大判例

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新潟地方裁判所相川支部 昭和25年(タ)6号 判決

原告 影山フシエ

被告 宇佐美敏雄

一、主  文

昭和二十四年八月十日附新潟県佐渡郡両津町長宛届出にかかる原被告の協議離婚は無効であることを確定する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として原被告は昭和二十四年三月十五日正式届出により婚姻をなした夫婦であるところ、原告は被告の母から同年七月二十三日原告が被告の母の命に従わず、且つ口答えをしたという理由で生家に追返され、同時に被告方へ帰ることを断られたので極力謝罪したが容れられず、同月二十六日再び生家へ追返されたので原告の実母その他縁者を通じて再三詫びたが依然として許されず、被告も亦被告の母の意に従つたもののようで、被告は原告の承諾を得ないのに拘らず離婚届用紙に原告の署名を冒書し、その名下に被告家にあつた印章を冒捺して原被告間の協議離婚届を作成し、同年八月十日これを新潟県佐渡郡両津町長に提出して協議離婚の届出をなし同日これを受理された。しかし原告はもとより離婚の意思がなく右協議離婚の届出は原告が知らない間に被告によつてなされたものであるから本件協議離婚は無効である。仮に原告に離婚の意思があつたとしても前叙離婚届は前述のように被告が原告の署名押印を冒署冒捺して作成し届出たもので、離婚の当事者の一方である原告はその届出に関与せず、従つて右届出は離婚の当事者によつてなされたものでないから本件協議離婚はこの点からしても無効である。よつてその協議離婚の無効確認を求めるため本訴に及んだ旨陳述した。<立証省略>

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実のうち、原被告が昭和二十四年三月十五日正式届出により婚姻をなした事実並びに同年八月十日原被告間の協議離婚の届出が新潟県佐渡郡両津町長になされ同日これが受理された事実はいずれもこれを認めるが、その余の原告主張事実はすべてこれを否認する。本件協議離婚は原被告間における離婚の意思の合致により原告の承諾を得て原告主張の離婚届書中原告の氏名を被告が代署して作成し、その届出がなされたものであるから有効に離婚がなされたものである。仮にその離婚届書に原告の主張するような欠缺があつたとしても、両津町長に受理された以上本件協議離婚は有効であるから、原告の本件請求は失当である旨陳述した。<立証省略>

