新潟地方裁判所新発田支部 平成16年(ワ)86号 判決 2007年2月27日
原告(反訴被告)
甲野二郎
外10名
上記11名訴訟代理人弁護士
中村洋二郎
被告(反訴原告)
甲野太郎
外2名
上記3名訴訟代理人弁護士
小野坂弘
同
髙島章
主文
1 被告(反訴原告)らは,原告(反訴被告)らに対し,新潟県水無月郡皐月村睦月集落のごみ捨場の使用を禁止したり,山菜やきのこを取るために睦月集落の入会地へ入山することを禁止したり,皐月村や地域農業協同組合からの広報紙や回覧板を回さなかったり,睦月集落開発センターの利用を禁止したり,睦月集落の他の構成員に同様の行為を強制ないし慫慂してはならない。
2 被告(反訴原告)らは,原告(反訴被告)ら各自に対し,連帯して,各20万円及びこれに対する平成16年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告(反訴被告)らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 反訴原告(被告)らの請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,本訴反訴ともに,これを4分し,その3を被告(反訴原告)らの連帯負担とし,その余を原告(反訴被告)らの連帯負担とする。
6 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴事件
(1) 主文第1項と同旨
(2) 被告(反訴原告。以下「被告」という。)らは,原告(反訴被告。以下「原告」という。)ら各自に対し,連帯して,各100万円及びこれに対する平成16年9月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴事件
(1) 原告らは,共同して,別紙1謝罪広告目録記載の広告を,同目録記載の条件で,本判決確定の日の翌月に新潟県水無月郡皐月村(以下「村」という。)が発行する広報紙「広報さつき」に1回広告せよ。
(2) 原告らは,共同して,別紙1謝罪広告目録記載の広告を,同目録記載の条件で,本判決確定の日から1週間を経過するまでの間に,村が公式に運営するインターネットウェブサイトhttp://www.vill.satsuki.niigata.jp/に30日間掲載せよ。
(3) 原告らは,連帯して,被告甲野太郎(以下「被告太郎」という。)に対し550万円,被告甲野一郎(以下「被告一郎」という。)及び被告乙川夏男(以下「被告夏男」という。)に対し各330万円,並びにこれらに対する平成16年8月9日(本訴提起の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 当事者の主張(本訴事件)
(以下,年の記載のない日付は「平成16年」を表す。)
1 請求原因
(1) 当事者
原告ら及び被告らは,いずれも新潟県水無月郡皐月村大字睦月地域又は如月地域に居住しており,これらの地域の約36戸で構成する「睦月集落」(以下「集落」という。)の構成員である。
被告一郎は集落の区長であり,被告夏男は集落の農家組合長である。
被告太郎は,過去に暴力事件をしばしば起こし,有罪判決を受けたこともあり,集落の構成員から恐れられていた。
(2) 集落の非民主的運営と岩魚つかみ取り大会 被告太郎は,自ら,あるいは被告一郎を利用し,又は被告夏男と共謀して,集落を事実上支配し,独断的で身勝手な運営をしてきた。
集落では,平成12年から,毎年8月15日に岩魚つかみ取り大会(以下「大会」という。)が開催され,被告太郎は,平成16年当時,大会の実行委員長であった。しかしながら,大会の開催は,被告太郎の提案により事実上有無を言わさず決定されたものであり,多くの集落の構成員は,準備のために何度も駆り出されて大変な負担である上,開催日がお盆の時期であることから不満に感じていたことや,村役場に提出される収支決算書と集落に提出される収支決算書との内容が異なり,村役場に提出されるものは岩魚の代金が支出されている旨事実に反する内容の記載があり,このような会に所属したくないという気持ちから,大会をやめてほしいと願っていたが,被告らの暴言や暴力が恐ろしくてその旨発言することはできない状況であった。
なお,村役場に提出された収支決算書に基づく補助金の交付について,村では,平成12年度から平成15年度までの補助金のうち62万4000円の返還を求めた。
(3) 原告乙川秋夫の脱会の申出とこれに対する攻撃
ア 原告乙川秋夫(以下「原告秋夫」という。)は,4月4日,睦月集落開発センター(以下「集落センター」という。)で開かれた集落の総会において,被告太郎に対し,前記⑵記載の理由を挙げ,「この会に入っておれないのでやめさせてくれ。」と申し出た。すると,被告太郎は,激怒して,原告秋夫に対し,「村八分にしてやる。」と通告した。原告秋夫を含む数名は,4月3日,睦月共有地維持組合(以下「維持組合」という。)の会議の際,大会から脱会することを話し合っていたが,上記のとおり原告秋夫が「村八分にしてやる。」と脅されたため,他の者は脱会することを言い出せない雰囲気になってしまった。
イ 被告太郎は,4月6日午後9時過ぎ,原告秋夫方に上がり込み,「二重会計,不正会計を認めてきたおまえも同罪だ。」などと言いがかりを付け,原告秋夫の襟首をつかんで押し付け,「おれがやられるか,おまえがやられるか,さあどっちだ。」「外へ出ろ。」などと言った。
ウ また,被告太郎は,4月30日の集落の総会においても,原告秋夫に対し,「部落の決定事項に従わなければ村八分にする。再考する気はないか。」と迫り,原告秋夫がこれに応じないと見るや,「では村八分にする。具体的なことはこれから決める。取りあえず,平成16年5月度分より部落経費は徴収しない。5月2日と9日の人足には来ないように。」と通告し,原告秋夫は退席した。
エ 原告秋夫は,5月1日夕方,被告一郎の自動車が見えたため停車を求め,前日の集落の決定がどのようになったのか文書にして届けてほしい旨求めたが,被告一郎は,「そんなものは口頭で十分だ。」「おまえは集落の人間ではない。集落の脱退届を出せ。」などと暴言を浴びせた。
