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新潟地方裁判所長岡支部 平成7年(ワ)287号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金九一万円及びこれに対する平成七年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  はじめに

本件は、レストラン経営者が、紅茶の業務用パック詰め紙製容器の注出口に付いているプルリングを引いて開封する際に、プラスチック製の注出口が鋭利であったため、開封の際にこれを押えた左手親指を、右紅茶購入開始の平成五年七月以降、平成七年七月七日までの間、合計一〇回負傷したとして、右容器入り紅茶の製造会社と、右容器の製造会社の両社に対し、製造物に欠陥があり、欠陥製品を製造した両社には重大な過失があるとして、民法の共同不法行為及び製造物責任法三条に基づく損害賠償を請求している事案である。

二  前提となる事実

1  当事者

(一) 原告は、エレクトロニクスメーカーのエンジニアとして一五年ほど勤務した後、平成三年から、新潟県南魚沼郡大和町内でレストラン「a」(以下「原告レストラン」という。)を開業し、平成五年七月から、新潟県長岡市内の株式会社b長岡支店の販売店から紅茶の業務用パック詰め商品である「○○ストレートティー無糖一リットル」を継続的に購入して多数回使用している(以下、原告が継続して購入した右紅茶商品を「本件商品」と総称し、その紙製容器を「本件容器」と総称することとする。)。

原告は、平成七年七月七日、原告レストランにおいて、本件商品の納入を受け、そのうちの一個(検甲一)の注出口のプルリングを引いて開封した。

(原告本人、甲八の二、甲一五、甲八二、平成八年三月一九日付け検証)

(二) 被告Y2株式会社(以下「被告Y2社」という。)は、本件容器を製造して来た会社であり、被告株式会社Y1(以下「被告Y1社」という。)は、本件容器を使用した製造物である本件商品を製造する会社である。

(甲八の一、平成八年三月一九日付け検証)

2  本件商品に使用される本件容器の構造

(一) 本件容器は、容量一〇〇〇ミリリットル、円筒形の注出口付きのいわゆる「紙パック」である(別添写真1、2参照)。

(二) 注出口は、プラスチック製の直径約一・九センチメートル、高さ約〇・九センチメートルの円筒で、同質のプルリングで密閉されていて、開封後はネジ式キャップで蓋が閉まる構造である。

(三) プルリングは、直径一・五センチメートルの輪と厚さ約一ミリメートル、直径一・四センチメートルの円形の蓋を幅約二ミリメートルの柱で結んでおり、蓋と柱の接合部分は、円から出っ張っていて、引き出した後の同位置は、本件容器の個々の製品ごとに一定しておらず、時計の二時、四時、八時の各方向にばらつきがある。

(平成八年三月一九日付け検証)

三  原告の主張

1  原告は、平成七年七月七日、前記二1記載のとおり、原告レストランに納入された本件商品のうちの一個(検甲一)の注出口上端部を左手親指で押さえ、注出口のプルリングを右手人差指で引いて開封したところ、この動作により、左手親指裏にカミソリで切ったような状態の円弧状の傷(長さ約一五ミリメートル、深さ一、二ミリメートル程度)が発生した。

この傷の形状は、本件容器の注出口の円周とぴったり一致しており、本件容器のうちの一個(検甲一)によって原告が受傷したことを示しているが、傷の程度は、発生から二日間は鮮血が止まらず痛みを伴い、治癒して原告の業務に支障を来さなくなるまで七日間程度を必要とした。

2  本件容器による同様の怪我は、平成五年七月以降平成七年六月末まで原告に九回発生している。

原告は、従前は、怪我の原因を突き止められずにいたが、右1の日の受傷前は、他の作業を行っておらず、本件容器が怪我の原因と判明した。

3  原告は、本件容器及び他社の類似容器に関する形状分析、部品形状分析、製造方法分析、材質分析、射出成型金型構造分析、量産ばらつき分析、流通経時変化分析、開封動作分析等を行い、以下の結論に到達した。

(一) 本件容器の注出口上端部外側には鋭利な刃物状のエッジ形状が存在し、面取り加工等が施されていないが、注出口の材質は堅くなく、右形状も小さくて見えにくいから、上端部を指で押さえる心理的抵抗はない。

