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新潟地方裁判所高田支部 平成25年(カ)1号 決定 2013年5月02日

主文

1  本件再審請求を棄却する。

2  再審訴訟費用は再審原告の負担とする。

理由

第1再審請求の趣旨

1  本案事件の判決を取り消す。

2  再審被告(本案事件原告ら)の請求を棄却する。

3  本案及び再審訴訟費用は再審被告らの負担とする。

第2事案の概要

本件再審請求は、会社法833条1項1号に基づき再審被告(本案事件被告)を解散する本案事件の判決(以下「原判決」という。)につき、民事訴訟法338条1項1号、3号所定の再審事由があり、再審被告(本案事件被告)の株主の権利が害されたと主張して、再審原告が、再審被告ら(本案事件原告ら及び本案事件被告)に対し、原判決を取り消し、再審被告(本案事件原告ら)の請求を棄却するよう求めた事案である。

なお、再審原告は、本件再審請求に当たり、本案事件に対する独立当事者参加の申出を併せて行っている。

1  前提事実

一件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1)ア  再審被告(本案事件被告)は、ドライブインの経営等を目的とする株式会社(平成8年6月18日成立、資本金2200万円、発行済株式総数440株)である。

再審被告(本案事件被告)は、本案事件の当時、取締役会及び監査役を設置していた。

イ  再審原告及び再審被告(本案事件原告ら)は、少なくとも平成24年6月以前から現在まで、いずれも、再審被告(本案事件被告)の発行済株式の各11分の1(40株)を有する株主である。

(2)  再審被告(本案事件原告ら)は、再審被告(本案事件被告)に対し、平成24年6月8日、会社法833条1項1号に基づき再審被告(本案事件被告)の解散を求める訴えを提起した(本案事件)。

本案事件において、再審被告(本案事件原告ら)は、訴訟代理人を付けなかった。再審被告(本案事件被告)は、その顧問弁護士を訴訟代理人として答弁書を提出したが、請求原因事実の大部分を認め、会社法833条1項1号の要件の存在も争わなかった。

(3)  本案事件の裁判所は、平成24年7月11日、第1回口頭弁論期日において弁論を終結し、同年8月29日、証拠及び弁論の全趣旨により、概要下記アないしウ記載の請求原因事実を認定した上、これらの事実によれば、再審被告(本案事件被告)が事業を継続することは極めて困難であり、再審被告(本案事件被告)の存続自体が無意味ともいうべき状況にあり、解散以外の方法では現在の状況を打開することができないにも関わらず、株主間の不和、対立等により解散決議をなし得ない状況にあると認め、会社法833条1項1号の要件を満たすと判断し、再審被告(本案事件被告)を解散する旨の判決(原判決)を言渡し、原判決は、同年9月13日の経過により確定した。

ア(ア) 再審被告(本案事件被告)は、ドライブイン「○○」の運営を目的として平成8年6月18日に設立された株式会社である。

(イ) 再審被告(本案事件原告ら)は、いずれも、再審被告(本案事件被告)の発行済株式の各11分の1を有する株主である。

イ 再審被告(本案事件被告)は、前記ア(ア)記載の目的で、土地を購入する等の準備を行ったが、平成12年、「○○」の開設を断念し、平成13年7月26日、同土地を売却した。

再審被告(本案事件被告)は、その活動資金を出資金、借入金等で賄っていたが、その借入金等の精算を行うため、再審被告(本案事件被告)の株主に対し、債務確認請求訴訟を提起し、最終的に株主全員と和解を成立させ、借入金等の精算を完了した。

ウ 再審被告(本案事件被告)は、前記イ記載の精算完了後の平成23年11月30日、解散の決議(特別決議)を行うため、臨時株主総会を開催した。しかし、11名の株主のうち3名が解散に反対し、1名は株主総会による解散は困難であると主張したため、解散の決議を行うには至らなかった。

