新潟地方裁判所高田支部 昭和42年(ワ)21号 判決 1968年1月12日
原告 有限会社マルヤ写真機店
右代表者代表取締役 丸田義信
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 横尾義男
被告 太田武雄
<ほか一名>
主文
被告らは各自、原告有限会社マルヤ写真機店に対し金六一万三、三六五円、原告丸田信雄に対し金五万円および右各金員に対する昭和四二年一月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告有限会社マルヤ写真機店のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告らの連帯負担とする。この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。
事実
第一、当事者双方の申立ならびに主張
原告訴訟代理人は、「被告らは各自原告有限会社マルヤ写真機店に対し金六三万〇、七三二円、原告丸田信雄に対し金五万円および右各金員に対する昭和四二年一月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。
一、被告太田武雄は、昭和四一年八月一一日被告有限会社太田製作所所有の中型貨物自動車(長一や第三〇八三号)を運転し、被告会社の配達業務をすませての帰途、同日午前一〇時一五分頃埼玉県方面から長野県方面へ向い時速約五〇粁で高崎市上豊岡町二一九番地先国道上を進行中睡気をもよおし、この睡気のため正常な運転ができないおそれがあることを知りながら運転を継続した過失により、運転中睡眠し、右国道上のセンターラインを約二米余越して進行し、折柄対面進行してきて右自動車の異常運行に気付いて急停車中の原告丸田信雄運転の原告会社所有のトヨペット普通乗用車(新五そ第七五五八号)の右前部に自車を衝突させ、よって原告丸田信雄に全治二週間を要した右肩鎖関節、両膝関節挫傷の傷害を負わせ、原告会社所有の自動車を大破させた。
二、被告太田武雄は、被告会社代表取締役太田正雄の兄で、農業を営む傍ら被告会社に雇われて自動車運転等の業務に従事していたものであり、本件加害車両は被告会社の所有であってその車体に被告会社の名称を表示して被告会社の事業のため貨物運搬の用に供されていたものである。したがって被告会社は加害車両の保有者としてその運行によって生じた原告らの損害を賠償する責任があり、かつ被告太田武雄の使用者として同被告が被告会社の事業の執行につき原告らに加えた損害を賠償する責任がある。
三、原告らが本件事故により蒙った損害ならびに被告らに求めるその賠償額は次のとおりである。
(一) 原告丸田信雄の蒙った精神的苦痛に対する慰藉料
原告丸田信雄は前記のとおりの傷害を受け、高崎市の上原外科病院および高田市の新潟県立中央病院にて医療や検査を受け、右事故のショックもあって約二〇日間休業療養を余儀なくされ、その間多大の精神的苦痛を蒙った。この苦痛を慰藉するに足る金額は金五万円が相当である。
(二) 原告有限会社マルヤ写真機店は前記自動車の前部機関部車体および後部などを大破され次のとおりの損害を蒙った。
1、金五四万四、五八二円
右自動車は同年三月八日金六八万八、四八〇円で購入したばかりの四一年式トヨペットコロナの新車であるが、本件事故後の同年八月二七日訴外新潟トヨペット株式会社高田出張所に修繕見積方を依頼したところ、その修繕費用および取替部品代はエンジン部の修理費を除いて金三〇万〇、四八四円を要し、エンジン部は分解組立をして見なければ不明であるが、その分解組立費用に約二万円を要し、しかも修繕を施してもその自動車価値は費した修繕費に下物として売却した価格を加算した程度位との判定であったので、やむなく原告会社は同年一二月中被害自動車を右訴外会社をして高田市まで廻送させ、同月二五日これを同会社に無修繕のまま金六万円で買取って貰った。
よって原告会社の実損害額は、被害時の時価相当額金六〇万四、五八二円(購入価格から使用日数に応じて減価償却した価格、その計算関係は
68,848円……被害車両の耐用年数終了後の残存価格で普通10%と見積られている。