(二) そして、本件容器のうちの一個(検甲一)のプルリングのリング部分と注出口とを結ぶ細長い部分の根元の位置は、たまたま、注出口の円周上四時の位置にあったが、この細長い部分の肉厚が薄く補強用リブもほとんどない形状で強度が弱いため、原告は、立った姿勢で、左手親指を注出口上端部の六時の位置へ無意識に当て、調理台の上に置いた本件容器のプルリングを引っ張らざるを得なかった。その結果、押さえていた左手親指が、注出口上端部外側の円周に沿って、六時から四時の位置まで自然に移動して右1、2のとおりの怪我を負った。

(四) 以上のとおり、人間の皮膚が接触する部分については、突起物やエッジ状の構造にすることは本件製造物の使用上の安全性を考慮すれば許されず、曲面形状や面取り加工等を施すことが、設計及び製造上最低限必要な事柄であるにもかかわらず、重大な過失により、被告らは欠陥商品を製造して来た。

(五) 本件訴訟提起後、被告Y2社は、本件容器の注出口上端部外側の形状を平成八年四月ころまでに、まるみのある形状に変更し、製品改良を行っているが、これは、被告らが右欠陥を自認したものというべきである。

4  原告は、右記1、2の怪我により、以下の損害を受けた。

(一) 治療費 一万円

(一回につき、一〇〇〇円の止血用薬品及び絆創膏等の代金一〇回分)

(二) 営業逸失利益 三五万円

(怪我による作業効率の低下、客数を制限せざるを得なかったことによる損失、一回の怪我につき三万五〇〇〇円の計算で一〇回分)

(三) 慰藉料 五〇万円

(四) 訴訟準備費用 五万円

(弁護士相談料、製造物責任関連書籍購入等の費用)

合計 九一万円

5  以上のとおり、本件容器の形状が危険なこと、原告が通常予想される使用形態で本件容器を開封したこと、その後本件容器の製品改良がなされていることから、本件容器及び本件商品には、設計上及び製造上の欠陥が存したことは明らかで、被告らは、原告の前記2の怪我については、民法七〇九条、七一九条により、平成七年七月一日以降に引き渡された本件容器のうち一個(検甲一)による前記1の怪我については、製造物責任法三条、民法七〇九条、七一九条により、原告に対し、連帯して前記4の損害賠償の責任が存する。

四  被告らの反論

1  原告の受傷について

(一) 原告の苦情申立てにより、被告らの関係者が平成七年七月八日原告の怪我を確認した際、原告の左手親指にはバンドエイドが巻かれており、それを外すと、ふやけた指に長さ約一センチメートルのほぼ直線の筋があり、出血はなく、バンドエイドに血がついていなかった。

(二) 原告は、怪我すべてについて、その発生時点では気付いておらず、事後的に考えて本件容器が原因と推測しているが、レストランでの料理等の調理、パフェ等のデザート作成作業、皿洗い等の多岐にわたる作業の際、左手親指裏を使用するのだから、日常のありとあらゆる場面で右と同種の怪我をする可能性があるのであって、本件容器によるものとはいえない。

2  本件容器及び本件商品の欠陥の有無について

(一) 本件容器の注出口は、全体がポリエチレンの素材で製造され、弾力性に富み柔軟な素材であり、液だれを防ぐために液切り形状になっており、鋭くはなく、原告主張の開封方法により受傷することは考えられない。

(二) 仮に、受傷していたとしても、原告の本件容器の開封方法は一般人の行うものでなく特異なやり方で、不自然かつ不衛生なものであるから、通常予想される使用形態で生じたものではない。

(三) 本件容器の形状変更は、本件容器の欠陥を自認したものではなく、一般消費者からの苦情対応に非常に神経を尖らす被告らの顧客らから、本件同様の訴訟を提起されることを回避したいとの強い要請を受けて、営業政策上の配慮から、平成八年三月から六月にかけて従来の金型に改良を加え、注出口上端部を斜めに盛り上げたもので、液切り形状に変更はない。

