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新潟地方裁判所佐渡支部 平成20年(ワ)14号 判決 2009年1月27日

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原告

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同訴訟代理人弁護士

佐藤克哉

東京都新宿区西新宿八丁目2番33号

被告

株式会社SFコーポレーション(旧商号 三和ファイナンス株式会社)

同代表者代表取締役

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同訴訟代理人支配人

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主文

1  被告は,原告に対し,金334万0103円及び内金238万9417円に対する平成19年11月30日から,内金11万円に対する平成20年2月18日から,内金24万円に対する同年3月22日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを7分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,原告に対し,金389万0103円及び内金238万9417円に対する平成19年11月29日から,内金55万円に対する平成20年2月18日から,内金35万円に対する同年3月22日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき,仮執行宣言

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は,原告が,貸金業者である被告との間で金銭消費貸借取引を継続していたところ,当該取引を利息制限法による利率により計算し直すと過払金が生じているとして,被告に対し,過払金に係る不当利得返還請求(以下「過払金返還請求」という。)を行うとともに,その取引履歴開示の経過から,同返還請求に関し,民法704条後段に基づく弁護士費用相当額の損害賠償請求を行い,また,被告が取引履歴の開示を違法に拒絶したとして,不法行為に基づく慰謝料請求をする事案である。

2  前提事実

(1)  被告は,貸金業を目的とする株式会社であり,平成19年4月4日,関東財務局から,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号により法律の題名が貸金業法と改められた。以下「貸金業法」という。)13条2項違反等を指摘され,営業停止の行政処分を受けたものである(甲1)。

(2)  原告は,平成元年11月2日,被告から,金30万円を実質年率54.75パーセント,元利均等払方式(30日ごと2万円払)で借り受けるという内容の金銭消費貸借契約を締結し(以下「第1基本契約」という。),以後継続的に,平成19年11月29日まで借入れと返済を繰り返した(以下「第1口座取引」という。)。

原告と被告との間の第1口座取引の状況は,別紙計算書1の「年月日」欄,「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおりである。(甲94,95)

(3)  原告は,平成2年10月3日,被告との間で,借入限度額50万円,実質年率54.75パーセント,元利定額リボルビング払方式(30日ごと3万円払)という内容の金銭消費貸借基本契約を締結し(以下「第2基本契約」という。),同日,同契約に基づき30万円を借り入れて金銭消費貸借取引を開始し,以後継続的に,平成19年11月29日まで返済を行った(以下「第2口座取引」という。)。

原告と被告との間の第2口座取引の状況は,別紙計算書2の「年月日」欄,「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおりである。(甲96,97)

第3当事者の主張

1  原告の主張

(1)  第1口座取引に基づく過払金返還請求権について

第1口座取引を通じ,原告の弁済額のうち,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を残元本に充当する一連計算の方法(既発生の過払金に過払金発生後の借入金がある場合はこれを充当する計算方法)により原告の過払金額を算出すべきである。

そして,被告は,平成10年4月30日に過払金が発生した当時から,制限超過利息の弁済を原告から受けていたことを認識していたから,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得したもので,悪意の受益者である。

第1口座取引について,原告の過払金を算出した結果は別紙計算書1のとおりであり,最終取引日である平成19年11月29日には過払金114万2897円及び過払利息計27万4454円が生じている。

(2)  第2口座取引に基づく過払金返還請求について

第2口座取引を通じ,上記(1)と同様の方法により,原告の過払金額を算出した結果は別紙計算書2のとおりであり,最終取引日である平成19年11月29日には過払金124万6520円及び過払利息計32万6232円が生じている。

リボルビング方式による基本契約が締結されている場合,同契約は諾成的消費貸借契約であるから,これが存続する限り,貸主には借入限度額の範囲内で貸付義務があり,他方,借主には返済条件に従った返済義務がある。基本契約に基づく個別の貸付けと返済は個々の法律行為ではなく,基本契約の履行行為にすぎない。そして,同契約が存続するうちは,基本契約に基づく計算上の貸付残高あるいは過払金残高が増減し,かつ,将来の貸付けと返済が常に予定されているのであるから,基本契約に基づく貸付金債権若しくは過払金返還請求権は基本契約の終了までは確定的に発生しない。

