新潟地方裁判所高田支部 昭和25年(ヨ)9号 判決
申請人 水沢玲子
外五名
被申請人 日本曹達株式会社
一、主 文
申請人等の申請を却下する。
申請費用は申請人等の負担とする。
二、申請の趣旨
被申請人会社が昭和二十五年三月二十三日それぞれなした別紙第二目録記載に対する解雇の意思表示はその効力を停止する、被申請人会社は同目録記載の者が被申請人会社の従業員としてなす業務を妨害してはならない、被申請人会社は同目録記載の者にそれぞれ所定の賃金を支払わなければならない、訴訟費用は被申請人会社の負担とする、との判決を求めた。
三、事 実
第一本件解雇通知発送当時迄の被申請人会社対申請人等所属日本曹達労働組合関係
(一) 被申請人会社(以下単に会社と指称する)は苛性「ソーダ」その他工業薬品を製造販売する株式会社であつて肩書地に本店を有し、二本木、高岡及び東京にそれぞれ工場を有しており田中東馬は会社の代表者である、申請人等はいずれも会社の従業員であり且つ会社の従業員を以て組織されている日本曹達労働組合(以下単に組合と指称する)の組合員であり会社二本木工場に勤務しているものである。
(二) 会社と組合との間には昭和二十三年一月頃から退職金規程の改廃を組合より要求し、同二十四年十一月下旬頃から越冬資金について更に組合より要求し、爾来紛議を生じていたが妥結しないので昭和二十五年二月三日組合から中央労働委員会にその斡旋を依頼し同月十三日同委員会より斡旋案が提示されたがこの斡旋案では妥結するに至らず、更に斡旋が続けられ旁らその後も会社と組合とは交渉を続けることとなり、同年三月十八日会社本社に於て団体交渉が行われたが会社はその態度を固持して一歩も譲らず、そのため組合は要求を貫徹するため実力行使に入ることを決定し、同月二十日午前十一時より四時間「ストライキ」を、同月二十四日午前十時より二十四時間「ストライキ」を全工場に行つたが、会社は全然組合の要求を容認しないので未だ妥結するに至らないでいる、ところが、会社は右の紛争中である同年二月二十三日会社の再建計画について協議を申し入れて来たので同月二十七日協議会を持つたところ、会社は突然従業員約五千六百名中一千名に及ぶ人員整理を含む五項目の議題を提案し来り、各工場事業場別の人員整理案は現在員五千六百二十六名(内二本木工場三千五百二十八名、本社大阪営業所高岡工場東京工場合計二千九十八名)中整理人員数一千名(内二本木工場六百名その他の工場事業場合計四百名)残り人員四千六百二十六名(内二本木工場二千九百二十八名その他の工場事業場合計千六百九十八名)となつている。
(三) 組合は会社が前記退職金規程の改変及び越冬資金の問題を未解決のままにして置いて誠意を示さず突然人員整理計画を発表したことは不当であるし、殊に会社の所謂再建案は生産計画を故意に過小評価しそれから必要人員を逆算したものであり、未だ開拓の余地ある販売面の拡張に対しても考慮をしていないことは組合としては不満であり、更に会社が相当量の在庫品を抱いていることは認めるが、製品の品質は良好であるから従来不足していた宣伝、その他の販売面えの努力を行うことにより十分に売り捌き得るものであり、今後も現在以上の生産を消化し得る見透を組合としては持つており、このことはその後同年三月十日、三日、六日、七日及び八日に至つて会社案の説明を聞き且つ同月十五日に至る迄検討した結果組合の右見解の正しいことを確信するに至つたので、同月十五、十六、十七日の協議会に於て会社案の説明を求めると共に数字を挙げて会社再建案の矛盾を追求して組合の意見を述べ、結論として先ず再建計画を十分討議し人員整理が果して必要かどうかを協議し若し必要が認められるならその後その実施方法について協議してはどうかと主張したが、会社は過去に於ける労資間の関係に於て曾て一度も見られなかつた強硬の態度を以て組合の意向を容れることなく全く一方的な人員整理計画を飽く迄も主張し続けた。
(四) 会社は同年二月二十七日前記再建計画と称する人員整理案を組合に示すと同時に予め事前に準備して置いた社長の録音放送を各工場の全組合員に放送し且つ印刷物を以つて人員整理を断行する方針である旨を告げ、恰も会社を再建するにはその前提として一千名に及ぶ人員を整理しなければならないような印象を組合員に与え、更に同年三月八日に至り組合と一囘の協議もせずに全く一方的な整理基準を発表し組合員を動揺せしめ且つ申請人等の所属する会社二本木工場に於ては会社の職制を通じて「お前は切らない」「ここの職場では何名切る」「ここの職場は閉鎖する」等いいふらして会社の決定を一方的に組合に押しつけようとしてきた。
(五) かくして会社と組合との間に昭和二十五年二月二十七日より同年三月十七日に至る迄前後九囘に亘り協議会が持たれたが、この間会社は飽く迄人員整理を前提とした再建案を主張して全然妥協の意思を示さず、更に同年三月二十二日第十囘協議会を開催したい旨会社より組合に対し申し入れがあり組合は誠意を以てこれに応ずる旨囘答した結果同日協議会が持たれる予定のところ、会社は突然右二十二日の協議会の開催を故意に囘避して同月二十三日午前八時より十二時迄の間に申請人等を含む組合員約一千名に対し業務上の都合により三月二十七日限り解雇する旨の解雇通知書を東京赤坂局を経由して発送し、同日午後五時三十分に至り組合に対して同年二月二十七日会社が組合に対して提出した再建案及びこれに附帯した一切の会社案を原案通り決定することを通知する旨の通知を発している、なお、右個人宛解雇通知と同時にその他の組合員に対しては同日付を以て「貴殿は解雇しないから会社に協力してくれ」という意味の協力願を発送して組合の分裂を策し、次で同月二十五日に至り会社は社長名を以て「再び社員の皆さんへ」と題する文書を組合員に配布し、更に前敍人員整理のやむを得なかつた趣旨の社長の挨拶を吹き込んだ録音を放送すると共に文書によつて今囘の会社の人員整理は会社原案を実施することに決定しその人選は整理基準によつて定めたと公表している。