エ 再審被告(本案事件被告)の株主の中には、定款記載の目的を変更して事業を再開するよう主張する者はおらず、再審被告(本案事件被告)は、前記イ記載の和解成立後、何ら事業を行っていないが、事業税等の負担は生じている。

(4)  再審原告は、平成25年2月13日、本件再審請求を行った。

2  当事者の主張

(1)  再審原告の主張

ア 再審原告の当事者適格について

株式会社の解散の訴えを認容する判決は、第三者に対して効力が及ぶ(会社法833条、838条)から、再審原告は、原判決の確定により、再審被告(本案事件被告)から経済的利益を得たり、その経営に関与したりすることができなくなった。

再審原告は、原判決の既判力に拘束され、原判決により直接的に自己の権利を害される立場にあるから、独立当事者参加の方式により、原判決の再審の訴えを提起する資格(当事者適格)を有する。

なお、再審原告は、平成25年1月21日、本案事件の記録を閲覧して原判決の存在を知った。

イ 民事訴訟法338条1項1号所定の再審事由(不服の理由)

本案事件の裁判所は、本案事件に処分権主義及び弁論主義の適用がないのに、本案事件の訴状を作成した弁護士と同一の弁護士が作成した答弁書及び同弁護士の陳述により、安直に請求原因事実を認定する過誤を犯した。

また、同裁判所は、会社法833条1項1号の要件(株式会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該株式会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとき)を満たさないのに、これを満たすと判断する過誤を犯した。

これらの事由は、民事訴訟法338条1項1号所定の再審事由(法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと)に当たる。

ウ 民事訴訟法338条1項3号所定の再審事由(不服の理由)

本案事件は、訴状及び答弁書を事実上同一の弁護士が作成し、再審被告(本案事件原告ら)及び再審被告(本案事件被告)の取締役がいずれも解散を望んでいた馴れ合い訴訟であった。

また、再審原告は、独立当事者参加の方式により本案事件に参加することが可能であったが、再審被告らは、再審原告に対し、本案事件の訴訟提起を知らせなかった。

民事訴訟法338条1項3号所定の再審事由(法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと)は、法的審尋請求権を保障すべき要請を基礎にした規定であり、同様の要請が働く他のケースにも広く類推適用されるところ、本案事件における上記の事情は、本案事件の当事者が代理人によって適法に代理されなかった場合と同視でき、同号所定の再審事由に当たる。

(2)  再審被告(本案事件原告ら)の主張

本案事件につき、再審を開始する必要はない。

本案事件において、再審被告(本案事件原告ら)及び再審被告(本案事件被告)の取締役がいずれも解散を望んでいたこと、再審被告(本案事件原告ら)が、本案事件の訴状の作成について再審被告(本案事件被告)の顧問弁護士に相談したことは認めるが、訴状を作成したのは、飽くまで再審被告(本案事件原告ら)である。

また、再審被告(本案事件被告)は、会社法833条1項1号の要件を満たしていた。

(3)  再審被告(本案事件被告)の主張

ア 再審原告の当事者適格について

再審原告には、本件再審請求の当事者適格がない。

再審被告(本案事件被告)は、事業を継続することが極めて困難であり、その存続自体が無意味というべき状況にあり、解散以外の方法では現在の状況を打開することができない状況にあるから、残余財産の分配を除き、再審原告が再審被告(本案事件被告)から経済的利益を得ることはなく、原判決により直接的に再審原告の利益が害されるとはいえない。

イ 民事訴訟法338条1項1号、3号所定の再審事由について

原判決につき、民事訴訟法338条1項1号に該当する事実(法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと)及び同項3号に該当する事実(法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと)はない。

また、再審被告(本案事件被告)は、会社法833条1項1号の要件を満たしていた。

第3当裁判所の判断

1  再審原告の当事者適格について

前記前提事実によれば、再審原告は、本案事件の訴訟提起以前から、原判決により解散した再審被告(本案事件被告)の株主であり、株主として原判決の効力(対世効)を受ける立場にあるところ、株式会社が解散するかどうかは、当該株式会社の株主に重大な影響を及ぼす事項であるから、再審原告は、原判決の取消しにつき固有の利益を有する第三者に当たるというべきであり、本件再審請求の当事者適格を有するというべきである。

