新潟地方裁判所高田支部 昭和54年(ワ)56号 判決 1980年10月15日
原告
猪俣恒雄
ほか三名
被告
有限会社信和測量設計社
ほか一名
主文
一 被告らは、各自
(一) 原告猪俣恒雄に対し金二一六万四、三〇二円及び内金一九一万四、三〇二円に対する昭和五三年一一月三日から完済まで年五分の金員を、
(二) 原告猪俣悦子、同猪俣裕子に対し各金一二九万〇、五〇〇円及び内金一一四万〇、五〇〇円に対する右同日から完済まで年五分の金員を、
それぞれ支払え。
二 右原告らのその余の請求及び原告猪俣正幸の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告猪俣正幸と被告らとの間においては全部同原告の負担とし、その余の原告らと被告らとの間においては原告らに生じた費用の三分の一を被告らの連帯負担とし、その余は各自の負担とする。
四 第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者双方の申立
一 原告ら
「一 被告らは、各自
(一) 原告猪俣恒雄に対し金七六一万七、七一九円及び内金六九二万七、七一九円に対する昭和五三年一一月三日から完済まで年五分の金員を、
(二) 原告猪俣悦子、同猪俣裕子、同猪俣正幸に対し各金四七一万三、〇九一円及び内金四二九万三、〇九一円に対する昭和五三年一一月三日から完済まで年五分の金員を、
それぞれ支払え。
二 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」
との判決並びに仮執行の宣言
二 被告ら
「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決
第二当事者双方の主張
(原告らの請求原因)
一 事故の発生
訴外亡猪俣サダ(以下サダという)は、次の交通事故により死亡した。
(一) 発生日時 昭和五三年一一月二日午前九時四五分ころ
(二) 発生場所 新潟県東頸城郡浦川原村大字小谷島五二〇番地二先国道二五三号線
(三) 加害車 普通貨物自動車(新四四て一四〇四号)
運転者 被告松原幸彦
(四) 被害者 亡サダ
死亡日時 昭和五四年一一月三日午前一時
(五) 態様 亡サダは、被告会社に雇われ測量の補助等の労務に従事していたものであるが、被告松原の運転する加害車に同乗して作業現場に赴く際、被告松原が対向車線に加害車を進入させ、対向してきた訴外野沢満運転の訴外東頸生コン株式会社保有のコンクリートミキサー車(新八八さ七七八号)に正面衝突させた結果、亡サダに対し頭部挫創、脳挫創、左下腿挫創の傷害を負わせ、死亡させた。
二 被告らの責任原因
1 被告松原の責任原因
被告松原は、被告有限会社信和測量設計社(以下被告会社という)保有の加害車を運転し前記国道を進行していたが、本件事故発生場所附近の右道路は左に湾曲していたのであるから、安全な速度に減速し、あらかじめ道路の左側寄りを進行するなどして対向車の右側面との距離を十分とつて進行し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、運転操作を誤りセンターラインを超えて対向車線に進行した結果、本件事故を惹起せしめたものであるから、民法七〇九条により本件事故に基づく損害を賠償する責任がある。
2 被告会社の責任原因
被告会社は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により本件事故に基づく損害を賠償する責任がある。
三 損害
1 亡サダの損害
(一) 逸失利益 金二、四六九万九、〇〇五円
亡サダは、本件事故当時満四七歳(昭和六年八月五日生)の健康な主婦で農業を主宰して毎年農業収入を得ていたかたわら、農閑期にはスーパー店その他に勤務して賃金収入を得ていたが、本件事故により次の得べかりし利益を失つた。
(1) 農業収入 金一、九一八万〇、四四一円