第二会社の本件解雇の意思表示は次の理由により無効である。
(一) 会社と組合との間には昭和二十四年十一月十六日締結された有効期間一箇年の労働協約(以下単に協約と指称する)があり、同協約第八条により人員整理を伴う再建計画は工場閉鎖、売却、長期休業等に準じて会社と組合とで協議決定すべき事項であるが、組合員である別紙第二目録記載の者に対する解雇は会社が一方的に決定した再建案を組合に強行して来たもので協議決定したものではない、又協約第三十七条第一項第三号及び第二項により人員整理による解雇につき整理基準の作成及びその基準に当てはめて解雇人名を決定するには会社と組合とが協議決定しなければならないに拘らず整理基準の作成及び解雇人員の決定に当つては組合と協議することなく全く会社の一方的措置によつて解雇の通知がなされている、なお、再建案に対する昭和二十五年二月二十七日以来の各協議会は協約第十三章に所謂協議会の規定によつたものであり、その第百三十二条第一項には協議決定の方法は会社組合双方の意思の一致を以てするとあるから協議決定は同意と同意語と解される、されば本件解雇の意思表示は協約の規定に違反する無効のものである。
(二) 会社には昭和二十三年四月一日制定され同年十一月十九日改訂された現在有効の就業規則があるが、もと就業規則は労働基準法第九十条所定の手続を履んで成立し、終局的には使用者の一方的作成にかかるものではあるが、しかも、会社従業員共にこれに拘束されるものである、(い)同就業規則第十一条には「社員は辞令を以つて職場に配属される」「社員は辞令によらなければ職場を変更されることがない」旨規定されている、即ち従業員が一職場から他の職場に移される場合又は新に就職した場合に於ても辞令によらなければならないことが会社によつて確認され以て従業員の身分が保障されているに拘らずこれ等配置転換よりも更に一層重要な本件解雇の意思表示が辞令によらないでなされたことは就業規則違反でその効力がない、(ろ)就業規則は所轄官庁え廃止の届出がない以上効力を有することは勿論であるが、右就業規則第七十条第一項第四号第五号にはそれぞれ「事業の縮少又は廃止のやむなきに至つたとき」「その他事業経営上やむを得ない都合があるとき」は解雇する旨規定し同就業規則の一部である昭和二十三年十一月十九日付会社と組合との就業規則に関する申し合せ事項の十二によれば、右就業規則第七十条第一項第四号第五号所定の事項については会社は組合と協議する旨規定されており、その協議は協約第八条第三十七条に関する協議事項とその内容を一にするから協約第百三十二条が準用される結果、会社と組合との双方の意見の合致を要するに拘らず前記のように従業員を業務の都合上解雇するに当つて組合と協議することなく整理基準を作成し解雇人名の決定をなした本件解雇の意思表示はこの点よりしても就業規則違反であつてその効力がない。
(三) 協約第三十七条第三号第三十九条及び就業規則第七十条第四号第五号第七十一条は孰れも三箇月前に予告するか又は三箇月分の平均賃金を支払わなければ会社が自己の都合で組合員を解雇することができないものとしているのであるが、これ等特別の規定は三十日前の予告又は三十日分以上の平均賃金の支払を命じている労働基準法第二十条の一般規定より有利な労働条件を内容としているから労資双方はこれ等協約及び就業規則の規定に拘束せらるべきことは労働基準法第十三条第九十二条第九十三条の規定に徴し明白である、本件解雇は会社が自己の都合でなしたものであるに拘らず三箇月の予告期間も置かず昭和二十五年三月二十三日付書面を以て解雇手当は平均九十日分内三十日分は即時払い残り六十日分は三箇月以内に支払う旨附記し、同月二十七日限り申請人等を解雇したものであるから右協約及び就業規則の諸規定に違反するものであつてその効力なく、殊に予告手当は予告期間に代るべきものであるから単にこれを支払う旨の意思表示を以ては足らず、現実の提供があつたに拘らず被解雇者が受領を拒絶した場合は格別、そうでなければ現実にこれが支払をしなければその効力ないに拘らず会社は三十日分は即時に支払う意思表示をしたが六十日分は三箇月以内に支払うこととし即時に支払わぬ旨を明示しているものであつて、かかる方法による予告手当の支払を以てした本件解雇はこの点に於ても右協約及び就業規則の規定に違反する無効のものであると同時に労働基準法第二十条に違反する解雇として無効である、仮に協約及び就業規則に三箇月の平均賃金の支払を規定している場合に於ても三十日分以上の平均賃金を支払えば労働基準法第二十条違反ではないとの解釈に従うとするもその三十日分以上の平均賃金の支払は債務の本旨に従つて現実になさなければならぬものであつて単に即時に支払う旨の通知をなすを以て足るものではない、本件解雇の意思表示をなすに当り会社は三十日分以上の平均賃金の支払につき現金の提供をしていないばかりか或は三月三十一日迄に退職願を提出するときは三月二十七日付を以て依願解職とするといい、或は退職願を出さなければ予告手当を出さないともいつているのは孰れも退職願の提出を以て予告手当支払の条件となすもので不当である、以上孰れの点よりするも予告手当の支払をなさなかつた本件解雇は労働基準法第二十条に違反するもので無効である。