(四) 本件容器は、昭和六〇年ころから販売され、その累計の生産数は、一億五〇〇〇万個以上にも達しているが、原告主張の如き受傷の報告例はない。

3  製造物責任法の適用について

製造物責任法の施行日は、平成七年七月一日であり、同日前に引き渡された製造物について同法の適用はない。

被告Y2社は、平成七年五月一八日以前に本件容器のうちの一個である検甲一を製造し、その後被告Y1社にこれを引き渡し、被告Y1社は、検甲一に紅茶を注入した本件商品を、遅くとも平成七年六月一七日までに和歌山工場から出荷し、そのころ、前記二1(一)記載の長岡市内の販売店に引き渡した。

よって、平成七年七月一日以降に引き渡された本件容器のうち一個(検甲一)による前記三1の怪我については、被告らに対しいずれも、製造物責任法の適用がない。

第三争点

1  本件容器及び本件商品に対し製造物責任法の適用があるか

2  本件容器により原告が受傷したか

3  本件容器及び本件商品の欠陥の有無、被告らの共同不法行為の成否

第四争点に対する判断

一  製造物責任法適用の可否について

1  製造物責任法(平成六年七月一日法律第八五号)の附則一項は、同法の施行期日等に関して、「この法律は、公布の日から起算して一年を経過した日から施行し、この法律の施行後にその製造業者等が引き渡した製造物について適用する。」と規定しているから、本件容器及び本件商品が同法の公布日から一年を経過した平成七年七月一日以降に引き渡されたことが、同法適用の前提となる。

ところで、右にいう「引渡し」とは、製造業者等が自己の意思に基づき製造物の占有を取引の相手方に移転して、欠陥のある製造物の危険性を現実化させることをいい、一個の製造物の製造に複数の製造業者等が関与している場合には、その個別の業者ごとに、製造されたものを引き渡した時期を具体的に特定して、その責任(引渡し)の有無を確定すべきものであり、消費者が販売店から製造物を購入した時点が一律に製造業者等からの引渡しと認められるべきものではないと解するのが相当である。

2  そこで、本件容器及び本件商品のうちの一個である検甲一の引渡しの時期を検討する。

(一) まず、平成八年三月一九日付け検証の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告が受傷したとする検甲一の最上部表面には、「95・05・18 製造」の、その側面には、「製造者 株式会社Y1」の各印字がある。

(二) 証人Cの証言によれば、検甲一は、本件商品として、被告Y1社の和歌山工場で右(一)の日にちに製造されたものであり、在庫としては、同工場の翌月一五日製造分と併存していたことがあるが、同社では、製造年月日の古いものの順番に出荷する「先入れ先出し」の方式を厳守していることから、その在庫を管理するため「和歌山業務在庫日報」(乙一三)の記載により、右(一)の製造日の本件商品は、同社の大阪工場に送付されて、同工場から、以下のとおり新潟県長岡市内の販売店に出荷、納品されたものと認められる(乙一〇)。

(1) 平成七年六月一九日納品(出荷日同月一七日)

一二〇個 (乙一一の一の一、二)

(2) 同月二三日納品(出荷日同月二二日)

一二個 (乙一一の二の一、二)

(三) また、乙一一の三の一、二の記載によれば、平成七年七月六日右和歌山工場から出荷され同月七日右販売店に納品された本件商品一三二個があること、甲八二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は同販売店から同日本件商品のうち四個を購入していることが認められるが、前記(二)の「和歌山業務在庫日報」(乙一三)から判断すると、これらは、同工場の同年六月一五日製造分以降のものであると推認され、検甲一は含まれていないものと結論付けられる。

(四) なお、「和歌山業務在庫日報」(乙一三)の体裁、内容、さらには証人Cの証言、陳述書(乙一〇、乙二一)によると、前記和歌山業務在庫日報には、生産本数と出荷本数の齟齬や数量の計算誤りが散見されるものの、同日報は、被告Y1社が大阪工場と和歌山工場の二箇所から製品を出荷するために、前記「先入れ先出し」の方針を実行するために業務の通常の過程で作成された書面であるものと認定でき、この目的の根幹にかかわる製品の在庫の有無に関しての記載には高い信用性があると認められ、右誤記はその信用性に疑念を生じさせるものではない。

(五) よって、原告主張の平成七年七月七日の受傷に係る本件容器のうち一個(検甲一)は、本件商品として、同年五月一八日、被告Y1社の和歌山工場で製造され、その後前記第二の二1(一)記載の販売店を通じて原告に納入されたものであり、その引渡しの時期については、弁論の全趣旨により、被告Y2社が本件容器として同日以前に被告Y1社に引き渡し、前記(二)(三)の認定により、被告Y1社が本件商品として同年六月中に同販売店に引き渡したことが明らかである。