以下本件事故発生の昭和五三年度の収入をもつて算定基礎とする。
(イ) 稲作収入 金一九三万〇、六七〇円
耕作面積 田二一六アール
生産量 米一九七俵(出荷米一八一俵、自家用米一六俵)
粗収入 金三四〇万八、一〇〇円
一俵当り金一万七、三〇〇円
17,300円×197俵=340万8,100円
諸経費 金六五万円
純収入 金二七五万八、一〇〇円
亡サダの寄与率 七割
従つて、右年間純収入のうち亡サダに帰属すべき収入は金一九三万〇、六七〇円となる。
275万8,100円×0.7=193万0670円
(ロ) 畑作収入 金四〇万七、五六八円
A アスパラガス生産収入
耕作面積 畑六アール
粗収入 金三〇万六、六〇〇円
諸経費 金四万三、一四〇円
純収入 金二六万三、四六〇円
B 秋冬大根、枝豆生産収入
耕作面積 畑六アール
粗収入 金二八万八、〇〇〇円
諸経費 金四万二、〇〇〇円
純収入 金二四万六、〇〇〇円
右A、B両生産における亡サダの寄与率八割
従つて、右年間純収入の合計金五〇万九、四六〇円のうち、亡サダに帰属すべき収入は金四〇万七、五六八円となる。
(26万3,460+24万6,000円)×0.8=40万7,568円
(ハ) 右のように、亡サダの年間農業収入は(イ)、(ロ)の合計金二三三万八、二三八円であつたところ、将来も少なくとも右金額と同額以上の収入はあげえたはずである。そして、亡サダの
控除すべき生活費 右収入の三割
稼働可能年数 二〇年(六七歳まで)、但し、六一歳から六七歳までの七年間は労働能力の減退により五〇%減収するとして算定する。
として、亡サダの逸失利益を新ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して右死亡時の現価を計算すると金一、九一八万〇、四四一円となる。
233万8,238円×(1-0.3)=163万6,766円
163万6,766円÷2×13.616=1,114万3,102円
163万6,766円÷2×9.821=803万7,379円
1,114万3,102円+803万7,379円=1,918万0,441円
(2) 賃金収益 金五五一万八、五六四円
昭和五二年度の収入 金五七万九、〇〇〇円
控除すべき生活費 右収入の三割
稼働可能年数 二〇年(六七歳まで)
57万9,000円×(1-0.3)×13.616=551万8,564円
以上(1)、(2)の合計金二、四六九万九、〇〇五円が亡サダの逸失利益である。
(二) 亡サダの慰謝料 金九〇〇万円
亡サダは、農家の主婦として農業経営の中心としてこれにあたり、一家の支柱としての立場にあつたものであり、かつ、未成年の原告裕子、同正幸を監護養育すべき立場にあつたこと等諸般の事情を考慮すると亡サダの慰謝料は金九〇〇万円が相当である。
2 相続
原告らは、亡サダの相続人の全部である。よつて、右(一)、(二)の損害の合計金三、三六九万九、〇〇五円につき、その賠償請求権を相続分に応じ、原告恒雄は配偶者(夫)としてその三分の一の金一、一二三万三、〇〇一円を、原告悦子、同裕子、同正幸はそれぞれ子としてその九分の二の各金七四八万八、六六七円をそれぞれ相続した。
3 原告恒雄の損害
(一) 葬儀費用及び墓碑建立費 金一〇二万七、二二〇円
葬儀費用 金五二万七、二二〇円
墓碑建立費用 金五〇万円
(二) 治療費等 金四三万七、八七〇円
亡サダは、本件事故後、上越市内所在の新潟労災病院に入院し治療を受けた後昭和五四年一一月三日死亡したが、原告恒雄は右治療費として金四三万七、八七〇円を支払つた。
(三) 慰謝料 金一〇〇万円
亡サダの死亡による原告恒雄の慰謝料は金一〇〇万円が相当である(仮に、亡サダ本人の慰謝料が認められないときは、金四〇〇万円が相当である)。
4 原告悦子、同裕子、同正幸の慰謝料 各金一〇〇万円
亡サダの死亡による原告悦子、同裕子、同正幸の慰謝料は各一〇〇万円が相当である(仮に亡サダ本人の慰謝料が認められないときは各金三〇〇万円が相当である)。