(四) 労働組合法第七条第二号は労働者の団体交渉権を保護する規定であるが、会社の申し入れで定められた昭和二十五年三月二十二日の協議会を会社側が一方的に開催を不可能にしたこと、同月二十三日午後五時三十分に組合に通告する以前に申請人等に対して解雇通知書を発送していること及び同月二十三日午後三時前後頃会社二本木工場に於て非組合員であり会社の利益代表者たる課長をして組合員に対し「お前も被解雇者のうちに入つているから今の内に希望退職せよ」という意味の半強制的勧告をさせたことは不当労働行為として労働組合法第七条第二号違反の罪責を問わるべきものであるから、かかる行為を伴つた本件解雇の意思表示は違法であつてその効力がない。
(五) 財産権従つてこれに基く経営権の尊重さるべきは勿論であるが財産権と労働権が対等の関係にあることも亦異論がないところであつて経営権の行使は須らく公共の福祉に遵わなければならない、ところで労働者の解雇は直に労働権引いて生存権をすら侵害する結果となるものであるからたとえ法令に違反するところなしとするも正当の事由による解雇でなければ経営権の濫用というべきでかかる解雇は認容し得ないところである、会社は本件解雇の理由として経営の困難を挙げ人員整理を断行しなければならなかつた原因を強調しているが、昭和二十四年九月十三日会社が発行した日本曹達増資目録見書、同年十二月三十一日発行の日本曹達社債目録見書、日本曹達株式会社第五十六囘営業報告書に記載されている生産拡充計画、原料資材の入手状況、製品の販売状況、経理の状況等の具体的経営の要素から見ても何等経営困難な理由を発見することができないのみか、却て経営は順調に進んでおり、更に生産拡充計画から見ても毫も人員整理の必要がない。即ち最近二箇年間につき見るに(い)売上高は大体に於て一定しており昭和二十五年三月末迄の最近半年間に於ては従来の「レコード」を破る実績を示している(ろ)売上の囘収率も決して低下しておらず以前より遙かに良好となり資金の囘収は却て向上を示しており最近に至る程現金預金の現在高も増加している(は)生産高も月平均生産高は約二倍となり従業員一人当りの平均生産高も約二倍となつている(に)借入金は単に赤字補填にのみ使用されるものでなくその大部分は固定資産並に流動資産として投下され資産化されているのであり借入金の増加する一方資産も大なる増加を示しているのであつて貸借を対比綜合するならば何ら不健全経営ではない(ほ)会社が誇張しているような赤字が生じたことは認むべき根拠明瞭でないのみか最近半年間に純利益金を計上処分している状況である、以上の点から見ても会社が経営困難を云々する根拠は極めて薄弱であり本件解雇を合理化するための胡魔化しに過ぎない。
第三仮処分の必要性について
以上記述のように本件解雇は無効であるに拘らず会社は申請人等の勤務する会社二本木工場が賠償指定工場であり且つ工場長大久保均次が偶々賠償工場管理者であることを奇貨として昭和二十五年四月一日以降現在に至る迄申請人等の工場入場を拒否し続けており、更に同月二十日の賃金支払日には申請人等に対し所定の賃金を支払わない、よつて申請人等は会社を相手取り解雇無効確認訴訟を提起すべく準備中であるが、本案訴訟の確定を待つては現下の生活不安と就職難時代に在つて労働力以外何らの資産もない本件解雇者はその家族と共に生命身体の危険に曝されざるを得ないので申請趣旨どおり仮の地位を得るため本件申請に及んだ次第であると述べ。
会社代理人の答弁中
(一) 労働組合と会社との妥結の点について
昭和二十五年四月二十八日組合は会社が再建計画に基き採つた人員整理並にこれに関連する措置を承認し且つこれより先組合側が本件解雇を違法として東京地方裁判所及び新潟地方裁判所高田支部へ提起した地位保全等仮処分の各訴訟事件を取下げたことは相違ないけれども、組合が右の承認をなし且つ前記訴訟を取下げたことは本件申請人等が本申請をなして会社の解雇無効を主張してその地位保全の仮処分を求める訴権の行使を阻害されるものではない、この申請人等の主張は会社が組合と協議決定を経ないで昭和二十五年三月二十三日付文書を以て申請人等を同月二十七日より解雇したことが協約並に就業規則その他に違反する無効のものであるというのであるからその後に於て組合のなした前記承認によつて無効解雇を有効にできないものと解すべきか、少くとも組合員たる申請人等が解雇無効を主張し得る既得権を奪うような組合の爾後承認は申請人等に対抗し得ないものというべきであると述べ。
(二) 協約の成立経過並に仮調印記名調印の効力について。