オ 被告太郎は,5月2日,人足作業終了後,「これから秋夫の家に行って,秋夫を引きずり出して頭をスコップでたたき付けてやろう。」と言い出し,周囲の者になだめられてやめた。
(4) 原告秋夫以外の原告の脱会の申出と村八分行為
ア 原告甲野三郎(以下「原告三郎」という。)は,4月初めの申し合わせの話を聞いて,自分も大会からの脱会を申し出ることを決意し,他にも同様の決意をする者が相次いだ。そして,原告三郎,原告甲野二郎(以下「原告二郎」という。),原告甲野四郎,原告甲野五郎,乙川花子及び丙山春子は,5月9日,被告一郎方に赴き,大会を脱会する旨口頭で申し出たが,被告一郎が文書で提出するよう求めたため,原告らは,5月18日,原告ら11名を含む15名の集落の構成員が署名押印した,大会から脱会する旨記載された文書を被告一郎に提出した。
イ これに対し,被告らは,原告らが集落からの脱退を申し出たものとすり替え,5月19日,「睦月集落一同」の名義の「集落脱退希望者同志」あての,「一時的な感情で前後の見境もなくこれからの長い人生も,子孫の代まで一生涯何一つとして自由に使用する事も出来ず集落の厄介者として生きていかなくなる事を肝に命じて決断する事を願う。」「乙川秋夫に対しては,貴同志も承知のように誰も『村八分』にするとは言っていない,自身みづからその道を選択したのである。」「岩魚つかみとり大会がたとい中止になっても脱退者は再度集落に復帰することは認めない,」「どうしても集落から脱退するなら,正当なその理由を自筆の文書で氏名押印をして平成16年5月21日までに区長まで提出を願う。期日まで返答がない時,……集落のすべての権利を放棄したものと決断する。」「この事実を役場に報告し,ずべての手続きをする。」などと記載された脅しの文書を原告らに届けた。
ウ 被告らは,5月23日にも,同内容の文書を原告らに届けてきた。
エ さらに,被告らは,5月30日,原告らが集落の総会に出席しないことを理由に,「集落の全ての権利を放棄し脱退したものと決断し」連絡する旨の「お知らせ」と題する,「1)ゴミ収集箱の使用禁止。」「2)睦月地内の山菜及びキノコ等の採取,入山を禁ずる」「3)集落センター及び駐車場の無断使用禁止。」「4)その他,集落所有物すべての使用を禁ずる。」「5)今後,皆さんと睦月集落では一切なんの関係もないので,広報さつき及び回覧板は基より役場農協等中央からの連絡は一切致しません。」「上記1)2)3)4)に違反した人は集落で定めた罰金を頂きます。(3万円)」「以上,平成16年6月1日より実施いたします。」などと記載された文書を原告らに届けてきた。
オ 被告らは,その後,共謀,共同の上,①集落のごみ収集箱にかぎを掛け,見張りをして原告らがごみを出すことを禁止し,②集落にある31名共有名義の山や国有地である入会地の山において原告らが山菜採りやきのこ取りをすることを禁止し,③原告らが集落センターや駐車場を利用することを禁止し,④村や農協等からの広報紙や連絡文書等を原告らに回さないなどした。原告らが設置したごみ収集箱は,ごみの処置に困惑し,急場をしのぐために設置したものであり,村の広報紙は,困惑した村がやむなく原告三郎に原告らの分を配布するよう依頼したものである。
カ その後も,6月20日,被告太郎は,原告三郎方に押し掛けた際,警察官を呼ぶ騒ぎとなり,平成17年4月29日午前7時ころ,被告太郎及び被告一郎は,約7名と共に原告秋夫方を訪れ,維持組合の運営にからんで暴言を繰り返し,同年5月9日午後5時ころ,被告太郎は,飲酒運転をして原告秋夫方に押し掛け,被告一郎と共に,「このぼけやろう。おまえのようなやつをうらなりびょうたんというのだ。」「人を刺す度胸はあるのか。ねえだろう,このやろう。」と脅し,警察官を呼ぶ騒ぎとなった。
(5) 被告らの法的責任
原告らは,被告らの行為により,集落における地域活動の地位や権利を奪われ,生活上重大な不利益を被るとともに,集落において異端者扱いされて名誉を傷つけられ,精神的にも重大な打撃を受けた。
被告太郎は,しばしば集落の構成員に対し暴力的行動に出て恐れられており,区長である被告一郎を利用し,被告一郎と共に前記のような様々な不法行為を続け,また,被告夏男は,被告太郎及び被告一郎と共謀しながら,自らごみ箱を見張って原告らのごみ捨てを妨害し監視するなど,共同して不法行為を画策,実行している。
ごみ収集箱と村の広報紙の問題については,村から2度にわたり前記のような行為をやめるよう勧告が出されているが,被告らはこれを無視している。
(6) 結論
よって,原告らは,被告らに対し,人格的権利と利益に基づき,前記(4)オ記載の行為の差止めを求めるとともに,不法行為に基づき,連帯して各100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年9月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)のうち,原告ら及び被告らがいずれも皐月村大字睦月地域又は如月地域に居住していることは認めるが,遅くとも訴状提出の時点においては,原告らは集落の構成員ではない。
被告一郎が集落の区長であること,被告夏男が集落の農家組合長であること,被告太郎が有罪判決を受けたことは認める。
(2) 請求原因(2)のうち,平成12年から毎年8月15日に大会が開催されていること,被告太郎が平成16年当時大会の実行委員長であったことは認めるが,その余は否認する。被告らが集落を支配している事実はなく,重要なことは総会で決定の上行っている。大会は,集落の総会において大多数の賛成で実施することとなった。原告三郎は平成15年度の副委員長であり,その他にも原告らの中で実行委員になった者がいる。大会に出られない者は出なくてよいことになっており,集落のほとんどの構成員は大会の開催をやめたいとは思っていない。大会の収支決算書は村役場に提出したものと集落に提出したものとの2通が存在するが,いずれも集落の構成員と実行委員に報告して了承を得ている。村役場に提出した収支決算書には事実をありのままに記載するわけにはいかないため,内容の一部は事実と異なるが,岩魚の代金は実際に支払っている。
