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新潟地方裁判所長岡支部 昭和59年(ヨ)19号 1984年10月30日

債権者

横山富彦

右訴訟代理人弁護士

坂上富男

債務者

日本国有鉄道

右代表者総裁

仁杉巖

右訴訟代理人弁護士

宮下勇

右訴訟代理人

小笠原研英

松田均

主文

一  本件申請を却下する。

二  申請費用は債権者の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

第一債権者の申請の趣旨

債務者が債権者に対し昭和五九年二月二四日付で、発令日付を同年三月一日付としてした「長野駅運転係を命ずる。長野地区要員センター所員に指定する。飯山駅在勤を命ずる。」旨の意思表示の効力を停止する。

第二債務者の答弁

主文同旨

(当事者の主張)

第一債権者の申請理由

一  債権者は、新制中学卒業後二年後の昭和三四年七月一日、債務者の長野鉄道管理局の塩尻駅の試用員に採用され、同年九月一日職員となり、同三六年一二月一五日十日町駅連結手、同五五年三月二八日同駅運転係となって今日に至り、自宅から十日町駅に通勤して勤務してきた。

二  長野鉄道管理局には、職員約七〇〇〇名中、国鉄労働組合(以下「国労」という。)員は約五八〇〇名、鉄道労働組合員は約四〇〇名、その他の組合員は約一〇〇〇名程度がいる。

十日町駅職員二五名中、国労組合員は一七名、鉄道労働組合員は二名おり、他は管理者で非組合員である。

債権者は国労長野地方本部東北信支部十日町運輸分会(以下「十日町運輸分会」ともいう。)に所属し、昭和四三年から同分会執行委員長を務めて今日に至っている。

同分会は、飯山線越後岩沢駅から津南駅までの駅に勤務する職員により組織されており、現在分会員は二四名で、債権者は委員長として同分会を指導して組合活動を積極的に推進してきているものである。

三  配置転換命令

債務者は債権者に対し昭和五九年二月二四日付で、発令日付を同年三月一日付として「長野駅運転係を命ずる。長野地区要員センター所員に指定する。飯山駅在勤を命ずる。」旨の意思表示をした(以下債権者の主張において、右意思表示を「本件配転命令」といい、同命令に係る配置転換を「本件配転」という。)。

四  本件配転命令の無効性

1 協約違反、協定違反による無効

(一) 本件配転命令は、昭和五九年一月二三日長野鉄道管理局と国労長野地方本部との間に締結された「59―2ダイヤ改正による営業関係残余の要員解消に伴う労働条件に関する確認事項」なる協約(以下「本件協約」という。)に違反して無効である。

(1) すなわち、本件協約の第一項では「昭和五九年一月二〇日現在の未登用者については、原則として二月一日付で登用する。」となっていて、同年二月一日付以後同年三月一日付まで発令された三二名の人事異動は、債権者を除き、いずれも本件協約による今回の昇職登用者の登用に当っての異動であり、右登用者ではない債権者をこの時期に異動させることは右協約に違反する異動である。仮に債務者主張のように、当時において飯山駅で運転係が一名欠員であったとするならば、右協約により運転係未登用者を登用して飯山駅に配転すべきであったのであり、右登用者ではない債権者を今回の異動者として異動配転したのは右協約を悪用してなした違法配転である。

(2) また、債務者は、十日町駅において高橋構内指導係が本件協約により昭和五九年二月一日付で運転係に登用されたため同駅の運転係が一名過員となったので債権者に対し本件配転命令をしたと主張するが、本件協約の第一項(2)では「営業係及び運転係登用は現地で年度末登用の繰り上げ実施とする。冬期終了時に属人異動を行う。すべて要員センター兼務とし、現地登用とみなさない。」となっていて、同協約は、年度末に運転係等に退職者が出て欠員が出たとき繰り上げ登用となる趣旨であるところ、十日町駅では年度末に退職者が出る見込はなかったのであるから、右高橋職員を運転係に登用したことは同協約に反するものである。

更に、右第一項(2)の規定で明らかなように、同協約による登用については、年度末において過欠員の異動が行われて過欠の是正がされるものであるので、年度末までは右登用があっても直ちには過員とならないこととなっていて、右高橋職員は右登用後同年三月末には配転されることとなっていたのであるから、この時期に債権者を配転させる必要はなかったのであり、右高橋職員登用による過員を理由とする本件配転命令は同協約に違反するものである。

(二) 本件配転命令は、債務者と国労との間に存する「配置転換に関する協定」(以下「配転協定」という。)に違反して無効である。

すなわち、配転協定によれば「1配置転換にあたっては、地方対応機関において十分協議する。2配置転換にあたっては、次により取り扱う。(1)本人の意向を十分尊重し、意思表示を強要しない。」と規定されているところ、本件配転命令は配転協定の対象となる異動ではないけれども、これが協約の運用に当ってはいかなる立場に当っても国鉄職員として平等な適用がされ、少くともこれに準ずべきものとして適用されることが要請されるのであり、慣行としては本人の意思が十分尊重されてきていたものである。債権者は本件配転により通勤に片道二時間を要するなど生活上重大な不利不便を生ずるもので、場合によっては生活そのものが破壊する虞のあるものであるから、在任期間を限定しその後は本人の希望に沿う職場に転勤させることを約するなど、債権者の事情との調整を計って債権者が新任地に赴任しやすい条件を整えることに努めることは当然であり、今日まで職員を異動させる場合、事前に本人の意向を打診するなどの処置も事実上とられているのが慣行となっていたものを、全く突然、二月二四日内示、三月一日発令という異動発令をなしたものであって、債権者本人や家族に十分な心の準備を与えない最少限度の内示で配転がなされているもので、明らかに協約や慣行に違反するものである。

