新潟地方裁判所三条支部 昭和42年(ワ)63号 判決 1976年6月04日
主文
一 反訴被告(本訴原告)は反訴原告(本訴被告)に対し、金四三四万六、一三〇円および昭和四二年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求を棄却する。
三 反訴に関する訴訟費用は、これを五分し、その二は反訴被告の、その余は反訴原告の各負担とする。
四 この判決の主文第一項は、かりに執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 反訴原告(以下単に原告という。)
(一) 反訴被告(以下単に被告という。)は原告に対し金一、〇〇〇万円及び右金額に対する反訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 反訴に関する訴訟費用は被告の負担とする。
(三) 仮執行宣言。
二 被告
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 反訴に関する費用は、原告の負担とする。
第二 原告の請求原因
一 被告は原告に対し、昭和四二年(ワ)第一三、一五、五三号約束手形金請求、同年(手ワ)第七号約束手形金請求(何れも併合決定済)事件を提起し、右事件分離のうえ昭和五〇年一一月二八日判決言渡となつた。
二 原告は電機製品の販売を業とするものであり、被告は電機製品卸業を営み、新潟市明石通一丁目六八番地に新潟支店を有し、原告は被告より電機製品を買い受け四人の従業員を使用して右営業をなしてきたもので年間一、五〇〇万円以上の売上をなして営業は極めて順調に向上、月純利益金三五万円平均の利益をあげていたものである。
三 被告との取引は昭和四〇年五月から取引をなしその額は月金八〇万円相当に及んでおり仕入れた月の二〇日締切で月末より一三五日后支払の約束手形をもつて代金決済をなしてきたものである。
四 そこで昭和四一年一二月八日現在は未だ支払期日未到来の手形債権を被告は有していたが期限は未到来であつて同年一二月一五日にようよう到来する支払期日の手形が金九五万円あつたにも拘らず右一二月八日午后一時頃被告会社の従業員竹内周二、同近藤後男、同町井政二の三人が原告肩書地店舗にきてその場に居合せた被告従業員榎本釜次郎、山田勝治の制止もきかず「三共電機は駄目になるから」と称して店舗内にあつた原告所有の別紙目録(一)の商品及び別紙目録(三)営業用帳簿、小切手、手形帳等営業に必要な一切のものを窃取し、更に原告の倉庫(三条市新光二〇八三番地)に行き無断で別紙目録(二)の商品を窃盗して右各商品をトラツク二台に積込み持出してしまつた。
五 そこで、右窃取の対象物は原告在庫品全部、帳簿、印鑑、手形、小切手帳に及んでいるため原告は営業することが不可能となり右窃盗された日から営業を休業し今日に至つておる。
六 しかして、手形不渡や売掛金未払のため在庫品を引き上げることは往々にしてあることであるがその場合も一応その所有者の承諾を得るとか一応預り品としての明細を明確にしているものであるが、本件の如き支払期日が未到来にも拘らず印鑑、小切手帳、手形帳、現金、帳簿一切を無断で引上げるなどと言うことは明らかに窃盗乃至は強盗に該当するもので原告は直に警察に刑事事件として告訴中で目下業務妨害及窃盗容疑捜査中である。
七 そこで、原告は被告の不法行為のため営業不可能となり昭和四一年一二月一五日支払期日の被告に対する手形金を支払うことが出来ず不渡せざるを得ない状態となり爾来被告宛に振出した手形は何れも不渡となつたもので被告は昭和四一年一二月一五日不渡となり始めて本件訴訟に及んだものである。
八 右被告の行為は明らかに不法行為であつてこれによる損害賠償を被告は原告に支払うべき義務がある。
その内訳は
(一) 別紙目録物件(一)金一二二万二、八三〇円
(二) 別紙目録(二)物件金三一二万三、三〇〇円
(三) 営業不能により得べかりし利益の喪失
原告会社の事件当時一ケ月純利益として金三五万円であつた。そこで二年分として、金八二〇万円を求める。
(四) 大光相互銀行とのリビングプラン契約破棄による損害金五〇〇万円
以上(一)ないし(四)の合計四三四万六、一三〇円