会社と組合との間の旧労働協約は昭和二十四年九月四日を以て有効期間満了となつたが、双方協議の上同年十一月十五日迄これを延長した、その事情は同年八月二十六日に会社から新協約の案が示され、組合としては会社との折衝をする前に組合内部に於てこれを十分に検討するため相当の期間も必要であり又双互に無協約時代を避けたいためでもあつた、ところで同年十一月十六日即ち延長期間満了の翌日に至つて会社案を中心として両者が逐条審議の結果その原案が纏り条文の整理は追てなすこととし、それ迄の間会社と組合及び組合員との関係は右原案に基き運営することを両者確認したのである、その後同年十一月二十三日から同月二十八日迄協議会の小委員会で右原案の条文化がなされ、同月二十八日の協議会に於てその条文化された新協約を両者が承認し且つこれを昭和二十四年十一月十六日に遡つて有効とすることとしたが、会社より連合軍総司令部経済科学局から新条約は英文に訳して提出するように指示されているのでその提出迄は一応仮調印にして置いて貰い度いとの要望があり、組合としては会社の立場も考慮し但し正式調印迄の効力に変りないことを特に念を押し会社もこれを当然のことと認めたのでそれ迄仮調印をなし置き、正式調印は総司令部に提出後に於てなすことに諒解が成立し、同年十二月二十一日組合は前記の諒解事項並に協約内容を大衆討議にかけてその承認を得たので当日会社と組合とが協約に仮調印をなしたのであるがこの仮調印は本質的には正式調印と何ら異るものではないが会社が調印前に総司令部に提出を指示されているというので特にその提出の便宜上協約書に直接調印することは会社の立場を考慮してこれを避け協約には年月日を記入せず且つ双方代表者の記名捺印をなしたまま調印せずこれを総司令部に提出すべきものとし会社と組合との間には奥付を以てこれが協約であること総司令部に提出迄仮調印としその提出手続の完了後に正式調印する旨の書面を作り両代表者が記名調印したものである、その後昭和二十五年二月十七日頃会社から組合に対して総司令部より新協約の修正の指示があつたからその部分を修正し度い旨の申入れがあつたので組合は不審に思い同月下旬組合幹部と会社側の者とで総司令部経済科学局を訪れたところ同局では修正意見は教育的立場からのもので協約は終局的には会社と組合とで定めるべきだという趣旨の意見を述べたので、組合としても又会社としてもそれは強制的のものでなかつたことが明白となつたので、会社からの修正申入もそのままとなつて今日に至つたものである、次に会社側は仮調印は記名調印であつて署名でないから協約としての効力がないと主張するが労働組合法第十四条が労働協約は署名することによつて効力を生ずると規定したのは署名のない場合は如何なる場合でも無効とする意味ではない、すべからく我国の慣行に鑑み記名調印であつても有効と解すべきである、仮に形式論に従いこれが労働組合法に対する協約としての効力がないとしても会社自身今日迄これを有効としこれによつて行動し組合もこれを有効と信じて来たのであるから労働法上協約と同等の効力があるものと解さなければならないと述べ。
(三) その他の答弁についてはすべて否認する。
と述べ
会社訴訟代理人は申請人等の申請はこれを却下する。申請費用は申請人等の負担とする旨の判決を求め、答弁として
申請の理由第一の(一)について、会社の性格、事業場、代表者に関する部分及び解雇に至る迄の間申請人等が会社の従業員であり且つ組合の組合員であつたこと、(二)について、退職金規定の改廃と越冬資金の件で紛議が生じ組合から中労委に斡旋の申請があり当事者双方の同意不同意に喰い違いがあつて完全妥結に至つていなかつたこと数次に渉つて「ストライキ」が行われたこと、主張のような項目を含んだ再建案を会社から組合に提示して協議申し入れをなしたことは認める、(三)について、会社は過去に於ける労資間の関係に一度も見られなかつた強硬な態度を以て再建案を提議し且つ協議を要請したことは相違ない、昭和二十五年二月二十七日より翌三月十七日迄協議会を持つたこと前後九囘に及び数万円を費して経営の苦境を説き万やむを得ざるに出た再建案の内容を説明して精魂を傾けて組合側の協力を求めた、然るに組合側ではただ人員整理の囘避を要請するのみで突込んだ再建案というものは一つも出さず従つて再建協議は一歩も前進しなかつた、かくして徒に時日を遷延することは全面的な破局を意味すること余りに明白であるから会社は会社並に全従業員のために経営権を貫かざるを得ない破目に陥つたのである、(四)について、再建に不可避な人員整理について公正な整理基準案を発表して整理はこの大綱に拠るべきことを示し整理が万やむを得ざるに至つた会社経営の真相を広く従業員に知らしめる措置を採つたことは認める、(五)について、組合代表は再建案について一顧だにしなかつたため再建案協議は一歩も前進しなかつたのである、昭和二十五年三月二十二日最後の協議会を中止したのはこれ以上同じことを繰り返しても全く意味がないからであつて解雇通知、残留通知、社長告示等は主張の通りなしたと述べ。
申請理由第二法律上の主張について。
(A) 協約違反の主張について
協約違反を理由とする申請人等の主張は協約の有効な存在を前提とし、本件解雇はその第八条第三十七条に違反し組合との協議又は同意なくしてなされた本件解雇の意思表示は無効だというのであるがこれに対する答弁は左のとおりである。
(1) 端的に結論を述べると会社と組合との間を律する協約は連合軍総司令部の予めの要請によつて当事者双方とも署名し得ない状態――成立せしめ得ない状態――に置かれ未成立のまま案文を総司令部に提出したのである、その後総司令部からは本申請に於て申請人等が拠点としている協約案第八条第三十七条等の抹殺を要請されている、この要請に基いて会社と組合との間には現在協約案文の改訂を協議している段階であつて労資当事者間には現行協約というものは一つも存在しないのである。