2 二重処分による無効

(一) 債務者は債権者に対し、本件配転命令と同じ昭和五九年二月二四日付をもって、日本国有鉄道法第三一条により停職三ケ月の懲戒処分通知を発したが、その理由は、処分通知書によれば、

(1) 昭和五八年一一月二五日、十日町駅構内転てつ器の撤去作業に伴う勤務時間中の説明会を拒否したこと、

(2) 昭和五九年一月一〇日一八時二〇分頃、勤務時間中に入浴したこと、

(3) 昭和五九年一月二六日、日勤勤務を連結(c6a)に変更する業務命令を拒否したこと、

というものである(右懲戒処分を以下「本件懲戒処分」という。)。

(二) 本件懲戒処分は無効なものであるが、それはさて置いても本件配転命令は同じく二重の処分であって無効である。

すなわち、債務者は本件配転について部内の簡易苦情処理会議において、「債権者の更生を願い現在まで謹慎させているが、依然として反省の色がなく、十日町駅にいたらいたずらに処分を重ねる虞がある。本件配転は、この際勤務場所を変え、更生を促し、より新たな気持で勤務してもらうための転勤である。」と述べている。債権者は、昭和五九年二月二〇日に発令された定期昇給においても勤務成績不良と称して一号俸(所定では四号俸上がる)減俸されて、賃金上からも処分をされているのである。

これらが二重、三重の処分であることは明白である。今後とも処分を重ねる虞があるとか更生を促すなどは債務者の独断にほかならない。今後処罰に該当する事実があれば処罰すればよいだけのことであって、勝手な予断で配転をさせるなどとは、明らかに二重処罰で公序良俗に反し無効である。

3 不当労働行為による無効

債権者は、国鉄入社と同時に国労に所属し、永年十日町運輸分会の委員長として組合活動を指導し、活発な組合活動をなして今日に至り、組合問題については激しくやり合うこともあるから、管理者から嫌忌されていたものであり、また、右委員長の任期も昭和五九年六月三〇日まであって再任されることは分会員の意思でもあり、分会としては欠くべからざる委員長である。そのような債権者を任期途中で、所属分会を異にする飯山駅へ配転させることは、まさに支配介入、差別待遇の典型的不当労働行為であって公序良俗に反して無効である。なお、債務者は前記1(一)(2)記載の高橋構内指導係を運転係に登用した後同年三月一七日に長野駅要員センターに配転したが、右高橋は当時十日町運輸分会書記長であったものであり、右配転も同分会の弱体化等を狙う不当労働行為の一環にほかならない。

4 慣行違反による無効

本人の希望による以外は生活設計を考慮した通勤可能な所への異動というのが慣行であった。今日までそうした慣行の上に異動が行われてきたので、特段問題は生じなかった。しかるに今回の債権者に対する異動は片道列車通勤に要する時間が二時間以上もかかるという前例のないものであって、従前からの慣行に違反し無効というべきである。

5 人事権濫用による無効

右1ないし4の事由を総合し、更に(1)本件配転は、飯山駅の欠員補充のためといいながらも、本件懲戒処分により債権者が三ケ月間停職のため欠務となることを承知の上でなされたものであって、要員過不足による必要性に基づきなされたものではなく債権者いじめの配転にほかならないこと、(2)飯山駅では運転係の定員が一名欠となっていても、構内指導係の定員が一名過となっていて同係が運転係の仕事を補って作業してきていたものであるところ、債務者は、同駅で構内指導係一名が本件協約により営業係に登用されたため運転係への充当ができず同係が一名欠員となった旨主張するが、右1(一)(2)記載のとおり本件協約による登用による過欠員については年度末に異動がされて是正されることになっているし、この営業係に登用された職員は現実には昭和五九年四月五日まで構内指導係の仕事をそのままやっていたのであるから、本件配転命令当時飯山駅には運転係の欠は出ていなかったし、その補充の必要もなかったこと、(3)飯山駅の運転係が一名欠員だとしても、辰野駅には、飯山市出身で家庭の事情から飯山駅への配転を希望している運転係がおり、当該駅、市町村出身者で遠隔地に勤務している職員は希望により配転するなどの職場慣行があるのに、また、辰野駅は昭和五九年二月のダイヤ改正合理化が行われた関係上前記配転協定の趣旨を尊重して本人の希望どおり同人を飯山駅運転係として配転すべきであるのに、同人を希望と逆方向の塩尻要員センターに配転させて、恣意的に債権者に本件配転命令をしたものであること、(4)債権者が飯山駅へ通勤するには列車で片道二時間を要し、朝は遅れれば二時間後しかなく、帰りは乗り遅れれば列車はなく、冬期間は雪により通勤不能になる場合が多く、飯山線の実態からみて冬期間の通勤は不可能とみるしかないのであるが、このような苛酷な通勤を本人の意に反した配転によりしている者は他にいないこと、(5)通勤でなく単身転居を考えるとしても、債務者が飯山駅で用意している国鉄宿舎は損傷甚だしく人間が住める建物ではないし、債権者の妻は県立十日町病院に看護婦として勤め月収一五万円であり、子供三人はいずれも十日町の学校に通学しており、債権者の手取りは月一六万円であることなどから、別居すれば到底生活できない状態であること、(6)債務者が本件配転命令の理由として挙げる「更生のため」、「環境変更の必要」、「気分刷新の必要」なるものは、およそ配置転換の理由とはなり得ぬものであることなどの事情も考慮すれば、本件配転命令は債務者の甚だしい人事権の濫用によるものであって無効といわなければならない。