村から補助金の返還請求を受けたことは認める。
(3)ア 請求原因(3)アのうち,原告秋夫が同記載の発言をしたことは認めるが,その余は否認する。4月4日の総会において,原告秋夫が収支決算書について「文書偽造だ。」と言ったため,被告太郎は「秋夫に実行委員になってもらわなければならない。」と述べ,原告三郎,原告二郎,原告甲野五郎も原告秋夫の言動をたしなめた。
イ 請求原因(3)イのうち,被告太郎が原告秋夫方に上がったことは認めるが,その余は否認する。
ウ 請求原因(3)ウについては,被告太郎が「村八分にする。」と言ったことは否認する。原告秋夫は,4月30日の総会において,集落から脱退するのはやめるよう原告三郎,原告二郎,原告甲野五郎を含む出席者から説得されたにもかかわらず,「おれは脱退する。集落員としての権利も放棄する。」と述べて退席したため,脱退扱いとなった。同日のやり取りで,「村八分」という言葉は,「あまりわがままばかり言われると村八分みたいなことになってしまう。」という話の流れで出てきたにすぎない。
エ 請求原因(3)エ,オは否認する。
(4)ア 請求原因(4)アのうち,5月9日に原告三郎らが被告一郎方に来て大会を脱会する旨言ったこと,5月18日に原告三郎が被告一郎に対し大会を脱会する旨記載された文書を提出したことは認める。5月9日に原告三郎が大会を脱会したい旨言った後,同日午後6時ころ,原告三郎,原告二郎,原告甲野四郎,原告甲野五郎,乙川花子及び丙山春子が被告一郎方を訪れ,「おれたちも秋夫と同じにしてくれ。部落経費も払わなくてもいいし,人足にも出なくともよいし。」と言った。原告らは,その後,部落経費を支払わないし,人足にも出ておらず,自らの意思で集落から脱退したのである。
イ 請求原因(4)イのうち,同記載の文書を原告三郎に交付したこと,請求原因(4)ウのうち,同記載の文書が原告らに配布されたことは認めるが,すり替えである旨の主張と脅しの文書である旨の主張は否認する。
ウ 請求原因(4)エの文書を原告らに配布したことは認める。原告らが5月29日の総会に出席しなかったため,総会で同記載の文書を作成し,原告らに配布した。
エ 請求原因(4)オについては,当初原告主張のとおりであったことは認めるが,その後については否認する。9月2日に,村長から,広報紙等の文書を配布しないこと,ごみ捨てが円滑に行われないようにすること,村が貸した用地や村が補助金を支出した集会場への立入制限等をしないよう勧告がなされた後,被告らは話があれば認めるという対応を取ってきており,ごみ収集箱,集会場の利用等についていかなる制限もしていない。
①ごみ収集箱に施錠するのは集落の構成員以外の者が時間外にごみを捨てることを防止するためであり,ごみ収集箱の見張りはしていない。なお,原告らは別の場所にごみ収集場を設けている。②集落の構成員でない者が入山できないことや,集落センターや駐車場の無断使用が許されないのは当然である。③連絡文書は,原告三郎が役場から手当をもらって原告らに配布している。
(5) 請求原因(5)は争う。
大会は,集落の総会で大多数の賛成で開催することとなったものであり,都合がつかず出席できない者は出席しなくてもよいが,脱会することは許されない。集落で決めたことに従わず大会から脱会することは集落の決まりを守らないことであり,大会だけを脱会したのであり集落から脱退したのではないという原告らの主張は認められないし,原告らは自らの意思で集落から脱退したのである。集落の構成員でない者が集落の施設を使用したり集落の提供するサービスを受ける権利を有しないのは当然である。
また,被告らは,集落の総会での決定事項を執行する立場にあり,総会での決定事項を執行しているにすぎず,被告らの一存ではいかんともし難い。
第3 当事者の主張(反訴事件)
1 請求原因
(1) 原告らは,本件訴訟の訴状,準備書面,書証ないし本人尋問において,別紙2名誉毀損等言動一覧表記載のとおりの発言をし,被告らの名誉を著しく毀損するとともに,被告らの他人に知られたくないセンシティブなプライバシーを侵害した。また,原告らは,上記準備書面や書証作成のため,集落センターや甲野六郎の経営する会社の作業場に集まり,互いに別紙2名誉毀損等言動一覧表に記載されているような名誉毀損となる言動をした。このような記載ないし発言は,訴訟行為ないし訴訟の準備活動におけるものであることを考慮しても,正当な訴訟活動の域を超えており,違法性を有する。
(2) 原告らは,上記行為により被告らが被った精神的苦痛を慰謝するため,被告太郎については500万円,被告一郎及び被告夏男については各300万円の慰謝料を支払うべきである。また,原告らは,被告太郎については50万円,被告一郎及び被告夏男については各30万円の弁護士費用を支払うべきである。
さらに,本件訴訟の内容は,マスメディアやインターネットを通じて全国に流布されており,被告らの被った損害を回復するためには,広報さつき及び村が運営するウェブサイトに謝罪広告を掲載することが必要である。
(3) よって,不法行為に基づき,被告太郎は,原告らに対し,550万円及びこれに対する本訴提起の日である平成16年8月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,被告一郎及び被告夏男は,原告らに対し,各330万円及びこれに対する平成16年8月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,それぞれ連帯して支払うよう求めるとともに,被告らは,原告らに対し,別紙1謝罪広告目録記載の広告を,同目録記載の条件で,本判決確定の日の翌月に村が発行する広報紙「広報さつき」に1回広告するとともに,本判決確定の日から1週間を経過するまでの間に,村が公式に運営するインターネットウェブサイトhttp://www.vill.satsuki.niigata.jp/に30日間掲載するよう求める。
2 請求原因に対する認否
被告らの主張を争う。
