大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所六日町支部 昭和62年(ヨ)4号 1988年5月09日

債権者(選定当事者)

戸田金芳

右訴訟代理人弁護士

大塚勝

債務者

山智物産昌平運輸株式会社

右代表者代表取締役

山本昌平

右訴訟代理人弁護士

中野比登志

主文

一  債務者は、債権者に対し、別紙選定者目録記載の各選定者を、仮に債務者の従業員として取り扱え。

二  債務者は、債権者に対し、昭和六二年四月以降毎月二八日限り、仮に金一六九万三五八三円(別紙選定者目録記載の選定者戸田金芳分・同野上正樹分・同千喜良章分・同中島孝夫分・同松井寛司分各金二五万円、選定者千喜良清松分金二〇万〇二五〇円、同佐藤真治分金二四万三三三三円)を支払え。

三  申請費用は債務者の負担とする。

事実

第一申立

一  債権者

主文一、二項同旨

二  債務者

本件仮処分申請を却下する。

第二主張

(申請の理由)

一  当事者の地位及び被保全権利

1 債務者は、運送業を主たる目的とする会社で、肩書住所に本社・本社営業所を置くと共に、新潟県南魚沼郡六日町所在の六日町津久野工業団地に、新潟営業所を置いている者である。

2 別紙選定者目録記載(略―戸田金芳ほか六名)の各選定者は、いずれも債務者の従業員たる運転手であり、債務者の新潟営業所に勤務する者である。

二  保全の必要性

1 債務者は、選定者らを解雇したとして、昭和六二年四月一六日ころ以降、その従業員としての地位を争い、従業員として取り扱わない。

2 選定者らは、従前、債務者から支給される給料を、生活源として生活して来た者であり、その昭和六二年一月ないし三月分の支給給料は、主文掲記の金額である。

選定者らは、債務者に対し、追って本案訴訟を提起する予定であるが、その確定まで右給料の支給が受けられないと生活が成り立たず、回復困難な損害を被ることとなる。

三  結語

よって債権者は、債務者に対し、仮に選定者らを債務者の従業員として取り扱うと共に、昭和六二年四月以降毎月二八日限り、主文掲記の給料の支払いを求める。

(申請の理由に対する認否)

一  一について

1を認める。

2は、選定者らが、もと債権者主張の債務者の従業員の地位にあったことを認め、その現在の地位を否認する。

二  二について

1を認める。

2は、選定者らの昭和六二年一月ないし三月分の支給給料が、主文掲記の金額であることを認める。

(抗弁)

一  解雇の意思表示

1 債務者は、昭和六二年四月一六日、選定者戸田、同中島、同野上、同千喜良章及び同千喜良清松に対し、主位的に懲戒解雇、予備的に普通解雇の意思表示を口頭でなし、右意思表示は、同日、右選定者らに到達した。

2 債務者は、昭和六二年四月一七日、選定者松井及び同佐藤に対し、主位的に懲戒解雇の意思表示を口頭でなし、右意思表示は、同日、右選定者らに到達した。

二  懲戒解雇事由(就労拒否等)

1 選定者野上、同千喜良章及び同千喜良清松は、昭和六二年四月一六日、午前中、高速紙工業株式会社(六日町所在)において、運搬して来た原材料の荷下ろしをなしたが、次いでなすべき出荷製品の荷積みをせず、トラック乗務を拒否した。

2 選定者松井及び同佐藤は、翌日一七日、朝、債務者の新潟営業所に顔を出したが、午前九時三〇分頃、帰宅してしまい、その後のトラック乗務を拒否した。

3 選定者戸田及び選定者中島は、選定者松井及び同佐藤に対し、右四月一七日、その前日の一六日に、同人らが真実は、未だ解雇されていないにも拘わらず、既に解雇されているものと詐言を弄して、同人らの就労を拒否せしめた。

4 選定者らの右突然の乗務拒否により、右四月一六日には、債務者の懸命な手当にも拘わらず、当日運行予定であったトラック六台のうち、二台の欠便を生じるに至った。

そのため債務者は、以下のような損害を被った。

<1> 主たる取引先であり、右当日出荷運行が予定されていた高速紙工業から、その損害賠償を請求され、また今後の運送契約の解除ないしその減縮が問題となっている。

<2> 取引先の大昭和製紙(静岡県富士市所在)との運送契約の解除が問題となっている。

<3> 取引先の三陽国策パルプからは、昭和六二年五月一八日から同月末までの間の、東京有明埠頭から六日町所在の高速紙工業までの、数量一五〇トンの運送契約が解除され、運送請負代金八七万円の損害を被った。