(2) 昭和二十三年九月五日会社と組合との間に労働協約が締結されその有効期間を一箇年としたが、この協約が締結されてから後労働次官通牒が発せられ、労働組合法の改正があり、更に会社として特記すべきことは昭和二十四年二月八日連合軍総司令部経済科学局より会社を含む十会社に対して(い)会社の経営権を擁護する条項を入れた協約案文を作成すべきこと(ろ)組合と署名する前にその案文を連合軍総司令部に提出すべきことの要請を受けた、その指示内容中雇傭量の決定非組合員の範囲従業員の解雇等の事項は純然たる経営権に属する事項である旨が強調された、会社はこれ等一聯の経緯に鑑み協約改訂の必要を感じ同年八月二十六日案文を作成してこれを組合に提示し協議を求めたが、その協議途中に当時の現行協約が期間満了失効の惧があつたので先ず有効期間を一箇月延長して同年十月四日迄とし、更に双方協議の上同年十一月十五日迄これを延ばして右期間中に新協約案成立に努力すること並にその成立の如何に拘らずこの期間の満了によつて当時の現行協約は効力を失うべき旨を組合に通告し組合もこれに同意した、かくして新協約案文の成立すら見ずして最後の協約は昭和二十四年十一月十六日効力を失つたが、同日現在で会社案につき労資双方で一応纏め上げた線を逆転させないで前進させようという覚書を作つたのが所謂確認書である、しかし新協約案は連合軍総司令部の指示に従わねばならないがその線では容易に組合と妥結するに至らなかつたが提出を急ぐ必要から兎も角同年十二月二十一日一応組合の納得した線で案文を纏め上げこの案文に労資双方とも署名もせず捺印もせず作成の日付も空欄にして別に一札を付して「協約は調印前に連合軍総司令部経済科学局労働課に提出するよう指令を受けているので会社と組合とはこの協約に仮調印し右手続が完了後正式に調印するものとする」旨の特約を文書に認めこの特約文書即ち協約案の末尾に添付された所謂仮調印に関する申合書の日付だけを前協約期間満了の翌日たる十一月十六日と記載した次第であつて、右申合書は単に会社組合間の意思が一致したという程度のことを表示するものに過ぎない。
(3) 労働組合法第十四条は旧条文を改めて労働協約はこれを書面に作成し両当事者が署名することによつてその効力を生ずると規定してこれを厳格な要式行為とし、たとえ文書に作成されても署名を欠く場合は協約としての効力は発生しないものと改めた、取引の迅速と商慣習を尊重する商法関係の法規に於ては署名に代えるに記名捺印を以てすることを認めているが労働協約の場合はこれとは全く対蹠的な関係で労資双方の最後の意思の決定については慎重を期せしめることが肝要であり錯誤や強迫による不確定意思によつて協約の効力が左右されることを避ける趣旨に於て特に労働組合法を改正してかくも厳格な要式行為としたものである、本件の協約案は連合軍総司令部の同意を得られる迄は正式に成立せしめ得ないという明確な合意に基いて当事者双方とも署名捺印せず文書成立の日時さえも記入を避けたのであつて、この取交文書は署名がないから効力がないのではなく協約の効力を持たしめない趣旨で署名を避けたものである、その後連合軍総司令部に提出した前記協約案文に対して昭和二十五年二月九日総司令部経済科学局から会社に対して重要な勧告があつた。即ち本件申請に於て申請人等の主張する第八条第三十七条等に所謂労働組合の同意約款は経営権に対する労働権の不当な介入であるから削除すべきものであるとの趣旨の指示があつた、よつて会社はその指示に従つて同月十七日組合に対しこの旨を伝え現在協議が進行中である。
(B) 就業規則違反の主張について
(1) 申請人等主張のとおり会社が昭和二十二年四月一日社員就業規則を制定し昭和二十三年十一月十九日改訂したことは争わない、同規則第十一条は辞令によつて職場の配属変更がなされる旨を規定している、解雇の場合もこの例に拠るべき旨の規定はないが会社は文書によつて本件解雇の通知をした辞令といつてもこれ以外に方法はない。
(2) 申請人等主張の就業規則に関する申合せ事項は文字通り組合と会社との申合せであつて就業規則ではない、論ずる迄もなく社員就業規則は労働基準法の命ずるところに従つて会社だけが義務として制定改廃し会社名で告示し、施行する社員箇々の服務準則であつて労働組合との関係は規則の関するところではない、然るに会社の旧就業規則はその附則中に組合と協議すべき事項を挙示し附則ではあるが形式上これも亦就業規則の一部をなしているかの観を呈していたので、たまたま昭和二十三年九月五日労働協約が改訂されたので組合と協議の結果昭和二十三年十一月十九日現行就業規則改訂の際この変態的な就業規則を改めてその中から労働組合との協議条項は一切削除してしまい別に組合と会社間で労働協約に基いてこの申合わせ文書を取交したので、このことは文書の形式上からも一見明瞭である、協約が期間の経過によつて失効しているに拘らずもしこれと同趣旨の対労働組合関係の条項を含むこの種の組合との申合わせ文書だけが当事者にかかわりなく残存することになれば労働組合法が協約に確定期間を付すること乃至は法定の長期を定めていること更には一方的不延長通告をも認めた精神は全然没却されて終う。もし本申合せが就業規則であるならば単に社長名を以て告示するわけであるが、本申合せは会社と組合と双方の代表者が記名し捺印してこれが労働協約の一部であることを明確にしている、さればこそ昭和二十四年八月二十六日会社が組合に対し協約の改訂失効に関する通告をした際本申合せに対しても協約の一部として同一の取扱をなすべき旨を申し送つたものである、従つて本申合せはその基本となる協約が失効した昭和二十四年十一月十五日これと運命を共にしたものである、現行就業規則が昭和二十三年十一月十九日改訂に当りその改訂就業規則が労働基準監督署へ届出てあるがその際前記就業規則に関する申合せが誤り添付されたが、かかる事故は同申合せの本来の性格に影響あるものではない。