原告らは,被告らの不法行為の差止め及び被告らの不法行為によって被った損害の賠償を求める訴訟における立証のため,法廷で供述したり,書証を提出したのであるし,原告らが殊更マスコミに発表したり,外部にチラシをまいたような事実はなく,原告らの行為は違法性を有しない。
第4 当裁判所の判断(本訴事件)
1 各末尾掲記の証拠等によれば,次の各事実が認められる。
(1)ア 原告ら及び被告らは,いずれも新潟県水無月郡皐月村大字睦月地域又は如月地域に居住しており,平成16年4月当時,これらの地域の約36戸で構成する集落の構成員であった(争いがない。)。
集落には,区長,副区長,会計,農家組合長,農家副組合長の役員が置かれ,最高の意思決定機関として,総会が設けられている(乙1,原告秋夫,被告太郎)。
平成16年当時,被告一郎は集落の区長であり,被告夏男は集落の農家組合長であった(争いがない。)。
イ ところで,被告太郎は,昭和38年,一升瓶で他人にけがをさせ,有罪判決を受けたことがあった(被告太郎)ほか,昭和55年11月の夜,飲酒の上原告三郎方を訪れ,原告三郎に対し,その首を押さえて投げ飛ばし,その背中をストーブのアングルに打ち付けさせて傷害を負わせ(甲23の1,28,30,原告三郎),昭和62年7月の夜,飲酒の上原告三郎方を訪れ,原告三郎に対し,その首を押さえるなどして警察官を呼ぶ騒ぎとなり(甲23の1,28,原告三郎,被告太郎),平成15年3月,維持組合の総会において,維持組合長である甲野六郎に対し,一升瓶を持ち向かっていったことがあった(甲24,25,原告秋夫,被告太郎)。
(2)ア 集落では,平成12年から,毎年8月15日に岩魚つかみ取り大会が開催され,被告太郎は,その実行委員長を務めていた(争いがない。)。しかしながら,大会の開催は集落の総会で決められたものの,その準備等も含めるとお盆の時期に数日間作業をしなければならず負担であることや,村に提出する収支決算書と集落に提出する収支決算書との内容が異なるような大会に関わりたくないという考えなどから,集落の構成員の中には大会の開催をやめてほしいと考えている者も相当数いたが,被告太郎から何をされるか分からないという気持ちからその旨言い出すことはできないでいた(甲23の1,23の3,24,25,28,原告秋夫,原告三郎)。
イ なお,大会の開催に当たり,村から,近隣の集落の集まりであるスクラム神無月を通じ皐月村むらづくり総合推進事業補助金が交付されていたが,これについて地方自治法に基づく監査請求がなされ,皐月村監査委員は,事実関係を調査の結果,村に提出された収支決算書と大会の実行委員会用の収支決算書との内容が異なり,大会の実行委員長である被告太郎によれば被告太郎が岩魚購入代金を寄附したにもかかわらず,村に提出した収支決算書にはこれを購入したものとして赤字の決算をし村から補助金を受けることは不当であると判断し,村に対し,適切な措置を講ずるよう勧告した。これを受け,村は,平成12年度から平成15年度までの補助金のうち62万4000円を返還するよう実行委員長に求める措置を講じ,同金額は村に返還された(甲7ないし17,被告太郎,証人丙山一雄)。
(3)ア 原告秋夫を含む数名は,4月3日,維持組合の会議が終了後,大会の話になり,翌4日の集落の総会で大会からの脱会を申し出ることを話し合った。原告秋夫は,4月4日,集落センターで開かれた総会において,被告太郎に対し,前記⑵ア記載の理由を述べた上で,「この会に入っておれないのでやめさせてくれ。」と大会からの脱会を申し出た。すると,被告太郎は,原告秋夫に対し,村八分にする旨述べた。被告太郎の言葉を聞き,原告秋夫以外の者は,脱会することを言い出せない雰囲気になってしまった(甲21の2,24,25,29,原告秋夫,原告三郎,原告二郎)。
イ 被告太郎は,4月6日の夜,飲酒の上原告秋夫方に上がり込み,「二重会計,不正会計は認めてきたおまえも同罪だ。」「おれは実行委員長だから2年,ほかの役員は1年は覚悟している。」などと言った上,原告秋夫の着衣の襟をつかみながら,「外へ出ろ。」「おれがやられるか,おまえがやられるか,さあどっちだ。」などと言った(甲21の2,24,25,原告秋夫,被告太郎)。
ウ 被告太郎は,4月30日の集落の総会において,原告秋夫に大会からの脱会の申出を撤回するよう迫ったが,原告秋夫がこれに応じなかったことから,原告秋夫に対し,「村八分にする。」「5月2日と5月9日の人足には出るな。」「5月1日からおまえからは部落会費を徴収しない。」などと告げた(甲21の2,24,25,29,原告秋夫)。
エ 原告秋夫は,5月1日夕方,被告一郎が自動車に乗車しているのを見掛けたため,停車を求め,前日の集落で原告秋夫に対する扱いがどのように決まったのか文書にして届けてほしい旨求めたが,被告一郎は,「おまえは集落の人間でない。」「集落に脱退届を書け。」などと言った(甲21の2,24,25,原告秋夫)。
オ また,原告秋夫は,被告太郎が,5月2日,人足作業終了後,「これから秋夫の家に行って,秋夫を引きずり出して頭をスコップでたたき付けてやろう。」と言ったということを原告三郎らから聞いた(甲24,25,原告秋夫)。
(4)ア その後,原告三郎は,原告秋夫の母が,原告秋夫が村八分にするなどと言われたことを悩み,自分が死亡しても親戚を呼ばないでくれなどと言っていたということを聞き,自らも大会からの脱会を申し出ることを決意し,他にも数名の者が同様の決意した(原告三郎)。
イ 原告三郎,原告二郎,原告甲野四郎,原告甲野五郎,乙川花子及び丙山春子は,大会から脱会することを決意し,5月9日,被告一郎方に赴き,大会を脱会する旨口頭で申し出たところ,被告一郎は,文書で提出するよう述べた。そこで,原告三郎は,5月18日ないし翌19日,原告ら11名を含む15名の集落の構成員が署名押印した,「岩魚取り大会脱会届」と題する文書(甲1)を被告一郎に提出した。同文書には,大会から脱会する旨記載されているが,集落から脱退するという趣旨の記載はない(甲1,23の1,24,25,28,29,乙17,原告秋夫,原告三郎,被告太郎,被告一郎)。