ならば、被告らの検甲一の引渡し時期は、いずれも製造物責任法の施行日である平成七年七月一日より前である帰結になるから、本件容器のうち一個(検甲一)の欠陥に関する被告らの責任には、製造物責任法の適用がないと判断される。

二  原告の受傷について

1  まず、平成七年七月七日の原告の受傷につき検討する。

(一) 原告の供述内容の骨子

(1) 私は、平成七年七月七日午前一一時過ぎから一一時半ころの間、レストランで、本件容器のうちの一個(検甲一)の開封をして、その容器中のアイスティーを、業務用冷蔵庫で同アイスティーを保管する容器に詰め替える準備をしていたところ、鋭いナイフとかメスでスパッと切ったような円弧状の切り傷が左手親指裏にできて、血がだらだらと流れ出た。

(2) 右の怪我は、本件容器の開封作業をした二、三分後に気がついた。当日はたまたま本件容器の開封作業しかやっていなかったので、最初は、内側のプルリングのリングかなと思って、色々調べたが、違うなという形で、たまたま本件容器の外側のところを触ったら、鋭いエッジがあり、その形状と傷口がぴったり合ったので本件容器で怪我をしたとわかった。怪我に気付いた時点で、具体的にどのような作業をしていたかは記憶がない。

(3) 翌日、被告ら関係者が来訪した際に、怪我の状況を確認して貰ったが、「診断書は取らなくていいですね。」と言うと、「結構です。」と言われたので、医者に行かず、診断書を取らなかったが、同月一一日夜に、朱肉に左手親指裏を押し付けて、紙面にその指印を採取したものが、甲一一(以下「朱肉指印」ともいう。)である。

(二) 右原告の供述の検討

(1) まず、原告レストランの従業員や、その取引先の株式会社bのDは、右七月七日に、原告からカミソリで切ったような円弧状の傷を見せられて確認したと述べているし、翌日、原告からの苦情処理に訪れた被告Y1社の従業員Eも、一センチメートル位の直線の筋を原告の左手親指裏に見た旨述べているから、原告が、右七月七日に受傷したと述べる部分は、受傷した事実があったという限度では少なくとも信用できると判断される(甲三一、六〇、六一、乙二二、証人E)。

(2) 次に、原告は、右受傷が本件容器の注出口によるものであることは、注出口外側の円周の形状と、右傷が一致することから明らかと主張している。

(3) しかし、鑑定の結果によれば、鑑定人Fは、「甲一一の切創様の痕跡は、いずれも末端から約三ミリメートルについては、ほぼ直線状で、それよりやや外方すなわち小指方向に約一〇ミリメートル内外延びている部分は、極めてわずかながら内方に向かって突の弓状の湾曲があるが、全体の走行が円弧を呈していると称することは出来ず、甲一一の痕跡と本件容器の注出口の形状が一致することを肯認できない。」としている。原告は、受傷直後の傷口と五日後の痕跡は同じでないとしてその前提に反論するが、後記(4)説示のとおり同鑑定人の判断結果に疑念を差し挟む余地は認められない。

(4) 証人Fの証言によると、同人は、法医学者として東京大学等で多年の実務経験を有するものであり、その学識、実務経験によれば、原告の提出する甲一一は、受傷後約五日後に採取されたためか不明瞭なところがありそもそも鑑定資料の価値としては高くないが、医学的には、受傷後五日程度で傷跡のカーブが大きく変化することはないこと、甲一一を原告主張のとおり、本件容器による受傷の痕跡であると仮定すると、その長さがかなり長いことから、深さもかなり深くなる可能性が出ることから、原告の左手親指裏に現在も痕跡をとどめても不自然ではないので、これを直接検査したところ、原告が受傷したとする位置に何らの痕跡をとどめていないこと、指の皮は厚いので、表面上の浅い傷であれば、絆創膏等で止血すれば、通常数日で痕跡を残さず治癒するものであり、それ以上の傷であれば、受傷時に疼痛がなく違和感だけであることは理解困難で、結局原告の前記(一)(2)の推論及び本件容器により受傷した旨の原告本人の供述は、医学的な観点から、全体として矛盾があるとするが、その鑑定の手法、内容、推理過程は、いずれも自然で合理的であり、本件容器の注出口の形状は真円で、甲一一で記録されている受傷の痕跡の形状とは異なっていることが、乙五、三〇により明らかで、甲八九によっても同一の形状であることは認められない客観的な事実とも一致していて十分信用できると判断される(鑑定)。