1 リビングプラン契約とは、原告が昭和四〇年三月株式会社大光相互銀行東三条支店とリビングプラン契約を締結し、原告が電気製品を買受けた顧客から右契約に加入して貰い、加入者に対し、大光相互銀行がこれを毎月集金し、原告の大光相互銀行の普通預金口座にその集金額を預金として入れられるもので、加入者は、一口千円として何口も加入出来て、三年を一契約期間として、積金の三倍迄の価格の商品を加入者が原告から購入出来る事が出来るしくみとなつているのである。
これは、銀行の信用を必要として、銀行の信用により加入者が安心して容易にこれに加入する事が出来たのである。
本件事件当時、加入者が九六名で、契約口数は二九四口に達していた。
2 そこで、一ケ月の集金高は二九万四、〇〇〇円であるから、
二九万四、〇〇〇円×一二×三=一、〇五八万四、〇〇〇円
これに対する預金高の三倍の商品を引き取る事が出来たのであるから、
一、〇五八万四、〇〇〇円×三=三、一七五万二、〇〇〇円
となり、これの純利益は一割八分の利益があるので、
三、一七五万二、〇〇〇円×〇・一八=五七一万五、三六〇円
である。
3 よつて、この損害金が五七一万五、三六〇円となるが、その内金五〇〇万円を求めるもので、右は、原告の不法行為により、営業を継続することが出来なくなり、加入者には詫び、止むを得ず、積立金を返済したもので、被告の不法行為である。
九 しかして、被告は本訴に於て約束手形等の請求をしているものであるが、右損害賠償金の内金一、〇〇〇万円について差当り第一記載の通りの請求を求めるため反訴に及んだ。
第三 請求原因に対する被告の答弁
一 第一項は認める。
二 第二項中、原被告の営業目的、原告の新潟支店の所在は認めるが、被告の従業員数は不知、年間売上高、純益金は争う。業績が順調であつたとの主張は否認する。
三 第三項中、取引開設の時期は認めるが、月間売上高、代金決済方法は争う。
四 第四項中、被告主張の日に原告が被告から商品等の占有の移転を受けたことは認めるが、その物件の種類・数量および移転の原因に関する主張は争う。右日時に原告が被告振出の期限未到来の約束手形を所持していたが、他面、当時原告は被告振出の期限到来の約束手形(額面合計金一七三万円)を所持していたほか、未決済貸付金九七万六、〇〇〇円の債権を有していた。
(一) 被告が原告よりいわゆる引揚げた商品の明細は別紙目録(四)記載のとおりである。
(二) 右目録のうち、No.1は他社製品で、No.2は自社製品である。その価格はいずれも引揚時における卸売取引価格を記載している。No.1の商品は数次にわたり返還方を申入れてきたが、被告がこれに応じないので(返還受領には被告の協力が必要である)、止むを得ず原告方の倉庫に入れて保管している。No.2の商品は返品処理をして、すでに転売済である。
(三) 以上のとおりで、仮りに原告のした引揚げが違法なものであるとしても、No.1の商品については被告自らがその返還受領を拒絶しているのであるから、主張の損害との間に因果関係がなく、No.2の商品については法定の担保権(民法三一一条六号)を有しており、その処分行為は実質的には右担保権の実行とえらぶところがないから、結局、これらの点において本訴請求は失当である。
五 第五項ないし第八項は、争う。
第四 被告の抗弁
一 本件商品の引揚げは、原告の承諾のもとに行われた適法のものである。
二 かりに、右原告の承諾がなかつたとしても、被告の本件引揚げ行為は、原被告間の契約に基いて行なわれた正当な行為である。その事情は以下のとおりである。
(一) 原告は、昭和四〇年四月中設立された会社であつて、その前身は株式会社サンヨー電化ハウスであり、同会社は昭和四〇年御庁で破産宣告を受けている。原告の代表取締役鈴木四郎は同会社の取締役として会社の業務を遂行していた。
(二) したがつて、原告は設立当初から当業界および金融筋の信用がなく、苦しい経営を続けてきた。被告は不用意にも右事情を知らないで昭和四〇年五月原告との間に継続的商取引契約を取結んで商取引をするに至つた。しかして、原告の取扱高に占める被告商品の割合は八割以上であり、この取引は無担保でまつたくの信用取引であつた。加えて、後記のとおり被告は原告の懇請を断わりきれず数次にわたり資金面の面倒をみてきたから、原告の経営は殆んど被告に依存していたといつても決して過言ではない。
(三) 被告の原告に対する資金面における援助の概略は次のとおりである。
1 被告では、売買代金を毎月二〇日締切つてその月の末に支払を受けるのが建前であるが、原告に対しては取引の初めから一三〇日前後の期限の利益を与えることにしたばかりでなく、取引中この期間も守れなかつたためにさらに期限を延長し、一〇ケ月を超える便宜を計つたこともあつた。