ウ これに対し,被告らは,原告らが集落からの脱退を申し出たものとして,5月19日,被告太郎及び被告一郎が甲野七郎と共に「睦月集落一同」の名義の「集落脱退希望者同志」あての文書(甲2)を原告三郎に届けた。同文書には,「集落になんの関係もない人間にだまされ,又一時的な感情で前後の見境もなくこれからの長い人生も,子孫の代まで一生涯何一つとして自由に使用する事も出来ず集落の厄介者として生きていかなくなる事を肝に命じて決断する事を願う。乙川秋夫に対しては,貴同志も承知のように誰も『村八分』にするとは言っていない,自身みづからその道を選択したのである。」「岩魚つかみとり大会がたとい中止になっても脱退者は再度集落に復帰することは認めない,」「どうしても集落から脱退するなら,正当なその理由を自筆の文書で氏名押印をして平成16年5月21日までに区長まで提出を願う。期日まで返答がない時,又はこの文書が返送された時集落では,集落のすべての権利を放棄したものと決断する。又,この事実を役場に報告し,ずべての手続きをする。」などと記載されている(甲2,23の1,25,28,29,乙17,原告秋夫,原告三郎,被告太郎,被告一郎)。
エ 原告らは,集落を脱退するつもりはなかったため,上記文書において求められた文書を提出せず,5月22日の総会にも出席しなかった。すると,被告らは,5月23日,丁木次雄を通じ,同内容の文書(甲3)を原告らに配布した。同文書には,更に「睦月集落脱退希望者の最後の総会を平成16年5月29日夜7時より行ないますのでお集りください。無断で欠席の場合は,睦月集落のすべての権利を自分の意志で放棄したものといたします。」と記載されている(甲3,25,28,29,乙17,原告秋夫,原告三郎,原告二郎,被告太郎,被告一郎,証人丁木次雄)。
オ 原告らは,集落を脱退するつもりはなかったため,5月29日の総会にも出席しなかった。すると,被告らを含む同日の集会の出席者は,原告らが集落から脱退するものとして,①ごみ収集箱の使用禁止,②睦月地内の山菜,きのこ等の採取,入山の禁止,③集落センター,駐車場その他集落所有物の使用禁止,④村,農協等からの広報紙,連絡文書を配布しないこと,⑤①ないし③に違反した場合は3万円の罰金を徴収することを6月1日から実施する旨決議した。そして,被告らは,5月30日,「睦月集落一同」の名義の「集落脱退者各位」あての「お知らせ」と題する文書(甲4)を原告らに届けた。同文書には,「自分自身みじから集落の全ての権利を放棄し脱退したものと決断し,やむなく下記の事項をご連絡致します。」とした上,「1)ゴミ収集箱の使用禁止。2)睦月地内の山菜及びキノコ等の採取,入山を禁ずる(各位の土地を除く) 3)集落センター及び駐車場の無断使用禁止。4)その他,集落所有物すべての使用を禁ずる。5)今後,皆さんと睦月集落では一切なんの関係もないので,広報さつき及び回覧板は基より役場農協等中央からの連絡は一切致しません。なお,スクラム神無月関係及び老人クラブの含みます。上記1)2)3)4)に違反した人は集落で定めた罰金を頂きます。(3万円) 以上,平成16年6月1日より実施いたします。」などと記載されている(甲4,23の1,25,28,29,乙16,17,原告秋夫,原告三郎,原告二郎,被告太郎,被告一郎,証人丁木次雄)。
(5)ア 原告らは,怖いとの思いを抱いていた被告らから前記書面を受け取り,6月以降,①集落のごみ収集箱にごみを捨てることができなくなり,②集落にある31名共有名義の山や国有地である入会地の山において山菜採りやきのこ取りができなくなり,③集落センターや駐車場が利用できなくなったほか,④村や農協等からの広報紙や連絡文書等が届かなくなった。原告らは,ごみ収集箱については,急場をしのぐため自らの費用で設置し,村の広報紙については,村からの依頼で原告三郎が原告らの分を配布し,農協の広報紙については,原告二郎が農協まで原告らの分を取りに行って配布している(甲6,21の1ないし21の11,24ないし26,28,29,原告秋夫,原告三郎,原告二郎,被告太郎,被告夏男,証人丙山一雄)。
イ なお,被告太郎は,6月20日午前8時ころ,原告三郎方を訪れ,「ぶっ殺してやる。」などと言い,警察官を呼ぶ騒ぎとなり,さらに,駆けつけた原告秋夫に対し,「やすでぶっ通してやる。」などと言った(甲21の2,21の4,23の1,24,25,28,原告秋夫,原告三郎,被告太郎)。また,被告太郎は,平成17年5月9日午後5時ころ,飲酒の上被告一郎と共に原告秋夫方を訪れ,原告秋夫に対し,「このぼけやろう。おまえのようなやつをうらなりびょうたんというのだ。」「人を刺す度胸はあるのか。ねえだろう,このやろう。」などと言い,警察官を呼ぶ騒ぎとなった(甲25,原告秋夫,被告太郎)。
ウ 村は,9月2日付けで被告らに対し前記⑸アのような行為をやめるよう勧告したが,被告らはこれに従わなかった。そのため,村は,平成17年6月にも同様の勧告をしたが,被告らはこれに従わない(乙3,被告太郎,被告一郎,証人丙山一雄)。
2 上記認定は,争いのない部分を除き,主として原告らの本人尋問ないし陳述書における供述によるものであるが,この点について付言するに,原告らの供述は,自然で,一貫し,体験した事実をありのまま供述しようとする態度が見られる上,相互に符合しており,十分信用することができるというべきである。
3 そこで,以上の各事実に基づき原告らの請求の当否を検討する。
(1) 原告らは大会から脱会する旨述べているが,集落から脱退するとは述べていない。この点,被告らは,大会のみを脱会することは許されず,原告らは自らの意思で集落から脱退した旨主張する。確かに,ユニオン・ショップのように,ある団体から脱会することにより別の団体からも脱退することとなるような性質の団体も存在するものの,本件における大会と集落がそのような関係にあるとは解されないし,原告らが大会から脱会することを決意した理由にかんがみれば,原告らが大会からの脱会を申し出たのはやむを得ないことであり,これをもって原告らが集落から脱退したと扱うことはできないというべきである。
