新潟地方裁判所相川支部 昭和38年(わ)13号 判決 1964年1月10日
被告人 山田ハツ
明二八・三・一八生 農業
主文
被告人を懲役六月に処する。
但しこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は金部被告人の負担とする。
理由
被告人は亡夫金蔵(昭和二十五年四月十九日死亡)生存中の昭和二十四年七月二日右金蔵所有の新潟県佐渡郡新穂村大字長畝字腰前二千九十番地から同二千九十三番地の水田四筆合計四反一畝十歩が自作農創設特別措置法により国に買収され、同地の小作人であつた村田八郎平の長男郁夫に売渡されたことに強い不満をいだいていたところ、同三十二年十二月頃から右村田八郎平が同人所有の同村大字正明寺字高下千二百八十八番地の甲山林二反七畝十五歩地内の立木を伐採するに際し、これに隣接する被告人所有の同所同番地の乙山林二反七畝十五歩地内の立木を伐採したとして、その伐木の損害賠償の請求およびその境界の確認を求めてきたが、その所期する結果が漸々時日を経過するも得られないのに業をにやし、同三十八年三月二十一日頃この際右損害賠償の代償として前記国に買収された右各農地を右村田八郎平から奪還し耕作して、一挙に右山林の紛争を解決し、旦つ喪失した先祖伝来の右各農地をも取戻し財産を回復しようと決意するに到り、同月二十五日情を知らない土屋三郎に対し右各農地を動力耕耘機をもつて耕耘することを依頼し、同月二十六日右村田八郎平に対し右各農地を耕作するから同地にある堆肥を他に搬出せよとの書面(押収に係る第十号の二の封書)を出し翌二十七日右土屋三郎外一名をして右各農地を耕耘させ、被告人は右農地中の二千九十二番地の一部に苗床を造り、同二千九十一番地内の約一坪の堆肥場に菜種を播種し、同年四月五日から同月八日までの間に右農地の一部に堆肥をおく等して右村田八郎平が管理占有中の右各農地の占有をほしいままに被告人に移し、もつて前記各農地を不法に侵奪したものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
法令を適用するに被告人の判示所為は刑法第二百三十五条ノ二に該当するからその所定期内で被告人を懲役六月に処し、被告人の老令、前科のないこと、同三十八年四月下旬右各農地の占有を放棄したこと等諸般の事情を勘案して同法第二十五条第一項第一号によりこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用の負担については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に則つて全部被告人に負担させるものとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 大前邦道)