(5) 以上の認定事実によれば、朱肉指印(甲一一)からは、本件容器のうちの一個(検甲一)によって原告が受傷したことを推認することはできないと判断される。

(三) 本件容器の注出口の形状及び安全性について

(1) 本件容器の注出口は、厚さ一ミリメートル足らずのプラスチック製で、注出口上端部は平らになっていて、その外周はわずかに外側に薄く飛び出ているものと認められる(平成八年三月一九日付け検証)。

(2) 鑑定人Fは、右の点につき「外周の薄く飛び出ている周縁部分は、ごくわずかながら底側に向かって湾曲しているように見え、液だれ防止目的と理解できる。注出口は、全体が性状的にかなり柔軟で弾力性を有し、鑑定人が指腹を押し当てると容易に湾曲する。さらに、指腹を外周に沿って擦過移動させてみるとほぼ滑らかに接触し、鋭利なエッジ状の形態を有するものとは認めない。拡大鏡で観察しても、概ね鈍円な形状を呈している。」とし、種々の検討の結果、原告主張の受傷を生ずる可能性は先ずないと判断している(鑑定)。

(3) これに対し、甲八八のB(本件容器注出口切断面の拡大写真)、八八の三(同三〇倍の顕微鏡写真)を見ると、注出口の上端部の形状が原告主張のとおりであるかにも理解できないではないが、右各写真は、一断面に過ぎず、上端部の全周をそのまま示すものではないこと、本件容器は裁断して形成されるものではないので、そもそも角(エッジ)がない状態であると判断される(証人F)。

なお原告は、検甲一が裁判所に保管中か鑑定人の許で、鋭いエッジ形状を失ったものではないかと疑念を投げかけているが、そのような事実を本件全証拠及び当裁判所に顕著な事実から認めることはできない。

(4) ところで、本件容器の形状の安全性について、被告Y2社は、本件訴訟が提起される前の平成七年八月二八日に社内モニター(成人女性二名、成人男性五名)で実験を行っているところ、その結果は、実験条件とされた、冷蔵温度、開封の際の指の当て方、指がふやけた状態等の如何によっては、「少し痛かった」「跡が強く残った」などの結果が出ている(乙一)。

(5) 右(4)の実験により、被験者が時に痛覚を訴え、跡が強く残った状況であったことを考えると、親指皮膚が切れる可能性が考えられるところ、株式会社総研の被告Y2社に対する平成九年三月五日付け「カートンパッケージの開栓に関する調査結果報告書」(被験者四一歳ないし四五歳男性三〇名)の実験結果等では、受傷の結果は生じていない(乙二三、二四)。

(6) これに対し、甲七七ないし七九によれば、平成九年九月一〇日、原告のレストランに勤務する女性が本件容器の開封作業により右手親指を切創したと主張して全治五日間の医師の診断を受けていることが認められる。

(7) しかしながら、被告Y2社は、本件訴訟提起後、平成八年三月から六月にかけて、本件容器の注出口の製造工程の成形金型を変更しその形状を変更していることが認められるから、右女性の受傷は、少なくとも原告の受傷したとされる本件容器と同一ではないし、その傷の部位、形状も原告主張の傷とはかなり相違しているから、右(6)の事実から本件容器の受傷可能性を推認することはできない(検甲六、甲一八、弁論の全趣旨)。

