右に対し被告弘の父万之助から支払われた金五〇万円を弁済充当し差引金一、六〇七、三九五円が原告寿美子の請求し得べき金額である。

二、原告哲郎については

努逸失利益相続分 金二、八二二、二四〇円

慰藉料 金三〇〇、〇〇〇円

計金三、一二二、二四〇円が請求し得べき金額である。

三、原告セツについては、慰藉料として金二〇万円が請求し得べき金額である。

四、なお、原告等は被告等に対し、右各金額の外に、本件訴状送達の翌日たる昭和四一年八月二七日から完済に至るまで法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

五、原告等の請求中、前示認容した部分を超える請求は失当であるから、これを棄却する。

六、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を、仮執行の宣言及びその免脱につき同法第一九六条を適用する。

以上の理由により主文のとおり判決する次第である。

(裁判官 荒井重与)

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