五  仮処分の必要性

債権者は配転無効確認の本訴を提起するべく準備中であるが、昭和五九年三月一五日から飯山駅へ赴任せねばならず、誠に急迫した状態であり、組合活動特に十日町運輸分会の運営と活動にも重大な影響を及ぼすことが明らかであるので、本件申請の趣旨どおりの仮処分をする必要がある。

第二債務者の答弁

一  申請理由一は認める。

二  同二のうち、債権者が十日町運輸分会に所属し、同分会執行委員長に就任していることは認め、長野鉄道管理局の職員数は否認し(約七〇〇〇名ではなく、約六五〇〇名である。)、その余は知らない。

三  同三は認める。但し、同三記載の意思表示を「本件配転命令」としているが、同意思表示は、債務者内においては、後記第三の一記載のとおり、配転異動ではなく一般異動による転勤命令に該当するので、以下債務者の主張においてはこれを「本件異動」という。

四1(一) 同四1(一)のうち、本件協約が存在すること、同協約に債権者主張どおりの内容の規定が存在することは認めるが、その余は否認する。

(二) 同四1(二)のうち、配転協定が存在すること、同協定に債権者主張どおりの内容の規定が存在することは認めるが、その余は否認する。

2 同四2の(一)は認め、(二)のうち、債務者が簡易苦情処理会議で述べた内容についてはおおむね認め、その余は否認する。

本件異動は後記第三の二記載の理由からされたものであり、本件懲戒処分とは全く異質なものであって、二重処分ではない。

3 同四3のうち、債権者が国労に所属し、十日町運輸分会の委員長として組合活動を指導し、組合活動をしてきたこと、同分会書記長であった高橋構内指導係を運転係に登用し、長野地区要員センターに転勤させたことは認めるが、その余は否認する。

右高橋の登用は本件協約に基づくものであり、本件異動は後記のように要員需給上の必要性等に基づくものであり、いずれも組合役員、組合活動とは無関係にされたものであって、不当労働行為ではない。

4 同四4は否認する。

5 同四5は否認する。

五  同五のうち、債権者が昭和五九年三月一五日から飯山駅へ赴任せねばならないことは認め、その余は否認する。

第三債務者の主張

一  債務者においていわゆる人事異動は、次の一般異動と配転異動に大別されている。

1 一般異動

年度末に行われる定期異動と、年度途中に発生する事由(死亡、休職、退職、その他要員需給上等)による異動をいう。

2 配転異動

配転協定に基づく機械化、近代化、合理化の実施に伴って生ずる異動をいう。

本件異動は毎月のように行われる一般異動の一つであって、配転異動ではない。

二  本件異動は次のような理由によりなされたものである。

1 要員需給上の必要性

(一) 昭和五九年一月現在において、十日町駅及び飯山駅における運転係の員数は次のとおりであった。

十日町駅 定員四名

現在員四名(過欠員なし)

飯山駅 定員七名

現在員六名(一名欠員)

右のように飯山駅における運転係は一名欠員であったが、同駅では構内指導係が一名過員であったので、この一名を充当して補っていた。しかし、右補充は望ましい形ではなく、運転係有資格者で右欠員の補充をすることが基本であった。

(二) ところが本件協約に基づく昭和五九年二月一日付登用により、十日町駅では高橋構内指導係が運転係に、飯山駅では構内指導係一名が営業係にそれぞれ登用され、これにより十日町駅では運転係が一名過員となり、飯山駅では運転係が実質的にも一名欠員となった。

右高橋は本件協約に基づき冬期明けには異動が予想はされるが、人員の需給の関係より十日町駅に在勤することもあるものである。

なお、本件協約に基づく登用は、債権者主張のように年度末に退職者が出る見込がある場合にのみなされるというものではなく、登用資格のある者をなるべく早く登用するとの趣旨でなされるものである。