なお、再審被告(本案事件被告)は、その事業を継続することが極めて困難な状況にある等と主張して、再審原告に本件再審請求の当事者適格がないと主張するが、これらの事情は再審原告の当事者適格を否定すべき事情とはいえず、この点に関する再審被告(本案事件被告)の主張は採用できない。

2  民事訴訟法338条1項1号所定の再審事由について

再審原告は、本案事件の裁判所が、①本案事件に処分権主義及び弁論主義の適用がないのに、訴状を作成した弁護士と同一の弁護士が作成した答弁書及び同弁護士の陳述により、安直に請求原因事実を認定する過誤を犯した、②会社法833条1項1号の要件を満たさないのに、これを満たすと判断する過誤を犯したと各主張し、これらの事情が民事訴訟法338条1項1号所定の再審事由に当たると主張する。

しかし、前記前提事実のとおり、本案事件の裁判所は、証拠及び弁論の全趣旨により請求原因事実を認定し、これに基づき会社法833条1項1号の要件を満たす旨判断しており、再審原告の上記主張は、当該認定が不当であるというにすぎないものであるところ、そのような事情が、民事訴訟法338条1項1号所定の再審事由(法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと)に当たらないことは明らかである。

したがって、この点に関する再審原告の主張は採用できない。

3  民事訴訟法338条1項3号所定の再審事由について

再審原告は、本案事件につき、訴状及び答弁書を事実上同一の弁護士が作成し、再審被告(本案事件原告ら)及び再審被告(本案事件被告)の取締役がいずれも解散を望んでいた馴れ合い訴訟であり、そのような訴訟において、独立当事者参加の方式により本案事件に参加することが可能であった再審原告に対し、再審被告らが本案事件の訴訟提起を知らせなかったことは、本案事件の当事者が代理人により適法に代理されなかった場合と同視できるとして、これらの事情が民事訴訟法338条1項3号所定の再審事由に当たると主張する。

しかし、本案事件の訴状及び答弁書が事実上同一の弁護士によって作成され、再審被告(本案事件原告ら)及び再審被告(本案事件被告)の取締役がいずれも解散を望んでいた馴れ合い訴訟であったとする点については、前記前提事実のとおり、そもそも本案事件の裁判所は、再審被告(本案事件被告)の自白によることなく、証拠及び弁論の全趣旨により請求原因事実を認定し、これに基づき会社法833条1項1号の要件を満たすと判断しているのであるから、原判決の基礎となった証拠が偽造であった等の事情があれば格別、単に上記のような事情が存在しただけで、原判決に再審事由があるといえないことは明らかである。

また、原判決の効力が再審原告にも及び、再審原告が独立当事者参加の方式により本案事件に参加することが可能であっても、本案事件の当事者が再審原告に対し、必ずその訴訟提起を知らせなければならない理由はなく、そのような事案において、本案事件の訴状及び答弁書が事実上同一の弁護士によって作成され、本案事件の双方当事者がいずれも請求認容判決を望んでおり、さらに、仮に民事訴訟法338条1項3号所定の再審事由を広く類推適用する余地があったとしても、上記のとおり、本案事件の裁判所が、再審被告(本案事件被告)の自白によることなく、証拠及び弁論の全趣旨により請求原因事実を認定し、これに基づき会社法833条1項1号の要件を満たすと判断している以上、上記のような事情が、民事訴訟法338条1項3号所定の再審事由に当たるということはできない。

したがって、この点に関する再審原告の主張は採用できない。

4  結論

前記1及び2記載の他、再審原告の主張を精査しても、原判決につき、民事訴訟法338条1項所定の再審事由があると認めることはできない。

よって、民事訴訟法345条2項に基づき、決定をもって本件再審請求を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 髙倉文彦)

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