仮に基本契約存続中に過払金返還請求権が発生するという立場に立つとしても,基本契約に基づく金銭消費貸借取引においては,当事者間の合意により,過払金が発生しても,その後に借入金が発生する限り当該借入金を過払金に充当することが定められているのであり,借主は基本契約外で個別に過払金返還請求権を行使することはできず,基本契約が継続し新たな借入れがなされる可能性が存続している限り,充当以外の方法によっては過払金返還請求権を行使しないことが当事者間で合意されているものであるから,借主は基本契約が終了するまでは過払金返還請求権を行使することができない。したがって,基本契約存続中は過払金返還請求権の行使に当事者間の合意に基づく法律上の障害がある。

以上によれば,本件における過払金返還請求権の消滅時効の起算点は,平成19年11月28日より以前に遡ることはない。

(3)  民法704条後段に基づく弁護士費用の損害賠償請求について

被告は,原告代理人が何度も取引履歴の開示を請求したにもかかわらず,取引履歴を小出しにするという対応を取り,本件訴訟の提起時点でもすべての取引履歴を開示せず,原告の過払金額の計算を困難ならしめた。そのため,原告が過払金の返還を受けるためには弁護士である原告代理人に委任して本件訴訟を提起することが必要不可欠となった。

よって,被告の不当利得額(当初請求額の元本額)の約1割に当たる35万円が同不当利得と相当因果関係のある弁護士費用となるから,被告は,原告に対し,民法704条後段に基づき,その賠償義務を負う。

(4)  不法行為に基づく慰謝料請求及び弁護士費用請求について

被告が,本訴提起から5か月近くが経過した平成20年8月11日に事実上提出した,第1,第2口座取引に係る基本契約書及び10年以上前の取引履歴は,いずれも被告がそれまで存在しないとしてきたものばかりである。

被告が同日になって上記書類を提出した理由を一切説明しないこと,被告の貸付債権及び取引履歴はコンピュータにより管理されていること,被告が当初第1口座取引の取引履歴も隠蔽しようとしたこと,被告が過去に別件で故意に取引履歴を隠匿していたことからすると,被告は,当初から原告の10年以上前の取引履歴を故意に隠匿していたというほかない。

これは貸金業者の取引履歴開示義務に違反する不法行為であり,そのため原告は,正確な過払金額を計算して請求することができず,印紙代を余計に納付させられた上,多数の振込明細書を証拠提出して弁済額を証明することを余儀なくされるなどして,これにより数か月訴訟が遅延し,原告は経済的,精神的な損害を被った。

原告の損害額は,少なくとも50万円を下回ることはなく,これと相当因果関係のある弁護士費用は5万円を下らない。

2  被告の主張

原告の主張はすべて否認ないし争う。

貸金債務消滅後の利息ないし元本の支払による不当利得返還請求権は,その支払の都度個別に発生するもので,いずれも期限の定めのない債務とされるから,消滅時効は債務の発生の時から進行するもので,たとえその取引が基本契約に基づく継続的,一体的な取引であっても同様である。よって,本件訴訟が提起された平成20年3月14日の時点で既にその発生から10年の期間が経過した過払金返還債務については,時効により消滅した。

第4当裁判所の判断

1  第1口座取引に基づく過払金返還請求について

前提事実及び証拠(甲94,95)によれば,原告の主張(1)記載の請求原因事実を認めることができる。

これに対し,被告は,自らが悪意の受益者であるとの原告の主張を争い,原告からの請求を受けて初めて悪意となったと主張するようである。しかしながら,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情がない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の悪意の受益者であると推定されるところ(最高裁平成19年7月13日第二小法廷判決・民集61巻5号1980頁参照),被告は,上記特段の事情として,貸金業法17条,18条の要件をそれぞれ具備した書面の交付を行っていると認識するに至った具体的な事情に関する主張立証を全く行わないから,被告が同法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ない事由があるといえないことは明らかである。被告は,第1口座取引における過払金の取得につき,その過払金の発生時から悪意の受益者に当たると認めるのが相当である。

したがって,原告の被告に対する第1口座取引に基づく過払金返還請求は理由がある。

なお,被告は,平成20年3月14日の時点でその発生から10年を経過した過払金返還債務については時効により消滅したと主張するが,第1口座取引に基づき過払金が最初に発生したのは平成10年4月30日であるから,上記請求に関する限り,消滅時効の対象となる債務は存在しない。

2  第2口座取引に基づく過払金返還請求について

(1)  前提事実及び証拠(甲96,97)によれば,第2口座取引を通じ,原告の弁済額のうち制限超過部分を残元本に充当する一連計算の方法により算出した結果は,別紙計算書2のとおりであり,最終取引日である平成19年11月29日時点で,過払金が124万6520円,その過払利息が計32万6232円となると認められる。被告が過払金の発生時から悪意の受益者に当たると認められることは,上記1に説示したとおりである。