5 損害の填補
原告らは、自賠責保険から金一、七三五万七、一〇〇円その他の保険に基づく保険金二〇〇万円の合計金一、九三五万七、一〇〇円の支払いを受けたので、これを被告らに対して有する各損害賠償請求権の金額に按分すると、原告恒雄は金六七七万〇、三七二円が、その余の原告らは各金四一九万五、五七六円がそれぞれ填補されたことになる。
6 弁護士費用
原告恒雄 金六九万円
その余の原告ら 各金四二万円
四 結論
よって、被告らに対し各自、
1 原告恒雄に対し、金七六一万七、七一九円及び右弁護士費用を除く内金六九二万七、七一九円に対する亡サダの死亡の日から完済まで民法所定の年五分の遅延損害金を、
2 原告悦子、同裕子、同正幸に対し、各金四七一万三、〇九一円及び右弁護士費用を除く内金四二九万三、〇九一円に対する亡サダの死亡の日から完済まで民法所定の年五分の遅延損害金を
それぞれ支払うよう求める。
(被告らの認否及び反駁)
一 請求原因第一、第二項の各事実は認める。
二 同第三項の事実のうち、亡サダが本件事故当時満四七歳(昭和六年八月五日生)であつたこと、稲作粗収入が昭和五三年度金三四〇万八、一〇〇円であつたこと(但し、後記のとおりその収入帰属主体は原告恒雄というべきである。)、亡サダが昭和五二年度にスーパー店で稼働し金五七万九、〇〇〇円の収入を得ていたこと、原告恒雄が治療費等金四三万七、八七〇円を出捐したこと、原告らに自賠責保険から金一、七三五万七、一〇〇円及びその他の保険に基づく保険金二〇〇万円の合計金一、九三五万七、一〇〇円が支払われたことは認め、その余の事実は争う。
農業収入は、原告恒雄名義で納税申告されていることからしても同原告の収入とみるべきものであつて、亡サダの収入とみるべきではない。畑作収入のうちアスパラガス生産の事実はない。賃金収入についても、亡サダは昭和五三年度は右スーパー店を辞めて稼働していないのであるから逸失利益を認めるべきではない。亡サダの控除すべき生活費の割合は所得の五割をもつて相当とすべきである。墓碑の建立は原告ら一家のため建立されたものというべきであるから本件事故による損害というべきものではない。
(被告らの抗弁―損害の填補)
原告正幸は、昭和五五年一月二三日本件事故により労働者災害補償法に基づく遺族特別支給金二〇〇万円を受領している。
(原告正幸の認否)
被告らの抗弁事実は認める。
理由
一 請求原因第一、第二項の各事実は当事者間に争いがない。従つて、被告らは後記認定の損害額について連帯して賠償する責任がある。
二 そこで、以下原告らの請求する損害について検討する。
1 亡サダに生じた損害
(一) 逸失利益
亡サダが本件事故当時満四七歳(昭和六年八月五日生)の主婦であつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二、第三号証の各一ないし三、成立及び原本の存在について争いのない甲第一号証の一、二、原告恒雄本人尋問の結果(第一回)及びこれにより成立の認められる甲第一号証の三、七(いずれも原本の存在とも)、同号証の一一、一二、第二号証の一、二、証人近藤和四の証言を総合すると、亡サダは、農業(稲作及び畑作)に従事していたかたわら、昭和五三年六月ころまではスーパー店で、同年一〇月ころから本件事故時までは被告会社で臨時雇いで稼働していたこと、右農業収入は夫の原告恒雄の所得として税申告がされていたが、同原告は本件事故当時訴外上越鉄筋興業株式会社に鉄筋工として常勤しており、農作業は、耕耘機、田植機、コンバイン等の運転作業等をしていたのみでその他の大部分の作業、肥培管理等は亡サダが行なつていたこと、原告恒雄は、亡サダが本件事故により死亡したことから昭和五四年度は稲作につきその耕作面積の半分ほどを他に委託せざるをえなくなり、供出米数量も三分の一に減少していることが認められ、これに反する証拠はない。