したがって,被告らが原告らに対しなした前記1(5)ア記載①ないし④の行為は,これをもって村八分行為と呼ぶかどうかはともかく,違法であり,原告らに対する不法行為を構成する。なお,被告らは,前記1(5)ア記載①ないし④の行為は集落における総会の決議を執行しているにすぎない旨主張しているが,たとえ総会の決議に基づくとしても,上記のような不法行為をすることが許されず,かかる行為をした被告らが責任を免れないことは,改めて説明するまでもない。
(2)そして,被告らが村の2度にわたる勧告にも従わなかった上,本人尋問において,被告太郎が「お知らせ」と題する文書(甲4)の記載事項の効力がこれからもずっと生きていくと思う旨明言し,被告一郎が村の勧告に従うつもりはない旨明言していることなどに照らせば,被告らが今後も同様の行為に及ぶおそれは高いものと認められる。 したがって,原告らの人格権としての権利ないし利益の侵害を未然に防止するため,主文第1項のとおりの差止めを求める原告らの請求は理由がある。
(3)また,証拠(甲21の1ないし21の11,23の1ないし23の3,24ないし26,28,29,原告秋夫,原告三郎,原告二郎)によれば,原告らは,被告らの前記1(5)ア記載①ないし④の行為により,単に生活上の不便を感じたのみならず,精神的苦痛を被ったものと認められるところ,原告らに対する不法行為の態様,その期間等を総合考慮すれば,原告らに生じた精神的苦痛を金銭をもって慰謝するには,原告ら各自について各20万円が相当である。
したがって,原告らの損害賠償を求める各請求は,上記限度において理由がある。
第5 当裁判所の判断(反訴事件)
1 証拠(甲5,甲21の1,21の2,21の4,23の1,23の2,24ないし26,28,原告秋夫,原告三郎,原告二郎)及び弁論の全趣旨によれば,別紙2名誉毀損等言動一覧表中,第1の2に「甲野太郎が」とあるのを「甲野太郎から」,第1の3に「私は村八分にする」とあるのを「私を村八分にする」,第1の11に「みんな顔を見られたりすると」とあるのを「みんな顔を見たりすると」,第1の16に「台がるんです。」とあるのを「台があるんです」,第1の19(3)に「自分意見が」とあるのを「自分の意見が」,第1の19(6)(7)(8)に「訴2頁」とあるのをいずれも「1準書2頁」,第1の19(10)に「ネラー夫婦」「甲23[甲野二郎]」とあるのを「テメーら夫婦」「甲23[甲野三郎]」,第2の7(2),第4の4(2)に「1準書」とあるのをいずれも「2準書」とそれぞれ改めるほか,原告らが本件訴訟において別紙2名誉毀損等言動一覧表記載の趣旨の主張ないし供述をした事実が認められる。
また,原告らが,本件訴訟の準備のため,互いに上記のような内容の発言をした可能性も否定できない。
2 しかしながら,訴訟当事者が他人の名誉やプライバシーを害する主張,立証を行ったとしても,要証事実との関連性,その必要性,方法の相当性から見て,訴訟活動として社会的に許容される範囲を逸脱したといえるような特段の事情がない限り,その行為は違法性を有しないと解すべきところ,原告らは,被告らから前記第4の1(5)ア記載①ないし④のとおりの行為をされたため,本件訴訟において,その被った損害の賠償を請求するとともに,将来にわたる同様の行為を差し止めるために上記供述等をしたものであり,原告らが大会からの脱会を表明するに至った経緯をも考慮すれば,原告らの上記供述等はいずれも要証事実と関連性を有するといえるし,要証事実立証のため上記供述等をする必要性もあり,また,上記供述等は被告らを誹謗,中傷する目的でなされたものではなく,その内容,方法,態様も不適切とはいえず,少なくとも損害賠償をすべきほどの違法性があるとは認められない。
3 したがって,原告らの上記供述等が形式的には被告らに対する名誉毀損ないしプライバシーの侵害に該当するとしても,それらはいずれも正当なもので,違法性を有しないか,少なくとも損害賠償をすべきほどの違法性はないから,その余の点を判断するまでもなく,被告らの請求は失当である。
第6 結語
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 松井芳明)
別紙
1 謝罪広告目録<省略>
2 名誉毀損等言動一覧表
第1 法廷における名誉侵害行為その1(太郎に対するもの並びに太郎及び一郎に対するもの,プライヴァシー侵害を含む)
1 「実際のところ総会とはいうものの,多数決とかそういう形で物事が決まるのではなくて,被告太郎の意見によってほとんどがきまってしまうと。何か言ったりするとどなられたり,後でいじめに遭ったり,それなもんだから,みんなが怖くて何も言えない状況です」「そうです。私は現実に平成16年4月4日に岩魚大会の脱会を述べましたら,村八分の通告を受けると同時にその2日後には私の家にどなり込まれています」(乙川3頁)。
2 「私がそれを申しましたら,岩魚の実行委員長の今回の甲野太郎が,村八分にするというふうな通告を受けました」(乙川13頁)。
3 「4月30日に実際に私は村八分にするということで再度通告されて……」(乙川16頁)
4 「……原告の甲野三郎さんが1人反対したものの,やはりみんなは太郎が怖くて黙っている沈黙の状態でしたので,三郎さんもその岩魚の反対を撤回せざるを得ない状況になったと。これは多数決ではなくて,そのような状況の中で決まったものだと」(乙川6頁)。同旨(乙川41頁,54〜55頁,59頁)。
5 「……甲野太郎と甲野一郎が平成16年6月20日の日に甲野三郎さんのところにどなり込みに行ったんです。それで,それを聞いた私が,ちょっとおくれましたけれども,そこに駆けつけたんです。駆けつけた私に対しても,暴言を繰り返したり,こぶしを振り上げたりして威圧をかけて,警察……」。「はい。警察も,甲野三郎さんは身の危険から警察を呼びました。警察が居ても,太郎に至っては私に向かってこようとしましたし,それから一郎についてはこぶしを振り上げたりして暴言を繰り返していましたし,あげくの果てに太郎に至っては魚を突くヤスで私をぶっ通してやるというふうなことも私は威圧をかけられました」(乙川4頁)。
6 「あります。訴訟になってからは,具体的にはことしの平成17年5月9日に甲野太郎と甲野一郎とともに共有地維持組合の精算金のことで私の家に押しかけて,暴言を繰り返し,あげくの果てに警察を呼ぶことになりました。それで,私に対して,このぼけやろうとか,青なりびょうたんとか,うらなりびょうたんとか,それから人を刺す度胸はあるのか,ねえだろう,このやろうとか,物すごいけんまくで私に対して侮辱あるいは暴言,暴力的な言葉,それを私はかなり打撃を受けました」(乙川5頁)。