三、理  由

真正に成立したと認める甲第二号証中戸籍事務を管掌する公務員の作成部分、同第三、四号証によれば、原被告は昭和二十四年三月十五日正式に婚姻をなし、夫の氏を称していたところ、同年八月十日新潟県佐渡郡両津町長宛に甲第二号証の協議離婚届が提出されて協議離婚の届出がなされ、同町長に受理された事実を認めることができる。しかるところ、新潟地方法務局相川支局より取寄せたことによつて同法務局に保管されて存在することの明かな甲第二号証の存在する事実と証人影山チヨ、土田勝治、中田民五郎、池野貞治、塩田進、宇佐美タツ、正司政次の各証言及び原被告各本人尋問の結果(以上各証言及び各本人尋問の結果中後記認定に牴触する部分は措信しない)とを綜合すると、原被告が結婚後月余を経た頃から、原告と被告及び被告の母タツとの間に漸次不和が募り、被告の母タツは原告をその生家に赴かせた留守中原告の姉の嫁ぎ先である土田勝治方へ行つて、これ以上縁のないものとあきらめ、原告を被告方へ帰さぬよう原告の実家へ伝えられたい旨申入れ、これに対し、これを聞いた原告が詫を入れるなどのことがあつたが、同年七月二十六日頃またも原告と被告及び被告の母タツとの間にいさかいを生じ、遂に原告は被告の母から「お前のようなものは面倒を見ることはできない」とか又被告から「これまでいくら言い聞かせても心を改めないのなら自分も面倒を見ることができない」などと交々原告との離別の意向を表明され、原告も亦激昂の余り「どうでも勝手にすればよい」「籍を切つてくれ」などと言残して、翌二十七日頃生家へ帰つたが、その翌二十八日頃実母影山チヨに依頼して被告に詫び、夫婦関係の継続を願つたが、被告はこれを拒んだ上、特に原告から離婚届出の承諾乃至依頼を受けないのに離婚届用紙に原告の署名を被告自ら書込み、その名下に自家に有合せの印章を押し、その他所要の記載をした上、中田民五郎、正司政次を証人として甲第二号証の協議離婚届書を作成し、同年八月十日これを新潟県佐渡郡両津町長に提出して協議離婚の届出をなし、同町長に受理されると共に原告に対して離婚の旨を通知したため、これを知つた原告は或は原告自身で、或は媒酌人その他縁者などを介して被告に対して再三被告方へ戻れるように頼んだが、あくまでも被告がこれを肯じなかつたところから同月中旬頃自己の荷物を被告方から引取るに至つた事実を認めることができ、前示当裁判所の措信しない証拠を除いては右認定を左右するに足る証左はない。而して前段認定のように原告が一時の激昂の余り籍を切つてくれといつて夫である被告の許を去つた事実があつても、かような感情の激している状態における片言をとらえ、これを以て真実原告に離婚の意思があるとするには多分の疑があるばかりでなく、右の原告の言辞と前段認定の原告が被告の許を去つた事実とを併せ考えて、たとえその当時原告に離婚の意思があつたと見られるとしても、前示認定のように原告が夫である被告の許を去り、生家へ帰ると直ぐその翌日実母チヨに頼んで被告に詫びて元通り被告と夫婦関係の継続できるよう願つている事実の存する以上、これによつて原告のさきの離婚の意思は変更され、もはや原告に離婚の意思のなくなつたものと推認するを相当とし、しかもこの事実に前段認定の原告が被告から離婚の通知を受けた直後再三被告に対して被告方へ戻れるように頼んでいる事実と本件協議離婚の届書の作成とその届出とに原告が関与していなかつた事実とを併せ考えると、原告は本件協議離婚の届出がなされる当時は勿論前示原告が被告の許を去つて生家へ帰つた後前示自己の荷物を引取るに至る迄の間引続き被告と婚姻継続を希望していて豪も被告と離婚する意思を有していなかつたものと推認するを相当とするところ、協議離婚はその届出の時において離婚当事者双方の自由な意思の合致を必要とし、その届出前の或る時期において離婚の意思の合致があつた場合と雖もその後当事者の双方又は一方の意思が変り、その届出の時において離婚の意思の合致がなくなつた場合には当初から全く離婚の意思の合致がなかつた場合と同様その協議離婚は無効であると解すべきであるから、被告が本件協議離婚の届出をなした昭和二十四年八月十日において原告が被告と離婚する意思を有していなかつたこと前示認定のとおりである。本件協議離婚は無効であると解すべきである。尤も前段認定の本件協議離婚の届出があつた後原告が被告方から自己の荷物を引取つた事実並びに証人塩田進の証言及び原被告各本人尋問の結果認められる原告と被告とが本件離婚届出がなされた後である昭和二十五年夏頃以来離婚問題につき再三話し合つた際金銭の授受によつて解決する話もあつた事実等の事実があつても、前段認定のように原告が本件離婚届出の前段を通じて被告に対して元通り婚姻継続方を頼んでいる事実が存する限り、右の事実が存することを以てしては未だ本件離婚届出当時原告が離婚の意思を有していた証左となし難く、又右の各事実の存することから、本件離婚の届出のなされた後に至つて原告が離婚もやむなしと考えたであろうと推察できぬわけではないが、協議離婚には民法総則の無効の法律行為の追認に関する規定の適用乃至準用がないものと解するを相当とし、しかも協議離婚は当事者の意思の合致の外法定の方式による届出及び市区町村長の受理という形式を必要とする要式行為である性質上当事者の追認によつては無効な協議離婚を有効とすることはできないものと解するを相当とするから、前示の追認と見られるような事実があつてもこれによつて前段認定の無効な本件協議離婚が有効となるいわれはない。被告は仮に本件協議離婚届書に原告の主張するような欠缺があつても、両津町長に受理された以上本件協議離婚は有効である旨主張するけれども、協議離婚は前段説示のように当事者の合意の外届出及び受理を要する要式行為であるから、その届出及び受理がなければ協議離婚は形式的にも成立しないのであつて、この場合事実上の離婚の問題が生ずるのは格別、協議離婚の有効無効の問題を生ずる余地がなく、却つて形式的には協議離婚の届出及び受理がなされ外形上協議離婚がなされた場合においてこそ、その協議離婚が有効であるか、無効であるかを確定する必要があるものであるから被告の右主張は到底採用するに価しない。

果して然らば本件協議離婚の無効を主張してその無効確認を求める原告の本訴請求はこれを正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決する。

(裁判官 小笠原肇)

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