(C) 労働基準法第二十条違反について
労働基準法第二十条は三十日分の予告手当の支払を強行規定としている、会社は被解雇者に対し昭和二十五年三月二十三日それぞれ同月二十七日限り解雇する旨の通知を発し右通知は被申請人等に対しては同月二十七日以前に到達している、右通知には所定の退職金と共に解雇予告手当を平均賃金九十日分を支払うべく内三十日分は現実に支払の準備を終り、即時これを支払い残り六十日分は三箇月以内に支払う旨付記して通知したが、その直後会社は金繰りをつけて九十日全額を即時に支払うことを決定し同月二十七日本社を出発した連絡員が公式の文書を携えて同月二十八日二本木に到着しその翌二十九日各被解雇者にこの旨通知したがその都度同時に二本木工場の内外に掲示し且つ放送して予告手当等の支払場所を明示しそれに必要な現金等一切の資金手当を充実して現実に履行の提供をしたものである、その後の争議中も引続き会社は被解雇者に対しあらゆる方法を以て受領を催告し且つ提供を継続したが同年四月二十三日迄支払の請求のなかつた者に対しては一応弁済の受領を拒んでいるものと推定してその後新潟地方法務局高田支局に弁済供託をした次第で、解雇通知と予告手当の弁済提供との間に社会通念の許さない程の遅滞がない。
(D) 会社が採つた行動が労働組合法第七条第二号に違反する旨の主張についてはこれを否認する。
(E) 本件解雇は正当の事由なくして行われた無効のものであるとの主張について、
国家に於ける均衡予算の実施等「ドッジライン」に基く経済政策が強行された結果昭和二十四年に入り「インフレ」が一挙に終息し却て「デフレ」の傾向が起り一般に有効需要が減退して売れ行き不振をもたらしたことは周知の事実であつて、会社に於ても市況の急変から受ける影響を免れなかつた、即ち売上及び入金が生産を著しく下廻つて生産を継続するに足りるだけの資金の囘収ができなかつたと共に滞貨が増大し製品の価格が激しく下落したため赤字製品が続出し更に資金の囘収ができないために経常収入の金繰りの均衡が破れて赤字が累積し、その結果借入金と未払金が増加したものであつて昭和二十四年四月頃から生産と売上の均衡を失し同年十二月に至る間生産に対する売上げは毎月平均三千万円方下廻つている状況であつた、これが他に会社の製品に対する競争品がなく且つ有効需要が生産量に匹敵する程ある場合は会社が見込生産を続けていつても資金繰りさえできれば品価を下廻る価格で売却する必要はなく従前の価格を維持し得るわけであるが他に競争会社があり有効需要がこれ等競争会社の生産量総体に及ばない状態であつたから価格を引下げねばならなかつたがその反面原材料の価格が並行して下ることなく総体としては大差はなかつたので結局主要製品についても採算割れとなるもの激増することとなり生産と売上の不均衡は在庫の著増という形で現われ、昭和二十四年三月末三億二百九十四万円に対し同年十二月末日には五億六千五百万円となり僅か九箇月に二億六千二百六万円の増加となつた、かような事情は経常収入に影響し年間一億七千万円の赤字を生じこれは借入金によつて補わざるを得ず昭和二十四年十二月末長期借入金残高は五億三千万円余という数字を示すに至り原材料費税金その他の未払金も年間三億一千万円余増加するに至つた、前述のように昭和二十四年未の長期借入金残高は五億三十万円余でありこれを社債によつて支払うとしてもその発行限度は資本金相当額(五億八千万円)であるため社債引当による借入余力なくこれ以上に借入をすることになれば無担保借入となりこれは企業の収益力が改善されない限り望み得ないことである、一方未払金も限度に達した、しかも現下の経済事情からして市況の急速な好転は望み得ない、従つて会社が従来のままの体制で生産強行の方針を進めて行けば損益に於ける赤字の累積を免れないのみならず販売売上代金の囘収金融原材料買付等に於ける各種の困難が悪循環の関係を以て加速度的に加重し今迄辛うじて辻褄を合せて来た金繰り収支の尻が全く平衡を失い賃金の支払すら不可能となり更に進んで生産の萎縮に迄追い込まれる情勢となり一刻の猶余も許されないこととなつた、よつて会社は生産損益販売損益の両面に思を致しこの際急速に再建を断行することが必要となつたので会社は会社並に全従業員のため経営権を実行しなければならぬ破目となり前述の協議と経緯を経て本件解雇がなされたもので正当の事由あり、
申請理由第三仮処分の必要性の主張について
昭和二十五年四月二十八日組合は会社再建計画に基き会社が採つた人員整理並にこれに関連する措置を承認しこの旨の協定書の調印を終つた、申請人等の主張する協約というのはこの組合と会社との間の関係であつて申請人等と会社との間には別に特約の存しないことは論を俟たない、労働組合法労働基準法に直接違反するという主張は別であるが契約関係を主張して訴は権利保護要件を欠くものであると述べた。
(疏明省略)
四、理 由