7 「実際に私が脱会を述べたらそうゆうふうに村八分されたのが一つありますし,過去に2年か3年前,第2回大会,第3回のときの会計係の甲野八郎というのがいるんですが,その人が夜勤とか朝勤とかで人足に出られなかったと。そういうときに甲野太郎は甲野八郎の自宅に押しかけて,どなり込みに行っているわけです。そして奥さんにも暴言を吐いて,それでそういった暴力的な行為をしているわけです。それは,私の家に来て太郎自身が私に実際に話したことですから,間違いありません」(乙川8頁)。
8 「そこでいろいろ何か本人もかなり酔っていまして,物すごい暴言を言って私たちに威圧をかけたわけです。私たちの母親もいましたんですけれども,それで最後に私のとこに迫ってきまして,襟足をつかんで,文句あるんだったら外へ出ろというようなことを言いました」(乙川15頁)。
9 「これは,原告の甲野三郎さん初めいろいろな人から聞いていますけれども,5月2日は私は出るなと言われたので,私は出られなかったわけです。そのとき,人足が終わった後に,太郎が,これから乙川秋夫の家に行って,秋夫を引きずり出して頭をスコップで皆で叩きつけてやろうということを言ったと言ってました」(乙川17頁)。
10 「……森林組合の理事に至っては,甲野太郎が勝手に届け出て,それで決まっているような形になっております」(乙川27頁)。
11 「……これは精神的な苦痛として,毎朝早朝,朝早く被告の甲野太郎が村回りをしていると。これは,歩いて本村まで村回りをしているんです。みんな顔を見られたりすると威圧とかかけられますし,家族も含めて威圧をかけられていると,束縛されているような感じで」(乙川27頁)。
12 「これは,原告や被告以外の人も集落には当然おるわけですけれども,その人たちと私たちは話しをしたい,向こうも話をしたいと思っているけれども,話をしたりすれば被告側に,特に太郎に何をされるかわからないと,嫌がらせを受けるかもしれないということがあって,みんな避けているような状態であります」(乙川27頁)。
13 「被告甲野太郎が私のうちに何度もどなり込みに来たり,暴力振るったりするので,怖いから,一応太郎の言うとおりにすれば間違いないと思って,今までそうやって来ました」(三郎2頁)。
14 「最近では平成16年6月20日朝8時ごろ,うちの女房のところに電話がかかってきまして,それで何かやって,太郎がどなり込んできたんです。そんで,てめら,ここから出ていけと,タイシだ,タイシ以上か悪い,表出ろ,おまえら,ぶっ殺してやる,殺してやるっと,うちのせがれは今度,『110番するぞ』と言ったら,太郎が『おい,やれよ』と言って,110番したんです」(三郎3頁)。
15 昭和62年に110番したことについて太郎が「……これから飛んで行くと言って,おらの家,飛び込んできたんです」。「はい。首根っこ引っ張られて,うちの車庫のところへ引っ張り出されて,車庫にぶっつけられたんです。そのとき,女房は妊娠していたんで,そんで怖くて110番,電話して,警察来てくれていたんです」(三郎4頁)。
16 昭和55年の件について「それも夜,総会終わってからです。酔っぱらって私のうちにどなり込んできて,てめえ,生意気だと言って,そんで私の首根っこ押さえて,私をひっくり返したわけですよね。そんで,まきストーブがあるんですけれども,まきストーブを敷いている台がるんです。それ,私,溶接やっているもんで,鉄骨でつくったアングルなんですけれども,そこに背中打って,ここに,おれは消えたもんだかと思ったんだけれども,うちの女房がまだあるんだよと大分前,説明してくれたんです。そのとき,そばにいた子供も飛んでいって,ひざに青くはれたんです」(三郎5頁)。
17 新聞店の件は誰がやったかについて「おれは,甲野太郎だと思います」(三郎32頁)。
18 お金を村会議員から貰っているのは誰かについて「コウノクロウ,間違えた。済みません。甲野太郎」(三郎33頁)。
19 書証によるもの
(1) 「甲野太郎と乙川夏男組が恐喝と暴力で集落をあやつっている……」(睦月会)
(2) 「区長は太郎の脅しに負け寝返りしてしまいました」(睦月会)
(3) 「太郎は会議中自分意見が通らなかったりすると,直ぐに一升瓶を持って向かって行きます」(睦月会)
(4) 「以前もビール瓶で村の人を刺し傷害事件を起こしました」(睦月会)
(5) 「そんな事ですから部落の皆は怖くて誰も手を出せません」(睦月会)
(6) 「被告太郎は,昭和38年に訴外甲野十郎……をビール瓶を割って刺して2ケ月も入院させる傷害事件を起こして逮捕・起訴され実刑判決を受けた……」(実刑判決は事実に反する。執行猶予付き有罪判決を受けたことは真実であるが,これを公表することはプライヴァシー侵害にあたる)(訴2頁)。
(7) ……「昭和39年,55年,62年,平成16年4月,同年6月と,原告や訴外人宅に夜から朝方まで家族等に因縁を付けたり,暴力事件を引き起こして……暴力と脅かしを繰り返し,集落の人達からは恐れられてきた」(訴2頁)
(8) 「……原告乙川秋夫に対しても,同月6日に同原告宅に上がりこんで暴言を繰り返した挙げ句,最後には同原告の襟首を掴んで外に出ろと脅し……」(訴2頁,甲21[乙川秋夫],甲25[乙川秋夫])
(9) 「被告太郎は『これから乙川秋夫の家に押しかけ,秋夫を引きづりだし,皆でスコップで頭を叩きつけてやろう』と言い出し……」(訴2頁,甲24[乙川秋夫],甲25[乙川秋夫])
(10) 平成16年6月20日「私の同士の甲野三郎さん宅へ,太郎と一郎が怒鳴り込んだ。連絡を受け,かけつけたところ,この二人にとり囲まれ,暴言を連打され,太郎に至っては,この時,警察官が2人来ていたにもかかわらず私に向かってこようとしました。あげくのはてに,太郎が私にヤスでぶっ通してやると脅しました。ヤスは太郎がいつも軽トラック荷台に積んでいました」(甲21[乙川秋夫],甲24[乙川秋夫],甲25[乙川秋夫]),「ネラー夫婦,おかしいんでねいか。表に出ろとなんどもいう。人間頭にくると,殺す事だってあるんだ,殺してやろうかとおどしました」(甲21[甲野三郎],甲23[甲野二郎],甲28[甲野三郎])