2 被告は原告の依頼により同人に対し手形引落し資金として次のとおり
(1) 昭和四一年五月一五日期限到来の額面合計金一〇九万円の約束手形について、同月一六日金一〇〇万円
(2) 昭和四一年六月一五日期限到来の額面合計金一二一万八二五〇円の約束手形について、同月一六日に金八〇万円
(3) 昭和四一年八月一五日期限到来の額面合計金四五万円の約束手形について、同月一七日金四五万円
(4) 昭和四一年一一月一五日期限到来の額面合計金九七万六、〇〇〇円の約束手形について、同日金九七万六、〇〇〇円
をそれぞれ貸渡した。
3 このほか、被告は原告の依頼により取立委任中の次の約束手形
(1) 昭和四一年九月一五日期限到来の額面合計金八七万円
(2) 昭和四一年一〇月一五日期限到来の額面合計金八六万円
を、昭和四一年九月一一日依頼返却の手続をとつて取立委任を見合わせた。
(四) 被告が昭和四一年一二月八日原告から売渡商品を含む物件を引揚げた理由は、次のとおりである。
前項でみたとおり、被告は原告に対し経営を維持継続させるための能うる限り資金面の面倒をみてきた。なかんずく、前項(二)の(4)の手形引落し資金の貸与は、営利会社として稀にみる異例の措置であつた。すなわち、当時被告は原告に対し相当な担保を供与しなければ出荷をしない建前をとつてこれを実行しており、(原告の資産信用状態に鑑み、被告は昭和四一年一〇月出荷停止を決定し、その頃原告に通告した。その詳細は後記のとおり)右手形の不渡もまたやむをえないと考えていたところ、同手形の満期当日の午後二時ころ突然原告の代表者鈴木四郎の訪問をうけ「何としても手形不渡は避けたい、指示された担保も供与するから、手形引落し資金を即時貸して欲しい」との執拗な懇請があり、一たんこれを拒絶したが、「間違いなく同月末内金二〇万円、翌月上旬残金を弁済する。その資金手当も準備した」というので、被告本社の指示を得て当日午後要望どおりの金銭を貸与し、原告はこれを引当にしてかろうじて不渡を免れた。そうであるのに、原告は約定の期限がすぎても右弁済をしないばかりでなく担保供与もしないので、被告としては原告の態度に重大な不信感をいだかざるえないようになり、このまま放置すれば債権保全の時期を失するものと考え、原告との間に取交した取引約定書第一二条「本契約が解除せられ当事者が相互にその債権債務に関する一切の整理を行うときは、乙が甲の在庫している商品を持帰り乙が有する債権に充当するも甲は異存ないものとします」および第一三条「前条により乙が甲の在庫商品を持帰るとき甲はそれを拒まず、又甲が不在と雖も甲の社員、店員、家族は異議を申さないものとします」の趣旨にもとづきいわゆる引揚げの措置を決定したのである。
(五) 右引揚げ当時、被告は原告に対する出荷を停止していた。それはつぎの理由からである。原告は昭和四一年五月以降資産信用の状態が特に悪化し、同月以降期限到来の約束手形はいずれも被告から資金貸与をうけて引落したか、さもなければ、依頼返却の手続により不渡りを免れていたものばかりであつたところ、同年一〇月中原告から提出された販売計画表と資金繰り表の記載内容は杜撰極るものであり、経営の前途に期待をもつことができなくなつたので、その頃出荷停止を決定しこれを原告に通告した。
第五 抗告に対する原告の答弁
一 抗弁一の事実は否認する。
二 同二について
(一)の事実について
原告会社は株式組織からして又販売商品のメーカー名の相異からして訴外株式会社サンヨー電化ハウスとは全く異質且つ別個に設立した会社である。
したがつて、信用面、営業面は共に第三者的な新会社としての信用で業務を遂行していた。
(二)同(二)の事実は争う。
(三)同(三)について
1 原告は被告より資金を借りたことは認めるが、借入金に対しては原告の要求通りに金利を支払つており又被告も昭和四〇年八、一〇月の集金の時担当セールスマンより今月集金事情が非常に悪いから短い手形にしてくれと懇請され一三〇日前後に支払つても良い、特に六〇日と言う短い手形に支払つた事も有り全て商業ベースで処理して来たものである。
尚、当業界ではどのメーカーも話合いでやつていることであり、又その時の金利等の申合せもあり取引上信用ウンヌン外である。
この当時原告には月賦販売部があり、小売店が長期月賦した場合決められた利息を支払いその商品だけ長期の支払手形でも良いと言う制度があつた。言替えれば手形を発行する時担当セールスマンとの間で、もし都合が悪くなつたら書替えると言う話合いの上で渡したものであるからである。