0.319……耐用年数4ヶ年の第1年度分の償却率
155/365……購入後の使用日数(昭和41.3.8~昭和41.8.10)
となる)から右下取価格金六万円を控除した金五四万四、五八二円である。
2、金三万七、一五〇円
原告会社が右訴外会社に依頼して、被害車両の修繕費の見積りをして貰った費用金一万四、六五〇円および被害車両を長野市内の保管場所から高田市まで廻走して貰った輸送費金二万二、五〇〇円の合計額
3、金三万三、〇〇〇円
原告会社が前記自動車を大破されてから同年九月二日に替りの自動車を購入するまでの計二二日間、右自動車を使用できなかったことによる同種自動車の借上料で、一日金一、五〇〇円の割合による営業上の損害金
4、金一万六、〇〇〇円
原告会社が、代表取締役および原告丸田信雄をして長野県須坂市の被告両名方へ、同年八月二七日から同年一二月までに自動車で計四回に亘り、被害自動車の前記修繕見積りの案内や、取引や、本件損害賠償請求の交渉に出向かせた旅費日当の合計額
以上1ないし4の合計は金六三万〇、七三二円で、右金額を原告会社は被告らに対し損害の賠償として請求する。
四、以上のとおりであって、原告らの蒙った前項の各損害は被告太田武雄の前記自動車運転上の過失による不法行為に基くものであるから、原告らは同被告に対しそれぞれ右損害の賠償およびこれに対する最後の損害発生後の昭和四二年一月一日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、ならびに原告丸田信雄は本件加害自動車の供用者たる被告会社に対し、自動車損害賠償保障法により前記慰藉料額を、また原告会社は被告太田武雄の使用者たる被告会社に対し、被告太田がその業務として被告会社所有の自動車を運転中に起した本件事故による前項の損害金およびこれに対する前同様の法定利率による遅延損害金の賠償を求めるため本訴におよんだ次第である。
被告らは、いずれも原告らの請求を棄却するとの判決を求め、
被告太田武雄の答弁として
一、原告主張の交通事故の発生の事実および右事故が被告太田武雄の過失によるものであること、右事故により原告丸田信雄が負傷し、その運転する自動車が大破したことは認める。
二、しかし被告太田は被告会社の従業員ではなく、また本件加害車両は被告会社の所有ではなく被告太田武雄所有の車であって、本件事故は被告太田が個人の用務で、りんごを東京都豊島区の青果市場へ運搬した帰途発生したものである。もっとも右自動車は被告会社においても使用していたもので、その車体に被告会社の名称が表示されていることは認める。
三、原告丸田信雄の蒙った傷害の部位程度、被害車両の破損程度については不知、原告ら主張の慰藉料額および損害額については争う。
被告有限会社太田製作所の答弁として
一、被告太田武雄が原告主張の交通事故を惹起したことは認めるが、事故の内容は不知。本件加害車両は被告会社の所有ではなく、被告太田武雄個人の所有であって、本件事故は同被告がその個人的用務のため上京した帰途に発生したものである。したがって被告会社には何らの責任がない。
二、被告太田武雄が被告会社代表者太田正雄の兄であることは認めるが、同被告が被告会社の従業員で自動車の運転その他の業務に従事していたとの主張は否認する。
三、原告丸田信雄が本件事故により傷害を受けたことは認めるが、傷害の部位程度、被害車両の破損程度については不知。
四、原告らの請求する慰藉料額、損害額については争う。
とそれぞれ陳述した。
第二、証拠関係≪省略≫
理由
(本件事故の発生と被告太田武雄の過失)
昭和四一年八月一一日午前一〇時一五分頃、高崎市上豊岡町二一九番地先国道上で、被告太田武雄運転の中型貨物自動車(長一や第三〇八三号)が、原告丸田信雄運転のトヨペット普通乗用車(新五そ第七五五八号)に原告主張の状況下において衝突した事実は当事者間に争いがなく、そして右事故が原告主張のように被告太田武雄の居眠り運転のために生じたものであることは、被告太田武雄の自白するところであり、被告有限会社太田製作所の関係においては≪証拠省略≫により認められるところである。