(三) 他方、昭和五九年二月一日のダイヤ改正に伴う合理化により、北長野駅では運転係が二名過員となったが、このうち尾身運転係が十日町駅勤務を希望していた。

そして、配転協定によれば、合理化に伴う配置転換(配転異動)については本人の意向を十分尊重し、意思表示を強要しないと定められていたので、尾身運転係を十日町駅に配転する必要があった。なおこの希望は同年一月二四日には既に表明されていた。

(四) そこで債務者は、以上の事情を総合的に判断して、右尾身を十日町駅へ転勤させることとするとともに、これによって生ずる同駅の二名の過員を解消するため、一名は右高橋を長野地区要員センターに転勤させることとし、もう一名については従来同駅勤務であった運転係の中から、後記2のような事情を考慮し、債権者を同要員センター飯山駅在勤としたものである。なお、本件異動において要員センター勤務とした主な理由は、後記2のとおり債権者には従来から執務態度が不良であるなど将来とも運転係を専門に行わせるに足りる適格性に疑問があり、場合により随時特別改札、セールス等他の職務を行わせ、他の職種に対する適性を発見、伸長させるためである。

(五) ところで右高橋、尾身両名の発令は昭和五九年三月二二日の年度末の異動の一環としてされているが、債権者の場合はこの時期に三ケ月の停職になることになっていたので、停職中には発令をしない慣例のためこれを早めてなしたものである。

また、飯山駅勤務を希望する運転係が辰野駅にいると債権者は主張するが、同人は構内指導係であったもので、たまたま債権者に対する本件異動の意思表示(事前通知)がされた同年二月二四日に登用のための試験に合格したものであり、前記三名の異動の計画を組む際には考慮される余地がなかったものである。

2 環境変化の必要性

(一) 十日町駅における債権者の執務態度をみると、例えば、転てつ担当の際、合図用具(旗又は灯具)不携帯のまま作業に出向いたり、管理者の許可を得ないで休憩時間に無断で外出したり、関係職員以外は禁止されている現金取扱場所の無断立入をしたり、保護具無着用のまま作業に就いたり、雨天時の転てつ器取扱に際し雨衣をつけず傘をさして取扱を行ったり、列車入換の際、進路確認粗漏により転てつ器の割出し事故を起したりなどの行為があったほか、冬期間地域住民の協力を得て十日町駅前及び駅構内の除雪を行った際、構内職員であった債権者は除雪には一切手を貸さないなど怠慢かつ非協調的態度をとることもあった。

右の点からみても債権者は、列車運転の安全を確保すべき任務を有する運転係としてもその適格性を疑わしめる行動が多かったばかりか、債務者の職員としてその執務態度は極めて不良であった。また、債権者は管理者の業務上の指示に対し常に反抗的であり、このため十日町駅において業務上混乱を来すことが再々にわたった。

(二) これに対して債務者はその都度注意し、また、昭和五九年一月二七日以降従来の一昼夜交代等の勤務を変更して日勤勤務とするなどの処置をとって、債権者に対し勤務態度の改善を期待したが、効果はなかった。

前記のような事象について処分するとすれば、処分の連続であって単にマイナスにマイナスを重ねるのみである。債権者は、中堅職員として誠実な職務の執行を最も期待される立場にあるものであるから、処分を繰返すことなく誠実な執務態度を引出すことが必要である。

右の事情があったことから、債務者はその方策の一つとして勤務場所を変え、執務環境の変化による気分一新と発奮を促すこととし、本件異動が適切と判断したものである。

本件異動の通告に際し、債権者に対し、その理由として「更生のため」と説明したのも、その真意は右の点にある。

もともと債権者は同一職場における勤務が二二年と長く、いわゆる慣れによる怠慢が生じ、また同僚は先任者に対する遠慮がありこれを改めようとしなかったため、次第に勤務状態が悪くなっていったものであり、このような場合新しい職場で執務することにより、最も自然にまた極めて効果的に誠実な職務の執行を期待することができるものである。

三  本件異動は次のとおり、不当なものではない。

1 債権者は通勤が不可能であると主張するが、長野鉄道管理局において長距離通勤者の実例は多くあって(現に飯山市から十日町駅へ債権者とは逆の通勤をしている例や塩尻駅から長野駅へ等の通勤例もある。)、社会一般においても二時間前後の通勤例は存在するのであり、十日町駅・飯山駅間は通勤可能圏内である。

しかも飯山駅運転係の勤務は一昼夜交代勤務であるため、一ケ月の出勤回数は一〇回前後であるし、要員センター所属であるため勤務操配上通勤時間一時間前後の北飯山駅から足滝駅までの駅間で勤務することもできるのである。

また、長野鉄道管理局管内で運転係の配置されている駅としては十日町駅から一番近い駅は飯山駅であるため、本件異動が許されないときは債権者の異動する所は全くないことになる。

2 更に、債権者が希望すれば国鉄宿舎を貸与することになっている。宿舎は入居希望があれば債務者において検査し修繕することはいうまでもない。

家庭の事情はそれぞれ多かれ少なかれあるもので、一人債権者のみ不利益扱いを与えているものではなく、回復の手段をも講じているものである。

理由

一  申請理由一の事実は当事者間に争いがない。

二  申請理由三の事実も当事者間に争いがない。

なお、債務者は、同三記載の意思表示が配転協定の対象となる配転異動ではないからとして、同意思表示を配転命令と呼称することに異議を唱えているが、債務者内においてそれが配転協定の対象となる人事異動に該当するか否かにかかわらず、同意思表示は勤務場所の変更を伴ういわゆる配置転換命令に他ならないのであるから、以下同意思表示を「本件配転命令」といい、これに係る配置転換を「本件配転」という。