(2)  これに対し,被告は,平成20年3月14日の時点でその発生から10年を経過した過払金返還債務については,消滅時効が完成していると主張して,同年4月24日の本件口頭弁論期日において,これを援用するとの意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。以下,検討する。

第2基本契約は,基本契約に基づく借入金の債務につき利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった(甲96,97,弁論の全趣旨)。

このような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金返還請求権を行使することは通常想定されていないものというべきである。したがって,一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借契約においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。

したがって,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について,上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成20年(受)第468号平成21年1月22日第一小法廷判決参照)。

これを本件についてみるに,本件において,上記特段の事情があったことはうかがわれず,原告と被告との間において継続的な金銭消費貸借取引がされていたのは平成2年10月3日から平成19年11月29日までであったというのであるから,上記消滅時効期間が経過する前に本件訴えが提起されたことが明らかであり,上記消滅時効は完成していない。

よって,消滅時効に関する被告の主張は理由がない。

(3)  したがって,原告の被告に対する第2口座取引に基づく過払金返還請求は理由がある。

3  民法704条後段に基づく弁護士費用の損害賠償請求について

(1)  後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 原告代理人は,平成19年12月14日付けで被告を含む原告の債権者あてに受任通知及び取引履歴の開示請求を行ったが,被告からの回答がないことから,被告に対し,平成20年2月1日,改めて全取引履歴の開示請求を行った(甲3,甲4の1,2)。

これに対し,被告は,原告代理人に対し,同月8日,資料を調査した上で10年分の取引履歴しか保存されていないからそれ以前の取引履歴は開示することができないとして,平成10年3月2日時点での不足金を70万8374円とし,同月31日以降の原告の返済履歴について原告の入金額を各1万円とする内容の取引展歴を開示した(甲5)。

イ 原告代理人は,平成20年2月14日,被告が取引当初からの履歴を保有しているはずであること,同月8日付けの開示資料では入金額が過少に記載されていることなどを指摘して,被告に対し,再度取引履歴全部の開示請求をした(甲6の1,2)。

これに対し,被告は,原告代理人に対し,同月18日,平成10年3月2日時点での不足金を22万8434円とし,同月31日以降の原告の返済履歴について,原告の入金額を各1万円とする内容(返済日及び返済額は甲5とすべて同じ。)の取引履歴を記載した文書を送信したが,同文書には,その趣旨を説明する記載はない(甲7)。

ウ 原告は,平成20年3月17日,本件訴訟を提起し,訴状において,自己の保有する平成5年4月30日から平成9年6月30日までの振込金(兼手数料)受取書(甲8ないし57)及び同年7月30日から平成11年12月30日までのご利用明細票(甲58ないし87)を基に,平成5年4月30日時点での貸付残高を0円として引直し計算を行い,過払金元金354万1160円,過払利息132万7513円の過払金返還請求を行った上,被告が取引履歴の開示を小出しにしたことを原因として,民法704条後段に基づく弁護士費用相当額の損害賠償金及び不法行為に基づく損害賠償金を併せて請求した(当裁判所に顕著な事実)。

エ 被告は,同年5月29日の第2回口頭弁論期日に先立って提出した同日付け被告準備書面(1)において,取引を明らかにするため,書証調査を行っていること,次回期日までに書証を提示する予定であることなどを述べ,同年7月3日の第1回進行協議期日に先立って提出した同日付け被告準備書面(2)において,書証を調査中であるが,まだ見つかっていないと述べた。

被告は,同年8月11日,第2回進行協議期日に先立ち,第1,第2基本契約に係る契約書及び第1,第2口座取引に係る取引履歴を乙第1ないし8号証として事実上提出した上,同月12日付け被告準備書面(3)において,懸命な調査により各書証が見つかったと述べた。(弁論の全趣旨)

(2)  民法704条後段は,悪意の受益者が受けた利益に利息を付して返還した上で,なお填補されない損失者の損害がある場合には,それを賠償しなければならないと定めているところ,本件過払金返還請求訴訟に係る弁護士費用をもって同条後段に基づき賠償すべき損害に当たるかどうかが問題となる。