そうとすれば、農業所得についてその納税名義人が夫の原告恒雄であつたとしても、その農業経営は実質的に亡サダが主宰担当していたものと認むべきであつて(農家の場合その経営主体が実質上妻や子である場合であつても、夫が名義上の経営主となり農業所得はすべて夫の収入として税申告している事実の多いことは顕著な事実である。)、亡サダの農業所得についてこれを否定することはできず、その逸失利益の算定にあたつては、原告恒雄の納税名義上の所得にかかわらず亡サダの実質的な寄与率に基づいて所得の帰属、収入の割合を問題としなければならず、右認定した事実に照らせば、亡サダに帰属すべき農業収入の割合は七割をもつて相当というべきである。
そこで、以下亡サダの具体的農業収入について検討するに、
(イ) 稲作収入について
昭和五三年度の稲作粗収入が金三四〇万八、一〇〇円であつたことは当事者間に争いがない。原告恒雄本人尋問の結果(第一回)及びこれにより成立の認められる甲第一号証の四ないし六(原本の存在とも)及び同号証の八、九を総合すると、右稲作諸経費として肥料、農薬代、用排水費用等が約三六万円必要とされるほか、農機具代の償還費用がかかることが認められるところ、右償還費用の額については本件全証拠によるもこれを認定することができない。ところで、原告恒雄本人尋問の結果(第二回)によれば、昭和五三年度の稲作収入の手取りは金二五〇万円位であつた旨の供述部分が存するので、結局、諸経費を控除した純収入は金二五〇万円と認めるのが相当であり、他にこれに反する証拠はない。
よつて、右稲作収入のうち亡サダに帰属すべき収入は金一七五万円となる。
25万円×0.7=175万円
(ロ) 畑作収入について
原告恒雄本人尋問の結果(第一回)によれば、亡サダは畑一二アールを耕作し、昭和五三年度からうち六アールでアスパラガスを栽培したが、できが悪く市場へ出荷することができなかつたこと、また、うち六アールで大根、馬鈴薯、里芋、枝豆、キヤベツ等の野菜を栽培していたが市場へ出荷することはまれでその大部分を自家消費していたことが認められるが、本件全証拠によるも、右栽培数量、生産経費等を認定することができない。そうとすれば、耕作面積からのみ畑作収入を算定することはできないといわざるをえず、結局、亡サダの畑作収入の逸失利益は認めることができない。
(ハ) よつて、亡サダの農業収入は、右稲作収入による金一七五万円と認めざるをえないところ、亡サダは将来も少なくとも右金額と同額の収入をあげえたと認めるのが相当である。
(ニ) 賃金収入について
前記認定のとおり、亡サダは昭和五三年六月ころまでスーパー店で稼働し、同年一〇月ころから本件事故時まで被告会社に臨時雇いで稼働していた者であり、原告恒雄本人尋問の結果(第一回)及びこれにより成立及び原本の存在の認められる甲第二号証の一によれば、亡サダの昭和五二年度のスーパー店での稼働による収入は金五七万九、〇〇〇円であり(この点は当事者間に争いがない)、昭和五三年六月ころ体調を悪くして一旦右スーパー店を辞めたが回復次第再び同店で稼働する意思を有していたことが認められるから、亡サダは、将来少なくとも右金額と同額の収入をあげえたと認めるのが相当である。
(ホ) そして、亡サダの右農業収入及び賃金収入について控除すべき生活費は、同人が主婦であり、原告悦子、同裕子、同正幸を夫の原告恒雄とともに扶養していたこと等諸般の事情を総合すれば、右収入の三割とみるのが相当であり、また、その稼働可能年数は、農業収入についてはその労務の内容等に照らし満六〇歳までの一三年間、賃金収入については亡サダが主婦としての立場で農作業のかたわら稼働していたこと等の事情を考慮すると満五七歳までの一〇年間と認めるのが相当である。
(ヘ) よつて、亡サダの逸失利益を新ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して死亡時の現価を算定すると金一、五二五万〇、九一四円となる。