三1  申請理由四1(一)の主張(本件協約違反)について判断する。

(一)  同四1(一)(1)について

本件協約が存在すること、同協約に債権者主張どおりの内容の規定が存在することは当事者間に争いがないが、疎明資料によれば、債務者の行う人事異動は債務者の主張一記載のように分類され、それぞれの事由に応じ適宜なされるものであって、本件協約の趣旨は、昭和五九年二月一日以後同年三月一日までの債務者の人事異動を同協約に基づく登用者の登用による異動のみに限定して他の事由による人事異動を一切許さないとするようなものではないことが明らかであるので、債権者が同協約に基づく登用者ではないとしても、同年三月一日付発令の本件配転命令が同協約に違反することにはならない(ちなみに、長野鉄道管理局では同年二月一日付でなされた人事異動中にも登用を伴わないものがあったのであって、債権者主張の時期において登用を伴わない異動がなされたのは一人債権者のみではないことが疎明資料により一応認められる。)。

(二)  同四1(一)(2)について

本件協約に債権者主張どおりの内容の規定が存在することは当事者間に争いがなく、疎明資料によれば、昭和五九年二月一日付で十日町駅の高橋構内指導係が本件協約に基づき運転係に登用されたことが一応認められるが、疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、本件協約に基づく繰上げ登用は、年度末に退職者が出ることとは直接関係がなくなされるものであると一応認められるから、十日町駅で昭和五九年三月の年度末に運転係に退職者が出る見込がなかったからといって、右高橋の登用が本件協約に違反することにはならないし、後記六判示のとおり本件配転命令は右高橋の登用による過員だけを理由としてなされたものではないから、債権者の主張はその前提を欠き失当である。

2  同四1(二)の主張(配転協定違反)について判断する。

配転協定が存在すること、同協定に債権者主張どおりの内容の規定が存在することは当事者間に争いがない。

ところで、疎明資料によれば、配転協定は機械化、近代化、合理化等の実施に伴って生ずる配置転換を対象とするものであって、債務者内のすべての配置転換を対象とするものではないことが一応認められるところ、本件配転が同協定の対象となるものではないことは当事者間に争いがない(疎明資料によっても明らかである。)。そして、配転協定で「本人の意思を十分尊重」する旨規定されたのは、その対象たる配置転換が右のように機械化、近代化、合理化等の実施に伴うものであるからと解すべきであり、そうであるとすれば、右のような事由によらない一般の配置転換についても同協定を準用すべきであるとする理由に乏しい。

また、一般の配置転換について、同協定に規定されたと同程度に本人の意思を十分に尊重すべきであるとの慣行が確立されていたと一応認めるに足りる疎明資料はない。

なお、配置転換に当って、事前に本人の意向を打診することが仮に慣行になっていたとしても、疎明資料によれば、本件配転命令は、債務者と国労との間に存在する「事前通知及び簡易苦情処理に関する協約」に従って、昭和五九年二月二四日に同年三月一日付の発令が事前通知されたものであると一応認められることも考慮すれば、右事前通知の前に債権者の意向を打診しなかったからといって直ちに本件配転命令の効力が否定されるものではないと解するべきである。

四  申請理由四2の主張(二重処分)について判断する。

同四2の(一)の事実及び(二)のうち、債務者が簡易苦情処理会議でおおむね債権者主張どおりの内容を述べたことは当事者間に争いがない。

しかし、停職処分は、日本国有鉄道法第三一条に基づき、日本国有鉄道就業規則等所定の非違行為があった場合になされる懲戒処分であるのに対し、配置転換は、債務者の人事権に基づき業務上の必要等がある場合になされる人事異動であって、両者はその目的、要件を異にする全く別個のものである。従って、仮に本件配転命令の理由となった事情の中に本件懲戒処分の理由となった非違行為の存在が含まれていたとしても、これをもって本件配転命令が本件懲戒処分と二重の処分になるというものではないし、直ちに公序良俗違反として無効とされる筋合のものでもない。

五  申請理由四4の主張(慣行違反)について判断する。

疎明資料によれば、昭和五〇年以降十日町駅・飯山駅相互間で人事異動により職員の配置転換がされた五件の事例や、昭和五八年四月から同五九年三月までの一年間に配転協定に基づく配置転換によりその配転先が過員となったため一般異動としての配置転換がされた一二件の事例を見る限り、債務者においては配置転換に当っては、本人の希望による以外は、生活設計を配慮して遠くとも五〇分以内の通勤時間の範囲への異動がなされていることが一応認められ、特に反証もないので、過去においてもおおむね右のような配慮で配置転換がなされてきたのが慣行であると一応認められるが、しかし、右慣行が、これに違反する配置転換を直ちに無効とする程の法的拘束力を持つものとして確立されていたと一応認めるに足りる疎明資料はないのであって、右慣行に反する配置転換が絶対に許されないものというべきではなく、その法的効力の有無は、当該配置転換の業務上の必要性等、これにより受ける不利益の程度等をも勘案して、債務者の人事異動に関する裁量権の濫用等の問題として別途考察するのが相当であると解される。

