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新潟地方裁判所長岡支部 平成14年(ワ)108号 判決 2003年2月28日

北海道函館市若松町15番7号

原告

株式会社ジャックス

上記代表者代表取締役

●●●

上記代理人支配人

●●●

上記訴訟代理人弁護士

●●●

新潟県●●●

被告

●●●

上記代表者代表取締役

●●●

新潟県●●●

被告

●●●

上記両名訴訟代理人弁護士

片桐敏栄

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告らは、原告に対し、各自198万4500円及びこれに対する平成13年12月28日から支払済みまで年21.9パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、原告が、被告らに対し立替金を請求したことに対して、被告らが原告の請求は信義則上許されないとして争った事案である。

1  争いのない事実等

(1)  原告は、割賦購入斡旋を業とする株式会社である(争いがない。)。

(2)  原告は、平成13年10月18日、被告●●●(以下「被告会社」という。)との間で、以下のとおりの立替払契約を締結した(被告会社の一括支払の期日を除いて争いがなく、証拠〔甲1、証人番●●●〕によれば、被告会社の一括支払の期日は原告と被告会社との間では平成13年11月27日と合意されていたが、原告の事務処理の遅れから原告が同年12月27日に遅らせたことが認められる。)。

① 原告は、被告会社が株式会社アイディック(以下「訴外会社」という。)から平成13年10月18日購入した省エネシステム一式(取付工事を含む。以下「本件省エネシステム」という。)の代金198万4500円の立替払を行う。

② 原告と被告会社との間では被告会社の一括支払の期日は平成13年11月27日と合意されていたが、原告の事務処理の遅れから原告は一括支払の期日を同年12月27日に遅らせた。

③ 遅延損害金は21.9パーセント(年365日の日割計算)とする。

(3)  被告●●●(以下「被告●●●」という。)は、原告に対し、平成13年10月18日、被告会社の上記(2)項の債務について連帯保証した(争いがない。)。

(4)  原告は、平成13年11月20日、訴外会社に対し198万4500円の立替払を行った(甲2)。

2  争点

本件の争点は、本件省エネシテスムは省エネの効能を有しておらず、これによって訴外会社の被告会社に対する契約上の債務が不履行になることを知り若しくは知り得べきでありながら、原告は、立替払を実行したものであって、原告の被告らに対する請求は信義則上許されないといえるか否かである。

第3争点に対する判断

1  証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1)  被告会社は、●●●金属加工を行っており、毎月かなり多くの電気を使用していた(被告●●●本人、乙8の1ないし6)。

(2)  被告会社は、毎月財団法人東北電気保安協会から電気設備点検報告を書面で受けていたが、平成13年5月22日には電力量計の力率が90パーセントと低いとの指摘を受け、同年6月26日には同年5月22日に低圧コンデンサ仮設置の結果高圧側力率が90パーセントから97パーセントに改善したとの報告を受けたことから、本工事を電気店に依頼しようと考えていたところ、平成13年8月初めころに訴外会社のセールスマンの訪問を受け、省電王というシステムを使った節電工事についての説明を聞くこととなった(乙4、5の1、2、被告●●●本人)。

(3)  被告会社は、訴外会社のセールスマンから、電灯回路の適正電圧制御とバランス調整、動力回路の適正電圧制御とバランス調整及び蛍光灯安定器のインバーター式安定器への交換工事を行うことによって、力率が98パーセントから100パーセントになり、試算では19パーセントの省エネとなって毎月の電気料金が約5万円削減されるとの提案を受けたために、訴外会社と契約をすることとし、平成13年10月3日に、訴外会社との間で、省エネシステム一式を147万円(消費税込)で購入する旨の契約を締結し、代金の支払方法については訴外会社が指定するクレジット会社と立替払契約を締結する方法によることとされた(乙1の1、2、被告●●●本人)。

(4)  被告会社は、訴外会社との間の上記(3)項の契約に基づき、平成13年10月3日に、原告に対し、本件省エネシステム一式の代金147万円に分割手数料74万0880円を加えた221万0880円を平成13年11月から84回に分割して支払うことなどを内容とした立替払契約の申込み(以下「平成13年10月3日付の申込み」という。)を行った(乙1の3、4)。

(5)  原告は、平成13年10月4日に、平成13年10月3日付の申込みに対する意思確認を電話で行ったところ、被告●●●は「これは省エネシステム一式と書いてあるけれども、商品を買うのではなく、省エネ効果を買うものです。したがって、効果が確認できなければ支払えないし、効果を確認してからの支払いになります。」という内容の返事を行い、原告において電話確認の内容を書き留めておく与信決裁書兼申込書不足項目連絡票(甲4)には「内容OK、但しキャンセル及び効果ナシのとき減額等の申立有に付保留とする」と記載された(甲4、被告●●●本人)。

(6)  被告会社と訴外会社の契約は、代金額が198万4500円(消費税込)に変更され、代金額を変更した平成13年10月付の契約書(乙2の1)が作成されたが、被告●●●は、この際に作成されたご契約内容確認書(乙2の3)に「契約内容が確認(効果)されるまでは支払いは開始しない。」という内容の書き込みを行った(乙2の1、3、被告●●●本人)。