(A) 175万円×(1-0.3)×9.8211=1203万0847円
(B) 57万9,000円×(1-0.3)×7.9449=322万0067円
(C) (A)+(B)=1525万0914円
(二) 慰謝料
本件事故の態様、その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すれば亡サダの精神的苦痛を慰謝すべき金額は金四〇〇万円が相当である。
2 相続
成立に争いのない甲第四号証、原告恒雄本人尋問の結果によれば、原告恒雄は亡サダの夫、その余の原告らはいずれもその子であり、亡サダの相続人の全部であることが認められる。従つて、前記亡サダの損害の合計金一、九二五万〇、九一四円につき、その賠償請求権を相続分に応じ、原告恒雄はその三分の一の金六四一万六、九七一円を、その余の原告らはそれぞれその九分の二の各金四二七万七、九八〇円をそれぞれ相続したものである。
3 原告恒雄の損害
(一) 葬儀費用及び墓碑建立費
原告恒雄本人尋問の結果(第一回)及びこれにより成立の認められる甲第三号証の一ないし二八(原本の存在とも)、同号証の二九を総合すると、原告恒雄は亡サダの葬儀を挙行しその費用として金五〇万四、一二〇円を出捐したこと、また、亡サダのため墓碑を建立し金一二五万円を出捐したことが認められる。そして、本件にあらわれた一切の事情を考慮すれば、右葬儀費用金五〇万四、一二〇円及び墓碑建立費のうち金五〇万円は社会通念上相当な損害と認めるべきである。
(二) 治療費
原告恒雄が亡サダの本件事故による治療費として金四三万七、八七〇円を出捐したことは当事者間に争いがない。従つて右金額を原告恒雄の損害と認めるのが相当である。
(三) 慰謝料
亡サダの死亡による原告恒雄の精神的苦痛を慰謝すべき金額は金一〇〇万円が相当である。
4 原告悦子、同裕子、同正幸の慰謝料
亡サダの死亡による原告悦子、同裕子、同正幸の精神的苦痛を慰謝すべき金額は各金一〇〇万円が相当である。
5 損害の填補
原告らが自賠責保険から金一、七三五万七、一〇〇円、その他の保険に基づく保険金二〇〇万円の合計一、九三五万七、一〇〇円の支払いを受けたことは原告らの自認するところであるから、これを原告らが被告らに対して有する各損害賠償請求金額に按分すると、原告恒雄の損害賠償請求額のうち金六九四万四、六五九円が、その余の原告らの各損害賠償請求額のうち各金四一三万七、四八〇円がそれぞれ填補されたことになる。
従つて、原告らの損害賠償請求権の残額は、原告恒雄が金一九一万四、三〇二円、その余の原告らが各金一一四万〇、五〇〇円となる。
ところで、原告正幸が労働者災害補償法に基づく遺族特別支給金二〇〇万円を受領していることは当事者間に争いがない。これは同原告の本件損害を実質的填補するものと解するを相当とするからこれを同原告の右損害額に充当すると同原告の損害額はすでに全部填補されていることになる。
よつて、原告正幸の本訴請求は理由がないから棄却されるべきである。
6 弁護士費用
本件訴訟の経緯、右認定の原告らの損害賠償請求額等一切の事情に照らし、本件事故に基づく損害として被告らに賠償させるべき弁護士費用は、原告恒雄につき金二五万円、原告悦子、同裕子につき各金一五万円をもつて相当とする。
三 結論
よつて、被告らは、各自、原告恒雄に対し金二一六万四、三〇二円及び弁護士費用金二五万円を除く内金一九一万四、三〇二円に対する亡サダ死亡の日である昭和五三年一一月三日から完済まで民法所定の年五分の遅延損害金を、原告悦子、同裕子に対しそれぞれ金一二九万〇、五〇〇円及び弁護士費用を除く内金一一四万〇、五〇〇円に対する右同日から完済まで民法所定の年五分の遅延損害金を支払うべき義務があり、原告恒雄、同悦子、同裕子の本訴各請求は右の限度で理由があるからこれを認容すべく、同原告らのその余の請求及び原告正幸の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小川克介)