六  申請理由四5の主張(人事権濫用)及び債務者の主張二、三の主張について判断するに、疎明資料及び審尋の全趣旨によれば次の事実が一応認められる。

1  要員需給上の必要性について

(一)  国鉄飯山線の十日町駅及び飯山駅はいずれも長野鉄道管理局管内の駅であるが、昭和五九年一月現在における両駅の運転係の定員、現在員、欠員充当状況は、債務者の主張二1(一)記載のとおりであった。

(二)  本件協約の趣旨、同協約に基づく昭和五九年二月一日付登用による右両駅の運転係定員充足状況の変動も債務者の主張二1(二)記載のとおりである。

従って、十日町駅の高橋構内指導係の運転係登用は、有資格者をなるべく早く登用するとの本件協約の趣旨に沿うものであって、債務者がことさらに十日町駅の運転係を過員とするためになしたものではない。そして、同協約による運転係登用者は冬期終了時(原則として三月一五日だが、昭和五九年は大雪のため三月二二日。)に属人異動により原則として要員センターに配属されることとなっていたので、右高橋も原則的には右時期に転出する予定となっていたが、要員需給の関係上十日町駅に在勤する可能性もないではなかった。

(三)  他方、昭和五九年二月一日のダイヤ改正に伴う合理化により北長野駅における運転係の定員が削減されて同駅に過員が生ずることとなったため、同駅運転係を他に配置転換する必要が生じた。

そして、合理化に伴う配置転換については、配転協定において、本人の意向を十分尊重する旨規定されていたので、同駅運転係に対する転勤希望調査が同年一月一八日から行われたところ、同駅で転勤希望を出したのは尾身運転係のみで、同人は十日町駅への転勤を希望していた。同人の右希望が長野鉄道管理局へ報告されたのは同年一月二四日であった。

右により、同人を十日町駅へ配置転換することが配転協定上要請されていた。

(四)  以上の次第で、昭和五九年二月一日の本件協約に基づく登用及びダイヤ改正に伴う合理化の関係で、十日町駅では運転係が一名一応過員(高橋の登用によるもの)となり、更にもう一名の過員(尾身の配置転換によるもの)が予想される状態となっており、他方、飯山駅では運転係が一名欠員となっていたので、債務者は、右過欠状況を是正するための人事異動として、配転協定に基づき尾身を十日町駅へ配置転換することとするとともに、本件協約に基づき高橋を長野地区要員センターに配置転換することとし、更に十日町駅の従来からの運転係一名を飯山駅に配置転換することとした。

ちなみに、長野鉄道管理局管内において運転係の配置されている駅で十日町駅から一番近距離の駅は飯山駅であるので、十日町駅運転係が転勤するとすれば飯山駅が一番近い転勤先である。

なお、債権者は、飯山駅への転勤希望者として、前記ダイヤ改正に伴う合理化の行われた辰野駅の運転係の存在を主張するが、その職員は債務者において前記配置転換を検討していた時点では運転係ではなく構内指導係であったのであり(飯山駅で従前行われていた構内指導係による運転係充当は、本来あるべき姿ではなく、運転係有資格者による欠員補充が望ましいことは前記のとおりである。)、同人が登用試験に合格して運転係に登用されたのは本件配転命令がなされて後のことである。また、仮に同人により飯山駅の欠員が補充されたとしても、尾身の配置転換による過員の問題はなお残されているから、十日町駅の運転係一名を他に配置転換させる必要がなくなるわけではなく、しかもその場合は飯山駅より更に遠距離の運転係配置駅への転勤となってしまう。

2  人選について

(一)  債権者は昭和五五年三月二八日に運転係となったものであるが、運転係の職務は、列車の組成及び入換、列車運行のための信号装置の取扱い、転てつ器の取扱い等で、列車の安全運転を支える重要な職責を持つものである。

(二)  しかるに債権者の執務態度をみると、少なくとも昭和五七年八月以降についてのものに限っても、次のように、

(1) 分岐器(ポイント)の転換操作を怠ったまま、進路構成完了の合図をしたために、脱線事故につながりかねない分岐器破損事故を起した、

(2) 信号機の取扱いを失念したことが二回あり、内二回目は将棋に夢中になっていたためで、しかも管理者が注意したのに対し、「たまに忘れたからといってそんなに言わなくてもいいではないか。」などと反論した、

(3) 作業ダイヤ上、列車進入、通過に当り分岐器への付添をするべきことになっていたのにこれを怠ったことが二回ある、

(4) 急用ができたからと称して、所属上長の許可を得ることなく無断で外出して自己の職務(信号取扱い)を他の職員に代行させた、

また、休憩時間を過ぎたのに職場に戻っていなかったので、管理者が注意したら、「仕事に影響がないからよいではないか。」と反論した、

食事時間は午前一二時からとなっているのに、勤務時間中である午前一一時一〇分頃食事をしていたので、管理者が注意したら、「休憩時間から今の時間を差引けばよいではないか。」と反論した、