(7)  被告会社は、上記(6)項の契約に基づき、平成13年10月16日に、原告に対し、本件省エネシステムの代金198万4500円を平成13年11月27日に一括して支払うことなどを内容とした立替払契約の申込み(以下「平成13年10月16日付の申込み」という。)を行った(乙2の2)。

(8)  原告は、平成13年10月18日に、平成13年10月16日付の申込みに対する意思確認を電話で行ったところ、被告●●●は「効果が確認できなければ支払わないというのは以前と同じですよ。」という内容の返事を行ったが、原告において電話確認の内容を書き留めておく与信決裁書兼申込書不足項目連絡票(甲4)には「1回払いに変更、金額も変更です。」とだけ記載された(甲4、被告●●●本人)。

なお、与信決裁書兼申込書不足項目連絡票には平成13年10月18日の電話での意思確認の際に被告●●●が「効果が確認できなければ支払わない。」という内容の話をしたことが記載されていないことは上記に認定したとおりであるが、被告●●●は訴外会社との契約当初から本件省エネシステムに実際に省電力の効果があるかどうかについて気にかけていたのであり、また平成13年10月4日の電話確認の際には効果が確認できない場合には支払わないという内容の発言をしていることは明らかであるから、平成13年10月18日の電話確認の際に同様の発言をしないことは考えられず、上記与信決裁書兼申込書不足項目連絡票に記載がないからといって、平成13年10月18日の電話確認の際に「効果が確認できなければ支払わない。」という内容の話をしたとの被告●●●本人の供述の信用性に疑問が生ずるものということはできない。

(9)  訴外会社は、平成13年10月21日に、被告会社の電気設備に省電王という名称のトランスを設置したが、これは本件省エネシステムのうち電灯回路の適正電圧制御とバランス調整、動力回路の適正電圧制御とバランス調整工事に該当する(乙4、被告●●●本人)。

(10)  その後、被告会社は、訴外会社に対し、省電力の効果があるかどうかの確認の測定を行うことと蛍光灯安定器のインバーター式安定器への交換工事を行うことを求めたが、訴外会社がなかなかこれに応じなかったため、被告会社は、訴外会社に対し、平成13年11月9日に、「このままでは11月27日のお支払い(原告への一括振込)は致しかねます。」という内容の電子メールを送信した(乙3、4、被告●●●本人)。

(11)  被告●●●は、平成13年11月9日ころに、原告のカスタマーサービス部門に電話をし、「訴外会社との間の契約は債務不履行となりそうなので、支払は停止します。」という内容の話をした(乙4、被告●●●本人)。

(12)  原告は、平成13年11月20日、訴外会社に対し198万4500円の立替払を行った(甲2)。

(13)  被告会社は、平成13年11月20日ころ、原告からのお支払明細書を受け取ったために、同日ころ、原告のカスタマーサービス部門に電話をし、「平成13年10月16日付の申込みに基づく支払はできない。」という内容の話をした(乙2の4、乙4、被告●●●本人)。

(14)  訴外会社が被告会社の電気設備に省電王という名称のトランスを設置した後も力率は93パーセント程度であって改善はみられず、また被告会社の電気料金が減少したということもなく、さらに訴外会社は、蛍光灯安定器をインバーター式安定器に交換する工事は行わなかった(乙4、14、被告●●●本人)。

(15)  被告会社は、平成14年7月26日付の書面で、被告会社と訴外会社との間の契約について、力率は94パーセントにとどまり契約内容とされた力率を履行しておらず、設備工事の一部も行っていないことを理由として、契約を解除する旨の意思表示を行い、上記書面は、同月29日に訴外会社に到達した(乙13の1、2)。

2  判断

(1)  購入者と販売業者との間の売買契約が販売業者の債務不履行を原因として解除された場合には、あっせん業者において販売業者の債務不履行に至るべき事情を知りもしくは知り得べきでありながら立替払を実行したなど債務不履行の結果をあっせん業者に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り、購入者が債務不履行を原因とする解除をもってあっせん業者の履行請求を拒むことはできないものと解するのが相当である(購入者と販売業者との間の売買契約が販売業者の商品引渡債務の不履行を原因として合意解除された場合について、同旨を述べるものとして最判平2.2.20判例タイムズ731号91頁参照)。

(2)  これを本件についてみると、被告●●●は平成13年10月4日の電話確認の際には「これは省エネシステム一式と書いてあるけれども、商品を買うのではなく、省エネ効果を買うものです。したがって、効果が確認できなければ支払えないし、効果を確認してからの支払いになります。」という内容の話をしていること、被告●●●は同月18日の電話確認の際にも「効果が確認できなければ支払わない。」という内容の話をしていること、被告●●●は平成13年11月9日ころに原告のカスタマーサービス部門に電話をして「訴外会社との間の契約は債務不履行となりそうなので、支払は停止します。」という内容の話をしていることからすれば、あっせん業者である原告が債務不履行に至るべき事情を知り得べきでありながら平成13年11月20日に立替払を実行したものであるというべきであって、債務不履行の結果を原告に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情が存在するものということができる。

第4結論

以上によれば、原告の請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山本剛史)

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