(8) さらに、被告Y2社は、本件容器と同一種類の製品の縁の鋭さの測定により、人が怪我をする潜在的な可能性があるか否かを、米国の民間で行われている製品安全性認定規格であるアンダーライターズ・ラボラトリー・インク(以下「UL」と称する。)の規格の一四三九番に基づき、「シャープ・エッジ・テスト」を平成八年一一月一日実施している。その結果、皮膚に相当するセンシング・テープ(テスト器具であるシャープ・エッジ・テスターに貼付)には、傷付きや擦過痕が形成されず、怪我の潜在的な可能性を否定するものであった。乙二八によればULの規格は事実上の強制規格として米国で広く受け入れられているもので、乙一六、一七によれば、右テストが「開口部、枠、ガード、ノブ、ハンドルもしくは類似の器具又は装置の縁」に適用されるものとされ、直線形状、曲線形状を問わず適用されるものであることが明らかであり、対立当事者の私的実験であること、国民生活センターから同センターの実験方法とは全く関連がない被告Y2社独自の実験であると異議苦情の申立てがなされた(甲五九、乙一四)ことを考慮しても、この実験の手法と結果自体に疑いを抱かせる特段の事情は認められず、右結果は採用できると判断される(乙一五ないし一七)。

(9) また、被告Y2社が、本件訴訟提起後、本件容器の成形金型に改良を加えたことは当事者間に争いがないが、これを、被告らが本件容器の危険性を認識した間接事実と認めることは相当ではないと判断される。なぜならば、被告Y2社は、前記(4)の結果により本件容器の注出口の開封による侵害は起き得ない結論に達したとして、平成七年九月二八日ころ、内容証明郵便で原告に対し、その損害賠償請求を拒絶する旨回答しているところ、右金型変更のなされた平成八年三月から六月以前に、被告らが、前記(4)以外のモニター実験や外部委託調査等の手段により本件容器の安全性検査を実施したことがないことは、前記認定事実から推認される。そして、平成八年四月二四日時点までに、被告Y2社は、液切り形状の注出口を昭和六〇年以降累計で一億五〇〇〇万個以上出荷し、それまで原告の申出以外の受傷例を把握していないと認められる(乙二ないし四、弁論の全趣旨)。そうだとすれば、被告らとしては、本件製造物が危険であるとの認識を有する客観的な契機や資料を得ていなかったことになる。これに加え、本件訴訟後になされた前記(8)の検討結果によれば、本件容器には怪我の潜在的な可能性のある鋭利なエッジ形状が認められない。従って、被告らの右改良は、本件容器の安全性の欠陥を自認しての行動ではなく、安全性があることを前提にしつつ、別途顧客対策の観点からなされたものと理解できる。

(10) 以上によれば、本件容器の注出口につき、鋭利なエッジ形状が存在する事実は認められず、同注出口により、人の手指に怪我が発生する潜在的可能性を認めることもできない。

2  原告の平成七年七月七日より前の怪我について

(一) 平成五年七月以降平成七年六月末までの間に、本件容器で原告が左手親指裏を合計九回受傷したとの主張については、これに沿う原告本人尋問の結果があり、甲三〇、三一もこれを補強している。しかし、右関係証拠により原告が、左手親指裏を受傷した事実については、これを推認できるが、その原因が本件容器であったことについては、個別的に的確な主張、立証がない。

(二) 即ち、右原告本人尋問において強調されているのは、平成七年七月七日の受傷が本件容器の「欠陥」に基づくものであると気付き、これまで原因不明であった右各受傷が本件容器の欠陥によりもたらされたと悟った旨の内容であるところ、その推論の前提とされた同日の受傷と本件容器のうちの一個(検甲一)の「欠陥」との因果関係は、前記1認定及び説示のとおり明らかでないと判断される。そして、原告本人尋問の結果によれば、レストラン業務につき、原告が親指裏を使用する作業は沢山あって、これまでの怪我の原因は原告自身色々調査したがいずれも従前不明であったことを認めている。

(三) 以上によれば、原告の従前の怪我について、本件容器の開封作業から生じたものであるとの原告本人尋問の結果部分は信用性に乏しくいずれも採用できない。

3  まとめ

原告の主張は、その主張の日時ころ、レストラン業務に従事中、絆創膏を巻いて手当をする必要がある程度の怪我が生じた限度では認めることができるが、右怪我と本件容器との関連性、因果関係についてこれを認めるに足りる証拠はなく、本件容器により原告が受傷したとは認められない。

三  以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の被告らに対する本件各請求は理由がない。

(裁判長裁判官 大谷吉史 裁判官 山本剛史 裁判官 樋上慎二)

<以下省略>

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