申請人等が会社の二本木工場に雇傭されていた従業員であつて会社の従業員を以て組織されている日本曹達労働組合の組合員であつたこと。会社より昭和二十五年三月二十三日申請人等宛の解雇通知が発せられて到達し、爾来就業を拒否せられ従つてこれに伴う待遇を受けていないことは当事者間争ないところである。よつて、先ず本件が仮処分申請の権利保護要件を欠くとの抗弁について判断するに、昭和二十五年四月二十八日会社組合間に再建計画につき会社が採つた人員整理並にこれに関連する措置について協定が成立し組合が会社の措置を承認したことは当事者弁論の全趣旨により窺い得るけれども、記録に徴し明かなる申請人等が本件仮処分申請を提起したのはこれより先同月二十五日なるに拘らず、成立に争ない乙第十二号証の一なる右四月二十八日の協定書には当時繋属中の組合名儀の訴訟はこれを取下げる旨明記しながら、申請人等の本件申請について何等言及していない事実及び証人小貫律太郎の証言により成立を認むべき乙第十二号証の二によれば同協約は特に申請人等の本件申請を以て申請人等に於て自由に解雇を争いうるものとしてこれを除外したものと解し得べきにより同協約の存在を前提とする右抗弁は排斥する。
次に本件解雇が有効か無効かについて判断する。
(一) 労働協約違反について
(1) 会社と組合との間には有効期間を一箇年とする昭和二十三年九月五日付の労働協約存在したが、期間満了前双方協議の結果有効期間を一箇月延長して新協約の制定を試みたが、労資の間、議容易に纏らなかつたため更に一箇月これを延長したが依然双方の議全面的に纏らなかつたところ翌十一月十六日に至り両者間確認書(甲第十二号証の一)が成立したことは当事者間争がない、そして証人川村福二、同小貫律太郎の証言に、証人林勇(一囘)の証言の一部成立に争ない甲第十二号証の一乃至三(但し甲第十二号証の二は仮調印の文書として成立のみ)、乙第七、第八号証、証人川村福二の証言により成立を認むべき乙第五号証の一、二、第六号証を対照して考えるに会社としては旧労働協約の失効により新労働協約制定の期に遭遇したので当時の情勢に対応するため官庁、連合軍総司令部方面の通牒、示唆等の反映した労働協約の制定を意図し、昭和二十四年八月二十六日組合に対し会社案を示して協議をなすべきことを申し入れ労資双方の協議会を開催し審議を重ねたが容易に妥結するに至らない裡に再度延期された旧労働協約の有効期間の満了の期も切迫したのでその満了の翌十一月十六日を以て一応両者の間に妥結した線を相互に確認し念のためその趣旨の文書を作成したが協約案を連合軍総司令部に提出を急いだ関係もあり同年十二月二十一日に至り労資双方の納得した線で再度一応案文を纏め上げ双方共案自体には署名もせず捺印もせず作成日付も空白にし別に「会社はこの労働協約の締結について調印前連合軍総司令部経済科学局労働課に提出するよう指令を受けているので会社と組合はこの協約に仮調印し右手続が完了後正式に調印するものとする」との文書を認め、旧協約の期間満了の翌日たる昭和二十四年十一月十六日付とし双方の代表者が記名調印したことを窺知し得るのであるが、その後種々の経緯から仮調印文書の内容となつている協約事項書の連合軍総司令部に対する提出措置が完了しているが未だこれにつき正式調印の行われないことは当事者弁論の全趣旨により看取し得る。
(2) ところで労働組合法第十四条は旧労働組合法第十九条と異り労働協約の効力発生要件として書面に作成し両当事者が署名すべきことを規定している、これ協約が労資双方の関係につき真に重要な事項を律するものであるに鑑みその内容となるべき事項につき両当事者の慎重なる考慮を期待し書面の作成のみを以ては足らず両当事者の署名を要するものとした所以であつて、その署名とは労資の代表者が両当事者名とその代表資格とを明示して自ら署名することを意味し、特に所謂記名捺印を以て代える旨の法規が存しないことよりしても記名捺印を以て署名に代え得ないものと解する、されば協約事項を書面に作成しても両当事者の署名を欠くならば労働協約としての効力が生じないものとする。
(3) かような次第であるから本件に於て仮調印書の内容となつている協約事項につきその後正式な協約書と目すべき書面の作成並に正式な記名捺印もない以上、たとえ当事者双方が当初記名捺印を以て協約の効力を発生させることを意図したものとするも、右仮調印だけによつて直に協約が有効に成立したものとする主張には勿論、仮調印書の内容になつている協約事項につき少くとも当事者を律すべき効力を有する一種の契約と見んとする主張にも左祖し難い矛盾があるものといわなければならない、況んや協約の有効成立要件として労働組合法は当事者の署名の存在を要求していること前叙のとおりであるから、所謂仮調印書の内容となつている協約事項につき労働協約もしくはこれに類似する効力を帯有する一種の契約の成立を是認しこれに基いて本件解雇を労働協約違反となす主張は採り難し。
(二) 就業規則違反について
(1) 本件解雇は辞令によらない違法があるか
当事者間争ない本件解雇の通知が書面を以てなされた事実と成立に争ない甲第九号証とによれば、本件解雇は孰れも雇傭契約を解除することを告知し得る程度の事項を記載した書面によつてなされたことを窺い得る、従業員の解雇については会社にはその告知の方法を明定したものがないけれども職場の配置転換の辞令について規定する社員就業規則第十一条との権衡上解雇の告知も辞令を用いることを要するものと理解するを相当とするが、その記載は雇傭契約を解除することを告知する程度を以て足るから本件解雇の通知は即ち解雇の辞令に該当するものというべく、従つて本件解雇には辞令によらない違法がない。