勤務時間中に私用をしていたので、管理者が注意したら、「さっき休まなかったので、今休憩しているところだ。」と反論した、

(5) 作業用安全帽の着用は債務者の内部規程上からも着用が義務づけられているところ、十日町駅においても着用方の指導がなされたにもかかわらず、債権者だけは昭和五八年八月になっても着用せず、更に同年九月に管理者から再三にわたり注意されても応ぜず、同年一〇月一八日からようやく着用するに至った、

(6) 以上は昭和五八年以前のことであるが、昭和五九年一月一〇日には勤務時間中に入浴した、

(7) 昭和五九年一月二四日、他の職員が親族死亡による年休申込をしたため代務者が必要となり、その一環として管理者が、債権者の都合も考慮して、同年一月二六日の債権者の日勤勤務を連結指定のC型勤務に変更する業務命令を出したのに、債権者はこれを拒否して当日の変更勤務に従事せず、やむをえず他の職員が作業を代行した、

などの非違行為があって、これらを総合すると、債権者の執務態度は、列車運転の安全を確保すべき運転係として、また債務者の職員として、特に不良ということができた。

なお、債権者は、疎甲第三一号証の上申書等において、債権者の前記のような行為は、債権者一人のみに限られたものではないとか、軽微なものであるとか、あるいは(主として(4)ないし(7)の行為につき)職場慣行等により容認されるべきものであるとか述べるところ、なるほど以上の行為の中には個々の行為自体を見れば軽微といえるものがないではないが、しかしそれに対し注意を受けた際の債権者の反抗的発言なども含め前記(1)ないし(7)の諸行為を総合して全体として観察すると、債権者の執務態度は特に不良であるというのが相当である。また、債権者の前記(4)ないし(7)の行為を合法的なものとして肯認すべき職場慣行等の存在を一応認める疎明資料はない。

(三)  そして、右のような債権者の執務態度を見て、十日町駅長は、このままでは職場全体の人間関係が阻害され、他の職員に対しても悪い影響があると判断し、職員としての自覚を促すため、債権者に対し、昭和五九年一月二七日以降、各種規定、令達の学習をしてもらうため日勤勤務を命じたが、効果はなかった。

(四)  そこで、右のような事態に対し、債務者は、前記(二)の(6)及び(7)の行為などを理由として申請理由四2(一)のとおり停職三ケ月の本件懲戒処分を債権者に対し行うこととするとともに、(1)債権者が十日町駅にいたら、債権者の従前の態度などから見て更に処分を重ねるに至る虞があること、(2)債権者は十日町駅に二二年余りの長期にわたり在勤しているものであり、このことが債権者の執務態度不良の一因にもなっていると考えられるので、この際勤務場所を変えることによって気分一新と発奮を促し、もって執務態度の改善を期待することができることなどを考慮して、十日町駅から飯山駅への配置転換要員として債権者を選択することとし、あわせて、前記(二)のような執務態度不良のため、債権者の運転係としての適格性自体にも将来再検討の必要があると考え、債権者を長野駅運転係、長野地区要員センター所員として飯山駅在勤とする本件配転命令を発令することとした。

3  発令について

債権者に対する本件配転命令の発令は、本来であれば前記1(四)の高橋の長野地区要員センターへの、同尾身の十日町駅への各配置転換命令と同時に年度末にされてよいのであるが、債務者としては、停職中には発令しないとの慣例によりこれを早めて、本件懲戒処分を通知するのと同日である昭和五九年二月二四日付で本件配転命令の事前通知をした。なお、右高橋、尾身の配置転換命令については、債務者は同年三月一七日付で事前通知をし、年度末の同月二二日付で発令した。

4  債権者の不利益について

(一)  債権者は十日町市内に自宅があり、母、妻、子供三人との六人家族であるが、妻が十日町市内の病院へ看護婦として勤めており、長男が高校進学を控えているなどから、飯山駅へ転勤となっても、一家そろって飯山市へ転居することは困難である。しかし、飯山駅へ通勤するとなると、通勤時間は自宅から飯山駅まで普通列車を使って片道約二時間かかり、朝は午前六時二一分十日町駅発の列車に乗り遅れると列車では遅刻となってしまい、帰りは午後五時五五分飯山駅発の列車に乗り遅れると列車では帰宅できなくなるうえ、冬期間は豪雪のため通勤不能になることも多い。

また、通勤でなく、債権者のみが単身で飯山駅の国鉄宿舎に入居して家族と別居するとなると、債権者の家計が現在以上に苦しくなる。

(二)  債権者は十日町駅において国労十日町運輸分会に所属し、同分会執行委員長を務めてきたが、飯山駅は十日町駅と所属分会が異なるので、飯山駅へ転勤となると、右執行委員長の地位を失うことになる。