2 (三)の2・(3)(4)と3の(1)(2)は原告の責任ではないし、被告も責任があることは被告も知つていることである。
それは(三)の2の(3)の金員を借りに行つた時、被告より原告が購入し販売した商品中不良品が非常に多く修理及び取替えしなければ集金できない代金が数百万円に成り、その相談に行つた時話合いが成立し実行したもので有りこれも本件に於て問題となるものではない。
(三)の2(1)(2)については、原告の都合上借りたものであるが前項の影響もあつたとも思われるがその時は前記(三)に示した通りに処置してきたものである。
(四)1 同(四)については、否認する。
2 右(三)2に示した商品の修理及交替を再三依頼をしても被告は履行せず集金出来ない商品代金が同手形期日満期日に於てまだ数拾万も有り原告としては支払うべき手形でないと判断し、一応決済資金を用意し、昭和四一年一一月一五日被告方に行き借入申込みをした。
3 その時初めて担保の問題等の話が堀内商会の方から提示があり今ここで決定が出来ないが後日良く話合いましようと言つた。
今借りた金は修理等が完了すれば今月内に金二拾万以上、来月には残りを全部返済することを約した。
にも拘らずその日内には一件しか完了せずそのことでいろいろ問題もあつたがそれでも原告は(三)1に示した商業ベースと言うことで弐拾数万円の約束手形で支払つた。
これは現金にして返済するのが本来であるが被告の方で手形でも良いと言つて集金していつた。
その手形は満期日が過ぎて支払済みであるが今だに金額は差引かれていない。
4 (四)の担保も提供しないとあるが、担保の問題は話合、継続中であり、又その他の問題も継続しており取引約定書第一二条及第一三条を適用したとあるが、その時点に於ては前項までに述べた通りなんら被告が原告に対して不信感をいだく理由がなく、又なんらの事前連絡も無く債権債務の整理云々の話は一度も無く、第一三条も適用したと言うことはなんら理由がないことである。
5 以上のようなことから右(三)2の件についても本来ならば原告が金利を支払うべき性質でないものを原告の善意により、(三)1の商業ベースと言う考えから遂行したものである。
6 又話し合い継続中であつたため一二月一五日の堀内に対する決済手形も資金手当が完了し原告の代表者が営業のため出張しその留守を確め代表者とは話合い済みと偽つて商品はおろか、帳簿類、印鑑(個人も含む)ロツカーと営業に関する一切を持出したもので被告は明らかに営業妨害を目的として恐喝したものである。
7 一二月八日後商品等持出したものを速やかに返すよう話合いに行つた時金百万円と不動産の担保を提供すれば直ちに返してやると言つて原告としては実行出来ない条件を提示された。
それでも原告としては一二月一五日まで話合で和解するつもりで話合いに被告方まで行つたが新潟支店長より罵倒され、やむなく帰つた次第である。
一二月一五日は手形決済日でそれまでに被告としては返してくれるのではないかと原告は考えていた。
(五) 同(五)の事実は争う。
第六 証拠(省略)
別紙目録(一)
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別紙目録(二)
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別紙目録(三)
1 売掛帳
イ)安田年夫 ロ)馬場貞介 ハ)山腰 ニ)藤田行男 ホ)熊倉
ヘ)谷川 ト)桜井博 チ)小野里太一郎 リ)斉藤文夫 ヌ)田村義男
ル)まるや商店 オ)桐生製作所 ワ)五十嵐一夫 カ)安中熊平 ヨ)安中美喜男
2 在庫帳
イ)テレビ ロ)冷蔵庫 ハ)洗濯機 ニ)テープコーダー ホ)掃除機
ヘ)化粧品
3 印鑑
イ)鈴木印 ロ)高橋 ハ)伊藤
4 メモ帳
現金の借入及貸付及返済等記入してあるもの
5 手形支払帳 1
6 納品書 2
7 領収書 1
8 書庫の破損 1
9 小切手帳 2
10 手形帳 2
11 社印 3
12 会社株券
13 預金通帳 5
14 当座入金帳 2
15 LPL関係書類 7
16 納品書 6(1冊が紛失)
17 領収書 4
18 請求書 1
19 製品棚卸価格表(全メーカー)
20 帳簿用印鑑全部
別紙目録(四)
No.1
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