5 選定者中島は、運行前点検表の提出を従前から怠りがちであったところ、昭和六一年一二月二七日以降は、再三の催告にも拘わらず、ついぞこれに応ぜず、昭和六二年一月からは、減給処分中である。

6 選定者(選定者戸田及び同中島を除く。)の、右各就労拒否の所為は、債務者就業規則二九条(服務の基本原則)、三〇条八号(服務心得―勤務時間中はみだりに職場をはなれないこと)に、選定者戸田及び同中島の所為は、同三〇条一二号(作業を妨害し、または職場の風紀秩序を乱さないこと)に、選定者中島の運行前点検表不提出の所為は、同二九条、三七条(遵守義務―会社及び従業員は、職場における安全及び衛生の確保に関する法令及び社内諸規則で定められた事項を遵守し、相互に協力して災害の未然防止に努めるものとする。)に、それぞれ違反し、同四六条五号(懲戒解雇―故意または重過失により災害または営業上の事故を発生させ、会社に重大な損害を与えたとき)、八号(その他前各号に準ずる程度の不都合な行為を行ったとき)、同五〇条二号(解雇―従業員の就労状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合)にそれぞれ該当する。

(抗弁に対する認否)

一  一について

認める(但し解雇が普通解雇としてもなされた点を除く。)。

二  二について

1は、選定者野上、同千喜良章及び同千喜良清松が、なすべき出荷製品の荷積みをせず、トラック乗務を拒否したことを否認し、その余を認める。右選定者らは、四月一六日の午前中、荷下ろし作業に従事したが、債務者の新潟営業所の岡村徳一所長から、あるべき荷積みの指示はなく、午後零時半頃、電話で順次、債務者代表者の山本昌平社長から、解雇を言い渡されたものである。

2は、選定者松井及び同佐藤が、トラック乗務を拒否したことを否認し、その余を認める。右選定者らは、四月一七日朝、出勤したが、債務者から、解雇したことを理由に、自宅待機せよと言われたため、退社したまでである。

3を否認する。

4は不知。

5は、選定者中島が、従前運行前点検表を債務者に提出していなかったことを認める。

6を争う。

(再抗弁)

一  不当労働行為

1 選定者らを含む債務者の新潟営業所勤務の従業員の有志は、昭和六二年四月一五日、山智物産昌平運輸労働組合(以下「本件組合」という。)を結成し、選定者戸田が、その執行委員長に就任した。

2 右有志従業員は、債務者に対し、書簡(要求書)をもって、本件組合結成前の同月六日、次いで同月一四日、運転手従業員の待遇改善に関し、<1>年次有給休暇の要求、<2>就業規則の掲示の要求、<3>時間外手当の要求、<4>宿泊代の値上げの要求、<5>高速道路の使用等についての諸要求をなした。

3 債務者は、選定者その他の有志による組合結成の動きを、同年一月頃から察知し、前記待遇改善の要求書に接し、要求書に署名した選定者その他の従業員を、組合活動をしたものとして、一斉に解雇に及んだものである。

4 従って債務者が選定者に対してなした本件解雇の意思表示は、労働組合法七条一号の不当労働行為として、無効である。

二  解雇権の濫用

1 債務者は、選定者らが就労拒否をしたことをもって本件解雇の事由と主張する。

しかしそもそも従業員の不就労につき、解雇をなし得る場合は、債務者の就業規則四六条一号により、「無断欠勤一四日以上に及んだとき」と規定されている。従って従業員の就労拒否の場合にも、右就業規則の規定と実質的に同程度に就労拒否が継続することを要するというべきである。

2 しかるに債務者は、選定者その他有志のなした前記正当な待遇改善の諸要求を総て拒否し、また前記四月一六日には、それらの者に対し、「要求については戸田と決着がついている。会社の方針にそぐわない者は辞めてもらって結構だ。会社を辞めるかどうか、返事せよ。」などと申し向け、従業員に対し、労働意欲を喪失させるような言動をとってきた。