(11) 「被告の太郎は,毎日,朝早くから,徒歩で村回りをし集落を監視し,威圧を与えています」(甲26[乙川秋夫])
(12) 太郎は,(原告)秋夫の家に押しかけ同人を引きずり出しみんなで頭をスコップでたたきつけてやろうと言った(甲24/25[乙川秋夫])
第2 法廷における名誉侵害行為その2(一郎に対するもの)
1 「区長は,もう話しにならないです。私を,集落の人間ではない,おまえは人間でないとか,おまえは頭がおかしいんでないかとか,おとなしく従っていればいいんだとか,それから,おまえが勝手にそういうことを書けとか,それから集落に脱退届を書けとか,おまえは人間でない,人間でないおまえとは話をしないとか,そういうふうなべらべら,べらべらとしゃべりまくって話をする余裕はありませんでした」(乙川17頁)。
2 (師走農済組合の総代の役職を甲野五郎さんがやっていたが)「……5月30日の日に被告の夏男が一郎に指示して五郎さんの宅に区長が行きまして,上がり込んで,そして五郎を役職やめさせろと奥さんに威圧をかけたわけです。……そういうふうに威圧をかけて,結果的には五郎さんも威圧をうけましてやめる形になりました。奥さんに嫌がらせとかありますし,本人もいろいろ嫌がらせも受けるであろうし,そういうことでやむなく五郎さんはそれをやめたことになりました」(乙川22頁)。
3 (新聞店に圧力をかけた件について,三郎さんがやっていたが)「……三郎さんが配達するんだったらやめさせるとか,そういうふうな嫌がらせの行為のことです」。「実行役は,甲野太郎だと思います」(乙川42頁。一郎調書参照)。
4 甲野二郎の母親の老人クラブの集金係について「これは区長さんが来て,おれがいませんでしたので,うちの母親に,これからの役はみんな降りてもらうという」(二郎3頁)。
5 区長の裏切りの原因について「わからない,何で裏切ったんだか。おどしに負けたんではないかと思います」(三郎31頁)。
6 誰がゴミ箱の見張りをしているかについて「区長です。甲野一郎」(三郎36頁)。
7 書証における名誉毀損
(1) 「区長は太郎の脅しに負け寝が変えりしてしまいました」(睦月会)。「区長である被告一郎も,まったく被告太郎の言いなりであった」(訴5頁)
(2) 「被告夏男の指示を受けた被告一郎区長は同年5月30日の原告甲野五郎の留守中に同人宅に上がり込み,原告五郎の妻に対して原告五郎を『辞めさせろ』と圧力を加えてきた」(訴7頁,1準書3頁)
(3) 「お前は頭がおかしいのではないか。お前は人間でない」(甲24「乙川秋夫」)
第3 法廷における名誉侵害行為その3(乙川に対するもの)
1 師走農済組合の件は「乙川夏男が一郎に指示して,一緒になって動いていると思います」(乙川22頁)。
2 甲野六郎に関して保健所に嫌がらせの電話をした件について誰が電話したか。「乙川夏男じゃないですか」(乙川45頁)。
3 「……おまえ村八分だと言ったのは乙川夏男,最後に断言したと思っています」(二郎7頁)。
4 乙川夏男の村八分行為は「ごみを捨てさせないということです」。見張っていることか。「そうです」(三郎44頁)。
5 書証における名誉毀損「ダスキン戌川の会社に電話して私の家から配達するなら止めると……連絡する」(甲21[甲野二郎])
第4 法廷における名誉侵害行為その4(原告ら3名に対するもの)
1 当事者尋問による名誉毀損
選挙の投票所として集落センターが使われた件について「……集落センターを使ったら3万円の罰金を取るぞと,そういうふうにちらつかせているわけで,おっかなくて行かれないわけです」(乙川61頁)。
2 「だから,この件に対してとか話ししていると,いや,今村八分の方の人間と口を,まだ3人側の話を漏らしたいるんでねいかと,スパイしているということの意味です。通じている」(二郎13頁)。
3 「たまたま会ったりして,だけど余り余計なこと話できない,突っつかれるからというので,その後全然酒飲みとかもしていません。話ができません」(二郎14頁)。
4 書証における名誉毀損
(1) 勇気を出して,岩魚つかみ取り大会を脱退すると言っただけで「乙川秋夫さんが,一人いじめに逢い村八分にされてしまいました」(睦月会)
(2) ……私は生活の足しにと思い新聞配達をしているのですが「新聞屋さんに電話して配達員の交代をする様に嫌がらせをされました」,他の同士の人はダスキンの交換をしていますが,「此れは直接本社に電話されて辞めさせられました」,建設の仕事をしている人は「発注元へ電話し不正な工事をしているからと目に余る嫌がらせの数々で」大変困っています」(睦月会。同旨訴6〜7頁,1準書2頁)
(3) 「村会議員候補者から,岩魚の代金を援助して,貰っていますが其の他に,どの位お金を貰っているのか,皆目見当がつきません」(睦月会)
(4) 被告太郎は,しばしば集落の人々に暴力的行動にでて恐れられており,かつ,区長である被告一郎を利用し,同被告とともに原告らに前述の様々な不法行為を続け,また,被告夏男は,その知恵者として2人の被告と共謀しながら,原告らやその家族の地域の役員を辞めさせたり,自らゴミ箱を見張って原告らのゴミ捨てを妨害し監視するなど,共同して本件不法行為を画策実行している」(訴8頁)
(5) 集落センターが投票所になっているが,投票できなかった(甲21[乙川秋夫,甲野五郎,甲野ハナ])。
(6) ゴミ箱の見張り(甲21[甲野ハナ])
(7) 「被告等は裁判費用を私たち以外の居残りした集落の人達に按分して出すように反([半]の誤り)強制的に強要しているようです」(甲23[甲野三郎,甲野二郎])。
(8) 「年老えた母の生き甲斐とも思われていた役柄などを奪い取られるなど全く良心のかけらも,もたないけだもの同然の被告等です」(甲23[甲野二郎]。これは侮辱罪である)
(9) 「集落の所有物としては,神社や地蔵様がありますが,参拝できず,信仰の自由を奪われている現状です」(甲24/26[乙川秋夫])