そもそも自動車運転者としては、車両を運転するに当っては、いやしくも運転中睡気をもよおしたときは、睡気のため正常な運転ができないおそれがあるのであるから、運転を中止して睡気を解消し安全運転のできる状態に回復した後運転すべき業務上の注意義務があるが、被告太田武雄は前段認定事実のとおり、右義務に違反し、睡気をもよおしたまま運転を継続した過失により本件事故を発生したものである。
(原告らに生じた損害)
(一) 原告丸田信雄に生じた損害
≪証拠省略≫によれば、原告丸田信雄は本件事故により同原告主張のような傷害を受け、主張のような医療や検査を受け、かつ休業療養をしたことが認められる。そしてこの間に受けた同原告の精神的苦痛は蓋し多大なものがあったと認められるから、これを慰藉するに足る金額は同原告主張の金五万円が相当である。
(二)原告有限会社マルヤ写真機店に生じた損害
原告会社主張の1ないし3の損害の事実を検討するに、≪証拠省略≫を総合すると
(イ) 原告会社は本件事故によりその所有する前記自動車の前部機関部、車体および後部などを大破され、原告会社主張1記載の経緯により、本件事故当日より一五五日以前に金六八万八、四八〇円で購入したものを金六万円で売却せざるを得なくなったことを認めることができ、したがって右自動車の本件事故当時の価格は、定率法(会計学上および税法上一般に採用されている固定資産の減価償却額の計算方法で、わが国税法上採用され、任意選択を許されている定額法・定率法のうち、定率法の方が自動車のように新車でも一年間使用すれば価格が急落するのを通常とするものについては、より妥当である)によれば、その償却率は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」により〇・三一九と定められているからこれにより計算すると
時価=688,480-(688,480×0.319×155/365)=595,215円
となり、これより売却価格金六万円を控除するときは金五三万五、二一五円となって、これが原告会社の損害額である。
(ロ) 原告会社主張の2の事実および損害額はこれを認めることができる。
(ハ) 同主張の3の事実もこれを認めることができ、かつその損害額も相当である。
(ニ) 同主張の4の事実中、少くとも二回の出張は認めることができるが、計四回の出張回数を認める証拠がない。≪証拠省略≫に徴し、一人分の旅費日当額が金二、〇〇〇円であるのは相当額と認められるから、反証のないかぎり八、〇〇〇円の損害額を認めるべきである。
以上合計金六一万三、三六五円が原告会社が蒙った損害である。
(被告らの賠償責任)
被告太田武雄は前認定のとおり自己の運転上の過失により原告らに対しそれぞれ損害を与えたものであるから、これが損害を賠償する義務があり、被告有限会社太田製作所は(1)その代表取締役太田正雄が被告太田武雄の弟であり、(2)同被告は被告会社の事業にも従事しており、(3)本件事故の加害自動車は被告会社において使用し、(4)その車体には被告会社の名称が表示されており、(5)本件事故当時は被告会社の用務に従事中のものであったことは、≪証拠省略≫により認めることができ、右(3)(4)の事実は被告太田武雄の認めるところであり他に右認定を覆えすに足る証拠はないから、被告会社は自動車損害賠償保障法にいうところの“自己のために自動車を運行の用に供する者”に該当し同法上その運行によって原告丸田信雄の身体を害したことによって生じた損害を賠償する責任があり、かつ民法上使用者として被告会社の事業に従事する被告太田武雄が被告会社の用務のため前記自動車を運転中惹起した本件事故により原告会社に加えた損害を賠償する責任がある。そして被告らの右損害賠償債務は不真正連帯債務の関係にあるものと解する。
(むすび)
しからば被告らは各自、原告有限会社マルヤ写真機店に対し金六一万三、三六五円、原告丸田信雄に対し金五万円および右各金員に対する本件事故後の昭和四二年一月一日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの本訴請求のうち原告会社の請求は右限度において理由があり、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺桂二)