過払金返還請求訴訟は,一般に,弁護士に委任することが不可欠なほど複雑,高度の法的知識を必要とする性質の事案であるとはいえないが,当該事案の内容,訴訟に至る経緯,被告の訴訟追行の態度等からして,弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をなし得なかったと認めるに足る事情が存在する場合には,認容された請求額等を斟酌して,相当と認められる範囲の弁護士費用につき,不当利得と相当因果関係がある損害として,その賠償を求めることができるというべきである。

本件過払金返還請求についてこれを見ると,①原告と被告との金銭消費貸借取引が18年間以上継続していた事案であること,②原告代理人の被告に対する受任通知及び取引履歴の開示請求については,被告からの回答がなかったこと,③原告代理人からの2度目の取引履歴の開示請求に対し,被告は,保存資料のすべての開示であるとして第2口座取引に係る10年分の取引履歴のみを開示し,その余の履歴開示には応じなかったこと,④原告代理人が,3度目の取引履歴開示請求において,当初の開示内容が,実際の入金額と整合しない過少な記載にとどまっていることなどを指摘して,取引履歴の全部開示を請求すると,何らの説明も付さずに第1口座取引に係る10年分の取引履歴を記載した文書を送信し,その余の履歴開示には応じなかったこと,⑤その後本件訴訟が提起され,その訴状において,原告手持ち資料の取引開始時点の貸付残高を0円とした引直し計算が行われた結果,元利金計486万円余りの請求を受け,現実の取引履歴を当てはめなければこれを減額することが困難な状況に至り,ようやくすべての取引履歴の開示に及んだことがそれぞれ認められる。

以上の諸事情を考え併せれば,被告が,原告の過払金及びその利息の返還に容易に応じないことは,本件事案の内容,訴訟に至る経緯及び被告の訴訟追行の態度からして明らかであり,十分な訴訟活動を行うために,原告としては弁護士である原告代理人に委任して本訴を提起せざるを得なかったというべきであるから,原告の過払金返還請求訴訟に係る弁護士費用は,民法704条後段の損害に該当するというべきである。

そして,過払金返還請求の上記認容額等を考慮すると,本件における被告の不当利得と相当因果関係がある損害としての弁護士費用は,金24万円が相当と認められる。

4  不法行為に基づく慰謝料請求及び弁護士費用請求について

(1)  貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである(最高裁平成17年7月19日第三小法廷判決・民集59巻6号1783頁参照)。

しかるに,本件においては,原告と被告との取引期間,取引回数からしても,原告が過払金の請求を見込んで開示を求める必要性は十分理解できるところ,被告は,上記3(1)で認定したとおり,原告の平成10年3月2日以前の取引履歴の開示について,何度も開示を求められながら開示せず,開示時期は相当程度遅延し,しかも当初被告は当該取引履歴を保存していないとして事実と異なる説明を行っていたこと,本件訴訟において原告から多額の過払金返還請求を受けて初めて上記不開示部分の開示に至ったことが認められ,これに被告が平成19年4月4日に関東財務局から貸金業法13条2項に違反したという指摘(取引履歴を保有しているにもかかわらず一部について保有していない旨の虚偽の回答を行った事実が複数の支店で認められたこと等)を受けて営業停止の行政処分を受けていたにもかかわらず,開示まで上記の経過をたどったこと(甲1)をも考え併せれば,被告は,原告に対し,正確な過払金額を計算して請求することを妨げるため,故意に取引履歴を一部開示しなかったものと認められる。

よって,被告は,取引履歴の開示に関して,原告に対し,不法行為責任を負うものというべきである。

(2)  そして,上記不法行為による損害賠償額は,本件の経緯やその他の諸般の事情に照らして,金11万円(慰謝料10万円,弁護士費用1万円)をもって相当と認める。

5  小括

以上によれば,被告は原告に対し,過払金として金238万9417円,確定過払利息として金60万0686円,慰謝料10万円,慰謝料請求訴訟に係る弁護士費用として1万円,過払金返還請求訴訟に係る弁護士費用として金24万円の合計334万0103円及び過払金については最終弁済日の翌日である平成19年11月30日から,慰謝料及び慰謝料請求訴訟に係る弁護士費用については,被告の不法行為の後の日である平成20年2月18日から,過払金返還請求訴訟に係る弁護士費用については,被告の受益の日の後の日である同年3月22日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うこととなる。

第5結論

以上によれば,原告の請求は,金334万0103円及び内金238万9417円に対する平成19年11月30日から,内金11万円に対する平成20年2月18日から,内金24万円に対する同年3月22日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき,民訴法64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 藤澤裕介)

<以下省略>

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