3 このような状況の中で、仮に選定者らに、前記のような或は就労拒否と認められるような行為があるからといって、これを理由に解雇に及ぶことは、解雇権の濫用として、無効である。

(再抗弁に対する認否)

一  一について

1は、本件組合の結成日を否認し、その余を認める。本件組合の結成日は、昭和六二年四月一七日である。

2を認める。

3を否認する。

4を争う。

二  二について

1は、債権者主張の就業規則の規定を認め、その余を争う。

2を否認する。

3を争う。

理由

一  選定者ら及び債務者の地位について

申請の理由一は、選定者らが現に債務者の従業員(運転手)であることを除き、当事者間に争いがない。

二  解雇の意思表示について

抗弁一は、債務者の選定者らに対する本件解雇の意思表示が、普通解雇の意思表示をも含むものとしてなされたことを除き、当事者間に争いがない。

三  本件解雇の効力について

1  抗弁二1及び2は、昭和六二年四月一六日、選定者野上、同千喜良章及び同千喜良清松が、なすべき出荷製品の荷積みをせず、トラックの乗務を拒否したこと、翌一七日、選定者松井及び同佐藤が、トラック乗務を拒否したことを除き、当事者間に争いがない。

再抗弁一1及び2は、本件組合の結成日を除き、当事者間に争いがない。

2  本件記録によれば、以下の事実が疎明される。

イ  債務者新潟営業所は、昭和五九年一月頃、南魚沼郡六日町に誘致企業として進出した前記高速紙工業(コンピューター用紙製造業者)の運送業務を主として行うことを目的として開設され、現に同社関係のコンピューター用紙又は原材料の運送請負事業を主として行っているものであること、新潟営業所は、営業所長以下総勢二三名で、その内トラック運転手は、本件の選定者七名を含む一七名であること(昭和六二年四月現在)、トラックは、主として新潟営業所と東京、静岡県の富士市、宮城県の石巻市の間を運行するものであるが、時として名古屋、大阪、四国、九州方面の運行もあること、

ロ  新潟営業所には、従前労働組合は無かったが、かねてから労働組合結成の準備、運転手の労働条件に関する要求もなされ、前記昭和六二年四月六日と同月一四日の要求書の提出(内容証明郵便によるもの)に至ったこと、これら要求書は、選定者七名を含む一四名の連名の、債務者の山本社長と新潟営業所の岡村徳一所長宛のものであること、右四月六日の要求書を受けて、運転手の代表としての選定者戸田と、山本社長及び岡村所長とが、同月一一日に会合し、要求事項のうち、年次有給休暇の付与(但し繰り越し無し)、就業規則の営業所内備え置き、パンクタイヤ修理用のコンプレッサー等の機械の購入については、債務者は了承したものの、爾余の要求事項の了承には至らなかったこと、

ハ  そこで再度前記四月一四日の要求書の提出となるが、この要求書に対し、同月一六日、債務者は、山本社長の指示を受けた岡村所長が、新潟営業所内に、山本社長名で新潟営業所に運転手有志一同殿として、回答書を掲示したこと、しかしこの回答書には、右要求書による要求事項のうち、僅かに就業規則の営業所内備え置きに了承する旨あるのみで、その他は、総て「拒否」或は「無視」とし、殊に「山智物産昌平運輸は労働組合の認定はしない」と述べていること、なお債務者の山本社長は、前記有志による労働組合結成の動きを、同年一月頃から、察知していたこと、

ニ  前記債務者の回答書の掲示に先立つ四月一六日の朝、新潟営業所に出勤していた選定者野上、同千喜良清松、同千喜良章その他の運転手は、同営業所に架電してきた山本社長に、「会社の方針にそぐわない者は、辞めてもらって結構だ。要求については、戸田と決着がついている。会社を辞めるかどうか返事せよ。」と迫られ、また在所中の岡村所長からも、「昼までに会社を辞めるかどうかを返事してくれ。」と迫られたこと、右回答書掲示後の同日午前一一時半頃、右の者らは、岡村所長から、「今日のぼるか、のぼらないか。」と午後の乗車運行の意向を尋ねられたので、「仕事はする気がある。話し合いをしてほしい。今日は欠勤にして下さい。」と訴えたが、岡村所長は、これを聞き入れなかったこと、そして同日午後一時頃、再度架電してきた山本社長からも、更に就労を説得されたが、同人らは、「困ります。休ませて欲しい。」と答えたため、山本社長は、「業務命令違反である。解雇を予告する。五月一七日をもって解雇する。」と告げたこと、