七1  そこで右六で認定した事実などに基づいて債権者主張の人事権濫用の点について検討するに、本件配転命令は前記のように、十日町駅、飯山駅等で本件協約や配転協定に基づく人事異動がされることによって生ずる定員の過欠を是正するための要員需給上の必要という債務者の業務上の必要に基づきなされたものであって、前記高橋、尾身の配置転換も考慮して十日町駅の運転係一名を飯山駅へ配置転換させることとした債務者の判断、及びその要員として債権者を選択し、その発令内容を本件配転命令のとおりとした債務者の判断は、前記六の1及び2認定の事実に照らしいずれも一応の合理性を認めることができ、人事権行使に当っての裁量の範囲を逸脱したものということはできない。また、本件配転命令の発令時期を決めるについての債務者の判断も一応首肯し得るものであって、特に非難するには当らないといえる。

そして、本件配転命令によって債権者が受ける通勤等の生活上の不利益及び労働組合活動上の不利益は右六4認定のとおりであるが、疎明資料によれば、長野鉄道管理局管内においては二時間前後の長距離通勤の事例は他にもいくつかあり、飯山市から十日町駅へ、所要時間こそ債権者の場合より約三〇分少ないが、債権者と逆の通勤をしている例もあること、飯山駅には国鉄宿舎があり、債権者が入居を希望すれば債務者において必要な修繕等をして債権者に貸与することとしているので、債権者の単身赴任も可能であり、債権者一家の収入からすれば経済的にもそれが必ずしも不可能ではないことが一応認められ、社会一般においても二時間前後の通勤例は稀有とはいえないこと、疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、飯山駅運転係の勤務は一昼夜交代勤務であるため、飯山駅へ通勤するとしても債権者の一ケ月の出勤回数は一〇回余りですむと一応認められることや、これに加え前示のような要員需給上の必要性と人選の合理性、更には、十日町駅から一番近距離にある運転係配置駅が飯山駅であって同駅が十日町駅運転係の一番近い転勤先であること、組合役員であるからといって業務上の必要に基づく配置転換を拒むことは許されないこと等を考慮すると、前記のような不利益があるとしても本件配転命令を著しく不当なものというには足りない。

2  債務者が本件配転命令をするに当って事前に債権者の意向を打診しなかったことは、前記三2説示のとおり同命令が債務者と国労との間に存する「事前通知及び簡易苦情処理に関する協約」に従って、発令日より数日前に事前通知されたものであること等を考慮すると、特に不当とするには当らない。

また、本件配転命令は本件懲戒処分と同日付でなされ、前者発令の理由となった事情の中に後者の処分の理由となった非違行為が含まれており、更に本件配転は前記五認定の従前の慣行に反するものということができるが、しかし、配置転換の当否は懲戒処分とは別個の目的、要件を基準にして考察するべきであるし、右慣行もこれに反する配置転換を絶対に許さないとする程のものでもないところ、前示のような本件配転命令に関する要員需給上の必要性、人選に当り考慮された事情、人選の合理性、債権者の受ける不利益の程度等の事情を総合して考慮すると、本件懲戒処分の存在、右慣行の存在をもってしてもまだ本件配転命令を著しく不当なものというには足りない。

3  その他本件配転命令が債務者の人事権濫用に当ると肯認させる事情を一応認めるに足りる疎明資料はない。

八  申請理由四3の主張(不当労働行為)について判断する。

疎明資料によれば、債権者は債務者に採用されると同時に国労に加入し、昭和四三年七月一日からは一時期を除き終始十日町運輸分会執行委員長を務め、組合活動を指導してきたこと、同分会は飯山線越後岩沢駅から津南駅までの駅に勤務する組合員により組織されていて、飯山駅はその範囲外であるので、債権者が飯山駅へ転勤するとなると資格喪失により同分会執行委員長の地位を失うこと、前記高橋は同分会の書記長を務めていたものであるが、運転係登用後、前記六3認定のとおり昭和五九年三月二二日付で長野地区要員センターに配置転換されたこと、以上の事実が一応認められる(但し、一部は当事者間に争いがない。)が、前判示のとおり、本件配転命令は債務者の要員需給上の必要という業務上の必要に基づきなされたものであって、その人選についても債権者の執務態度等の事情に照らし一応の合理性を認めることができるものであるし、右高橋の配置転換は、前記六1(二)認定のとおり、本件協約による登用者は冬期終了時に属人異動により原則として要員センターに配属されるとの同協約の趣旨に則ってなされたものであったわけで、本件配転命令に関する前判示の諸事情を総合しても、これら配置転換が、債務者の十日町運輸分会に対する支配、介入の意思に基づきなされたものであるとか、債権者らの組合活動を理由とする差別待遇の意思に基づきなされたものであるとかの事実を一応認めるに足りる疎明資料はなく、また、仮に債務者において本件配転につき業務上の必要のほか右のような意思を併せ有していたとしてもそれが本件配転命令をする決定的動機であったことを一応認めるに足りる疎明資料はない。

九  以上の次第であって申請理由四の主張はいずれも採用できないから、本件申請は被保全権利関係の疎明を欠くものであり、疎明に代わる保証を立てさせてこれを許容することも相当でないので、本件申請を却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 山田博)

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