(2) 本件解雇について組合と協議決定しなかつたことは就業規則違反か
会社が本件解雇をするに当り組合との間被解雇者個人個人についての協議を遂げなかつたこと乃至は双方の意思の合致若くは組合の同意を得なかつたことは当事者間争ないところであるが、成立に争ない乙第一乃至第四号証、証人小貫律太郎の証言によつて成立を認むべき乙第六号証、証人小貫律太郎、同川村福二の証言によれば、昭和二十三年九月五日当時の現行労働協約改訂のことがあつたが、当時の現行社員就業規則には会社と組合との関係事項につきての規定等労働協約的性質のものもあつたので労働協約の改訂に順応するように社員就業規則を改正することとなり、特に就業規則の附則から協議約款を切り離して組合とも合意の上就業規則に関する申合せ事項と題して社員就業規則とは別異の存在とし、以て社員就業規則の改訂をなしたことが窺い得らるるところ、右に所謂就業規則に関する申合せ事項(乙第四号証)についてその内容及び形式を見るに社員就業規則の一部ではなく労働協約の一部と見るのが至当と思われる、従つてこの就業規則に関する申合せ事項なるものは労働協約が失効した昭和二十四年十一月十五日に労働協約と共に失効したものというべきである。証人小貫律太郎の証言によれば二本木工場に於ては右社員就業規則の改訂を所轄監督官庁に届出でるに当り就業規則に関する申合せ事項をも誤り添付して届出たことを窺い得るもかかる誤謬のため右就業規則に関する申合事項の前記性格に変更あることなし、さればこの就業規則に関する申合せ事項が社員就業規則の一部として依然有効に存在することを前提として本件解雇が社員就業規則に違反するとの主張は採り難し。
(三) 本件解雇は労働基準法第二十条に違反するか
会社が本件解雇に三箇月以前の予告手続を経ていないことは当事者間争がないところで成立に争ない乙第十三号証の十七、十八甲第九乃至第十一号証、証人江間茂の証言により成立を認むべき乙第十三号証の二乃至十五、乙第十五号、第十六号、乙第十九号各証、乙第二十号証、証人江間茂、同川村福二の証言によれば会社は被解雇者に対し、昭和二十五年三月二十三日それぞれ同月二十七日限り雇傭契約を解除する旨の通知を発し同通知は申請人等に対し同月二十七日以前に到達したこと、右通知には解雇手当九十日分を支払うこととし内三十日分は即時支払うべく残り六十日分は三箇月以内に支払う旨をも合せ通告し三十日分につき現実に資金準備をしたがその後会社は残り六十日分につきても現実に資金準備をし以て九十日分全額について現実に準備を完了したので同月二十九日重ねて解雇手当は全額即時支払う旨を被解雇者に通告し又その都度これが周知徹底の方法を実行して且つ右解雇手当及び退職金等は何時でも支払い得る準備をなし被解雇者の請求に応じて順次支払をしたが同年四月二十三日迄に支払の請求をしなかつた者に対しては新潟地方法務局高田支局にこれを供託したことを窺いうる。惟うに労働基準法第二十条は被解雇者をして突然賃金の収入を失わしめることなく予め解雇を予告させ予告期間に相当する賃金を獲得させるか又は予告なくとも経済上これと同一視すべき収入を確保させることを目的とする取締規定である、そして予告のない解雇に於ては所定の賃金債権を発生させると共に特にこれが弁済の確保を要求しているものと解すべきではあるがそれ以上に解雇者に無用に繁雑な手続を要求しているものとなすべきではない、従つて右賃金債権たる予告手当は期限の定めのない債権として即時履行期に在るものと見るべきであるから解雇の意思表示をなすに当り請求あれば即時支払に応じ遅滞に陥らない程度の客観的の金員の準備と主観的の意思があることをも合せ表示すれば同法条の目的とする被解雇者の保護に欠くるところがないから更に進んで解雇の意思表示と同時に各被解雇者の住所に於て現実に弁済の提供をなすこと迄も要するものと解すべきではない、社員就業規則第七十一条の律意も畢竟労働基準法第二十条の法意とその軌を一にするものでその異るところは予告期間及び予告手当の各数額だけであると解釈するを相当とする、なお本件解雇当時会社と組合との関係を律すべき労働協約が現存しなかつたことにつきては、前段第二の(一)の説明により了解し得る、本件解雇により会社が三箇月の予告手当につき現実に資金の準備をして現実に弁済の提供したこと(尤も六十日分については当初資金準備をなさなかつたがその後直にこの分についても資金準備をしてその旨通告したのでこの時を以て有効な弁済提供と見るを相当とする)前記のとおりであるから本件解雇を以て労働基準法第二十条に違反する主張亦採り難い。
(四) 被雇傭者を解雇するに当り会社側に於て申請人等主張のような不当労働行為をなしたものであることはこれを肯認するに足る疏明がない。
(五) 経営権の濫用について
正当の事由なくして解雇をすることは経営権の濫用であつて違法である、しかし本件に於て正当の事由なくして解雇を行つたことを肯認し得べき疏明がない。
かくして本件解雇については申請人等の主張する無効原因については遂にこれが疏明がないことになり、又当事者双方の疏明によると申請人等に対し仮の地位を設定しなければならないことを肯認し難い、よつて申請人等の本件申請を却下することとし申請費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決した。
(裁判官 増村文雄 河端清 荒井重与)
別紙目録<省略>