ホ  一方選定者戸田及び同中島は、前記四月一六日は、千葉方面を運行していたが、午後四時ころ、立ち寄った本社事務所において、山本社長から、「お前達、先頭になってよくやってくれたな。五月一六日をもって解雇するので予告する。内容証明に連名で判子を押した者も全員解雇する。」と告げられたこと、

ヘ  翌四月一七日午後四時頃、選定者松井及び同佐藤その他の運転手は、新潟営業所を訪れていた山本社長から、「お前達は、周りの者に躍らされているのではないか。考えなおせ。」と、また岡村所長からは、「今の待遇でよければいつでも帰ってきて下さい。」と言われ、そして一八日、右選定者松井らが、岡村所長に対し、電話で、「戸田さん達について行きます。」と回答すると、岡村所長は、「じゃあ、君達も解雇だ。」と言ったこと、

ト  前記四月一七日午後六時頃、選定者を含む債務者新潟営業所の運転手一一名が、六日町所在の華福食堂に集まり、正式に本件組合を結成し、前記のように選定者戸田が、その執行委員長に選出されたこと、

3  右各事実によれば、債務者の選定者に対する本件解雇は、選定者七名を含む債務者新潟営業所の運転手従業員が、右新潟営業所における運転手の労働条件の改善の要求をなし、併せて労働組合を結成しようとする動きを察知した使用者たる債務者が、その故をもってなした解雇と認めるのが相当であって、右は、正に労働組合法七条一号の、労働者が労働組合を結成しようとしたことの故をもってなした解雇に当たり、無効というべきである。再抗弁一は、理由がある。

債務者は、まず基本的には、選定者戸田及び中島を除くその余の選定者らの、昭和六二年四月一六日以降の就労拒否をいうのである。

しかし同人らの前記所為が、例え就労拒否と認められるとしても、これは度々の労働条件の改善要求を、債務者が基本的には、一顧だにしないところから、まずは誠意をもってこれら条件について交渉に応じて欲しい旨を申し出ていたにも拘わらず、一方的に債務者が、徒に就労を要求したことに対してなされたものと見る余地がある。選定者らの債務者に対する前記要求は、債務者新潟営業所の業務の状況に照らしても、それ自体、債務者として全く実現不可能で、難を強いる徒な要求とも思えず、また就労拒否としても、それは強固な意思に基づく確定的なものとも思われない。むしろ債務者としてあらかじめ労働組合結成の動きを背景にした労働条件改善の要求に遭い、選定者らの掛かる所為に藉口して、本件解雇に及んだものと認めるのが相当である。

選定者戸田及び同中島に、抗弁二3の事実のあることの疎明は存しない。

4  選定者らが、債務者から、本件解雇当時、それぞれ主文掲記の月額賃金を支給されていたことは、当事者間に争いがない。

しかして選定者らに、いずれも申請の理由二の事情があることは、本件記録により疎明される。

5  従ってその余の点について判断するまでもなく、債権者の本件仮処分申請は、総て理由がある。

なお付言するに、本件仮処分申請書記載の申請の趣旨には、「債務者は債権者らを仮に従業員として取り扱い、昭和六二年四月から毎月二八日限り別紙債権目録月額平均賃金欄記載の各金員を支払え」とある。

本件仮処分申請は、選定者戸田を選定当事者・債権者とする選定当事者訴訟として申請がなされているから、本件仮処分申請事件の当事者は、あくまでも債権者戸田と債務者会社の二者であって、選定者全員がその当事者となるものではない。そうすると申請の全趣旨に照らし、債権者の求める申請の趣旨は、主文一、二項と同旨と善解されなければならない。

民訴法四七条の訴訟要件に欠けることの窺えない本件においては、選定当事者訴訟における判断の効力に照らし、これにより選定者ら及び選定当事者たる債権者の本件仮処分の目的は、必要にしてかつ十分に達せられるものと考える次第である。

四  以上によれば債権者の本件仮処分申請は、総て理由があるから認容し、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文の通り決定する。

(裁判官 櫻井登美雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例