大判例

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新潟地方裁判所長岡支部 昭和25年(ワ)8号 判決

原告 塚本やゑ

被告 藤木一郎(いずれも仮名)

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金十万円及び内金五万円に対し昭和二十四年十月一日から、内金一万円に対し昭和二十五年二月一日から、内金一万円に対し同年三月一日から、内金一万円に対し同年四月一日から、内金一万円に対し同年五月一日から、内金一万円に対し同年六月一日から各完済に至るまで年五分の割合の金員を支払うこと、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は被告方へ後妻として昭和十二年六月嫁ぎ、以来家業である料理営業に専心励んできたのであつたが、昭和二十四年五月頃から夫婦の間不和となり結局双方の親類及び被告の友人等が仲に入つて同年七月二十三日離婚することに話が決まり、その際原告が結婚以来十数年間被告家で料理営業に努力したため家計も豊かになつたので民法第七百六十八条所定の離婚に因る財産分与の趣旨で被告から原告に対し金十五万円を分与することとし、内金五万円は同年七月二十五日、内金五万円を同年九月末日、内金五万円を昭和二十五年一月から五月までの間毎月末日に金一万円づつ支払うことを約し双方の親族等もこれに立会い契約書を作成した。そして被告は原告に対して離婚の届出を求めたので同年七月二十八日その届出をしたが、右契約金は同月二十五日に金五万円を支払つただけで残金は如何に請求しても応じないので右残金及びその支払期日の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による遅延利息の支払を求めるため本訴に及んだと陳述し、なお被告訴訟代理人の主張に対し本件契約金は原告が長年被告家に尽したことに対する民法第七百六十八条に基く分与金で、その外の何物でもない。被告は原告が夫婦間の勤めができぬと称して離婚したというが、性生活だけが婚姻の全部でもなければそれができぬことのみが本件離婚の原因でもない。被告の主張は原告が肉体的に性交能力の欠如を原因として離婚を求め、被告も承諾したことが後日これが虚偽であつたことが判明したから詐欺にかかつた離婚と主張するが如き観があるが、このような考え方は女性を男性の性生活の対象とのみ考えるものであつて事情の如何を問わず何等の意味もない。従て離婚を原因とする財産分与としての本契約金の支払義務を免れることはできない。又原告が被告から七万六千四百円相当の物品を盗み出したとの被告主張は否認すると述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中その主張の日時に原告と被告とが結婚し離婚したこと、その主張のように金十五万円を支払うことを約し内金五万円を支払いその余を支払わないことはいずれも認めるが、次の理由により原告の請求に応ずることはできない。即ち原告は被告と昭和二十四年五月頃から不仲になつたと主張するがそのような事実はなく、原告は昭和二十四年七月二十日実兄塚本武夫、姉木村美代、その夫木村信男を被告方に集め被告に対し離婚の申出をしたがその理由として原告は身体の障碍から夫婦の勤めができないから自由の身にして欲しいというのであつた。被告はこの申出が全く突然であり被告は原告と離婚することは夢想だもしていなかつたのであるから幾度か再考方を申出でその飜意を促したが遂に聴き容れず止むなく同月二十三日離婚することを承諾したのである。次いで原告は被告に対し手切金の要求をしたので被告は原告が真実身体の障碍から妻として被告と同居するに堪えないものと信じたので金十五万円を贈与する契約をして、内金五万円を支払つたのである。ところが原告が離婚並びに手切金要求の理由にした身体障碍のため被告と同居するに堪えないというのは全く虚構の事実で、原告は被告不知の間にひそかに情夫を持ちこれと愛慾を恣にしようと予め被告所有の動産約金七万六千四百円相当のものを盗み出した上右の如く被告を欺罔したものである。勿論被告は原告のこのような事実を知つておれば金十五万円の贈与を約する筈なく、現に原告は昭和二十年中被告方の下宿人と懇ろとなり半歳も家出した事実があり、その際は若し斯様なことが再びあつた場合には原告は被告に金三万円を支払うべき旨約しあつたものである。右の次第で被告が原告と昭和二十四年七月二十三日締結した本件贈与契約は原告の詐欺に基く意思表示であるから被告は昭和二十四年九月三十日その取消の意思を表示したのである。よつて原告の本訴請求は失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告と被告とが昭和十二年六月婚姻したこと及び昭和二十四年七月二十三日離婚することを約し、その際被告から原告に対し金十五万円を支払うことを約し、内金五万円をその頃支払つたこと、同月二十八日離婚の届出をしたことは当事者間に争がない。

又原告が被告に対し身体が悪く夫婦の勤めができないから離婚し度いと申向け、被告は幾度か再考を求めその飜意を促したが原告がこれを聴き容れず止むなく被告が承諾したこと、右原告のいう離婚理由は虚偽で真実は原告が他に阪東某という情夫と懇になりこれと同棲するため離婚を申出でたものであること、被告は右の事実を後に知り昭和二十四年九月三十日頃原告に対し前記十五万円の贈与契約は原告の詐欺に基く意思表示であるとしてこれを取消す旨の意思表示をしたこと、以上三点はいずれも原告が争わないところであるし、証人小山英雄(第一、二回)、木村俊介、村上良信、田上二郎の各証言及び被告本人の供述とによりこれを十分認めることができる。

次に本件十五万円の支払契約が民法第七百六十八条所定の離婚に因る財産分与の性質のものであることは原告のその旨の主張に対し被告の争わないところであるのみならず前記各証人の証言と被告本人の供述とにより認められるのである。そこで問題は原告が被告に対し真実は情夫と将来同棲するため被告と離婚を欲するのであるにかかわらずこの事を秘して表面は自己の身体に障碍があつて夫婦の勤めができないからと偽つて離婚を申出で、被告はこれを信じ離婚を承諾しこれに基き為された被告の財産分与の意思表示は詐欺に因る意思表示として取消すことができるかどうかの点である。この点につき考察するに、離婚に因る財産分与は民法第七百六十八条において一次的には当事者間の協議に任せ、この協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは当事者の申立により家庭裁判所が審判することと定められており、この審判をするに当つては当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮して分与をさせるべきかどうか、並びに分与の額及び方法を定める旨規定されている。この規定の趣旨から考えると離婚の動機原因は分与の可否、額、方法を定めるについて斟酌すべき事項であることは明らかである。ところで本件の場合原告に情夫がありこれと同棲することが離婚の動機原因であることを被告が知つていたとするならば被告は離婚には応じたであろうが、本件十五万円を支払うべき旨の契約を為さなかつたであろうことは被告の供述によりこれを認定することができる。即ち被告は原告の前記虚構の申出を誤信して本件契約を締結したものであるから被告がこれを取消したことは正当であると断じなければならない。(但し、被告が原告に財産分与を為すべきかどうか及びその額については本訴訟において判断する必要はない)よつて原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井重与)

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